第73話 家族でのんびり温泉に来た時の事 後編
適度に続けています。
相変わらず不定期です。
俺達家族は島に転移し、俺以外の四人は目の前の海に驚いていた。
「ほえー、聞いては居たけど、これが海ですかー」
「大きい!」「綺麗!」
「なにか大きいのが浮いてる」
初めて海を見た感想は、三者三様だった。
「お? 帰って来るのは、明日じゃなかったのか?」
通りがかった犬耳のおっさんにそんな事を言われてしまった。
「ラッテが休みを取れたので、早い方が良いと思いまして」
「村とは違う環境だ、楽しんでもらえれば良いな」
「そうですね、早速子供達が砂浜に走って行きましたね」
寄せては引く波に早速興味深々らしい。
「湾内なら危険は少ないだろう」
「そうですね。けど、なるべく目を離さない様にしたいですね」
「見た目はもう大きいが、まだ四歳なら十分子供だ、島の子供達と会わせてやれ、俺は仕事に戻るな」
犬耳のおっさんは、鍬を担いで畑の方に向かって行った。なんだかんだ言って鍬も似合うんだよな。
「じゃぁ、俺が使ってる家に荷物を置いて、まだ少ないけど島の中を色々案内するよ」
「リリーとミエルは?」
「パルマさんとフルールさんって女性がいるから、少しくらいなら平気だと思うけど、一応声は掛けて置くよ。おーい二人共、深い方に行くんじゃないぞー。二人とも子供達をお願いします」
「「はーい」」「わかったわー」
「きゃっ!」「うわぁ!」
まぁ、荷物置きに行くだけだしな。
「一応ここね」
「んー、随分簡素な作りだねー」
「仕方ないさ、前の魔王が使っていた奴隷を寝させる為に、作らせた物だし」
「村とは作りが違う。何か変な感じ」
「まだ経験してないけど、多分だけど村より夏は暑いし、冬はあまり寒くないと思うんだよね。だから夏用の作りなんだと思うよ、それに村の方じゃ見ない植物や、果物もあるし、まぁ楽しくやらせてもらってるさ」
そう言って窓を開け、外の空気を取り入れる。
その間に二人は荷物を置き、珍しそうに竈とベッドしかない部屋を見て回っている。
「あ、これ石鹸だよね? 買って来たの?」
「作った」
「へ?」
「作ったんだよ、簡単だよ? 木や海草を燃やして出来た灰を水に入れて、かき混ぜて一日置いて、上澄みだけを丁寧に掬って布で濾して余分なゴミを取る。その後に綺麗にした砂や藁が入った、穴の開いた樽に入れて、白く濁っている水を綺麗にする。その水に同じ量の油を入れて、沸かして余分な水を飛ばし、固まったら完成」
「ほうほう」
「香りを付けたいなら、この出来た石鹸を摩り下ろして、香りの強い干した好みの香草を細かくして入れて、その香草を濃く煮出したお茶を入れてペーストにする、その後型に詰めて完成。本当は精油とかも入れたいんだけどないからね。今はこれが限界かなー」
「むー、やっぱりカーム君は色々とすごいなー」
ラッテはスンスンと香りを嗅いだりしている。スズランの方を見たら、取って置いた干し肉を口に放り込んでいた。
「鹿?」
そう呟いていた。そうですよ、鹿の肉ですよスズランさん、でもね……。俺の使っている家で、その辺の棚の上に置いて有る物でも、勝手に食べないで下さい、せめて声をかけて。
「なぁスズラン、大きい肉のまま燻製にした肉が有るんだけど、興味――」
「ありゅ。ちゅれてって」
前を向いてモシャモシャしていたのに、いきなり顔をこちらに向け、口に含んでいた物を両頬に溜めて、喋ってきた。
「口に含んでいる物を、飲み込んでから喋ろうね。あと少し飛んだよ」
コクコクと首を縦に振っている。
「ある。連れてって」
「はいはい」
そう言って、少しだけ離れた家の中に入る、そこにはドアと窓を閉め切り、煙が充満した家の中に、今まで捕らえた魚や動物が、ある程度大きいまま吊るされ、水分がなくなり、カチカチになっている。
「これがこの島に来て、最初の頃に獲った肉かな」
俺は木材みたいに硬い肉にナイフを突き立て。肉の繊維に沿って引き剥がしていく。
「はい、燻製肉」
手渡すと直ぐに口に運び、モゴモゴし始める。
「硬い」
「腐らせない為に塩辛くして、限界まで水分を飛ばしてるんだよ。それと煙には食べ物を腐らせない効果もあるからね。まぁここは、保存食を作る為の場所にしたんだ。こんなにヤニが付いちゃったら、もう家としては使えないからね」
「村じゃ塩に付けて干しただけだからねー、うわ。本当に硬い」
ラッテはコンコンと肉を叩いている。
「私は普通のお肉でいーかなー」
「スズランが肉を食べて、満足そうだから次に行こうか」
「そーだねー」
それからあまり手を付けていない養魚所や、ほぼ放し飼いの鶏と、狭い枠の中に居る兎。今後来るであろうと思われる、豚と羊のいない柵を見せた。
「んー本当にまだまだなんだねー、まーまだ六十日くらいだっけ? ほぼ丸投げされた状態で、ここまでになったなら、いーんじゃないかな? 畑の……アレはジャガイモだよね? 麦もある。見てた感じ人族も不満はなさそーだし。良く村で一緒にいたおっさん達も、上手くやってるみたいじゃん」
「そうなんだよね、まだ日が浅いから、繁殖とかも無理だし。やれる事はやってる積りなんだけどね。それでも結果が出るまで、時間がかかりすぎるんだよ」
「最初からお金を使って、ドーンって出来ないし。船を使わないと他の場所から、職人さんとか連れて来るのも一苦労だもんね」
「そうそう、転移でも四人が限界だし、正直むさ苦しいおっさんに、ピッタリくっ付かれるのは短時間でも嫌になる」
「女の子はー?」
そう言ってニヤニヤしてくる。
「そうだね、おっさんよりは良いけど、ラッテもスズランもいるし、そう言う考えは一切ないよ。昨日話した海賊の話しで少し出たけど、子供達がいたから少し濁したけどさ、本当は女性は全員全裸で、首枷と手枷が一緒になってる奴で拘束されてね、慰み者にされたんだよ。そんな状態でもそんな気は全く起きないし、「早く助けなきゃ」って気持ちの方が強かったよ。あと、マーメイドのお姉さんとかは一切胸を隠してなかったし、ハーピー族のお姉さんは、胸は隠してたけど下は体のラインが出るような、毛みたいのだけど別に何とも思わなかったよ」
そう言ったら頬を抓られ。
「よーく見てるんですねー、欲情しなかったのは褒めてあげますよー? けどよく見過ぎです!」
「ごふぇんなふぁい」
ラッテは抓っていた指を放し続ける。
「私だけを見てよ、とは言わないけどさー、ジロジロ観察するように見ちゃ失礼だよ?」
「だって見えちゃったんだもん仕方ないでしょ。不味いと思ったから一応布を持って行って、『隠してください』とは言ったけどさ」
「言い訳しない」
「はい」
「スズランちゃんも何か言ってよー」
口をカチカチ干し肉で一杯にしてモゴモゴしていたが、話を振られてもしばらく咀嚼して、名残惜しそうにやっと飲み込みこんだ。
「私は。別に見ても良いと思うし欲情しても良いと思う。手を出さなければだけど。カームから手を出したら。私は絶対に許さない。お酒の勢いとか。良い雰囲気になっても。中々私に手を出さなかった節操のある男だから」
ぉおぅ……。なんか威圧感が半端ないな。
「ふーん、スズランちゃんは別に良いけどさー。見られてる方の事も考えなよー」
「見られて減る物じゃない。私はこれ以上減らないけど」
あちゃー、なんかもう地雷を気にせず歩き回ってるような考えに成ってるぞ。自虐ネタは止めてくれよ、聞いてても切なくなってくる。
「ん、んー?」
ほら、ラッテもなんか反応に困ってるじゃないか。
「ほらさ、俺が気をつければ良いんだし。もうこんな不毛な会話止めよう? ね?」
砂浜の方を見たら、島の子供達と仲良くなったのか、波打ち際で七人で遊んでいる。多分大丈夫だろう。
「この道を少し歩くと、元魔王が城を建築しようとしていた広場があるんだけど、今は村から連れて来た、ルートさんって職人が指揮して、家を建ててるんだ」
そう言って道を歩き出す、
「この道も狭かったけど、一応皆と話し合って、今後の事を考えて、馬車が通れるくらいの幅にしたんだ」
ラッテはふーん、と言いながら、興味は森の方に向いている。確かにこの森は深いけど、道の両脇は光が入る様に所々伐採してあるし、風も通るので圧迫感はないはずだ。
「とりあえずここが村予定地かな、まだ村長とか決まってないけど」
そう言って、広いグラウンド程度に切り開かれた場所を紹介する。
「所々に太い杭が打ってあるのは、道路を予定してて、細いのは家を予定かな。まだ全然進んでないけどね」
「あの大きいのは?」
「急造の仮倉庫、この前に港町に買い付けに行ったからね、生活雑貨品置き場ってところかな。まだ生活の基盤は海の近くだから、小麦とかジャガイモは海の方だけどね」
「なんでこっちに移動するのー? 大変じゃない?」
「海の近くだと、大雨とか嵐になると大変だからね、もしかしたら海の水が届くかもしれないし。けどここは木に囲まれてて風も少しは防いでくれるし、少し高いところにあるから水の恐怖はないね。一番重要なのは、井戸を掘っても水がしょっぱくない事かな。あそこに前の魔王が掘らせた井戸があるけど、しょっぱくはなかったからね」
そう言いながら教会を建てている方に向かい、足場を組んで壁に板を張っているルートさんに声をかけた。
「お疲れさまです、問題はないですか?」
「特にないなー、お? 家族を連れて来るって話だったけど子供は?」
「海で子供同士遊んでますよ」
「そりゃいい。この島の子供も友達が出来てうれしいだろうに」
「歳が近くても大きさが違いますよ、もう少ししたらもっと身長差が出ると思いますよ」
そんな会話をしていたら、奥の方からもぞろぞろと人族が集まって来た。
「お? 魔王さん、それが話に良く出る奥さん達ですか」
「よろしく」
「よろしくお願いします。夫のカームが何時も無茶を言って申し訳ありません」
「おー聞いてた通りだな、綺麗だし可愛い」
「本当だな」
スズランは相変わらず興味なさそうだし、ラッテはえへへーとニヤけ顔だった。そして作業の流れを切ってしまったので、取りあえず小休止させる事にした。
そしたら急に男達が、
「おい、聞けよ」「お前聞けよ」
とか言いだした、取りあえず見守っていたら急に。
「レンガを握りつぶせるって聞いたんですけど、本当ですか?」
俺はブフッと飲んでいた水を吹き出した。
「誰から聞いたんですか。俺はそんな事話してないですよ? まぁ村から来た四人の誰かだと思いますが」
「本当」
そう言ってスズランは立ち上がり、廃材として出た握りやすそうな木材を拾い上げ、特に力を入れる事も無く、半分にへし折り。その後に握り、メヂメヂと音を立てながら目の前で握りつぶし。小さくなった木材を指で摘まみ、磨り潰しておが屑のようにボロボロにしていく。
相変わらずすごい力だな。あーあ、職人の皆が全員口開けてるよ。
「す、すごい力だね、俺も話では聞いてたけど、実際に見ると何も言えないな。後で木材でも運んで貰おうかな」
ルートさんが。驚きながらもフォローを入れてくれた。
「わかった」
「助かるよ」
「お昼はお肉が良い」
「あ、あぁ」
スズランがそう言うと、ルートさんは森に向かい大声で、
「今日の肉は多めにたのむー」
と叫び、しばらくすると森の方から短い返事が帰って来た。
「大丈夫です」
「ん。運んでくる」
そう言って皆が休んでいる間に、木材が積んであるところに歩いて行き、右肩に沢山の木材を乗せ、左手に大量に抱えて帰って来た。
「あ、ありがとうございます」
「もっと必要?」
「今日の昼前は足りるんじゃないかな? はは……」
「なら後二回ね」
そう言って先ほどと同じように資材置き場に向かう。
「んー相変わらずスズランちゃんはすごいねー、私だったら一本が限界かなー」
「俺もあそこまでは無理かなー」
人族の皆は何も言わず見ているだけだった。
アントニオさんは「嘘だろ」と呟き、アドレアさんは目を瞑り首をゆっくりと左右に振っていた、多分今見た物が信じられないと言った感じだろうか?
その後、村予定地には特に何もないので湾の方に戻り、スズランに養魚所と家禽達の事で小言を言われた。
「この魚はもう少し広くて深い所が好きって。池のお姉さんが言ってた。さっき上にあった大きな池の方が良いかも。鴨はもう少し地面を多く。あと流れ込む水の量が多くて水がきれいだから。水の中の小さな虫とか食べられない。餌は少し多めにあげないと。鶏は今は良いけど場所が狭い。これじゃ喧嘩しちゃう」
俺は大人しく聞いていたが、ラッテが対抗心を燃やしてきた。
「なら私も家畜関係が来たら、アドバイスするよ!」
「じゃぁその時に頼もうかな」
そういうやり取りをしていたら、森の方から狩猟班が鹿と猪を担いで戻って来た。それを見つけたスズランが、嬉しそうに解体作業に参加して、綺麗に内臓を傷つけないように取り出し、物凄く綺麗に皮を剥ぎ、綺麗に部位事に切り分けた。
周りから「すげー」とか言われている。
「慣れれば誰でもできる」
そう言って、俺に水球を出すようにせがまれ、手を綺麗に洗い、肉も綺麗に洗った。
「森で聞いたと思うけど。肉多めで」
そう言って肉を狩猟班に渡し、昼食を待った。
今日の昼食は荒れた。
スズランは新鮮な鹿と猪の肉を、そんな量どこに入るの? と言うくらいモグモグと食べ、パンすら食べずに、ただひたすらと肉を食べ続けた。
「強さの秘密は肉か」
「「ありえねぇ」」
そんな声が男性陣の方から聞こえた。
□
体感で夕方の四時くらいになり、早めに山の方の温泉に行く事にした。
「じゃぁ、温泉に行ってからそのまま俺も村の方に帰りますね」
「わかった、久しぶりの家族の時間だ、大切にしろよ」
子供達は子供達で
「また来るからね」「また来るから」
と、挨拶をしている。なんだかんだ言って仲良く成れたみたいだ。
そして俺達は温泉に転移した。
「おーこれは見事なお風呂だ」
「温泉だよ」
「おんせん?」
「湧き水ってあるだろ? この山の火山で温められて、お湯として出て来てるんだ」
「じゃーさー、冷めたら湧き水?」
「んー? どうなんだろう? 飲めるから、冷めたら湧き水って事で良いのか?んー?」
本当どうなんだろうか?
「お風呂だって水から沸かすんだから。これは暖かい湧き水で良いと思う」
「なんとなく納得できないけど、とりあえず入ろう」
そうして俺達は服を脱ぎ、入ろうと思ったら、子供達が飛び込んだ。
「あったかーい」「家のお風呂より深いよ」
「こらこら、まずは体を洗ってだな」
「ヒャッホー」
バシャンバシャン! 二回大きな物が湯船に入る音が聞こえた。横目で見るとスズランとラッテが既に飛び込んでいた。
「なぁ、嫁さん達や」
「何?」「なーにー?」
「せめて子供の前では、体を洗ってから入るとかさ」
「こーんなに広いのにもったいないよー。カーム君も今日くらいはいいじゃん!」
「はいはい」
そう言って俺は、体を洗って入ろうとしたら、四人から思いきり裏から温水を掛けられ続け、何とか体を洗い終わらせ、思い切り飛び上がり、大の字で水の中にビッタンッ! と、飛び込み大きな飛沫を飛ばし、「さっきまでの仕返しだごるぁ!」と言ってバシャバシャお湯をかけまくった。
閑話
カーム達が広場からいなくなった休憩後の会話
A「レンガ握り潰せるって聞いてたけど、流石にアレはない」
B「なんで指で木材磨り潰せるんだ」
ルート「鬼神族って言って、力が強いらしいんだよ。村でもスズランちゃんの家族くらいしかいないし、近くの町でも見た事がないな、村近辺の種族ではないな。ちなみにスズランちゃんの親父さんの腕は、俺の太ももくらいあるぞ」
A「ありえねぇ」
ルート「元冒険者で顔に傷が有って、見た目も恐ろしい」
B「うへぇ」
ルート「それに結婚の挨拶しに行った魔王カーム」
A「何かあったんすか? 村の一部が壊滅したとか」
ルート「何もなかった、ただ実父の方と一悶着あったらしい。酒飲んでる時に本人が言ってた。ただ、その実父はスズランちゃんの親とパーティーを組んでて、かなり強かったらしいぞ」
A「どうなったんです?」
ルート「カームの圧勝、『あんなに強いとは思わなかった』って言ってたな。夫婦になる前だから、三だか四回前の年越祭後の春だったかな? 魔王に成ってない頃だな」
B「その頃から素質はあったんですね」
ルート「子供の頃からだ、学校に行ってた頃だから五歳か? その頃から、魔法で麦を刈ったり、畑を耕していた。今日連れて来た子供が確か四歳だからな。あと年越祭を一回迎えたら、あの子供達もそうなっちゃうのかな」
A「魔族怖い」
ルート「俺を見ろよ、特に何もなかったぞ、魔法だって得意じゃないし、カームが異常なんだよ」
AB「確かに」
ルート「スズランちゃんの食いっぷりもすごいから見てろ。あれも異常だ」
□
「おかわり」
モシャモシャ
「おかわり」
モグモグ
「おかわり」
モチャモチャ
「おかわり」
AB「ありえねぇ……」




