第74話 勇者が来島した時の事 前編
作業用BGM
R-TYPE FINAL ボス戦(生物系)
キガ ツイ タラ コレ シカ キイ テイ ナイ キガ スル
家族と温泉に入った日から二十日。そろそろコランダムに向かう準備をしようかな、と思い始めた頃。
野草さんが超笑顔でジャガイモの収穫を報告して来た。
「カームさん見て下さいこれ! 土が良いのか、太陽のおかげかわかりませんが、一株でこんなに取れましたよ、これは半分だけ食用にして、半分は種芋ですか?」
「そうですねー。取りあえずそうしておきましょうか」
「わかりました、ふんっふふーん、ほくほくジャガイモー」
前世基準だと、野草さんは可愛いしモテても良いと思うんだが、いつも一緒にいる男性を見た事がないんだよな。どういう事だろうか? 考え方の違いだろうか? ああいうのほほんとした性格が好きっていうのは、この世界では少数派なのかもしれない。
ん?狼煙も上げていないのに、商船が島に近づいて来てる。
「おいカーム、船が近づいてきてるんだが」
「んー? 頼んでた豚や羊が届いたかな、一応書類を持って湾に向かうんで、先に行って様子見てて下さい」
「あぁ」
その船から商人と、熱いのにマントで体の胸部や頭部まで覆った部下が家畜を降ろし小船で近づいてくる。
「カーム、アレは何かおかしい、警戒しろ」
「了解。なんとなくでわかりますけどね。あんな商人の部下はいないし、雇われている護衛としても、何かがおかしいですからね」
バッシャッ、バッシャッ。と規則正しい音を出して、手漕ぎボートでこちらの方までやって来きて、商人と怪しい部下は小舟を上陸させる。
「カーム様ですね、ニルスさんから頼まれていた豚と羊です、前金で半額もらってるんで、もう半分お願いします」
「はいはい、ちょっとお金取ってきますねー、おっさんちょっと書類預かっててー」
商人の怪しい部下は、しきりに辺りを見回していた。
一応キナ臭いので、俺はいつもの武装も済ませ、海岸まで戻る。
「お待たせして申し訳ありません。はい残りのお金です、確かめてください」
そう言って左手にスコップを持ち、右手で残りの金額を支払う。
「あの。そのスコップは?」
「そうですね、後ろに居る貴方の部下の方が少しキナ臭いので保険です」
「そ、そうですか」
明らかに動揺している。決まりだな。
□
俺は岩本武、某大学を見事受かり、高校を無事卒業し、自由登校期間中にある程度の引越しを済ませようとしていた。足りない物を親が買い出しに行っている間に、色々出たゴミを捨てたり、雑巾で床を拭いている途中で目の前が真っ白になり、気が付いたら地下に寝転がって居た。床は石畳で、とても冷たく固く痛い。
なぜ地下だとわかったかと言うと、視線を動かしたところ、周りが全て石で囲まれていたからだ。天井からも光を取り込んでいる様子もなく、照明は松明しかなくて、とても薄暗く、空調がしっかりされていない淀んだ空気だったからだ。
今時松明かよと思ったが、なぜか痛い体を起こすと目の前には、ゲームや映画でしか見た事がないような、鎧を着込んだ短い剣を抜き身で持っている兵士数名と、白いドレスと着た金髪の、いかにも王女様って風貌の女性が立って何かを言っていた。年齢的に王妃や女王では無い事はわかる。
後ろを見たら、いかにも魔法使いです、と言う服の中年が立っていて、やはり抜き身の剣を持った兵士が数名いた。
魔法中年は目の前にいる王女と話している。
何を言っているのか解らない。
地球の言語ですら怪しい気がする。
夢かと思い、手を見ると少し湿っており、ホコリをふき取っていた雑巾を持っていた証の、細かい濡れたホコリ球も付いている。
「――――、――」
目の前の王女らしき女性が俺に何かを言っているが、良く分からない。
王女らしき女性は首を振り、後ろの中年に声をかけている。そうすると後ろから何か声が聞こえ、体がうっすらと光だし、光が収まると、目の前の王女らしき女がまた口を開いた。
「私の言葉がわかりますか?」
「なんとか」
「仰りたい事は沢山あると思いますが、まず貴方を拘束させていただきます。暴れなければ周りの兵も、危害を加えないでしょう」
そう言って俺は、手枷を嵌められた。
こんなのべル○ルク位でしか、見た事がないな。
そして俺は、少し歩かされ、階段を上り、少し広い小奇麗な部屋に通され、目の前の女は自分だけ柔らかそうな椅子に座り、口を開いた。
「とりあえず自己紹介をしましょう。私はこの国の第四王女レルス=アティチュードと言います。『アンタ』とか『お前』とか、言われたくはありませんので」
アティチュード? 舌を噛みそうだな。
「俺は岩本武だ」
言葉使いが悪かったのか、周りの兵士が殺気立ち「貴様!」と、叫んだがレルスと言う女が手を横に出し、「異世界の方ですよ?」そう言って、それ以上発言をさせなかった。
そこから先はこうだ。
我ら人族は下等な魔族を殲滅させるために、異世界から人を呼び、勇者として動いてもらっている。
すでに何十年以上も前から、この世界に何人も召喚し、技術や知識を教えてもらったりもしているらしい。
俺は若いから技術者ではなく、戦闘勇者として扱われ、九十日間たっぷりとと基礎訓練、基礎知識を教え込まれ、各方面からの噂を元に、魔王と呼ばれる魔族を倒しに行く。
そんなゲームみたいな話だった。確かに新しい技術に関する知識はないけどさ。
実際に俺達みたいな『召喚されし者』と呼ばれる奴には、何かしらのスキルを保有しており、この世界の人よりも早く強くなり、その後もどんどん強くなっていくらしい。
そんな俺も、スキルが開花し、自分自身に解析を使うまで詳しいスキルが解らなかった。
基礎訓練が終わり、初めて魔物と呼ばれていた物を切ったが、特に何の抵抗も無く切れた。犬や猫を切れと言われたら多分無理だが、これは魔物と思えば、RPGやアクションゲームみたいに切れた。
生暖かく、むせ返る様な内臓の臭いはしばらく慣れなかったが、最近は特に気にする事もなくなった。
初めて魔物を切った時から仲間として行動している人達がいる。
前衛で頑張ってくれる、頭の中も筋肉が詰まっていると言っても良いくらいのメイソン。
後衛で攻撃や回復魔法を使ってくれる、とても冷静なジャクソン。
遊撃で素早くヒットアンドアウェイで浅い攻撃を仕掛け、弓も使う、少し幼く見えるソフィア。
全員良い奴で、比較的年齢も近いから、妙に親しみ易いし息も結構合う。
この世界では、十五歳から酒が飲めるらしいので飲んでみた。元の世界の日本以外の国に行けば、その国で認められている年齢で酒が飲めるので、十八歳でも飲まされたって話もよく聞く。だから俺も日本じゃないので飲んでみた。
一度も飲んだ事がないと言ったら、「蜂蜜酒が飲みやすいぜ」と頼んできてくれた。
言葉は魔法で理解し、話せるようになっているが、文字がまだあまり読めないので、メニューは仲間に任せている。
初めての酒は甘くて飲みやすかった。
そして無人島に魔王が現れ、人族を奴隷として酷い扱いをしていると噂を聞いたが、特に気にもせず魔物を狩っていたら、王女が呼んでいると言う事で兵士が呼びに来た。
こっちの世界に呼ぶだけ呼んでおいて、結構他の奴等に任せているのであまり会っていないし、俺の他にも勇者と呼ばれている奴がいるので、活躍している奴に良く会っているらしい。異世界の男と王族が結ばれるとか絶対ないと思うけどな。
けど継承権とか低そうだし、地方の高圧的で自分勝手な馬鹿貴族とかよりはマシか?
「お呼びでしょうか?」
「最近噂になっている無人島の魔王の件なのです、もう既に耳には入っているでしょう」
「はい」
「そろそろ魔王と呼ばれる魔族と戦っても良い頃だと思います。ですのですべて手配しました、この書状を持って、コランダムに行き、無人島へ行きなさい」
「わかりました」
「魔王となった者には小さな刻印が刻まれて居ます、それを討伐部位として持ち帰りなさい。刻印はこちらの紙に書いてあります」
と言う風に俺は必要最低限の会話しかしないし、書状や紙はなんか偉そうな爺さんから渡される。
「で、何だったんだ?」
「そろそろ魔王を倒して来いってよ」
そう言ってサインと封蝋で印が入っている紙を無造作に渡した。
「おいおい、大切な物なんだろ」
「少しくらい汚れても平気さ」
「極力無下に扱わない方が良いぞ、一応王族のサインと印だからな」
「そうそう、一応形だけはしっかりしておいた方が良いんじゃない?」
その後に食堂で、昼食を取りながら今後の話し合いをする。このから揚げ美味しいな。
◇
「あの島が例の無人島です」
「わかった。手はず通り湾内に突っ込み、そのままなだれ込もう」
「おうよ!」
湾に船が入る頃には、みすぼらしい恰好の奴隷が棒きれを持ち、後ろから魔王が脅す形を取っている。その後船が砂浜に乗り上げ、船首から飛び降り全力で走り魔王へ向かう。
「俺は勇者だ! 助けに来たぞ! 皆後ろを気にせず走って来い!」
そう言うと奴隷は栄養失調な状態で、過酷な労働をさせられていたのかフラフラになりながらもこちらへやって来る。
それを無視し、走りながら【解析】を使い魔王のステータスを見るが、俺より力が高いだけだ。問題ない。
そう思いながら更に距離を詰めるが小さな火球で牽制してくる。
それをジャクソンが短い詠唱で作り出した水球で相殺し、ソフィアが弓で胴を狙い、怯んだ所を駆け抜ける様にして、最近になってやっと手に馴染み始めた剣で脇腹を切り裂き、後から来たメイソンがロングソードの両手持ちで頭をたたき割る。
「意外にあっけなかったな」
「ロックは前に出すぎ、メイソンと息を合わせようよ」
ロックとは俺の事だ、イワモトとか、なんか変な感じで言われるので、岩から取ってロックだ。まぁ安直だが異世界って事で意外に気に入っている。
「お前足速いって」
そう言う会話をしていたら裏の方から、
「取りあえず魔王は倒した、安心して良い、船に堅パンと干し肉が余分にあるから、安心して休んでいろ」
と言っているのが聞こえた、俺より勇者しているな……ジャクソン。
確かに、先に囚われていた奴隷を何とかするのが先だったな。そうして俺は右手の甲にある、剣に蛇が巻き付いて背中から炎の翼が生えているような刻印を見つけ、手首を切り取り、ジャクソンが火球で魔王を焼いてこの無人島から帰還した。
そして右手を持って城に行き、しばらく待たされ、「ご苦労だった」。の一言で済ませれ、また爺が金を持って俺に渡してきた。
「あの姫は色々と駄目だな」
そう言って金を苦笑いしている全員で均等に分け、食堂で飯を食いながら今後の事を話していた。
◇
また魔物を狩りながら過ごしていたら、また噂を聞いた。「また無人島に魔王が現れた」と。
その噂を聞いたら、また城へ呼ばれ、また爺に紙を渡された。姫は出て来なかった。
爺さんが少し申し訳なさそうにしていたが、まぁ爺さんに当っても仕方がないので笑顔で受け取って置いた。
「また魔王でこの前の島だとよ、何考えてるかわからないな、魔王も。何か重要な物でもあるんかね?」
「解んねぇな。切り開いてけば何かわかるかもな」
「別に良いんじゃない? 無人島って開発費とか時間が凄くかかるんでしょ? 私達は魔物と魔王を狩ってればいいの」
「最前線では魔族と戦争しているからな、飛び火して現れた魔族を討伐してると思えば良い、またいつもの食堂か?」
そう言って豚のしょうが焼き定食を食べた。主食は米じゃなくてパンだけど。
◇
「まずは船だ、あと聞き込みだな」
「そうだな」
「まぁこればかりは足で探さないとね、前回みたいにまた大陸間を移動している船でも探す?」
「最近手広くやっているニルスと言う商人に聞いてみるか」
「ならメイソン、言い出したんだから、貴方が行ってよね」
「嘘だろ。全員で行こうぜ」
「非効率だ」
「決まりだな。メイソンはその商人の所に行って、俺達は別の所。夕食時にこの前の食堂で」
「解った」「はーい」「おう」
俺達は酒場で結果を報告し合っている。
「まずは私だ。最近スラムの方で医者が一人急に借金を全額払って消えたらしい、しかも大量の薬を買って船員みたいな奴等に持たせたって話だ」
「あーその話は服屋のお姉さんからも聞いたよ、なんか汚い医者を綺麗にして服も買って行ったって」それとね、下級区の教会に寄付をしてシスターを連れて行った、黒っぽい肌の魔族がいたって、話を聞くと島に行くって話だったよ」
「黒っぽい肌、大量の金。か」
「俺は詰所で大量の海賊の引き渡しをしてきた魔族を聞いたぞ、やっぱり肌が特徴的で覚えてるって言ってたぞ。賞金首もいたから金貨八枚分の金を全部大銀貨で払ったって話だ」
「その海賊は?」
「もちろん全員犯罪奴隷として引き取ったって話だ」
「奴隷として売った? もしそいつが魔王なら、何考えてるかわからないな」
「へへーん、俺は当たりだ。なんか変な肌の色の魔族が大量に物資を買って、豚や羊も買って、前金を置いて『届けてくれ』だってよ。引き渡しの際に残金を払うって言って無人島に帰っていったって話だ。その家畜を運ぶ船の船長にも話は付けて来たぞ」
「メイソンの勘は時々当たるから怖いな」
「おいおい褒めるなよ」
「確率は4割程度で、勘としては微妙だけどな」
そして俺は果実水を軽く飲み口を湿らせる。
「借金を払って、大量の買い物をして消えた医者。寄付をして、シスターを連れて行った黒っぽい肌の魔族。大量に海賊を犯罪奴隷として売った、黒い肌の魔族と支払われた賞金。大量に買った物資と家畜。これは決まりだろ」
そしてジャクソンが続ける。
「多分同じ魔族と思って良いだろう。しかも家畜を届ける為に船まで手配している。話を纏める限り、そいつが魔王だとして、今の島がどうなっているのかわからないな」
「そうだな」
「おい、なんかギルドの掲示板で技術職募集してたぞ、ここから六日ほど離れた島だってよ、独立したい奴とか募ってたぞ」
「って裏のテーブルで話してるがどうする?」
「無論ギルドに行って確かめる」
「わかった、行こうか」
「待て、飯を食ってからだ、この肉団子すげぇ美味いんだよ」
そう言って俺は、甘辛いとろみの付いた肉団子を口に放り込み、良く噛んでから飲み込んだ。またこの町に来たらここに来るか。
「代表者・紺色の肌のカーム。これじゃね?」
「あぁ、色も一致する」
「けどこの張り紙を見る限りさ、かなりまともそうだよ? 家族がいる場合は前金って所とか」
「けど一応討伐命令が出てるからな。こいつが魔王だったら悪いが死んでもらう」
「ギルド内で物騒な事言わないの。んじゃ出航は2日後らしいから、それまでには準備だけはしっかりしないとね」
「その島に向かう商人に、話を付けて来たとか言ったが、もう少し詳しい話を俺がしてくる」
「おいおい、俺が駄目みたいじゃないかよ」
「メイソンは何もかも大雑把なんだよ、だから俺が行って食料とかの詳しい話をしてくるだけだ」
「お、おう」
そう言ってメイソンは少しだけ声が小さくなった。本当に、俺等も行くくらいしか言ってないんだろう。
◇
「ブキィーーー」
「メェエ゛エエェエエェエエ」
「……うるさいな」
「これが六日続くのかよ」
「甲板に出て外の空気を吸って来る、うぇ」
「私は村出身で、結構世話とかしてたから平気だけど?」
「臭いも駄目だ。吐いて来る」
ジャクソンはそう言ってふらふらと甲板に向かった。
「冷静なメイソンでも無理か、俺も外に行くわ、臭いがキツイわ」
◇
「また来たな」
「そうだな。見た感じあまり変わってないな」
「んー畑とか増えてるよ」
「船長、商人。手はず通り頼む」
「は、はい」
「気にするな、魔王の居る島に、魔王に家畜を届けに行くって聞かされてなかったんだからな。魔王が溜めこんでいる金はすべてやると言っただろう。少しだけ我慢すれば良いんだよ」
「確かに、でもニルスも知らなかっただけかもしれないですよ?」
そう言って商人をなんとか納得させ小舟で家畜を運ぶ。
そうすると魔王の部下らしき犬っぽい奴が最初に現れ、その後に遠目でもわかるくらい、肌が黒すぎる奴が出て来た。
そして商人と話し出す。
「カーム様ですね、ニルスから頼まれていた豚と羊です、前金で半額もらってるんで、もう半分お願いします」
「はいはい、ちょっと取ってきますねー、おっさんちょっと書類預かってて」
そう言って書類を犬っぽい奴に預ける、見た感じ嫌な奴ではなさそうだ。人族は奥の畑で何かの収穫をしていたし、海岸沿い近くでは女性が吊り下げられた葉っぱに水みたいな物をかけていた。
アレは塩作ってるのか? なんかテレビで見た事あるぞ、最近じゃ工場で一気に作るが、昔ながらの方法で、とかなんとか言ってたな。アレは干し肉を作っているのか?
(おい、ロック、なんか変なのが増えてるし、干し肉も作ってるぞ)
(あと何か収穫しているぞ。ジャガイモか?)
(魔王が住んでて、人族が奴隷として劣悪な環境で酷使されてるんじゃないのか?)
(わからん。よく見ると、水浴び場らしき物も見えるし、魚も育ててる。あの空の柵は連れて来た家畜用だろう、その奥には鶏や鴨もいるぞ?)
(ねぇ、かなりまともな生活してるんじゃないの? コレ。私がいた村よりまともなんだけど)
そう話していたら魔王と思われる奴が、バールと鉈、スコップと金が入った袋を持ってやって来た。
「お待たせして申し訳ありません。はい残りのお金です、確かめてください」
そう言って残りの金額を支払っている。
「あの。そのスコップは?」
「そうですね、後ろにいる貴方の部下の方が少しキナ臭いので保険です」
「そ、そうですか」
(ばれてないか?)
(この格好じゃ流石に不味いよな)
(鎧とか着ているんだ、これ位しないとばれるだろう)
(もうばれてると思うよ、ジャクソンって頭良いけど結構阿呆だよね)
(ぐっ)
□
「ちょっと後ろの方にお話があります、お時間いただけますか?」
「あの……この方達は護衛でして、ほら、海賊とかも出るじゃないですか」
「そうですよね、護衛は必要ですよね。けど後ろの方達とお話しさせて下さい、じゃないと安心できないんで」
そう言いうとマントを深くかぶった奴の一人が前に出て来たので、出て来た分だけ後ろに下がる。
「いやー怪しませて申し訳ありません、ただの護衛ですので」
「マント、暑くないですか?」
「いえ、これでも通気性が良くて意外に快適なんですよ」
「そうですね、暑い時は脱ぐより通気性の良い、ダボダボした服を着た方が良いって聞きますからね。けど。誰かと話す時くらいは。顔を見せた方が良いですよ」
俺は笑顔でやんわりと頭の布を外す様に促す。
□
(ちょっと、ロックがやばいんじゃない?)
(今動く方がやばい、話を合せろ)
□
黒髪、黒目、アジア系の顔付き……。この世界の人族にしては珍しいな、こいつが勇者か?
「ありがとうございます、いやーそれにしても大変ですよね。俺もこの島に来た海賊を二組程返り討ちにしたんですけど、まだいるんですか? こっちも夜中とか気をつけないといけませんね、前の二組は真昼間に堂々と来てくれたんで助かりましたよ」
やんわりと世間話する様な口調で話すが、少しだけ挑発しつつ膝を曲げ重心を落とし、何時でも動けるようには準備をする。
「商人さんも。お金。数え終わりましたよね? そろそろ家畜達を渡していただければ嬉しいんですが」
「あ、は、はい」
「ありがとうございます。おっさん、この子達を柵に入れて置いて下さい」
「解った」
(多分勇者です、戦闘の可能性大、退避誘導を)
(おう)
「はい、ではこちらが書類です。わざわざこの為にお越しいただいたんです、あの天幕の下で麦で作ったお茶でもどうです? 冷たくしても美味しいですよ」
そう言って指先に小さな【氷】を作りだす。
「え、いや」
そう言ってしきりに首を動かし、マントを着た奴等に指示を仰ごうとしている。そうしたらもう1人のマントが前に出て来て商人を遮る様にして口を開いた。
「ご主人は魔族が嫌いでしてね、本当はこんな所来たくなかったらしいのですが、ニルス様に頼まれ、仕方なくここまで来ただけですので」
「そうでしたか、それは申し訳ありませんでした。先ほどから落ち着きが無いのもそのせいなんですね。あとフードを外して下さい。あの黒髪の方に言った事、聞こえて無かったんですか?それともお耳が少し悪いのでしょうか?それでしたら申し訳ありませんでした」
□
(おい、挑発してるぞ)
(先に手を出させて、正当性を主張するんじゃない?)
(乗って来ないぞ)
(しかも逆に挑発されてる!?あの魔族、馬鹿じゃないよ?)
□
「申し訳ありませんでした」
そう言って相手はフードを外すが、こっちは金髪だった。
「じゃぁ、これ以上怖がらせるのもいけないので自分はコレで失礼しますね、勇者さん」
そう言って後ろを向いた瞬間に、物凄い殺気がし、マントを脱ぎ捨て、鞘から剣を抜くような音がわずかに聞こえたので、スコップを構えながら全力で森まで走った。
後編はすでに書き終ってますので、明日の201504241800に投稿されます。




