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第49話 尋問と言う名の会話をしていた時の事

細々と続けてます。

相変わらず不定期です。

いつにも増して会話が多いです。ご了承ください。

20160525修正

 人族の襲撃から五日後、俺は今地下牢へ向かっている。

 人族の捕虜に会う為だ。

 地下牢がある入口には一応見張りがいる。入るためには会話くらいあるだろう。

「どうしたんですか、カームさん?」

「んー? 城壁の修理終わったから、捕虜に暇つぶしを手伝って貰おうかなーと」

「ご、拷問ですか?」

「いやいやいや違うからね?暇つぶしで拷問するような性格じゃないから。その場合だと、捕虜()暇潰しだから」

「接触は、あまり好ましくないのですが」

「話すだけでも?」

「んー、どうですかね?」

「んじゃ様子見でお願いします」

「はぁ……」

 そう言って、ガチャガチャと強固なドアの鍵を開けてくれた。

「何か有っても責任を取れませんし、助けられませんからね?」

「ありがとー」

「いちいち軽いんですよ」


 あまり足音を鳴らさず、石でできた階段を下り、ジメジメした空気の中を歩いて行く。

「どうしたんですかカームさん」

「ちょっと捕虜とお話が」

「アイツ等、話しすらしようとしませんよ? むしろ会話になりません」

「んー駄目元だから」

 そう言って見張りのいる中、比較的静かそうな奴が多いところに向かった。

 石作りで、堅牢なドアに中を見る小窓の奴とは違い、全面鉄格子だ。映画とかで見る刑務所みたいだな。

 ガンガンガン『おいこら!ここから出しやがれ!』

 駄目

 ガシャンガシャンガシャン『畜生!殺してやる!』

 駄目

『あ゛~煙草すいてぇー』

目に生気が無く無気力すぎる、駄目。

「…………」

 本読んでるな。私物でも取り上げられなかったのか? コイツの要る牢屋でいいや。

「ちょっといいかな? 大陸共通語話せる奴はいるかい?」

「いないよ」

 本を読んでいる奴がボソッと呟く。

「そうかなら仕方ない、他を当たるか。ところでその本は何?」

「騎士が姫様を助けに行く、王道物」

「ふーん」

「カームさん、そいつ大陸共通語話してますが?」

「ん? わってるよ。どこまでボケるのか、試そうと思ってたんだけど……」

 しかも、本を読んでいる奴は、こちらを見ようともしない。

 コイツは強敵だな。


「食事に不自由はないですか?」

「あぁ、とにかく不自由だらけだ。堅いパンと干し肉とスープしか出ないなんて、とても耐えられない。たとえ捕まる前に、自分達に支給されてた食事より量が多くてもね」

「貴様! 何を言うか! 食わせてもらってるだけでも!「交渉中なので、何か言われても耐えてください、お願いします」

『嫌だねぇ、教養のない奴はそう思わないかい?』

「何を言ってるかわからないが、俺に対して何か言ってる訳じゃ無い事はわかる」

『本当にわからないんだな』

「何を言ってるかわからない」

「本当にわからないんだな」

「翻訳ありがとう」

「どういたしまして」

 コイツは、会話中も本をずっと読んでいる。

「君にお願いが有る、人族語を教えてくれ」

「構わないけど、対価と見返りは?」

 むー、割と灰汁が強い性格だな。

「俺は兵士じゃなくて、雇われてるから見返りは期待しないでくれ。精々私物くらいだな」

「何があるんだ?」

「人族の貨幣と煙草くらいか?」

「興味ないな」

「飴」

「興味ある」

「この城に来る前に焼いた、ハードクッキー」

「堅いのは好きじゃない」

「あとは黒砂糖しかないぞ?」

「じゃぁ砂糖たっぷりのお茶で、本読みながら飲むから」

「はいはい、今持ってくるよ」

『おい、何話してたんだ?』

『あの魔族が人族語を教えてくれってさ、見返りに甘いお茶をくれるって』

『俺等のは?』

『僕が教えたその見返りだ、君達にはないんじゃないかな?』

 何を話しているか解らないが交渉は済んだので、俺は砂糖や飴を持ってくるために一度牢屋を出た。


「持って来たぞー」

「……どうも」

「悪いけど、この人族と俺を空いてる牢屋に入れてくれ。落ち着いて教わりたい」

「危ないんじゃないですか?」

「僕は手枷をされてるけど?」

「ああ言ってるけど?」

「カームさんは、危機感がなさすぎます」

「俺はこの名前がまだわからない人族が、危ない様に見えないんだけど」

「アブナクナイヨー」

「ほらね?」

「あ……どっちも俺の苦手なタイプだ。責任はカームさんで」

「感謝するよ、賄賂はいるかい?」

「結構です!」

 そう言って兵士は空いている牢屋を開け、捕虜を移動させ、俺が入ってから鍵を閉める。


「んじゃ先に報酬だ」

 そう言って、カップに熱湯を入れ茶葉を入れ黒砂糖を袋ごと出す。

「飲んで落ち着いたら言ってくれ」

「戦場で熱湯を出してた魔法使いって、あんただったのか」

「……まぁね」

 そう言って、俺もカップに茶葉を入れてから【熱湯】を注ぎ、メモ用紙も取り出す。

「本当は本格的に淹れたいんだけど、道具が無いから我慢してくれ」

「あぁ、戦場でそんな道具が有ったら、持ってる奴を呪い殺せそうな目で見てやるさ」

「そうだな……」

 そう世間話から始まり、お茶を啜る二人。


「さて自己紹介をするから、適当に雰囲気で察して真似してくれ」

「お願いします」

『僕の名前はジョン』

『ぼくのなまえはカーム』

「そうそう、発音は後からでも良いから、とりあえず喋らないと始まらないからね」

「とりあえず、母親が子供に言葉を教えるように頼むよ」

「僕は子供もいないし男だ」

 そう言って、日常会話的な物から始まり、必要そうな単語をメモに書くと言う作業を繰り返していく。

『大体解りましたか?』

『むずかしい いがい わかった』

『じゃぁ飴を下さい』

『これですか?』

『それは砂糖です』

 そんな事を、昼を取りながらも続ける。

 そして、ジョンが昼食に指を指しながら『パン』『干し肉』『スープ』と、どんどん教材にしていき俺はメモを取りながら必死になって覚えた。

『コレは椅子ですか?』

『いいえジョンです』



『教え始めて三日経つけど、どうだい?』

『ふつうのかいわへいき、おもう』

『んーカームって意外に頭良いよね』

 ドイツ語や、ロシア語覚えるよりかは良いと思うぞ。話すだけだし、あと単語の発音を文字にしてるだけだし。人族の文字も覚えるってなったら、牢屋と俺の持って来たメモじゃ足りない、精々平仮名表みたいなのが関の山だ。

『そんなことない、ひっしなだけ』

「何を言ってるかさっぱりだ、こんなの覚えてどうするんだ?」

 牢屋の外で見学しているキースが愚痴る。

「とりあえず最低限話せれば、こっちに敵意があるかないか程度は伝わるだろ?」

「んな必死にやらんでも良いだろ」

「そろそろ雪が降るから、時間がない」

「はい今の言葉を人族語で」

『そろそろ ゆきふる じかんない』

「まぁいいんじゃないかな?」


 二人で昼食を取りながら、実用的な世間話をすることにする。

『僕達捕虜の扱いってどうなの?』

「わからないなー」

『まぁ、戦場に連れて来られた時点で諦めてたよ。しかも捕虜になった時点でもう希望すらない』

「その、悪いな……」

「悪いのは教会のお偉いさんさ、魔族を人族より劣るとか言って領土を広げようと戦争仕掛けたんだから、もう何年も小競り合いさ。ちなみに大陸共通語を話せない人族が多いのは、魔族とかかわるなって教えが広まってるからだね」

 人族に聞かれたくないから、共通語なのか?

「まぁ、どこにでも要るんだよそう言うのが、そう思うしかないさ。金銭をちょろまかして私腹を肥やしてれば良いのに、たまたま土地も欲しくなっただけさ」

『……そうだな、まぁそのしわ寄せが僕達平民に来るんだよ』

「中には良い奴も居るぜ?ここの城主とか」

『そういう奴ばかりじゃないんだよ。まぁ大体人族語覚えたから満足だろ? そろそろ対価のお茶にも飽きて来たし教えるのも面倒になって来た。しかもこの寒さだ、そろそろ雪が降るんじゃないか? そうすればお互い一時休戦だ。俺達はどうなるかわからないけどな。捕虜交換に使ってくれれば良いけど』

「本当その辺は何も出来ない、すまない」

『最初から期待してないさ、死ぬ前に甘い物が味わえただけでも良しとしましょうかね!』

 そう言ってジョンは立ち上がり、兵士に向かって「僕を元の檻に戻してくれ、カーム君が人族語を習うのに飽きたそうだよ」

 そう言って、檻の中に戻って誰かから本を返してもらい、今までのお礼を言ったのにこちらを見ようとはしなかった。



 数日後

 何時もより多めに馬車と物資が来て、冬営の準備をし始め、俺とキースはクラヴァッテ様の命令書があったので帰れる事になった。

「さすがに手紙じゃなくて良かったな」

「あぁ……手紙なら手紙で、面白いとは思うけどな。けど、書類上は帰れた事になってないぜ?」

 そう言いながら帰り支度を済ませ、結局使わなかった油や煙草は兵舎の棚に置き、蒸留酒も「適当にみんなで飲んで」と言って置いて来た。

 帰りは特に『護衛しろ』とかもなく、のんびりとテフロイトに帰れたが、さすがにこの温度での野営は厳しかった。


 そして俺達はクラヴァッテ様の屋敷まで行く事になっている。


「やぁ待たせたね。君達の給金だけど、カーム君は例の事件があったから金貨六枚が上乗せされるからね。それと、この報告書を見たけど、魔王軍が来た時に人族が攻めて来たんだってね。運がいいのか悪いのかわからないけど、とりあえず四十日ご苦労様」

「「ありがとうございます」」

「それと魔法で風を起こした矢の防御と、石の壁による敵軍の半壊、攻城塔の処理。塔の天辺からの弓による援護も、査定に入ってるから安心してくれ」

 そんな報告書と照らし合わせた話しが続くが、狐耳のメイドさんが「そろそろお時間です」と言い「あーもうそんな時間か、んじゃお金はギルドに入金してあるから確認してね、一応コレ持ってかないと駄目だから」と、高級そうな紙に封蝋がしてある紙を、それぞれが貰い屋敷を後にした。


「なんか嵐みたいな時間だったな」

「ああ見えて忙しいんだろう。この後カームはどうするんだ?」

「エジリンまで戻ってから、故郷のベリルに戻って年越し祭だね」

「そうか、俺はこのままテフロイトの宿に滞在する、気を付けて帰れよ」

「あぁ」

 その後お互いにギルドに行き給料を確かめてから「またどこかで」と言い合い別れた。


 俺は早速乗合馬車を探す事にしたが、翌日の朝にはエジリン行きの商隊が有る事を知って、さっそく交渉してから宿に泊まり、久しぶりに風呂に入り、黒パン以外の食事をまともに食べた。

 最前線基地では、風呂は穴を魔法で掘ってお湯を入れても良かったけど、自分一人だけって事にはならないので、体を拭くだけで済ませていたので、風呂に入りたくて涙が出そうになった。日本人として産まれ、夏の熱い時でも風呂に入ってた前世の感覚ではまずありえないからだ。風呂最高!美味い飯最高!

 ちなみに商隊の交渉は「乗せるから護衛して、お金は交渉で」「お金要らないし護衛するから乗せて」と言う感じで、スムーズに進んだ。利害一致って素晴らしいな。



「んじゃまた縁があったらー」

「おう! こっちこそ助かったぜ!」

 そう言って護衛していた商隊と門の前で別れ、手続きをし終えて門を潜ったら見知った顔が脇の詰所から出て来た。

「カームじゃねぇか!」

「久しぶり、死に損なったよ」

 冗談を言ったつもりだったが、抱き付いて来て背中をバンバン叩いている。正直痛い。

「よし! 飲みに行こう! 奢るぞ!」

「荷物が……」

「気にすんな!」

「おまえ仕事は?」

「う゛ー腹が痛ぇー。今日は早めに帰らせてもらいます!」

「なら仕方ない! 早く帰って休め!」

 なんだこのノリは。しかもあの上官、俺とコイツの事を一緒に注意してた人だよな?結構いい奴なんだな。

 そう言われて酒場まで歩くが「一応挨拶とかもあるから、少しだけだからな」そう言って酒場に入って行く。

 そして何があったのかを聞かれ、ある程度端折って説明した。

「毎回思うんだけど、なんで町の日雇いしてんの?」

「前から安全に平和に暮らしたいって言ってるだろ。死ぬ確率は、低ければ低い方がいい、安全は最高だ」

 詳しくは聞かれなかったが、麦酒を二杯ほど奢って貰い共同住宅に帰った。


「ただいま戻りましたー、大家さん鍵くださーい」

「お帰りなさい、ラッテが勝手に住み着いてるから、合鍵しか無いわよ?」

「え?」

「勝手に住んでるわよ。今の時間なら買い物に出てるから鍵は開けるわ」

「あ、はい……」

 んー住まれてた。心配させちゃったかな。

「面構えが男らしくなったわね、殺しを経験してきたみたいね、おめでとう」

「ありがとうございます?」

 大家さんは、相変わらず何を考えてるかわからないが、今はラッテが住んでると言う事で、部屋の鍵を合鍵で開けてくれた。って事は、この間渡した合鍵は返したのか?

 部屋を空けた瞬間、男の部屋とは思えない少し良い香りがした。化粧関係だろうか? 生活してて、少しずつ蓄積していった感じがする。

 枕だろうか?それとも布団か?スンスンと香りを嗅いでみる。いや、ここは聞くと言った方がしっくりくるな。仄かに香る体臭と香水の混じった香り、寝汗の線もあるな。

三十日以上、自分自身が使わないとこうなるのか。そう思いつつラッテが俺の下着を嗅ぐのとは違うぞ!と自分に言い聞かせ、荷物を整理する。

 皆に挨拶しようと、しばらくキッチンでボーっとしていたらラッテが帰って来た。

 俺を見つけた瞬間に荷物を放り投げ、俺にダイブして来た。

「カーム君! カーム君カームくーん!」

 抱き付いて顔をこすりつけて来る、あーこの感覚久しぶりだ。

「ただいま」

 そう言いながら頭に手を置き、優しくなでる。

「おかえり、あのね、あのね、私寂しくて勝手に部屋使っててごめんね」

「まぁ、落ち着こうね。時間はたっぷりあるし。それに荷物も片付けないと」

「あ……うん」

 自分でもかなり興奮してたのがわかったのか、散らかった荷物を一緒に拾い、部屋まで置きに行き、キッチンで色々話す事になった。


 行きの馬車から始まり、奇襲があった辺りでセレッソさんがやって来て、話し合いの結果、皆の帰りを待ち、俺の生還祝いを近くの酒場でする事になった。


「では、音頭の方は大家として私が。カームの童貞を切って帰って来たお祝いに乾杯」

 誰だキースカさんに音頭を任せたの。ほら見ろ、周りが俺等を見てるじゃないか。

「まって、ソレは流石にないわ! もういい、私がやる。えーこほん、皆様、お手元のカップに酒は満たされてますか。満たされてますねー、じゃぁ! カームの無事帰還を祝ってカンパーイ!」

「「「「乾杯!」」」」「オッパーイ」

 新たにトレーネが音頭を取り直し、皆が一斉にカップを空にする。まぁお約束はどこにでも要る訳で。そこの人族。解ってるじゃないか!

「で、生きて帰って来てるが怪我とかはどうだったんだ?」

「心が少し弱ったくらいで、まぁなんとか立ち直りました」

「やっぱり薬は女なんだろ? 心を癒すのは女性と決まってるのさ」

 おいやめろ、そこの馬。隣にラッテが座ってるんだぞ。

「おやおやー答え無いって事はやっぱりなのかしらー?」

 セレッソさんも止めてください。ってかニヤニヤしないで下さい。

「止めてくださいよ、なんでそんな話しになるんですか?」

「三十日以上もご無沙汰なら、それくらいはねぇ? どうなの?」

 そしてニヤニヤしていた顔が真顔に戻り、質問から尋問に変わってる事に俺が気が付いてしまった。仕方がないので俺は包み隠さず、初めての殺しで心が弱り、娼婦を買って尻尾しか撫で回してない事を告げた。

「んーセーフ?」

「私に振らないでよ」

「買ったけど行為自体は無いですよ?」

「けど買ったぞ」

 俺を置いて話し合いになる。話を聞く限り、娼婦を買うか買わないかの、賭けの対象に成っていたらしい。買うイコール抱くと言う認識なので詳細はなく、買う買わないだけだったらしく、俺のやった事は限りなくグレーに近く、判断が付かないらしい。

 最低な内容で賭けてるな。けど金銭ではなく俺のお菓子がチップに成っているらしい。皆必死な訳だ。意外な事にフォリさんも参加してたのには本気で驚いた。

「もう引き分けで良いでしょう、今度多めに作りますから」

「まって、それじゃ面白くないわ」

「他に娯楽を見つけて下さい」

 セレッソさんって、好きな物が絡むと少し熱くなるみたいだ。

 そんな話し合いには関らず、黙々と静かに酒を飲み続ける大家さん。我関せずがここまで来るとすげぇよ。


 賭けの話しが落ち着き、どんな事があったのかを根掘り葉掘り聞かれ、日付が変わるまで話をさせられた。

「カームくんは結局買ったのに、抱かなかったんだねー、えらいえらい」

 帰り道、かなり酔いが回り、真っ直ぐ歩けないラッテを背負っていたら、そんな事を言われながら頭を撫でられた。

 俺は久しぶりの日常に何故か涙が出て来て、すすり泣いていたら「よしよし」と更に頭を撫でられ、そのままベットでも頭を抱えられるようにして撫でられながら寝た。

 なんか頭の臭いを嗅がれてるが、無視した。



「あーおはよう」

 ラッテが既に朝食を用意してくれていたが、かなり寝坊してしまいすっかり朝食は冷めている。

「仕方がないよ、久しぶりの自分のベッドなんだから」

「自分の匂いは皆無だったけどな」

 そう返し、俺は顔を洗って寝間着のまま朝食を取る事にする。

「しばらくゆっくりするんでしょー? まさか今日からまた働くとかないよね?」

「流石にそれはないかなー、そうだなー今日はおやかたの所に挨拶して、しばらく休ませてもらって、明日には村に戻ろうと思う。お菓子は少し待ってもらおう」

「そーだよね、早く帰って来た事を伝えないと。けどお菓子は作らないと皆が暴徒になっちゃうよー、セレッソさんとトレーネさんが」

「んじゃ今日の予定は決まりだな」

「あーあと今着てる寝間着は洗わないで」

「え? 何で?」

「カーム君の臭いが!」

「昨日ベッドで散々嗅いでただろう」

「直接のと服じゃ全然違うの! カーム君マメだから服とか洗いながら帰って来ちゃうんだもん!」

 洗濯決定! 目の前にぬるま湯の【水球】を出し、脱いだ寝間着をそのままぶち込んで、奪われても少しでも臭いが薄くなるようにした。

「あーーー!」とか言って、手を伸ばしながら絶望している。目の前で脱いだ服渡せとか言われたら洗うわ!


 その後、おやかたに生存報告をして、村に戻るからまた休ませてもらう事を伝えたが、「疲れてんだ! ゆっくりしてこいや! 皆には戻って来て元気だったって言っておくわ」と言われ、毎回説明している戦場で何があったかは、言わないで済んだ。

 この後はお菓子作りだ、折角だから大量に作ろう。

 シフォンケーキをカップから取り出し濡れたタオルをかけて行くと言う作業をしながらプリンも作って小皿に乗せていく、面倒なのでカラメルは後掛けです。


 夕食をラッテと部屋で食べていたら、キッチンの方から言い争いが聞こえて来た。

「待って! 均等に別けましょう!」

「プリンを多く食べたいから少し多めにしてくれ、シフォンケーキはその分渡そう」

「待ちなさい! 男共の分も一応残しておきなさい、下手したら内戦になるわ。特にフォリはああ見えてかなり甘党よ!」

「そうよ! 今まで供給が絶たれてたんだから、均等に分けるべきよ!」

「でもプリンが!」


「……多めに作ったんだけどね」

「お菓子に関しては譲らないんだよねー、前にフォリさんが焼き菓子買って来てもそうだったし」

「そうか……正直どうでも良い、さっさと食べて帰郷用に荷物を準備しないとな。明日はゆっくり出ようね」

「りょーかーい」



 おかしいな、前回帰った時は素敵なパイスラッシュが見れた気がするんだが。今回は厚着のせいか、そういうのは全く確認できない、しかもフリフリのスカートではなくゆったりとした厚手のズボンだ。この世界にはストッキングのスの字すらない。あんな下着類はあるのに。何故だ?

 そんな訳で厚着でスカートに、黒ストパイスラッシュはこの世界じゃ拝めない、去年までは「村だし」で諦めてたけど町にもない。非常にモチベーションが下がる。まぁ諦める事にする。


「んじゃ村に向かおうか」

 時間は日が昇り、少し寒さもマシになってきたかな、と言う時間だ。今から出ても暗くなる前には村には着く、急いで汗をかいても仕方がないので、体が冷めない程度の歩行速度を維持して歩き続け、東屋に着いた頃には昼はとっくに過ぎていた。


「ただいまー」「おじゃましまーす」

「ラッテちゃんいらしゃい。あら、やっぱり無事だったわね」

 息子より、ラッテが先ですか母さん。

「なんか無事でした、ラッテに聞いたけど誰も心配してなかったんだって?」

「そうねー、スズランちゃんが会えなくてソワソワしてて最近少しイライラしてたくらいかしら?」

「あーわかった、殴られたくないから荷物置いたらすぐに会いに行ってくる」

「じゃー私は、お義母さんと夕食作ってるねー、ごゆっくりー」

「はいはい行ってきます」

 なぜか驚くほど俺の家族と仲が良いラッテ。まぁ、母さんの性格ならよっぽどの事が無い限り、誰とでも仲良くなると思うけどな。


 俺は玄関をノックをして、ドアが開くまで待つ。

「はーい。あらカーム君じゃない、お帰りなさい。思った通り無事だったみたいね」

「まぁ、母にも言われましたけど、なんか無事で帰って来る事が前提みたいじゃないですか?」

「だってカーム君だし」

 玄関先で少し話し込んでたら、スズランが凄い形相で俺に近づいて来ていきなり胸倉を掴まれ、引き寄せられて、一分以上キスされた。無論舌も入って来る。

「あらー玄関先ではしたないわよ、するなら部屋でしなさい」

 注意するところが違う気がするが、今度は部屋に引きずる込まれる。居間にイチイさんがいて、憐れむ様な眼を向けられたが、一応「お邪魔します」とだけ言っておいた。

 ベッドに押し倒されてキスをされ、しばらくして頬や首筋を舐めはじめてきた。息遣いも荒くなってきて、そろそろまずいだろうと言う事で引きはがそうとするが、馬乗りされて手もしっかり押さえこまれてるので、状況的にも筋力的にも厳しい。頭突きするわけにもいかないので、大声を出そうと思ったが、多分状況的に助けには来てくれないと思うので諦めた。

 仕方がないので腕の力を抜いて無抵抗でいたが、服を脱がしてくる様子もないので、好きな様にさせていた。

 しばらくして満足したのか、腕のホールドはとかかれたが、まだ馬乗りのままだ。

「ただいま」

「おかえり」

 少し短い舌で、ベタベタの唇を舐める仕草には毎回ドキドキさせられるが、今回は更に表情も少し赤いので、俺への破壊力は増している。

「落ち着いた?」

「とりあえずは。後は夜に一緒に寝てくれればとりあえずは満足」

「ここに?」

「空家は取ってない。今日は……何もしないから泊まって」

「あー家に帰って飯食べてからでも良い? 流石に今日は家族と一緒に食べたい」

「……わかった、けどラッテは置いてから来て」

「わかってるよ、その辺もしっかり言ってくるよ」

「……なら良い」

 そう言って俺から降りて、居間の方に引っ張られていく。

「あ、こんばんわ」

「おう、無事だったか」

「まぁ何とか」

 戦場から無事帰って来たのか、スズランの部屋から無事帰って来たのかわからないけど。

「何とかじゃねぇだろ、五体満足、怪我もなし。最前線でそれはすげぇぞ?」

 戦場からだったようだ。

「あー、最前近くの砦の防衛でしたから。手紙書いた時はその辺わからなかったんですよ、申し訳ありません」

「んだよ、あんまり心配して無ねぇけど損したぜ」

「まぁ、どうやって前線抜けて来たのかわかりませんが、人族との交戦が砦に着いた時と、砦から帰る少し前にありましたけどね」

「お、おう。攻城戦か。じゃあ、かなり早く終わったみたいだな」

 そんな感じで話しが進んだので、とりあえずはある程度の事は話しておいた。

 両親より先に、義父になる方に先に話す事になるとは……。軽く話した後に一旦夕食の為に帰らせてもらった。


「ただいまー」

「やっぱり無事だったか」

「まぁね」

 散々言われてるし、もうどうでも良い。

「とりあえず息子の帰還を祝おうじゃないか!」


「ほう、魔王軍がねぇ」

「そうなんだよ、同い年のグラナーデもいて、かなり驚いたよ」

 酒を軽く飲みながら、ゆっくりと食事を進める。

「あの一つ目の背の大きい子よね?」

「そうそう、いきなり話しかけられてさ、世界は狭いね。どれくらい広いかわからないけど」

「戦場じゃ見知った顔を見る事は良くあるからな、ましてや魔王軍だ。自分の領地が人族に荒らされてたんじゃ、足を運ぶ理由には成るからな」

 戦場であった事を話しながらの食事だったが、血生臭いところは一ヶ所しかないので、そこだけ濁して夕食を進めた。

 ラッテは、話しを聞くのは二回目だったので、ニコニコしながら聞いていた。

 その後スズランの家に泊まる事を告げ、ラッテの事も言ったら「うん良いよ、カーム君のベッド借りるね」って事になり「娘が出来たみたいだ」と言って、笑いながら送り出された。なんだこの両親、寛大すぎるぞ。


 スズランの家のドアをノックしたら、驚くほど早くドアが開き家に飲み込まれるように引きずり込まれた。腕が取れるかと思った。

「こんばんは。おじゃまします。失礼します」

 すごい力で引っ張られてるので、そんな挨拶しかできない。


 部屋に引き込まれた後は急かす様に寝間着に着替えさせられ、直ぐ布団に横になる様に言われ、それに従った。だって目が血走ってて息が荒くて怖いんだもん。

 流石に襲われるような事はなかったが、ベッドの中で俺は抱き枕状態だった。

 特に会話らしい会話もなく、ずっとしがみついている。心配はしてなかったみたいだけどかなり寂しかったんだろう。

「なぁスズラン、これだけは言っておきたいんだけど」

「……なに?」

「おれさ、初めて魔物や動物以外……まぁ、人族をなんだけど。いきなり三十人ほど殺す事になっちゃってさ。心が凄く壊れそうになっちゃってさ」

スズランは相槌を打たずに黙って聞いている。

「二人には悪いと思ったけど、娼婦を買ったんだ。けど誤解しないでくれ。抱いては居ない。シュペックみたいな獣人族の女の子を買って、尻尾をずっと撫でてたんだ。それだけは正直に話しておくよ」

「お父さんやお母さんにカームが戦場で娼婦を買ってるかもしれないって言われた。だから覚悟はしておけって言われた時があった。その時は胸が痛くなったけど、お父さんが戦場じゃ色々と昂るから一応覚悟して置けって言われた。父さんも買った時があるって言ってたし」

 娘に何話してんだあの親は。

「けどカームは尻尾を撫でてただけ。それなら許せる。犬や猫を撫でるのと一緒でしょ? けどあんまりしないでほしい」

「うん。わかった。次があるかどうかわからないけど、あったら買わない様にするよ」

 その後会話らしい会話もなく、ずっと抱き付かれたままだった。

 買ったって言った時に、少し抱きしめる力が強くなって、ジーグ○リーカー決められるかと思ったけど、体が半分にならないで良かったわ。



閑話1


聞きにくい事を平気で聞ける母


「ねぇラッテちゃん、うちの子から戦場での下半身事情は聞いたかしら?」

ブッとヘイルさんがお酒を吹き出して咳き込んだので背中を叩いてあげた。

「えぇっと・・・はい。聞きました」

「何とも思わなかったの?」

「えぇ、魔物と動物以外を初めて殺して心が壊れそうになって、狐耳の獣人族の娼婦を買ってずっと尻尾を触ってたって聞きましたけど」

「あらー。変な所であのこも真面目ねぇ。ねぇ?ア ナ タ?」

「あ、あぁそうだな。まぁ節操が有ると言うか真面目と言うか」

「アナタも見習ってほしいわね」

「いや、アレは出会う前だったし!」

「まぁ良いわ、ラッテちゃん的にどうなの?」

「んー尻尾位ならいーんじゃないですか?その辺の犬を撫でて癒される様なものですし」

「物凄く失礼なんだけど元娼婦的にはそういうのはどうなの?」

「えーっとですねー、侮辱って思うのも居れば相手にしないで楽だって考えも有りますねー、売ってる人のプライド次第じゃないですかねー?私はー……いえなんでもないです」

危ない危ない、言いそうになっちゃったよ。



閑話2


犬と狐


 カリカリと字を書く音が静かな執務室に微かに聞こえる。

「この間カーム君って来たでしょう」

 側に控えているメイドからは返事はない。

「あの子さぁ、戦場で娼婦を買って抱かずに尻尾だけずっと撫でてたんだって。どう思う?」

 氷の様に冷たい目をした、狐耳のメイドに問いかけるが返事はない。

「しかも狐耳だったんだってさー」

「……そうですか」

 答えは最小限の発言で済ませる。昼間は何時もの事だ。

「触らせてくれない?」

 チッ

 舌打ちが聞こえたよ。相変わらず仕事中の昼間()可愛くないな。

「そう言う話は夜にお願いします」

「はいはい、獣人族って尻尾って好きな人にしか触らせないけど、娼婦は別なのかね?」

「知りません、同族の話は構いませんが娼婦をやってる同族の話は不愉快ですので止めてください」

 やっぱり可愛くない。夜はすごく甘えて来るのになぁ。本当良くわからないなぁー。

「夜なら良いでしょ?」

 返事がないので、少しメイドの方に視線を向けたら顔を真っ赤にしていた。やっぱり良くわからないな。

 夜に氷はぬるま湯になるみたいです。

相変わらず正直に言っちゃう主人公です。

スズランならカームの体を簡単に真っ二つに出来ると思ってます。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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