第34話 スズランが町に来た時の事 前編
細々と続けています。
相変わらず不定期です。
前半はスズラン視点です。
20160404 修正
朝の弱い私が頑張って起きて、顔を洗って、良く磨いた銅板を見ながら、ボサボサの髪を直して、着慣れたヨレヨレの寝間着を脱ぎ捨て、いつもの服に着替える。
朝はあまり食べないけど、今日は出かけるのでしっかり食べる。お昼のお弁当は久しぶりにお母さんに作ってもらった。すこし懐かしい感じがするな。
厚手の革袋に、着替えとお弁当を入れて、昨日用意していた藁で巻いておいた卵を、籠の中に入れて荷物は完璧。後はカームからもらった髪飾りと耳飾りを付けて準備もばっちり。
玄関の横に立てかけて置いた槍を持って、誰もいない家に向かって「行ってきます」と言って、カームが働いてるエジリンに向かう。
行きたくなった理由は、毎回カームに帰って来てもらうのも悪いと思ったのと。前にカームが帰って来た時に、住んでる所とか色々聞いたからだ。五日前からお父さんとお母さんには言ってあるから、家に誰もいない状態で出て行っても平気だと思う。
最初に言った時は、お父さんがかなりうなっていたが、お母さんに、
「今は道に魔物や獣も少ないし、住んでる所も働いてる所も知ってるんだから平気よ、何より力が強いんだから、襲われても何とかなるわよ」
そう言われて折れたみたいだ。後で小声で「男にもね」と言っていたがお父さんには聞こえてなかったみたい。
ミールやクチナシにも相談したら「股間を蹴れば一発よ!」と、二人とも言っていたので、襲われたら蹴ろうと思う。なんでも「男の人の股間に付いている玉は急所みたいで、それを攻撃するとしばらく動けないか、痛みで失神するか死んじゃうらしいから、狙えるなら狙っちゃえ」とも言っていたのでしっかりと覚えておこう。うん。カームにも有ったから他の男にも有るだろう。けどアレが急所とは思わなかったな。今度は卵みたいに丁寧に触ろう。
町に行く道を歩くとため池の横を通るのでお姉さんにも挨拶をしていこう。
「おはようございます。ちょっと町まで行ってきますね」
「あら、カーム君の所? 気を付けてね。まぁスズランちゃんなら心配は無いと思うけどね」
なんで私なら心配無いんだろう?やっぱり力が強いからかな?まぁ卵だけ気を付ければいいか。
村の外れの櫓にシンケンがいて、手を振っているのが見えたので振り返しておいた。
しばらくはのんびり歩き『こんな景色だったかなー』と思いながら、壁の無い家みたいな所でお弁当を食べる。
お弁当の入っている布を開いたら、パンにベーコンとチーズと野菜が挟んであった。
「野菜は嫌いだって言ってるのに」
そう言って、その辺に野菜だけを捨てる。革袋の栓を外して水を飲み「はぁ」と一息、しばらく雲を見てボーっと休む事にする。
よく、カームが指先に水球を作って、啜っているのを見ていたが、アレは私には真似できない。魔法が皆の中でも特に上手い、シンケンやミールでも無理だ。学校の授業でカームに教わった「桶から水を手で掬うみたいに」と、イメージして水を出すのが精一杯だ。
カームは魔法が得意で何でもしちゃうし、頭もいいから本当すごい。学校だって三回目の春には来なくて良いって言われて、村で働いてたし。
それから急に、村の畑が多くなって、家が増えて、井戸が増えて、人が増えて、冬の蓄えも多くて、冬に豚や牛や羊も潰さなくても平気になったし。
池で魚も育てて、新しいお酒も造って、小さな川みたいなのも通した。
村長も、大人もカームに頼ってるし、本当にカームはすごいと思う。最初は家が近いし、優しい朝起しに来てくれる男の子だったのに。いつの間にか好きになってて。少し強引だったけど、私から迫って、いろいろあったけどカームが私の彼氏になってくれて本当に良かった。
本当は、もう一緒に住んで、夫婦になっても良いんだけどお金が無いから、家も建てられないし、借りるのにもお金が要るから少しずつ溜めて置かないといけない。
それに、お父さんもカームになんだかんだ言ってるけど認めてるし。お母さんは、最初からカームの事は何も言わないで、ずっと応援してくれたし。多分カームが働きに行ってるのは『勉強』って言ってるけどお金稼ぎも兼ねてるんだと思う。
カサッ。
物音がした方を、視線を動かすだけで見て、座っている椅子から一番近い茂みが風も無いのに微かに動いている。
一応槍を側に寄せて置こう。
この槍はお母さんからもらった物で、木に見えるけど中がくり抜いて有って鉄が入ってる奴らしい、少し乱暴に扱っても折れないし、剣とか斧とかで斬られても折れないすごい奴らしい。
お母さんに言われてた事を、ボーっとしながら思い出してたら、いきなりゴブリンが茂みから出てきて襲い掛かって来た。ボーっとしてるから襲えると思ったんだろうか?魔物はその辺甘いと思う。
槍を長く持って、外側から内側に思い切り振って、穂先の付け根で少し手加減をして頭を叩く。
大抵は、思い切り体ごと吹き飛ぶか、頭だけ綺麗に飛ぶ。今回は手加減したので体ごと飛んだ。返り血を気にしてたから頭が飛ばないで良かった。
討伐部位をはぎ取って血が付いたりしたら嫌だからそのままでいいか。
初めての討伐の時に、穂先で頭を殴ったら穂先が曲がって、お母さんに少し怒られたから、振る時は穂先の付け根で殴る様にしている。
あと「槍は突くものだよ」ってクチナシに言われたけど突くよりは振った方が性に合っている。
うん。十分休んだしあと半分頑張ろう。
結構日が高いうちに町に着き、門番さんに呼ばれ。
「以前来た時があるか? あるなら村か町の名前を言ってくれ、その後自分の名前だ」
「ベリル村のスズランです」
「ベリル村ね……あぁ、あった。見た目の変化は背が伸びただけだな、滞在目的は?」
「同じ村の出身の知り合いの家に、二日か三日泊まります、あと逢引です」
「逢引って……少しは誤魔化せよ。まぁわかった、通っていいぞ」
正直に言ったのに何が悪かったんだろうか?まぁ良いか。大銅貨五枚を渡してから、
「クリノクロワって集合住宅知りませんか? 詳しい場所が解らないので」
「あ、あそこね……行き方は~」
少し歯切れが悪い、どうしたんだろうか?まぁ大体の場所は教わったからいいか。
門を抜け、しばらく言われた通りに進み、目印の家を見つけ、そこの角を曲がると門番さんに教えてもらった集合住宅が見える。
ここに住んでるのか……。近くにゴミとかは散らかってないし、綺麗な所だなぁ。他は散らかってる場所が多かったけど。
「何か用かしら? 部屋はいっぱいよ」
猫耳の女性だ。少し目が据わってるし、少し雰囲気が怖いな。怒ってる時のお母さんみたいだ。
「ここにカームって人が住んでいるはずなんですが。合ってますか?」
「確かに住んでいるけど、どんな関係かしら?」
「同じ村の出身で。カームの彼女で。スズランっていいます」
「あぁ、良く話してる彼女さんね、聞いてた話で、特徴が一致してるからまぁ本人なんでしょう? ついて来て。部屋まで案内するわ。まぁ偽物でも自警団に報告するだけだから」
「ありがとうございます」
なんかトゲトゲしてるし怖いなぁ。
多分合鍵って奴なんだろうけど、ジャラジャラさせてる内の一本の鍵で開けてくれた。
「ここがカームの部屋、どうぞ。いつもなら、あの山の頂上に太陽が当たるくらいで帰って来るわ」
そう言うとどこかに行ってしまった。入って良いって事なのかな?
中に入ると簡素なベッドに、丸いテーブルに椅子、壁に見た事があるスコップ、棚の脇には物が沢山入りそうな便利そうなリュック。多分合ってるよね?
丸テーブルに卵を置き、スコップの隣に槍を置き、背嚢の隣に荷物を入れた革袋を置いて椅子に座る。
テーブルの上に、お菓子が乗っているが、一応他の人の部屋だったら嫌だから大人しく待っていよう。
□
謎の魔物大量発生討伐から帰って来て、色町に行った次の日に、ギルドに行き、ギルドカードを見せたら。
「カーム様ですね、報告によりハイゴブリンを、三名で討伐した功績によりランクが4に上がります。書き換えをしますのでカードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
「では失礼します」
そう言って俺からカードを預かり、前回同様書き換え作業をしているらしい。
「ではランク4に成りました、おめでとうございます」
そういってカードを返された。やっぱり事務的に言われるんだよな
ランク10に上がったらどうなるんだろうか?まぁ、そう言う仕事はしないから良いけどね。
◇
その五日後、仕事が終わり、明日が休みと自分ルールで決めた日なので、ぐったりする事を決めて、取りあえず筋トレして銭湯に行って寝るかなー、と思って部屋のドアを開けようとしたら、解錠するのに手ごたえが無い。
「鍵の閉め忘れかなー朝確認したんだけどなー」
と独り言をぼやきつつ、部屋に入るとスズランがいた。
「おかえり」
ドアを閉めて、入口からのドアの数を指差し呼称ながら確認する。
「大家さん、馬、俺、セレッソさん。うん、いいんだよな」と、声を出して確認している姿はかなり滑稽だろう。
もう一度ドアを開けて確認すると、やっぱりスズランがいる。
「おかえり」
「……ただいま。いやーびっくりしたよ、まさかいるとは思わなかったよ」
「門番さんに聞いてここまで来れたよ。はい。これお土産の卵」
「ありがとう」
今日、卵買わなくて良かったわ。
「いきなりどうしたの?あと五日くらいしたら帰る予定だったんだけど」
「毎回帰って来るのも大変かなって思って。だからお互い交代で行き来すれば楽なんじゃないかな? って思って」
「んーそうだねぇ。来る時平気だった? 襲われなかった?」
「ゴブリンがいたけどぶっ飛ばした、頭が飛ばなかったから。返り血浴びなくて済んだよ」
「んー一応気を付けてくれよなー」
「解ってる」
あげた髪飾りもしてるし、イアリングもしてる。一応お洒落はするんだな、村じゃあまりしないのに。
そしてここ数日の間に起こった事とかを話して。
「ハイゴブリンって強いの? 良く解らない」
「んー、俺も必死だったから良く解らないんだよな、けど大きな岩が当たったり、口の中に矢が刺さっても生きてたから強いんじゃない?」
「んー矢が刺さってもしばらく動けるって、猪とか熊みたいだね」
「そうだなー、それが武器持ってたり魔法撃ってきたりするから、やっぱ魔物は怖いよ。なるべく討伐とかは行かないで稼ぎたい、安全が一番」
「そうだね、カームに死なれたら。私。何するかわらないもの」
デスヨネー、悪鬼羅刹の様に成って魔物を討伐しまくりそうで怖いし。
「あー、もうこんな時間か。夕飯作るけど何がいい?」
「野菜が無ければ何でも良い。お肉があるともっと良い」
ですよね……。
俺は、棚の中からパスタとベーコンを出し、買って来た牛乳とスズランの持って来てくれた卵を使い、カルボナーラを作る事にした。
二人で食堂に行き、俺が料理を始め、スズランが大人しく座って待っている。こう見ると日本人形みたいなんだけどな、角が生えてるけど。
そろそろ麺が茹で上がるかな?って時に。
「ララララーーー、今日は何を食べようかなぁぁぁぁ~~~」
無駄に美声でキッチンに入ってくる馬。
「おや、可愛い子ですねー、僕の名前はヘングスト、お嬢さんのお名前は?」
「スズランです」
「あー貴女がカーム君の。んんー、お手つきじゃなければ、即、口説いてた所なんですが……残念です」
無表情でこっちに顔を戻し、目で何かを訴えて来るが、目を瞑り軽く首を横に振り『諦めろ』とジェスチャーで伝える。
「カーム君が、町で新しい子を見つけて来て、部屋に連れ込もうとしてるのかと思いましたよー、ハッハッハー」
「そんなことしませんよ、俺はそんな軟派じゃないですからね」
黙れ馬、最悪あばらの辺りに拳が入るからな。俺は知らんぞ。
パスタをフライパンに入れて炒めて有った具材と混ぜて牛乳入れて卵入れて出来上がり。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
「あ、薪の残り貰いますよー」
「どうぞー」
と言って、適当に炒めだす。香りからしてベーコンか何かか?
村に戻った時に、ある程度の事は話してあるから、他の人と共同で使う場所って知ってるし、ある程度住人の特徴も話してある。スズランは特に気にしてないらしい。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
俺は手早く皿とフライパンを洗い、部屋に戻ろうとしたらセレッソさんがキッチンにやって来た。もう嫌な予感しかしない。
「あらカーム君、後ろの子は例の彼女さん? 可愛いわねー、ちょーっと背が高いけど」
「っ……ありがとうございます」
可愛いしか聞こえてないのか、背の事は聞き流したのかはわらないが、少し照れている。
「この後は、部屋でシッポリなのかしらー? それともハッスル? 声が大きいならお店貸すわよー」
嫌な予感は当たる物である。
「あぁ、いぇ……考えておきます」
「特別料金でお安くするわよ?」
「考えておきます」
そう言って、スズランの手を引いて部屋まで戻る。
「どういう意味?」
「あー、あの人は色町で働いてるんだよ。だから来てくれたら部屋を安く貸してくれるって事だと思うよ」
「ふーん」
「行った事はあるの?」
「…………はい」
スズランに嘘は通じにくいので、正直に話す事にする。嘘をつくよりは良い。
「誰かとしたの?」
なんか空気がピリピリしてきた。怖い。
「してません、父さんやイチイさんにも絶対にしてないと誓えます」
この世の神様とか、宗教とか知らないからね、神に誓うとかは言えないな。見た事のあるゲス紳士が、神って言うなら知ってるけど。
「ふーん。どういう状況で行ったの?」
「さっき話した大量発生の討伐に行って、帰ってきたら仕事場の人達が「行くぞ!」って、断るに断れずとりあえず行って、酒だけ飲んでた」
「してないなら私は構わない。近くの村の男の人が、三人も奥さんがいるって話も聞いた事があるから。男の人っていろんな女の人としたいのかな? って思うけど。カームはどうなの? 正直に言って」
前世的には一夫多妻はあり得ないから、倫理的には無いけど、こっちは一夫多妻はありなの? 多夫一妻もあり? 良くわらん!
「とりあえず今の所は無いね」
「今の所? ってどう言う事?」
「村にスズランを置いて、町でも彼女を作ってそういう事はしたくないって事」
「村の女の子だったら良いの?」
「純粋にスズランを裏切りたくないだけで、村でも同じ」
あれ?空気が緩んできた?
「……解った。私が他の人としても良いよ。って言ったらしちゃうの?」
「それはわからない。無責任な事はしたくはない」
「なら……私がもう一人の女の子と。一緒にカームのベッドに入ったらどうする?」
「……状況に流されるかもしれない、ミールやクチナシやトリャープカさんみたいに彼氏がいる、誰かの妻に成ってるって、わかってるなら絶対にしない」
「解った。クチナシがね『カームが、町で他の女の子としちゃってるかもよ』って言ったから本当は心配だった」
空気が完全に元に戻った!?
「そうか、心配させちゃったな」
「大丈夫。他の子としちゃってたら顎を思いっきり殴ってやろうかな。って思ってただけだから」
それ死んじゃうよね?運が良くて脳震盪だよね?あの事も一応言っておくか。気が滅入るけど。
「……あのさ。スズランを裏切りたくないから、今の内に正直に話しておくよ」
「何?」
「そのお店でお酒飲んでたら俺に一目ぼれしたって女性がいて、ベタベタくっついて来るんだ。さっきいた、セレッソさんがその女性に「彼女がいるし堅いから諦めなさい」とは言われてたらしいんだけど「それでもかまいません」って言って、それでも俺にくっついて来るんだよ。ほかの女性は、俺が抱く気は無いよって言うと離れて行くのに」
「……そう。なんだ……。それでもしてないんでしょ?」
「あぁ、してない」
「後でそのお店に連れてって。その女と話しがしたい」
「……わかった。明日行こう」
「うん」
賽は投げられた、どうなる事やら。ちなみに空気はピリピリしていない。
(あらー、面白い事になってるわねー)
(ですねー)
(どういうことだ?)
(俺にも解らん)
(私にも解らないわよ)
(カーム君の所に、故郷から彼女さんが来たけど、彼女さんがカーム君に他の女の子とイチャイチャしちゃったの? って話ね。カーム君は堅い子だから私のお店でも、女の子を買う事はなかったけど、一目ぼれしてカーム君にベタベタくっついてた子がいるって話したみたいね、まったく正直な子ねぇ)
(別にいいじゃないですかー、女の子が多くても)
(馬鹿馬! 中には一人の女性を愛したいって男もいるのよ。あんたみたいな経験が無い女なら誰でも良いって男じゃないのよカームは)
(一人と添い遂げるのもいれば、大人数と所帯を持つ者もいるからな、カームは一人と添い遂げようとしているみたいだな)
(そうね、私達エルフでも、基本はお互い一人だな。物好きは二人三人と持つらしいが)
(話によると、物凄く力が強くて、感が鋭いから怖いって話だけど、ソコまで怖そうなイメージじゃないわねー。もしかしたらラッテにも希望が有るかしら)
(何、そのラッテて女がカームにすり寄ってるの? 止めさせなさいよ)
(だって夢魔族ですもの、諦めろとは言えないわー、逆に応援しちゃう)
(最悪……まぁどうなるかは二人次第って所ね)
一号室は大変小声でにぎわっていた。
「ねぇ」
「何? お風呂? 近くに銭湯が有るからそこに行くかい?」
「隣の部屋に最低五人いる。女三男二」
「そうか、ありがとう」
(気が付かれたみたいだぞ?)
(やばいなー)
(……もう諦めるぞ、足音がする)
(最悪……)
(あららぁ……)
ドンドンドンドン!
「やぁーなんだい? ノックはもう少し静かにした方が優雅だよ」
焦りの色を見せないのは流石だが、もうすでに遅い。
「ヘングストさん。ドアを全開に開けてもらえます?」
「いやー、今女の子を連れ込んでて。その子、今裸なんだよね」
「い い か ら あ け て く だ さ い」
ドアノブに力を入れる。
「いやいやいや、流石に失礼でしょう」
「聞き耳立ててる方も失礼でしょう」
お互い笑顔で一歩も引かない。
「カーム。貸して」「はいよー」
ドアノブを譲った瞬間に『バンッ!!!』
大きな音がして一気にドアが開く。
せまい部屋の、ドアの死角に四人、苦笑いで立っていた。
「ここにいる人、しばらくお菓子は無しです、い い で す ね?」
超笑顔で言い放ち部屋に戻る事にした。
「いやーお菓子が!」
「むぅ、この辺より美味い甘味が」
「残念だな……」
「ははは、仕方ないねー」
「あらー」
「いやーそれにしてもスズランちゃんに変わった瞬間ドアが開けられちゃったよー、本当に力が強いみたいだね。びっくりしたよ」
「ちょっとセレッソ! 貴女のせいだからね!」
「乗ったのは貴女じゃない! 自己責任よ自己責任! 来なくても良かったのよ!」
「本当に変わった人達ね」
「そう思うよ……お風呂に行こうか」
「うん」
集合集宅を出てちょっと歩いたら、スズランから手を繋いできた。少しの間だけどこの温もりを楽しもうかな。
「カームってお菓子も作れるんだ」
「仕事が終わったら特にする事も無いからね。見様見真似でそれっぽくつくってるだけだよ」
「食べたい」
「いいよ、明日ね」
「うん」
凄い笑顔だ、まるでから揚げを食べてる時みたいに。
その後、しばらく話しながら歩き、俺等は銭湯に行き、時間の概念が曖昧なスズランに、二十分ほど入口で待たされてから部屋に帰った。
まだスズランの髪が濡れていたので左手で温風を出ながら櫛で優しく髪を梳かしてやる。
シャンプーやリンスが無いのに『髪が綺麗だなー』と思いつつもお互い無言でのんびりした時間を過ごしてからベッドに入った。




