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第30話 村に帰った時の事

細々と続けてます。

相変わらず不定期です。


スズランと夜を過ごす描写が有りますが例の如くさしあたりの無い表現ですが、嫌いな方はお気を付けください。

昼休み中、食堂で皆と食事をしている最中に、報告をしておこうと思う。

「おやかた、明日から3日ほど休ませてもらいます」

「おう、前々から言ってた彼女か?青春してるなぁ!」

と大きな声で言うから周りに丸聞こえである、周りの連中がニヤ付いてるのが少し気に障るがまぁ良い。

30日近く同じ場所で働いてればそれなりに親しくはなる、食堂から出て作業場に戻る時にきつねさんが「帰ってきたら色町紹介しろよー」とか言いながらバンバン背中を叩いて来る、なんだかんだでスイートメモリーにはまだ行っていない、他の皆も有る程度危険だと知っていながら、行きたいみたいでソワソワしている。


「まぁ、一緒に付いて行くだけっすよ、買いませんからね」

「大丈夫だって、ばれないから」

「いやいやいや、つのさん、あいつの事知らないから言えるんっすよ」

「そ、そうだよ、買おうぜ、他の女の味も知るべきだ」

「女の味って・・・下品っすよまっちょさん」


そう言いながら仕事に戻って行き特に問題無く作業終了時刻になる。

帰り際に土産も買って行こうと思い少し違う道を通りながら帰る。

土産は実家に香辛料を、スズランには前々から『似合いそうだなー』と思う簡素な銀のイヤリングを買った。着飾る必要が無いのか、その気が無いのかは知らないが、小物を身に着けている所をあまり見た事が無い、俺が送った髪飾りも毎日つけると言うより、祭りの日くらいにしか付けていないからな。これくらいなら黒髪にも合うと思うし、特に問題は無いだろう。

無難って最高だな、最悪ミールに今後何を送っていいか相談しよう、あいつは指輪やピアスを常に何かしら身に着けていた気がするからな。そもそも指のサイズを知らないと指輪は買えないよな。


家に帰り、明日の用意だけはしっかり済ませ、大家さんに3日ほど留守にする事を伝えたら。

「帰って来なかったら家財道具は売るから安心して」

そう言われ、冗談だと思いつつ苦笑いしかできなかった。この人とは中々打ち解けられないな、なんか壁が厚いんだよ。



朝日が昇り、門が開くまでには朝食と昼食の準備をする。来る時は休憩無しで来たが、今日はゆっくり帰ろう。

相変わらず大家さんはパンと牛乳だけだった。


「おー今日は仕事じゃないのかー」

「えぇ、ちょっと村に帰ってきます、彼女が30日に1回は会いたいと言ってたんで、帰らないと」

「そうか、残念だが帰ってきたら通行料を取らないといけないな、実家に金を忘れて来るんじゃないぞ、それときっちりイチャイチャしてこいよ、色町で金を使うよりよっぽどいいからな」

そんなどうでもいいやり取りも、門番さんと出来るようになってきたのも馴染んできてる証拠だと思いたい。


村まで半分って所の東屋で、昼食には少し早いけど休憩を入れ、のんびり過ごしていると魔物のゴブリンが茂みで様子をうかがっているので、周りを確認し誰もいない事を確認してから【石の弾頭】を作り出し、射出する。

ヒュン!と風を割く音が聞こえ、悲鳴も呻き声も無く、ドサッと言う音と共に前のめりに倒れて茂みから上半身が出て来る。

口から上が吹き飛んでいて、蒐集部位が取れないが今まで生物に対して使った時が無いので実験代だと思えば安い、後は証拠隠滅だな、その辺に放って置いても魔物や野生動物が処理してくれるが、一応東屋から見える位置で倒れているので足をもって引きずって運ぶのも面倒なので、火属性魔法で【火球】を出して焼く事にする。

「今のは×ラ○゛ーマでは無い×ラだ」

誰も居ないので言ってみる、後で火と氷でも出して合体させてみようかな。


その後、村に着くまで魔物を見かける事も無く、平和に帰れたので良しとしようか。



村近くまで来ると「おーいカームー」とか聞こえ、まだ先っぽしか見えていない櫓からだと判断する、俺は見えていないがシンケンには見えているのだろう、一応手でも振って置く。


そのまま街道を歩きシンケンが近づいて来る。

「久しぶり、なんか腕少し太くなったね、仕事は何をしているんだい?」

「まぁ夜にでも話すさ、一応仕事中なんだろう?」

「これくらい平気さ、櫓での見張りは暇で暇で仕方ないよ」

「暇でも一応用心だけはしないとな」

軽くやり取りをして実家に向かう事にする。


「ただいまー」誰もいないです、悲しいねぇ。まぁまだ日も高いからね。仕方ない。土産の香辛料をテーブルに置いて、スズランにでも会いに行こう。

相変わらず家禽の世話をしていたので「ただいま」と声を掛ける。

そうしたらスズランが駆け寄って来て「おかえり」と言って来た、ナニカイワカンガ。

「思ったより帰って来るのが早かったね。あと5日くらい先かと思った」

アレ、コノココンナニシャベッタッケ?

「あぁ、今してる仕事が日雇いで、ある程度仕事したら休んでの繰り返しだから、折角だから早めに戻って来たんだよ、あとこれお土産」

「ありがとう」

こんな笑顔あまり見なかったのに、どうしたんだろう。


「良く喋る様になったね、30日でこんなに変わるとは思わなかったよ」

「うん。鶏の世話をしてて。卵を産んだら売ってくれって人が多くて。それで。いつもより多く喋らないといけないって気が付いて。カームは。あまり喋らなくても。私の言いたい事解ってくれてたから」

すげぇ、こんな喋ってる所見た事無いわ。

「池のお姉さんにも言われたから。可愛い声だから、もっと、喋った方が良いよって」

おー感謝しないとな。

「あー、あとこれお土産、スズランってあまり着飾らないからさ。その、毎回買って来られる訳じゃ無いけど、初めて町で稼いだお金だから記念に」

言ってて少し恥ずかしいが、ちゃんと目を見て渡せた。

「ありがとう。開けて良い?」

小首をかしげてくる。月並みだが、すごく可愛いと思った。これで俺より背が低くて上目づかいなら、もっと可愛いんだと思うけど、こればかりは贅沢な悩みだ。

そう思っている間に、紙袋を開けて片耳に付けて「似合うかな?」と指で髪をかき上げるようにして、耳を見せて来る。その仕草に少しドキッっとするが「似合うよ」とだけ言って平然を装って置いた。

そのまま両耳に付けると思ったが、外して袋に戻し「部屋に置いて来るから。居間でまってて」と言われ、入り慣れたスズランの家に入る事にする。まぁ普段から小物類もまったく身に着けないからな。


しばらくしてお茶が出て来た。飲みなれたお茶だ、向こうではカモミールティーしか飲んでねぇや。


お茶を飲みながら俺が町に行っている間の30日近い間に何が有ったのかを話し合い。

「4人相手に戦って勝ったんだ。カームはいつも戦おうとしないから。すごく珍しい」

「隣に住んでる人と、上に住んでる人に言われたからね、『殺さなければ良いからさっさと片付けな』ってね、戦う前まで2回は逃げたんだけどね、相手もしつこかったからね」


気が付いたら夕方になっていてリコリスさんが帰って来た「あらー懐かしいわねー」「あ、お邪魔してます。」といってさらに世間話をする。

「うちの子、カーム君がいなくなってからすごく喋るようになって、本当良かったわー、だってカーム君がいたら多分今まで通りあまり喋って無かったと思うの」

「俺がなんとなく、言いたい事とか察してたからだって聞きました、それと村の方は変わりませんか?」

「そうねー、村長がしばらく町に行くって五月蠅かったくらいかしら?」

「あの爺さんは俺に頼りすぎなんですよ、確かに魔法で荒れ地を耕したり、水引いたり、新しい酒を造ったりで色々やっちゃいましたからね」

「おーう今帰った・・・ぞ?」

「あ、おじゃましてます」

「おい、帰って来て速攻イチャイチャしてたんか? ん?」

ひでぇ言いがかりだ。

「おめぇ、町に行って日雇いやってるんだって? ランクは幾つだ、ギルド登録して仕事した方が早いからな、討伐とかはしてんのか?」

「いやー、まだ2で、防壁修理の日雇いで、毎日レンガの泥を練ってます」

「おいおい、男なら討伐依頼だろ? 腕っぷしが強くねぇとスズランの事守れねぇだろ!」


『貴方の娘さんの方が強いと思いますよ、純粋な力ならですけどね。』もちろん口にはしない。

「俺は弱虫で、痛いのとか危ないのは嫌なんで、安全に稼いでますよ。守るような事に成ったらその時に考えます」

「それでもヘイルの息子かよ! だらしねぇ!」

「お父さん。カーム町でケンカ売られて4人に勝ったって言ってた」

あちゃー、余計な事言わなければ良かったよ。

「ほう・・・そいつはランク幾つだ? 武器は?」

「えー全員ランク5でずっと4人いっしょだったからパーティー組んでるんだと思います、武器は街中なのでお互い持ってませでしたね」

「ほう、んじゃ素手でやり合って、ランク5の4人に勝ったって言うのか?」

「まぁ、一応。死なない程度には」と言いながら経緯をすべて話す事にした。


「卑怯じゃねぇのかそれ?」

「んーちょっと手段としては」

スズランに至ってはお茶を飲んでいる。

「喧嘩に卑怯も汚いも存在しません、しかも喧嘩売ってるのに殴りかかって来ないでゴチャゴチャ言ってるだけなので、正面から正々堂々不意打ちさせてもらいました」

「いやーそれでもなぁ?」

「んー何とも言えないわー」

「カームが無事なら何でもいい」

「けど、目潰しって・・・どーよ?」

「生きてるならそれでいいと思う。相手は4人だった」

「うーん」

イチイさんがいるって事は両親も帰って来てるって事だよな、そろそろ帰らせてもらうか。

「あのーそろそろ俺、帰りますね、多分もう親も帰ってると思いますし」

「おう、少しくらいこっちにいるんだろ」

「明後日の昼前に町に行きます」

「スズランの事少し構ってやってくれ」

「はい」

そう言ったら、恥ずかしいのかスズランがイチイさんの事をドスドス殴っている、あの時腹に食らったアレを肩に入れてるとしたらイチイさん固過ぎでしょう・・・まぁ帰るか。

「お邪魔しましたー」


「ただいまー」

「あら、おかえり、いつ帰ったの? 解らなかったわ」

「昼少し過ぎかな」

「どうだ? 向こうでの生活は」

「慣れたよ、集合住宅に住んでる人達はすごく面白い人達だし」

「面白い・・・ねぇ。とりあえず話してみろ」

「ユニコーンと人間のハーフの軟派ケンタウロスっぽいの、色町で働いてるサキュバス、冷たそうに見えて実は心配性なダークエルフのお姉さん、妖精族で多分バンシーで、気が強い多分俺より年上なちっちゃい子、大家さんなのにサバサバした性格。今の所会えたのはそれくらいだね。詰所の人に、住む場所を報告したら『あの変態の巣窟か』とも言われてたね」

「そうか。何かあったら心配だから、住んでる場所の名前だけ教えてくれ」

近状報告をしつつ、御土産の事で気を遣うなとか、前世の感覚で家に金を入れようと思ったら金だけ突っ返された。


お茶を飲みながら、どうでも良い会話をしてたらドアをノックする音が聞こえたので、開けたらヴルストがいて。

「ばんわーっすちょいとカーム借りますね~」

簡単に俺の親に挨拶をして攫われた。


「で、どうなんだよ?」

連れてこられたのはもちろん酒場だ、シンケンもシュペックもいる、相方はいないみたいなので男同士の飲み会だ。

今日、同じ事を何回も言ってるので説明は楽だった。言い終わったら言い終わったで

「カームも十分変だから」

シュペック・・・その言葉、意外に傷つくぜ?


「で・・・だ、目潰しってどうだと思う? 卑怯か? 試合とかなら解るが戦争や喧嘩に卑怯は無いと思ってるのが、俺の考えなんだが」

「んー、卑怯って言うよりも状況に応じて動かないといけないからねぇ、仕方ないと思うよ」パクパク

「殺さなければ良いと思うよ」モシャモシャ

「相手は4人だろ? 微妙だな、いや、少し卑怯か?」モグモグ

とやはり三者三様の答えが返って来る。

「まぁボコボコにされるより、ボコボコにした方が良いって思ったから遠慮なくやらせてもらったけどね、イチイさんは『相手が多くても正々堂々と行くべきだー』とか言われてさ、俺あの人みたいに強く無いし」ゴクゴク


適当に飲み食いしながら、世間話に花を咲かせる、なんか大学時代にファミレスで無駄話してた時を思い出すなぁ。

そして良い感じに酔ってきたらお互いの夜の事情の話題になる訳ですよ。


「あーうん、まぁまぁかな、意外に甘えて来るのにはびっくりした」

「慣れたけど・・・偶に物凄く激しい時が有るから困るよ」

「普通だな、意外だったのは向こうから誘ってくる事が多いって事くらいかな、俺がその辺のガキの面倒見てると『私も早く欲しい』とか言って来た時はびっくりしたな」


で、カームは久しぶりに帰って来たんだからもちろんするんだろ?って話になる訳で。村はずれの空家が暗黙の了解で今の所そう言う事になってるぜ。とか言われるが。

「まぁ、スズランの事だから、その辺はもうすでに計画済だと思うよ、今飲んでる時に来ない事を祈るよ」

ゴクゴクとカップに残っていた果実酒を飲み干す。

「そういえば蒸留酒の方はどうなんだ?」

「校長が指揮を取ってるよ、学校の方は完璧に二の次になってるなありゃ」

「誰かに校長変わればいいのにな」

「「「なー」」」

と三人の声が重なる。よっぽど執着しているらしい。明日にでも見学するかね。

その後適当にお開きとなり、稼ぎが多い俺の奢りになった、出稼ぎに行って帰って来て奢らされるってどうよ?

ちなみにスズランの強襲は無かった、明日か。



久しぶりに自分のベッドで寝たのが良かったのか、歩いて来て疲れたのか、隣の部屋で歌ってる奴がいないからなのか、よく眠れた気がする。


予定としては酒蔵を見て、スズランと過ごすくらいですかね。

自分で、朝食を作らないって素晴らしいと思いつつ、手早く食事を済ませ酒蔵に出向こうとしたらドアが強めにノックされ。

「カーム君が帰って来てると聞いたんじゃ、会わせてくれ」

切羽詰まった声がしたので家族全員で呆れた顔をして俺がドアを開ける事にした。

「おぉカーム君、少し意見を聞きたいんじゃが!」

朝から最悪な気分だ。


「はい、何でしょう」

「今後の村の事についてなんじゃが」

「ここじゃアレなんで、集会所まで行きましょう」


「で、今後の村の方針なんじゃが」

「そうですね、今思いついたので良ければですが」


・校長先生が今作ってる蒸留酒を特産品として売りながらお金を溜めて計画的に水路を伸ばしながら畑の拡張、折角だから広大な土地を生かし試験的に葡萄や林檎も植えてみる。それもお酒にするか売るかを話し合う

・お酒の技術を売る。お酒の噂を聞きつけて『私の町や村でも作りたいんだ』って人が来たら技術料としてお金をもらいつつ勉強させる。もしくは酒作りを知ってる人を派遣して教えて来る。コレの値段は移動する距離と泊まった宿代くらいで。

・お酒の研究1。とりあえず色々な物でお酒を造って蒸留してとりあえず味の違いを確かめる。

・お酒の研究2。樽の中の焦がし具合で味や香りが変わるから樽に番号を振り確かめる。

・お酒の研究3。樽に使う木でも香りが変わってくるからとりあえずまずは試してみる

・お酒の研究4。蒸留酒に果物を漬けて飲みやすくした物を考えてまずは飲んでみる

・計画的に村人を増やす。頭の良い人を村で雇うか引き抜いて来る。村人が増える前に借家を立てて畑を耕して置く。

・近隣の村とよく話し合う。「ベリル村は酒の為に麦とか芋しか作らないからそっちは家畜を育ててよ、安く麦を売るから安く肉を買わせてよ」とか。

・最終手段。これ以上何もしない。今のままそのまま過ごす。現に生活に問題無いので下手に弄ら無い。


「ふむふむ」必死に村長がメモを取っている。

「今考えたのを大雑把に言ってみましたが、まぁその辺は村の人と話し合って下さい。俺は俺で色々勉強して来るんで、むしろ俺が居なくてもこの村が育つ様に導くのが村長でしょう」

「いやー儂の代でここまで物事がでかくなるとは思わなかったんじゃよ」

「その辺は諦めてください、代々村長をしてた血筋を発揮させてください。それがダメなら頭の良い人を雇って色々意見を聞いて下さい、最悪引退して息子さんに村長をさせてみては?」

「アイツはまだ駄目じゃ、お主と一緒で働きに出ておる」

「じゃぁ村長がやるしかないでしょう」

「むぅ。解った!やってみよう!校長とも話し合い竜族の人達とも交流を深めなんとかやって見せるわ!」

うんうんなんとか吹っ切れてくれたよ、村とか町の運営とか政治とか法律とか、かかわりたく無いし。俺に領地とか与えられてもどう運営していいか本当解らねぇよ。

と、その後も少し村長と話し合いある程度方針が決まりそれなりに動くと言っているのである意味安心だ。帰って来る度に俺に方針を聞きに来ないでくれると助かるね。


「おー活気づいてるなぁ」

蒸留小屋は最初の頃とは比べ物にならない活気で満ち溢れている。

「おう! 中々面白いし村の連中が結構乗り気なんだよ、だから『もう一機増やすか?』って話も出てるんだよ、あと薪も足りないから石炭にするかって話になってるな、その辺は校長が故郷から仕入れるとか言ってるぜ、『わしに任せろ!なるべく安く仕入れて来る』ってな」

「あーうん、安く仕入れても運ぶ手間が有るだろう、その辺どうするんだか・・・歩いて3日のあの山の中腹だろ?」指を指しながら言う。

「・・・考えてねぇんじゃないか?」

「デスヨネー」

「面白い話をしておる喃」

ねっとりと絡みつくような声で話しかけられ、少し驚きつつ振り向く。

「デスヨネー、やっぱり都合良く来ますよねー」

「で、その話。詳しく聞きたいんじゃが」

いきなり、目が爬虫類みたいになってかなり怖い。

「いくら地元で、少し無理が通るって言ってもあの距離を、石炭を運ぶのはそれなりに時間もお金もかかるのでは? 熱意ある若者のやる気だけじゃ長くは持ちませんよ。お金とかがそれなりにかかると思わないと、多く乗せると馬車の車輪や車軸だって痛むと思いますよ」

それらしい事を言ってみる。

「なら竜になり飛んで運ばせよう」

あ、竜に成れるんだ、竜族って角だけかと思ってたわ。

「何回も往復させますか? ストレスが溜まってその内ハゲますよ」

「むう、確かに飛ぶとなると重い物は持てんしな」

「なら、別の手段を考えないと」

「頭の良いお主だからそれなりの考えが有るんじゃろう?」

このショタジジイめ。こいつも俺の頭が頼りか!


「炭でも作ればいいんじゃないんですか?」

「炭ってあの燃えカスか?あれって作れるんか?」

確かに町でも見かけた事無いけど、どうなんだこの世界に有るんか? ってか本の数が少なすぎるんだよこの世界。いいやもう。人から聞いたって事で。

「町で知り合った、物知り爺さんに聞きましたよ。薪より長く燃えるって」


小さい背なのに俺の肩に手を置き「教えてくれんか喃?」と笑顔で言ってくるが目が笑ってません、ってか目がまた一瞬で爬虫類の様に長細く変わるのはマジで怖いので止めてください。 


「あーじゃぁ」と言いながらその辺を見渡し手頃な瓶と細い枝を持って来て簡単に説明しますかね。

「木って燃えると灰になるじゃないですか?」と言いながら木屑も燃やす。

「けど空気に触れない様に燃やすと炭になります」小枝を瓶に入て蓋を軽くして、指から火を出して瓶を熱して理科の実験の様にやって見せ、段々木が炭化して行き瓶の底に液体が溜まって来る、木酢液だ。

「「おぉー」」理科の実験で興奮してる子供みたいだ。

そして、炭化した枝を取り出し再び燃やす。

「燃えておらんではないか」

「いや、燃えてます、火が見えないだけで」と言って燃えてない方を渡すと手を近づけ「ほう、確かに熱いわ」どれどれと言いながらヴルストも手をかざす。


「どうやって大量に作るんじゃ?」

俺は地面に簡単に図を書き

「窯の中に入れて作ります、けど普通に作ったら燃えるので、こう排煙口を下に小さく作ります」

「「うんうん」」

「そうしたら中にぎっしり木を入れて火を付けたら白い煙が出てきます、ぎっしり詰まってるので中の方は空気に触れてない状態ですね」

地面に書いた図を指しながら説明を続ける

「「「うんうん」」」

「後はさっき見せたみたいに白い煙が出てきてどんどん透明になってきます、透明になったら窯口と煙突を塞いで瓶に蓋をするように空気を無くします」

「「「「「ほうほう」」」」」

「そうしたら、何日か置いて中の炭が冷めたら、取り出して完成です」

「「「「「おぉ!!!!!」」」」」

「あとこの煙を集めて出た液体は薬になります」

「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

いつの間にか人が増えててビックリしたわ

「ちなみに臭い消しです、風呂にも入れて平気です」

「「「おぉぅ!?」」」

「石鹸で消えない臭いとかも結構消えます」

ポーションとかそっち系を想像してたのか、まぁ錬金術とか知らないからどう作るかは知らないし何が材料かもしらないんだよな。薬草集めのクエスト受けとけばよかったわ。


「じゃぁ早速!」

「窯作るのにも時間かかりますし、木を敷き詰めて燃やして煙が透明になるのにも時間かかりますし、冷めるのにも時間かかります、とてもじゃないですが明日帰る俺には無理ですよ」

目に見えて、テンションが下がっていく校長。

この後、集会所で詳しい話とさっき描いた図をさらに細かく、解りやすく図面にし、木酢液の製造方法、使用方法も記載しておいた、そして窯に簡易的な屋根を付けて東屋の様にする事も。

「これで薪の件も解決じゃ」

「木を切りすぎて森を消さないで下さいよ、色々と大変なので」

公害とか、自然災害とか、野生生物の減少とか色々有った気がする。山の木を切って海の魚が捕れなくなったとか聞いた事が有るし。まぁここ平地で海見た事無いけど。


なんだかんだしている内に夕方になってしまい、スズランの事を構ってやれなかったのが気がかりだ。

そうしている内にミールが怒りながらやって来て「久しぶりに帰って来たのに何やってるのよ、村はずれの空家でスズランが待ってるからさっさと行きなさいよ!」

物凄く怒られ、空家の場所を聞いたらさらに怒られた、どの空家なんだか解らないんだから仕方ないじゃないか。


言われた空家に向かうと「おかえり」と言われ、何が何だかわからないがテーブルに夕飯だと思われる物が用意してあった、見事なから揚げ祭りだ。うん、君の好きな物は皆が好きって考え止めようか。俺はから揚げは好きだけど、限度を知ってくれ、好きでも食欲が無くなる。

「あ、ただいま」

うん、多分新居に住み始めた二人って設定っぽい、いろいろ凝ってるし。

「先にお風呂入って」

風呂まで沸いてるんですか、色々とありがたい。


まったりと風呂に入ってたらスズランが「一緒に入ろう?」と言って入って来た。脱衣所でごそごそ聞こえなかったから、別な場所で脱いでここまで来たか。中々の策士だな、音が聞こえたら心構えとか色々出来たけど、行き成りは流石にびっくりだ。

「洗ってあげる」と言われ少し恥ずかったのは秘密です。

「洗って」と言われた時はもっと恥ずかしかったのも秘密です。


その後夕食になり、すっかり冷めきったから揚げと、温め直した鶏のスープを食べながらどうでも良い話をして、俺が洗い物をして、どうでも良い話をしながら一緒に寝た。まぁ、さっき風呂で有ったからな、布団の中では甘えて来るだけだ。

会話の内容に「私。兄弟姉妹がいないから。子供は少し多いくらいが良い」とあまりどうでも良くないのも有ったが「まぁ一人目が少し大きくなったら考えよう」とだけ言って置いた。



はい、朝食作りはやっぱり俺の仕事ですよね。


昨日のから揚げを揚げ直し、パンに野菜と一緒に挟んで。簡単なから揚げサンドを多めに作り、昼食も作って置く。

そして全裸のスズランを起こし、目が醒めるまでほぼ1年ぶりの反応を楽しんでたら覚醒した瞬間に思い切り殴られた。理不尽である。

言い分としては「薄暗いなら良いけど明かるい時は恥ずかしい。起こしたら部屋から出てって欲しかった」だそうだ。あー星が飛んでるよ、気絶しなかったのは耐性のおかげ?あと歯が折れてないのが奇跡だぜ。


朝食を食べ、使った物はすべて綺麗にして、シーツだけは持ち帰る、そういうルールらしい。

家まで送って行ったらイチイさんに物凄い笑顔で出迎えられ肩を叩かれる。『少し構ってやれって言ったけど朝帰りしろとは言って無いぜ?』って顔だ、正直すごく怖い、リコリスさんは柔らかい笑顔で出迎えてくれるが相殺できないくらい怖い。殴られたりはしないが何が言いたいかは顔見れば大体解るさ。まぁ・・・一人娘だし。


久しぶりの気まずい朝の空気を堪能しつつ、家に帰り、両親にもニヤニヤされながら町に帰る事にする。

「早めに孫の顔が見られるかしら」とか母さんが言ってたが、聞こえない振りをして出て来た。「今日も当たらないよ」とか言ってたし、まだまだ先ですよ母さん。

三馬鹿に挨拶しながら帰ったが、全員肩を叩きながら「朝帰りおめでとう」とか言ってきやがる、あの空家を使って帰ったらそう言われるルールでも有るんかよ、とぼやきつつ町に帰った。

帰路は物凄く平和だった。

ちなみにスズランはテコ入れの可能性が高いです

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
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