第57話 少し村へ帰った時の事
細々と続けてます。
相変わらず不定期です。
20160615修正
先日感想でご指摘が有りましたのでここで捕捉をさせていただきます。
魔法で作り出した物(黒曜石系と石壁等)は魔力切れで消えますが、元から有る物を利用した場合は魔力を使って集めたり形を変えたりしているので消えません(水球や土を隆起させる等)
お湯はかき集めた水を火の魔法で温めて出してるので冷めますが消えません。
その辺の説明を今までしてい無くて申し訳ありませんでした。
0話の前にも急遽付け足しました。
島に来て七日目。
まず子供に寝具を与え、残りは均等に男女で分けて交代で使ってもらう。少し不衛生だが仕方ない。
だが、疲労が取れてるのが見て良くわかる。
とりあえずは、昨日干し肉作りの為に手に入れた網を広げ、塩にするつもりだった濃い海水をバケツに汲んで、切った肉を漬けて干してもらう様に指示し、俺は島の探索に出かけた。
燻煙室は一応試験と言う事で稼働はさせている。
俺は沼に水が流れ込む場所から、さらに上流をめざした。多分だが、島中央の山から流れているに違いないと思った。このまま沼みたいなのがなく、動物の死骸や骨がなければ、一応雑菌とかも少なく安全なんだろうが、一日で島中央に行くのは少し遠すぎる。
なので夕方には戻れる位置までは確認したが、その距離には特に沼地に成ってるところはなく、死骸や骨は確認できなかったし、川底や落ち葉や枝がこげ茶色や黄土色になってっていないから、上流に鉱山も無いと思うし、鉱水ではない事を祈ろう。検査キットとかもないし、その辺は信じるしかないな。
島に来て八日目。
開墾してたら樹齢が数百年はありそうな木にたどり着いたが、パルマさんが初めて伐採に口を出した「その子は駄目!」と言われたので、畑的には邪魔だが、木陰になる休憩所っぽくしようと皆で話し合い、残す事になった。
とりあえずは今まで開墾した場所にあるだけジャガイモを植え、早期収穫を目指そう。
島に来て九日目。
住宅前の沼から引いている水が澄んできたので、煮沸してから飲んでみたが、特に異臭がするとか、塩分を含んでいるとかもなく、別に問題無いと判断し、雑菌とかが怖いので「飲む場合は煮沸してからにする事」と言っておいた。
本当なら水源まで確認しに行きたいんだけどね。
途中から水路を二本に増やし、中央が少し深くなるように地面を階段状に沈下させ、回りに木の枝を刺して、大きな葉で覆い、水浴びを出来る場所も作った。
狩班に沼の場所を教え、定期的に野生生物の死骸が無いか確かめてもらう様に伝え、死骸や何か異常事態があったなら、報告や相談をしてくれと言っておいた。
その場合は、水が綺麗になるまでは飲めないからな。
九日目の船は島に寄ってもらえず、そのまま通り過ぎて行った。まだまだ思い通りには行かないが、とりあえずは前回の交易で、当面の食糧と少しの寝具を手に入れたのは幸いだったし、しばらくは安心できる。
その間に野草班の女性が「魔王様! 生姜です生姜! 風邪薬になりますよ!栽培しましょう! 増えたら薄切りにして蜂蜜に漬けましょう!」と物凄く明るい笑顔で生姜を持っている。
後ろの籠にも大量にあった。意外に自生してる物なのか疑問に思うが、あったなら使わせてもらおう。
顔に付いた土を手で拭ったのか、汗を拭ったのかはわからないが、頬に茶色の線が出来ている。そんな事も気にする事なく、とても眩しい子供のような笑顔だった。
いやー、なんか可愛いな。浮気は絶対しないけどな!
今植えれば収穫に間に合うか?まぁ、あるだけ植えて風邪引いたら掘り返そう。
あとジンジャーケーキも、物資に余裕が出来たら作るか。
型どうしよう、家から持ってくるか。
初めて交易をした日から明日で4日。島に来て10日か。そろそろ休ませるかな、働き詰めは疲労が溜まるし風邪になったら最悪だからな。
よし明日は休ませよう。そう思ったら俺は行動していた。
「夕食を食べている途中ですみませんが、聞いて下さい。明日は島に来て十日目の節目です、だから作業を休みにしようと思います。皆も休みなく働いてて疲れていると思います、だから明日は休んでてください。本当は班を小分けにして交代で休んだ方が良いだろうと思いますが、人の数が少ないので仕方ありません、だから全員で休んじゃいましょう」
「休み? 良いんですかい?」
「構いません、けど食事の用意や干し肉作りくらいはしてください、狩や漁は残ってる肉でも十分に間に合いますよね?」
「えぇ、まだ蓄えはありますから、明後日の朝までは持つと思います」
そう女性は答えた。
「なら平気ですね。明日は休みと言う事で体を休めてください。娯楽はありませんがね。皆さんには悪いんですが俺は故郷に一旦戻ります。嫁や子供を放って置くと愛が冷めちゃいますし」
「「「「あー」」」」
娯楽か。知的遊戯でも作るか?リバーシとか簡単だし、切った木を加工すれば簡単だしな。
この辺は後で作っておこう。賭けにならない様にしたいけど、まぁ無理だろうな、喧嘩にならない程度に収まれば良いけどな。
後は金銭面だよな……まだ人数が少ないから、貨幣は必要無いけど、これも追々考えて置かないと不味いよな。
◇
「んじゃ安全面に気を付けてください。じゃぁ行ってきます」
そう言って転移魔法陣を起動して自宅前に帰る事にした。
ヴォルフを連れて。
「ただいまー」
「おかえり」「あーおかえりー」「お父さんおかえりー」「パパおかえりー」
「それ、狼? 随分懐いてるねー」
「あぁ、島で死にそうになってたところを助けたんだ、他にもメスが二匹と、他の群がいるけど、島にいる子供達に懐いてるから、そっちは置いて来たんだ」
「そう……」「ふーん」
スズランが頭を撫でようと手を出したら、座って待機していたヴォルフが速攻で腹を見せ、服従のポーズをとっている。
スズランは手を出したまま固まり、助けてほしそうにこちらを見ている。
「ヴォルフ。この人は俺の妻だ。怖くないよ?」
「キューン、キューン」
そのまま腹を見せたまま立とうとはしない。仕方が無いので頭を撫でてやりながらヨーシヨシヨシヨシと撫でつつお座りさせる。
「大丈夫。怖くないからな」
そう言ってもお座りのまま小刻みに震えている。寒いのかって位震えている。ストレスなのか、恐怖なのか。まぁたぶん恐怖なんだろう。
「スズラン、なるべく優しく撫でてやってくれ」
「わかった」
そう言って頭を丁寧に撫で、胴の辺りから尻尾の付け根を撫でたりしているが、まだ震えて耳を伏せている。
慣れさせる必要があるな。
次はラッテだが、震えは無く尻尾を軽く振っている。まぁ恐怖はないんだろう。
「かわいーね君、ヴォルフ君って言うんだ、よろしくねー」
「ウォン!」
スズランが羨ましそうに見ている。
「まぁ。適度に戻って来るし時間は有るさ」
「……うん」
そういいながら、楽しそうにヴォルフを撫でてるラッテを、羨ましそうに見ている。
「ヴォルフ、この子達は俺の子供だ。島の子供達みたいに仲良くしてあげてくれ」
「ワフン!」
「あまりいたずらすると怒るから、無理矢理乗ろうとしたり尻尾を引っ張っちゃ駄目だぞ」
「わかった」「はい」
んー、母親の教育方針が違うから、やっぱり喋り方も全く違うな。
そう思っていたら二人で左右から優しく撫でているので、ひとまず安心か?
まぁ、子供が産まれたら犬を飼えって言葉も有るし、少しでも友達は多い方が良いよな。
毎日会わせられないけど、向こうが安定したら呼ぼうと思ってるけど、来てくれるかな?まぁ、もう少ししたら相談しておくか。そう思ってたらリリーが首に手を回しギューッとしている。かなり気に入ったのだろうか?まぁ動物を可愛がる事はよい事だからな。
「なぁスズラン、島に家畜が居ないから少し鶏と鴨を分けて欲しんだが良いかい?」
「構わない。ただ育てられる人がいるの?」
「んーなんとかなると思う。とりあえず小屋を作って寝床用意して襲われ無い様にするから。あと番で六組持って行こうと思うんだけど」
「いいよ。狼に襲われ無い様に気を付けてね」
「わかったよ、ありがとう」
足元を見たら、子供達に交じってラッテもワシャワシャ撫でている。ヴォルフも寝転がり、脇腹や頭を撫でられている。
スズランも撫でたそうにしているが、今は空気を読んでいるのか触りに行かない。
「少し餌付けしてみたら?」
「そうね」
そう言うと、早速未調理の鶏肉を持って来たが止めさせた。
「まずはこっちの方が格上って思わせる様に、俺達が先に食事をしてから別な物を与えないと駄目なんだよ」
「そうなんだ。じゃぁこれは取っておいて昼食が終わったらあげようかしら」
「そうだね、懐いてくれれば良いね」
「うん」
そういいながら俺が肉を棚に戻し、村内を周りなるべくお金を使わない様に必要な物を揃える。
前に育てていたミントの苗と、ラベンダーの苗と、カモミールの種を実家から持ち出して、お茶や蜜蜂用に植えようと思っている。ミントは爆発的に増えるし。ってかある意味雑草扱いだし。
少し実家で親と話そうと思ったが、両方いなかったので会話は夜だな。
後は交易で手に入れられなかった、トウモロコシの種と豆も買った。これくらいならまぁ……、自分ルールの許容範囲内だろう。後は怪我した時の消毒用に蒸留酒と清潔な布数枚と針と糸も必要かな。小奇麗になったとは言えまだ奴隷時代に来ていた服しかないからな。服類もどうにかしたいなー。
後は家禽を入れる籠だけど、スズランの家に有るのを貰おう。その時にでもイチイさんとリコリスさんとも顔を合わせて置こう。流石に足を縛って運ぶと弱っちゃうからね。
そして家族で昼食を済ませ、スズランがヴォルフに鶏肉を与え、食べ終わってから頭を撫でている。
震えてないのでまぁ少しは慣れたのだろう。だが、まだ完璧にスズランに慣れたと言う訳ではなさそうだ。
午後は池のお姉さんの所に行き、養魚所の魚を番で十組と水草を、明日の朝に取りに来る事を伝え、飼育方法も少し聞いて置いた。水浴び場の下流か、隣にでも養魚所を作っておこう。淡水魚ならどうにか飼育できるだろう。増やすのに時間はかかるかもしれないがな。
家畜も手に入らない事を考慮して、豚や羊もどうにかしておいた方がいいな。牛は子牛なら運べそうだけど成牛は絶対無理だな。この辺は船舶輸送するしかないか。
そう考えながら歩いてたら、萌えない犬耳のおっさんに話しかけられた。未だに名前は教えてくれない。「あん? もう、おっさんで良いだろ、お前と俺等の仲だしな!」と笑いながら肩を叩かれたし。
「ようカーム、調子はどうだ?」
「まだまだやる事が山積みで、頭がいっぱいいっぱいですよ。食料の安定供給も確立できてませんし、三日に一回通る船はまだ素通りが多いです。この間は止まってくれたんですけどね」
「そうか、ところで物は相談なんだが。俺達も島に連れて行ってくれないか?」
「え? なにも無いですよ? それにまだ大変な時期ですし」
「だからだよ、俺達はまだお前からもらった恩を返してない、返したのはポーションだけだ、だから一人で悩まず少しは頼れよな」
そう言われながら肩を叩かれた。
「人族に偏見がなく、喧嘩しなければ良いですけど。戦場で人族と戦ってたんですよね? 大丈夫ですか?」
「あん? 俺達に刃を向けた奴じゃなければ平気だ、気にすんな」
「んーーー。わかりました。明日朝に、魚を受け取ったら向こうに行きますので俺の家に来てください」
「わかった。で、持って行く物は?」
「生活用品と使っている得物くらいですね。手入れが出来ないので整備用の道具も欲しいですね」
「二人にも言っておく」
「んーわかりました、こちらもなんとかしましょう」
そう言いつつおっさんと別れた。
明日一気に物資を持って行くつもりだったが、予定が狂ったな。
かさばる魚と、家禽を先に送るか?んー心配だしな。まぁどうにかするか。
俺の両脇と裏におっさんズ、前に魚の入った樽と、その上に家禽の籠、両斜め裏に今日買った物資、両斜め前に苗を置けば平気だろう。多分。
おっさんズでも、かなり背の高いのはいないし、平気だろう。まぁ、俺より少し高いくらいだからな。
それから夕食前に、炭焼き小屋の見学をして、炭焼き職人から話をよく聞き「あとは経験と勘だけだな」と、言われるまで教わった。
その後両親に会いに行き、軽く報告を済ませ。とりあえずまだまだ厳しいけど、ある程度に成ったら軌道に乗る事を伝え「ちょこちょこ戻って来るけど子供の事をお願いします」と改めて頭を下げながら言い、家に帰って家族と夕食を取った。
「ねぇパパ、今日一緒に寝ても良い?」
「あ! 私も」
「良いよ、けど寝る前にお友達のお父さん達と会って来るけど、良いかな?」
「いいよ」「うん!」
「よーし良い子だ」
そう言って頭を撫でたら、ラッテが頭を二の腕にグリグリして来たので、撫でてあげたらスズランまで乱入して来たので、こっちも撫でてあげた。
「お父さんとお母さん仲良しー」「ママ嬉しそう!」
子供の前でイチャイチャするのは少し恥ずかしいが、仲が悪いところを見せるよりかはマシだよね。
「あーごめん、そろそろ酒場に行ってくるよ。大丈夫、俺は飲んでこないから」
そう言って2人を優しく引き剥がして、酒場まで歩いて行く。
「よう魔王様!」
「おいおい止めてくれよ」
そう言って席に着き、果実水を頼むととシュペックがスンスンを鼻を動かし「獣臭い」と言って、なんか睨んで来る。嫉妬じゃない事を祈ろう。
「あー、向こうで狼に懐かれて今家にいる」
「へぇー狼か、この辺じゃ見ないよね」
「そうだなー、確かにいないな」
「んー狼か、あいつ等はなんか好きじゃない、プライド高いし」
いつものシュペックらしくはないが、一応いつも通り乾杯してた、むしろ君にプライドという物が一切無いと思ってた。ラブラドールとかゴールデンレトリバーみたいだし。むしろアホの子って表現が似合うし。
「で、どうなんだよ? 島の様子は」
「簡潔に言うと、前任の魔王が城を建てようとした跡地が、少し歩いた場所にあって。奴隷用の家も海岸線付近にあった、今はそこに住んでいる。とりあえず開墾して畑作り中、船が三隻ほど通ったけど、一隻が接岸してくれて、寝具と小麦とジャガイモを、肉と砂糖と交換してくれた。もう少し細かいけどおおざっぱに言うならこんな感じだね」
「人間は?」
「奴隷だったから解放して、体拭かせて飯を食わせて優しく扱ってるから、まだ不満とかはないかも。今日は作業を休ませてるし」
「んーそうか、奴隷だからって酷使しても良い事無いもんな」
「前任の魔王は酷使しまくって、魔王城を建てる場所の開墾した時に勇者に討伐されてるけど。人族の話だと、ほぼ無理矢理で食事も満足に与えられてなかったって噂だね。俺に引き渡された奴隷も最初は無気力だったから、力で抑え込まれてたんじゃない? 暖かい食事とスープで無理矢理元に戻したけど」
「……そうか、世の中には酷い奴もいるんだな。魔族にも人族にも」
「そうだな。世の中綺麗事だけじゃないって訳だ」
「うん……僕らもそういう事しないように、気を付けないと」
「まぁ、だから極力恐怖でいう事を聞かせない様にして、鞭打ちとかそういう事はしないで自分も動く様にして、仲間意識を築き上げてるよ。おかげで命拾いしたけど」
「おいおい、なんか気になるな、教えろよ」
俺は船で遭った事を事を細かく説明して、椅子に縛られてる状態の俺を、ナイフで縄を切ってくれて、助けてくれた事を言った。
「んーまぁ、カームらしいと言えばカームらしいけど」
「カームだから、って言うのもあるよね」
「そうだね!」
「いやいや、そこは『奴隷に優しくしてて良かったね』で良いじゃん」
「「「えーだってカームだし」」」
見事にハモった。
その後子供達の話になり。
「おー物凄く元気だぞ」とか「僕にそっくりってミールに良く言われる」「僕に似てるらしくて、少し考え方がずれてるみたい」となり。
「まぁ俺達も似たようなもんだったから仕方ないさ、元気に育ってくれればそれだけでいいよ」と言いうと、全員が「「「そうだな」ね」よね」と帰って来た。なんだかんだでもうこいつ等とは腐れ縁だよな。
あーこんな雰囲気だと酒が飲みたがったが、飲まないで帰るって言っちゃったからな。まぁ仕方ない。
そしてその場で解散となるが、シュペックが真剣な表情で「狼に一言有る」と言って家まで付いて来た。
「ただいまー」「こんばんはー」
「おかえり。シュペック? どうしたの?」
「狼に用が出来てね」
「そう。喧嘩しないでね」
「はーい」
「おじさんこんばんは」「こんばんはー」
「はーいこんばんは、いつもレーィカと遊んでくれてありがとねー」
そう言って狼の方に歩み寄り、しゃがんでお互い目を見ている。
「君の気持を聞かせて」
そう言うとヴォルフは「ァオァオ」「ォワウワウ」と何かを喋っている様な、鳴き声を出している。
「わかった、ありがとう」
「ウォン!」
「カーム、この子は助けてもらったお礼に君にずっと付いて行くって言ってるよ。それと「あの時、威嚇してまで近づいて来て、手当をしてくれなければ私は死んでいた、ありがとう」だって」
なんとなく意思疎通が出来るって素晴らしいな。
「そっかヴォルフの気持ちを教えてくれてありがとう」
「いやいやー、少し気になっただけだから来ただけだよ。じゃ、色々頑張ってね! お邪魔しましたー」
「シュペック君お茶用意したんだけどー」
「あ、じゃぁ一杯だけ……」
シュペックも色々タイミング悪いなー。
その後子供達と一緒に風呂に入り「お話聞かせてー」とせがまれたので、子供の頃の話をしてあげた。
その後ベッドに入っても、話をせがんで来るので「森に修行場を作って、色々修行してたんだぞ」と言ったらかなり興味を持たれて、根掘り葉掘り聞かれ毒以外の事は話した。
「今度投げナイフのコツを教えてね」「僕は魔法の方が良いな」
「はいはい、五歳になって学校に行ったらね。もう寝ないと明日起きられないぞ」
そう言って、俺達親子は川の字に成って寝た。真ん中が長いけどな。
深夜にリリーが寝ぼけて腕に抱き付き、頬を擦り付けて来たけど、角がゴリゴリ当たってすげぇ痛くて目が醒めた。
この角かなり凶器じゃねぇかよ! スズランより角度が低いからすごく痛い。多分頭突きで刺さるぞあの角。
まぁ、またスリスリされ無い事を祈るか。
◇
「おはよー」
「おはよう」
お互い挨拶を済ませ何か異変に気が付いたのか腕を見て。
「どうしたのその腕、真っ赤じゃない」
「夜中にリリーに抱き付かれて、頬ずりされて角が当たった」
「あー」
「経験あるの?」
「あるよー、確かにすんごい痛い」
「だよね……一緒に寝る時は角にクッションでも着けてもらおうかな」
「尖ってるからどうだろうねー。無駄かもしれないよー?」
「だよね。まぁ我慢するよ」
「じゃースズランちゃん起して来て、私はミエルとリリーを起こすから、もしかしたら、リリーも起してもらうかも」
「あいよー」
リリーは二歳の頃に、寝起きは悪くないが、中々起きない事がわかり「こんなところまでスズランそっくりなのか」と、笑い話になった時がある。
その後朝食を取りつつ「また十日くらいしたら、帰って来るかもしれない」と言いながら食事をし、子供達に謝っておいた。
「だって魔王様になっちゃったから仕方ないんでしょ?」「お仕事なんでしょ? 僕大丈夫だよ」と言ってくれたので、嫁達の教育に感謝だ。
その後魚を受け取りに行き樽の中に入れ、家禽も籠に入れ、穀物類も用意した。
あとはおっさんズを待つだけだ。
手が空いていたので麦茶を飲んでたらドアがノックされたので、慌てて外に出て、おっさんズに転移の説明をして島に向かった。
「おぉ! これが海って奴か」
「本当に広い湖だな」
「聞いた事はあったが、説明されただけじゃわからぬ物だな、こいつは素晴らしい」
俺も初めて海を見た時ってこんな気持ちだったのだろうか?人族がざわついてるし紹介でもするか。
「ただいま戻りました、見てわかる通り俺の知り合いです」
「いや、命の恩人だ」
「俺は恩人らしいです。今日から手伝ってくれるので仲良くしてくださいね」
たしかに猫のおっさんは助けたけどな。
「「「よろしく」」」
「よ、よろしくおねがいします」
数名が弱々しく返事をしただけだった。
「それと鶏と鴨を持ってきました。これは肉としてではなく卵を産ませ、増やそうと思っています。ある程度増えたら卵や肉が安定供給できると思ってますので、誰か世話が出来る人は後で報告してください。それとこの樽は残念ですが魚です。ここの近くに池を作ってそこで育て、増えたら沼とかその辺に放流させて自然に繁殖させようと思ってます。それに水が毒だった場合や、急に水が毒になった場合は魚が死んで浮かびますので、水質異常が直ぐにわかります。増えるまで食べない様にお願いします。まぁ主に毒対策ですね」
「あと、トウモロコシや豆も持ってきました。多分今から種を蒔けば、収穫はできると思います。幸いこの島は暖かそうなので、トウモロコシは良く育つと思います。豆は痩せた土地に蒔くと良いそうなので、ジャガイモや小麦を育てたら、豆を蒔くと言う風に輪作しましょう。増やすために、こいつも今回撒いちゃいますけどね」
鶏の糞は肥料にして、鴨は池を作ってそこで育てて、水を海に流れるようにすれば、貝類の栄養源になるかもしれない。この辺は汽水域辺りの鴨の云々ってTVで見た記憶が有るので試してみる。卵を産まなくなったら、羽毛とかを矢とかジャケットとか、寝具にすれば良いからね。
トウモロコシは収穫して茹でて、乾燥させて保存して粉にしてパンにしたり、飼料になるからな。酒を造っても良いけど、トウモロコシの酒は管理が難しいらしいから蒸留施設が出来てからの酒かな。
マメ科の植物は、根に窒素固定を行う根粒菌が共生してるって、なんかの漫画や有名な小説で読んだからな。しかも病気とかに強いらしい。しいて言うなら、鳥害に気を付ければ良いだけだし。栄養価も高いしやせた土地や乾燥地帯でも育つからな。正直豆って強すぎる、豆まきをしてる子供の様にその辺の林とかに蒔くと芽出て来るし。小説の方はクローバーだったな、あれもマメ科だし。
まぁ、一応俺も考えて持って来た訳ですよ。
「ってな訳でまず鴨が逃げ出さない様に柵を作りましょう。一応水を引くので水浴び用の場所を、広く浅くした感じにしますね」
そう言って家から離れた水路の下流に、大体アタリを決め、浅いすり鉢状になるようにして水を引き込む。
その間に少し太い枝を刺していき、簡単な柵を作り、逃げ出さない様にして放してみた。初めてスズランの家でした時みたいに、水の中に入って行き顔を突っ込んだりしている。まぁ、後は狼に襲われ無い様に、ヴォルフに前に来た狼に話を付けに行ってもらおう。
「鶏もとりあえず鴨と一緒にしておきましょう。池の周りの土の部分で当面生活してもらいましょうか」
放し飼いでも良いんだけど、少し不安要素が多いからな。増えて安定してきたらにしよう。そのうち、野生の鶏とか見れるようになったらいいな。小さい蛇とか食べてるって話も聞くし。
その後は、かなり上流の方から水を引き、養魚所用のため池を作り、海に排水するようにして、下流側に柵を作り間に葉を編み込みこんで逃げ出さない様にして、放流し水草も植えておいた。これも増えたら沼に放しに行き、自然繁殖にさせよう。
「はい、さっきも言った通りここの魚の水は拠点に流れてる水のかなり上流から引いています。もしこの魚が浮いていたら直ぐに誰かに知らせましょう。そしてなるべく早く俺の耳に入る様にして下さい。んー、なんだかんだやってたら昼食近い時間ですね。少し早いですけど、準備して食べちゃいましょう」
おっさんズは昼食を持って男連中の中に突っ込んで行き直ぐに仲良くなってた。
俺もあんな風に接してた方が良かったのかな?
閑話
おっさんズと男共
「そうなんだよ、あの時助けられたから、今ここに俺がいるんだよ。一生かかっても、この恩は返せないと思ってる」
「はぁ、魔王様って傷の手当も出来るんですか」
「横から見てたが見事だったぞ。針を緩やかに曲げ、強い酒に浸して綺麗にし、傷口を洗い躊躇せずに縫って行き、ある程度傷が塞がったらポーションを振りかけ布を何重にも折り、少しきつめに傷口を抑える様にして血を止めていた」
「聞いてるだけでゾクゾクしちまうよ」
「ありゃその辺の医者でも戸惑う傷だぜ、なんてったってバッサリだからな」
「随分仲間意識が強いっすね」
「カームは優しすぎるんだと思う。囚人になった俺ですら数日過ごしただけなのに、諦めずに絶対助けようとしてくれた。多分人族も同じじゃないか?」
「んー確かに。俺達が最初に会った時も、パンと温かいスープと干し肉を用意してくれたし、少しの酒も用意してくれて優しくしてくれた」
「なんだ、お前らもか。俺達も兵士に見つからない様に酒場に行って、自腹でスープと酒を買って来てくれて、1つのカップで全員で回し飲みしたんだよ。あの時は、久しぶりに声を殺して泣いちまったよ」
「俺等も奴隷で、新しい魔王に何されるのかと不安だったが、いきなり優しくされたからな。優しすぎるんだと思いますよ。昨日だって休みでしたし」
「んー。その優しさが弱さになったり、利用されたりしなければ良いな」
「その為に俺達が来たんだろう? あいつはあまり疑うことをしないからな」
「確かに。信用を得るために、縛られる時や船の上で椅子に縛りつけられる時も、抵抗とかしてなかったみたいですよ。まぁ、やられたら反撃はしてたみたいですが」
「カームらしいな」
「こう黒いナイフを、無詠唱でいきなり回りにブワーッとしたらしいです」
「ほう。そんな魔法まで使えたのか。俺が知ってるのは水玉を出すか、土を盛り上げるくらいだな」
「あと、人族の兵士を粉々にしたって噂もあっただろ、あれも魔法だろ?」
「粉々!? どうやってっすか!」
「わからん魔法だろ? スコップじゃ到底あんな風にはならないと聞いた」
「おー怖い怖い、怒らせない様にしないと」
「それが一番だ、優しい奴を怒らせるとロクな事がないからな」
なんだかんだ言って人族にはまだ不満はないみたいです。
鉱山の有る山の近くの小川の底はこげ茶や黄土色なんですよね。鉱水は煮沸消毒やろ過でも毒性が無くならないので怖いですよね。
なので淡水魚を村から持ち込みました。




