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第33話 討伐に誘われた時の事 後編

この話は後編となっております。

朝、目が醒めると、既に炊き出しが始まっているみたいで、外が少し騒がしかった。

2人はまだ寝ているが気にせず起き、食器を持って食事を貰いに行く。

えぇ、また干し肉だけスープとカチカチ黒パンでした。変化と言えばみじん切りになった玉ねぎが入ってたくらいだ。香辛料を持って来ておけば良かったと今更後悔している、まぁ南北戦争の時の野戦食の堅パンのハードタックよりはマシか。

アレは『弾が当たっても割れない』とか言われてたし『鉄板』とも言われてたからな、と思いつつ、スープに浸して柔らかくなったパンをモソモソと口に含み、スープで胃に流し込む。

デザートは栄養的に圧倒的に足りてないビタミン類をレモンで補いつつ食休みをする。

正直こうなるならドライフルーツも持って来ればよかったと早くも後悔している。


「あら、早いのね、ほぼ初めての戦闘だから疲れてると思ったのに」

「まぁ。仕方ないと割り切ったら意外に楽でしたよ「魔族や人族を殺せ」って言われたらどうなるか解りませんけどね、その時が来たら割り切れれば良いんですけど、ハハ」

「そうね、殺しを経験したら『童貞を捨てる』って言うけど女の私は『処女を捨てる』って言うのかね? 私もそう言う事ならまだ処女と言っても良いけど、殺しを経験した事が有る人は少し雰囲気が違うからね、そういう意味合いならなるべく処女は捨てたくは無いわね。ごめん、少し下品だったわね」

「いやいや、俺そういうの気にしないんで」

「なんだ、殺しの話しか」

絶対殺しを経験してそうな人がテントの中から来たよ。


「俺も殺しを経験した奴を何人も見た事が有るが、何かを捨てたような覚悟をしてる様な奴と、心が壊れた奴だな。ああは成りたくないな、俺もどうなるか解らん」

意外だ、殺って無かった。てかこっちの世界でも心的外傷後ストレス障害とか発症するんだな。まぁ当たり前か。

「さて・・・今日の朝食はなんだ?」

「昨日と同じですね、玉ねぎが増えたくらいですかね」

「そうか、まぁ暖かい食事が食えるだけありがたいと思わないとな」

「そうっすね」

俺は2人の食事が終わるのを待ちながら、ボーっとしている。

こうして周りを見ていると、特にピリピリした感じの人は少ないな、ただの異常発生だからか分からないが、こう言う所は初めてだから分からんなぁ。


「では、昨日言った通り昨日の方角に進むとしようか」

「了解」


ゴブリン5から10匹の群れと5回ほど戦闘したが特に疲弊も無く昼近くになったので開けた場所で、1人が食事2人が見張りと言う感じで順番に昼を食べた。カチカチ黒パンだったがどうにか水で戻しなが食べたが、俺は林檎を持って来ていたので三等分して2人に差し出して「奥に行きましょう」と言い先に進むことにした。


山沿い近くになり、森が深く切り立つ崖が見えて来た時に微かな異臭がした。

「何か臭い」

「どうした急に」

「いえ、こう、家畜小屋で血抜きと解体した時のような、混ざった何とも言えない臭いが鼻に突いたので、微かですよ?」

「わかった、少し警戒しながら進むぞ」

フレーシュがスンスンと臭いを確かめるようにしながら。

「・・・そうね、その方が良いわ、確かに臭いわ」


しばらく崖の方に進むと、少なからず異常が出て来る。野生生物の気配が一切無い、鳥とかがいても良いのにそれも無い、あと大型生物の食い荒らされた死体が崖に近づくにつれて多くなっていく。

「当たりかもしれないな、極力周りに気を配り声を落とし足音も消せ」

「「了解」」

「少し待っててください」

俺はレンガ作りの経験を活かし泥を作り服の上から体中に塗り、体臭を消し、その上から粘液を纏い、周りと同じような草を見つけて体につけて行く。異様な目付きで2人がこちらを見ているが気にしないで置く。

動画サイトの、特殊部隊系の奴を見て泥沼に潜ったりその辺を転がったりしてるのを見ているので躊躇無くやってみるが、気分はかなり最悪だ。けど覚悟を決めればできなくは無い。

「少し斥候してきます、ここで警戒しながら待っていてください。緊急事態が有ったら何かしらの手段で知らせますから」

そう言って俺は、茂みの中を選ぶように中腰で足音を立てずにゆっくりと進んでいく。


ゆっくりと20分ほど進んで崖の麓が見える位置まで進み、辺りを確かめるようにゆっくり近づく。近づくにつれ、臭いがきつくなっていくのが解る、あと少し騒がしい。

見た事の無いゴブリンが1種類5匹、杖を持ってるのが1種類2匹、弓持ってるのが1匹、なんかでっかいのが1種類1匹。こいつが群れのボスって所か。

全員武装している、こいつ等って武装するんかよ。

「ギャギャギャギャギャ!」とか笑いながら鹿だと思われる肉を生のまま食っているし、その辺に食い散らかしている。こりゃこの辺のボスで決まりだわ。


俺は来た道をゆっくりと戻り2人と別れた場所まで戻る。

びっくりさせない様に小石を2人の前に投げて注意を引くがフレーシュさんが弓をこちらに向けたのですごくびっくりした。

小声で「俺です、今から姿を見せますので弓を下してください」

そう言って中腰から立ち上がって姿を見せる。

2人は安心したような表情を作り息を漏らす。

「まったく気が付かなかったよ、さっきまでそっちの方向を見ていたんだが、エルフを森の中で欺けるなら大した物だよ、この間は馬鹿にしてすまなかったな」


【スキル・隠遁:3】を覚えました


一気に1から3に上がるか、エルフを森で騙すってすげぇんだな。


「かまいません、それよりも報告です、ここの先に有る崖の麓に普通とは違うゴブリンが5匹、杖を持った奴が2匹、弓持ってるのが1匹、なんかでかいのが1匹です」

「んー、最初の5匹はゴブリンの亜種と思って良いな、残りはゴブリンメイジとアーチャーとハイゴブリンだと思う」

おいおい、なんかゲームの敵みたいじゃないか。

「メイジとアーチャーは厄介だな、いやハイゴブリンも相当厄介だが」

あ、やっぱり厄介なんですか。

「少し作戦を練ろう」

肘を曲げ顔の横に手が来るように挙手をした。

「あ、場所を見て有る程度考えてたんですが良いですか?」

「一応聞こう」

「先ほども言った通り居座ってるのは崖の麓です、そこで二手に分かれて俺が崖崩れを魔法で起します、見た感じ少し崩すだけで連鎖的に崩れそうだったので。その後はフレーシュさんと俺が極力茂みの中から遠距離攻撃で数を減らしそれでも仕留めきれなかったら、接近戦に持ち込む。そんな流れを考えてたんですが」

ってか石弾で全員狙撃すれば早かったんだけど、ばれたくないし、どうやったんだって聞かれるのも面倒だからね。めんどくさい生き方してるよな、俺。

ばれて戦争とかに駆り出されたら最悪だからな。

「それで良いと思う、フレーシュは?」

「がけ崩れが起きたら優先的にメイジとアーチャーを攻撃した方が良いな、正直ハイゴブリンは矢が刺さっても体力が有りすぎて仕留めきれるか解らん、目か口でも狙えれば良いが」

「ならこうしましょう、フレーシュさんがハイゴブリンの目か口を狙ったのを見て俺が崖崩れを起します、その後にメイジとアーチャーを狙って生きている奴を遠距離攻撃、余った奴を近接で倒す、これでどうです?」

「異議なし」

「私もだ」

「ならそれで行こう」

「「了解」」

素人の計画が通っちゃったよ。


その後、極力ゆっくり崖の方まで進み、未だに生肉を食っている集団を見つけたので作戦を開始する。

「んじゃ俺は少し離れた茂みまで移動するんでゆっくり300秒数えたら攻撃を開始してください、タイミングは任せます」

ばれないよう移動するために少し多めに時間を指定する。


残り50秒、十分すぎるほど余っているが個人個人の体感速度は違うのでいつ始まるか解らないので集中してハイゴブリン達を見続ける。

目標は頭上50mくらいの、少し出っ張ったあの岩を少し土魔法で押し出してやるだけだ、この崖は脆そうだからあんなでかいのが他の場所に当たったら連鎖するだろう。

そろそろか、緊張で、多少口の渇きを感じるが集中しよう。

相変わらず肉を頬張り「ギャギャギャギャギャ」と笑っている、美味い物を食べて笑う、その辺は人間とか魔族と変わらんな。

そう思ってたら、大きな口に矢が刺さるのが見えたので、魔法を発動させる、200m位の距離から弓で口か、すげぇな、まぁアーチェリーの選手とかも涼しい顔で50m70mとか当てるからな、そういうのは素直にすげぇって思うわ。

『イメージ・視線の先の岩・崖から剥離・発動』

ゴロンと岩が落ちて、腹に響くような音と供に他の岩を巻き込みながら崩れて来る。

ゴブリン亜種が何が起こったか解らないので必死に状況を把握しようとするが、すでに遅く、2射目がゴブリンアーチャーの胴体に、俺の黒曜石の斧がゴブリンメイジの胸部に、残りのゴブリンメイジが杖の先に火球を出して矢が飛んできた方向に向けた瞬間に頭上から岩が落ちて来る『ドスン!ドズン!』と岩が降り注ぎ、大半の魔物を蹴散らしていく。立っているのはゴブリン亜種2匹だ。

それをフォリさんが処理しようとするが、逃げ出したので、俺が黒曜石の斧で胴体を狙い、足止めをしたところで首を刎ね、もう一体の胴に剣を串刺しにする。


「上手く行ったな、それにしても岩が転がって来なくて助かった」

「ですねー、俺もここまで上手く行くとは思ってませんでしたよ、まぁ警戒だけはしておきましょう」

「だな、2人は討伐部位の回収を頼む、私は警戒している」

俺は太腿のナイフで、フォリさんは、腰に有ったナイフで討伐部位を剥いでいると「ゴガァァァァァ!」という雄叫びと共に岩を退かし、ハイゴブリンが立ち上がり、近くにいた俺に襲い掛かって来た。

「口の奥って小脳とか脳幹が有るんじゃねぇのかよ! 畜生!」


そう言って速攻で目を瞑りスタングレネードを目の前に生成してお互い近距離で閃光と轟音を浴びる。耳は駄目だが目は多少見え辛いが、背中からマチェットを引き抜き、目を押さえて暴れまわっている手を手首から切り落とし、マチェットを捨てすぐさまバールを手に持ち、目に差し込み、急いでスコップを持ちバールを打込むようにスコップで殴る。

「流石に脳にまで届いてんだろう! この糞が!」

「畜生! 畜生!」と叫びながら倒れているハイゴブリンの頭にスコップを縦にしてまき割りの様に十数回殴打する。

「止めろ!」と言う声と共に、後ろから羽交い絞めにされてなんとか落ち着いた。

「そいつはもう死んでいる、落ち着け!」

ハァ、ハァと息を整え、冷静になると頭が割れ脳が飛び散っているのが解る。

「初めてだから仕方が無いが、少しは考えろ!」

超怖いフォリさんに、物凄い怖い顔で怒られ初めて冷静になる。最悪の場合フォリさんにも攻撃していたかもしれない。だって超怖いし。


「すみません」

「まぁ無事なら良い、あの物凄い光と音でこっちもしばらく動けなかったからな、耳はまだ聞こえにくいが目が見えるようになったら、ハイゴブリンの頭にスコップで斧みたいに殴りかかってるお前を見て止めさせてもらった、他はもう死んでいるから安心しろ。あの岩に腰かけて休んでいろ、後は俺が剥ぎ取る、フレーシュは引き続き警戒だ」

「了解」


初めてのまともな戦闘か、流石にゲームとは違うな。ハハハッと笑いながら指先に小さな水球を出してそれを飲み少し落ち着く。

深く深呼吸をして、さらに落ち着く様に頑張るが鼓動がなかなか収まってくれない。鼓動が五月蠅いくらい耳に響く。

これが魔族や人間だったらと思うともっと酷いのだろう、朝の会話が頭をよぎる。


いきなり肩をたたかれ我に返り「落ちついたか?」と心配そうにフレーシュさんに顔を覗かれるが「まぁ、なんとか」といつもと変わらない声で返しておいたが、多分普通では無かったと思う。

気分は、吐いたりしていないので大丈夫だろう、多分不慮の事態によるショックに近いんだと思い込み撤退準備を始める。


「このハイゴブリンの皮って剥いですぐは最悪ですね、なんか臭いですし」

「まぁソフトレザーアーマーとかに使えるから我慢するんだな、意外に買い取り価格は高いんだぞ?」

まぁソフトレザーアーマーの値段とか考えるとそれなりに高いか。


帰りは同じルートを通ったので戦闘は無かったが、討伐部位がいろいろ臭かった。


ギリースーツだと言う事を忘れてそのままベースキャンプに戻ったら「見た事の無い敵だー!」と叫ばれ周りが一気に殺気立ち。一人が襲い掛かって来たが、フォリさんが「こいつは味方だ!昨日の水球作ってた奴だ!」って叫んでくれて襲い掛かって来なくなったけど、全然警戒は緩めてくれなかったので、大き目の【水球】を作って中に入り。

葉っぱ、血糊、粘液、泥、を洗い流し「あ、サーセン」といって色々入った水球を明後日の方向に飛ばして「この顔に見覚えないっすか?」って言ったら皆武器を収めて「なんだよ、驚かせんなよ」とか舌打ちをしながらばらけて行った。

いやー失敗失敗。


夕方になり夕食を取りながら武器を洗う水球を作って座っていたら。

「あんちゃん達、ハイゴブリン倒したんだって?」

とか、かなり話しかけられるので「えぇ」とだけ返しておいた。『あのハイゴブリン』って言われても『俺岩落としてそれでも死んでなくて、襲い掛かられてパニックになって目にバール打ち込んだだけ』ともいえないからな。


実際あの高さから岩当たっても立ち上がる位の体力は有るからすげぇんだろうな。


夜、ハードビスケットをみんなで齧りながら

「あの物凄い光と音は本当にびっくりしたぞ、目が見えなくなって耳も聞こえない、何をしていいか解らなくなる、その場で大人しくしていたわ」

「そうだな、あんな経験は初めてだ。俺もその場で膝を突いて時間が経つのを待つだけだったしな、あれも魔法なんだろう?」

「えぇ、まぁ」非殺傷武器で制圧や鎮圧目的だからね、そういう風に作ったさ。

「あー、コレは教えられませんよ?」と、サラッと言って置く。

二人が少しがっかりした表情になった気もするが関係無い。



それから数日、周辺を見回ったりしながら異常発生した魔物を駆除していたが、ある程度減って来たので、半分ほど町へ帰還しても良いと言われたので、俺は2人に帰る旨を伝えたら。

「じゃ私も帰るわ、ハイゴブリンで予定以上に稼げたから」

「そうだな帰っても問題なさそうだな、町に帰ったら討伐部位証明書をギルドに提出して、金を受け取ったらきっかり3等分して渡すから、夜にでも伺うぞ」

そしてまた、半日尻の痛みに耐えながら町へ帰り荷物の整理はほったらかしにして銭湯に早速行って、2時間以上入浴を楽しんだ。


「水球で血糊を洗わせてくれる、すげぇ魔法使いが帰った!」とか湯船で話題になってたが知らないふりをした。


銭湯から帰って来て、荷物整理や武器整備をしていると、ノックが鳴り「はい、開いてます」とだけ答えるとフォリさんが入って来て。

「これが分け前だ、受け取ってくれ、それとこれが証明書だ」

と大銀貨2枚と銀貨3枚を差し出してきた。

内容はクエストに応じた金額と、現地で倒した魔物の種類と、それぞれ討伐した数が載っていて、一番下に合計金額が載っていた。

このハイゴブリンの討伐部位ってすげぇ高いのね、流石ソフトレザーアーマーに成るくらいですわ。

俺のクエストに応じた金額が少ないのは、ランクが低かったらしく、まぁ仕方無いと割り切り大銀貨2枚が手に入っただけでも喜ぶべきだね。

「はい確かに確認して受け取りました」と言って受け取る

「ハイゴブリンの件だが奇襲をしても勝てるかどうか怪しかったがカームの機転で案外苦戦する事無く倒せたよ、感謝する、まぁそのせいでカームに怖い思いをさせてしまったがな、この通りすまなかった。あの時俺がハイゴブリンの近くの剥ぎ取りをしていれば良かった」

そういって頭を下げてきたが、慌てて「止めて下さい」と言って頭を上げさせた。

「そう言ってくれると助かる、次も何かあったら頼むぞ」そう言って肩をポンポンと叩きながらフォリさんは部屋を出て行く。

「あーそうそう、受付嬢に言われたがあとでギルドに顔を出せだそうだ、ランクアップの話だと思うぞ」

そう言ってドアを閉める。


上っちゃったか・・・ずっとランク3ですっとぼけたかったけど無理だなこりゃ。

まぁ、なんか久しぶりに酔えないけど酒が飲みたくなった。心が何かの区切りを付けたいのだろう、と言い訳をして門近くの学生時代使った宿屋の一階の酒場まで足を運んだ。


宿屋だと言うのに一階は喧騒に包まれていて、泊まってる人は五月蠅く感じないのかな?と思いつつも。俺も気にしないで寝てたから問題無いんだろうな。

「おばちゃん久しぶり、なんか飲みたくなったから飲みに来たよ」

そう言って酒場の方に向かおうとしたら。

「あら、久しぶりじゃないか、時々村には帰ってるんだろう?」

「えぇ、30日に1回」

「そうかいそうかい、所で今回の魔物の異常発生でハイゴブリンを一人で倒したのってあんちゃんじゃないのかい? 噂で持ち切りだよ」

「はぁ? どんな噂ですか」

「紺色の肌をした、何族か解らない若い男がバールとスコップで倒したって」

どんな噂だよ

「あー、知り合いも一緒にいましたよ、奇襲をかけて何とかですよ、殺されかけて物凄く慌てましたけどね」

「生きてりゃ万々歳だよ! 沢山飲んで行きな!」

「ういっす」

そういってテーブルに座って注文しようと思ったら見覚えの有る名前が目に入った。


『ベリル酒』すごく気になる。

「すいませーん、このベリル酒って・・・」

「あぁそれね、あんたの村の名前だろう、新しい酒を造ったんだろう? 知らないのか?」

「いや、もう出回ってるとは思わなくて。けど葡萄酒で。それと、ベリル酒はあと2から4回季節が巡るまで樽で寝かすと良い香りになって濃い琥珀色になりますよ」

酒場側を仕切っているマスターと話をしていたら。

「あんちゃんの村は偉い!この一杯は俺の奢りだ!」

知らない人が脇に座ってグラスに麦酒を注いて来る。

「あざーっす!」と出て来た麦酒を一気に飲み干す。頼んだ葡萄酒はあとから来たけど、麦酒飲んでから葡萄酒ってどうよ?


「良い飲みっぷりだねぇ! 流石ベリル村出身なだけ有って強いねぇ」

ワラワラ集まって来た人達に絡まれ。どんどん飲まされるが悪い気はしない。

今はまだ有名じゃないけど、どんどん広がれば嬉しいからな。

そうしたら酔っ払いの一人が。

「あんちゃん、もしかして異常発生の討伐で、ハイゴブリン一人で倒した奴の特徴とそっくりじゃねぇ?」

とか始まってもう大変。

酔っ払いに何言っても信じない状態で、俺が一人で倒した事にされてどんどんグラスに酒が注がれ、最悪な訳の解らないカクテルが出来上がる始末。

まぁ、麦酒と葡萄酒と蒸留酒を入れられただけなんだけどね。


あまり酔えなかったけど、良い感じになって来たので、店主に迷惑料も込みで銀貨1枚払って帰って来た。帰り際に。

知らないおっちゃんが「あ・・・あんちゃん・・・強いな・・・」と床に何かをぶちまけながら親指を立てていたので、親指を立て返して帰った。【毒耐性】も考え物だな、あまり酔えないし。


大家さんに「お酒ですか?」みたいな目で見られたが「まぁ仕方ないか」って言うような目になって「お帰りなさい」とだけ言われた。



次の日、特に二日酔いとかも無く仕事に顔を出すと。

「おー生きて帰って来たか、ハイゴブリン殺し」

なにそのダサいあだ名。

「お前の話しで持ち切りだったんだぜ? お前結構強かったんだな、いやーハイゴブリンを一人でやっつけた奴がいて、肌が紺色でエジリン出身ってーんだからカームじゃね? ってなってな」

「あーはい。そうっすか」

「お前魔法でいろいろするからよーきっと魔法でやったんじゃないかってはなしなんだよー」

「いや・・・物理で」

「か、帰ってきたら色町に行くぞって、は、話になってるんだぞ」

「はぁ!?」

「仕事終わったら早速行くぞ」

「あー、何言っても無理なんでしょう? 解りましたよ、けどハイゴブリン殺しだけは止めてくださいね、ダサいんで」

「なんで! かっこいいだろうよ!」

あまり喋らない、つのさんが大声で行き成り叫んだ、すげぇびっくりした。俺の感性とこの世界の感性が良く解らない。


「いらっしゃいませー」前回も入口に立っていたナイスバディーな子が対応してくれた、もちろんスイートメモリーだ。

「あらカーム君いらっしゃーい。今日は職場の方と一緒なのねぇ」

セレッソさんが集合住宅では出さないような猫撫で声で話しかけて来る。誰かと一緒だと仕事モードなのか、まぁいいや。

「こちらでお待ちくださいねぇー」と席に案内されてしばらくして5人の女性がやって来て俺達の隣に座り出す。

全員夢魔族って話しだが、羊っぽい角が生えてたり、蝙蝠っぽい羽が生えてたり、肌が薄い藍色だったり、露出が多かったり、少なかったり、色々大きかったり、小さかったり様々だ。


俺の隣には、身長は俺より頭一つ分低くて、髪が白に近い灰色で、ピンクのリボン、瞳は茶色で露出は極力の少ないフリルが多めの子が座って来た。

別にナニかをする訳じゃ無いからどの子でも良いけどね。

「どーもー、ラッテっていいまーっす、何飲みますかー? それとももう上に行っちゃいます? それとも今出てる子で御希望の女性()いますかー?」

とりあえず色々無視して酒でも頼もう。

「じゃぁ蜂蜜酒で」

「はーい今もってきますねー」

そういって、革靴をコツコツ鳴らしながら軽やかに歩いて行く。

他の人達はお酒を注文しながら、好みの女性を指名して、その女性がお酒を持って来て隣に座る。そして雑談に成るのだが、仕事の話しだったり武勇伝だったりで「すごーい」とか言っている。

まぁ、流石商売柄聞き上手だ。ラッテさんは俺にすり寄って来て、胸とかを押し付けて来るが平常心を保ちつつ焦らずに酒を飲む事に徹した。


しばらくして、おやかたが良い感じで酔って来たのか俺を指差し。

「こいつ昨日まで謎の魔物の大量発生の討伐に行っててよ」

嫌な予感しかしない。

「ハイゴブリンほぼ1人で討伐してやんの、なのに日雇いで防壁修理やってんだぜ? おかしいよな! 強ぇのによ」

うん『ほぼ』って付いてるけど大抵は『1人』って単語に耳が行くよね。土木作業員的なノリはこっちでも変わらないみたいだ。折角武勇伝とか語って無かったのに台無しだ。


「「え~すごーい」」とか、お客を相手にしてない女性達もそんな事を言って、すり寄って来るけど俺は鋼の精神でとりあえず酒を飲む。

有って良かった【魅了耐性】

「こう言う所初めて? 緊張してるの?」

「緊張しちゃってかわいいー」

とか言われてるけど、本格的にこういう店に来るのは初めてだけど。女性経験はスズランがいるから、むしろスズランしかいませんがね。この世界では。

触られたり胸を押し付けられたりされても『うん柔らかい』『うん良い香り』程度にしか思わない様にした。


スズランに顔を思い切り殴られたくないからね。下手すると頭が体とお別れをする事に成る。最悪イチイさんも出て来ると思われる。

俺に買われようと、色々アピールしてくるが素っ気無い態度で。

「怖い彼女が居るので買いませんよ」って言い出してたらやっぱり離れて行く。皆は良い感じになって、上の階に行って楽しんでいるだろうと思われる中、俺は酒を飲んで時間を潰していた。

その間ずっとラッテさんが隣に座ってニコニコしてたり、すり寄ったりしてきたけど俺の事なんか放って置いて客でも取に行けばいいのに、と思いつつも話しかけられるので、下らない話をしている。まぁいいか。


隣でフルーツ食べたりお酒飲んだり話したりしてるけど、これがこの人のやり方なのだろうか?

まぁ、しつこいよりは良いけどさ。気軽に柔らかい感触や香りを楽しんで飲めたし。

「そういえばですねー、カームさん」

「んー?」俺より頭1つ分小さいので、覗き込んで来る様な仕草で聞いてくるから少し可愛いなーとか思ってたら。

「その、怖い彼女さんに許可取ったら私と寝てくれます?」

『ブフッ!』盛大に酒を噴き出した。幸いと言えば、正面に座ってたきつねさんがすでにいなかった事だろうか。

ゲッッホゲッホ!と咳き込みながら。

「いや・・・聞かないで下さい、最悪殺されます、そして最悪俺も殺されます」

「聞いてみないと解らないじゃないですかー」

と頬を膨らませながら言ってくる、夢魔族かなりあざといわ。


セレッソさんみたいにセクシー系もいればラッテさんみたいに可愛い系もいるんだね。勉強になるなぁ。むしろ社会のニーズに答えてると言うかなんというか・・・

そう考えている内に、腕を胸に押し付けて肩に頭を置く様に更に密着してきた。気にしないで、摘みのチーズを食べてたら首を横に振る様に頭をすりすりしてきたので。

「仕事帰りで、まだ風呂に行って無いんで汚れちゃいますよ」

「別にかまいませんよー、カームさんの汗の香りを楽しんでるんで、って言うか、カームさんは綺麗な方ですよー。それとその食べ掛けのチーズ下さい、あーん」

と口で言いながら、口を開けて来る。

『餌付けと同じか? いや、コレはやばいだろう』と全力で3秒ほど考え、気にしないで残りのチーズを自分の口に運んだ。

このラッテさんは、かなり俺の臭いを嗅いで来るが、男が女性の体臭を嗅ぐのと同じなのか、まぁ本人が『楽しんでる』って言ってるから気にしないで酒を飲もう。あと食べ掛けを貰うってやっぱ間接キス的なのを狙ってるのか素で言ってるのかこの子の場合本当に解らない。


「あらー、まだ上に行って無かったの?」

セレッソさんが正面に座りながら言ってくる。

「いやー、前々から言ってる通りですよ」

「その割にはラッテが良い感じになってるんじゃない?」

横を見ながら「気にしないで飲んでたら他の客も取に行かず、ずっと俺の相手にしてくれてるんですよ、そしたらこうなってました、稼ぎに行けば良いのに」

ラッテさんの手が、股間に向かって胸や腹を伝って降りて来るが、それをやんわり払いのけたら、諦めて俺の太ももに頭を乗せて来た。

「まぁ、俺の何が良いのか解りませんがね」

「一目ぼれだそうよ」

「はぁ、そうですか・・・」

「そうなんです!」俺の太ももに頬を乗せて、頬以外をキリッとした表情で言う台詞じゃないのよねそれ。

「それはまぁ置いといて、体の方じゃなくて膝の方向いてくれませんか?なんかいかがわしく思われますから」

「ここはこういう事するお店ですよー」

「ラッテ、そういうことは上に行ってからねー」

「上に行けないので、せめて香りだけでもーと思いまして」スンスン。

どこの香りですかねぇ?

「ね?言ったでしょう? 堅いって、諦めなさい」

「諦めたく無いからこうしてるんですよーだ」スーハースーハー。

なるべく心を宇宙の彼方に置いて、酒でも飲もう。無心・・・無心・・・

「ねぇカーム君?」

どうやら宇宙の果ては遠かったようだ。


「何ですか?」

「こんな子だけど嫌いにならないであげてね」

「え? まぁ実害が無ければ嫌う理由は特に無いですが」

「そう。それならよかったわ、もしよかったら、これからもちょこちょこ来て頂戴」

「こんな場所で毎日お酒飲んでたら路頭に迷いますからね、本当に偶になら。ですが」

「え?本当?やったー」と言いながら太ももから離れないでスハスハしている。

「・・・さ、サービスはするからね?」

「え、えぇ」

左手を太ももに置け無いし頭に手を置くのもどうかと思ったので、何気なく果実水に綺麗な球状の氷を1個入れて飲もうとしたら。

「んーんー、魔力が、魔力が肌から感じるのー」とか煽情的に言い出したので個人的に少し来る物が有った。

さすが魔力に敏感らしい夢魔族だ。


「やーん少し大きくなったー」とか言ったので、太ももから無理矢理頭を引っぺがし、席を1個分横にずれて座って皆の帰りを待った。

「ごめんなさーい、もう言わないからー」とか言いつつまた頭を太ももに置いて来る、今度は顔は膝側だ。

しばらくして一番最初に上に行ったきつねさんが戻って来て。

「本当に買ってなかったのかよー」

「えぇ、まぁおかげで楽しく酒が飲めましたよ」と本音は言わない様にしつつ、

「けどその娘だいぶ懐いてるじゃなんかよ、上に行けば良かったのによ」

「きつねさんは、俺の彼女を知らないからそんな事が言えるんですよ、ハハハ」

と死んだ魚の様な目で言った。

「すまんな」

とだけ言って果実水を飲んでいる。

指先に、グラスに丁度入るくらいの綺麗な球状の氷塊を出して「氷要ります?」と聞いたら。

「頼むよ」

と言われ、そのままグラスに入れてあげる事にした。

膝で「んっ・・・っんん」とか言ってるが気にしないで置こう。

「その子なんか反応してるけどさ、なんなん?」

「あー、俺の魔力に反応してるだけです、さっきはかなり煽情的な声をだされて大変困りましたが、今回は堪えてるみたいです、まぁどっちにしろエロいですが」

「だな」


そんなやり取りをしつつ、どうでも良い話をきつねさんとしているうちに全員戻って来たので帰る事にする。

「また来てねー」とラッテさんが大袈裟に手を振るが「はいはい」とだけ返しておいた。

値段は相場を知らないが、他の所よりも銀貨1枚ほど高かったらしい、俺は酒代だけだから良く解らないけど。まぁ前世の綺麗なお姉さんのいるお店で飲むよりは安いわな・・・

「なんだ、さっきの白髪の娘と寝てないのかよ、ヘタレだなぁ」

「きつねさんにも言いましたが、おやかたは俺の彼女を知らないから言えるんですよ・・・念には念を入れないと本当命に関わるので」

「そ・・・そうか、悪かったな。けどお前の紹介であの店に行けてよかったぜ? 今まで夢魔族の店って話だから、皆少しビビってたけどよ、なぁに蓋を開けてみれば少し高いだけの良い店だぜ? むしろ良すぎてもう少し高いかと思ったぜ」

皆頷いている。少し下品だけど遠まわしに言ってるだけマシか。

「じゃ、俺こっちだから」と一人、また一人と別れて行き集合住宅に帰った。


流石に大家さんには会わなかったけどこのままの状態で会ったらまた冷たい目で見られるので銭湯に急いで行くか。

少し念入りに体を洗って、ゆったり浸かって気分はボディービルダーの笑顔くらい晴れやか。

ああ言う所は個人的に気を遣うからな、部屋に戻ってもう寝よう。

帰りに食堂で大家さんを見かけたので、挨拶をしたら冷ややかな目で見られた。

あれぇ?すげぇ念入りに洗ったんだけどまだ香るの?獣人系マジすげぇ。

ラッテがカームに頭を擦り付けてる時の描写はこんな感じで

(>ワ<≡>ワ<)

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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