第67話 少し甘えに帰った時の事
細々と続けてます。
相変わらず不定期です。
今回は短いです。
海賊の襲撃が有った翌日
「申し訳ありませんが今日は気分が優れないので俺は休ませてもらいます、皆さんは怪我の無い様にお願いします」
そう言い終わってから、俺は個別にベリル村出身の奴等に話しかける。
「今日村に帰るんですがどうしますか?」
そうするとルートが、
「消耗品や作業中に必要になった道具が足りないので一端帰りたいな」
そんな事を言ったので、急遽建設組は別の仕事に回ってもらい、二人で村に帰った。おっさんズは、別に用はないと言って付いて来なかった。
「俺の家の前で悪いんですが、ここで勘弁して下さい。それと必要経費ですのでコレで道具は揃えてください」
俺はルートさんに大銀貨を数枚手渡した。
「多すぎだぜ?」
「余ったら返してくれれば良いので多めに預けただけです、んじゃ久しぶりの故郷を満喫してください」
適当に理由を付けて、無理やり持たせた。
「おう、そっちもな。その……昨日の事は。その、色々聞いてるし」
「あ。えぇ……。まぁ」
とりあえず口止めはしてないから、色々噂は出回ってるだろうな。
「あー、その、わりぃな。変な事思い出させちまって」
「いえ、平気ですから」
ルートさんは親方に報告してくると言って作業場の方に向かって行った。
「ただいまー」
「ん? 今日戻って来る日だった?」
スズランは首を傾げ眉に皴を寄せながら顎に手を当て真剣に考えている。
「いやいや、今日は少し嫌な事が有ったから戻って来ただけ、子供達は?」
「ペルナ君達と外で遊んでるわ」
「そうか」
それを聞いたら、俺はスズランの胸に抱き付き、少しだけ柔らかく薄い胸を堪能し、
「優しく抱きしめて頭を撫でてくれ」
その後何も言わずスズランは頭を撫でくれたので俺もスズランを抱きしめ背中を擦ったら頭だけじゃなくて背中も擦ってくれた。
体感で十分位だろうか。少し心に余裕ができたので、
「ありがとう、もういいよ」
そう言って胸から離れた。
「麦のお茶淹れるね」
スズランが気を使ってくれてた。
「ありがとう」
少し俺の方を見ていたが何も言わずに麦茶を淹れてくれた。
麦茶だが砂糖を入れて、少し俯き視線を落としながらゆっくりとお茶を飲み干した。
その間も特に会話もなく、何があったかも聞いてこない、多分察してくれているんだろうと思う。その後特に何も喋らずゆったりとした時間を過ごした。
しばらくして子供達が帰って来た。
「「ただいまー」」
「「おかえり」」
「あ、お父さん」「パパ」
「どうしたの? まだ戻って来る日じゃないよね?」
「んー、少し嫌な事があったから、皆の顔を見に帰って来たんだよ」
そう言いながら二人の頭を優しく撫でる。前回ミエルには子ども扱いしないでと言われたが、それでも撫でた。
二人は恥ずかしそうな顔をしているが、大人しく撫でられている。
「お父さん!稽古稽古!」「僕達練習してるんだから!」
「はいはい、あまり気が乗らないけど良いよ。それに学校で教わるんだからまだ早いんじゃない?」
多少気が滅入っていても、子供達と稽古すれば、多少は気がまぎれるだろう。
「やだ、早く強くなりたい!」
「そうか、なら仕方ないな……。ミエルは?」
「僕は悪い人達から逃げられるくらいの強さが欲しい」
「んー、逃げるだけならそこまで強く無くても良いな」
「お父さん駄目! ミエルは私とペルナ達とパーティー組んで冒険者になるんだから」
「親的には好きにさせたいけど、進んで危ない事はさせたくないって言うのもあるんだよなー」
多分冒険者とかに憧れる歳なんだろう。俺は一切憧れなかったけどな。
「けど……私達は冒険がしたいの」
ははは、子供って無邪気だよなぁ。
「はいはい、強くなっておけば町で働こうが冒険者になろうが、技術や力はあって損はないから稽古はしてあげるよ」
そう言って準備を始めた。
「んー相変わらずミエルは魔法だけかー」
「う、うん」
「後で少しだけ、魔法じゃない戦い方も教えるからな。取りあえずは今回は魔法だけでも良いよ」
そう言ってお互い定位置に着き稽古が始まる。
稽古の途中で良い感じにリリーが突いて来た棒を、スコップの持ち手の三角の場所で受け、そのままテコの原理で武器を奪い取り、距離を詰めてデコピンをお見舞いした。
コレは偶然が重なっただけで、ミエルの魔法が途切れてたから出来たが、思いのほか綺麗に決まったので嬉しかった。
「はい、道具にはコレって言う決まった使い方以外にも使い方があるって覚えて置こうね。いいか、スコップって地面を掘るだけじゃなく斧にもなるし槍にもなる。きれいに洗えばフライパンにもなるし、少しだけならお湯だって沸かせるんだ。物には意外な使い方もあるって覚えて置こうな」
俺がレクチャーを始めたので、子供達は大人しく聞いてくれている。
「そうだな、槍だって突くだけじゃなく振ったり投げたりも出来る。ちょっと見てろ」
俺は見様見真似で、薙刀っぽい動きをしたり、長く持って思い切り振ったりした。普通に構え、石突を思い切り横に振って頭や脇腹を殴る様な動きをしたり、カヤックのパドルを持つ様に構えて、左右を上手く使ったりした動きを見せやり、槍投げのようにスズランの飼っている家禽達の細い柵に綺麗に命中させる。
薙刀の動きは振るうようにして、そのまま背中を見せ回転しながら後ろに下がり、足を払ったりする方法だ。あれは一瞬背中を見せて、切りかかって来た奴の足を払ったり、切ったりするから、迂闊に近づけないんだよなぁ。
「ってな感じで、槍は突くだけじゃなく、長く持って牽制したりにも使えるんだ、『これはこう使わないと』って言うのはないよ、もちろん型も大切だけどね」
投げた棒を拾ってきてリリーに返してやり、俺もスズランから槍を借りて来て穂先に布を分厚く巻いて、怪我をさせないようにして、スコップではなく、槍でリリーの相手をする事にした。
意外に槍が重くびっくりしたのは内緒だ。木をくりぬいて、鉄でも入れてるんだろうか?
そして、ミエルの合図で槍どうしで戦うが、危うく有効打を貰いそうだったので槍を手放し、前かがみで距離を詰めながら左手を使い、突いて来た棒をいなし、間合いの内側に入り、足払いをしてデコピンを食らわせたらまた泣かれた。
「ごめんごめん、お父さん大人気なかったよ」
そう言って立たせ、背中の土埃を払ってやった。
「んじゃ次はミエルだな」
「え、うん……」
「いいか、逃げるだけなら時間を稼げばいい。どうすれば良いか、自分の考えを言ってみて」
「んーっと、動けなくする?」
「それが理想だな。じゃぁ、どうやってやる?」
「え? んー……紐みたいなので縛る?」
「じゃぁ、パパにやってみろ」
そう言うと少し離れた所で待機した。
そうしたら、地面からうにょうにょと木の根っこみたいなのが生えて来て、俺を捕まえようとしたので、走ってミエルとの距離を詰めてデコピンしてやった。
「遅いぞー、それじゃ捕まえられないぞー」
「うぅ」
「いいか、これはパパの考えだけどな。卑怯でも汚くても、何をしても良いから生き残って逃げるって考えが無いと駄目だ。さっきの木の根みたいなので縛るのも良いけど遅すぎる。ならもう少し簡単なのが良い」
「どうすれば良いの?」
「目潰しかな。パパも良く使ってた」
「え?」
なんか意外な物を見るような目付きで見られたが、気にせず続けた。
「逃げるなら捕まえて動けなくするより、目を見えなくして動けなくする方が一番だ。卑怯だと思うけど、死にたくないなら手段を選んじゃ駄目だ。もう一回やってみろ」
そう言ってまた距離を離し身構える。
少し考えて、夜……とか呟きだしたと思ったら、辺りが黒い霧に包まれ視界が悪くなった。
少し視界が悪くなっただけだから、裏に回り込もうとしてるのがバレバレなので、わかるように体ごとミエルの方を向いて、見えてますよアピールをした。
そして黒い霧から抜け出し、何が悪かったかを教える。
「考えは悪くない。けど暗いだけが目潰しに使えるとは限らないぞ。経験しないとわからないからな。一回は使うから、リリーも目が見なくなったらどのくらい怖いか体験しておいたほうが良いな」
そう言って轟音無しの【フラッシュバン】を発動させ、目を焼くような光を体験させる。むしろ【閃光】って言った方が早いな。
「きゃ!」「ぐっ!」
少しだけ叫び声を上げ、目を押さえ狼狽しているところを歩いて行き、二人の肩を叩いた。
しばらくして落ち着いたところを見計らい、二人に声をかけた。
「な? 何もできないだろう。夜を作るより、目の前に太陽を作った方が良い時もあるからな。ミエルは闇魔法はあんまり得意じゃないって言ってたから、無理して使わなくてもいいんだぞ? パパだって苦手だし……。ほら」
そう言って、【真黒な球体】で二人の体を包むが、直ぐに出て来てこっちの方を見ている。
「な? 夜を作るのは難しい。ならさっきの光や、泥とかを顔に投げた方が早いな」
「わかった、練習してみる」
「あまり見過ぎると目が悪くなるし、大人になったら目が見えなくなるかもしれないから気をつけるんだぞ。なるべく自分でも使う瞬間だけは目を瞑るんだぞ」
「はい」
「よし。リリー、前が見えない恐怖はわったか?」
「……はい」
「これからは警戒するように」
「はい」
やけに素直だな。馬鹿にしてた目潰しの、本格的な恐ろしさを知ったか?
「んじゃそろそろ昼食だから、手を洗ってうがいをして家に入ろうか。んじゃミエル、水を出してみて」
「うん!」
元気よく返事をして、手の平から【水】を湧き出させるが、水球を作って浮かせることは出来ないみたいだ。
んー……。弟の手から直接水を含んでうがいをする姉。子供だから良いけど、学校終わった八歳くらいになってやったら、結構背徳感を感じる行為だよな。そう思うの俺だけ?
俺は【水球】を指先に出して、啜ってうがいをした。その時に子供達が、俺の事を穴を開くほど見ていたが、気にしないでおいた。
昼食の準備中にラッテが戻って来て、
「あれ? まだ戻って来る日じゃないよね?」
この日何度目かのやりとりをしてから昼食を食べ、子供の目があるのでラッテに慰めてもらうのは夜中にしてもらった。
その日の夜は襲われる事は無かった。
閑話
スズランの思慮
カームは偶にこういう風に甘えて来る時がある、決まった間隔とかはなくいきなりだ。
今日もいきなり戻って来たと思ったらいきなり抱き付かれて、顔を胸に埋めこすりつけるように頭を左右に振った後に、撫でてくれと言われたので言われた通りにしてあげた。
私も背中を撫でられたけど悪い気はしない。時間にして太陽が少し動くくらいだったと思うが、特にお互いに言葉も無くカームが満足するまで、ずっと頭を撫でたり抱きしめるようにして背中を撫で返した。
ラッテにも同じような事をしていると本人から聞いたが、ラッテ曰く
「魔力や心が少し乱れてたね、嫌な事でも有ったんだよ。まー甘えさせてあげるのも妻の役目だよー」
そんな事をかなり前に言っていたので、甘えてきたらなるべく甘えさせてあげている。夢魔族だからそう言うのには敏感なんだろう。私ではわからなかった。
けど子供達が居る前では決して甘えてこない。恥ずかしいのだろうか?
私は気にしないのに。
それと甘えて来る時は、少し血生臭い時もあった。
たしか森の奥にゴブリンが大量に発生して、男手だけで狩に行った時だったと思う。その時はカームは無傷だったし、怪我人も出なかったけど甘えて来た事を思い出した。
年越祭で、豚や羊を大量に絞めた時も甘えて来た。
多分だけど、あまりしたくない事をして、動物や魔物を沢山殺した時に多かった気がする。
多分帰って来た理由もソレに近い事をしたのだと思う。
だから私は何も言わずに、暖かい麦のお茶を出して、なるべく気を使ってあげたつもりだったけど、何かを考えるような表情でずっとカップを見ていたし、普段麦のお茶に入れない砂糖も多めに入れていた。
甘えて来る時は何時も胸がドキドキして、口付けをしたくなるが堪えて、優しく言われた通りにしてあげている。ラッテもそうらしい。
カームから甘えて来た時はお互い夜は無い。ラッテが慰めようと薄着でベッドに行ったが翌日に、
「心が乱れてて多分誘っても無理だからずっと頭撫でてあげてたよー」
と言って諦めたからだ。
だから今日も我慢して、私とラッテは何も聞かずにゆっくりさせてあげる決まりを作った。
それにしても血生臭く無かったのに、何があったのか少し気になる。あの見習い大工に後で聞くか、恩を売ってこの村に来た獣人族三人組に後で聞いても良いかもしれないが、答えなかったら言い辛い事だと思うから深くは聞かないでやろう。
けど鶏小屋のある柵に棒を投げたのは許せない。明日カームが落ち着いてたら子供達にしてたみたいにデコピンしてやる。
村に帰って来たのにラッテの出番が有りませんでした。申し訳ありませんでした。
 




