第41話 服だけじゃなくて体まで融かされそうになった時の事
細々と続けてます。
相変わらず不定期です。
何時もの予約掲載時間前に終わりませんでした。
20160417修正
尻が痛い。
前回の大量発生の時は、途中まである程度道が綺麗になっていたが、森の中の沼に向かうのに道はなかった。
幌の付いて無い馬車の御者をしているのは、フェーダーとパーティーを組んでいるスティロと言う人だ。この人もなかなか整った顔付きで、猫耳の獣人族で三毛猫だ、ただの猫で前世だったら、確実に研究所行なくらいレアだけど、聞いた話では結構三毛で男も多いらしい。まぁここは地球じゃないし、街中で猫を見かけたら少し観察してみるのも良いかもしれない。
ちなみに、フェーダーさんと同じ村出身らしく、冒険者としてギルドで討伐の仕事をこなしている。
「いやーなるべく良い道を選んでるんですけどねー」
ガタガタと大きく揺れる事に、声を変えてくれるので、少しでも物事が潤滑に進む様に、気を使ってくれているのかもしれない。
「俺は馬に乗れないので文句は言いませんよ、それにスライムの核を無傷で持ち帰るのには、水の入った樽で運ぶ必要があるなら馬車は必須です。御者をしてくれているスティロさんに感謝はしても、恨むような事はしませんよ」
目の前に座っているフェーダーさんは「ははは」と笑いながら、樽を縛ってある縄を、馬車が大きく揺れる度に確認している。
太陽の位置からして、そろそろ昼だな。昼は向こうに付いてから食べるのかな?
まぁその辺は任せよう。
「フェーダー、そろそろ昼だけどどうするよー?」
スティロさんが少しだけ振り向き、大声で言う。
「カームさんはどうします?」
「空腹には多少耐えられます、ですから向こうに付いてからでも、馬を休憩させる為に、今食べても、どちらでも構いませんよ」
大災害で、ライフラインが絶たれて偶然1日分の食料と、水八リットルしかなく、三日過ごせるかという想定で、大型連休を使い、素人の知識だけで生き残れるかという訓練を年に二回やっていたが、その時の空腹に比べれば、昼食が五時間遅れようが、抜こうが問題はない。
「じゃぁ申し訳ないのですが、森まで待っててもらえますか? この速さだと、太陽二個分傾いたくらいで着くと思うので」
「わかりました」
「聞こえてたか?」
そう言うと手だけを上げて返事をする。
しばらくすると森が見てて来た、アレがスライムのいる森だろう。
「あー見えてきましたね、道が荒くて予定より少し遅れましたが、まぁ暗くなるまでは十分狩れますよ、さっさと飯にしましょう」
俺は、堅い黒パンと干し肉を水で流し込み、対人型ではないので、粘液で作る即席ギリースーツは作らず二人の準備を待つ。
無傷で核を手に入れるとは言え、一応装備一式も持って行かないと流石に失礼だよね。
「あのー、もしかして武器ってその馬車に何故か積んであったスコップなんっすか?」
スティロさんが、不思議そうな顔で聞いて来る。
「え? なにか変ですか?」
「「え?」」
「え?」
こいつ等には、スコップが物凄く万能なところを、後で語ってやらねば。
二人は軽装で、フェーダーさんがロングソード、スティロさんがショートスピアか、ショートと言っても一メートル五十センチメートルはあるけどな。
フェーダーさんが先頭で森に入っていく、ちなみにスティロさんが馬車の見張りだった。スティロさんとはもう少し仲良くやっていきたいから夕食の時にでも世間話でもしよう。
森の中は鬱蒼としている訳ではなく、木漏れ日や鳥の鳴き声なんかも聞こえ、村の近くの森とあまり変わらず、魔物もあまりいなく、薬草取りのクエストとかもこの森が使われる事が多いらしい。どれが薬草かしらないけど。
「もう少し歩けば、スライムが生息してる湿地があるんで、そろそろ警戒お願いします」
「了解」
そう言ってスコップを構えながら歩くようにするが、スライムは動きが鈍く物陰からいきなり出てきたり、木の上から落ちてきて奇襲されない限りは安全との事。それでも確率はゼロではないので警戒するに越した事はない。
少し進むと、なんか背景と微妙に一体化している直径一メートルくらいの、ブヨンブヨンしている個体がいる。微妙に一体化してるとは言え、色が半透明の緑なので直ぐわかる。
「アレですかね?」
張りがあるらしく形は崩れていない、例えるなら床に置いた水風船だろうか?
「えぇそうです、真ん中に赤い核が有る出でしょう。それを無傷で手に入れて欲しいんです」
「わかりました。けど普通に倒す方法も知りたいので教えてください」
「えぇ構いませんよ、あいつ等は体の表面に何かが当たったら、核がどこかに逃げます、ですのでものすごい速さで攻撃するか2人で挟み撃ちにして核を狙う方法が一般的ですね、まぁ見ててください」
そう言ってフェーダーさんが、ロングソードで核を切るつもりで横切りを繰り出すが、核が上に逃げる、二回目も横切りにするが今度は奥に逃げる。
その後攻撃されないように、急いで俺の方に戻って来る。
「こんな感じで核が逃げるので二人で狩るのが一般的ですね」
「奴の攻撃方法は?」
「体全体を広げて覆い被さる様に捕食してくるか体当たりですね」
「もし捕まったら、服だけ融かされるとかあるんですか?」
「え?」
「ん?」
不味い事聞いたな、ついつい女騎士とか冒険者が捕まって、服だけ融かされてあんな事やこんな事になるイメージしかないからな。
「なんでもないです、捕まったらどうなります?」
「窒息死させられて、融かされて何も無くなるって感じですかね」
「こいつ等どうやったら成長するかわります?」
「取り込んだ奴らの大きさによってでかくなりますよ、俺が取りこまれたらその分でかくなりますね。まぁ無理ですがオークとかオーガとかドラゴンとか取り込んだら、その分でかくなりますよ。そしてある程度でかくなったら半分に分裂します、分裂したら大きさが半分になってまたどんどんでかくなっていきます」
「ほうほう」
体積をそのまま吸収か、なんか大きい魔物の死体とか持って来れば、その分でかくなるのか?
「一般的に、無傷で核を手に入れるのにはどうすれば?」
「凍らせて表面を削いでいくって感じですね、あまり凍らせると、核も凍って溶けた時になんか潰れちゃうんで、そして最後に周りの体の部分ごと優しく掬ってつぶれないように水の中に入れます、まぁ手がボロボロになるんで厚い皮の手袋を使いますけど三匹くらいやると皮の手袋も駄目になりますね」
凍結による細胞の破壊と、融解時の破壊された所から漏れ出す水分って感じだな、まるで冷凍した刺身だな。
「わかりました、何とかしてみましょう」
話してる間になにもして来いない、まるでヒーローの変身の時に攻撃してこない怪人の様なスライムに感謝しながら、無傷で核を手に入れるよう試してみる。
見た感じほぼ水分だよなアレ、プルプルタユンタユンしてるし、まぁ酸性かアルカリかわからんが。
まぁ、レンガの材料練るよりは柔らかいだろう、そう思いながらレンガを練る時の様に、水をかき回す感じでスライムに魔力を込める、そうすると核が中心からずれ始めたのでそのまま続行、かなり抵抗しているがしばらくすると表面ギリギリまで来たので水球を作る要領で、ゼリーみたいな部分と核だけを取り除き手の平の上で浮かせてみせる。
途中で「あの、凍らせるんですけど」とか言っていたが気にしないで続けた。
「ほい、少し抵抗有ったけどレンガ練るよりは魔力使わないですね」
「あ……はい」
フェーダーさんは、少し呆れているみたいだ。俺が凍らせて、少しづつ削いでいくのを考えていたんだろうか?凍らせるよりほとんど水なんだからこうした方が早いに決まってる。
「あの。核を置きに、いったん馬車まで……」
「あーはいはい、つぶれたら大変ですからね」
フェーダーさんが、厚手の皮手袋をポケットに隠す様に、仕舞っているのを見てしまったが、あえて触れないであげた。
馬車の見張りをしていたスティロさんが、森から出て来た俺等に気が付いた。
「おー早かったな、何か問題でもあったのか?」
「問題はない、むしろ別な問題が発生した、カームさんを見てくれ」
そういて俺の方を見てくる、俺の両手には核が一個ずつ浮いている。帰りにスライムを見かけたので、試しに片手でやってみたら成功したので二刀流と言う訳だ。
「あぁ、こりゃ大問題だ。俺等の仕事がなくなるな」
「実際なかったよ。スライムの事を軽く説明して、核がどう動くか実際剣で切って見せただけだ」
「あのー、樽の蓋開けてください、魔法で水出しちゃうんで」
「……お、おう」
石弾やナイフや苦無の要領で、目の前に【水球】を出し、樽にドポンと落としスライムの核をゆっくり沈めて行く。
「予定の二個集まりましたけど、集められるだけ集めちゃいましょう、無傷の核って需要高いんでしょう?」
「え、えぇ」
どうやら反応を見る限り、本当に想定外だったらしく返事に覇気が無い。
「あの、ちょっといいですか?」
やけに真剣な顔つきだ。
「はい?」
「報酬の件ですけど、俺等ほとんど何もしてないんですけど、せめて馬車の貸し出し代くらいは……」
「もちろん頭割りですよ、最初に約束したじゃないですか。それに俺もこんな簡単に行くと思ってませんでしたし、楽して稼がせてもらったのに独り占めするのは悪いですよ」
ここで、馬鹿正直な前世の性格や、お国柄が仇になったか?と思ったが、恨まれるよりはいい。
太陽を見て、来る時にかかった時間を考え、帰りは荷物を積んでるからすこしかかるとして、門が閉まるのは二十時だったな。そうすると後二時間しか狩れないか。まぁ相談だな。
「昨日言ってた事だとは思いますが、野営を門の前でするならあと三回か四回は行って来られますがどうします?」
「少し相談させて下さい」
「了解」
そう言って、二人は少し離れ相談しているみたいだ、まぁドライフルーツでも食ってるか。
□
「なんだよ、門の前で野営なんて」
「昨日交渉の時に冗談で言っちゃったんだよ、早ければ必要数取ったら戻って来て、門の前で野営できますよって」
「まぁ言っちゃった物は仕方ないな、けどそれでもあと三回は行けるって事は、六個余計に取れるって事だろ?」
「あぁそうだ、けど取れなかったら、森の前で交代で見張りながら野営ですねとも言ってあるから、交渉次第でもっと無傷の核を取れる、ここは甘えてみないか?」
「言うだけならタダだからな、交渉だな」
「あぁ」
□
あ、戻って来た。
「話は纏まりました?あ、ドライフルーツ食います?」
少し顔が引きつっている。おぉっと、場を和ませるに失敗したみたいだ。口に含みながら言ったのが失敗の原因か?
「あのですね、大変申し訳ないんですが話し合いの結果もう少し稼ごうって事になりまして、昨日言った森の前で交代で野営って形で良いですか?」
「えぇ、かまいませんよ。仕事も少し多めに休む様に監督に言ってありますし」
「おぃ、なんか軽いぞこの人、本当にあの噂のカームさんか?」
「そうだろう? 藍色の肌で、日雇いでレンガ作ってて、変態の巣窟のクリノクロアに住んでる、確実だ」
聞こえてるんだよなぁ……。
「じゃあそれで願いします」
「えぇこちらこそ、あー少し提案なんですが」
「な、なんですか?」
「効率上げて良いですか?」
「「は?」」
それから、俺とフェーダーさんは森に入り、フェーダーさんにスライムの厳選をしてもらった。
「そいつは平気です」
「了解」
「そいつは核が小さいんで駄目です」
「了解」
そんな感じで、見つけたスライムをレンガ材を練る時みたいに、見つけ次第練って合体させていく。
球体なうえ、空中に浮いているから暴れても特に問題はなく、中で核が暴れているが核同士がぶつからないように俺が気を配っている。
十匹ほど見つけ、練って合体させたらまた馬車に戻る。戻ったら核だけ取り出し樽に沈め、核のなくなった大量のゼリー部分を、日の当たるところに放置しておいた。
どうすればいいか?と聞いたら「勝手に渇いて、氷の様に消えるので邪魔にならない所に置いて置いてください、スライムが吸収したら超巨大になって繁殖するんで」とか言っていたので、帰る時に十匹分だけ森に戻そう。乱獲すると全滅しそうでなんか怖いし。最悪スライムを見つけて、余ったゼリー部分を融合させて逃げてくれば、勝手に増えるんじゃないか?と素人考えを発揮させる。
すでに夕方で、少し薄暗くなっている。
「これで三十六個ですね」
集めてきた、最後のスライムの核を樽に沈め、核のなくなったゼリー状の物を森に飛ばす。
「もう樽が無いっすよ」
「これ以上詰めても、お互いぶつかって傷ついちゃうしな、もう少し多めに樽を持って来ればよかったよ」
「仕方ない、こんなに取れると思わなかったからな」
「そうですねー、俺も上手く行くとは思わなかったです、まぁ取りすぎても価格が暴落するって思えば良いんじゃないですか?」
需要と供給の関係だな。
「……そうっすね。そう思いましょう」
「ですね、さすがにこの暗さで馬車を走らせるのは危険なんで、ここで野営しましょう」
「あの、少し質問が」
「なんですか?」
「森の前で野営するのと、森から少し離れて野営するの、どっちが安全ですか?」
「森から離れた方が安全ですが、流石にもう馬を走らせるのは危ないですよ」
「明るければ少しは離れられます?」
そう言って、スティロさんの方を見る
「あぁ、速度を落とせば可能だが」
「じゃぁ少し離れましょう。俺怖いの駄目なんで、少しでも安全な方が良いです」
物凄い笑顔で言ったら物凄く引かれた、なんで?安全な方が良いに決まってるじゃないか。
「でも明かりは?」
「俺が作ります、まぁ一回も使った事がないんで成功するかわからないんですけど、一回だけ試させてください」
「はぁ・・・」
『イメージ・高さ300m・100万カンデラ・60秒後に消滅・発動』
まぁ、照明弾だけどね。動画とかで見たときあるならイメージはしやすい。マグネシウムとか硝酸ナトリウムとか知ったこっちゃない。フラッシュバンとかも魔法で出せるんだ、きっと可能さ。
そう思ってたら、本当に上空に物凄い光源が発生し辺りを明るく照らす。
「すげぇ、太陽を作りやがった」
「こんなの見た事ないな」
試しに眺めていたら、少しずつ光が小さくなって行き、最後には消えてしまった。
「成功です。夜に魔物とか怖いんで少し離れましょう」
二人とも「何言ってんだこいつ」みたいな目になるが、俺は気にしない。
「はいはい、離れる準備しましょうか」
そうして移動する準備が整い、一定時間で【照明弾】を発動させ森が小さくなった辺りでスティロさんが。
「この辺なら周りも見渡せるし、森の前よりは安全っす」
と言ったので、野営準備に取り掛かる。
俺等が森に入っている間に、焚き木を集めておいてくれたのか、焚火の準備をしている。火打石で種火を作ろうとしてるので指先からライター程度の【火】を出してやったら感謝された。燃えたろ?
夕食の準備をしても良いが、携帯食料で黒パンと干し肉で、出来る物って言ったら干し肉をお湯で戻すだけだ。
さっさと食べて寝ようと話になり、予定していたスティロさんとの交流も特になく、朝一で太陽が出たら出発と言う事になった、見張りは三時間交代でクジで決めて俺が最初だった。
皆が寝た頃、スライムの欠片を革袋に厳重に包み、保存しておいた物を取り出した。
もちろん、どれくらいで溶けるのかを知る為だ。
親指と人差し指で、輪を作ったくらいの大きさのスライムの欠片を、手の甲に布を1枚乗せて、上に乗せたら五秒くらいで布に穴が開いて、直ぐに皮膚に痛みが走り、急いで払いのけた。
よく見ると、手の甲に丸く火傷したみたいな跡が残っている。
あーこりゃ服だけ融かすとか無理だな、水か何かで薄めて使っったらどうか?けど肌に影響がない程度に服だけが溶けるpH値とかどのくらいよ?アルカリ性や酸性の温泉にタオル入れても、肌はツルツルするけどタオルは溶けない。
何年かして、布が風化する程度だな……こりゃマジで駄目だな。あとスライムって意外に怖い。
そう思いなら、手の甲の火傷みたいな跡を回復魔法で直しながら、焚火を囲み周りの気配に気を配りながら小さな穴の開いたボウルを水に浮かべ時間を計りながら待つ事にする。
ボウルが十二回水に落ちた事を確認してから次の見張りのフェーダーを起す。
「フェーダーさん。時間です」
「ん……あぁ、すまんな、もう寝て良いぞ」
あくびをしながら毛布を剥がし、俺が寝転がるのを見届ける。
その後、何もなかったのか、最後の見張りだったスティロさんが挨拶をしてくる。
寝床が違うから寝覚めが少し悪い。
「おはよーござーます」
「おはようっす、特に何もなかったっすよ、これお茶です」
「あざーっす」
少し砂糖を多めに入れて、頭に糖を入れ、甘いお茶にパンを浸し食べ始める。
スティロさんが変な目で見ている。なんか俺変な事してる?お茶を甘くして堅いパンを柔らかくしてるだけだよね?
気分は甘い紅茶で、柔らかすぎるラスクを食べて、紅茶飲んでる気分だけど、浸してるのが問題なのか?まぁやっちゃった物は仕方ない。そのまま進めよう。
モソモソとパンを食べてると、スティロさんがフェーダーさんを叩き起こしている。
「おい起きろ」
「あー、わかってる」
ムクリと起き上がり、俺と目が合い、
「あ「おはようございます」」
と同時に挨拶をする。俺も目が眼が冴えて来たのか言葉使いも元に戻る。
まだ薄暗いので、三人で火を囲みし、ばらくボーっとした時間が過ぎ、太陽が山から行動を開始する。焚火を消して、スライムの核の確認をして、ゆっくりと馬車が動き出す。復路はかなりゆっくりだ。これで尻の心配をしないで良い。
「町の防壁が見えてきたっすよー」
「りょーかーい」
早く移動しても、遅く移動しても尻は痛くなる事が判明。フェーダーさんも痛いみたいだ、今度クッションでも縫うかな。
「後は門で物品を調べられて、頼まれてた分を確保して置いて、ギルドに持って行けば終了です、もうしばらくの辛抱ですね」
さっきから立ち上がったり、座ったりを繰り返してるからよっぽど痛いらしい。
「次! なんだお前等か随分早かったんだな、一日で帰還か」
そう言って、物品を調べている。
「おい、こりゃ無傷のスライムの核じゃねぇかよ、こんな量を一日で……あぁカームも一緒だったな、なら納得だ。通っていいぞ」
そう言われて、門を何事もなく通る。
「知り合いっすか?」
「防壁修理やレンガ作りって、門の外でやってるんですよね、だから毎日通るし顔も覚えられてるんですよ。しかも良く絡まれる程度には仲が良いですよ」
「へぇー、俺も誰でも良いから門番と仲良くなっておくかな」
「なかなか便利ですよ」
「カームさん、あんまり親しくなりすぎて検品がズボラになるのはどうかと思いますよ」
「ですね、その辺はしっかり頼むってこっちから言わないと、アイツは素通りさせそうですね」
「んじゃちょっと討伐部位を売ってきますね」
「了解」「おぅ」
そう言ってフェーダーさんが、馬車をギルドの裏手に回す。
「いやーカームさんがいて助かりましたよ、まさかこんなに早く済んで、しかもあんなに手に入れられるとは思わなかったっすよ」
「俺もですよ。まさかスライムが、レンガを練るより簡単とは思わなかったですよ」
「またなんかあったら誘って良いっすか?」
「危険じゃなければ良いですけど、あんまり当てにしないで下さいよ? 俺だってのんびり安全に暮らしたいんですから」
「ははは! あんなにすげぇ魔法使っておいて怖いとか安全とか、やっぱ何考えてるかわからないっすね」
「いやー、堂々と本人を目の前に言うのもなかなかのもんですよ? それに死にたくないですし、俺は弱虫で戦いは好きじゃない。それで良いじゃないですか」
「まぁなるべく誘わないように、リーダーにも言っておきますよ。二人しか居ないパーティーのリーダーっすけどね」
なかなか面白い事言うな、スティロさん。
「ただいま戻りました、三十六個の内二個が必要で、三十四個ほど売ってきました。明細は1個銀貨五枚で、金貨一枚の大銀貨七枚でした、一応銀貨に変えてもらって来たので百七十枚になります。これを分けると」
「五十六枚と大銅貨六枚の銅貨六枚ですね」
まぁ割り切れないんだけどな。
「計算速いっすね」
「どうも」
「早速わけますね、んー銀貨でしかもらって来てなかったからな、また両替か」
「じゃぁこうしましょう、ソレは討伐部位を売ったお金を分けた数字ですよね? さらに俺の一日の手間賃を別途に払う、それなら俺は銀貨五十七枚で良いですよ。そうすれば二人で銀貨五十六枚の大銅貨五枚になります、俺の手間賃が大銅貨三枚の銅貨四枚になりますが、簡単に儲けさせてもらったお礼って事で良いですよ。それともきっちり分けてから、俺に手間賃を払います?」
口頭で説明して、間違いがあったら嫌だから、地面に棒で数字を書いて、丁寧に説明していく。
「カームさんがそれで良いって言うなら、自分は構いませんが」
「俺もいいっすよ、けど本当に損してますよ?」
「けど、俺の一日の稼ぎ七十日分になるんで、俺も文句はないです。そっちも、俺に払う手数料が大銅貨四枚って考えれば得でしょう? それに、横の繋がりとか知り合いが出来れば安いもんですよ。あ、でもあまり荒事には誘わないで下さいね、さっきスティロさんにもいいましたけど」
「……わかりました、カームさんがそれで良いって言うなら」
かなり悩んでからフェーダーさんが言う。
まぁ金にがめついと、恨みも買うからね。ここは相手に得させた方が、敵を作らなくて済むしな。
「じゃぁ、解散で良いですかね? 打ち上げとかしても良いんですが、そちらは知り合いに無傷の核を渡しに行かなきゃ不味いと思いますし」
「えぇ、そうですね。機会が有れば今日の件で奢りますよ」
「ありがとうございます、楽しみにしてます。ではまた縁があったら」
「ありがとうございました」
「こちらこそー」
そう言って、俺は直ぐにギルドに入って行き、銀貨六十枚を預ける事にした。こんな大金持ち歩きたくないからな。
あー、大家さんに合鍵の値段聞いておくんだったな。そうすれば少し多めに手元に残しておくのに。
まだ昼だけど、風呂入って部屋でだらだらして寝よう。
閑話
無傷の核を知人に渡した帰りの酒場にて。
「本当だって、カームさんが『服だけ融かすスライムとか居ないの?』って聞いて来たんだって」
「あの人頭沸いてんのか?」
「わからないよ、けどいないって言ったら、すごく残念そうな顔してたよ」
「マジかよ、すげぇ変態じゃねぇかよ」
「気前のいい人だったんだけどな、少し考え方が残念だったとは。魔法も使えてハイゴブリンも倒せて、頭も良く回るのに」
「アレだ、変態の巣窟に住んでるって事で納得しようじゃないか。少し俺達とは違うんだよ」
「……そうだな、服を融かす云々は忘れよう」
「そうだそうだ、飲んで忘れようぜ、儲けさせてくれたんだ。良い人って事でその辺は相殺だ!」
そう言って二人は儲けたお金で、夜遅くまで飲むのであった。
変な噂が確実に広がりそうです……。
服だけ融かす都合の良いスライムの作り方を教えてください。