第32話 討伐に誘われた時の事 前編
細々と続きます。
相変わらず不定期です。
PVが10万 ユニークが2万 ブックマーク登録が200件を越えました。
これも皆様のおかげですありがとうございます。
町に戻って来て数日後俺は1個下のランクの仕事を20回受けたのでランク3になった、「ランクアップおめでとうございます」と言われたが、まぁランク3は日雇いの仕事で食っていれば問題無く成れるので、別にどうでも良いと思っている。滅多な事で、もう冒険者ギルドにはあまりお世話になる事は無いだろう、有ったとしても雨で仕事が休みになった時に別の仕事を探しに来るくらいだ。
そう思ってたのが浅はかだった。
ランク3になり、数日後の夕方、部屋のドアが4回ほどノックされた。
こっちの世界でもノックは4回なんだな。
「フォリだ、カームはいるか」
「はい、どうぞ」部屋で二人っきりか、心臓に悪そうだ。
「失礼する」そう言うと軽く部屋を見回す。
そして部屋に入って来た、俺は椅子を引き「どうぞ」と言い座らせることにする。
「あー、お茶淹れてきますね」
「かまわん、直ぐに済むからな。この前日雇いの仕事をしていると言っていたが、ギルドに登録して壁にかかっている仕事を選んでいるんだろう?」
「えぇ、まぁ」
「それなら話が早い、ギルドカードを見せてほしい」
「えーっと。何故ですか?」と言いながらカードを棚の箱から取り出しにかかる。
「今ギルドで緊急クエストが有ってな、なるべく在籍者は参加してほしいと言う旨だった」
「えぇ」
「門を出て、馬車で朝から走って、夕方の少し前に付く、山の麓辺りに魔物が大量発生しているのが確認されてな、少しでも戦力が欲しいらしい。戦えなくても後方で救護や炊き出しの裏方も欲しいって話だ、ちなみに今日張り出されたばかりだ、カームなら料理も上手いからな。戦えなくても裏方で十分通じる」
「え?」ギルドカードをフォリさんに差し出す手が止まる。
「失礼する」そう言うとカードを俺から受け取る様に持って行く。あー遅かったか、ってか『ギルド登録してるよな』の時点で手遅れだったんだな。
「ほう、とりあえず前後衛が出来て魔法も全属性か、合成魔法? まぁ後で聞くか、ありがとう、コレは返すぞ」
「あ。はい」
「うむ、これなら十分通用しそうだ。ランク5の相手4人に不意打ちでと言えども勝ってるからな」
独り言の様に言わないで下さい。
「あのー、もしかしなくてもお誘いですか?」
「無論だ、1人でも多い方が良いし、他の町にも招集が掛かっているからな、フレーシュとも話しをしたが、行くそうだ」
「断り辛い言い方しますねー、解りました、日雇いでも一応ギルドに在籍している身なので行かせてもらいますよ」
「感謝する、こう見えて人見知りでな。周りが他人ばかりだと落ち着かないのだ」
えー人見知りって言うより周りが避けて行く風貌ですよ、未だに差別とか見た事無いけど。
「で、だ。この合成魔法とはなんだ? 簡単に説明してほしい」
そう言われたので手の平にぬるま湯の玉を作り出し浮遊させる。
「コレは火と水の魔法でお湯を出しました、そこの銭湯くらいの暖かさなので触っても平気ですよ」
「おぉ、本当だ、暖かいな」この魔法を見て、触った人は漏れなく同じ反応するな。
「まぁ、もう少し熱くできますけどね」熱湯の98度とか。
「体を拭くのに便利だな」
「いや・・・風呂位なら直ぐ溜まりますけど?」
「声をかけて良かったと心から思うぞ、魔物の返り血は気分が悪いからな、皆助かるだろう、出発は明後日の朝、帰りはある程度数が減るまでだから解らん、詳細はギルドに聞いてくれ。じゃぁ頼んだぞ」
そういうと立ち上がり部屋から出て行くフォリさん。
うん、正直行きたくない。元日本人らしく、そういうのとは無縁でいたかったが、まぁこっちの世界はこっちの世界として割り切ろう。
◇
仕事の時間になるが、今日から休もうと思う、準備が有るからな。
「おやかた、申し訳ないんですが、今日からしばらく休みを下さい」
「なんだ。また村に戻るのか?」
「いえ、同じ場所に住んでる知り合いから「魔物の異常発生が確認されて、ギルドに登録してる人は極力参加してほしい、戦えなくても裏方でも構わないから」と言われまして」
「・・・そうか。生きて帰って来いよ」おやかた、それフラグ。
「はい、死なない様にしますよ」
「帰ってきたら色町奢ってやるよー」いや、きつねさんそれもフラグ。
「て、手紙、書いとけよ彼女に」まっちょさん、それもフラグ。
「まぁ死なない様にしますし最悪裏方に徹しますよ、まぁ風邪ひいて寝込んでるとでも思っててくださいよ」
「解った、行って来い」
ちなみに親方とかは日雇いでは無く雇用で働いているので、そういうのは無いみたいだ。
ギルドに出向き「あの、魔物の大量発生の件なんですが詳細を教えてください」と詳細を聞いておく。
「解りました」
どこで発生したか、いろんな町の冒険者が集まっているって言うのは、昨日聞いた話なので大体解っていた。
「持ち物ですが、武器、防具、それを整備する道具、寝具くらいで平気です、水や食べ物やポーション類は支給されますので不要です。あった方が良い物は着替えやタオルですね、嗜好品も必要なら持って行ってかまいません。ただ重くなるのは自分ですので考えてお持ちください。ランクですが緊急と言う事なので特に有りません、なので働きに応じてランクが上がる事も御座います、ランクを上げたいのなら頑張ってくださいね」
すごく可愛い不自然にならない程度の笑顔で言われたので少しドキッっとする。
「解りました、けど日雇いの仕事が性に合っているので上がっても日雇いですかね」
「そうですか、安全ですからね、一攫千金を夢見る人もいますが、死んだら元も子もないですからね。どちらが良いかは私には判断できませんが。では登録しますのでカードの提示をお願いします」
書類に何かを書いているがカウンターの中なので良く見えない。
「はい、ありがとうございます。では出発は明日、門が開いて少ししたら出発しますのでお気を付けください。一応第二便も有りますが基本1日1本ですので次の日まで待つ事に成りますので」
「解りました、ご丁寧にありがとうございます」
準備と嗜好品ねぇ。武器、防具、砂糖と塩と林檎とハードビスケットでいいか、はたから見たらほぼ調味料だけどな、自家製経口補水液の為には必要だし。
後は、日持ちする干し肉とかを何とか工夫してスープとかにして出される可能性が高いから、野菜やビタミン不足も考えられるな、キャベツとレモンかライムでいいか。
後は防具だよな。確実に戦闘を意識してないで生活してたからね、持ってないんだよ。
そんなこんなで武器防具屋に来るがコレと言って目を引くものが無い。一応聞いて見るか。
「すみません、両手剣か槍かハルバードみたいな武器に合わせる盾って有りますかね?」
「あぁ?あんちゃん得物はなんだ、それによっちゃ無い事も無いが」
少し悩んでから正直に言う事にする。一応身を守る物だからな。「スコップです」
ブフーーと、飲んでいたお茶か何かの液体を噴き出しゲホゲホとむせて鼻をかんでいる。
「スコップって・・・あんちゃん、正気かい?」
「えぇ、生産性に優れ強固で格安、それなりに長く重心が先の方で重い、斧と剣と槍を足した感じですかね?」
「ちょいと構えを見せてくれるか?」
おっちゃんからショートスピアを借りて「こんな感じで構えます」と。
「んーまずはこの小丸盾を持ってから振ったりして見てくれ」
小丸盾を左手に付けて、ショートスピアをスコップの構えで振ったり薙いだりするが邪魔にはならない程度には、違和感を感じないな。
「あー言いわすれてましたがマチェットやバールも使います」
「マチェットはなんとなく解るが。バールってどう使うんだよ」
「殴る、突き刺す、武器を受け止める。鉄の塊ですからね。武器で受けるよりは長持ちしますよ、万能工具ですからね、使い方次第じゃ何にでもなりますよ」
「あんちゃんよー、悪いけど防具は鎧とかにした方がいいぜ? どう考えてもスコップ持ちながら盾が活躍する場面が想像できないんだよ、どうしても必要ならこっちも商売だから売るけどよ」
「そうですか、そうですよね、今度必要になったら買いに来ます。防具の方は?」
「んー」そう言いながら俺の全身を見る。「革鎧だな。ソフトかハード。討伐部位持ち込みのオーガの皮とかでも作れるが・・・、体に傷付けないで綺麗に剥いでくるのが条件だし高いぜ」
「ちなみに革鎧の値段は?」
「ハードは大銀貨2枚、ソフトは大銀貨1枚と銀貨2から3枚だ」
「すいません、町に来て30日位なんで自由になるお金がまだそんなに無いので今回は無かった事に、あー余ってる少し厚めの皮を下さい」
「何に使うんだ?まぁいいや、深くは聞かねぇよ、どうやっても使えない部分だしな大銅貨1枚でいいや」
「ありがとうございます」
「しゃぁねぇな、また来いよ」
「ういっす」
んー意外にするね、まぁ体を守る物だし技術料も有るからな、仕方ないか。
服屋にでも行くか。
「はーい、いらっしゃーい」なんか妙齢で物腰が優しそうな犬耳の可愛い系のお姉さんが出て来た、若い時はさぞ男から声がかかっただろう。まぁ俺には関係無いが。
「すみません、生地が厚めの俺の肌の色と同じような色の服を上下、あとは深緑の服を上下、どちらか有りますか?」
「どちらも有りますよ~」
「じゃぁ両方下さい」
「は~い両方大銅貨5枚でーす」
「あと何でもいいんで大き目の分厚い黒い布を数枚、あと、細くて薄い革紐みたいなの有ります?」
「それも有りますよ~」
「んー分厚い布の方は大銅貨5枚で良いけど革紐が銀貨1枚です」
ずいぶんと間延びする声だが嫌いじゃない。こういうのに弱い男もいるんじゃないのかな、なんか現在進行形で花をもって服屋に入ろうか入らないか迷ってるのが一人いたが、まぁ本当に関係ない話だ。俺は銀貨2枚と大銅貨5枚を渡してから店を出る。
「頑張ってください」と男に声をかけたら「ふぇぁ!」って言っていたが一応健闘を祈ろう。
買って来た服の、肘と膝の内側に厚めの皮を縫込み、裏庭で温水球を作り買って来たばかりの服をブチ込み独特の水流を作り出し、真新しい独特の臭いを消すのに洗う事にする。ついでに洗濯も済ませよう。臭いが余り無い古着でも良かったが、まぁ干しておけば明日には乾くだろう。
次は道具の確認だ。
例の改良バックパックに針と糸が入った小物入れや医療品の入った小物入れ、今日買って来た瓶に塩と砂糖を入れ割れない様に布で包む。青果は紙袋で良いか。
その後に衣類だが濡れないように革袋に入れてバックパックに入れ、薄汚れた毛布を丸めて上部に括り付けその後は武器だな。
スコップはそのままで平気だとしてマチェットだな、少し鈍角に研いでおくか、シャープすぎても数体切ったら切れなくなるとか勘弁だしな、バールは、うん、そのままの君が好きだよ、とでも言って置こう、こいつはどうやって手を入れていいか正直解らない。平たい方を磨ぐ?釘を抜く方を尖らせる?手を入れる必要無いよねコレ。
あと、タクティカルベストみたいな物を作ろうと思う。本物のタクティカルベストの様にはいかないが、厚手の黒い布を何枚も重ねて強固に縫い、頭が通る部分を開けて、服の上から貫頭衣の様に着こみ、両端の数か所を、革紐で留められるように作った。もちろん前後は皮紐を細長く切り、MOLLEの様にしてある。
前面には、黒曜石投げナイフの柄頭が右上に向くように二振り分の鞘を、取り出しやすい位置に調節して括り付け。
左腰付近にはバールを挿せるように輪を数個作って有る、これはバールが暴れない為だ。
そして背中にはマチェットの柄が右上を向く様に括り付けた。最初は腰の裏側に横に取り付けて逆手で抜こうと考えたが、寝転がって転がる時に邪魔だと思ったので止めて置いた。まぁいつでも調整できるからな。
俺は、装備が邪魔になったり外れたりしないかを確認するのに、飛び跳ねたり、うつ伏せで寝たり、その辺をゴロゴロと転がり、問題無いかを確かめた。
大丈夫の様だ、後は場合によって腹の辺りや、背面に小型ポーチを取り付けたりできるようにしてある。色々な事に対処できる様に空きをあえて作ってある。
そしてナイフだが、右太ももに銃のホルスターの様に括り付け、右手を伸ばし切った位置に革ベルトで留めてある。
ニーパットとエルボーパットも、匍匐前進用や、膝を付いた時に小石が有っても痛く無い様に作った。
さらに、この上から背嚢を背負い、マチェットが抜けるように確かめた。問題は無かった。
後は背嚢に、必要な物を詰め込み、どのくらいの重さになるかを確かめ、一時間くらい町を歩いたり走ったりして、変な目で見られながら装備に問題が無いかを確かめた。
今回は目的の場所まで必要が無いのでリュックの方のMOLLEにバールを挿しておいた、スコップは手で持つ様にしよう。後は服が乾けば問題無いな。
コンコンコンコン「フレーシュだ」「はーい、開いてますよ」
「準備は出来ているか? 一応初めての遠征だときいたか・・・ら・・・なんだそのスコップは!」
「俺のメイン武器ですが?」
「いやいやいやいや、それは農具だろ?」
「使い方次第で道具にも武器にもなりますが?」
「おーーい、フォリーちょっとカームの部屋まで来てくれー」
なんでフォリさんを呼ぶんですかねぇ。
「なんだ、大声出さなくても聞こえる、周りに迷惑だ・・ぞ・・・スコップ?」
フレーシュさんが俺のスコップを持ってフォリさんに突き出した為会話が途中で止まる。そんなに武器として可笑しいのか?
「こいつスコップなんか持って行くつもりらしいんだよ」
「なんでスコップなんだ? 武器をを買う金が無かったのか? 裏方でも良いと言っていたはずだが」
なんでスコップがこんなにも非難されるのかが解らない、力説しておこう。
「いいですか? スコップは丁度良い長さで、重心も先に寄っています。叩いてよし、切ってよし、突いてよし、防いでよしです。見てください。わざわざ先を削って斧みたいにしてあるんですよ! もともと農具なんで丈夫で安価! これ以上の物は無いです!」
「解った、解ったから落ち着いてくれ、駄目だと思ったら裏方に回ってもらうよう声をかけるからな。それだけは覚えておいてくれよ」
「はい」
「で、実際どうなんだ?裏庭でちょっと打ち込んでみてくれ」
「んじゃ行きますよ、横薙ぎで剣に当てますからね」
「解った、来るって解ってればどうにかなる」
「んじゃ失礼します」と言いながら少し加減して振る。
『ガン!』と大き目な音がして剣先が大きく振れる。意外に重くて保持できなかったんだと思う。
「っーーー。手が痺れるぞこれ、盾持ってる奴なら痺れてしばらく使い物にはならんだろうな」
「ふーん、さっき防いでよしって言ったけど矢も平気なのか?」
「まぁ矢が見えれば顔くらい隠せますよ、最悪胴体は腕や防具でどうにかしないといけませんがね、あと曲線なんで、当たったら矢が反れて周りが危ないとは思いますけど」
「むー威力は解ったが実戦でどう使うかだな」
「そうだな、両手剣ポジションで前衛でもいいんじゃないのか?」
「そう・・・だな。一応前衛を頼むか、でー防具は?」
何かを考えてから、一応前衛と言われた。
「さっき服屋で買って来た上下深緑と藍色の服です、肘と膝にはソフトレザーが縫い込んでありますよ、これで肘ついても膝ついても痛くないです、あとベストも作りました」
ってか俺の基準は近代戦闘なんだよな。鎧とか軽装とか言われても良く解らない。だから迷彩効果の有る上下深緑か闇に紛れる上下紺色だ。
「お前死ぬぞ?そんな恰好だと」
あれー自信満々に言ったんだけどな。
「足の高い茂みとか木が多い所ですよね?」
「確かにそういったが・・・」
「ちょっと待っててください」そういうと半乾きの緑の服に袖を通し中庭の茂みの草を少し刈り、『イメージ・粘度の高い液体・体に纏う』と魔法を発動させ刈った草を服や顔や髪に付着させ簡易ギリースーツを作る。
辛うじて目と口は少し見えているので「どうですかね?これで茂みに隠れて待ち伏せするんですけど」
「あー。うん」「何も言えん、好きにしてくれ」
1人はどうでもよさそうに、1人は呆れている。
まぁヌタヌタなので水魔法で全身を洗い流し再び服を干す。
「まぁ、明日は色々と教えてくださいよ。実戦はほとんど経験がないので」
「解った解った」と言いながら部屋に戻って行った。
こっちの世界じゃ、前世の戦い方は受けが悪いみたいだ。遠距離攻撃が基本で目立たない服で先制攻撃を仕掛けるのが主流だからな。
さて・・・後は嗜好品のハードビスケットか。
材料は有るから作れるな。
バターと砂糖を混ぜて。
牛乳と小麦粉を交互に加え纏まったら冷蔵庫で冷やす・・・事は出来ないから氷を張った桶にでもボウルごと浸しておく。
その後薄く延ばして保存しやすいように四角く切って。
200度のオーブンで10分焼いて出来上がり。
うん慣れれば案外楽だな。オーブンで焼いてる時にバターの香りに釣られてセレッソさんとトレーネさんが来て明日持って行く焼き菓子だからって言ったのに1枚づつ食われた。「「堅った!」」とか言ってたが保存目的で作った嗜好品だから文句言われても仕方ないな。流石に2枚目には手は伸びなかったみたいだ。
荷物を再検査して戻して準備は万端、後は寝坊しなければいいや。
別に楽しみで眠れないとかは無く、普通に眠れた。
◇
朝日が出る頃に3人がキッチンに集まり軽い食事をしながら「よく眠れたか?」とか他愛も無い会話をして早めに門に向かう事にする。
門が開く前にはすでに何人もの冒険者がいて雑談をしている。
皆皮鎧を着こんだり、盾を持ったりしているが俺だけスコップと自作タクティカルベストと言う装備に、物珍しそうにこちらを見て来るが気にしないでおく。
しばらくして門が開き馬車に乗り込み目的地に向かう事にするが、半日も何もする事が無いので久しぶりに脳内で魔法のイメージでもしておいた。
□
他の町の人達が先に着いていたのか、すでにベースが出来上がっており、テントや、かまどが出来上がっている。
俺達は1つのテントを借り、必要以外の荷物を置き早速討伐に出かける事にする。
「あー、中に荷物置いて行って平気なんですか?」
「お互いを監視し合う事になってるし、冒険者は変に仲間意識が強いから獲物の取り合いは有るが、荷物に手を掛ける様な奴は滅多にいないな。けど貴重品だけは一応持っておいた方が良い」
「そうね、まぁ私は弓矢と短剣とお金だけ持って後は置いて行くけどね」
「これが遠征とかになって来ると重い水や食料を持って歩き、夜の見張りとかとかもあるからそっちはそっちで大変なんだ、だからこういうのは気楽で良い」
「んー、んじゃ俺は上下深緑の服と武器と塩と砂糖とお金だけでいいか」
「準備が出来たら早速向かうぞ、森の中に入るから随時警戒だ」声にいつもとは違う緊張感が有るのでこちらも答える事にする。
「「了解」」
そしてしばらく歩いて森に入る前に大量の魔物を見かけた
「目視で魔物を確認、今から言うのもなんだけどすげぇ疲れそうです」
「意外に目は良いのね。まぁ、どうにかしないといけないんだけどね」
趣味のゲームでFPSをやってれば、嫌でも自然界の中に有る人影とか、嫌でも目に付く。
「仕方ないだろう、原因不明の大量発生なんだからな、とりあえず3人で行動するぞ」
「了解した」「了解」
「うむ。で、カームの本当の戦闘経験は?」
「学校の授業でクラスメイトと模擬戦、課外授業でゴブリン数匹、学校の旅行で町に来た時にゴブリン1回、馬鹿4に絡まれて目潰し1回。ですかねー」
本当はそれ以外に数回、石の弾頭を試験的に試しくらいか、最悪ぶっ放せばどうにかなるね、まぁ使わない努力をしよう。
「実戦はほぼ無し、か、悪いがしばらく様子を見てから前衛か後衛か決めさせてもらうぞ」
「私が弓で先制攻撃を仕掛けてこちらに向かって来るまで射続けるわ、二人が戦闘に入ったら周囲の警戒をしながら援護って形で良いかしら?」
「それで構わない、カームは?」
辺りを見回し、5秒考え、俺は奇襲出来ない事を確認して。
「それで大丈夫です、俺も奇襲できそうにないです、けどあのゴブリン共が30歩以内に入ったら何回か黒曜石の斧を投げます、その後フォリさんの左手側に展開するのでフレーシュさんはフォリさんの右手側から回り込まれない様にして下さい」
「解った、それで行こう。タイミングはフレーシュに任せる」
「解ったわ」そういうと弓を引き搾り狙いを定め1射目を一番手前の後ろを向いている奴の首に命中させる。流石エルフってだけは有るな。すごい精度だ。
それから2射ほど撃ちゴブリンがこちらに気が付き襲い掛かってくるがその途中で1匹ほど目に矢が刺さり倒れ。俺は射程に入ったゴブリンに斧を2回ほど投げつけ足元に倒しておいたスコップを拾い、構えながらフォリさんの後ろに付いて行き、フォリさんがあっという間に2匹を切り捨て、俺は思い切り縦にスコップを振りおろしゴブリンが手に持っていた棒ごと頭を叩き斬り、周り込もうとしていた1匹をフレーシュさんが矢で射抜く。
そして斧が当たって倒れているゴブリンの首にスコップの先を押し当て、足でスコップを踏み、とどめを刺す。もう1匹はフォリさんが処理してくれた。
「思ってた以上にやるわね」
「そうだな、本当に戦闘経験はそれだけだったのか?」
「そうですね」
「その割には迷わず俺の左に出るとか言ってたが、俺が剣を右手で持ってるからか?」
「それも有りますが、右手側の方が茂みが少ないのでフレーシュさんが狙いやすいと思って」
「かなりに的確だな、しばらくは問題は無いだろう、さて、討伐部位でもはぎ取るか」
あれから遭遇戦が少しと固まってる奴等を状況判断しながら戦いつつ「今戻らないと暗くなります。早めに引きましょう」と進言してみる、体内時計では残り1時間で日の入りだ。早くしないと暗闇の中で警戒しながら帰る事に成る。それだけは避けたい。
日が沈む方向を見ながら「そうね、確かに今から戻らないと暗くなるわね」
「なら決まりだ、帰るぞ」
全員の意見が一致したので、帰る事にした。
ベースキャンプに戻ったら朝より活気づいていた。
忙しなく煮炊きをする女性。
日持ちする食糧品を売っている露店。
武器磨きます・防具を修理しますと言う看板。
場に似合わない綺麗な女性。
ある程度安全な場所だと解っているからこういう場での商売をするのだろうか?
まぁ、露店に野菜や青果類が無かったので持って来て正解ではあったが。
あと綺麗なお姉さんに話しかけられたが丁重にお断りをしてたら、次々と他の人に話しかけて行く、うん・・・病気とか怖そう。
俺達はテントに戻り荷物の確認をして盗まれているものが無いか確認したが、特に無かった。
「さて、明日の方針だが。明日も同じ方角に向かいたいと思うがどうだ?」
「私は構わないけど、カームは?」
「こういうのは初めてなので、良く解らないのでお任せします」
「うむ、では明日はもう少し奥に行ってみよう、時間も有るから朝から動けるしな。では各自自由行動と言う事で」
「解ったわ」「ういっす」
とりあえずは飯なので食器を持ち、炊き出しの列に並び干し肉のスープとカチカチ黒パンを貰う。
干し肉のスープは干し肉の塩分だけで工夫もされていなく、本当に干し肉を削いで作っただけの、灰汁の浮いているスープだった。
せめて野菜位は入れてくれよ、キャベツ持って来て正解だったわ。
味は・・・塩辛い干し肉の入ったお湯。
他に表現できない、食レポの人が食べたらもう少しなんか言い様が有るかもしれないけど俺に味を伝えろと言われたらこれが限界だ。
「少し硬いお肉に天然塩を使ったスープが良く合いますねー、素材の味だけって言うんですか?」とでも言えば良いのか?
まぁ、干し肉スープに、持って来たキャベツの葉を1枚千切って入れてカチカチ黒パンを浸して食べる事にした。
うん、しょっぱい。
夕食後はテントの外に出て【水球】を作り、シャベルやマチェットを突っ込み血糊を軽く洗い流し端切れで拭いていたら声を掛けられた。
「すみませーん、俺も武器を洗わせてもらいたいんですけど良いですか?」
「え? まぁ構いませんけど」
「ありがとうございます」と言いながら武器を水に突っ込み血糊を洗っている。よく考えてみたらこの辺に池も川も無かったな、煮炊きは多分、水を樽にでも持って来ているんだろう。そう考えてたら何故か俺の前に長蛇の列が出来てて少し困った。
俺は【水球】を少し大き目に作って3個ほど浮遊させ効率を上げた、水が真っ赤になってきたら邪魔にならない所に飛ばしてまた【水球】を作る。水球を飛ばすと「「おー」」と声が上がったがなんでか解らなかった。
最初の人が、お金を渡そうとしてきたのを、断ったのが原因だろうな。まぁ別に良いけどね。水球の周りに人が集まって武器を刺していく様子は少し滑稽だった。
【スキル・属性攻撃・水:3】を習得しました。
んー特に何か特別な事したって気は無いんだけどなー、なんで上がったんだろう?まぁいいか。
水球前にフォリさんがいて、こちらに気づき。
「カーム、この列はお前が原因だったのか」
順番待ちをしていて、いざ自分の番が回って来たと思ったら俺が水球を浮かして、水が濁ってきたら飛ばしてを繰り返してたものだから少し驚いているみたいだ。
「無料で武器の血糊を落とす為の水球を作ってて、汚れてきたら盛大に飛ばしてて『ありゃすげぇ魔法使いだぜ』って話も出てるぞ」
水で血糊を落として、隣に座り布で剣を拭きながら言ってくる。
「あー、そんな噂まで出ちゃってます?」
「この辺に水源が無いからな、布で血糊を拭くくらいしか出来ないと思ってたんだろう、だから噂がすごい勢いで広がったんだろうな」
今度は油が染み込んだ布で剣を拭いている、ああいう剣って多分錆びとかすぐに出るんだろうな。
「こりゃーこの討伐終わるまで止められませんね」
「だろうな、少しはけて来たからもう少しだな」
「ですね。まぁ、水球維持しながら座ってるだけなんで楽っちゃ楽ですけどね、問題はこの大規模討伐に何日かかるか。ですけどね」
「討伐完了の目途も立っていないし原因も解ってないからな、まぁ自分の負担にならない様にだけ気を付けろ」
「けどこれって下手に辞めると暴動起きそうですよね」
笑いながら軽く言った積りだったのだが。
「だろうな、無料で水源を出して武器の清掃の手伝いだと思われてるだろうからな。無料にしたのが間違いだったな、明日から金を取ろうとすると文句も出るだろうな」
「デスヨネー」
まぁ、水球出して空中で保持して置くだけだからな、別に苦じゃ無いのが救いか。
「それにしても良く魔力が保つな? 気怠くないのか?」
「あー特にないですね」
村の麦刈りした時や畑作った時よりはだるくないし。
「お前は魔法使いの方が向いてるんじゃないのか? その腕ならどこでも拾ってくれるし上級区の貴族か、金持の子供の先生か、もっと大きな町の貴族の子供の先生にも成れると思うぞ」
貴族いるんすかあの町。
「どうですかねー、魔法も使えるけど、どう立ち回っていいか解らないんですよね、誰かに当たったらって思うと怖くて。なら前線にいてスコップ振ってたりした方が良いですよ、あ。捌けましたね」
そう言って水球をテントが無い方に飛ばして立ち上がり。
「前にも言ったと思いますが、先生って柄じゃ無いんで。んじゃ俺はテントに戻りますね」
後衛で魔法使って、フレンドリーファイアとか怖くてできない。
「魔法使いが欲しかったんだが上手く躱されたな・・・」
裏の方でフォリさんが何かを言った気がするが、よく聞き取れなかった。
「さて、明日の方針だが。先ほど話し合った通り、同じ方角に更に進もうと思ってるんだが」
「俺は別に構いませんよ」
「私も構わない」
話し合い終わっちゃったよ。どうするんだよコレ。これで良いのか本当に。
「あ、昨日作った日持ちする焼き菓子なんですけど食べます?」
沈黙に耐えられなくなってリュックを漁りハードビスケットを差し出す。
「ほう・・・」
「まったく、昨日夜中に何か作ってると思ったらこれか、今日に備えて早く寝れば良い物を!まったく!・・・いただこう」
そう言いながら手を伸ばしはじめる。
なんだろう、このダークエルフ面白い。
「結構堅いですよ?」
「「堅っった!」」
「昨日セレッソさんとトレーネさんも同じ反応でしたよ」
そこから会話を広げて行き、なんとか沈黙を破る事が出来た。フォリさんなら難なく噛み砕けると思ったけど、思ってたより固かったからそんな言葉が出たと信じたい。
まぁこの後皆早めに寝た。
続きます




