第58話 都合良く海賊が来た時の事
細々と続けてます。
相変わらず不定期です。
今回は足が吹き飛んだり腕に被弾したりするので苦手な方はご注意ください。
村に帰ってから三十日、開墾も進み薪小屋もいっぱいに成り、切った木材はとりあえず崩れ無い様に積み、開墾した場所はかなり広くなったと思う。
そして試行錯誤して作ったレンガを積み、泥で補強して炭焼き窯を作り泥を落とした根っ子や余った薪を突っ込み炭作りを、なんとかコツをつかめるようになってきた。
最初の頃は燃やして灰にしてしまったが最近じゃなんとか形に成って来た。
炭は薪の代わりに使ったり、交易に使用している。
その内、鍛冶関係の知識を持ってる人を勧誘し使ってもらう積りでもいるが、しばらくは作り溜めして置く。
あと副産物で出来る木酢も入浴剤として保存してある。買い手が付けば良いけどな。
とりあえず麦も蒔いた、これは収穫まで待つだけだ。
ジャガイモの畑も作り、芽が出始めてあと2ヶ月位で収穫できそうな塩梅である。そうすればさらにそこから増やして炭水化物の確保は確立される。
豆も蒔き、とりあえず貯えてジャガイモやトウモロコシの後にも蒔く事になっているので、増やす方向になっている。
トウモロコシは芽が出るか心配だったが杞憂に終わり小さな芽が出ている、このままいけば夏頃には収穫できるだろう。
淡水魚は今のところ元気に泳いでおり、水草も新芽が確認できたので根付いている証拠だ。岩とか木も沈めて隠れ家的な物を作った方が良いのかは今度村に帰った時の課題だ。産卵時期と稚魚の世話も必要だな。
養蜂は順調に巣が形成されて綺麗な琥珀色の六角形の形を形成しているし、穴も花粉で塞がれているので蜜が沢山詰まっているだろう。だがもう少し待って巣が増えてからの方が蜂の方も逃げないだろう。この辺はハニービーと相談だな。
ミントやラベンダーはシソ科なのでどんどん増え、カモミールも発芽したのでその辺にも植えてみようと思う。こっちは完全に放置で自然に増えてくれれば良いと思っている。
ミントは森の中に持って行きそこら辺にも植え、バイオテロの如く増えるだろう。最悪刈り取ってそこら中を全部掘り返せば問題無い。
あいつ等茎とか葉っぱからでも増えるからな。駆逐は物凄く面倒だよな。
家禽は未だに襲われずにいるし鶏は卵を産んで温めてどんどん雛が孵えってるから、このまま増やしていく積りだ。最悪柵の中に入れてれば増えた分は放し飼いでも問題なさそうだ。
とりあえず卵を一個貰い、砂糖を多めに使いフレンチトーストを作って子供達に食べさせてみたらかなり好評だったので卵の供給が安定してきたらまた作ってやろう。
「なにこれー!すごくおいしいですまおーさま!」
と言われた時の笑顔はかなり励みになった。
船も数回停泊してくれて、なんとか生肉とか砂糖と物を交換したり、お金で支払ってもらい、とりあえず全員分の寝具は確保できたし、生活用品も充実して来た。嬉しい事に清潔を保つために航海中の水浴び場として利用してくれる為に寄ってくれ、水の補充や交易をしてくれと金銭のやり取りもしてくれる船もでてきたので、交易である程度お金が溜まったら家畜を頼み、増やそうと思う。
その内真水を無料で提供できるようにしたいし、水浴びじゃなくて宿泊施設を作り温泉も引きたいな。なんか魔王部下の話だと中央の山は活火山なんだよな?絶対掘り当てて見せる。元日本人として!
「じゃあ今日は魔王城建設予定地までの道を広げて整備しましょう、道中が狭いと野生生物とかと遭遇した時に危ないですからね。森の中の木も間引いて光が差し込む様にしたいと思ってます、コレは森の中に居る熊とか危ない動物が良く見える様にしたいと言う理由ですが、とりあえず今日からはこの道を拡張したいと思います、目標は馬車が2台すれ違える広さですが、とりあえずは馬車と人がすれ違えればいいと思いますので片側だけ切り開いていきましょう。魔王城建設予定地は井戸も有りますし結構広いので新居を建設するのにもってこいの場所だと思っているので、とりあえず準備だけはしましょう」
そう言って作業を始めて行く、いつも通り俺が木を倒し皆が枝を払いながら付いて来ると言うスタイルだ。とりあえず切るだけ切ってから根を起こす。まぁ道中が歩いて1時間だからかなり長いけど切り倒して行くなら1日有ればどうにかなる。
ってか馬車の横幅が解らない。解らない事は聞く。これは恥ずかしい事じゃない、けど聞いたら一生の恥って奴も有るから注意な。
「馬車の大きさってこんなもんでしたっけ?」
「え? 多分良いんだよな?」
隣りにいた奴にも聞いているがそいつも「多分」と言っているので多分1台は通れるだろう。
「向かい合って座って真ん中を移動できる程度の広さだろ」
「確かにこれ位じゃね?」
そう言って地面に座り「いや!これ位だろ!」「いいやもう少し広いよ足元に荷物も置けたし!」「それは少し良い馬車だったからだろ」「大きい方に合わせるべきだよ!」とか言っているがまぁいいや。そのまま俺が先行し倒すだけ倒し道幅を広げ住宅用として木材を適度な距離で積んで置く事にした。
昼食中に狐さんに話しかけられた。
「カーム、少し話しが有る」
「なんです?」
「何をするにしても手が足りない、このままだといつに成っても何もできない。それに何をするにしても職人が居ない。だから家も建てられぬ。道具も無い。村から連れて来るか雇うかしないとこのままじゃ先細りだ」
「・・・その辺は解ってます。ですが作物が育たないと纏まったお金が手に入らないので今やれる事をやっておこうと思っています、お金が有るなら村か町で募集をすでにかけてますよ」
「そうか、お前は優しすぎるからな、無理矢理覚えさせたり『やれ』と言えぬ男だ。ま、気長に付き合うさ。他の2人だってそう思ってるぞ」
「――ありがとうございます、知識が無いのに0から試行錯誤させるのは研究者じゃなければ酷ですからね。まぁ試しに村長に相談して村からこっちに来てくれる方を募ろうと思います」
「けんきゅうしゃ? まぁいい、そのほうが良いと思う。それにしてもカームは良くやってると思うぞ?いきなりこんな場所を任され部下が元奴隷の人族五十人。しかも今の物資だけで」
「真水が有って周りに塩が有って砂糖も作れて肉や魚が獲れる方が居て麦も有る。とりあえずはこれで死なない事……はできますからね、あとは惰性とその場の勢いです。俺だって何していいか解りませんし何させて良いか解りません『待てば海路の日和あり』って奴ですよ」
「なんだそれは?」
「焦らないで待ってればきっと良い事が有るって意味ですよ。ほら嵐の日だって毎日続くわけないじゃないですし、待ってれば航海にもってこいな日がいつか来るって事です」
「魔王様! 海賊船です!」
「ね? 待ってれば状況が動いたでしょ?手が増えて多分纏まったお金も手に入りますよっと」
そう言って立ち上がり尻に付てる土埃を払い海岸線の方に歩き出す。
「お前のそんな微妙に困ったような笑顔を見た時が無いぞ?」
「なるべく争いは避けたい。けど向こうから嫌でもやってくる、しかも島だから避けられない。処理しないとこっちが殺されるかもしれない。なら嫌でもヤらないと……あー気が重い重い」
「心だけは壊すなよ。あれは体と違って直るまで時間がかかるし壊れ方によっては治らぬ」
「えぇ、気を付けますよ。ご忠告ありがとうございます。心が疲れたら村に戻ってスズランとラッテに甘えてきますよ」
途中から小走りになりバールとスコップとマチェットを家から取り出しとりあえず船が見える位置まで移動した。
「魔王様、アレが海賊船です!」
「うわ……本当に髑髏の旗付いてるよ。偽装して奇襲とかしないのかな?馬鹿じゃないの!」
「……え? それだけですか?」
「え? 他に何か言う事とかあるんですか?」
「いえ……。これから襲われるかもしれないのに、そんな呑気な事を言っているのでつい……」
「だって事実でしょう? アレ、かなり堂々としすぎです。さて皆さんに質問します。あの海賊船を強奪して戦利品として湾内に停泊させておくか。沈めるか……。どっちが良いですか? とりあえず敵味方関係なしに人的被害は最小限に抑えるつもりですし、極力物資は迷惑料として奪います」
「え? 沈めるって。そんな簡単に出来るんですか?」
「んー? 何とかします」
「……そうですか」
「じゃぁ聞きます、沈めるか、船を奪うか。奪う方だと海賊を全員上陸させるのでかなり危険ですけど」
「「「沈めて下さい」」」
「了解」
□
「おめぇら! アレがまた新しく魔王が住み着いたって話の島だ! 話によると馬鹿みてぇに優しい魔王だって事がわかってる。なんてったって奴隷だった奴を開放して十分に飯を食わせ休みを与え、子供に優しく女を女として使わねぇ。こんな馬鹿みてぇに優しい奴が魔王だってんだ! 早い物勝ちって言葉はこの為にあるようなもんだぜ! 俺等は海賊だが魔王を倒し神に祈ってる糞野郎達に持って行けば今までの罪がチャラになって金までもらえるんだぞ! ヤるなら今しかねぇぞ! いいか、魔王と男は殺せ! 女は好きにしろ!」
「「「「「うぉーーーー!!!」」」」」
□
「何か叫んでますね」
「多分部下たちに活を入れてるんでしょう、多分男は殺して女は好きにしろってところでしょうね」
「いやよ! 折角安定した生活が送れてるって言うのに。死にたくない!」
「んじゃとりあえず攻撃されたら反撃って事で良いですかね?」
「え? 攻撃される前にこっちから仕掛けるんじゃないんですか?」
「んー正当防衛? 攻撃される前に攻撃しちゃったら『島の近くを通ってたらいきなり襲われたんです』とか言われたくないですし」
「気にする事ねぇと思うぜ? 奴等海賊だろ?」
「一応ですよ一応。皆は下がって下さい。多分矢による先制攻撃、その後接岸して島に乗り込んで来るんだと思いますよ。まぁ遠浅ですから迅速に全員で攻めるなら湾の中に入るしか無いので他の場所からだと喫水が深く無い小舟でしか島に上がれませんし……はいはい来ましたよ。じゃぁ下がっててくださいね、危ないんで。あと子供達は絶対に見せないで下さい」
□
「おう! アレが魔王だな、黒いからすぐわるぜ」
「船長! 魔王以外が島の奥に引っ込んで行きますぜ」
「元奴隷だから戦えるのがいねぇんだろ」
「なんか三人増えました、多分獣人族です」
「三匹増えたところで変わんねぇよ! そろそろ矢が届く! 射るタイミングは任せるぞ」
□
「カーム、とりあえず武装してきたが様子はどうだ」
「船首に人が集まってるから言った通り矢を放って来てそのままの勢いで浜に突っ込んで乗り込んで来るんだと思うけど。とりあえず矢が来るまで待ちますか」
「どうすんだよ。矢が正確に届く距離って言ったら大体二百歩くらいだろ!? そうしたらあの船足じゃ直ぐだぜ?」
「まぁどうにかしますよ」
「相変わらず軽いな」
「ああ、軽すぎて今から何人か殺すって事が嘘みたいだ……っと来たぜ」
矢が何本か浜に刺さり、ほとんどが届かず海底に沈んで行く、けどこれで十分だ。
「攻撃を確認。あの船を敵勢力と断定、攻撃開始!」
そう呟き、かなり大き目の石弾を射出して、メインマストをへし折り推進力を低下させる。船足は落ちたが惰性でまだ動いているので海底から石柱を出現させ竜骨をへし折り大きな穴を開け串刺しにし急停止させ、そのままの勢いで数人が海に落ち船足は完全に停止した。
帆船の種類? 俺が解る訳ないだろ! ヨットではない事はたしかだね。
帆を燃やさなかったのは布は何かに使えると思ったからだ。ある物は何でも利用しないとね。
開いた穴から船内に大量の海水が流れ込んでいるのか、ゆっくりと沈んで行き喫水線が二メートル程沈んだ所で完全停止。
「目視で大体百歩ってところかな、おーおー泳いでこっちに来てるぞ、すげえな」
「カーム、色々と相変わらずだな」
「ん?」
「何でもねぇよ」
□
ガギャンと大きな音がしたかと思ったら、メインマストが半分以上ドラゴンの爪で削ぎ取られたようになっており、メギメギメギと音を立ててゆっくりと倒れて行く。ドラゴンは見た事はないが、やられたら多分こんな感じなんだろうとは思ったが正直何が起きているのかわらなかった。
その後、船体に下から突き上げられる様な衝撃が走り、前に倒れそうになった。何人かがそのまま海に落ちたがこんな衝撃は船首を敵の船の横っ腹に突っ込んだ時以来の経験だ。船長と仲間が何か言っている。
「船底に大きな穴が開いて浸水しているぞ!」
「どういう事だ!」
船内から出て来た仲間に聞いていた。
「わからねぇっす! いきなり床が抜けて巨大な石の柱が生えてきたんすよ! そしてしばらくしたら消えてそのまま水が船の中に入って来てるんっす!」
「おいおいおいおいおい! なんだそりゃ! 沈んじまう!」
「ここ浅いから平気っすよ!」
「そう言う意味じゃねぇよ馬鹿が! どうするんだよコレ!」
「とりあえず泳いで行って大勢で囲めばいいんじゃねぇっすか?」
「ソレだ! 野郎共飛び込め! 少し泳げば足が付くぞ!」
勢いしかない船長だよなー。
そう思いながらも俺は海に飛び込んだ。
□
「どうするんだ?」
「とりあえず警告ですかね?『俺の言う事を聞いて危害を加えないって言うなら手荒な真似はしませんよー』」
「気の抜ける警告だな」
「うるせーぶっ殺してやるからな!そこで待ってろ!この糞野郎」
バシャバシャと音を立てて泳いでいる。
「はい交渉決裂ー」
服と装備を付けたままだけど短い距離を泳ぐってすごいな。
「なんか凄んでるけどどうしようか?」
「はぁ任せる……」
「一人を殺して百人に警告するって言葉が有ってね……俺は一人位仕方無いと思うんだよね」
「任せる」
俺は出来る限り大きな声で叫んだ
「聞けお前等! とりあえず武装したままこの島に一番最初に上陸した奴を殺す! 敵意が無い場合は足が付く様になったら武器を持って両手を頭の上まで上げて砂浜まで歩いて来てそのままうつ伏せで寝転がれ! 良いな!」
「ほう……」
「こんなもんが限界です」
「まぁ、かなり甘いがカームらしくて良いんじゃないか? ほら来たぞ」
「うぉーーー! 軟弱な魔王に負けるわけねぇだろうが! 死ねこのクソ野郎が!」
船上で戦う為か、少し短い片刃の剣を持っているが、カトラスみたいな感じなのでカトラスと呼ぼう。
相手はずぶぬれで、重い服がまとわりついているせいか動きがかなり鈍く、横薙ぎの間合いが少し短い上に足元が不安定な砂なので安易に避ける事が出来た。そいつの足にバールを投げつけて転ばせ、スコップで頭の側面を思い切りたたいてやった。それ以上動かなくなったが運が良ければ生きてるだろう。
「はいっ! 今は一対一だったので普通に戦いましたが混戦になった場合は魔法も使います。それと俺を無視して島民を襲いに行ったら、最優先で背中にかなりえぐい魔法をぶち込みます」
まぁ熱湯か黒曜石の斧だけどな。
「関係ねぇ! 囲め!」
抑止力としては少し勢いや脅しが足りなかったか? 実際に見せた方が効果的かねぇ……気が物凄く乗らないがもう一人だけ犠牲になってもらうかね。
命令に従い足早に俺に駆け寄って来た奴の左の膝上にウインドカッターを放ち、片足を吹き飛ばし勢いよく砂地に倒れ叫びながら痛がっている。
「ぎゃぁぁーいでぇ! 畜生なんだってんだ!」
「悪いけど殺されるつもりはないんでね、魔法を使わせてもらった。最初に殺すとか言ったけど君達は死を恐れないで勇敢に向かって来るものだから少しやり方を変えさせてもらったよ」
先ほど喋っていた陽気な雰囲気を一切無くし、精一杯威圧する様に声を低くして喋ってみた。慣れない事はするもんじゃないな。
俺の少し前方で叫んでた奴が足が無くなった事に気が付き、痛みで叫び声を上げながらのた打ち回りどうにか血を止めようと必死に上着を脱ぎ太ももを縛り砂に血をまき散らしながら傷口を押えている。
「死を恐れず向かって来る者には、何が有効かわらないからとりあえず恐怖を与えてみたんだがどうだい? 恐怖は君をどう変化させる? まぁ出血によっては死ぬけどな。悪かった言い直させてくれ。もしかしたら死ぬかもしれない恐怖に怯えててくれ」
そう言いつつ左二の腕と千切れた所を削ぎ落す様に石弾を射出して左手も使えなくする。叫び声をまた上げてまたのた打ち回るが誰も助けようとしない。動かないのか動けないのかは解らないが片手じゃ傷口を圧迫出来ないので本当に死んで貰う事になるかもしれない。少しだけ気分が悪いがこの警告脅しで言う事を聞いてもらえるなら50人の島民と残りの海賊の命が助かる。最悪この足元で転がってる奴も助けられれば助けるか。
とりあえず交渉してみようか。
「さて、交渉だ。船は壊したから退路はない。
島全体に生えている椰子の木や赤い花は俺の知り合いの、魔族の子供みたいな物だ。どこに隠れていようが直ぐに見つけ出せるから島に逃げても無駄だ。逃げた場合は必ず見つけ出し殺す。それに熊やホーネットの様な凶暴な生き物や魔物も見かけた時があるし、話によるとゴブリンも存在しているらしい、沼もあったからスライムも探せば多分いるだろう。大人しくして言う事を聞くと言うなら命までは奪わないがどうする?」
「話し合いをさせてくれ」
「……良いだろう」
本当やり慣れない事はする物じゃないな。この足元に転がってる奴は少し唸ってるので生きてはいるみたいだし、前方に転がってる奴は気を失って出血の量が少なくなってる気がするが、早い所処置しないと本当に死ぬな。
□
「畜生、聞いてた話と全然違うじゃねぇか。馬鹿みてぇに優しい魔王って話なのによ!実際にこの島に来た奴の話を信じたのが馬鹿だったぜ」
「優しくても魔王は魔王だったって事っすかね?」
「だろうな……どうするんだよこれから」
「うるせぇよ、お前らもノリノリだっただろうが」
「そりゃ船長があんな事言うから俺等も簡単だと思ってたんっすよ?なのにあんな事に……」
「俺のせいだって言うのかよ!」
「今だから言いますけどね! 逆らったら海に放り出されるから俺等は船長に何も言えないんすよ!」
「てめぇ!」
「船長、今はどうするかですよ。最初にやられたトニーは少し動いてるのが見えたので生きてますし、トムだってもう足は駄目だけど気絶してるだけですから助けるなら判断は速いほうが良い」
「そうっすよ」
「うるせぇ! あんな奴等死んじまえば良いんだよ! むしろあいつらのおかげで俺達が生きてるんだ、感謝だぜ」
「逃げても結局は見つかって殺されるか、熊や魔物に殺されるかの二拓なら魔王の言う事を聞いて生きてた方が俺は良い。二人も助かるかもしれない。トムの足はもう戻らないが」
「……俺もっす」
そして裏の方でも「そうだよな」「俺もだ」と言う声が聞こえる。
「テメェら! ふざけんじゃねぇよ! 調子の良い時は俺の言う事聞きやがって、旗色が悪くなったからって裏切るんじゃねぇよ!」
「けど助けてくれるって、言ってくれるんですよ? 命あっての物種です。俺は従います。船長だけ逃げて殺されて下さい」
「てめぇ、ふざけるんじゃねぇよ!」
そう言って怒りに任せて剣を抜き部下に突き立てようとした瞬間に手に衝撃が走り剣が弾き飛ばされた。正直何が何だかわからないが、魔法だろうか?
「仲良く話し合いしろ、殺されたら島民になるかもしれない貴重な労働力が減るだろうが」
□
少し前
「んー話し合いか。何話してるか声が大きいから聞こえるけど、ああ言った手前逃げられたら殺すしかないよなー。どうするかなー」
「少しは考えて物事言った方が良いぜ?」
「だな」
「ですよねー。けど俺ってそんなに頭良くないからスラスラと言葉が出てこないんだよ」
「なんかさっきも無理して声を低くして脅してたみたいだしな」
「そうだな、あと俺達よりかなり頭良いから気にすんなよ」
「わかった、気にしない! あとあんな声あんま出さないから少し喉が痛い、あー早く止血してやりたい、じゃなきゃあいつ死んじゃうよ」
「一人殺して百人に警告するって言ってたじゃねぇかよ……」
「まぁそうなんですけどね、けどやっぱり気分悪いですよ? 助けられるなら助けるべきですよ」
「魔王の器じゃねぇな」
「自分でもそう思います」
そうしたら「ふざけるんじゃねぇよ!」と声が聞こえて剣を抜いて突き刺そうとしてたので石弾で弾き飛ばした。
危ない危ない殺されたんじゃ労働力が減るじゃないか。
「危なかったなーもー」
なんだろう。すごく面倒くさい。仲間割れで船長だけ粉砕覚悟で部下と突っ込む雰囲気だけど、部下の士気はダダ下がりで部下は投降したい。こりゃ最悪船長が殺されて俺に命乞いの可能性もあるな。
あ、船長が殴られてぐったりしている。殺されちゃ労働力的に不味い。
「おい、止めろ! 一応生きてれば使い道はあるんだ。それ以上やるとそいつ死ぬぞ」
「ですが、船長をここで殺さないと、いつかきっと背中を刺されますよ」
「そうっす、ここで殺さないといつか殺されるっす」
「そうか……。けど考えはある、そいつを俺に預けろ。投降する者は足元に武器を置いて向こうに並べ」
そう言うと、全員が武器を置いてぞろぞろと移動した。
「船長以外全員か。案外聞き分けは良いんだな。まぁ船長気絶してるけどね」
「命の方が大事っすから!」
「そうか。少し海の方を見てろ」
そう言って、全員が文句を言わずに海の方を見た。一応従う意思は有るみたいだ。
俺はトムだかトニーの千切れた足と傷口を水球で洗い、回復魔法で骨と神経を繋ぎ、肉と皮を生成する。
足元に転がってたトニーだかトムだかの頭にもとりあえずシップをイメージした回復魔法をかけて置いた。どうなるかわからなぇけどな。
「振り向いて良いぞ」
「トムの足が!」
トムだったか。
「足くっつけておいたから、後で目を醒ました時にでも全部説明しておいてくれ。しばらくは違和感があって歩き辛いと思うけどな」
もう威厳とかいいや。
「んじゃとりあえず説明するから聞いてくれ」
皆に島の現状を話し、これから島をどうしたいのかも話した。そして今は圧倒的に手や技術者が足りず新居を作れずにいる事も伝えた。
「ところで船を修理したりできる奴とかコックとか乗ってるのか? 乗ってたなら家を建ててもらおうと思ってるんだが、あと竈番してる女性の負担も減らせるんだよね」
「いるっすよ、ただ簡単な整備や補修しか出来ないんで解りませんが、おい!」
「俺がその船大工です、俺の親父は大工でして子供の頃よく仕事場で作業を見てたんでなんとなくで良いならできます」
「わかった、少し知識があるなら何もない奴よりはマシだ。後で仕事を覚えてもらう」
「うっす」
「んじゃコックは?」
「非戦闘員なので船の中で待機中です」
「そうか。とりあえず食料と金品は預からせてもらう。沈んでる場所に倉庫がないなら急がなくていいが浸水した場所にあって濡れたらまずい物があれば今すぐ回収してくれ、特に食料品とか」
「食料庫はキッチンの隣なので多分平気だ、ただ奪った宝は重心を低くしたいから船の最下層においてあるから回収は少し難しいな」
「そんなに有るの!? まぁ食料があるならしばらくは生きられる。金品は後で考えよう。それと寝るところだけど悪いが家がないのでしばらくはあの半分沈んだ船で寝ててくれ、船に小舟位あるだろ? それで往復してくれ」
「「「うっす」」」
「あー他に何か有ったかな・・・あー君達は海賊って事で一応戦闘は出来るでしょう?なら常駐防衛戦力として一応敵が来たら戦ってもらうし。魔物が出たら戦ってもらう。だからさっき捨てた剣を拾って良く整備しておいてくれ。塩水は鉄と相性悪いだろ?
で。船長だ。船長はこっちで預かるから、そこの君と君ちょっと担いで後ろ付いて来て」
「「うっす!」」
縄で簀巻きにして、口に布を突っ込んで顔に麻袋をかぶせ取れない様に首で縛り、子供達の行動範囲外の椰子の木に縛りつけた。
「んじゃ帰ろうか」
「え? この暑い中放置ですか?」
「死にますよ?」
「俺を殺そうとしてたのに何言ってるんだよ。情でもあるの? まぁあるか。元船長だし。まぁ、とりあえず心を折る事から始めるから興味が有るなら言ってくれ。具体的に何するのか見せるから」
「「え?」」
「こういうのは心を折ってからじゃないと上辺だけ反省したように思わせて心の中で何を考えてるか解らないからねー。んじゃ帰ろうか、あー子供達にこっちには近づかないように言い聞かせないとな」
「ただいまー」
「おう。どうした?」
「椰子の木に縛りつけて顔にも麻袋かぶせて来た、起きたらパルマさんが知らせてくれるよ。んじゃ皆と顔合わせだね」
そう言って皆を呼び俺が説明する事にした。
「ってな訳で心を入れ替えた武器を持った元海賊です。何かあったら言って下さい、罰を与えますので」
「こっちの紹介もお願い」
「あー忘れてた。さっきチラッと話に出した椰子の木が変化したドリアードのパルマさんと、赤い花が変化したアルラウネのフルールさんです。この島の椰子の木と赤い花は子供と言うか分身と言うか眷属と言うか……まぁわかりませんが、似た様な島の木や花には意識を持っていけるらしいので、誰かに見られてると思ったらこの方達です」
「よろしくね」「よろしく」
「ねぇカーム君。例の船長気が付いて暴れてるわよ」
「って具合に教えてくれますので、ってな訳で船長の所に行ってきます。とりあえず海賊はコックを迎えに行ってから仲良くしててくださいね。さっき言った事を忘れない様にくれぐれもお願いしますね……」
超笑顔で元海賊達にお願いしておいた。
「は! はい!」
素直でいいね。
「モガー! アーーーガーーー」
「元気だね」
「元気ですね」
「ねぇ船長、聞こえてるよね?」
「モガー」
「聞こえてるね、今から顔の袋外すから少し話し合いをしようか」
俺は首の紐を解いて麻袋を外すと思い切り睨まれてる。
「んじゃとりあえず口の布も取るから態度と口の利き方には気を付けろよ?」
口の布を取り出した瞬間顔に唾を拭きつけられた。
「話をしたくないみたいですね。帰りましょうか。麻袋をまたかぶせるんで押さえつけてください」
そう言って目の前で水を砂地に撒き、口に布を押し込み、頭に麻袋をかぶせる。
「また明日来ますから」
「話し合いするんじゃないんですか?」
「これじゃ無理だからね、折角水も持って来たんだけど無駄になっちゃったね」
わざと聞こえる様に言ってから帰った。
◇
三日後
海賊と島民のイザコザとかは特に無く日課として船長の所に通って、話し合いをしようとするが大声で喚いたり汚い言葉を投げかけて来るのでその度に目の前で水を砂地に撒いてから帰るを繰り返してきた。昨日海水を飲ませようと思ったけど元海賊に物凄くお願いされて止められた。
まぁ解ってるよ。海水を飲んだら、飲んだ量の3~4倍の真水を飲まないとやばいってね。
けどそろそろ限界だと思うんだよね。熱い中水分も無しで3日目だし。
「なんかグッタリしてますね」
「まぁ水も食料も無いからね、しかも今日少し熱かったし、水だけ有れば食糧が無くても30日は生きられるけど。水が無ければ3日位で死ぬからね」
そう言いながら麻袋を外してやるが目が虚ろで唇がカサカサで思考能力も低く元部下が解らないらしい。
「水・・・」
「別にやっても構わないが島民に迷惑を掛けない事を誓うかい?」
「みず・・・」
「あちゃー少しやりすぎたか?少しどころかかなり思考が鈍いな。誓いますかー?」
目のまで水をチラつかせ「あ・・・あぁ・・」と言ってるが、反応が鈍かったので目の前で砂地に捨ててやったら力無く「・・・あ」と言って最後の希望が無くなり心が折れたのか項垂れて何も反応しなくなった。
「んーやりすぎたか?」
かなり不味いと思いとりあえず水に砂糖と塩を混ぜた物を飲ませ、簀巻きのまま運び出し、日蔭に寝かせ衣類をびちゃびちゃになるまで濡らし、【氷】を生成して腋の下や首や足の付け根に置き安静にさせた。
しばらくしたら気が付いたのか、パルマさんが教えてくれたので船長のところに行ったら目だけでこっちを見ているので、とりあえず無言で近寄り目の前に座った。
「とりあえず言ってる事わかるか?」
頭を力無く縦に振っている。
「これが最後のチャンスね、言う事を聞いて生き残るか、このまま死ぬか選ばせてやる。生きたいなら頭を二回縦に振れ。死にたいなら頭を横に振れ」
そう言うと頭を縦に2回振った。
「わった、とりあえず監視付で皆とは下の立場で働いてもらうから、それだけは覚えておいてくれ。それと何か問題を起こしたら苦しんで死んでもらうから覚悟してろよ。今飯を持ってくるからこのまま待ってろ」
持って来たココナッツジュースに塩を混ぜた物をゆっくり飲ませ、パンをお湯でふやかし、軽く塩を振った物を持って来た。
「数日物を食ってない状態でいきなりかっ込むと胃がやられるから、少ないと思ってもまずはコレで我慢してくれ」
そう言って縄をほどいてやり自分で固まった関節をほぐす様にゆっくりと動かしやっとスプーンを持ち。ゆっくりと口に運んで飲み込んだのを確認してから自分の作業に戻った。
まぁ、どうにか使えるだろう。たとえばまた海賊が来た時の交渉役とか。
明日はまず休ませて、衰弱してるから食事は少し柔らかめにして。武器の携帯は無しで。
閑話
船員の話
沈んでない船内
「あの魔王ってよ、中々えげつないぜ?」
「なんでだよ」
「船長の件だけどよ、話し合いするって言って船長がなんか言ったり反抗的な態度だったら目の前で水を捨ててまた顔に袋かぶせて丸一日接触は無し。話せる機会は1回だけ」
「おう」
「そして段々弱っていく船長。目の前で水を捨てる魔王」
「ひでぇな」
「そして今日だけど、死にそうで「みず」としか言えない船長の前で「反応鈍いな」って言ってまた目の前で水捨てたんだよ」
「そしたら?」
「ショックで気を失った、多分明日まで生きられないって思ったんじゃないのか? 流石に「んーやりすぎたか?」とか言って無理矢理水飲ませて連れて帰って来て介抱してたぜ?結局言う事聞くって事で生かされてるが、明日からどんな扱いされるか解らねぇよ」
「けど俺達にも無茶させてないし武器も返してもらったし平気じゃないか?」
「監視付で皆より下の立場で働いてもらうって言ってたからどうなる事やら」
「あーこれより下ってどんな環境なんだ? 少し興味あるからちょっと船長が見える位置で働いてようぜ」
「だな」
◇
「ってな訳で皆より名目上立場が下ってなだけで扱いは武器を所持出来ないだけで普通です。こき使ったり無視したり苛めたり殺したりしない様に! あと今日は衰弱が激しいので休ませます。以上。ほら、皆に謝れ」
「皆さま申し訳ありませんでした」
「思ったより普通だな、あとあんな言葉使いしてるの初めて見たぜ」
「あぁ、そうだな。あとなんだかんだ言って本当優しいなあの魔王。ってか甘い」
「だな」
カームは甘いらしいです。その辺は前世の常識が抜けて無いのだと思います。




