第76話 少しだけ勇者を慰めた時の事
作業用BGM
Korpiklaani - Wooden Pints
Korpiklaani - Vodka
「では皆さん、またしばらく行ってきますので、留守を頼みます」
そう言って俺は船に乗り込み、出航した。
出航後しばらくして。
「船長、少し良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「島の周りの件ですが、どうでした?」
「そうですね、魔王さんの言った通り大体合っていました。言われた通りほぼ島の周りが遠浅で、島に接岸するには、小形の手漕ぎボート位でしか乗り込める場所が有りません、多分ですが……船が大量に乗り入れる為には、湾内からじゃないと無理でしょうね。海岸線の監視に関してはパルマさんがいますので、大型船が大量に押しかけてきて、小型の手漕ぎボートを下ろしてればすぐに解ると思いますよ」
「ありがとうございます、湾以外に、大量に乗り込まれる可能性の有る場所が少なくて良かったです。先日の勇者の一件で、今後軍単位で大量に攻め込まれたらどうしようと思っていたんです。民間人とか一切気にせずに、無差別攻撃してくる事もありますからね。防衛面でどう対処するか、そう考えてたんですが、今の所一番現実味を帯びているのは、水生系の魔族達と同盟を組んで。沈めて貰う方が無難だと思うんですが、船乗りの意見としてどう思います?」
「もし沈めるのであれば、何かしらの連絡手段を用いて沈めてもらうのが良いと思います、商船だった場合は問題になりますし。事前に特定以外の場所で停泊して、怪しい行動を取った場合は攻撃するという風にしないと、問題も多そうですね」
「その辺はパルマさんと、水生系の方々に仲良くなってもらうしかないか。それか俺との連絡を確立させておくかですかね」
「湾外で停泊して、小船を下ろした場合には確認をとってもらって、明らかに敵なら攻撃。とかでも良いのでは?」
「……そうですね。とりあえずその方向で考えを纏めておきます、ありがとうございました」
「いえ、俺の意見で良ければですけどね」
んー、アレから少し塞ぎ込んでるロック君の様子でも見に行くかな、まぁ俺のせいなんだけど。
俺はロックの部屋をノックした。
「……はい」
返事は少し元気が無かった。
「少し様子を見に来たよ。まだ悩んでいるのかい?」
「まぁ」
「……まぁ、俺のせいでも有るからさ、こっちも少し罪悪感があるんだ。もし武君が良ければだけどさ、どうあがいても駄目なら島に来ないか? まだ開拓は進んでないし、君が良ければ手を貸してほしい。それで駄目なら考えを少し変えてみたらどうだい? 高卒で立派な会社に入って、いきなり海外勤務。やりがいのある職場と人間関係、言葉の通じる綺麗な金髪の女性と結婚、そして子供」
「はは、面白い冗談ですね。ブラックじゃなければ考えても良いですよ」
「……頭の隅にでも置いておいてよ。いつでも歓迎するよ、俺が生きてて島がまだ有ればだけどね」
「覚えておきます、まずは国に報告ですよ。それが無いと俺が死んだって事で、多分次の勇者が送り込まれるので」
「そうか。どういう結果になっても、俺は恨まないから、好きなように報告してきてくれ」
「解りました。俺も凪さんみたいに割り切れれば良いんですけどね」
「俺は……死んじゃってからの転生だし。産まれた時から地球には未練は無いよ、第二の人生って割り切ったからね、三十歳って事もあって考えが少しおっさんだったのかもね。あ、パソコンの中に有るエッチな画像がどうなったかが、少しだけ未練があるかな」
「はは、俺もッス」
そう言うと笑顔になり、なんとなくだが少しだけ憑き物が落ちたような表情になった。
少しでも冗談を交わしてみるものだな。
「あーそうそう、話によれば結構前から、召喚は行われてたみたいだよ、もう結構良い歳の人も居るかもしれない。そういう人に相談しても良いかもね。本当に結婚して子供が居るかもよ?」
そう言って俺は部屋を出た。
仲間達にも支えてもらえるように言ってみるか。そして俺は男達の部屋をノックした。
「失礼します、少し相談が有るんですが良いですか?」
「構わないぜ」「あぁ」
「ソフィアさんにも聞いてほしいので呼んできても良いですか?」
そう言うと二人は承諾した。
そして部屋に四人が集まり話が始まる。
「勇者の。ロックの事です。ロックの仲間だから正直に言いましょう、彼は私と同郷です」
そう言うと三人がざわめきだした。
「ロックは召還されてこっちの世界に来ました。勇者召還の事は知ってますよね?」
全員が首を縦に振る。
「俺は転生、ロックは召喚。つまりロックと同じ世界で育ち、死んでからこちらの世界に産まれて来ました。その違いを、この間戦った日の夜に話し合いました」
「俺は死んでこっちに来たけど、ロックは呼ばれて来たんだよね? って。その違いは何だと思います?」
「死んでるか死んでないか。か?」
「半分正解ですかね? 死んで家族が死を認識して、自分自身と家族が死を受け入れたか。いきなり消えて、生きてるか死んでるかも解らないまま、残された家族が居て、帰りを待っているかもしれない。の違いだと俺は思っています」
「つまり?」
「ロックは無理矢理こっちに連れて来られて、家族が心配しているかもしれない、と思っている。それに、元の世界に帰った勇者は居るのか? と聞きました。そんな話聞いた事あります?」
「そう言えば聞いた事無いぞ」
「そうだな」
「つまり、こっちに無理矢理連れて来られても、故郷には帰れないかもしれない。酷かもしれませんがそれも言いました。簡単な話が異世界からの誘拐ですよね」
皆が黙る。
「だからその辺を覚えておいてもらって、もしかしたらロックは二度と故郷に戻れないヤツなのかもしれない。そう頭の中に入れておいて、少しだけ我侭を聞いてあげてほしいんです。多分ロックは国に、俺の事を報告した後に先輩勇者達を探し歩き、自分なりの答えを探しに行くかもしれません。できれば付き合ってあげてもらえないでしょうか?」
「それは構わないが、なぜお前がそこまで気に掛けるんだ?」
「俺のいた世界の国では、あいつはもう働けますが、まだ子供として扱われるんです。大人が困っている子供に手を貸すのは当たり前でしょう? 甘いかもしれませんが。住む世界が違うと、法も文化も違うんです。だから仲間として支えてあげてください。おねがいします」
そう言って俺は頭を下げた。
◇
俺は特にする事も無いので、食事にテンプラを増やそうと釣り糸を垂らしていた。そうしたら竿を持った勇者に声を掛けられた。
「隣良いですか?」
「おまつりにならなければ」
「自信無いですね、子供の頃数回親父に連れられて、そんなに経験無いですし」
「俺もほぼ無いよ、こっちに来てからも数回だね。故郷は内陸だし、魚を捕まえるのは村にいたサハギンっぽいお姉さんだったし。まっ、竿も糸も前世基準じゃダメダメだし、リールもない、おまつりなんて多分ないんじゃない?」
そう言って竿を上げ、小魚を吊り上げバケツに入れて行く。
「手伝っても良いんだけど、帆船で素人が出来るのは甲板の掃除か見てるだけだからね。有るとしたら最初の帆を上げる力仕事くらいかな。正直船長の言葉を聞いてもどのロープを緩めたり張ったりすれば良いか解らない」
「そうですね、今聞いてても風を抜けとか、どこどこの帆を張れとか全然わかりません」
「そうだね。で、どうしたんだい?」
「部屋にずっと引きこもってたら気分も滅入るぞ、って言われましてね、魔王が釣りしてるから行ってこいと」
「優しい仲間じゃないか」
「メイソンが魔王から気を使えって言われたって、アイツあんなに馬鹿だったかな」
「あー、それだけ聞くと馬鹿だわー」
そう言って、また小魚を吊り上げた。
「で、どうするんだい?」
「噂は噂で、個人的に開拓してる魔族は居たけど、魔王じゃ無かった。こんなんで十分だと思いますよ。諜報関係は有るとは思いますけど、コランダムで魔王ってバレてないんですよね?」
「……多分」
「なら平気じゃないですかね」
「島に戻ったら、魔王さんは止めさせないとな」
「そうですね」
「あ。商人のニルスさんと一緒に居た部下と、船員と、傭兵が知ってるな、駄目かもしれねぇ」
「そのニルスさんが誰だかわかりませんが、駄目じゃないですかそれ」
「魔王だったけど、敵意が無くて、島を開拓してるだけでした、人族とも仲良かったです。じゃ駄目かな?」
「……わかんねぇっす。言うだけ言って見ますよ。ただ、討伐して来い! だったから、俺が駄目だったなら、俺が何を言っても他の勇者が来る可能性も有りますよ?」
「日本人ならなるべく会話、それでも駄目なら……。覚悟でも決めて置くさ」
「何のです?」
「同郷殺しの。かな」
「……召喚されても魔族に転生しても、辛い事が多いですね」
「なんでも楽しもうって事を覚えればそうでも無いさ。後は自分を優先。殺されるくらいなら、嫌な思いをしてでも殺さないとって考えは有った方が良いかもね、それ位の心構えは必要だと思うよ。俺だって極力動物とか、魔物とかも殺さない仕事を、ギルドを通して日雇いでしてたけど、色々と有名になりすぎてね。皮肉な事に魔族と人族が戦争している、最前線近くの砦に物資運搬の護衛として、ギルドを通して派遣されて。その後に砦の防衛戦力として常駐、したくも無い戦争を雪が降るまで経験させられた。死にたくないから色々やったけど、殺しもした。偵察兵を報告に返させない為に三十人一気に殺したのが最初。アレはかなり心が折れそうになったね。その後は魔法で熱湯ぶっかけたり、隊列組んで特攻してきた奴等に、石壁作って倒して下敷きにしてたりしたし。多分死んでるんだろうな、アレ。熱湯かけられて堀の水の中に飛び込んだ奴は矢を射られてたし。なんだかんだ言っても、魔族と人族の違いなんて見た目だけ。地球で言う肌の色が違うだけ。それだけだと俺は思ってる。どこに行っても自分の都合の良い様に動かしたいって思う奴がいるから、魔族は人族より劣っている。とか言ってるんだろ? 勘弁してほしいぜ。出来るなら一生産まれ育った近辺だけで生活してたかったよ」
そう言いつつまた小魚を吊り上げる。
「まぁ、まだ若いからおっさんの言う事なんか無視して、好きにすれば良いし、どんな風に報告したって構わないよ。何か助言が欲しいって言うなら相談くらいは聞くけどね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、好きにして良いって言ったけど、先輩勇者の話を聞く事はした方が良いかもね」
「そうですね」
そんな会話の後、俺は船員にも好評なテンプラを作り、パン粉を付けて揚げるフライモドキも作って見せ、次にコックの隣に立ちながら手順を教えつつ作らせ今後の参考にさせた。お前この間メモ取ってたよな? なんで俺が見てないといけないんだよ。
□
凪さんが気を使って、食事を持って来てくれた、もう少し元気になったら皆と食おうな、そう言って保存食とテンプラを置いて行った。
「おぉ! テンプラだー」
「てんぷらってこの白くてモコモコしたやつか?」
「そうそう。久しぶりだな」
「お? なんだこりゃサクサクだ」
「ご飯かうどんが欲しい、蕎麦でも良いな」
「故郷の食べ物か? なら気を使ってくれた魔王に感謝しておいた方が良いな」
「おいしー、魚を小麦粉使って油で揚げただけなのに、なんでこんなに美味しいの!? このパン粉を使ったのも美味しいよ!?」
「故郷のとは少し違うけど、それでも十分美味しい。その辺の料理屋や出店で働いてても十分に売れるくらいだよ」
「職業の欄に有ったお菓子職人だったっけ? ならお菓子も作れるのかな?」
「この腕なら問題無く作れるだろうな」
「こりゃ酒が欲しくなるぜ」
故郷の料理のテンプラは好評だった。
「皆、少しだけ聞いて欲しい」
俺がそう言うと皆がこちらを向き、次の言葉を待っている。
「皆には迷惑を掛けると思うけど、この事を国に報告したら各地の勇者を訪ねようと思っている。迷惑を掛けると思うけど、できれば手を貸してほしいんだ」
「良いぜ、それくらい。けど酒を奢ってくれたらな」
「俺も構わん、あんな魔法食らって生き延びたら、もう魔王と戦う気にもなれん」
「いいよー」
覚悟を決めて言ったつもりだったが、皆の反応は軽かった。変に悩んでた俺が馬鹿みたいじゃないか。
閑話
あーそれ見た事有ります。
凪さんが釣り竿を持ったまま寝転がり、腹の上で竿を握り話しかけて来る。
「武君、武君。寝釣り!」
一体何をしているのかと思ったが、掛けられた言葉で何かを思い出し、俺は盛大に噴き出した。
「何やってんすか!」
「あ、やっぱり解る? 十歳以上年が違うのに良く解ったね」
「俺らの世代でも有名でしたよ、アレ」
「アレは永遠に語り継がれ無きゃいけない番組だよね、あの人もう歳だけど。まぁ一瞬だけ元気になって良かったよ」
この言葉で、俺はかなり落ち込んでいたんだなと自覚した。
本編にあまり関係無い、おまけ的な物を書いてみました。
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