おまけ 第50.5話 出産
出産辺りを詳しくと言われたので書きました。
相変わらず不定期です。
細々と続けています。
20160602修正
年越し祭から九十日、そろそろ暖かくなってきたかな?と言う頃。
スズランが村から来て、ベッドの中で「月の物が来ない。多分お腹に子供がいる」と言われたので、大事を取って俺が毎回帰る事にした。おやかたにはスズランが妊娠したかもしれないので、しばらくしたら村に帰るかもしれないと伝えたら、その日の内に酒場に連れて行かれ盛大に飲み会が始まった。
「あんだけイチャイチャしておいて、やっと子供か! 一回年越祭来てんだぞ? どんだけ待たせてんだよ!」
「いやー金がないと家も買えないし、貯蓄しておかないといざって時に、どうにもなりませんからねー。しばらく待っててもらったんですよ」
「そ、その代償がラッテさんが増えた」
「……あーそうですねー。あの時は毎日胃が痛かったですよねー、結局一発殴られて、許してもらって、女性同士お互いに約束を結んで仲良くやってますし。んー、この場合は協定って言った方が良いのかな? まぁいいか。そして村で同い年の腐れ縁の一人の相方に子供できて。その相手がやっぱりスズランの友達で。女同士で『私達も子供が欲しい』ってなったんじゃないんですか? それに、俺が最前線の砦に行ってたからそれのせいも有るんじゃないんですかねぇ? で、年越祭って節目にせがまれましてね。結局俺が折れちゃいまして、目出度くスズランが嫁に成りましたーーーイェーイ!」
しんみりしてた空気から一転。そう言ってカップの麦酒を一気に煽る。
「羨ましいよー、俺も欲しいっすよー」
「きつね、お前はあのあと結構スィートメモリーに通ってんだろ? どうなんだよ?」
「脈なしっすよー、しょせん俺は搾り取られてるだけっす」
そういって麦酒を一気に煽る。
「で? スズランちゃんはなんだって?」
「『子供が産まれる時に村に居なかったら。とりあえず顔を殴る』って言われました」
「そいつはこえーな」
「今度こそ殺される気がします」
「だろうな」
珍しく酔わされた気がするが、これくらいなら平気なので、普通に歩いて部屋に帰るとラッテがいた。
「おかえりー、私もそろそろ赤ちゃんが欲しいかなーって思ってるんだけど、ダメかな?」
「んー、なんでいきなりそんな事を?」
「ほらね? 一応スズランちゃんより先に赤ちゃん出来ちゃうと申し訳ないでしょ? スズランちゃんの月の物がないって事は、妊娠してるって事でしょー?だからかな? 駄目?」
首を傾けてくるのは卑怯でしょう……まぁ自覚してるし、狙ってるんだと思うけど。
「はいはい、今日は酔ってるから駄目ね。あとは、ここじゃ落ち着いて出来ないから駄目。色町の宿だけ予約だけ取ってくれれば、料金は払うからさ、いつにしたか教えてくれれば、なるべく開けておくからさ」
「んー、ちょうど五日後くらいが当たるかもしれないんだよねー。だから前の日と次の日も欲しいかなー。だから三日間開けて置いてほしいなー」
「ちょっと待って、これだけ確認させて。仕事終わった後に? それとも泊まり込みで?」
「キャー! 泊まり込みがいーのー? カーム君って意外にすごいの? 毎回二回くらいしかしてくれないけど、実は全然足りなかったとか!? いやーん」
「年越祭二回くらい先延ばしでも良いんだけど?」
「仕事が終わってから三日ほど御付き合い頂ければ幸いです」
「はい、わかりました」
◇
それから五十日後、ラッテが「月の物がかなり遅れてるし、なんか気持ち悪いし、胃がムカムカするのー」と言うので、多分悪阻だろう、スズランは全然そんなそぶり見せずに普通に肉食ってたけどな。まぁ、個人差があるみたいだし。
ラッテも村の家の方に行きたいと言う事で、村に戻る数日前から、ラッテが今まで住んでた酒場の二階の部屋を引き払い、一時的に荷物を俺の部屋に置いて寝泊りをしている。
なんでもスズランと一緒に住むらしい。
平気なのか?と思ったが、特に心配するような事は無いらしい。まぁ俺の知らない間にまた密約でもあったんだろう。これ以上は聞いてはいけない気がする。
「じゃぁ今回は必要な物だけ持って行くから、戻って来る時に少しずつ私の荷物もお願いね」
「わかったよ。まぁ、見た感じ三回も運べば、ラッテの荷物は全部運べると思うよ」
「寂しかったら、私の服とか下着とか使ってもいーからね」
「はいはい、ありがとうございます」
「むー心がこもってないなー絶対使わないでしょー」
「使うかもよー?」
「はいはいじゃぁしゅっぱつー」
「そう言えばセレッソさんに挨拶は?」
「カーム君が仕事中に済ませてありますぅー」
「親しかった仕事仲間には?」
「それも休んでる日に、お茶を飲みながら済ませてるよー」
「なら大丈夫だね」
「カーム君こそ、お菓子の作り溜めしておかないと、トレーネさんに帰って来た時グチグチ言われちゃうよー」
「文句が有るなら食うなって言えば、多分黙ると思うよ」
「そーだよね、作ってもらってるのに文句言うのはなんか違うよねー」
そんなやり取りをしながら、普段より多めの荷物を持って俺達は出発した。
パイスラッシュ最高です。
◇
俺は、ラッテの荷物を全部ベリルに運び終わる頃には、色々と私物も片付けていた。と言っても普段から必要な物以外はあまり買わずに、物を増やさなかったからあまり問題はなかった。
家賃が十日分くらい無駄になるが、少し早目に帰ってやらないとスズランやラッテや皆にも悪いので、この頃が丁度良い思い、仕事場の皆に別れを済ませ、クリノクロワの住人にも別れを済ませようとしたら、普通に終わらなかった。
「帰る前にケーキ」
「その……プリンをだな」
「お前の菓子なら何でも良いぞ」
「最後なんで材料も使い切りますよ? 時間が経ってパッサパサになったり、痛んだりしても知りませんからね?」
そう言って、朝から大量にお菓子を作り始める。大量に作り置きをして、お腹を壊さない事を祈ろう……。特にプリン。
◇
「じゃぁ、いままでお世話になりました」
「気が向いたら遊びに来なさい、古株くらいはいると思うわ」
そう言うと、珍しく直ぐに部屋に戻らず、玄関まで見送りに来てくれた。
あの人かなり古株だったのかよ。一体何歳なんだよ!
「ケーキ作らされそうなので、いない時間が好ましいですねー」
「……難しいわね。あの子いつ仕事してるか解らないから」
ですよねー。そんなやり取りをしつつクリノクロワを後にした。
ちなみにプリンは痛みやすいと言う事で、翌朝にはほぼなくなっていた。何考えてるんだあの三人は。途中からセレッソさんの声もキッチンから聞こえたから、途中参加したんだろう。真夜中のプリンパーティーを開催して、朝にはキッチンで苦しそうに横たわっている四人を見た。
あー次は門番か、アイツには前々から言ってあるけど、何言われるかわからんな。
「んじゃ俺、今日から村に戻るから」
「おう! こっちに来たら一緒に飲むぞ、じゃぁな」
意外にあっさりしてた。
◇
村に帰り五日、村長の相談役兼村の便利屋っぽい事をやり始め、その日の仕事が終わり、家に帰ったらスズランが、夕日の当たる窓辺で普段絶対見せないような、眠そうにしながら微笑んだ表情で、お腹を擦っているところを見てドキッとした。
こちらに気が付いたのか「おかえり」と、いつも通り一言だけ言われたので「ただいま」と返しておいた。
とりあえず無性にお腹を触りたくなったので、擦りながらのんびりしてたら、ラッテが仕事から帰って来て「あーずるーい私のも触ってよー」とか言いだし、ラッテのお腹も擦る事にする。
ちなみにラッテは、家畜の餌やりや搾乳をしており「もう少しお腹が大きく成るまで、まだまだがんばるよー」とか言ってる。世界が違うからか、それとも女性が強いからかは知らないが、少し安全にしててほしい気持ちで一杯だった。受付嬢とか似合いそうだし。けどそういううところはこの村にないけどな。
夕飯は俺が来るまで当番制だったが、今は出来る限り俺が担当している。帰りが遅くなった時だけ、ラッテが作っている。理由は簡単「スズランちゃんが作ると、お肉しか出ないんだもん」だそうだ。なので肉枠は別で作り、肉を多めにスズランに配膳し、皆で食べる事になっている。
「「「いただきます」」」
今日は緑黄色野菜を煮て、鳥のササミを和えたサラダに、ドレッシングは脂質を抑える為にレモンと塩コショウにして、こっちの世界で初めて見かけた豆類を煮て、脂身を落とした鶏肉とトマト、塩コショウで味を調えた煮込んだ物を出した。ちなみに、今までの食事を聞いて驚き、食生活の改善に努めている、もちろん子供の為に。だって今まで、鶏肉が大半を占めていたらしい。
一応お腹の子供の為に、色々な栄養素を入れて、塩分を少し控えてあるが、野菜嫌いのスズランがやっぱり肉しか食べない。辛うじて豆とトマトと鶏肉の煮込みだけは食べるが、緑黄色野菜のサラダには手を付けない。
「スズラン。俺は君が嫌いで野菜を出してるわけじゃない。肉とパンしか食べてなくても今まで生きて来られたから、その辺はもう気にしてはいない。でもこれはお腹の子供の為に作ってるんだから、食べてくれると物凄くうれしいんだが」
物凄く睨んで来るが、負けるわけにもいかない。
「これは、お腹の子供の成長を助ける食べ物だ。スズランには要らないと思うけど、お腹の子供は必要としている食べ物なんだ。食べた物は体の中で血となり肉となる、それがお腹の子供にも行くんだ、だから食べてくれないかな?」
そういうと物凄くいやそうにしながら、苦虫を噛み潰したような顔で、野菜サラダを食べきり、トマトで煮込んだスズラン用の、多めの鶏肉で口直しをして幸せそうな顔をしている。好みがはっきりし過ぎでしょう。
ラッテは「ほー」と言いながら、パンを煮込み料理に浸して食べている。まぁその食べ方も美味しいと思うよ。俺だってコーンスープに食パン浸して食べてたし。
食後には、カフェインが無い麦茶を出しておいた。何故か暖かい方が人気なので、体を冷やす心配はないので今のところ助かっている。
男の俺でもこれくらいの知識はあるからな、子供の為にできる事はなるべくしておかないとね?
「カーム君さー今日の料理も薄味だったんだけど、調味料少ないの?」
「塩味が濃いと、お腹の子供に少し悪い。だから味が薄くても、子供の為だと思って我慢してくれ」
「んーわかった」
スズランは、肉が食べられれば薄味でも満足だけど、ラッテは少し不満らしい。
◇
そろそろ収穫の時期が近づいて来た、だがスズランの出産も近かった。
お腹が大きくなり、スズランが「あ。動いてる」と言いだしたので、なるべく村から離れない様にして、何かあったら直ぐに家に帰れるようにしていた。
ヴルストと一緒に酒蔵で「次は酸っぱくて飲めない葡萄酒で、一樽分だけ試そうか」と話している時に、萌えない狐耳のおっさんが息を切らして走って来た。
「カーム! スズランさんが産気づいたぞ!」
「はぁ!? 今朝陣痛とか無かったぞ? ヴルスト悪ぃ! おっさんありがとう!」
そう言い残し、肉体強化も使い、全力で走るが流石に肉体はついて来ても、心臓や肺は付いてこれない。流石にこれはやばかった。
俺は家のドアを思い切り開けると、両親と義両親が忙しなく動いており、ラッテもお腹が大きいのに、猫耳の太った助産師に指示を求め動いていた。
「カーム! 湯を沸かしな!」
助産師の怒号が響き、どれだけ必要か解らないので、風呂場に熱湯を満タンにして、ソコから必要なだけくみ出して、ぬるま湯にしたり出来るからな。
「カーム! スズランの側にいて腰の辺り擦ったり声かけてやんな! 男なんか出産の時なんか、何も出来ないんだから!」
「はい!」
俺は隣に座り、優しく撫でる様に擦っている。
「カーム」
「なんだい?」
「生んだら。肉大盛り……ね。あと頭撫でて」
ハァーっハァーッと、肩で息をしながら大粒の汗を流している。
「わかった、わかったから、一番楽な姿勢で何か落ち着ける事を思いかべて」
「鳥。豚。鹿。羊。牛。猪。兎。蛇や蛙や蝙蝠も食べられるって聞いた事がある」
食肉かよ、どんだけ食いたいんだよ。そう思いながら頭も撫でてやる。
「蛇も蛙も食べられるから、後で作ってやるから……」
「約束」
「わかったから楽にして」
とりあえず話を合わせて、落ち着かせよう。
「んーっ」
そんな声と共に、思い切り手首を握られ、折れるんじゃないかと言うくらい力を込められた。スズランの力で握られて、折れなかったのが奇跡だが、しばらくして手首に痣が出来ていた。
あ、男の俺でもわかる、多分そろそろだ。そう思ってたら助産師に引きはがされた。
「今から男は入って来るんじゃないよ! 入ってきたらお湯をぶっかけるからね!」
「はい!」
バンッ!!と扉を閉められた、おばちゃん怖いよ。ってか「はい」しか言えねぇよ。
「息子よ、お前もあの方に取り上げてもらったんだぞ、後でお礼を言っておけよ」
「はい」
「そういやスズランの時もそうだったな。まぁ、こうなったら男の出る幕はないな」
「そうだな、カームの時もなかったな、とりあえず何もできずにウロウロしてただけだったな」
「俺もだ」
「息子よ、お前は冷静なんだな」
「まぁ、慌ててもどうしようもないからね。信じて待つしかないよ」
「そうだな、息子の方が冷静なのが恥ずかしいな」
「そうだぞヘイル、俺の事を見習え」
「そわそわして、膝を小刻みに揺らしてるのを真似すればいいのか?」
「扉の前をウロウロするよりかは良いだろ?」
その時扉が勢いよく開き「五月蠅いよあんたたち! もう少し静かに慌ててな!」バンァン!とまた勢いよく扉を閉める。
助産師こえぇ。
体感で一時間くらい経っただろうか?
今までに、聞いた時のない低い唸り声のような叫び声が聞こえ、そのあと直ぐに子供の泣き声が聞こえた。
だがまだ扉は開かない。後産だろうか?
それからしばらくして、綺麗なタオルに包まれた子供を、助産師が抱いて出て来た。
「可愛い母親似の女の子だよ、見てごらんこの角を!」
そう言って見せてもらえた。その後 部屋に入れさせてもらったが、まず目に着いたのが、痛みをこらえる為か、力を入れるために用意された棒が握りつぶされていた。圧壊って言うの?わからんが綺麗に手形が付いているとか、そんなんじゃなくバキバキに割れている。もしかしたら俺の腕はあんな風になっていたのかもしれない。
折れた棒を眺めてたら、助産師がスズランに子供を預け、俺の背中を叩いて来た。
「ほら、近くにいておやり」
「ありがとうございました」
そう言って、スズランの近くに行くと。
「名前は任せる。とりあえず抱いてあげて」
俺は首が座ってない我が子を、これ以上ないくらいに大切に受け取り、小さく寝息を立て寝ている子供の暖かさに涙が出てしまった。
無言ですすり泣いてたら、スズランに太ももを軽く殴られ。
「しっかりしてよね。お父さん」
微笑みながら言われ、父になった事を痛感させられさらに泣いた。
泣いていたら、リコリスさんが子供を俺から受け取り、スズランの隣に寝かせ、気を利かせ部屋から出て行ったら「肉は?」と聞いて来た。
「悪いな、もう少しスズランが落ち着いたらね」
「嘘つき」
微笑みながらそう言われ、いつもより表情が柔らかくなってるのを見て、スズランも母になったんだなと思った。
◇
「カーム。胸が小さくてもおっぱいは出るんだね」
と授乳中に言われ、少し笑ってしまった。
「ずっとそれだけ気にしてた。何を笑ってるの?」
「いや何でもないよ、出て良かったね」
「うん。で。この子の名前は?」
「そうだね、『リリー』って言うのはどうかな?」
スズランの英名の、リリーオブザヴァリーから名付けてみた。
「良い響き」
「だろ? 実はスズランと関係有るんだよ」
「何?」
「遠い国の言葉で鈴蘭って意味」
リリーオブザヴァリーだと長いから『リリー』にしたけど、リリーだけじゃ百合なんだよな……まぁ、いいか。
「ふーん。私が二人になっちゃった」
「同じ名前の魔族なんかいっぱいいるじゃないか」
「そうね……。ねぇカーム」
「なに?」
「片方空いてるけど飲む?」
小首を傾げ聞いて来る。こいつは反則だね
「……とても魅力的な提案だけど、リリーの分がなくなっちゃうから良いよ」
「欲しい時は言ってね」
「はいはい」
そう言って、リリーを抱き上げ背中の辺りをを叩いてゲップをさせてる姿は、すっかり母親が板について来ている。
子供の頃から口数が少なくて、力が強すぎる子だったけど、なんだかんだで母親にしっかりなれるもんなんだな。俺も父親にならないとな。
◇
ラッテの方は、年越し祭の六十日くらい前から、俺の泣きが入り、仕事を休んでもらっている。
「もーちょっと頑張れたんだけどなー」
と、片方の頬を膨らませて、ワザとらしく不機嫌になっている。ってかどこの合衆国の女性ですか貴女は。俺は気が気じゃ無かったって言うのに。
年越し祭の十日前の朝から、脂汗をダラダラ垂らし、苦しそうにしているラッテを見かけ「これ陣痛じゃね?」と思い、助産師のおばさんのところに走っていく。
症状を詳しく話したら「家に行くよ!」と言われ、荷物を全部任され、俺よりも先に家に走って行き、準備を進めていた。
肩で息をしているところに「カーム! お湯だよ! 二回目なんだからいい加減覚えな!」
「はい!」
やっぱ「はい」しか言わせてもらえない。
その後、ラッテの近くまで行き、要望に応える。
「んー、腰の辺りさすってー」
「こう?」
「うん、そうそう、アリガトー」
痛みで余裕がないのか、棒読みに聞こえる。
「ぁあ゛ぁー」と言うような、苦しそうな呻き声も上げている。
「気持ち悪い、お腹の辺りを集中的に針で刺されてる気分」
「そっか、ごめん、その痛みは理解してあげられない」
「ん゛ー、月の物がずっと来てる様な不快感がするー、お腹に手を当ててー。さすってー」
そう言われ、お腹に手を持って優しく擦ってあげる。
「うう゛ーーああ゛ぁー」
「大丈夫?」
心配で声をかけるが、助産師が入って来て、叩きだされる。やっぱり色々と凄いな。
「息子よ。二回目の妻の出産だが、落ち着いているか?」
「少しは……。けど二回目って言っても、ラッテは初産だから少しは心配だよ」
「そうか……」
「ただ、父さんや母さん、イチイさんやリコリスさんが自分の娘みたいに、ラッテと接してくれることがすごく嬉しい」
「そうか……」
「あったりめーだろ。スズランと一緒にカームを好きになってんだ。俺に取っちゃスズランの姉みてぇもんだよ」
「うむ、家内も『娘が出来たみたい』と喜んでたからな、まぁ少しだけ歳は近いが」
「父さん、イチイさん、ありがとうございます。俺が不甲斐ないばかりにスズラン以外の嫁を」
「おいおい気にするなよ、俺の知り合いにも嫁が多い奴がいるって話しただろ。まぁ、お前がそれになるとは思わなかったけどな。それでもスズランの大切な旦那だ、差別はしねぇよ」
「ありがとうございます」
「あんた達!うるさいよ!」バン!
やっぱこえぇ……。
しばらくして金切声が聞こえ、ビクッと体が震え、少し腰を浮かせたが、父に「落ち着け」と肩を叩かれ座らされた。
「母さんもあんな感じだったぞ。気にするな。お前にできる事は生まれたら優しくしてやる事だけだ」
「はい」
スズランの時の様に、しばらくして子供を抱いて助産師が出て来た。
「元気な男の子だよ、髪なんかお父さんとお母さんの色を受け継いでるねぇ、綺麗な銀色に近い灰色だよ」
「何度もありがとうございます」
「良いから会いに行っておやり」
「はい」
やっぱり「はい」しか言えない。
部屋に入ってまず気になったのは、捕まる為の棒だが、ラッテの場合はそのままだった。あんなになるのはやっぱりスズランだけか。
「あーパパ、私頑張ったよ」
「おめでとう、男の子なんだって?」
「助産師さんが言ってたよ、俺とラッテの髪の色を混ぜた色だよ、見方によっては太陽に透けて銀色に見えるかもね」
そう言ってリリーで首の座ってないリリーを抱きなれてる俺は、ラッテの隣に優しく寝かせてあげた。
「本当だー、綺麗だねー」
今まで太陽みたいな笑顔だったのが、少し日差しが柔らかくなった夕日けみたいな雰囲気の微笑み方をしていた。
女性はこうも変わる物なのか?男の俺にはわからないが、ラッテも母になったいたいだ。
三日して、母子ともに落ち着いたので「名前はどうするのー? やっぱりこの子もリリーちゃんみたく、私と関係有る名前なの?」と聞かれた。
「そうだね『ミエル』って名前にしたいんだけど、どう?」
「ふふ、女の子みたいな名前だね、やっぱり理由が有るの?」
「あるよ、ラッテって遠い国の言葉で『牛乳』って意味なんだ」
「えー、何それー」
「国によって呼び方が違う国なんてたくさんあるよ、それで『ミエル』って言うのは蜂蜜って意味。牛乳を温めて入れると美味しいよね? だから相性はいいかな? って思って」
「ふふーん、母親と子供で相性が良いってなんかエッチな響きー。でもそういうなら別に良いよ。蜂蜜って知ってる人は少ないんでしょ? なら可愛い名前って事で」
凄く柔らかい笑顔で、ラッテも納得してくれた。
◇
ラッテが授乳してる時に微笑みながら見ていたらいきなり「パパも飲む?」と聞いて来た。これは旦那連中は全員聞かれてるのだろうか?
物凄く魅力的な提案だけど、なんとか断った。
その数日後の夜に、三馬鹿に召集をかけ酒場で聞いて見た。
「とりあえずミエル君が無事産まれておめでとう」
「「おめでとう」」
「ありがとう。で……だ、早速本題に入らせてもらう。スズランとラッテが子供にミルクを与えてる時に『飲む?』って聞かれるんだけど、正直どうしていいかわからない。皆も言われてるのか気になって仕方ないから、今日は無理言って男だけの集まりって事で誘ったんだけど……正直に話してくれ。言われた事あるか?」
「あ、あるぜ」
「んーあるよ」
「うん、あるよー」
皆あるみたいだ、その誘いに乗ったのか?正直気になる。
「飲んだ?」
「あぁ、少し恥ずかしかったけどな」
「どんな味か興味があったから少しだけ飲ませてもらったよ」
「んー無理矢理だった」
シュペックが可愛そうです……。
「そうかー、俺も味くらいは知っておくべきかな。赤ちゃんの頃の記憶なんか覚えてないからなー」
「そうだな」
「あーそうそう。このままだと皆学校で同じ学年で幼馴染になりそうだよな、親子共々仲良く行こうぜ」
「応よ」「あぁ」「うん!」
その後軽く皆で飲んで夜も遅くならない内に帰った。
◇
子供の夜泣きが酷い、俺はなるべく妻達の負担を減らす為に、できる事はやってるが、流石に授乳だけは出来ない。冷蔵技術もないし、粉ミルクもないから、容器に取っておくとか、その場で作るって事は出来ない。氷を作り出し保存しても良いが、容器の衛生状態も不安なので、その辺は考えても口には出さなかった。
ミルクをあげ終ると「後はやっておくから寝て良いよ。ありがとう」と言って、おしめを確認したりしてから寝かしつける。
炊事洗濯も俺の仕事にした。マタニティーブルーの兆候は少しあったが、なるべく二人に話しかけ、相談って形で溜めこませない様にさせ『子供は母親が育てるのでは無く夫婦で育てる』と言う事を認識させた。
そんな事をしていたので、育児ノイローゼにはならず過せている。
◇
そろそろ離乳食の準備かな?と思い、ミルクパン粥を作り、少しづつ与え始めるが、スズランが塩辛い干し肉を口の中でペースト状にして、与えようとしてた時には流石に注意した。
なんで与えちゃいけないかもしっかり説明して、珍しく落ち込んでいたが、この辺もしっかりフォローしておいた。
◇
時々と言うよりは、ほぼ毎日両親や義両親の誰かがやって来て、リリーやミエルを見に来る。言った通り分け隔てなく接してくれるのが本当にありがたい。
ただ、あの厳つくて恐ろしいイチイさんが「じーじだぞ~」と、どこから出したかわからない声を聞いた時は、聞かなかった事にしたい記憶の一部だ。
◇
子供が産まれ一年、元気に這い回ったり、掴まり立を覚え、行動範囲が広まり目が離せない時期だ。
俺は生後半年の頃から離乳食としてミルクパン粥を根気よく作り与えている。何故かラッテに大人気で、ミエルが残した物を平らげお代わりまで要求してきたので、少し多めに作る事にしている。
スズランが、また塩辛い干し肉を、口の中でペースト状にした物を与えようとしていたので、また注意した。
どうしても肉を食べさせたいと言うので、鳥のササミを茹でてほぐした物を水で戻したパンに混ぜて、薄味のおかゆっぽくして食べさせてあげた。
この頃から俺は簡単な言葉を語りかけ、一歳になる頃には短い単語を言う様になり、大体何を言いたいかは理解できるようになった。
そろそろ断乳なので、すった林檎や、少し甘さを控えたミルククッキーを作ったら、三馬鹿の嫁達にもお願いされ、作る事になった。
面倒くさいので、作り方を教えるために家に集めたが、ミールだけが焦がすと言う不器用っぷりを発揮、流石がっかり美人、期待を裏切らないね。仕方ないので後日シンケンを呼び、作り方を教えたらクチナシやトリャープカさんより上手かった。多分教えたら何でもこなす万能型なんだろう。ミールは「女としての威厳がー」と俺に再度作り方を習いに来たが、少しだけマシになってきたので「あとはシンケンに教えてもらえ」と言って断った。旦那がいるのに、俺の嫁が居る家庭にあまり来るなよ。スズランやラッテやシンケンは気にしてないが俺が気にするんだよ。
母さんは「あら、手先が器用だと思ってたけど、お菓子作りも上手だったのね。女の子に生まれてくれれば良かったのに」とか言いながら、孫と遊ぶ姿は見た目が若いのにお婆ちゃんだった。娘が欲しかったのだろうか?
ちなみに「ぱーぱー」「まーまー」「じーじー」「ばーばー」などの短い単語は言えるようになった。リリーを抱いてる時に「にくー」と聞いた時は、一緒にいたスズランを見たら目を反らされた。どんだけ肉に対しての英才教育するつもりですか?
◇
少し大きく成ったから、庭でスズランが育ててる鶏や鴨の雛を触らせたり、ラッテが仕事に行っている、家畜達にも触れさせるようにしている。過保護すぎても免疫力が下がるからな。もちろん触ったらしっかり手は洗わせてるけどな。
ミエルは少し怖がりなのか、大型の家畜にはあまり触りたがらない。
リリーは物怖じしないのか、どんどん触りに行ってバンバン叩いて、家畜が迷惑そうな顔をしていた。すまないな、家畜達。
ちなみにミエルは、食用で飼っている兎が大好きで、放って置くと追いかけたり触ったりしている。大きいのが怖いみたいだな。
子供達は元気に育ってくれて本当に幸せだ、こんな時間が続いたらいいのに。
閑話
午後の奥様達のお茶会
「ねー? 旦那って何かしてくれる? ヴルストってあまりしてくれないのよ」
「私のところはお義父さんとお義母さんが『紳士なら女性への負担を軽くしてやれ』って言われてるみたいで、色々やってくれますわ。お母様はなんだかんだ言って、夜中に起きてるので、夜中に面倒見てくれますし」
「私のところは、私より母親してますよ。なんだかんだ言ってシュペックは細かいところに良く気が付きます。私としてはありがたい事です」
「カームは物凄く頑張ってる」
「そうだねー、子供がお腹にいる頃から、子供の為の食事だって言って作ってたし。夜泣きが酷かった頃は、ミルクあげたら寝てていいよって言って、寝かしつけてくれてたし、炊事洗濯もしてくれて、離乳食もかなり凝った物を作ってくれてますよー。疲れてる時は相談にも乗ってくれて、自分が疲れてるのに、子供や私達優先で気にかけてくれてますねー」
「ただ干し肉を上げようとすると物凄く怒る」
スズランちゃんはコクコクと頷きながら一言呟き、お茶を飲んでいる。
「当たり前だよ、あんなしょっぱい物……」「あんなに硬いのは……」「それはちょっと……」
と皆否定している。
「けどヴルストも見習ってほしいなー、この子供用のクッキーだって作ってるんでしょう? うちは全然よ、優しくてあやしてくれるけど炊事洗濯関係は全然駄目ね、二人が羨ましいよ」
「そうですわね、まさかこんなにマメだとは思いませんでしたわ。スズランがいなければ私が欲しかったくらいですわ」
「そうですね、学校にいた頃は、一応真面目に授業を聞いていて、少し奇抜な考えの生徒って噂でしたが。どこで覚えて来たんでしょうか? 町ですかね?」
「町なんですかねー? 先輩の話だと、引っ越しの挨拶の粗品と、卵の白身で作った簡単なクッキーを作ってた話ですよー」
「町に行く前に作る機会なんかあったかな?」
「ない」
「ですわよね?」
「不思議な方ですね」
そう喋りつつ、カーム君が作ったクッキーを頬張りながらお茶を皆が飲んでいる。
閑話2
お茶会から数日後酒場にて
「おいカーム。お前、嫁に優しすぎて俺の肩身が狭いんだよ」
「こっちは子供の為のクッキー作りをさせられてるよ……」
「何も言われてないよ?」
「あん? 俺は普通に優しくしつつ、嫁に最大限気使いして、子供に甘いだけだ!」
「それが原因だ」「それが当たり前だと思わないで」
「え? 良い事でしょ?」
「俺なりに頑張ってるのに、皆酷くない?」
「今日はカームの奢りな」
「ひでぇ!」
50話と少し内容にズレが有りますが50話はスズランとラッテを分けていたのであんな感じになりました。
後日子供達もやりたいなーと思ってます。
が!予定は未定!




