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第70話 人族側の大陸へ買い出しと勧誘に行った時の事 後編

細々と続けてます。

相変わらず不定期です。


3話に別けたので間を空け無い様に頑張って書いたので荒が目立つと思います。

 船室でも朝はいつも通り目が覚めて海鳥の鳴き声を聞き海の清々しい空気を肺一杯に入れようと甲板に出たら大量に転がる船員達。そしてとある液体で汚れた酸っぱい香りのする甲板。

 俺は見なかった事にして、テラスのある食堂で優雅に軽い朝食と、砂糖を少し多めに入れたお茶で清々しい朝を過ごした。

 それから俺は屋台通りの詰所に行き、昨日貰った書類を出し、お金は大銀貨で支払われた。

 目の前に大銀貨の山……約八十枚。

「あの。かさばるので金貨ありませんか?」

「申し訳ありません。金貨と言う大きい貨幣はここにはないので、どうかコレで収めてください」

「んーわかりました。まぁ、このまま一回船に戻るので護衛頼んでいいですか? 金額が金額ですし」

「それは出来ないのです。申し訳ありません」

「そうですか。まぁ……。船まで五百歩くらいでしょうし、平気でしょう」

 船の方を見て、目測で大体の距離を出した。

「何かあったら危害を加えちゃっても……良いですよね?」

「あの、できればそういうのは、しないでいただきたいのですが」

「こっちは大金もってるんですよ?」

「すぐそこででしょう? 入口で立って見てますから、仕事を増やさないで下さい。ただでさえ海賊一味を預かってて大変なのに」

「わかりました頑張ります!」

 そう言ってリュックに大銀貨を突っ込み、背中に背負わず胸の前でがっちり持ち小走りで船まで走って行った。


「センチョー、センチョー」

 俺は甲板で寝転がっている船長を呼んだが、起きないので足で小突いて起した。

「は、はい!」

「昨日の賞金です。倉庫にぶち込んでおいて下さい。交渉で使うので少し抜きますね」

 そう言って十枚ほど抜き取り財布にしまい、下級区のスラム化している医者の所まで向かった。


 最初は普通のノックだったが、出てこないのでどんどん強く叩くがが出てこないので、勝手に入らせてもらった。

「すいませーん。昨日の魔族なんですが」

「うるせぇなぁ人が気持ちよく寝てんのによぉ。あぁ、あんたか」

 速攻で愚痴られた。これじゃいい返事は期待できないか?

「一応返事を聞きに来ました」

「あぁ、行く事に決めた。だが条件がある」

 意外だな。まさか来てくれるとは思わなかった。

「……何でしょうか?」

「この家の滞納している家賃を代わりに払ってくれ」

「……わかりました、どのくらい溜めてるんですか?」

 そう言うと、右手を前に出して指を全部立てた。

「金貨五枚ですか? それなら無理ですね。この話はなかった事に」

「ちがうちがう。大銀貨5枚だ」

「それならまぁ良いでしょう。どのみち島にはまだ人が少なく、金銭のやり取りもありませんので、しばらくはタダ働きと言う事で」

「かまわん」

 それは財布から大銀貨を八枚出した。

「五枚は貴方を雇うと言う名目で差し上げます。残りの三枚は必要な道具や薬を揃える為の経費です。使い切っても良いのである程度揃えて下さい」

「お、おう」

「足りませんか? 薬を買う問屋にも借金があるんですか?」

「それは無い、薬は金が無いと売ってくれない」

「なら薬屋に借金は無しと言う事で良いですね」

 そう言ってさらに銀貨を三枚ほど出し。

「コレで身形(みなり)を整えて下さい。医者に見えません。最低でも髪を切って髭も剃って、清潔な服を買ってください。髭は整えてるならわかりますが、それはただの無精髭ですよね?」

「……わかった」

「では日程を話します。昨日話したと思いますが、明日朝に出航しますので、それまでにすべての作業を終わらせ、道具を積み込んで下さい。もし人手が必要ならば俺が船員に話を通し人員を手配します。どうしますか?」

「清潔な道具や器具、瓶詰めの薬が入った箱を買うことになる。だから俺一人じゃ無理だ。たのむ人手を貸してくれ」

「わかりました。こちらに船員を手配しますので、とりあえずはこの家を引き払う準備をしててください。五人で足りますか?」

「あ、あぁ助かる。多いくらいだ」

「では自己紹介をします。俺はカームって言います、今後よろしくお願いします」

「アントニオだ。よろしく頼む」

「では、間に合わないので、俺は行動に移りますね」

「おう」


 俺は急いで船に戻り、未だに二日酔いで寝転がっている船員に【水球】をぶつけ、無理矢理立たせる。

「医者が見つかりました。道具をそろえるのに大きな荷物や、瓶詰めの薬もあるらしいので人員が五人ほど必要です。タダとは言いません。一日銀貨二枚、コレでどうですか? 真っ当に働いてる人の一日の稼ぎとしては多い方だと思いますが?」

「俺行きまーす」

「俺もー」

 そう言って五人集まったが、二日酔いでフラフラだ。

「本当に大丈夫ですか? 見ててふらふらですよ? 瓶に入った薬と清潔な器具なんですけど落としたら全部だめになるんですよ、わかってますか?」

「「うっす」」

 これは少し活を入れないと駄目みたいだ。

並べ(・・)

「え?」

「いいから並べ(・・)

 何時もと違う雰囲気なので、一斉に並び出す船員。

 俺は船員向かって、【水球】を軽くぶつけた。

「目は覚めましたか? くれぐれも失敗しないようにお願いします。これはその島に来てくれる医者の家までの簡単な地図と全員分の銀貨十枚です。地図は読めますか?簡単な図なので問題はないと思いますが。行けますよね?(・・・・・・)?」

「「「「「はい!」」」」」

「返事が小さいです、もう一度」

「「「「「はい!!!」」」」」

「行動開始! ゴーゴーゴー!」

 そう言うとずぶ濡れのまま慌てて船から降りて走って行った。着く頃には少し乾いているだろう。

「コレで一応人員は確保できたな、あとは島で使う物資だな」


 取りあえず港町なので。荷物を下ろす場所が有ってどっかの商人の倉庫もあるはずだ、取りあえず足を使って探す事にする。

 しばらく歩くと大きな船から、何人もの人が倉庫に荷物を運んでいる光景を見たのでしばらく眺め、覚悟を決め倉庫に入り、近くにいた休憩している人族に話しかけた。

「すみません少しお話し良いですか?」

「ん? 構わんよー」

 飄々と答えてくれたのは、頭にタオルを巻いているタンクトップで腕が太い好青年だ。

「この倉庫ってどこかの商人の所有している物でしょうか?」

「そうさ、ここはニルスさんの倉庫さ、そうそう、あの方だよ」

 そう言って青年は指を指す。

「あーはいはい。見た事ある顔です、どうも有難うございました」

「おうよー」

 その時の俺は、物凄くニヤニヤしていた。


「ニルスさんおはようございます、少々お話が有るんですがお時間宜しいでしょうか?」

そう言うとニルスが振り向きこちらを見て俺を思い出したのか「あー」と小さな声を漏らした。

「あの時の魔族(・・)さんじゃないですか、どうしたんですか?」

 魔王と言われなくて助かった。たぶん気を効かせてくれたんだろう。

「あの時は名乗らないで申し訳ありませんでした。自分はカームと言います」

「一応こちらも改めて名乗らせてもらいます。ニルスです。どうぞよろしくお願いします。で、何故ここに?」

偶然(・・)船を手に入れる機会があったので、ついでに買出しです。どこか商人の倉庫にでも行けば店で買うより、安い値段で買えると思ったのですが……。まさかあの時の商人さんだとは思いませんでした」

「そうですか、偶然って怖いですね。けど物によっては交渉も必要ですし、取り扱って無い商品もありますので、その時は知り合いを紹介させてもらいますが」

「はい、ありがとうございます。それで結構です」

「では商談に入りましょう、こちらへどうぞ」

 そう言うと、倉庫の一角に作られた事務室兼休憩室みたいな所に案内された。

 俺は回りを見て、誰もいない事を確認してから話をした。

「先ほどは気を利かせてしまい、申し訳りませんでした」

「いえいえ、あそこで『魔王さん』って言ったら大混乱ですよ、今お茶を淹れますね」

「ありがとうございます」


 お茶を飲み、お互い一息着いてから商談を始める。

「まあ、あの時の仲です。お互い探り合いは止めて率直に行きましょう」

「俺はそう言う駆け引きは苦手なのでむしろそっちの方が良いですね。んじゃ要望をさっさと言わせてもらいますね。まずは俺が着ている様な服なのですが、麻のシャツとズボンをとりあえず三百組、それと皮の一般的な靴が百足、子供用の服が三十組と靴が十足ですかね」

 そう言うとニルスさんは簡単なメモを取っていく。

「それと小麦が……すみません学がないのでわからないんですが、一袋でどのくらいの人が食いつなげるのでしょうか?」

「……そうですね、パンを作るのにカップ1つで型に入れたパンが作れますから……パン二百斤くらいですかね?」

 一カップ百五十グラムだとして、二百倍で三十キログラム。まぁ正しいか。一袋大銅貨たしか三枚だったよな。二百袋くらいあれば収穫まで間に合うか?

「まだこの間売ってもらった時の値段ですか? 変動してます?」

「学がないとか言ってるのに、変なところは詳しいんですね。この大陸の内側の方で前の収穫量が多かったらしく、多少下がってます」

「そうですか、とりあえず収穫まで食いつなげれば良いので、多めに二百袋、この間のジャガイモが、もう少しで収穫できそうなんですが、まだ不安なので取りあえず五十袋下さい。それと予備の寝具も欲しいので、それも六十組。後は酒ですね、コレの一樽の単価はわかりませんが、あれば皆が喜ぶのでとりあえず十樽」

「値段がわからないのに買うんですか。いやーすごい買い方ですね」

「まぁ、その辺は交渉と言う形で」

「ははっ怖いですねー。まぁ、嗜好品を買って行く魔王だから優しいんですかね?」


 そんな感じで必要な物を思いつく限り上げて行き、計算してもらう。

 ニルスさんは算盤を弾き、

「こんなもんですかね?」

「やっぱり酒が高いですね。とりあえず嗜好品なので少し減らします。あと、樽ってどのくらい飲めるんですか?」

「んー、果実酒なら瓶で三百本くらいです」

 三百本、不揃いの瓶で大体七百ミリリットルとして考えて、スーパーとかの安い奴で計算……。まぁ、大体提示された金額で合ってるか。村で買った時はほぼ身内価格だったんだな。売るために作ってなかったし。

「んじゃ葡萄酒は六樽で」

「はいはい、他は平気ですか?」

「そうですね……」

 俺は書かれた品目を目で追って、一つ辺りの単価も頭で割り出し、大体合ってる事を確認。

「はい、食糧や衣類や日用品は減らせないので仕方ないとして、予算面でもう少し減らした方が良いのがあるので、その辺もう少し数を減らしますよ」

 そして要らない物や、後でも平気な物を挙げて行き、そのつど再計算してもらい大体考えていた予算内に収めた。

「さて、ここからは交渉と言う形になると思うんですが、いきなり押しかけて在庫の数を荒らした謝罪として、この提示された値段でどうでしょう? まぁ迷惑料ですかね」

「んー確かにこちらも損はしない値段にしていますし、その辺の店で買うよりはかなり安くなってると思いますが、本当によろしんですか?」

「構いません。海賊をとらえてある程度余裕があるんで」

「おー怖い怖い、偶然って怖いですね」

「まぁ、教会の誘致やら医者を雇うのに、少し減りましたけどね。まぁ大体収まってるので平気でしょう。儲けと出費でトントンです。まぁ平気でしょう。今後ジャガイモや麦の生産量を増やして、買う量を少しずつ減らしていき、その内島内だけで食糧自給率を伸ばし、できれば出荷と言う形にしたいって考えてるんですよね」

「んー本当に学がないんですか? 普通そんな計算や考え、商人でもやり手くらいしか考えませんよ? それになんですか? 『じきゅうりつ』って」

「まぁ、自分で食べる物は自分の所で作りましょう。他から買うとお金が減るからがんばろう。ってな感じですかね? 余ったら売る。そうすれば自給率は十割を超えてるって意味です」

「んー確かにそうですね」

「まぁ需要と供給で、供給が多いと値段が下がるのと同じですよ」

「また知らない単語が」

「小麦が取れ過ぎて値段下がってるって言いましたよね? それと似たような物です」

「あー」

 ニルスさんは、その言葉でわかったのか、納得して頷いている。

「値段が下がったら儲からないので、わざと多く作らなかったり、売らないで価格を調整したりもするんですよ」

 前世でもダイヤモンドが、そうだったような気がする。

「んー確かに言っている事はもっともだ」

 その後、交渉成立と言う形で海賊を引き取ってもらった賞金の中で、どうにか話を纏め、何かあった時の為に残りは取っておくことにした。


「んじゃあとはこっちの話しも良いですかね?」

 俺は次の話に移る事にした。

「どうぞ」

「島で見つけたお茶みたいな物なんですけどね……」

 そう言ってコーヒーを出し、魔法で【熱湯】を出して、布で濾してコーヒーを淹れた。

「苦いんで砂糖と獣の乳を入れて下さい、牛のが一番だと思うんですけどね」

「では、まずは何も入れずに」

 そう言ってニルスさんは少しだけ口に入れ、一瞬にして顔を歪ませた。

「本当に苦い、淹れている時の香りは良かったのに」

「まぁ、これは島の中でも賛否両論でしたね。好きな人は好きなんですけどね」

「むう、今までにない香りと苦さ。これは……」

「売れる、って思ってるんでしょう?」

「そうですね」

「まだ試験段階ですし、実が生ってる場所まで島を開拓していないんですよね。まぁ、食料自給率を上げて、麦が余るようなら島民を募集してどんどん開拓を進めるって考えなんですが……。これがなかなか思うように進まないんですよね。お金で人を雇っても良いんですが、まだ収入の見込みもないので数に任せて攻めるって言うのも出来ません。もしかしたら作れるかも? 程度に思っていてください。それとこれなんですが」

 そう言って、今度は巨大な繭から取った糸を手渡した。

「何ですかこれ?」

「わかりません」

「んー糸ですよね?」

「はい、絹糸って有りますよね?」

「えぇ」

「ソレみたいになんか蛾の幼虫が作ったと思われる繭が有ったのでお湯で煮て取り出してみたんですけど。本当なんの魔物の繭だか解らないんですよ、多分蛾とか蝶みたいなやつだと思うんですよね。成長させてみないとこればかりはわからないので、『わからない』としか。ですが需要があるなら島の中で産業として、糸を生産しようと思えばできます。季節に左右されますけど」

「確かになんとも言えませんね、一回コレで布を織ってみないと、手触りとかもわかりません」

「ならその糸を預けるので、そちらのツテで織って下さい、小さい布なら出来るでしょうし」

 ベリル村で織ってる人はいなかったし、村での生産は無理だよなぁ。

「わかりました。これはこちらで預かります、結果の方は?」

「時々顔を出しますし、偶に島の近くを通るんでしょう?」

「偶にですけどね」

「ならその時にでも。あ……、じゃぁ、ついでにもう一つ頼んでいいんですかね? 安定した肉の供給に家畜が欲しいんです。ですが船で運ぶ為にはそれなりの設備の有る船じゃないと無理じゃないですか? 俺が乗って来た船だと豚か羊や山羊が精一杯だと思うんですよね。ですのでとりあえず増やしやすい豚を番で十頭。羊毛と肉の為に羊も番で六頭。牛や馬は管理が難しいので、また今度機会があれば頼みます。前金としてどのくらいあれば良いでしょうか?」

 本当は転移魔法で運びたいが、暴れたりはみ出たりしたら怖いからな。尻尾なら良いけど、頭とか暴れてはみ出たら転移した瞬間に俺が叫び声を上げるぞ。

「んー家畜はやってないんですけどね、知り合いに頼んで何とかしましょう」

 ニルスさんは算盤を弾き値段を出してきて、これくらいでと言って来た。

「ありがとうございます、では一応半額収めますね、書類の作成お願いします」

「わかりました。ですが家畜の子供を運んだ方が良いんじゃないんですか?」

 手を動かしながら話しかけて来る。話ながら仕事ができる人って素晴らしいなぁ。

「あー。成獣の事しか考えてなかった」

「どうします? この書類破棄します?」

「出発が明日なので色々と間に合わないでしょうし、今回はそのままでいいです」

「そうですね、子豚や子羊は比較的入手は簡単ですが、時期がありますからね」

「次に来る時までに子供が入手可能ならそっちの方向でお願いします」

「わかりました、知り合いの商人に話しておきますね」

 コーヒーを飲み干した頃に、

「確認お願いします」

 そう言われたので目を通したが特に変なところはなかった。

「はい大丈夫そうです」

「ではこちらも交渉成立と言う事で」

 ニルスさんは書類に蝋を垂らし、判子を押し当て俺に渡してきた。

「はい、では料金を払うので船まで誰か護衛を付けて着いて来て下さい」

「いやいや、平気ですよ」

 ニルスさんを船まで案内して、未だに寝ている船員達を叩き起こした。


「今から荷物の搬入をしますので、甲板の掃除をしてください。それと手の空いている者は搬入を。そして掃除組は終わったら、もちろん搬入の手伝いです。船長はもちろん船の見張りをお願いします」

「はい」「「「うっす!」」」

「んじゃ運び出すんで、誰か監視員でも付けて置いて下さい」

「別に信用してるんで必要ないですが、本人がそう言うなら付けましょう。運び終わったらまた声をかけて下さい、それまで別な仕事をしてますので」

 俺はニルスさんにお金を渡し、確かにと言う言葉と共に書類を渡された。

「んじゃ行きましょう」

 そう言って俺達は倉庫に向かう。

 倉庫に戻ると、既にある程度の品物が選り分けられていた。

「うひょー、カームさん酒も買ったんっすか!」

「うぉーまた酒が飲めるぞ!」

「おーやる気満々ですね。じゃぁ君達にお酒は任せます」

「「え?」」

「六樽分ですから皆より少ないですよ。いやー往復する回数が少なくて羨ましいなー。んじゃ俺達は衣類や寝具を運びますか」

「「「「うっす!」」」」

 残りの船員はニヤニヤしながら、がんばれよと声をかけている。やっぱり重いから運びたくないんだろうな。


 俺は肉体強化を十パーセントまで上げて、重い荷物を率先して運び、棚の上に置いて、小分けで使うような小さいワイン樽を運んでいる奴等が腰が痛そうにしてたので、辺に居た小間使いに運ぶコツを教わり一人で樽を持ち上げたら、

「中身が入ってない奴の運ぶコツだったんですけど」

 と言われたが、持てたので一樽運んだら、倉庫内や船に行く道中で歓声が上がった。

「兄ちゃんそんな細い腕ですげぇな!」

「ウチで働かねぇか? 給金弾むぜ?」

「今夜酒場に来いよ、一緒に飲もうぜ!」

 とか散々言われた。

 仕方がないので相槌を打って、残りの樽も俺が運んだ。


「ニルスさん終わりましたよー」

「はい、わかりました」

 ニルスさんは監視してた店員から書類を受け取り、搬入漏れや多く運び入れてないかを確認している。

「はい、全部ですね。購入ありがとうございました。次もぜひ我が商店を御利用下さい」

 そう言って丁寧に頭を下げた。商人らしいお辞儀だ。

「いえいえ。こちらこそ急に押しかけわがままを言ったのにも関わらず、商品を売っていただきありがとうございました」

 俺も負けじと丁寧にお辞儀を返した。前世の記憶最高だな!

「いやー島の開拓してるとか嘘みたいですね、少し勉強してウチで働きませんか?」

「いやいや、島でのんびりやってた方が性に合ってますので」

「あらら、振られちゃいましたよ。ではまた今度」

「はい、ありがとうございました」


「んじゃ遅い昼飯でも行きましょうか、まだ賞金残ってるんで、昨日渡したお金を使い切った方でも食べたい人は付いて来て下さい」

 そんな事を言ったら、甲板で座り込んでいた数人が、

「カームさん最高っす! 今日は堅パンで過そうとしてたんっすよ、行きますよー、ついて行きますよー」

 調子良くそんな事を言っている。

「後先考えて使ってくださいよー」

「もしかしたら急に死ぬかもしれない。だったらある内に使っておかないと損でしょ!」

「んー、そう言う考えもありですねー」

 なんか江戸っ子みたいだな。

「そうでしょ? ありっしょ!」

「けど個人的には真似できないので、俺はコツコツ溜めますよ」

「何言ってんすか、こんなに買い物してるのに」

「必要な物に金を惜しんでどうするんですか。島の皆を不憫な思いをさせない為に買ったんですからね?」

「「「おー」」」

「んじゃ行きますか、見張りは交代させるんで、悔しがらないように。帰ってきたらお金渡しますからね」

そう言って俺達は、

「俺、おすすめの店知ってるんで行きましょう」

 と言った奴に着いて行った。


 昼食から帰ってきたら、綺麗になったアントニオさんが船にいた。

 ぼさぼさで無造作に伸びていた金髪が清潔になり、後ろで結って一本に纏め、無精髭も頬のところだけ剃り、顎と揉み上げのラインに沿って残してあり、服も清潔感のある新しい物になっている。

「色々と助かった。感謝する」

「一瞬誰だかわからなかったですよ。いやー大分変りましたねー。これなら女性にもてるんじゃないんですか? なぁ?」

 そう言って船員に聞き返す。前世基準でも渋くてかっこいい中年手前って感じで、男の俺でもかっこいいと思う。

「今夜一緒に酒のみに行きましょう。そして綺麗な女の人捕まえましょうよ!」

「かっこいいっす、俺ももう少し年取ったらこんな風になりたいっす」

「だそうです」

「お、おう」

「どうやってこうなったのか教えて下さい」

「お洒落なお店に行って、とりあえず似合う服。って言っただけです。そしたらこうなりました。服を決めたら店員さんに髭を整えてもらって軽く髪を洗って、後ろで結っただけです。『あら、地はかなり良いのね』って言ってました」

「島で不特定多数の女性に、手を出さないようお願いします」

「お、おう」

 その後島にいる人族の特徴や構成を話し、海賊に囚われてた女性の話しもして今後の対策や予防について話し合った。


 そして俺は樽を運んでいる時に誘われた酒場に行き、最初の乾杯だけ付き合い、比較的大人しい雰囲気の副船長とゆっくりと酒を楽しんだ。

「船長はカームさんのおかげで大分変りました。昔は勢いに任せ部下にあたるような人だったんですけどね。本人はカームさんに言ってないと思いますが、酔った勢いで言ってましたよ。俺を変えてくれて感謝してるって」

「へぇ、まぁ変われたならいいんじゃないんですか? 皆もすっかり船員(・・)として頑張ってますし。まぁ、偶に地が出る奴もあますけどね。副船長はあんまり変わってませんよね」

「そうですね。前も今もこんな感じですよ。多分これからも」

「詩人ですね」

「そうですかね」



 俺は朝の新鮮な空気と、海鳥の鳴き声を聞こうと甲板に出たが、今日も無理だった。

 あの後本当に俺とは別に、船員はアントニオさんと酒を飲みに行き、グデングデンになって帰って来てまた甲板で寝ていた。

 汚れて無いだけマシだったが。

「センチョー、起きて下さーい」

 昨日の事が頭にあったので、今回は少し優しく起こした。

「うへぁ!」

「教会のシスターが来るんで、そろそろ出航準備を始めて下さい」

 笑顔で言うと、慌てて出航準備を始めた。

 確かに元々あんな性格なら、ああいう副船長は必要だよな。両方騒がしかったら本当に押さえがなくなって暴走しかねない。まぁ、昨日の夜は久しぶりの町と酒と女で暴走しまくっていたみたいだが。

 しばらくすると屋台通りの方から、女性用の簡素な修道服を着た人が歩いて来るのが見えたので、出迎えに行った。


「「おはようございます」」

 見事に声がかぶり、お互いに少し笑った後に本当に少ない荷物を持ってあげ、船まで案内した。

「島まで男しかいない船なので、むさ苦しいと思いますが我慢してください」

「いえ、私は平気です。ただ。私のせいで皆様の規律が乱れないかが心配です。皆様も男性ですので、女性がいると落ち着かないのではないですか?」

 自分の事より他人の事を考えるか。やっぱ聖職者ってすげぇな。

「俺は平気ですけど。他はわかりませんね。一応久しぶりの町なので遊んでは来たみたいですが」

「そうですか。では皆様に迷惑を掛けないよう心がけますので、食事とかは別にした方がよろしいですよね?」

「どうでしょうか? 異性に良いところを見せようって思って、張り切ったりするかもしれませんよ? 男って単純ですから」

「……では、お食事はご一緒させていただきますね」

「わかりました。六日ほど我慢してください。じゃぁ部屋に案内しますね」

 俺はアドレアさんを、数少ない個室に案内した。

「ここがアドレアさんの部屋になります。一応個室で内側から鍵が掛かりますので、安心してください。それと下着とかにいたずらされると困るので、部屋を出る時は鍵をかけて下さい」

 そう言って鍵も渡した。

「……神父様から聞いてはいましたが、やはり男性とは皆がそう言う感じなのでしょうか?」

「全員が全員そうではないと思いますが、邪な考えを持っちゃう奴もいますので。何かあったら大声を出してください。直ぐに誰かが駆け付けますので」

「わかりました。何もない事が一番なのでしょうが、あったら叫びますのでよろしくお願いします」

 微笑みながらそう言われたので、少しドキドキしてしまった。

「は、はい。あの体を拭くお湯とか必要になったら言ってくださいね」

「船で真水は貴重なのでは? そう聞いていますが」

「あー俺、魔法で真水が出せるので」

 俺は指先から【ぬるま湯の水球】を出して見せる。

「無詠唱で水が……しかもあたたかい。合成魔法? もしかして物凄い魔法使いなのでしょうか!?」

「いやいや、そんな事無いですよ。まぁ何かあったら相談してください。かなえられる物だけどうにかしますので」

「色々とありがとうございます。そして子供達に寄付をしていただきありがとうございました」

「いえ、子供を不幸にさせたくないので。全員は無理ですが、せめてかかわった場所の子供くらいはと思いまして」

「もし貴方が神父様なら、沢山の迷える人々を救えると思うのですが?」

「そんな柄じゃありませんよ。なんてったって悪い海賊を返り討ちにして、そのまま町の自警団の人達に預けちゃったんですから。賞金も貰っちゃいましたし。本当ならそこで教えを説いて道を正すんでしょうけど、それができませんでしたからね」

 そう言って返事を聞かずに部屋を出た。


「カームさん出航準備整いました」

「んじゃ出ましょう。お願いします」

「はい。野郎共! 島に帰るぞ! 帆を張れ!」

「「「「応よ!」」」」

 んーなんだかんだ言って、短いようで長かったな。



閑話


 狼狽えるアントニオ


「んじゃまずはその服ですね、通りに出て服屋に入りましょう」

「お、おう」


「ここ意外にしっかりしてそうですね。ここにしましょう」

「お、おう。なんかすげぇ入り辛いんだが」

「店員は気にしてませんよ。こんちゃーっす誰かいますかー」

 そう言うと奥から綺麗な女性が出て来た。

「いらっしゃいませー」

「この後ろのおっさんに合う服を、適当に見繕って下さい」

「おい、そんなんでいいのかよ」

「わかりましたー、どんな服が良いかってありますー?」

「な、ないです」

「じゃあ似合いそうなの勝手に決めますね」

 そう言うと店の中を歩き、数種類の服とズボンを持って来た。

「んー渋そうな感じにしたいから、茶色とか黒を多めに。それに明るい色は似合わない気がするわ」

「だそうです」

「おう」

 そして俺は言われるがまま、服を肩に押し付けられて目の前の女性が「んー」と唸っている。

「コレで行きましょう」

 そう言って服を渡され着替えさせられた。

「あら、いいわね、髭を整えて髪も綺麗にしましょうか。髭は……そうね、揉み上げと繋げましょうか」

 そう言って寝かされ髭を剃られる。

「じゃあ髪を洗って来て」

「はい」

言われた通り店の裏で髪を水で洗い、乾いた布で拭き半乾きのまま店内に戻る。

「髪を全部裏に持って来て紐で結って……はい出来た! あら。良い男じゃない。旦那がいなかったら言い寄ってたわよ?」

「うわ、本当だ。男の俺でもかっこいいって思いますよ、なんていうかオジサンって感じじゃないけど、どこか渋くてかっこいいです」

「そ、そうか? こういう服や髪にした事無いから良くわからんが」

「自信持ちなさい。貴方、かっこいいわよ。今までが駄目過ぎたの、これを機に自信持ちなさい。その辺で静かに酒でも飲んでれば女の方から勝手に寄って来るわよ」

「そうなのか?」

「それくらいって事よ」

「んじゃこれ一式頂きます、予備も欲しいのでさっき手に持ってた奴もお願いします」

「わかったわ」

「金はほとんどないぞ?」

「カームさんから預かってますよ。あ、コレ代金です」

「ありがとうございましたー」


「そんなに良いのか?」

「自信持ってくださいよ」

「なんか女がこっち見て来るんだが」

「かっこいいから見てるんですよ。ほら、船が見えて来たんでまずはカームさんに報告です」

「おう」

 俺がかっこいいだと?


「色々と助かった。感謝する」

「一瞬誰だかわからなかったですよ。いやー大分変りましたねー。これなら女性にもてるんじゃないんですか? なぁ?」

 本当だ。目の前の魔族も言ってるし、周りの男も俺に寄って来る女に期待して酒を飲みに行こうとか言ってやがる。こんな事初めてだ。

 だが、悪い気はしない。

恥ずかしい話今まで毎時間事のアクセス数が最近の平均が250前後だったのが昨日の20150413の1800に予約投稿したら2000/h程度に跳ね上がっていました。何でだろうと思い日刊ランキングを調べたら250位辺り乗ってました。

ランキングの力を改めて思い知らされました。

ブックマーク登録も1日で100件も増えるとは思いませんでした。

みなさま、ありがとうございます。


なんでしょうか・・・これは。

予約投稿した時点で109位です。

こんな事初めてです。

ランキングに乗った事自体初めてなのに一気に100位辺りに来るとか本当どうしていいか解りません。

取りえずコンビニで赤飯買ってきます。


20150415 0000時追記 日刊ランキング72位って何でしょうか?行き成り二桁代は流石に心に悪いです。

が嬉しく思っています。ありがとうございます。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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