第36話 ラッテが部屋にやって来た時の事
細々と続けてます。
相変わらず不定期です。
前話の翌日となっております。
20160408 修正
「あ゛ー」
朝か……。相変わらず、俺を抱き枕にして寝ているスズラン。今日は流石にいつまでも寝かせておく訳にもいかないので、俺が起きる時間で悪いと思うが、速攻で起こす。
「起きろ、起きろー」
肘をぐいぐいやって揺らす、もちろん二の腕に胸が当たっているが、当たってるという感じはあまり無い。
「ん゛ーーーー?」
記憶の片隅にでもあったのだろうか、比較的直ぐに起きてくれたスズラン。少し目が腫れているのは、見なかった事にしてやろう。起きたのを確認したので、着替えて朝食と弁当を作りにキッチンへ。
一人分も、二人分も手間は変わらん。から揚げを作ってやりたかったが、昨日は食料の買い物をしていないので、買い置きのベーコンで我慢してもらおう。
代わり映えしないが、ベーコンとチーズのホットサンドと、弁当は残りのベーコンとチーズを使ったサンドイッチだ。もちろんスズランの方が、ベーコンが分厚くなっている。まぁ、切った残りの分厚い奴をそのまま挟んだだけなんだけどね。
コンコンコンと一応ノックをしてから声もかける。
「入るぞー」「うん」明るい所で見られるのは、恥ずかしいみたいなので一応保険ノックはかけて置く。
「悪いけど今日もホットサンドな、あとコレお弁当。髪は食べ終わったらやってやるから冷めない内に食べようぜ」
「「いただきます」」
とりあえず話しながら食べる事にする。
「今日はどうするんだ?」
「カームの仕事を少し見てから帰る」
「わかった、じゃあ一緒に向かうか」
コクコクと頭を縦に振りながらモグモグとホットサンドを食べている。
食べ終わったので、手早く食器を片付け部屋に戻り髪をセットしてやる。
「今日は、昨日言ってた好きな髪型の二つ目な」
「んー」
髪を梳かされながら気持ちよさそうに答えるスズラン。
髪をオールバックにして、少し高い位置でポニーテールにして紐で縛って終了。鉢金無いけどな!
意外に簡単に済んだな。前々から決めてるとやっぱ早いな。これじゃ少し寂しいから鈴蘭の髪留めを紐の部分に付けてやる。うん、ワンポイント。
「じゃぁ少し早目に出るか、荷物は俺が持つよ」
「ありがとう」
部屋を出て歩いていたら、キッチンの前でセレッソさんに話しかけられた。
「カーム君、スズランちゃん。朝の忙しい時間だけど少しいいかしら?」
「え、えぇ」
スズランは黙って付いて来る。
「昨日はごめんなさいね」
「まぁ、少し驚きましたけどね。自分が正直にスズランに言ったのが原因ですし、それにそういう事は早めに片付けておきたい質なんで」
「あら、そうなの?」
「心がムズムズするんですよそういうのって。まぁ今後も付き纏われるのも嫌だったんで「はっきりさせようかな」と思ったのが今回の原因ですね」
「ふーん」
「まぁ、結果的にこうなっちゃったのでソレはソレで受け止めますがね」
「あら、潔いわね。スズランちゃんはこれで本当に良かったの?」
「はい。私も一目惚れみたいな物です。なのでラッテさんの気持ちは良くわかります。奥さんを沢山貰ってる人も世界にはいるらしいって聞いていたので。カームを裏切らない限り許します。昨日の夜カームに勝手に決めてごめんと謝りましたが許してくれましたし」
「ふーん、なら良いわ。そこだけが心配だったの、貴方達まだ若いからね。そこまでしっかりしてるなら問題無いわね、朝の忙しい時間に声を掛けちゃってごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
「いってらっしゃい、スズランちゃんは気をつけて帰ってね」
「行ってきます」「失礼します」
「はい」
「お?カーム今日は二人か? そいつは新しい職人か?」
「前に話してた彼女です」
「え? あ。すまん」
「大丈夫。よく間違えられるから。あと今日はこんな髪型だから余計です」
「申し訳ない」
「いえ」
「悪いな、今日の髪型をそれにしちゃって」
「大丈夫だよ」
「少し背が高いけどよく見ると女ってわかるし可愛いな、こう……凛とした感じの子も良いな」
「ありがとうございます」
少し照れている、やっぱり「可愛い」が重要なのか? 今度から可愛い系の髪型にしてやるか。
「じゃ村に帰るって事でいいかい?」
「はい」
「俺が三十日に一回帰る約束だったんですけど、今回は来てくれたんで助かりましたよ、じゃあ遅れるんでこの辺で」
まぁ色々有りすぎて、歩いて帰るより変に疲れたけどな。
「おう、引き止めて悪かったな。あと羨ましいからあとで酒を奢らせてやるからな」
「勘弁して下さいよー」
そう言いながら職場へ向かう。
「おはようございまーす」
「おう、いつも通りだな。その子が彼女か? 背ぇ高けぇな、胸も薄いし」
あ、少し不機嫌になった。
「そう言うのが好みなのか?」
「幼馴染で、そのままって感じです。かなりの時間を一緒に過ごしてましたし、家も近いですし」
「そうか、で。お嬢ちゃん、名前は?」
「スズランです」
「そうか! コンから『俺より力が強い力が強い』って聞かされてるからな、どんなごっつい娘かと思ったが、かなり可愛いじゃねぇか! 羨ましいな、大切にしろよ!」
バンバンと背中を叩かれ笑っている。親方痛いっす。あとスズラン、機嫌直るの早すぎ!
「コン?」
「あぁ、俺のあだ名だよ、俺の肌が藍色か紺色だろ?だから『コン』って呼ばれてる、おやかたは皆をあだ名で呼ぶんだよ。だから俺、皆の本当の名前を知らないんだ」
「見た目で誰だかわかるのが良いからな。お、丁度『きつね」と『つの』と『まっちょ』が来たぞ」
「本当。誰が誰だかすぐわかる」
「だろ!?わかりゃ良いんだよ」
「……確かに」
そう言ってると三人がこっちに来た。
「ういーっす」「お、おはよう」「うっす」
「お? 例の彼女かよー。羨ましいじゃんよ」
「り、凛々しいな」
「いやー今日はこの髪形だから凛々しく見えますけど、下ろせば可愛いですよ」
「おう、可愛いのも見せてくれや」
「時間は良いんですか?」
「少しくらい構わ無ぇよ」
「じゃぁ……良い?」
「またこの髪にしてくれるなら」
そう言って髪留めを外し、紐をほどき、頭を軽く振るとフワッと髪が広がり、いつもの髪型に戻る。癖とか付いて無いってすげぇぞおい。
「おー確かに可愛いな」
「っすねぇ」
「か、可愛い」
まっちょさんのこの表情はまんざらでも無いって考えてるな。
「昨日はこうでしたね」
簡単に後ろで髪を分け、前に持って来て、首のあたりで髪を手で絞って見せる。
「昨日の方が良いじゃねぇか!」
「だ、だな」
「俺はさっきの方が良かったと思うよー」
んー意見が別れたな、まぁいいか。スズランから櫛を出してもらい、梳かしてからまた髪をセットする。
「んー髪型で随分印象も変わるもんだなぁ」
皆頷いている
「おい、どんだけ力が強いかまっちょの手を握ってみろ、それで解る」
そう言って、まっちょさんが手を出してくるが、少し恥ずかしそうにしている。以外に可愛いなまっちょさん。
「手が大きすぎて握れない。これじゃ力が入らない。握っても指三本」
「おう、なら指でいいや、握ってくれ」
「ぐっ……あ゛っ」
あ、これ駄目な奴だ。
「はい、止め止め!やーめーろー、どう見ても痛がってるだろ!?」
「でも……痛いとか。止めてとか言ってないし」
我慢してるんだよ、気が付いてあげて!あーあー、無表情だけど腕首振ってるしアレは絶対痛がってる。
「じゃぁどの位強いんだよーちょっと参考になる様な事頼むよー」
俺は、落として半分に割れた焼きレンガを持って来て、スズランに渡す。
「ソレ、好きにして良いよ」
「わかった」
そう言うと、力を入れている様子も見せずに、クッキーを半分に割る様にレンガを更に半分にする。さらに縦に半分にして、全体の大きさの八分の一くらいの大きさにしてそれを握る。少しして手を開くと、湿った土を握りしめたような形で、粉になったレンガが手の平に残っており、直ぐに崩れた。
「お……おい、まっちょ。アレできるか?」
まっちょさんが、無言で残ったレンガを手に取り、握りやすいように形を作ろうとするが、その時点で少し力が入っている。そして握りやすい大きさになったレンガを「うおぉぉぉぉおお!」と、声を出して全力で握るが、角が少し丸まっただけで形はほとんど残っている。
「無理です」
「……だよな。いやー可愛いのに本当に力が強いんだな」
ははは……と、全員が死んだような目で、渇いた笑いを出している。
「俺もそう思いますよ。ありがとうスズラン。はい、これで手洗って」
そう言って【水球】を出して、手を洗わせる。
「じゃぁ。私はこれで帰ります、カームをよろしくお願いします」
「お、おう!気を付けて帰れよ」
たぶん大丈夫だろうがな、と小声て言っているのが聞こえたが聞かなかった事にしておこう。
「カーム。今度のお土産はナックルダスターをお願い、お金は出すから」
「あいよー、気を付けて帰れよ」
「よっしゃ! 今日も仕事始めるぞ!」
「「うぃっす!」」
なんかおやかた達聞かなかった事にしてる。
昼休み、何時もの食堂にて。
「コン……この間は色町に誘って悪かった、喧嘩したんじゃないか?」
「ん? あー大丈夫っすよ、特にスズランとは、あまりありませんでしたので」
「何かあったような、口ぶりじゃんよー」
「俺って、好きになってくれてる女の子を裏切るのが嫌いなんで、色町に行った事を正直に話したんですよ」
「「そしたら?」」
「じゃぁ、この間の白髪の娘に『会いに行こう』ってなりまして」
「平気だったのかよ?」
「両方腹を一発殴られたました……腹パンだけで済みました」
「……それは平気じゃないって言うんだぞ……コン」
「その……悪かったじゃんよ」
「ご、ごめん」
「……悪かった」
「俺は耐えられたんですけどね、その子が吐いちゃって、店に迷惑かけたなーって」
「全然平気じゃねぇな」
残りの三人も頷く。
「女の喧嘩も大概ひでぇな」
「そうでもないですよ、それで『許す』ってなりましてね」
「許すって何を許すんだよー」
「俺とまぐわうのを」
「ブフッ」うわ、きつねさん汚い。まぁ俺も噴き出したけど。
「どうしてそうなった……」
「スズラン曰く『私と同じ一目惚れだから』『奥さんを沢山貰っている人も居るから』だそうです。」
「まぁ俺の知ってる奴にも嫁を二人貰ってる奴がいるけどよ」
「俺も不思議なんですよね、なんでこうなったのか。あー条件も付けてましたね『カーム以外とまぐわらない事』『私と同じまぐわうのは三十日に一日か二日、守らなかったら殴る』って」
「こ、怖いな」
「あー怖かったですね。まぁ、スズランのお父さんも怖いんで、親子だなーで済ませました」
「逃げてるじゃねぇかよ、思いっきり逃げてるよー!」
「あれ? じゃぁその子、店どうするんだ?」
「『辞めたら認めてくれるの? じゃぁ辞めます!』って言って、その場で辞めましたよ。周りはこっちの事見て来るから、気まずかったですねー。まぁ、その日は仕事に出ちゃってるんで、帰れないって事で、それ以上客を取らないようにしたみたいですが」
「すげぇ事になってたんだな、まぁ……悪かったな」
「いえいえ、こうなった以上仕方ないので、どうにかしますよ」
「その後はどうなったんだ?」
「え? まさに今! って感じですが」
「昨日の夜から、今日の朝までだよー」
「そうですねー、帰って来てから泣かれて、何回も謝られました」
「本当にそれだけか? 三十日近くも会ってないのに、それで終わるか? ん?」
「終わります!」
「嘘だな、若い男が三十日も我慢できるはずが無い、断言できる。しかもそれを逃すと六十日だ。無理だな」
「え、えぇ……っと……無いですよ?」
「スズランちゃんはイライラしてなかった、何かあっただろう、言え」
まっちょさん、さっきから怖いよ。
「実は……その。その後和解して……三人でしちゃいまして」
「今日はお前のお奢りだ。決定な!」
「待ってください! 訳を! 訳を聞いて下さい!」
「けど事実だ」
皆が席を立ち、出入り口へ向かって行く。
「ラッテさんが行き成り乱入してきて、スズランが何故か『良いよって』って言うから……。お願いです聞いて下さい。うわぁぁああああ!」
ひでぇ話だ。泣きたくなる。
午後の仕事中は散々ネタにされ、あまり親しくない奴等にも話が広まり、睨まれる事になった。男の嫉妬って醜いな。
まぁなんだかんだ言って皆冗談でやってるみたいだったので助かったが、あのままの環境だったら、確実に仕事辞めてたわ。
仕事帰りに、軽くなった財布で食材を買い、部屋に戻るといきなりノックされたので「はい」と言ったら、勢いよくラッテさんが入って来て、飛びついて胸の辺りで顔をスリスリしてくる。
「おかえりー、お仕事お疲れ様ー。洗濯物とかあるならやっておくよー」
……あえて、頭痛が痛いって表現を使いたいくらい、マジで頭が痛いわー。
「なんでラッテさんがいるんですか? あー、あと休みの日に纏めて洗濯してるんで平気ですよ」
「ならご飯作ろうかー? 私結構得意だよー」
「はぁ……自分でも作れるんですけど、まぁ、取りあえずお願いします。食材はそこにあるので自由に使ってください」
「言葉使いがかたーい、もっと砕けてよー」
「俺、菓子も作れるくらい料理できるけど、作ってくれるなら作って、食材はそこのを、あまり使いすぎないようにすればいいから」
なんか言葉使いが、変になった。まぁいいか。
「よーし、早速砕けてくれたね。嬉しー、あと、私の事『さん』付けじゃなくて呼び捨てか『ラッテちゃん』でお願いね、さぁ!」
え? 今言えって言ってるの? マジで? なんかイラッって来る、まぁ怒らないように、好きになれる所を探さないとな。許可したスズランの事を裏切る事になるし。
「じゃぁラッテ、夕飯作って」
「うん、いいよー」
出て来たのはグラタンだった、中身マカロニじゃないけど。
ベーコンやホウレンソウ、玉ねぎジャガイモをバターで炒めて、牛乳で煮て、小麦粉でとろみを付けて、茹でたパスタと絡めてチーズを削って、パン粉を乗せてオーブンで焼いた。そんな感じだ。
「うん、美味しいよ。いやー本当に意外だ。想像を絶する、黒こげ消し炭肉が出て来るのかと思ってドキドキしてたけど、正直そう思ってた自分自身を呪いたい」
「カーム君って意外に酷い事言うねー、私だって結構一人で生活してれば嫌でもこれ位できるよ」
「え? 結構一人? どのくらい?」
「んー年越祭十回」
カンッ、グラタン用の鉄の深皿にフォークを落としてしまった。
「……今、何歳ですか?」
「もー、早速言葉使いが固くなってるよー、あと女の子にあまり歳を聞いちゃ駄目だぞー」
「何歳ですか?」
「……二十」
倍かよ! 俺の倍かよ! 数年経てば倍じゃなくてプラス十だけど、いやそう言う事じゃ無くてだな。
「正直、俺より少しだけ上だと思ってたわー」
「カーム君はー?」
「そろそろ十歳」
「へー、もう少し上かと思ってたよ、だって考え方とか子供っぽくないもん」
中身四十歳ですから
「どのくらいだと思ってた?」
「私と同じくらいか、少し下かなー? あ、歳が離れてっるからって引かないでよ」
「いや、その辺は大丈夫です、あ……だよ。魔族は見た目で歳がわかり辛いから。逆を言えば五百年くらい生きてるのに、見た目子供とかいるから、俺の村の校長とか」
言葉使いを、訂正しつつ会話を続ける。
「じゃーあー、見た目がそれらしかったら、歳が離れてても良いんだねー?」
「あーうん、大丈夫」
「じゃあ、セレッソさんも平気だねー」
「なんで?」
「だってセレッソさん今年で」『ダンッ!』
隣の部屋から、壁を強く叩く音で会話が切れる。
「今年で?」
「ナ、ナンデモナイデス」
「あ、うん」
あーはいはい、言ったら酷い目に合うんですね、わかりました。
「ご馳走様でした」
「はーい」
「食器は俺が洗ってくるよ」
「お願いねー」
そう言って、俺は食器を洗いにキッチンに入ると、いつもとは雰囲気が違うセレッソさんが、後を追う様に入って来た。
「結構良い感じじゃない」
「まず好きになれる所を、探さないといけませんからね。最初から嫌う事はしませんよ」
「良い心がけね」
「まぁ、俺の相手はスズランだけかと思ってたんですけどね、そのスズランが引き込んだ以上、裏切るのも悪い気がして」
「良い事じゃない。その一人だけかと思ってた人から、増やしてもらえるなんて」
「やっぱり夢魔族とは考え方が合いませんね……。俺は一人を愛したかったんですけどね。増やしてもらえるって考えは理解できません」
「あら、じゃぁこういう考えはどう? 正妻公認の側室って言うのは。王族じゃ割と当たり前よ」
「俺は王族じゃないんで、わかりませんね」
皿を洗い終わり、手をタオルで拭きながら言う。
「じゃあ、妻が『私の目の前で浮気していいわよ』って、言ってる」
「浮気はしたくないですね」
「堅い頭、女が一人増えようが十人増えようが、愛してやるって気持ちになりなさい」
「頭ではそう考えてても、心がまだ追いついてきません。もう少し時間が必要ですね」
流し台の縁に座り腕を組み、少し目を据わらせ、声を落とし答える。
「好きか嫌いなら……好きなのよね?」
「もちろん。まぁ……まだ嫌いな所が無いから……ですけどね。まぁ嫌いにならない様にしますが、どうしても無理って場合は相談しますよ」
「そうならないよう祈ってるわ。一応家族の様に可愛がってたから。お願いね」
「えぇ、こっちも祈ってますよ……あと妹の様に……じゃないんですね」
「時々貴方が良くわからなくなるわ、子供っぽい時があったり、かなり冷静な大人っぽい時があったり」
「聞いてたんでしょう? 俺は今年で十歳ですよ」
「そうだったわね……あーそうそう、ラッテが私のいない所で私の年齢の事を言ったら教えてね」
「えぇ、解りました……」
そう言うとキッチンから出て行った。
一応、セレッソさんはセレッソさんで、気にかけてるんだな。まぁ、前世の感覚が抜けきってないだけで、こっちでは一夫多妻とか、多夫一妻も当たり前なのかね?まぁ、考えても仕方がない。
少し考えてからキッチンを出て、ため息を吐きながら部屋に戻ると、ラッテが俺の洗濯物の臭いを嗅いでいた。
スーハースーハースーハー「あぁ、カーム君の香り……ハァハァ」
手に持っていたのは、俺の下着である。
静かにドアを閉め、隣の部屋をノックする。
「はぁーい」
「カームです」
「……何かしら」
「早速心が折れそうになったので、相談に……」
「早っ!」
ガチャリとドアが開き、ジト目で「・・・どうしたの?」と聞いてきたので「静かに俺の部屋のドアを開けてください」と、説明する。
「何よまったく」と、文句を言いながらも開けるセレッソさん。
「はぁ、はぁ、カームくーん。あぁ! カーム君、カーム君の臭い! たまらなーい!」
静かにドアを閉め、諦めたように首を振り。
「アレの相談は無理よ……えぇ……絶対無理」
さっきの雰囲気は一切無く、いつものセレッソさんに戻った。
「わかりました、どうにかします。相談に乗ってくれてありがとうございます」
「ごめんね」
「いえ……大丈夫です、駄目元で相談しただけですから。あと、昨日洗濯物を洗えなかったのが原因ですから」
部屋に戻ると、まだやっていた。
スンスン「こっちの方が香りが強いかなー? あーあー、カーム君がお風呂から帰って来てから部屋に来るんだったなぁ、そうすれば今日の新しい下着の香りを楽しめたのに、踏み込むタイミング間違えたかなー。けど仕事帰りの汗の臭いも捨てがたいしー」
そう言いながら俺の洗濯籠を更に漁っているので、椅子に座ってずっと見ている事にした。
それから五分、「んーカーム君遅いなぁーそろそろ戻って来てもい……いは……ず。い、いつ頃戻って来てたんですかね?」
「俺の下着の香りを楽しみつつ『あぁ、カーム君の香り』って、言ってる辺りから」
「それって、かなーり最初ですよねぇ?」
「あーそうなんだ、何か言いたい事は?」
「今穿いている下着を脱いで、私に下さい」
「違うでしょ? 御免なさいでしょ? あと思った事を直ぐにそのまま言うんじゃなくて、少し考えてから言いなさい、わかりましたか?」
そう言いながら、笑顔で両頬を優しく摘み、軽く引っ張る。
「ごへぇんにゃふぁーい」
「はい、よろしい」
「…………謝ったんだから下着を下さい! 今晩使います!駄目なら私の今穿いてるのと交換でも良いです!」
「少し考えてもそれか! なおさらあげられません、それとポケットに入ってる下着を返して下さい」
「あ……ばれちゃいました?」
「ほとんど最初から見てたって言ったでしょう、何言ってるんですか! ただでさえスカートのポケットは小さいのに。膨らんでるのが丸わかりです……まったく」
「言葉使いが戻ってるよー」
「コレは軽いお説教です、言葉使いも堅くなります、早く籠に戻しなさい」
「……はーい」
すげぇ残念そうに戻すなぁ。叱られるのがわかってて、ゆっくり歩いて来る犬みたいだ。
それからは、お茶を飲みつつ雑談をし、いい加減風呂に入りたいので丁重に帰ってもらった。帰る時にボディチェックをしたら、変な喘ぎ声を上げているが、無視をしてチェックを続けた、今度は袖から俺の下着が出て来た。お前はどこのシテ○ハンターだよ。
聞いてみたら、お茶を淹れるために、キッチンに行った時に盗んだらしい。
もうしないと思ってた俺が甘かったわ。
まぁ、銭湯までは一緒に行き、そこで別れ、精神的に疲れたのでゆっくり湯船に浸かった。
帰って来てからは、直ぐにベッドに入り、寝る事にする。
なんだかんだで、一緒に居て退屈しないって事だけを再確認して、それを好きになれるように努力しようと思う。
閑話
同日、夕方。
コンコンコンコンと、私の部屋ドアがノックされる。
「ラッテでーす、昨日言われた通り、来ましたー」
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす」
「話しってなんですかー?」
「昨日の事よ、貴女、本当に今後カーム君だけを愛するって誓える?」
「誓えます」
先ほどの軽い感じは一切無く、ラッテの返事は真剣だ。
「即答できる所は偉いわ……カーム君は本当はスズランちゃんだけを愛したいって思ってた事は昨日言ったわよね?」
「はい」
「けど、スズランちゃんがラッテは私と同じで、カーム君に一目惚れしたから愛する事を許すって言ったのも覚えてるわよね?」
「はい」
「貴女は一応夢魔族で、貞操概念の考え方は、他の種族と違うって言う事もわかって言ってるわよね?」
「解ってます」
「つまり二人の間に無理矢理入り込んで『私もまぜてよ』って言っている事も解ってるわね?」
「はい」
「カーム君がスズランちゃんに内緒で貴女に手を出したならわかるけど、カーム君は筋を通して、スズランちゃんと貴女に接した、だから貴女は二番目って事を覚えて置きなさい。偉い人で例えるなら正妻と側室位違うわ、二人を裏切るような事があって、それをカーム君やスズランちゃんが許したとしても、私が貴女を許さないわ、それだけは覚えて置いてちょうだい」
「わかりました、魂に刻みます」
「なら良いわ、そろそろカーム君が帰って来るから、帰って来るまでゆっくりしてなさい」
「わかりました」
そう言って、カップにお茶を注ぎ、少しだけ気まずい空気の中二人で過し、隣で物音がしたので、口を開く。
「行ってらっしゃい、頑張ってくるのよ」
そう言ってあげた。
「はーい、いってきまーす」
そう言って出て行き、隣から「おかえりー」と聞こえてきたのでヤレヤレと首を振りながら、お茶のお代わりを注ぎ、カームの作った焼き菓子を頬張り、
「世話の焼ける子ほど可愛いって言うけど、あれが本当の娘だったら困るわね」
そう愚痴った。
夢魔族にも一応ポシリーみたいな物が有るみたいです。
元々少し変だったラッテが更に変になった気がします。面白いので続投の方向で。