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第50話 魔王に成った時の事

細々と続けてます。

相変わらず不定期です。


やっと魔王になれます。

20160527修正

 年越際までもう少しだが、とりあえず村に居る間はスズランやラッテの事も有るので、いつもの空家を借りて三人で住んでいる。

 一応恋仲で同棲していても、子供がいないと夫婦と世間からは認められない。

 スズランの「そろそろ子供が欲しい」と言うお願いから、周りに気を使わないリラックスできる環境を、一応整えておこうと言う訳でとりあえず三十日ほど借りた。

 祭りの準備中に、クチナシに会う機会があった。既にお腹は少し大きく成っており、どのくらいで生まれるかは、両親の種族の違いで妊娠期間が違うので、いつ生まれるかはわからないそうだ。同族どうしなら、ある程度わかるらしいが、混種だと気が抜けないらしい。

 ヴルストの話だと「俺の時は百日」と言っていた。仕込んでからなのか、月の物が来なくなってからはわからないが、ゴブリンは多産って本当だな。魔物の方はわからんが。


 これに触発されたのか、ミールやトリャープカさんも仕込んでいると言う話を、スズランから聞いた。だから「私も欲しい」と言う流れになった。

まぁ、グラナーデもしてるらしいからな、同級生の子作りブームってか?

 俺も最前線砦のハゲネズミのおかげで、金貨六枚と給料と今までの貯蓄のおかげで、ある程度どうにかなるだろうと思い、これに合意して俺は二人から望まれれば励んでいる。

 何故かラッテはスズランを立てて、積極的に参加はしてこない。正直肉体的にありがたいが、少し気を使ってしまう。気を使ってるのは、向こうなんだろうけどな。

 けど流石に毎日はどうかと思う、前に「今日は当たらないから」とか言ってたので大体の目星は付くとは思うのだけど、戦場に行っていた反動もあるのだろうか?



 年越祭が終わり、ギリギリまで村にいたが、帰って来る度にいちいち家を借りるのが面倒になり、いつも使っていた空家をそのまま現金で一括で買い、スズランとラッテが住んで家を守ってくれる事になった。ラッテは住んでいた下級区の酒場の二階の一室を引き払い、ベリルに引っ越してくれた。

 値段は資材や手間賃もろもろで、約金貨二枚だった、前世の感覚からは考えられないが、それでも普通以下の物らしい。まぁ、家を買っても物価も安いから特に問題はないだろう。


 それから三ヶ月後にスズランの妊娠が発覚して、三十日に一回スズランと交互にお互いに行き来してたのが、俺だけが村に帰る様になり、おやかたにも子供が生まれそうになったら故郷に帰ると伝えてある。


 そして春が始まるという頃に、萌えないオッサン三人組が村に来て、約束のポーションを全員で返しに来てくれたみたいだ。

 俺は定期的に帰ってたので、帰った時におっさん達が家に訪ねて来てくれて、涙を流しながら家に迎え入れた。聞いた話では戦場で生き残り、刑も比較的軽かったので雪が降ってきたら戦場から戻って来られて、少し働いてお金を貯めてから、この村に来たらしい。

 村が気に入ったらしく、移住する流れになった。

 この頃にヴルストとクチナシの第一子の女の子がうまれ、仲間内で盛大に祝った。

 それから、シンケンとミール、シュペックとトリャープカさんの子供も無事に産まれた。俺とスズランの子も秋の刈り入れ前に産まれたので慌ただしかった。多分仕込みの時期からして三百日前後で人と同じくらいか?

 まぁスズランの見た目なんか角が生えてるだけで人族そっくりだしな。


 はじめて自分の子供を抱いた時は涙があふれたが、産後なのにベッドの上から太腿を軽く殴られ「しっかりしてね。お父さん」と父になった事を痛感させられ更に泣いた。

 スズランとの子は女の子なので、リリーオブザヴァリーの頭だけを取ってリリーと名付けた。スズランも納得してくれた。

 そして初孫を見た父さんやイチイさんが、気持ち悪いほど激甘になり干し柿の様に甘々になっている。威厳や威圧感はすでに皆無で、母さんやリコリスさんからは早速子供の世話の仕方を教わっている。

「胸が小さくてもおっぱいは出るんだ」という言葉は多分一生忘れられない。


 ラッテもスズランの妊娠を知ってから、俺に「私もー」とか言い、子供をねだり順調にお腹が大きく成って、年越祭前に産まれたので、こっちも少し慌ただしかった。

 ラッテが男の子を生み、親族の名前も知らないので、母親と相性の良さそうな「ミエル」と名付けた。ベッドで寝ているラッテからは「女の子みたい」と笑顔で言われたけど、こっちの名前の付け方は良くわからないので、二人とも母親と似たような名前を付けるしかない。ちなみに両親は「いない」で通されたので、それ以上は聞かない事にした。

「パパも飲む?」と言われた時はかなり考えたが、今後子供に「パパはねーミエルと一緒におっぱい飲んでたんだよー」とか言われ続けそうなので、かなり残念だが止めておいた。


 ミエルも、両方の両親が分け隔てなく、リリーと一緒に可愛がっている。

 子供達には元気に育ってくれれば良いと思っている。


 イチイさんの「じーじだぞい」と、どこから出したかわからない声を聞いた時は、聞かなかった事にしたい記憶の一部だ。

 とりあえず、仕事は家の前の畑で麦を育て、村の相談役と言う名の、何でも屋的な事もやらされている。



 子供が産まれた年の年越祭には、クリノクロワの住人が、大家さんを除く皆がやって来て祝福してくれた。

 セレッソさん、頼むから子供が乳離れしてないラッテに、酒を進めないでくれ、ってかまだ生後一ヶ月経ってねぇんだからさ。

 理由は説明できなかったので「子供の事も有るし」で誤魔化したが「ご両親が何とかしてくれるわよ~」で済まされ飲ませてた。子供が心配だ。

 スズランも、リリーに肉を与えようとしないでくれ。こっちはある意味母親として心配だ。



 子供が産まれた次の春には村長の頼みで周りの村への技術指導と言う名の支援活動をして「なるべく近隣の村同士の貧富の差をなるべく埋めよう」って事で井戸掘りや開墾作業や疎水作りをしてベリル村で得たノウハウを教えて周り、エジリンからテフロイトに行く途中に有った寒村も、とりあえず開墾作業だけ手伝い。村長に「エジリンに行って村への移住者募集して住人をとりあえず増やそう」とだけ言ってある程度の方針だけ決めさせて、せめて冬に餓えない様な対策だけを、周りの村に教えて回った。その後もちょこちょこ村を周り、村長会議なる物も開催され俺も連れてかれて意見を出し合った。

 子供が小さいのに出張とか勘弁してほしい。


 翌年の秋には他の村も去年に比べ収穫が大幅に上がり、寒村だった村も「今年の冬は餓死者が出ないかもしれない」と言っていたのでまずまずの成果だったかもしれない。

 同年に学校の魔法の特別講師としても呼ばれ「なるべく解りやすいイメージを教えて欲しい」とビルケ先生に言われ、子供達に桶から水を掬って見せたり、燃えている枝を見せ「枝が自分の指だと思って」と言ったりしてとりあえず全員が簡単な魔法を使えるようにさせ、ついでにマンドラゴラのガイケちゃんを引っこ抜き全員に気絶を体験させ「ビルケ先生にマンドラゴラの特徴を良く聞いて、見かけたら大人の人に教えましょう」とも言っておいた。俺も野生のマンドラゴラ見た事無ないけどね。



 子供が産まれ一年、元気に這い回ったり掴まり立を覚え行動範囲が広まり目が離せない時期だ。

 俺は生後半年の頃から離乳食としてミルクパン粥を作り与えている。何故かラッテに大人気で、ミエルが残した物を平らげ、お代わりまで要求してきたので少し多めに作る事にしている。

 スズランは塩辛い干し肉を咀嚼して、ペースト状になった物をリリーに与えようとしたので全力で阻止した。

 どうしても肉を食べさせたいと言うので、鳥のササミを茹でてほぐした物を、水で戻したパンに混ぜて薄味のおかゆっぽくして食べさせてあげた。

 この頃から俺は、簡単な言葉を語りかけ一歳になる頃には短い単語を言う様になり、大体何を言いたいかは理解できるようになった。

 そろそろ断乳なので、すった林檎や少し甘さを控えたミルククッキーを作ったら、三馬鹿の嫁達にもお願いされ、作る事になった。

 めんどくさいので作り方を教えるために家に集まったが、ミールだけが焦がすと言う不器用っぷりを発揮。流石がっかり美人、期待を裏切らないね。仕方ないので後日シンケンを呼び、作り方を教えたら、クチナシより上手かった、それでもトリャープカさんよりは、上手くないけどな。多分教えたら何でもこなす万能型なんだろう。ミールは「女としての威厳がー」と俺に再度作り方を習いに来たが、少しだけマシになってきたので「あとはシンケンに教えてもらえ」と言って断った。旦那がいるのに嫁がいる家庭に来るなよ。スズランやラッテやシンケンは気にしてないが俺が気にするんだよ。

 母さんも「あら、手先が器用だと思ってたけどお菓子作りも上手だったのね。女の子に生まれてくれれば良かったのに」とか言いながら、孫と遊ぶ姿は見た目が若いのにお婆ちゃんだった。娘が欲しかったのだろうか?



 二年後


 子供達も三歳になり、村の中を遊びまわる様になる。

 同い年のヴルストとクチナシの娘『プリムラ』

 シンケンとミールの息子『ペルナ』

 シュペックとトリャープカの娘『レーィカ』と、毎日遊び、帰って来ておやつを食べる。

 他にも友達はいるみたいだが、親同士が知り合いってなだけあって特に仲が良い。しかも俺のお菓子が出る、皆の溜まり場だ。昔の俺みたく森に行けよ。多分あの辺なら今は危なくないから。

 えぇ、子供を連れて森に行こうとしたら、ラッテに睨まれたので無理でした。

 過保護すぎないか?「森に行くなら魔法教えてあげてよー」と言われたので、毛糸に魔力を通し、自在に操って見せて魔力操作と、毛糸をどういう風にしたいかのイメージを教え、バルーンアートっぽくやって見せ、魔法を教えてるっぽい事をやって見せた。

 毛糸を兎っぽく作り、魔力で操りピョンピョンさせたら物凄く喜んでた。

「お父さんすごい」「パパすごーい」と、個人的にはどれか一つに呼び方を絞ってほしいけど、スズランは娘に「お父さん」と教え、ラッテは「パパ」と教えている。何か譲れない物があるなら仕方ないと思ったけど、特にないらしい。

 まぁ、この村で五歳になって初めて魔法習うけど、早すぎると思うがラッテは教育熱心だった。まぁ、まずは蛇みたいに、うねうねさせることから始めるかね。



 子供達に、夜に魔法の練習っぽい事を教えてたら、ミエルの方が上手で、リリーは少し不器用だった。この辺は母親の影響なのかもしれないが、リリーには最低限、水と火くらいは出せる様にさせてあげたい。

 まぁ、スズランが火炎放射器みたいな炎を最初の授業で出してたから、単純で高火力に成りそうな物は覚えられると思う。



 子供達も四歳になり、周りの村も豊かになり始め、俺は俺で気楽に畑仕事や、こっちの家に移動させた家禽達の世話も、たまにしている。なれれば可愛いきがするが、情が生まれると殺せないので、なんとか割り切っている。


「幸せってこんな感じなのかな~」と思ってたら、見知らぬ魔族がいきなり空から降りて来た。

「君なかなか強いみたいだね、それくらい強くなったら魔王になれるけど、どうする?」と交渉をしてきた。

「はぁ?」

 見た目はラッテより小さいのに、威圧感や殺気やらが物凄い。雰囲気的にその辺の子供でも危ないとわかる空気だ。

「んー、状況が飲み込めてないみたいだね」

「えぇ、いきなり空から降りて来て魔王にならない? とか聞かれましても」

「そっかそっか、じゃぁ詳しく話そう。そこが君の家かい? なら中で話そう」

 そう言って、ズカズカと家の中に入って行った。

 スズランが、最初は物凄く警戒していたが、雰囲気的に不味いと思い攻撃はしてなかったみたいだ。

 とりあえず椅子に座らせ、麦茶をだしたら「ありがとう」と言って来たので、少しは常識があるみたいだ。

「さて、何から話そうかな。あーそうだ、とある無人島を拠点にしてた魔王が、召喚された勇者って奴に殺されちゃってね。其の後釜に成ってほしんだ」

「……いきなりですね」

「そうでもないさ。ある程度前々から目星は付けてたよ。君にとってはいきなりだけど」

 何を言ってるんだこいつは。

「具体的に何をしろっていうんですか」

「何もしないで良いよ、むしろ好きにして良い。前任は奴隷をこき使って城を建てようとしてたけど、労働力も足りないし資材も足りない。だから、周りから無理矢理かき集めてたから物凄く目立っちゃって、勇者が現れて倒されちゃったわけさ」

 ズズズーと暖かい麦茶を啜り「あーこれ美味しいね」とか言っている。確かに砦にいた頃に現れた魔王は、自分の領地で人族が云々言ってたからな、確かに基本自由なのかもしれない。

「勇者に倒される危険があるかもしれないのに、魔王に成れと?」

「そうそう、この辺で強い魔族って君くらいしかいなくてね、そんなに目立つような事しなければ平気だよ。ほら、人族との港町や国境付近では、魔族と人族が争わないで暮らしてるし」

「私はカームがどんな判断をしようと付いて行く。子供もどうにかするからすきにしていいよ」

「でもなぁー、子供達に苦労させそうで」

「じゃあこうしよう、転移魔法陣を教えるから、この村と行き来しないかい? あと人族の奴隷に開墾用の道具も付けよう」

「簡単に言ってくれますね」

「こっちは領地が開いてるから、埋めときたいんだよ」

 そんな話をしているとラッテが帰って来て「あ、こんにちはー」とか挨拶して、一緒のテーブルに座る。

「相談させてください」

「いいよ」

 そう言って麦茶を飲んでいるのでラッテに、軽く訳を話した。

「カーム君! 魔王に成るべきです! 魔王は魔族の憧れなんですよ!」

 今まで見た時ないくらい興奮して、声を荒げて喋っている。

「けど前任が、勇者に倒されてるんだよ?」

「それは馬鹿だったからでしょう? カーム君なら平気です!」

「何を根拠に言ってるかわからないけど無人島だよ?」

「あー言いわすれてたけど、三日に一度、遠くに貨物船が通るし、ハーピー族とか水生魔族が確認されてるから、全くの無人って訳じゃないんだよ、ただ誰も住み着かないだけ。たまに遭難者も打ち上げられるよ、島の広さは大体一周は歩いて五日、ちょうど麦みたいな形で、上の方が少し欠けてる感じかな」

 そう言って懐から真上から見たような地図を取り出し手見せ、スズランがお茶のお代りを目の前の魔人に注いでいる。

 丁度米の胚芽を少し深くしたような湾で岬が少し長いな。

「でかいな、なんでこんな島が今まで手付かずだったのかが不思議だよ」

「手付かずって言うより、魔王が就任、その後勇者が討伐の繰り返しだから、魔族も人族も寄り付かないんだよね」

「最悪だな」

「やりがいのある仕事だと思えば良いよ、君は周りの村を豊かにする能力も知識もあるし良識もある。しかも魔王クラスの強さもある。完璧じゃないか!」

 両手を広げ、何かの演説の様に言い放ち、ラッテは「魔王になろうよー」と言っている。頼むからカップを持ったまま両手を広げるのはやめてくれ。今麦茶が少し飛んだぞ。

「スズランはどう思う?」

「カームが死ななければ何でもいい」

 そう言いながらお茶を啜っている。

「あーはいはい。その転移魔法陣って奴で、行き来出来るなら安全でしょう」

「色々制限があるけどね。しいて言うならこのテーブルに乗る物位しか転移させられない。一定量の魔力を込めても発動までにちょっと時間がかかるし、乗ってる間もあまり動くと無理。だから身の危険を感じても一瞬で逃げるって言うのは無理だね」

「魔王になって無人島に行って欲しいのに、包み隠さず危険な事も教えてくれるんですね」

「嘘が嫌いだからね、喋らないって事も出来るけど、それじゃ自分自身が気に食わない」

「アースバラシイココロガケデスネ」

「そうだろう」

 フフンとドヤ顔で言われても、困る物は困る。

「まぁ良いです、どうせ断っても条件付けてどうにか魔王にさせたいんでしょ?」

「わかってるじゃないか」

「なら最初から交渉って言わないで下さいよ」

「交渉したじゃないか、転移魔法陣と奴隷と道具が付いた」

「もう少し粘ったら何か出ました?」

「奴隷が少し増えるくらい、けど全員付けちゃおう」

「人族がおまけみたいに……」

「まぁ奴隷だからね、危険な事を承知で頼んでるから、これくらいは必要でしょう」

「ハイハイソウデスネー」

「じゃぁ決まりだ、とりあえず今一番強い魔王様の所に行って、君が魔王に成る事を承認してもらおう」

「その前に、聞きたい事がかなりあるんですが」

「どうぞどうぞ」


「太陽の出る方向は?」

「ここのくぼんでる所だね」

 こっちが東側か。


「島の回りはどうなってるんですか? 崖? 砂浜?」

「全部砂浜だね、真ん中に山もある」

 なだらかな火山島か。


「魔物は何が生息しているんですか?」

「ゴブリンを主体に森林部にジャイアントスパイダーとかホーネットだね、山の方にハーピーが出るね、これは魔族だけど」

 魔物注意ね。


「水や食料は?」

「広いからね水は湧き水があるし島の内側にも数か所湖があるよ。食料はある程度自生してる果物と野生生物がのんびりと暮らしてるよ、熊が出るから奴隷を減らしたくないなら気を付けてね」

 火山島なのに水沸くのかよ。どんなファンタジーだ。けど聞く話だと結構広いし、山も有るから雨水系で、地下から湧き出てるのか?ありっちゃありなのか?

 食糧もしばらく持ちそうだな。最悪魔法陣に詰められるだけ小麦詰めるか。


「前任の魔王がいたらしいが、どのくらい開墾が進んでるんですか?」

「んーこのくぼんでるところから、島の真ん中の方に太陽がちょっと傾いたくらい歩いた辺りに、城を建設させようとしてた場所が切り開かれててるね、あと奴隷が寝泊まりしてた場所も近くにあるから、このくぼんだところから城までの間は少し切り開かれてるよ」

約十分から十五分歩いた所に広い広場あり。それ以外も奴隷が住んでた場所の存在もあり、ある程度劣悪な環境かもしれないがどうにかなるか?まぁ、見て見ないとわからないな。


「有毒生物は?」

「毒ねぇ、さっき話したジャイアントスパイダーとホーネット、蛇もいるけど噛まれた事ないからな」

 魔物に特に要注意ね。


「天候は? 嵐なんかあるんですか? たまに夏が来ない時とかあるんですか?」

「夏にたまに荒れるけど、基本穏やかかな。ちゃんと雨も降るし、夏に夏が来ないって事もないかな、僕が知ってる限りだと」

 今のところ冷夏なし、台風の類はあるけど低頻度。


「場所は?」

「この村から馬車で太陽の出る方向に十五日くらい移動して、港町から貨物船で五日目のところに見える。あ、海ってわかる? 物凄く大きいしょっぱい湖みたいなの、そこから塩が取れるんだよ」

 この村って意外に大陸の内陸部なのか?未だに世界地図を見た事がないからわからない。海って単語はあるけど、この村じゃ池のお姉さんしか見た事がないって話だな。けど海を見た事がない奴に、海のイメージを教えるならたしかにこんな表現が一番だな。


「島で危ない場所は?」

「山の頂上に岩が溶けてドロドロになってる場所があるから、そこに近寄らなければ平気かな? けど、たまに近づいただけで倒れちゃう人族もいたらしいよ」

 火山島だから溶岩くらいはあるよな、あと火山性ガスって奴か?


「んー……」

「他は? 特に無い?」

「思い浮かばない。もう少し何か聞いておきたいんだけど、思い浮かばない」

「それはないって事じゃ無いの?」

「奴隷の元の職業は?」

「さぁ?」

「さぁって……」

「奴隷は奴隷で引き取ったからね、聞いてないし」

「はぁ、そうっすか」

「そうっす、もうない?」

「……わかりません」

「なら承認してもらいに行こうか」

「やったー、カーム君が魔王様だー、私は魔王様の王妃様だー」

 なんか考え方がお花畑だな、やっぱりそう言うのに憧れるのだろうか?そう思いつつスズランを見ると、普段通りにお茶を飲んでいる。そうでもないみたいだ。


 交渉しに来た魔族が、玄関から少し離れた場所で目を瞑って集中している。

 しばらくすると、足元に直径二メートルくらいの魔法陣が現れ、青白く光りだした。

「これに乗ってくれカーム君。いやーやっと君の名前がわかったよ、奥さんが「アナタ」とか呼んでたら、君をどう呼ぶか困ってたところだ」

 ハッハッハ!と笑いながら手を招いている。

「魔法陣の図は後で渡すから、とりあえず乗ってくれ。あとはさらに魔力を込めれば発動する」

「んじゃ行ってくる。戻って来なかったら皆に訳を話しておいてー」

「カーム君も軽いね、今から一番強い魔王様に会いに行くのに」

「緊張しても仕方ないですからね」

 そう言って視界が霞んでいき、妙な浮遊感を感じたと思ったら薄暗い小部屋の中に着いた。

「ここが魔王城の外の倉庫の中に有る、転移用小部屋。それ以外のところに出ると、下手したら殺されるから気を付けてね」

「多分来ないと思いますよ」

「おーい開けてくれー」

 扉には鍵が掛かっているみたいで、中からは解錠できないらしい。ガチャリと重い音がして扉が開き鎧を着こんだ兵士が出迎えてくれた。ってか内側にドアノブも鍵穴もないから、本当に開けてもらうのを待つだけみたいだ。

「その方が新しい魔王様ですね。もし来城する事があれば、先ほどの様に大声を開けていただければ解錠したします」

 そう言って扉を閉め持ち場に戻っていく。


「じゃぁこっちね」と正門正面にある大きな入口から入り中を案内され、魔王がいる部屋まで案内された。よく映画とかゲームで見たとき有る様な広い部屋にある玉座に右手で頬杖を付いて、足を組んで座っている。

なんかスタンダードな魔王だな、黒いマントにこめかみの当たりから羊っぽい角が生えているし。けどこの案内してくれた奴よりも強いんだから絶対敵わないのは確かだ、勇者ってすげぇな。コレと戦うんだろ?同情するわ。

 コレっていつも通りで良いのかな?

 俺を連れてきたこいつは、目の前にいる魔王の部下なのだろう。なにか書類みたいのを渡しに行き、魔王が目を通している。

「よく来たな。魔族語が話せず、大陸共通語しか話せないとは珍しい、まぁ人族との国境付近の出身なら仕方ないな。まぁ良い、私の事は気にせず普段通りに話せ」

「あーはい、わかりました」

 そう言われたんじゃ仕方ない。

 魔王は渡された書類数枚を読み終わらせ口を開いた。

「ふむ。二人も嫁がいて、子供もいて幸せに暮らしていたところ悪いが、魔王に成ってもらう。まぁここにいる時点で魔王に成る事は決まってるがな、今から魔王である証拠となる紋章を刻んでもらう。様式美と言う奴だ、なに、直ぐに済むし痛くもない。好きな場所を選べ。額でも良いぞ。魔王になるのを拒むなら、私と戦って殺せば、魔王にならずに済むぞ」

 ニヤニヤしながら近づいて来る魔王、今のは魔王ジョークって奴ですか?今一番強い魔王って説明されたのに、挑むような事はできねぇよ。ってか小脇に合った細身で反りのある、装飾のない剣を掴んでこっち来るなよ、こえぇよ。

 俺は急いで挙手をし発言を求める。

「構わん、話せ」

「どのような紋章で、どのくらいの大きさなんですか?」

「見た方が早い」

 そう言って服を脱ぎだし、胸の辺りに直径五センチメートルくらいに収まる、剣に蛇に炎の翼が生え奴が巻き付いているようなデザインだ。何の意味があるかわからないが、考えた奴は必至だったんだろうな。ってか魔王様綺麗なシックスパックですね。

「あーそれくらいですか、なら足の甲でお願いします」

 そう言ってブーツを脱ぎ、靴下代わりにまいていた布を取って行く。

「ほう、変わった奴だな。興味が沸いた、何故だ、言ってみろ」

 魔王様の歩みが止まり、理由を聞いて来る。

 ってか反りのある細身の剣だと思ったけど、あれって刀じゃね?鍔が丸いし、装飾もあるし、独特の特徴のある柄だし。

「なるべく目立たない所だからですね。けど足の裏だと格上の魔王に見せろと言われた時に失礼かと思いまして」

「足の甲でも十分失礼だぞ」

「あーそうですか……じゃぁどこがいいかな……首の裏?」

 顎に手を当てて、右上を見ながら考える。

「まぁいい、私は気にしない」

 そう言うと軽く手をかざし、右足の甲に紋章が刻まれた。

 本当に直ぐに済んだし、痛くもない。

「あー聞き忘れました。これ消せます? もしくは場所の移動「できん」

「アッハイ」

 なんか忍者が出てきそうだ。

「よし、下がれ。後は頼んだ」

 そう言って、玉座の脇に有る通路の方に引っ込んで行った。

 なんだよ、俺が来る時に座ってたじゃねぇかよ。引っ込んでいくのかよ!ソコは座り直すところだろうが。


「魔王誕生おめでとう。じゃぁこれが転移魔法陣の絵ね、行きたい場所を頭の中に浮かべながら、この転移魔法陣を発動させて」

「言葉が軽いですね、頻繁に魔王に成ってる奴がいるんですか?」

「誰かが殺されない限り、次の魔王は作らない事になってる」

 そう言って、懐から一枚の紙を取り出し、俺に見せて来る。

「俺が魔法使えなかったら、どうするつもりだったんですか?」

「前任の様に僕が送る、もちろん行き来は無理だね」

「帰れないじゃないですか……。頑張らないと」

 俺は魔力を込めながら、自宅の玄関前を強く思い、先ほど見せられた魔法陣を頭の中に描いて行く。

「んーーーーイメージしづらいなー」

 唸っていると足元が光だし魔法陣が現れた。

「一回で成功とか凄いね! あ、まって! ここ少し違う」

 そう言って、左裏辺りに合った文字の配列が違かったのか、指摘してくる。一回で出来る方が確かにすげぇな。


 数回指摘されたところを直しながら、なんとか魔法陣を出現させ、さらに魔力を込め発動させる。来た時の様に視界が霞み、浮遊感を感じたらすでに家の前だった。

「目的の場所に飛べたのは一回で済んだね、いやー異例だよ? 転移魔法陣もちょっと間違えただけだし」

 褒められてるんだろうか?まぁ、嬉しいね。

「まぁ、思い描く事は魔法で何度もやってますし、練習もしてるので」

「んじゃ十日後の昼に、無人島に行くから」

 そう言って部下は飛んで、どこかに行ってしまった。


「ってな訳で魔王に成っちゃいました」

 夜に酒場で三馬鹿に会い、酒を飲みながら説明する。

「いや、今まで申し訳ありませんでした」

「すみませんでした」

「ごめんなさい」

 三人は目を合わせずに、謝ってくる。

「冗談は止めてくれよ、すごい傷つくからなそれ」

「だよなぁー! 俺だってこんな感じでカームに話しかけるの無理だわ」

 そういってバシバシ背中を叩いてくる、周りの村人も「やっぱりか!」「素質は有ったんだよ」「いよ! 魔王様!」と茶化してくる。

 一気に周りの環境が変わるより、この方が良いわ。

 話を聞いたのか、萌えないオッサン達も駆けつけてくれて祝ってくれた。

「兵士に突っかかってた、威勢の良いあんちゃんだと思ってたが、ここまでくれば立派だ!」「そうだ!」「奢りますよ魔王様!」

この三人も変わらないでくれて助かった。


 そして俺は魔王に成った。

魔王に成るまでここまでかかりました。プロットを大筋でしか立てて無い者の末路です。

次回から無人島に行き開拓していきます。


今後も読んで頂ければ幸いです。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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