第35話 スズランが町に来た時の事 後編
細々と続けてます。
相変わらず不定期ですが前回が前回なだけに早めに書こうか?それとも丁寧に書くか?と考えましたが前者になりました。
個人的にかなり難産でした。
この話で賛否両論分かれると思いますが最終的にこうなりました。
こうしました。
後半に「腹パン」「嘔吐」「大人の事情」キーワードの「複数ヒロイン」が有りますが嫌な方はご注意ください。
20160406 修正
セレッソさんは、あの後に仕事に行ったみたいだけど、ベッドに入った時に、
「あんな事も有ったし、今日は何があるかわからないから、とりあえずは止めておこうか」
という事になり、昨日はしていない。
狭いベッドに二人で寝るのは少し狭かったが、寝れない事は無かった。
起きるのは俺の方が早いからと言う事で、俺が外側、スズランが壁側という事にはなっていたが。
見事に抱き枕にされている、これは起さないと起きれない。
ご丁寧に足まで絡めてきている。体も密着している。少しふわふわしてるから洗濯板って言うより、アイロン台に進化かな?
まぁいいや、今日は休みだから、ベッドの上でグデグデしているか。放って置いたら、いつまで寝てるか楽しみだ。
はい、あれから三時間経ちました。物凄く幸せそうにまだ寝ています。いい加減トイレに行きたいです。
無理矢理引っぺがしましょう……ハイ、ムリデシタ。
昔みたいに揺さぶって起しますかねぇ。
「おい、起きてくれ」ユサユサユサ。
「漏れるから、俺の尊厳とか威厳が下の方から漏れるから」ユッサユッサユッサ。
「ん゛~~~~」
「頼む!起きてくれ!」ユサユサ。
やった!外れた!
「ふぅ。やばかった」
トイレを出た所でトレーネさんと出会った。こんな寝間着のままで、ちょっと恥ずかしい。まぁユルユルの麻のシャツとハーパンだけど。
「あ、おはようございます」
「お、おはよう、昨日は悪かったわね」
「あー、気にしてませんよ」
「そう、それなら良いわ」
なんか目を合わせてくれない。
「今頃起きて来るなんて、かなり珍しいわね」
あ、多分勘違いされてる。
「いつも通り起きたんですが、スズランが抱き付いてて外せなかったんですよ。色々限界だったんで、無理矢理剥がしてて来ただけです。多分勘違いしてます」
「そう、悪かったわ」
今度は目を見てくれているので、勘違いとわかったんだろう。
「んじゃ、寝坊助にご飯作ってやらないといけないんで、部屋に戻りますね」
「なに、彼女料理しないの!?」
「得意ですよ、肉料理だけ。スズランに任せると肉しか出ません。むしろパンも食べずに肉だけ食います。この間村に帰ったら、山盛りのから揚げだけが出てきました」
変な顔をして「ご愁傷様」と言われた。
「お気遣いありがとうございます」とため息混じりに返しておいた。
部屋に戻ると、ぼさぼさの頭で目が据わっている状態で「おはよう」と言われたので「おはよう」と返しておいた。
「もうちょっと待てば、お昼になるけどどうする? 朝ごはん食べる? それとも、少し待ってお昼?」
「朝ご飯食べて。お昼も食べる」
「はいはい解りましたよ、腹ペコ姫」
キッチンに向かい、適当にパンを切って腹ペコ姫用にチーズとベーコン入りのホットサンドを作り、自分用に、野菜も入れたサンドイッチを作り部屋に戻る。
部屋に戻ったら、髪はぼさぼさだが、着替えは済んでいるみたいだ。
前に「明るい所では見ないで」って殴られたからな。多分急いで着替えたんだろう、朝食作るのに少し時間はかかったけど、少し慌てさせちゃったかな?
「はい、こっちが腹ペコ姫用でございます」
「ありがとう。いただきます」
速攻でモグモグと咀嚼し始める。
「はい、牛乳」
「んー」
一応、口に入れたままは喋らないみたいだ、俺も食うか。
「いただきます」
俺もホットサンドの方が良かったかな?けどそろそろキャベツが傷んできてたしな。やべぇ、そう思ったら、ホットが無性に食いたくなってきた。
俺はサンドイッチから野菜だけ取り出して。
「一個交換しないか? 俺もホットサンドが食べたくなった」
モグモグモグモグング
「いいよ。はい」
俺の皿に一個乗せてきたので一個返す。
「んー、溶けたチーズが美味いなー」
スズランはコクコクと頷いている
二人とも程なくして食べ終わり
「「ごちそうさまでした」」
俺は手早く皿を洗ってきて、髪を梳かしてやることにする。だって俺の部屋に鏡無いからね。
「朝に髪を梳かしてもらうの初めてだね」
「昨日もしてあげたじゃないか」
「昨日は濡れてた」
「はいはい、腹ペコ姫様、今日はどのような髪型に」
「任せる。あと腹ペコ姫は止めて」
「はいはい」
俺の好きな髪型にして良いって事だよな?スズランに似合うのは女侍みたいにポニテか。それともサラサラの髪を活かして7:3で優等生風か。鈴蘭の髪留めしか無いや、髪留めは何も付いて無いから良いのに!畜生!三つ編みも良いけどサラサラな髪がもったいない、なんだかんだ言って甚平だから普通にタオル撒いても似合うしな。んー。
しばらく髪を梳かしながら悩みつつ。
あーーー畜生!このままだといつも通りじゃねぇか。
んーけどな。この鈴蘭の髪留めを生かしたいし、スズランがしたことの無い髪型にもしたい。
後ろで真ん中から分けて、前に持って来て首の辺りで結ってお下げにしよう、そして耳の上あたりに髪留め付けて大人しい感じにするか。
うんファイ○ルなファ○タジーのタクティクスに出て来る黒髪版○魔か風○士だな!今風で言うと結○ゆ○り?けどアレもみあげっぽいしなー。
明日は侍風でオールバックポニテだ!
なんだ、甚平でもこの髪形似合うじゃないか、ズボン穿いてる風○士みたいで。
「こんなんでどうかなー」
髪を触りどんな感じか確かめている。
「い。良いと思うよ。この髪形好きなの?」
「うん!」(白魔○士みたいで可愛いよとは言えない)
「しばらくコレでいようかな」
「明日は違う髪型にしてあげるから」
「まだ有るの?」
「有るよ、結構」
こっちの世界じゃ短くしてるか、普通に纏めてるか、後ろで結ってるか、三つ編みか、そのままだからな。
「じゃぁまたお願い」
「こちらこそ!」
「髪を梳かしてた時かなり変だった」
「どんな髪にしようか、かなり迷ったからね」
散々後ろで、ウーンウーンって悩んでたら変だよな。
「じゃぁ出かけようか」
「うん」
「どこに行きたい?」
「この町で初めて行った食堂」
「あー、はいはい」
あそこは偶に利用するから場所はわかる。中級区をぶらぶらしながら少し遅めに行こうかな。
この前イアリングを買った露店に、何か良いのが入ってるかな?と思いつつ色々お菓子が売っている露店を転々としながら、話しをしながら向かう事にした。
「コレはクレープだね、カスタードクリームとか果物の砂糖煮が入ってる奴」
「食べる」
「おっちゃん二個ね」
「まいどぉ!」声がすげぇ低い。
クレープ屋にあるまじき見た目と返事だ。まぁ俺は美味ければ何でもいいけどね。比較的、人に近い見た目だけど髭とか体毛が結構すごい。イメージとか先入観で似合わないって思うのは俺だけで良い、ちなみにたこ焼き屋かお好み焼き屋が絶対似合うと思う。
「美味しい」
物凄くニコニコしている、和むなぁ。
「慌てないでね、クリームが付くとベタベタするからね」
気にしないでパクつくスズラン、ハムスターみたいにして食べないのは救いだけど、三分もかけずに食べるのは女の子としてどうかと思うよ。
「食べ掛けだけど要るかい?」
「うん」
そう言って、俺から受け取るとモグモグ始める。よっぽど美味しいんだろうか?まぁ村に甘味ってあまり無かったからな。
その後、別の露店で飴一個買って舐めると、何を思ったのか、お土産にと五十個ほど買っていた、溶けてベタベタしなければ良いけど。
まぁ、甘味も嫌いじゃないみたいだから、今度村に帰る時に買って帰ろう。
なんだかんだ、色々な露店を覗きつつ、目的の露店に着いた。
やんわりと「いらっしゃい」と言われ。
「あれ?この間耳飾り買ってくれたお兄さんだよね? 隣の子は彼女さん?」
「そうですね」
「じゃぁこの間の付けてくれてるのかな?」
「はい。これですよね?」
そう言って、お下げを横にずらして耳を見せる。
「おー似合ってるねー。かなり大人しい感じの物を買っていったのを覚えてるけど、付けている所見ると確かに派手なのより、大人しい感じの物が似合うね。その髪飾りも黒髪に良く似合うよ、結構凝ってるね、何かの花かな? それも彼氏からのプレゼント?」
「はい、俺の手作りなんですよ」
「へぇー、お兄さんすごいね。俺の所から買わなくても良かったんじゃない?」
「いやー、流石に銀をどこで買っていいかわからなかったので。あとアレは何も付いて無い髪留めにくっつけただけですから」
スズランは商品を見ている。
「それにしても珍しいね。何で出来てるの?」
「ガラスですよ」
「ガラスねぇ……お兄さんの方が器用なんじゃないの?」
「彫刻が絶望的でしてね。そこに置いて有る様な細かい奴とか出来そうにないんで」
「慣れれば簡単だよ?」
「デザインは頭に浮かぶんですけどね、一回木彫りの彫刻をやろうとしたんですけど、ただの木屑になりましたよ」
「じゃー仕方ないね。さて。さっきからずっと同じ物を見ている彼女さんの相手もしないとね」
「なにか欲しいのがあったの?」
「この腕輪」
指を指したのは、やっぱり飾り気のないただの銀のブレスレットだ、装飾も鉱石類も何もない、本当に銀を薄く延ばしてCの形にしたものだ。確かに元から飾り気は無いから無難と言っては無難だな。
「そうだね、装飾とか無いから似合うかも。試着してもいいですか?」
「かまわないよ」
左手に通して、装飾も無いのにいろんな角度から見て頭を軽く縦に振っている。気に入ったみたいだ。
「気に入った?」
「うん。他のゴチャゴチャしてるのよりは良い」
「ゴチャゴチャって、確かに簡素な方が似合うけどさ、買うかい?」
「少し高いよ?」
確かに銀貨七枚だ、まぁ装飾とか無いから銀の使用量と加工手間くらいだろう。
「この間の討伐で臨時収入が有ったから平気だよ、ここは任せて」
「いいの?」と、首を傾げて来るが可愛いので良しとする。
「じゃぁこれ下さい」
「ありがとうございます」
そう言って銀貨を七枚渡す。
「はい、一応布袋ね、そのままして帰るんでしょ?」
「はい」
「じゃぁ彼氏に預けておくからね」
そう言って俺達は露店を後にした。
太陽の位置からして一時か、そろそろ食堂が空く頃だろう。
「お昼食べに行こうか」
「うん」
から揚げだって解ってるからすごく嬉しそうだ。
「いらっしゃい、あら今日は彼女ちゃんも一緒かい? ならから揚げかな?」
覚えられてるって意外に便利。
「はい!」
物凄く力強い返事だな。
「じゃぁ、俺は日替わりランチで、こっちがから揚げ単品で。とりあえず先に一皿、その後追加で四皿で、から揚げは野菜抜きね」
キャベツばかり、食べさせられたらたまらないからな。
「あいよ、とうちゃん聞こえたね!」
「おう!」
「懐かしいねぇ、二回前の夏前辺りだったかねぇ? 細そうなお嬢ちゃんがから揚げモリモリ食べて、野菜は全部こっちの彼氏に来ちまうんだから、嫌でも覚えてるよ」
「村でもそうですよ、初めてから揚げ食べてすっかり好きになっちゃって、村に帰ってから鶏を育て始めて、今では鴨も飼ってるんですから」
「あらま。お嬢ちゃん、食べ過ぎて私みたいにならないようにね」
「はい!」
駄目だこの返事は話聞いて無い。から揚げしか頭にない返事だ。
しばらくしてから揚げが届く、モリモリ食べてるとすぐに二皿目三皿目が届き、それもすぐに食べきり五皿目も難なく完食して、もうちょっと食べようかどうか悩んでいるが、少し考えて止めたみたいだ。ちなみに俺は豚肉を塩胡椒で炒めて千切りキャベツが付いていた奴だった。流石に豚肉のしょうが焼きでは無かったね。
帰り際に武器屋が目に入ったのか「寄りたい」と言い出したので寄って行く。
「いらっしゃい」
商品を見て、速攻で「これ下さい」といって、ナックルダスターをチョイスしたのは流石です。
けど駄目だ。コレから話し合いに行くんだから、買うとしたら明日だ。
「あいよ!銀貨……」
「いやいやいや、止めます止めます、取り消しで。買うとしたら明日にします。すみませんでした!」
そう言って手を掴んで引っ張る様にして店を出る。
「コレから話し合いって言ってるのに、買わせるわけないでしょう。欲しいなら帰る時にしなさい!」
「だって」
「だってじゃありません!」
なんか母親みたいになってるぞ俺。
諦めきれないのか、チラチラ武器屋の方を見ているが構わず帰る事にする。
その後、集合住宅に戻りお菓子作りだ。
まぁ、卵が有るから、シフォンケーキとプリンでいいか。
手順なんか慣れちゃえば簡単だ。問題はシフォンケーキの焼き皿なんだよなー無いからやっぱり鉄のコップで代用するしかないのかねー。
お菓子を焼く独特の甘い香りが漂うが、誰も来ないのは昨日の件だろうか。まぁあの時は言いすぎたけど、材料が余ってるから仕方ない。そう言いつつ少し多めに作って、皆の為にメモを残すのは甘いのだろうか?まぁ、二つの意味で甘いんだけどね。
部屋で、俺の作ったお菓子を食べながら、腕輪を見てニコニコしているスズランを見ていると、少し微笑ましくなってくるな。
「ごちそうさまでした。カームのお菓子作ってる時の姿かっこよかった」
「お粗末様でした、どうもありがとう」
「私なんか肉料理しかできないもん」
「出来ないんじゃなくてしないんでしょう? 野菜も食べようよ」
「やだ。不味いし」
食べないと大きくなれませんよ、って言いたいけど胸以外大きいからそんな事言えねぇよな。
少し食休みをして、夕方になるまで二人でまたダラダラ過ごす。
「さて……色町に行こうか」
「……うん」
少し空気がピリピリしている大丈夫かな?
「いらっしゃいませー」相変わらず、ナイスバディーな女性だ。
「こちらへどうぞー」
早速席に着くと、女の子が隣に座り、寄り添って来て何を飲むか聞いて来る。
「とりあえず蜂蜜酒二つで」
「はーい」
二人して立ち上がり取りに行く。
「こういうお店なの?」
「ここしか知らないから、そうなんじゃないかな?」
少しして、二人が戻って来た。
「蜂蜜酒お持ちしましたー」
「誰か好みの女性はいます? 変わりますよー」
あーどうしようかな。
見た感じいないしな、一応言っておくか。
「ラッテさんいます? それかセレッソさんを」
「申し訳ありません。ただいま二人とも接客中ですので」
「じゃあ待ちますね」
「こちらの方は?」
「私は平気。他のところに行って」
「あら、女の子? 気が付かなかったわ」
「えー本当? んー確かによく見ると女の子ねぇ。てっきり男にそういう格好させてるのかと思ったわ、そういうのが好きって人もいるから」
「彼女同伴でこんなところに来る人っているんだー」
「本当ねー、物凄い物好きなのかしら?」
『ダンッ!』と、壊れない程度にテーブルを叩き二人を睨みどこかに追いやるスズラン。
「ベタベタ体を摺り寄せて来るから。確かに男の人が好きそう。ああやって好きな子を選んでお酒飲んでまぐわるの?」
「そうみたいだね」
「けどしなかったんでしょ?」
「そうだね」
さっきから女性達が、チラチラ見てるけど、気にしないでお酒でも飲もう。
「引っぺがさなかったの?」
「何回か剥がしたけど、あまりにもしつこいから諦めたんだよ」
「その女。カームに私がいるって知ってるんでしょ?」
「確実に知ってるね」
「理解できない」
「まぁ、夢魔族って言うのは、恋愛感情とか結構特殊みたいだからね」
「……そう」
「待たせちゃったわね」
そんな話しをしていたら、セレッソさんが話しを遮る様に、テーブルにやって来る。
「あ、どうも」
「こんばんは」
「今日のデートはどうだったかしら?」
「まぁまぁの収穫ですね」
セレッソさんの視線は、スズランの腕をみていた。
「あの銀のブレスレットかしら? 似合うじゃない、良い物が見つかって良かったわね」
「ありがとうございます」
褒められたのに、照れる様子も無く言っているのは敵地だからだろうか?
しばらく雑談してたら、ラッテさんが上から降りて来た。上から下りて俺を見つけると、名前を叫びながら駆け寄って来た。
「カームくーん」
そう言って飛びついて来る。
せめて、さっきまで一緒に居た客を送り出してから来いよ。
ほら、こっち睨んでるから。怖いから。男の嫉妬は怖いってどっかで聞いたんだから。
「キャー」そういいながら頭を擦り付けて来る。
向かいに座っているスズランの目が据わってきてるから、止めてもらえないかな?ってか止めさせよう。
「今日は、お話に来たので落ち着いて下さい」
そう言いながら頭を両手で掴んで、無理矢理引きはがす。が、直ぐに、くっついてくる。どうしようこの子。
「ね? 言った通りでしょ?」
「……うん」
あ、これ駄目だわ。纏まる話も纏まらないわ。しかも、目付きが鋭いし殺気も剃刀の様に鋭くなってるわ。
「こーやってても、お話できるもーん」
「ラッテちゃん? 物凄く真面目な話だからね? 向かいに座ってる子がカーム君の彼女ちゃんだから」
顔は笑ってるけど、目が笑ってないしいつもより声が低い、多分怒ってるのか?
「ごめんなさい」
いきなり素直になったな。
「隣に座ると色々と面倒だから、ラッテ。こっちに来なさい。スズランちゃんはカーム君の隣に」
何だこの四者面談。しかも周りもチラチラ見て来るし。
「じゃ、お互い自己紹介ね、あと言いたい事は言う事、私とカーム君はお互いが暴走したら止める事」
「はい」「わかった」「はーい」
「スズランです。子供の頃からカームと一緒で。二回前の春にまぐわりました」
「ラッテです、カーム君に一目惚れです、スズランさんがいると知ってても一緒になりたいって思ってます」
少しだけ沈黙があり、最初に口を開いたのがラッテさんだ。
「スズランさん、カーム君を貸してください」
「カームは物じゃない」
「好きになった男の子と、一緒に寝たいのは夢魔族の本能です、お願いですよー」
「物じゃないと言っているでしょ!」
「じゃー、どうしたら」
「物扱いしないで。それとさっきまで他の男の人と一緒に寝てたんでしょう? カームの事を一目惚れで好きになったのに、まだお客を取る事が私には解らない。その人の事が好きになったら、その人と一緒になる為に頑張るのが普通だと思ってる私が間違いなの?」
「夢魔族はその辺が違うんですよー、獲物としてまぐわるか、好きな人とまぐわるかで全然違うんです」
スズランは、果実水をのんで一息ついてから続ける。
「どう違うかはわからないけど。愛してるか。愛してないかの違いなの?」
「そうです、好きな人とまぐわると、心も満たされるんです、スズランさんもわかるでしょう?」
「その辺は認める。カームは私に中々手を出してこないからこっちから誘った。初めてした時は少し強引だった。好きな人とまぐわると心が満たされるのはなんとなくわかる。私も何かが満たされた気がした」
「でしょう? なら良いでしょう? 私も一目惚れして好きなんです。スズランさんがいるから、カーム君は私に手を出して来ない、それはスズランさんの事を本気で愛しているからですよ。けど世界には何人も奥さんを持つ人がいて、旦那さんがそれぞれわけへだて無く奥さんに愛を注いでます、奥さん同士も仲好くしています。だからスズランさんが認めてくれれば、カーム君だって私を好きになる可能性だって出てきます」
「待て、それはちょとおかしい」
「じゃあ、私の事嫌いなんですか?」
「好きか嫌いかの二択なら好きに入る、それはただ、俺がラッテさんの事を不快に思ってないからで、嫌いって思う所が今のところ見当たらないからですよ?」
「嫌いじゃなければそれならいーんですよ、私の事を好きになってくれるかもしれないんですから」
「んー? んー……?」
一体何を言ってるんだ?
「そう。たしかにカームが貴女の事を好きになってくれるかもしれない。けどそれは私が許さない」
そうだ、いいぞ、もっと言ってやれ、俺は一夫多妻に興味は無い。
「何でですか! 嫉妬ですかー!?」
ラッテさんが少しヒートアップしてきたが、セレッソさんに肩を叩かれ「落ち着きなさい」と言われてる。
「貴女がこの店で働いてる限り絶対許せない。私は昨日寝る前にすごく考えた。カームはこの町で働いてて私は村にいる。会えるのは三十日に一回。村に戻って来た時だけ。そういう状況なのにカームは私以外の女の子を好きになろうと思えばなれたのにそういう事をしなかった。それは私の事しか愛さないと決めてたからだと思う。もし他の女の子を好きになって手を出しても。私を騙せば良いだけの話なのに。それすらもしなかった。しかも初めてここに来た時の事も話してくれた。私に悪いと思う気持ちが有ったからだと思う。だから私にだけ愛をくれていると思っている……カームとまぐわう。お客さんともまぐわう。そういう事をするから私は貴女を許せない。カームに愛してほしいならカームとだけまぐわれば良い」
「じゃぁこのお仕事辞めます。って言ったらどうするの? 認めてくれるの?」
「……認める。カームだけを相手にするなら」
ブフーーーッゲッホゲホゲホゲホ。
俺は盛大に果実水を噴き出し咳き込む。少しセレッソさんにかかったみたいだ。
「すみません」
「あのタイミングじゃ仕方ないわ」
「確かに近くの村に奥さんが三人いる人もいるわ。その話を聞いて奥さんが沢山居ても別におかしい事じゃないって思った。だから愛をカームだけに注ぐなら認める」
「じゃぁ私この仕事辞めます!」
「ふぅ」セレッソさんが首を振りながらため息をついている。
「あとまぐわうのには条件がある」
「何ですか!」
「さっきも言った通り私は村にいて。カームは三十日に一回しか戻って来ない。仕事があるから。帰って来る時は朝に町をでて昼過ぎに村に戻って来て。二日村に泊まって朝には町に帰る。だからずっと町にいる貴女はまぐわう機会が増える。それは絶対許せない。私と同じ条件じゃないと許せない」
うぉ、殺気で肌がピリピリするよ、対面に座ってるラッテさんも、臆さず喋ってるのってすごいな。
「ならカームくんの村に行けばいいの?」
「そこまでは言っていない。ただまぐわう機会は私と同じ三十日に一日か二日だけ」
「ッ……」
ラッテさんは少し考え込んでいるようだ。
「あの。俺の意見は?」
「カームは黙ってて」
「はい……」
物凄く睨まれた、今までで一番怖い。即答しか出来なかった。
「わかったわ、仕事は辞める、まぐわうのも三十日に一回これでどう?」
「わかった。それで良いわラッテさん」
そう言って手を出す。
「ありがとうスズランさん」
ラッテさんが手を握り返す。
「もう一つ条件がある」
「何ですかー?」
「とりあえず殴らせて。それで心に区切りをつける」
「え!? し、死なない程度ならいいわ、じゃぁ私も条件を増やすわよ? いままで過ごしてきた時間が圧倒的にそっちの方が有利よ? 一緒に寝ないけど会うのは良いでしょ?」
「……良いわ。認める。カームもまぐわおうとしてきたら教えて、そうしたら殴るから。カームはそれに絶対乗らないと思うけど。じゃぁ加減してお腹を殴るわ。顔だと色々と可哀想だし」
「止めないの?」
「女同士の話です、止められません。むしろ止められるほどの力もないです。スズランの方が力強いですし。後ろから羽交い絞めにしても、俺がいないかの様に拳を振り抜きますよ。ってか俺の意見を聞いてくれないので、泣きたい気持ちで一杯ですよ」
ドスッ!「ウゲオ゛ェッ!ゲホッゲホッ」ビチャビチャビチャビチャ。
デスヨネー。吐きますよねー。ってか俺が見てない時にかよ。スズランもえげつねぇな。
「カーム。筋違いってわかってるけどカームの事も殴るわね。――ごめんなさい。コレで気持ちを切り替える」
「はぁ?なn」『んで』とは言わせてもらえなかった。
過去に一度食らってるから何とか耐えられた。が、胃からこみ上げる酸っぱい物が少し漏れ出すくらいで耐えられた。俺。偉い。
【スキル・打撃耐性:3】を習得しました。
デスヨネーってかお店の人対応早い。速攻でラッテさんのを処理をしている。
「結構強く殴ったのに。強くなってる?」
「仕事、終わった後に、少しだけ運動してる、から」筋トレとか言っても通じないと思うし。ってか痛くて上手く声が出ない。
「話は纏まったみたいね、ラッテが落ち着くまで休んでて頂戴、誰かー、果実水多めに持って来て」
指示を出してるって事は、少しは偉いのかな?今まで普通に接してたわ、まぁ客だから良いか。一回もセレッソさんの事買ってないけど。
ラッテは果実水で、口をすすいでバケツに出すという行為を繰り返し。
「っ・・・んぁー」果実水を飲んで少しは落ち着いたみたいだ。
「いやー、お客さんの要望で、叩いたり叩かれたりってのはあったけどさー、流石に今みたいなのは無かったですよー」
当たり前だ、さっきのはプレイじゃないんだから。
「一応謝っておくわ。ごめんなさい」
「いえいえー、私こそ好きになった人に、好きになってもらうのがどんなに難しいかわかりましたよー」
いや、普通は浮気扱いだから。もう公認になっちゃったから良いけど。いや良く無いな。俺がイチイさんに殺される。
「なぁスズラン?」
「なに?」
「俺、下手したらイチイさんに殺される」
「私から訳は言っておく。だから安心して。絶対に。何も。言わせない」
「スズランさんのお父さんってー、怖いんですかー?」
「すげぇ怖い、どれくらい怖いかって言うと、色々な所に傷が有って、腕が……そうだな、ラッテさんの腰くらい太くて、目付きも鋭い。少し脅されたら有り金全部渡して逃げたくなるくらいには見た目が怖い。けど根は良い人だよ」
「そーなんですか! ちょっと心配です」
「確かに見た目は怖いけど。一応私のお父さんだから悪く言わないで」
「あ、ごめん」
けど一応、怖い事は認めるんだな。
「安心して。絶対説得しておくから。じゃぁ上に行こう?」
「は?」
「だってここに話し合いに来たのと……その。するために来たんでしょ?」
語尾が少し小さくなって恥ずかしそうに言って来る。
えぇ、もちろん火が付いちゃいますよね、昨日してないんだし。
「え?さすがにここじゃまずいでしょう、ねぇ?」
俺はセレッソさんに問いかける。
「この状況で貸すと思う? 周りを見て見なさい、流石に無理よ」
「じゃー私も一緒にってーのはどうです? それなら使えるでしょー?」
「はぁ? ちょっと何を言ってるのかわからないんですが」
「そうねぇ、辞めるって言っても今日までは在籍って事になるはずだから、スズランちゃんが良いって言えば良いんじゃないかしら?」
「良いわ」
「はぁ!? ちょっとまって。君達、何か考えがおかしいよ!?」
「じゃー、上に行きましょー」
そう言って、ラッテさんは右腕に腕を絡めてにぴったりとくっついて来る。負けじとスズランもお尻を1個分ずらして腕を絡めて左手側にぴったりくっついて来る。
「セレッソさん助けてください」
「上でゆっくりしてらっしゃい」
何かを諦めた顔で、俺に笑顔で優しく言ってくる。
「……はい」
誰かが言ってたな「最善の方法が最良の結果を生むとは限らない」と、確かにその通りだ、スズランと話し合いをさせて諦めてもらう積りだったのに、そのスズランが許しちゃうんだからな。ひでぇ話だよな。
あとこんなのもあったな「可能ならばより最善を求めよ。それは常に可能である」と。
諦めて、コレから最善を尽くせばいいのか?二人を相手にするって前世でも今世でも経験無いぞ?
参考になるのは、肌色の多いDVDかPCの中に保存してあった画像かゲームくらいだ、実際に三人でするってどうするんだよ!?
えー、はい……
前世の知識を、あえて今まで教えてなかったのに、見事にラッテさんがスズランに教えながら実践して。
「こう?」
とか聞きながらスズランが練習し始める。
「そーそー、カーム君の反応見れば解るでしょー?」
そういった方式がとられまして。えぇ、しかも実践中ラッテさんがサポートする形になり。挙句に終わったら交代するという。
二順回目は、画像や動画でしか見た事が無い事に成りまして……。
一夫多妻とかハーレム作ってる人すげぇわ、都合よく精力が上がる魔法とかどうやってんの?
体内の某所の活動を活性化させるの?それとも脳でとあるホルモンを分泌させるの?それとも一部の感覚を鈍感にさせるの?全部か!全部なのか!?
まぁ、必要無いけどね。
これ以上増えたら考えよう……いや増えないように頑張らないと。
そんなこんなで二時間が経ち、俺はちょっと気怠く階段を下り。両脇の二人はツヤツヤしながら階段を下りている。
お店の女性がヒソヒソ何か話しながらこちらを見て来るが、セレッソさんが。
「はいはーいお疲れさまー。取り合えず、カーム君とスズランちゃんは帰っていいわよ、ラッテはまだ仕事中だから駄目ね。けどお客は取らせないし、買わせないから安心してね。料金はもう話を付けてあるから、お会計で銀貨1枚渡してね。内容はお酒代と部屋の使用料ね、本当はお酒代と買った子の値段なんだけど、カーム君達は特別ね。あ、今日だけだから次からは逢引宿を使って頂戴。このお店の店長が経営してる逢引宿なら割引も出来るわよ? その子がお休みの時に外でも使えるようになってるからね」
しっかり宣伝までしてくるか。
俺は、セレッソさんに迷惑料として銀貨を五枚渡した。
「色々迷惑かけたので、吐いた物を掃除してくれた女性とか、最初に睨んで追い返した女性とかに渡してあげてください、今日はすみませんでした」
「これくらい日常茶飯事よ、少し噂になると思うけどいちいちそんな事気にしてないわよ、最悪お酒を頭から掛けられるからね。けど部屋の使用料はちゃんと払ってよね」
そう言って渡したお金を返された。
「すみませんでした」
スズランも謝り俺達は帰る事にする。
部屋に帰り、俺達は銭湯へ向かう。帰り道や銭湯に行くまでに軽く会話は有ったが、さっきの事はまだ話していない。とりあえず帰ってからだな。
昨日のスズランの入浴時間を考え十分遅めに出たら五分後に出て来た。一応気を使って早めに出て来たのだろう。気にしないで良いよって言っておくべきだったな。
部屋に帰り昨日と同じく温風を出しながら髪を梳かしてると。
「ごめんなさい」
泣きそうな声で謝られた。
「何がだい?」
俺は出来るだけ優しい声で返した。
「ラッテさんの事」
「あー気にしてないよ」
「好きじゃないんでしょう?」
「嫌いでもないよ、好きになれる所を探して好きになっていけば良いんだよ、だから気にしないで」
「私のどこが好きになったの?」
「実は意外にお茶目な所と、放って置け無い所。なんか子供を持ったお母さんみたいな気持ちになるんだよね……」
「なんで?」
「朝起きれない所、野菜が嫌いな所、言葉がちょっとだけ少ない所、最近は喋る様になったから最初の二つかな」
「そう……」
「決め手は可愛い所かな」
「え? 私胸も無いし。カームより背が大きいし力も強いのに?」
「背も胸も関係無いよ、はい終わり」
「じゃぁラッテさんの好きな所は」
「まだ知り合って二回目だからなぁ、んー、今の所は明るい所かな。あと聞きたい事が一つだけ有るんだけどいいかな? なんでラッテさんの事を許したの?」
「最初は絶対に許さないし。認めないと思ったんだけど。認めようと思ったのは私と同じでカームに一目惚れした所。必死だった所。けどカームの事が好きって言ってるのに。他の人とまぐわってるのは絶対に許せなかったから。条件を出したの。それが無理だったら諦めてもらう積りだったけど。夢魔族なのに他の人とまぐわらないで一人を愛するって本気なんだって思ったから。だから……」
「そうか、ある意味自分に似てると思ったんだね」
「うん」
「まぁ……どうにかするさ」
「ごめんね。カームは優しいからそこに付け込んだみたいで」
「気にしてないよ、もう謝らないで、あと涙拭いて」
「うん……」
「もう寝ようか」
「うん」
俺達は寝る事にした、スズランは体を少し丸め、俺の胸に顔を埋めて声を殺して泣いているみたいだ。
だから俺は頭を撫で続けていたが、気が付いたら寝息が聞こえてきたので俺も寝る事にした。
今回は女性同士のやり取りの泥沼、修羅場っぽい風になりましたがそう言うのを経験した時が無いので想像で書きました。実際はどうなんでしょうね?
まぁ和解って事になり新たににラッテが加わりますが、ある程度どう動かすかは決めています。
こういう展開になったからと言う事で、読者様がどう思われるか別れる所ではありますが。気に食わないと言うのであればバッサリ切り捨ててください。




