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第38話 父に本気で戦えと言われた時の事

細々と続けてます。

相変わらず不定期です。

今回は戦闘を自分なりに頑張ってみました。


20140413修正

 前回、スズランが町に来てから五回目の休みになった。監督に「村に帰るから色々と話し合いがあると思うので、少し多めに休みます」と伝え、村に向かっているが、正直足取りは物凄く重い。けして背嚢の中に余計に入ってるナックルダスターや飴五十個が重いわけじゃ無い。最悪な日になりそうだ。


 村から一番遠い櫓が見えた頃、いきなり、前方五メートルくらいのところに矢が突き刺さる。何が起こったのかと理解した瞬間に体が動き、街道沿いのまだ開墾されてない畑予定地の、少し背の高い草むらに飛び込み腹這いになる。

 かなり反応が遅いな、これじゃ実戦じゃまずいよな?まさか村で襲われるとは思ってなかったし。

 だが、次の矢がいくら待っても降って来ない、良く考えてみたらシンケンじゃね?と思い少し頭を上げると、シンケンが弓に弦を張ってない状態で、こちらに向かって走って来ている。一応敵意は無いって事を示してるのか?まぁ立ち上がりますかね。

「すまない、村に入る前にどうしても足止めして話しておきたい事があって」

「まぁ……なんとなくわかるよ。で、何だい?」

 体に付いた土埃を払いながら答える。

「カームの事で、村中が持ち切りだなんだ」

「やっぱり……」

 はぁ、ため息が出るわ。

「命に関る事だと思うから、どうしてもって思って、当たらないように矢を射ったけど、まさか草むらに隠れるとは思わなかったよ」

「俺も、村で狙われるとは思わなかったよ」

 少し皮肉っぽくいってみるが効果が無い。まぁ村人全員敵に回したか?と思ったけどな。

「で、だ。一応スズランの話は村には伝わってるけど、イチイさんがカームを殺すんじゃないか?って話が出てるんだよ」

 だろうな、一人娘だし。

「その辺は覚悟して来てる。一発くらいなら殴られても良いとは思いながら村に戻って来たよ」

「他にも、ヴルストやシュペックも心配してるぞ、夜中には酒場に顔出せるよう祈ってるよ」

「俺もそうできる事を祈るよ」


 俺は一度家に帰り、ナックルダスターと飴の袋を持ってスズランの家に行くが、正直かなり足が重い。一応、イチイさんはまだ帰って来て無い事はわかっているが、本当に胃がキリキリ痛い。

 スズランの家に着くと、鶏達に夕方分の餌をあげていた。

「あ。お帰り」

「ただいま、これ言われてたお土産ね、あとスズランは、指輪とかのアクセサリーとかしないからナックルダスターはプレセントするよ、飴は俺からのお土産」

「ありがとう。餌やりが終わったらお茶煎れるから少し待ってて」

「あぁ、ありがとう」

 そう言われ、餌をあげ終るまでのんびりと見ていたが、案外あっさりとやり終わる。

「終わった」と言って、家に入って行くので付いて行く。いつも通り椅子に座って待っていると、お茶を持って来てくれたのでありがたくいただくとしよう。そして俺は勇気を振り絞って聞く事にする。

「家に帰る途中に、シンケンから聞いたよ。なんかすごい噂が出回ってるらしいけど」

「そうだね。私もミールやクチナシから聞いたけど。かなり大袈裟になってるから相手にしていない」

「まぁそうだけど、ちゃんと説得してくれたんだろう?」

「したよ? お父さんやお母さん。皆にも」

 みんなと言うのは、俺の両親や、三馬鹿や女友達だろう。まぁ、現に噂が広まってるけど、まぁ仕方ない。

「それで、どうなったの?」

「最初は怒ってたけど納得してくれた。問題は無い。それよりラッテさんは?」

「こっちも問題無いよ、遊びにきても俺が風呂に行く時に一緒に帰るし。けど相変わらずくっついて来るね。あと洗濯物を物色するのだけ止めてくれれば、俺的には問題無いね。あとアレから一回もしてないよ」

「うん。ないなら良いよ」

そう言うやり取りをしつつ二人でだらだらとしていると、イチイさんが帰って来た。

「おう、スズランから話は聞いてるが、良く顔を出せたもんだぜ」

 俺の顔を見るなり文句を言って来る、仕方ない、一人娘だしな。なんとなく気持ちは察せるよ。娘もいないし、原因の1つである俺が言うのもなんだけど。

「一応、俺からも話をするのが筋かと思いまして、伺わせていただきました」

「改まってるのは殊勝な心掛けだなぁ、いいぜ聞いてやる」

 そして俺は当時の経緯を話す。


「まぁ、スズランの言ってる事とほとんど同じだなぁ」

「俺が明確に拒否しなかったのが原因ですし、あの時に、色町に行かなければ良かったと思います」

「そりゃ仕方無ぇ、仕事の付き合いだからな。それがねぇと、仲間とギクシャクしちまうからな。俺にも何が原因かって言われたらスズランが認めちまった事だとは思う。自分の娘がそう認めちまったら俺は何も言えねぇ。けどな、泣かせる様な事をしてみろ、馬乗りになって顔をボコボコにしてやるからな?」

 物凄く殺気を帯びて俺を睨みながら言ってくるが、迷う必要は無い。

「わかってます、泣かせる様な事は致しません」

「なら良い、なんだかんだ言って話を聞く限りお前は節操が有るからな、その辺は信じてやる。けどなぁ……、好かれちまったらどうしようもねぇな。その辺はスズランとその女で決めろ」

「わかった」「はい」

 そう言うと、イチイさんは立ち上がり棚から酒とカップを二つを持って来て、俺に酒を注いで来る。一応許されたって事かな?

 お互い目を見て、無言でカップを鳴らし一気に飲み干す。なんだろうこの男のやり取りみたいなのは。あ、俺男だったわ。

「カーム、一応言っておくがヘイルが何か企んでやがる、気を付けろ。アイツがやけに物静かな時は大抵腹の中が煮えたぎってる時だ。雰囲気でわかる。一応スズランが話をして納得はしたみたいだが、何か思うところがあるんだろう」

「わかりました、気を付けます」

 そう言って帰ろうとしたら、リコリスさんが帰って来て「もーお酒ばっかり飲んで」

と言っているが「この一杯だけだって!」と言っている。俺は「ご馳走様でした」と言って帰る事にする。

「気を付けろよ」

「はい」


 家に帰ると母さんがいて、ラッテの話になったので、俺からも話しておく。一応スズランと話している事が一緒みたいなので、母さんは納得はしてくれた。

「そんな事よりお父さんが心配でね、アレは相当怒ってるわよ」

「さっきイチイさんに聞いたよ……覚悟はしている」

「そう。それなら良いけど……」

 そう言うやり取りの後、母さんは夕食の支度をはじめるが、直ぐに父さんが帰って来る。

 帰って来るなり俺の事を見て。

「得物を持って外に出ろ、話す事はない。スズランちゃんの言う事は信じるし納得はしているが、男として、妻となる女を守れるかどうかわからん男には、成っていないんだろうな? 俺に力で示せ」 

 そう言うと、ソフトレザーの鎧を着こみ、ショートソードと小丸盾を持って外に出て行った。

「……ああなったら、あの人は聞かないから、多分殺されないとは思うけど、気を引き締めなさい」

「解ったよ母さん。少し親子喧嘩してくる」

「殺しちゃだめよ」

「……はい」

 なんか会話が普通じゃない気がするが、仕方無い。多分戦わないと納得しないんだろう。そう思いつつ、部屋に戻り、バールとマチェットを左腰に挿し、スコップを持って外に出た。

 父さんと十メートル程の距離を空けて対峙し、スコップを両手で構え腰を落とす。

「さっきも言った通り、力で示せ」

「わかったよ、こうしないと納得しないんでしょう?」

「あぁ」

 そう言い終えると、父さんは盾を前にしてこちらへ突進してくる。

 速い!

 そう心で呟き、裏に飛びながら父さんの目の前に、厚さ二メートル四方の壁状に厚さ五十センチメートルの土を隆起させ、勢いを殺そうとする。

 右か、左か、それとも上か?

 そう考えながら、父さんの出方を見て反撃しようとしたら、そのまま突っ込んできた。そのままの勢いで土壁を壊してきたらしい。目を開けたまま突っ込んでくる辺り、かなり本気だと思える。それに石壁にしておくんだったと思うが、すでに遅い。勢いが余り殺せず、そのまま父さんは右から左へと剣を薙ぐようにして振って来る。

 糞っ!前に戦った時より、剣の振りも数段速い!

 俺は、バールの短い方を軽く握り、そのまま持ち上げトンファーの様に持って剣を受け止め、片手じゃスコップを早く振れないので、スコップをそのまま手放し右手に【黒曜石の苦無】を作り出し、手首だけで顔を狙い、そのままマチェット引き抜きつつ振るうが、苦無は剣の柄頭で叩き落とされマチェットは盾で防がれたので、後ろに跳び距離を取る。

「……本気で来いと言ったはずだが?」

「今ので本気なんだけどね」

 深く深呼吸をしつつ答える。

「俺を親と思うな、殺す気でかかって来い、ハイゴブリンはまぐれだったのか? 直接魔法を当ててこい。それとスコップを拾え、時間をやる」

 父さんは盾を前に構え、腰を低くして構えている。

 ハイゴブリンの事も、ある程度誇張されて伝わってるな。もう一度深い深呼吸をする。

「はいはい。父さんにはお見通しって訳ね……。んじゃ仕掛けさせてもらうけど、後で文句はなしね。それと、手放した得物は戦闘中に拾えないと思ってるから、スコップはもう諦めてる」

「はん! そんな事は勝ってから言え」

 更に腰を落とし、こちらのすべての動きに備えるようにしている。俺は少しだけ父さんの足元を見て直ぐに仕掛ける。

『イメージ・七メートル先の人物の足の下・直径5cmの円錐状の返しの付いた高さ二十センチメートルの氷の棘』

 そう脳内で即座にイメージし、父さんの足の甲から血の付いた氷の棘が生え、地面に縫い付ける。俺も耳が聞こえなくなるが、どうにでもなる。そう考えつつ目を瞑りフラッシュバンを父さんの足元で発動させ、視力と聴力を奪い、剣と盾を顔の前で構えたまま動かない父さんに、黒曜石のナイフを、右の手の甲と左肩に投擲し、深々と突き刺さるが「クソ!」と、言ってるんだと思う。少し距離を取りながら裏に回り込み二度肩を叩き、少し離れながらまた前に戻る。後ろに攻撃されちゃたまらんからな。

 わかった、俺の負けだ。

 剣と盾を落とし、黒曜石のナイフを引き抜き、棒立ちになるがまだ聴力が戻っていないので、唇の動きだけで、そう言ってるんだと判断し、氷の棘を解除した。

 解除したら、父さんは膝を突いて、地面に倒れこんだ。血がどんどん流れ出ている。

 まぁ、父さんにばれるが仕方が無い。動く気配が無いので、急いで駆け寄り回復魔法を使おうとしたが、すごい音と共に勢いでドアが開く。耳も聞こえ始めてきているようだ。

「今の音は何! あなた!」

 地面に流れた血を見て、母さんも慌てて駆け寄って来る。

「だから辞めておきなさいって、あれ程言ったのに!」

 肩を揺すりながら、涙を流している。

「カーム、お医者様の所まで運ぶわよ!」

「必要無いよ母さん」

 母さんの手を払いのけ、仰向けにして傷口に手を当てる。

「何ですって! カーム父さんが死んでもいいって言うの!」

 首を横に振りながら、落ち着いた声で言う。

「違うよ」

 一人も二人も同じだ。俺は回復魔法を使い、傷口が青白く光りながら塞いでいくのを確認する。

 人体の構造や、筋肉の作りもある程度知っているので、細胞を活性化させて無理矢理治療していく。日本の授業に保健体育があって良かったぜ。けど、のんびり屋の母さんがあんな大声を出すところを初めて見た。

 しばらくして父さんが目を開けて呟く。

「うっ……うぅ。俺は、負けたんだな……」

「そうよ、だから辞めなさいってあれほど言ったじゃない!」

「すまないな母さん。これじゃしばらくは働けない、痛みが無いんだ。右手も握れない、左腕も上がらない、両足も使えない。あぁ……最悪だ、本当に済まない」

うん……痛みが無いのは、もう回復魔法で無理矢理肉を作って再生させたからだね。傷跡は残ると思うけど。

「あなた、大丈夫よ。カームが」

 そこで俺が母さんの口を塞ぎ、人差し指を自分の唇に当てた

「皆には内緒ね」

 周りに人影は見えないが、二人にしか聞こえない様に言った。

 そうしたら母さんが、父さんの口を塞ぎ耳元で。

「カームが回復魔法を使って、傷口を塞いだわ、痛みが無いのはそのせい。もう血は出てないし、しばらくすれば動くようになるわ。驚いてるみたいだけど知られたくないらしいから声を出さないで。良いわね?」

 コクコクと頭を縦に振っているので、口を塞いでた手をどかした。

 父さんが痛みが無いか手を握ったり肩を動かしたり足首を回したりしている。大丈夫そうなのかよろよろと立ち上がり。

「すまなかったなカーム、お前の事を疑っていたよ。お前は強い。二人を守ってやれよ」

「はい」

 そう言うと家の中に入って行ったので、俺もバールだけ様子を見て入る事にする。バールは少しへこんだだけだった。流石鉄の塊だぜ。


 父さんは風呂に入り、血の付いた土埃を洗い流してきて、椅子に座り、俺に酒を注いできた。コレは返杯するべきなのか?と思っていたが自分にも注ぎはじめた。

「仲直りだ」

「はい」

 そう言いつつカップを掲げたので、俺も掲げそのまま飲み干す。

「いやぁ、まさかあそこまで強いとは思わなかった。早いと思って最初に得物を手放し剣を防いだのは見事だった、良く咄嗟に出来たな」

「まぁ、なんとなく両手武器じゃ無理って思って、思考を切り替えたんだよ」

 FPSじゃ、判断力のミスが即死に繋がるからな。

「そうか、武器を拾えと言ったのに拾わなかったのは何でだ?」

「戦闘中に落としたら、拾ってる間にやられるからね。戦闘が終わってからか本当に隙が出来た時じゃないと拾えないって思ってるんだよ、蹴りあげて掴むとかは出来ないし」

「だよな、本当に対人経験は無いんだろ? 俺が初めてで」

「まぁ……そうだね」

 ネット対戦はしてたけどね。読み合いはある意味精神を削る。

「まぁ、俺に勝てた事は誇って良い、当時は力のイチイ、技のヘイルとか言われてたから」

 なんか、仮面をかぶってるバイク乗りみたいだ。まぁ単純な方が覚えやすいか。最前線送りにした、ドラゴンの牙とか。

「まぁ、そのうち、鬼神と疾風に変わるがな」

 フフッっと、何かを懐かしむ様に、父さんは酒を注ぎ飲み始める。

「はいはい、二人とも生きてたんだからいいの。カームはこの後飲みに行くんでしょう? つまみでも食べて待ってなさい」

 仕方ないので、チーズをつまむだけにする。

「魔法が得意だと思ってたが、近接も出来るんだな、魔法使いタイプかと思ったが、どっちも出来るって万能だな、俺には出来んなぁ……回復魔法も使えるしな」

 と、最後は物凄い小声で言ったのは、聞き逃さなかった。

 俺は、また唇に人差し指を当てて、目を見るだけにしておく。父さんも首を縦に振って苦笑いをしている。

「なんじゃこりゃー!」

 そんな声と共に、ドアが激しく叩かれるので、俺が急いでドアを開けるとヴルストが焦ったような顔で俺の全身をくまなく見る。

「カームが無事ならヘイルさんか! お前何やってるんだよ! あんな血だらけにしやがって! 親じゃないのかよ!」

 あ、やべぇ。血の処理忘れてた。失敗失敗。

 体を半分退かし、家の中を見せ、奥にいる父さんを見せると、驚いた様な顔で父さんが、どうしたんだ?と言う顔で酒を飲んでいる。

ヴルストが力なくへたり込み、

「二人とも無事で良かったぜ……あれ? あの血は誰の?」

 あちゃーこれは不味いな。

「じゃ……じゃぁ酒場に行ってきます」

 そう言うと、ヴルストを立ち上がらせ、血で黒くなった地面を魔法で耕し、ふわふわにしてから無理やり酒場に引っ張っていく。明日踏み固めよう。


 酒場に着き、相変わらず三馬鹿が揃っている。あれ?俺が入ったら馬鹿四天王になるのか?まぁいいか。

 適当に酒を頼みつつ、ヴルストが切り出す。

「何があったんだよ言えよ」

「何かあったの?」

「僕も気になるね」

「こいつを迎えに行ったら、玄関の前に血だまりが出来ててな、どっちかが大怪我したと思って急いで家の中に入ったら二人とも無事だった」

「ふっしぎー」

「むぅー」

 仕方が無いので、先ほど家の前であった事を全部話した。その後に指をクイクイとやり全員に話すことにした。

「今まで内緒にしてたが俺、回復魔法が使えて、父さんを治療した。それで血は止まって、家で酒を飲んでた訳だ。だから二人共怪我をしてないように見えた訳だ、内緒だぞ?」

 こうして、内緒を知っている人が増えていく。

「じゃあお前、ヘイルさんに勝ったんだよな?」

「まぁ」

「あのヘイルさんに勝ったんだ、やっぱりカームはすごいね!」

「すごいな」

「なぁ……、今更だけど俺の父さんってすごいの?」

「当たり前だよ! 疾風のヘイルさんだよ」

 なぜかシュペックが熱くなっている、斥候で短剣2本だから尊敬でもしてるんだろうか?まぁ、一瞬で父さんがダサくなった気もするが、凄いって言うなら凄いんだろう。

「それよりどうなんだよ、噂のラッテさんってよ」

「気になるねー」

「うんうん」

「あー、一言でいうならトリャープカさんを少し優しくした感じ。そうだな、良く抱き付いて来て、顔を擦り付けて来る。俺の洗濯物籠を漁って臭いを嗅いで「良い香り~」とか言う。一途」

「ぜんぜんマシじゃないか!」

 シュペックが机を両手で叩きながら叫ぶ。まぁやさしくした感じって最初に言ったのに。

「歳は?」

「俺の十歳上って言ってるが、本当かどうかはわからない」

「倍じゃないかよ」

「まぁ、すこししたら十歳年上になるよ」

「容姿はどうなんだい?」

「俺より頭1個分低くて、髪が白で腰の当たりまであって可愛い系、夢魔族なのに露出は少な目、スズランよりは胸は有る」

「死んだ方がいいね」

「うんうん」

「だな、今日はカームの奢りで」

「はぁ!? まじかよ」

「「「ごちそうさま」」」


 渋々支払いを済ませ、家に帰りラッテ用の髪飾りを作ろうと思っている。前に「わーたーしーにーもー」とか言ってたからな。差別は良くないよな。

 スズランはそのまま鈴蘭をガラスで作り渡したが……。


 牛乳(ラッテ)


 だからなぁ……。本当どうしよう。

 俺の頭の中に有る花で、そこそこ有名で、何も見なくても思い出せて、あの白い髪に似合う花か。茶色系の花ってあまり無いし映えないんだよなぁ……。

 あれでいいか。似合わなくは無いだろう。

 そう思いつつ三色のコスモスを頭にイメージして、ピンクをメインに少し小さ目の白と赤のを作り、バランスよくくっつけて終了。花びらが多いから以外に面倒だったなこれ。

 緑の茎に白い球体をくっつけて行く作業よりかなり難しかった。


【スキル・細工:3】を覚えました。


 もう何も言うまい。


 これを、髪留めに付けて終わりだな。割らない様に持ち帰らないと。

 んー今日はもう寝るかね。



- ヘイル視点 -


「さっきも言った通り、力で示せ」

 俺は息子にそう言い放ち、盾を前に出して構える。距離は大股で十歩か。

「わかったよ、こうしないと納得しないんだろう」

「あぁ」

 俺は全力で駆けるが、残り三歩と言うところで、目の前に土の壁がせり上がってきた。

 小癪な真似を。ただ単に土を持ち上げて、壁を作っただけだ。盛り上がる前に厚さはある程度見て把握している。土であの厚さ、今の俺の速度。このまま突っ込んでも問題は無い。

 少し土が目に入るが仕方ない、向こうで息子がどう構えていてどう出るかわからない以上、目を瞑って壁を破る事は出来ない。

 俺は覚悟を決めて、そのまま土壁を突き破り攻撃を仕掛けるが、予想外だったのか、息子が驚いている。

 そのまま剣を外側から内側に横薙ぎに振るい、当たれば骨で止める気ではいるが、一応本気で振っているのでどうなるかわからない。腕が落ちたら許せ……。だがこんな事で負ける様なら、女は守れない。さぁ……どう出る。

 何を思ったのか、左手でくぎ抜きを持ち、腕にピッタリと当て俺の剣を防いだ。そして重いスコップを手放した。アレじゃこの先無理だと思ったんだろう。良い判断だ。

 そのあと、手に魔法で見た時の無い投擲用ナイフを作り出し、手首だけで投げてくるが勢いがまるでない、正直がっかりだ。飛んで来た物を、剣の柄頭で落とし、そのまま投げた勢いで、マチェットを抜きながら攻撃してくるが盾で防ぐ。

 この動作の為に手首で投げたのか、勢いがないのも納得だ、もう少し鍛錬すれば流れる様な良い連携攻撃になるだろう。

「本気で来いと言ったはずだが?」

「今ので本気なんだけどね」

 息子は深く息をしている。少し話をして整えさせてやるか

「俺を親と思うな、殺す気でかかって来い、ハイゴブリンはまぐれだったのか?直接魔法を当ててこい。それとスコップを拾え、時間をやる」

 俺は、いつ仕掛けられても良い様に盾を前に構え、腰を低くして構えて待つ。

「はいはい。父さんには御見通しって訳ね……んじゃ仕掛けさせてもらうけど、後で文句はなしね。それと手放した得物は戦闘中に拾えないと思ってるからスコップは良いさ」

「はん!そんな事は勝ってから言え」

 たしかに言っている事は正しいと思う、一対一でも、乱戦でも、落としたらまず拾えないからだ。だが主力武器無しでどう出るかが楽しみだ。

 俺はさらに腰を低くして、仕掛けて来るのを待つ事にする。どう出るか楽しみだ。

 俺は息子の目を見て、今か今かと待っていたが、一瞬俺の足元を見たと思ったらいきなり目が座り見た時の無い顔付きになった。正直あんな顔も出来るのかと思ったが今は集中するしか無い。

 そう思っていたら、いきなり足に痛みが走り、なんだ?と思って少し見たら厚手の革のブーツを貫き、足から返しの付いた太い氷の棘みたいなのが突き出ていた。

 最悪だ。まさかこんな魔法まで使えるとは思わなかった。そう思っても、もう遅い。足が抜けそうにないので、このまま戦おうと思ったら、いきなり目を焼くような激しい光と、聞いた時の無い大きな音だ。

 大型の魔物が建物を一撃で破壊する時より大きいし、ドラゴンの鳴き声でもこんなにはうるさくは無い。

 それが同時に俺を襲い、目を開けても目が見えず、耳も静かすぎる部屋にいる時のような感じで何も聞こえず何も出来ない。仕方がないので、その場で身を守る様に、盾と剣で顔を隠したのが問題だった。

 右手の甲、左肩と順番に衝撃が走る。正直熱くも感じる。異物が残っている様な感じなので、多分魔法で出した投げナイフだと思う。俺は悪態を吐くが、鎧が肩まであれば防げたと思うが、腕が上がらないから好きでは無い。

 それを悔やんでも仕方が無い。今どうなってるのかも耳も聞こえないのでどう判断して良いか解らない。

 そうしている間に後ろから肩を2度叩かれた。

 あぁ、息子は今後ろにいて、何もできない俺にいつでも止めをを刺せたのだと確信した。

 聞こえてるかどうかは解らないが、「俺の負けだ」と言い、剣と盾を捨て未だに刺さってるナイフを抜くと同時に足の違和感も消えた、多分氷の棘が無くなったんだろう。俺は前のめりに倒れる事にした。


 誰かが俺の体を揺すっている。止めてくれ、血がどんどん流れちまう。あぁ、明日からどうやって働こう。足も駄目、手も駄目、どうすればいいんだ。回復魔法も回復薬も万能じゃないし高い。


 両手足が不自由になったショックから、少しだけ気絶していたみたいだ。ウソみたいに痛みが無い。

 目を開けると妻と息子がこちらを見ていた。妻は泣いている。あぁ悲しませちまったな。

「俺は、負けたんだな」

「そうよ、だから辞めなさいってあれほど言ったじゃない!」

「すまないな母さん。これじゃしばらくは働けない、痛みが無いんだ。右手も握れない、左腕も上がらない、両足も使えない。あぁ……最悪だ、本当に済まない」

 謝って済むものじゃ無い、明日から収入が無くなるのだ。

「あなた、大丈夫よ。カームが」

 そこで息子が妻の口を塞ぎ、人差し指を自分の唇に当ててながら言った。

「皆には内緒ね」

そうしたら妻が、俺の耳元で。

「カームが回復魔法を使って傷口を塞いだわ、痛みがないのはそのせい。もう血は出てないし、しばらくすれば動くようになるわ、驚いてるみたいだけど知られたくないらしいから声を出さないで。良いわね?」

途中で声を出せないように口を手で塞がれ何の事か?と思ったがそう言う事か。俺はコクコクと頭を縦に振ったので手を離してくれた。

 そう聞いたら試したくなった。ウソみたいに手も握れるし腕も上がる、足の穴も塞がっている。傷が治った時みたいに色が少し違うが、あんな大きな傷がこんな短時間で治るようなものじゃない。アイツは本当に何しやがった。

 まぁこの後は父親としてやるべき事をやるだけだな。

「すまなかったなカーム、お前の事を疑っていたよ。お前は強い。二人を守ってやれよ」

「はい」

 なんか体中血と埃まみれだが、清々しい気分だ、風呂に入って酒でも飲むか。


 大きくなった息子と一緒に、こんな感じで酒を飲むのに少し憧れてたんだよな。そう思いながら酒とカップを棚から出し息子に注いでから自分のカップにも注ぐ。

 なんか俺にも注ごうとしてたが、無視してやった。なんか恥ずかしいからな。

「仲直りだ」

「はい」

 こっちの方が恥ずかしかった。まぁいいさ。

 カップを掲げ一気飲み干す、今回はカップをぶつける様な事では無いからな。

「いやぁ、まさかあそこまで強いとは思わなかった。早いと思って最初に得物を手放し剣を防いだのは見事だった、良く咄嗟に出来たな」

「まぁ、なんとなく両手武器じゃ無理って思って、思考を切り替えたんだよ」

 一応そう言う考えも出来るのか、少し息子を侮っていたな。

「そうか、武器を拾えと言ったのに、拾わなかったのは何でだ?」

「戦闘中に落としたら、拾ってる間にやられるからね。戦闘が終わってからか、本当に隙が出来た時じゃないと拾えないって思ってるんだよ、蹴りあげて掴むとかは出来ないし」

 たしかにその通りだ、息子も同じ考えだったようだ。俺も落とした武器を足で蹴りあげて掴むとかは、滅多に出来ない。

「だよな、本当に対人経験はないんだろ? 俺が初めてで」

「まぁ、そうだね」

 魔物とは戦った時はあるけど、対人戦は今日が初めてとか嘘みたいだな。これで初めてなら経験を積めば恐ろしい事に成るな。

「まぁ俺に勝てた事は誇って良い、当時は力のイチイ、技のヘイルとか言われてたから」

 言ってて恥かしくなる。

「まぁその内鬼神と疾風に変わるがな」

 恥かしいついでに言っておこう、酒の席での笑い話には成るだろう。

 フフッっと笑いながら、自分にカップに酒を注ぐ。

「はいはい、二人とも生きてたんだからいいの、カームはこの後飲みに行くんでしょう? つまみでも食べて待ってなさい」

 まぁ、帰ってきたらよくつるんでる三人と会って飲むみたいになってるからな、この間帰って来た時もそうだった。まぁ久しぶりの再会だ、会話をつづけよう。

「魔法が得意だと思ってたが、近接も出来るんだな、魔法使いタイプかと思ったが、どっちも出来るって万能だな、俺には出来んなぁ」『回復魔法も使えるしな』ボソッとつぶやいた。

 聞かれていたみたいで息子は唇に指を当てているので苦笑いしながら首を縦に振ってやった。

「なんじゃこりゃー!」

 そんな声と共にドアが激しく叩かれて、息子が対応しに行く。

「カームが無事ならヘイルさんか! お前何やってるんだよ! あんな血だらけにしやがって! 親じゃないのかよ!」

 騒がしいな、まぁ俺もあの頃はあんな感じで馬鹿やってたからな。まぁ俺は負けたから好きにさせてやるか。そう思いながら元気な所も見せてやろうと酒を飲みながら玄関を見てやった。あと息子は詰めが甘いな。まぁ完璧な所が無い方が色々と人が付いて来るもんだ。完璧すぎても付いて来るけどな。

ヴルスト君が力なくへたり込む。

「二人とも無事で良かったぜ……あれ?あの血誰の?」

「じゃ……じゃぁ酒場に行ってきます」

 さぁて、コレからが息子の大変な所だな。コレは明日当たり楽しくなるぞ。心の中で笑いながらイチイの所に行って飲むとするかな。

「スリート、イチイの所に行って酒飲んでくるわ」

「怪我が治ったばかりなんだから気を付けてね」

「あぁ、転ばないようにするさ」

 そう言って、俺は出て行くが足元が柔らかくなっていて、転びそうになった。

「うぉ!」と言いながら踏ん張り、よく見ると俺が倒れてた所が耕されてふわふわになっていた。無理矢理血の跡を消したんだろうか?後処理も下手だな、とりあえず血だけ消して明日にでも踏み固めるつもりだったんだろうか?まぁ良い。少し踏んどいてやるか。


 そうして俺はイチイと飲み、酔った勢いで家で起こった事を話し回復魔法が使えるという事も言ってしまった。もちろんリコリスさんとスズランちゃんも聞いていた。

 済まぬ息子よ。父さんは大馬鹿者だったよ。



閑話


酒場にて

「コンの奴すげぇ死にそうな顔だったな、村に戻るって事はあのスズランって娘の親にも合うんだろ?あの子であんな力なら父親はどうなんだ?」

「頭とか簡単に握りつぶせるくらいじゃないっすかねー?」

「こ、怖い」

「……生きて帰って来る事を祈ろう。それしかできん」

 皆がうんうんと頷き、酒を飲む仕事場の仲間達。

「可愛い子なんだけどなぁ」

「た、確かに可愛い」

「けど親がやばいなら俺は諦めるっすよ、死にたくねぇっす、コンの話だと父親は見た目すげぇ怖いって話っすよ」

「けど。どうにかしないと不味いだろう、世の中上手く行かない事の方が多い。生きて帰ってきたら、奢ってやれば良いだけだ」

「だな! しんみりしたのは好きじゃねぇ! どんどん飲むぞ! コンが生きて帰って来る事を祈って!」

「「「おう!」」」

 そう言って二回目の乾杯の合図が酒場で鳴り響く。

カームとヘイルで考えてる事が少し違う見たいです。

あとヘイル視点の半分はコピペで出来ております。

きつねさんはヘタレ。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
[一言] 「だよな、本当に対人経験は無いんだろ? 俺が初めてで」 ごろつき4人と戦ってなかったっけ?
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