表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/324

第315話 ついに偽物と模造品が出始めた時の事

一万文字を超えていますが、前後編に分け辛いので一話で行きます。

 剣崎さんが作った札の件から十日後、なんか豪華と強固が良い具合に調和している鍵付きの小包が俺宛に届いた。ってか武器を持った屈強そうな人が小脇に抱えて持ってきた。

 なんか見た目だけで盗まれそうな感が強いけど、送り主はカルツァで貴族の紋章が入ってるし、その為の屈強そうな人なんだろう。鍵もなくさない様に首から下げてたし。

 ちなみにきっちりお茶とかお菓子を出して労い、持て成していたら速攻で折り返しの船で帰って行った。

「んー。偽物と模造品かぁ。ってかいつもみたいに呼びつければ良くね?」

 俺は執務室でカルツァから送られてきた小包を開け、手紙を読みながら手にクリームの偽物を持って呟く。

「別に模倣されてもかまわないけどさー、この雑な作りはどうにかならないかなー」

 箱の蓋はなんか微妙に隙間があるのかカタカタ動くし、エンブレムは微妙に違うし、香りはキツいしで……。

「これがアクアマリン製だと思われたら嫌だなー。値段も高いし……。やっぱり油の生産が関係してんのか? それとも高いイコール効くとか本物って感じか?」

「ついに偽物ですか……」

 そんな事を呟いていたらウルレさんに聞かれていたのか、俺の机に書類を置きに来た時に心底嫌そうな顔をしていた。

「そうですね。ついでに価格とか、生産者が見つからないとかの愚痴も。何となくこっちでも動けないか? って催促も……」

 俺はため息を吐き、手紙を滑らせる様にしてウルレさんに渡した。

「値段はうちの十倍ですか。それでも噂が広がっていて、買う人と作る奴がいる。と」

 ウルレさんも呆れた顔になり、手紙を机に丁寧に置いてこちらに押し出してきた。

「うちのクリームが一般の市場に出ても、転売で価格が跳ね上がってるそうですねー。人族の大陸なら同じ重さの金と交換とかニルスさんが言ってたな……。対策はないから生産側を潰すしかないかー? エンブレムも瓶の張り紙も簡素にし過ぎたし、これ以上どうにもできないし……」

 俺は味のしないモソモソのリンゴを食べた時の様な表情で頭を掻き、模造品の方を手に取る。

「くせぇ……。もしかして獣脂か? これってただの軟膏ってか保湿だけじゃん。こっちは間違われようがないし放置でいいや。製薬関係で商会立ち上げて大きくなれば面白いんだけどなぁ」

「ずいぶんと簡単に言ってますけど、どうするんです? カルツァ様から動いてくれないか? って書かれましたよね? 対策とか話し合わないんですか?」

 ウルレさんは顎に手を当て、右の方を見て少し間を空けて提案してきた。

「これ、対策しようがあります? 偽物が出回った時点で堅実にいつも通りやるしかないですよ。うちに苦情が入っても、これはうちの商品じゃないですね。と言うしかないですし」

 こんな世界だし、何やってもいたちごっこになるだけだ。なら堅実にやった方が良いと思う。

「上がお望みなら徹底的にやって、偽物作りがいかに危険かを周りに周知させるしかないですね」

 ウルレさん怖いわー。声を落として無表情で言わないで欲しいわー。

「今まで思ってても言いませんでしたけど、ウルレさんって結構好戦的ですよね?」

「他人の大豊作の畑を、荒らす様な輩にかける慈悲は持ち合わせていません。なんなら自分の友人と父のコネを使い、個人的(・・・)に動いても良いくらいです」

 ウルレさんは少しだけ目を細め、牙を見せる様に嫌らしく笑った。

 コレはマジでヤベー奴ですわ。かなり怒ってますわ。物的な実害が出てない時の対応には積極的じゃないって思われたら嫌だし、放っておいても個人的に大丈夫だと思ってたけど動いた方が良さそうだな。

「わかりました。ウルレさんの心の平穏の為にも、ちょっと動いてみます。期待はしないで下さいね?」

「カームさんは極端ですし、最低か最高かのどちらでも良い様にしておきます。こういうのは、アクアマリンの代表が動いたという事実が肝心ですのでお任せします」

 俺は書いていた書類を端に寄せ、立ち上がったら呆れた感じでウルレさんに言われてしまった。

「はぁ……。どの程度がお好みですか? 内心穏やかではなさそうですし、先ほど言った通り慈悲もなく徹底的に?」

「徹底的にも限度があるんじゃないんですか? ちなみに、どうするおつもりでした? 参考程度に聞いておきたいんですが」

 おっと、質問したら質問で返されちゃったよ。俺ってある意味信用ねぇなぁ……。過去数回全て荒事になっちゃったし、仕方ないか。

「最低で殺さない程度に脅かしてくる。最高で背後に誰かいるか、大きな組織かどうか聞き出した後に殲滅、そして拠点を破壊したら背後にいる奴にわかりやすい警告。これは相手の出方次第ですがね」

 俺は両手を軽く広げ、首を傾げて左上の方をわざとらしく見る。茶化してる様に思われるか?

「やっぱり極端ですね……。真ん中辺りで良いのでは?」

 呆れられたわ。やるなら少し関わるか、徹底的にってのが悪いのかな?

「真ん中かぁ。生かしておくって事で恐怖で支配下に置いて、偽物の売上金の一部をかすめ取り、何かあったら責任を全て押しつけて逃げるってのは柄じゃないしな。個人の信用問題になるのでやりませんけど」

 そんな事を言ったら、なんでそんな事を思いつくんだ? って顔で見られたわ。生かしも殺しもしないで徹底的って、骨の髄まで吸い尽くしてから捨てるとか、そんなもんじゃないの? 何が違うんだ?

「ま、ちょっと行ってきます」

 俺は執務室の中央に移動し、転移魔法でセレナイトの蒸留所のロフトに移動し、オルソさんの所に向かった。

「こんちゃーっす。オルソさんいますー?」

「げっ! お前が来ると面倒事が増えるから来るんじゃねぇよ! いつもの商人をよこせよ!」

 珍しく店に出ており、何かの木箱を抱えてるところだった。ちなみにいつもの商人ってのは、面接してアクアマリンに来た人だ。

 島から行ける港町に営業とか交渉とか買い出し全般を任せているし、俺の仕事を減らしてくれているので大変助かっている。

「当人が動く程度の事。って言えば納得できます?」

 俺は両手を軽く広げ、片目を細めて面倒くさそうに言った。実際面倒くさいし。

「コレか?」

 オルソさんは木箱を置き、棚の隅に隠す様に置いてあった小さな木箱をこっちに投げてきたので受け取り、中身を確認した。

「はいはいはい。そーですそーです。コレですね。もしかして、製造場所って知ってます?」

 俺は少しニヤニヤしながら少しだけ期待して聞いてみた。

「いや、知らん。うちに流れてきたから、コレ偽物だろ? 俺の店をここまでデカくした奴が誰だか知ってんのか? って言って証拠品として一個だけ奪い取った」

 いやー、なんか申し訳ないっす。

「そうですか。義理に厚く不義理にならないのは助かります。で、本題ですけど、大工ではなく木材加工を専門にしている店と、冒険者ギルドから薬草を買い取っている店、それと油屋を教えて下さい。花屋か香水とか売ってる雑貨屋もありですね」

 俺はニコニコしながらオルソさんに聞くと、すでに準備していたのか弟さんがラックから紙が数枚束になってる物を取り出した。

「おい、こっちにこい」

 オルソさんは俺を睨みながら言い、指をクイクイをやっているので言う通りにして二人の所に向かう。

「あまり大きな声じゃ言えねぇが、個人で買うには流石に多いんじゃね? て事で特徴を覚えてた店主が数名いてな? 全員買ってる奴は違うが、その手の奴に似顔絵を描かせて確認させたが、かなり似てるところまで仕上がってる。持ってけ」

 オルソさんは三人にしか聞こえない声で言い、紙を俺の懐にねじ込んで背中を押された。

 そして振り返ると、顎で行けってな感じで首を斜めに振り上げたので軽く会釈をして外に出た。

 コレはいつもの酒場かなぁ。

「お礼に、後で蜂蜜と蜂蜜酒をもって来ますねー」

 そんな事を出入り口を出る時に言い、酒場の方に向かう。


 ふんふん。オルソさんの所に偽物を持ち込んだ奴。木材、薬草、油を買った奴の四人。偽物を持ち込んだ奴以外はそれぞれローテーションで買い物っと……。容器の瓶や香油はよその町から持ち込みかな? 防壁の荷物検査とかの一覧表とかちーちゃんか町長に言えば見せてもらえるかな?

 カウンターではなく、店の隅の背中に誰も立てない位置で確認をしながら麦酒を飲む。

 人探しはビゾン一味に任せるか? それともアストの人探しの訓練にするか……。

 町で見ないよそ者が、いきなり訓練もなしに怪しまれずに人を探せるか……。各班一人選抜して行動させても目立つな。

「ビゾン一味か……」

 俺は小声で呟き麦酒を飲みきってからカップを置くが、マスターが大きな声で話しかけてこないのは何かを察して気を使ってくれたんだと思う。普段こんな場所に座らないし。

 酒場の外に出て空を見るが、蒸留所の作業が終わるまで体感で三時間。微妙な時間なので夜になったらまた来るとしよう。



「誰だ?」

 俺はビゾンの住んでいる家のドアをノックすると、低く威嚇する様な声で返ってきた。何でだろう? 常に警戒してんのか?

「カームだ。少し仕事を頼みたい」

 そう小声で言うとドアが開き、ビゾンが顔を出して左右を良く見てから招き入れてくれ、テーブルに乗っていた夕飯を端に寄せた。

「食事中に申し訳ない。なるべく早く頼みたくて」

 俺は懐からオルソさんから渡された紙を出し、理由を全て話した。

「ってな訳で、こいつらの居場所を仲間を使って探してもらいたい。もちろん身の安全優先で、危なくなったら逃げても良いし、捕まったら俺の事を全部話しても良い。俺としては知られても相手が警戒するだけだろうし」

 そう言って大銀貨を五枚テーブルの上に置く。人を探させるってこのくらいの金額は動くと思う。興信所とか? しかも部下というか仲間が二十人くらいいるしな。

 現代の興信所で二十人だったら全然足りないだろうけど。ってか前は三十人くらいいたけど、気が付いたらアクアマリンに移住してたしな。

「前回と同じとまでは行かないが、成否は問わない。なにせ貴族様も探しているが見つけられないみたいだし、製造場所を毎回変えているっぽいしな。だから範囲は隣町までで良い。もしかしたら森の中でやっているかもしれないから、その場合は無理して追わなくても良い。平地で森の方に向かってるのに、後ろから付いてきてたら怪しまれるしな」

「そうか……。絶対にこれだけはするな。ってのはあるか?」

 ビゾンが真剣な目で俺を見て言い、端に寄せた夕飯の場所にあったカップを取ってお茶を一口飲んだ。

「手出しはするな、させるな。そういうのは俺達(・・)がする。仲間に怪我はさせるな、自分の命を優先させろと徹底させろ。もし怪我をしたら治療代は俺が負担する」

「そこまでヤバいんか?」

 ビゾンは飲んでいたカップから口を離し、驚きながら聞いてきた。

「いいや。今のところクリームの偽物作りで稼いでいる小者だと思ってる。なにせ作りが雑だからな。似せる気がないし、偽物を高値で売り捌く旨みが貴族にはあまりない。本物の価値が下がるからな。最悪そいつ等は殺されるんじゃないか? 下手に場を荒らしてるし」

 俺は顎に手を当てて答える。作るなら島より低コストで作って貴族連中に高値で売って利益を出すだろうし。

「そうか。明日にでも皆に言っておく。連絡はフルールでいいか?」

「あぁ。それで頼む」

 俺がそう言うと、ビゾンはテーブルに置いてあった大銀貨を指で五回摘んで握ってポケットに突っ込んだ。

 仕事の契約は成ったって事で良いのかな? そう思い、俺は立ち上がってビゾンの家から出た。


 あの後は酒場に行き、少しだけマスターと世間話をする事にした。

「ふーん。やっぱそういうのは出るか。どうせお前の事だ、一党血祭りにするんだろ?」

 俺は麦酒を思い切り吹き出してせき込んだ。あの時カルツァに言った、皆殺しにして帰ってきたってのが広まってるのか? どんな噂か気になる。

今回は(・・・)そこまでしませんよ。警告ですよ警告。偽物を作って儲けてるだけですし、こっちの信用が落ちるから止めろって言うだけです。あと貴族様がお怒りだから、そっちに見つかると殺されるかもしれないからさっさとこの土地から逃げろ。って言うだけですよ」

 俺は投げられたタオルでカウンターを拭き、残っていた麦酒を飲み干す。

「んな事ここで言ってると、蒸留所に火を付けた奴みたいに、トカゲの尻尾みたいに一人が殺された状態で見つかるぞ?」

「んー? それも噂が出回ってるんですか? 怖いなー。行動には気を付けないと」

「怖いのはお前だよ。いったい何したらそんな噂が流れるんだよ。ってか一人だけ犠牲にして、他の奴が全員逃げるってどういう状況だ? このままだと全員殺されるから、犯人として一人だけ犠牲にしたって噂だぞ?」

 マスターがそんな事を言ったら、二つ隣に座っていた奴が盛大に吹き出し、俺の方をチラチラと見ていた。

「あちゃー。マジで噂って怖い。なんでそんな噂が流れてるんだろう?」

「すっとぼけやがって……。まぁいい。お前は良い酒を生み出す酒場の救世主だし、深くは聞かねぇのがこの界隈の暗黙の了解みたいなもんだ」

「そんな奴に、こんな事言えるマスターも中々剛胆ですね」

「お前はお前に何かしない限り優しくて、義理も人情もあるからな。噂を嫌ってコソコソ言ってる奴に、気にいらねぇって当たり散らす様な事はしねぇってわかってる。何かあったら相談しに来いよ、話せる事ならはっきり話すぜ? 一応言えない事は言わないけどな。けどお前は俺の酒場の救世主、それだけは変わらねぇんだからよ!」

 マスターは豪快に笑い、空いたカップを持って行ってしまった。もう帰れって事だろうか? まぁ、一杯だけのつもりだったからいいんだけどさ。

 席を立って店を出る時に、マスターあの人は誰? って聞こえた。せめてさ、俺が店を出てから聞いてほしい。中途半端に聞くと、マスターがなんて答えるか気になるじゃん? まぁ聞こえない振りして帰るけど。



 三日後。昼食後に作業再開まで少し家でのんびりしていたらフルールさんが変化し、ビゾンが話があると言っているらしい。しかも昼休み中だから、さっさと来てくれって感じだ。

 午後は休むとかでも良いと思うんだけど。今度あいつの業務内容でも責任者に聞いて、ある程度自由にさせても良いって言っておこうかな? ってか早いな……。

「偽物の件ね」

「多分そうだろうねー。いやー、あの偽物は酷かった」

 荒事じゃないので別に子供達の前でも話して大丈夫という事になっているので問題ないが、ラッテが言うのには本当に酷いらしい。

 なんか油! って感じでヌルヌルしてるし、布というか服に油染みができるし、多分薬草成分少な目とか、香油じゃなくてラベンダーを直接潰した汁が入ってるんじゃない? とか言っていた。アピスさんもなんか鼻で笑ってたし、偽物を放り投げて返してきたしよっぽど酷かったんだろう。

 ってかラッテは、なんか最近仕草がオッサンやオバチャンっぽいんだよなぁ。今も両腕を組んで目をつぶりながら頭を縦に振ってるし。

「本物を知ってるなら偽物って一発でわかるけど、知らない人からしたら信じちゃうかもしれないのが今のところの問題点だから。ま、見つかっても逃げててもどっちでも良いんだけどね。んじゃ行ってきます」

 俺は残っていた麦茶を飲み干し、子供達を軽く撫でてから立ち上がり、ウルレさんの机に書き置きを残して蒸留所のロフトに転移した。


「こっちだ」

 ビゾンが待っていたのか、ロフトから下りたら速攻で蒸留所の隅に呼ばれた。

「ほら。お前ならこれでわかるはずだ。それと怪我人はなし、朝飯と昼飯の中間ぐらいの時に仲間が見てきたが、相変わらずコソコソ作業していたらしいからさっさと行け」

 ビゾンが折った紙を渡してきて、これ以上は話す事ないって感じでバインダーを持って麦が保管してある倉庫の方に行ってしまった。

 在庫管理もしてんのか? あいつ真面目に働きすぎじゃね? 出会った頃のあいつの面影って口調しかないんだけど? マジで後でビゾンの業務内容聞いてみよう。

 外に出て紙を開くと特徴のある地図が描いてあり、誰でも迷わずに行けそうなくらいわかりやすくなっている。

「んー。こっちはこっちで優秀な奴いすぎじゃね? スカウトしたいけど、もう全員抱え込んだ方が良いんだろうか? まぁ、ビゾンの人柄だろうし、好き勝手させて何かあったら頼むって感じで良いか。ってか地図描ける奴が仲間にいるって事だよな」

 そう呟きながら足早に、描いてある地図の場所に向かう事にする。


「まぁ、灯台もと暗しって奴だよなぁ」

 港から荷物を搬入するのに少し手間がありますよ。って感じのゴチャゴチャした下級区? ギリギリ元スラム? の、少しだけ大きい何かの店舗だった。

 別に殺すつもりはないし、本当に警告だけのつもりなのでそのままドアノブに手をかけるが鍵がかかっている。

 外見は窓に板が打ち付けられてて隙間からはカーテンが閉まってるのが見える。

 動きはわからないって感じだが、竈が使われているのか薄い煙が見える。

 走り書きで、ゴミ捨て場に木くずがない。加工した木材のくずを燃やしている可能性あり。ってあったから、即退去できる様にしているのかも。ってかゴミ漁りまでしてんのか。探偵業として食ってないのに優秀じゃね?

 まぁ仕方ない。あまり乗り気じゃないけど、ここで俺が動かないとアクアマリンに()被害が増えるしなぁ。

「すみませーん。少しお話があるんですけどー」

 俺はドアを叩く様にノックしながら大声を出す。一応強襲じゃない事を印象づけないとね。

 大阪や! はよ開けんかい! とか。開けろ! デト□イト市警だ! とかでも良いけどね。初手で威圧的だと、武器を持ち出す可能性もあるし?

「すみませーん。いるのはわかってるんですよー。開けてもらえませんかねー? お話ししましょうよー」

 ふむ。二回目の声にも反応なしかぁ。帰るわけにも行かないし、人が住んでないボロ家ならいいか。

「最終警告です。コレで開けないなら無理矢理入りますよー。さーん、にー、いーち」

 俺はドアノブの鍵の部分を【散弾】で吹き飛ばし、ドアを蹴破って中に入る。

 本当は蝶番を二ヶ所破壊でも良いけど、ドアの枠とドアが貧弱だからコレでも十分だ。もちろん人の気配とか足音とかがドアの向こうになかったので、人がいないと思いこんでやった。いたらごめんなさい。って奴だ。

「なんだ、いるじゃないですか。いるなら返事して下さいよ」

 俺はため息を吐き、物が最低限しか置いてない微妙に広い空間……。まぁ、地方のコンビニくらい? の場所で五人が作業しており、息を殺してドアの方を見ていたけど、思いの外早くドアが吹き飛んだからか逃げ出せなかったのだろう。

 ドアをガチャガチャしたり、叩いたり蹴ったりしてたら裏口みたいな所から逃げたんだろうけど。

「無人島の魔王! どうしてここが!?」

 オルソさんのくれた似顔絵にない顔の奴が叫んだが、こいつだけ確保すればいいか? あと名前で呼んでくれ。そこまで知ってるならなんで名前を出さないんだ……。

「まぁ、警告です。別に俺は品質を維持して堅実にクリーム作りをしてれば問題ないと思ってたんですけど、うちの職員とここを領地として持ってる貴族様が偽物にお怒りでして。今すぐにでも全て投げ出し、別の貴族が統治する土地に逃げれば見逃してあげますし、逃げられたって事で辻褄は合わせておきます。あ、けどお前には話があるから。逃げ出そうとしたら痛い目を見るから気を付けろよ? 襲いかかってきた奴は敵として処理しますので、判断は慎重にしてくださいね?」

 俺は似顔絵にない奴を指さし、周りには攻撃しないでね? と、優しく警告しておいた。

「はいはいはい、逃げたい奴は逃げろ逃げろー。今なら痛い思いしないでここから出られるぞー」

 俺はドアが見える様に横に移動して手を叩いて逃げろと促すが、全員小脇に置いておいた武器を手に持った。

 いけない薬を密造してる現場に踏み込んだ、映画のワンシーンみたいだな。

「えーっと。逃げない……で良いんですね? 俺としては逃げて欲しかったんだけどなぁ……」

 俺は眉間に皺を寄せ、頭に手を置いてつぶやく。

 わかりやすくため息を吐いたら隙だと思われたのか襲いかかってきたので、マグカップに入った【熱湯】を振り撒く感じで発動させ、全員にチャパチャパと当たると叫び声を上げて床を転がっている。

 全員で一杯分だけど、少しかかっても熱いし仕方ないよなぁ。あ、慌てて服を脱いでる。

「さて。とりあえず全員敵って事で処理します」

 全員の顔に気圧の壁を作って酸欠で気絶させ、木材を買った時に使われていたであろう縄で全員動けない様に縛り、もう一度ため息を吐く。

「昼間に堂々と来て、戦う意志がないって言っても結局こうなるのか……」

 少しだけ愚痴を漏らし、急いで蒸留所に行ってビゾンを借り、仲間を呼んで見張っててもらう。

 その間にカルツァの屋敷に転移し、訳を話してビゾンの地図を渡して私兵を二人借りて転移をしようと思ったが、いきなり私も連れて行きなさいと吠えたので仕方なく同行させる。


「ってな訳で実行犯と現場です。好きにして下さい。あ、コレ似顔絵です。あいつの似顔絵だけないので指示役だと思うので、背後関係の調査はお任せします」

「助かるわ。お前、今すぐにこの町に配備させてる部下を連れてきなさい! お前は衛兵に手を出すなと圧をかけてきなさい!」

 連れてきた部下二人に指示を出し、その辺にあった椅子に座って足を組んだ。部下二人しか連れてきてないのに、一人になって平気なんだろうか? 一応信頼されてる?

「今回も世話になったわね。何かお礼しなきゃいけないわね……」

「いえいえ。それとお礼でしたら人員に使った分の大銀貨六枚(・・)で良いですよ」

 ビゾンがなんか変な顔をしているが、今のところ無視する。

「ふーん。高くない?」

「そこにいる彼が今回の功労者ですが、部下が二十人くらいいるので総動員させるのにそのくらい使いました。一人銀貨三枚くらいって考えるなら安いのでは?」

 一応名前は出さないでおく。何があるかわからないし。

「……数があるのは便利ね。動き回っても怪しまれない、現地に住んでるならず者()貴方は使えるのね」

「ははっ、見た目はワルっぽいですが彼は勤勉です。……ならず者ってのは取り消せよ(・・・・・)

 少しだけ睨み、語気を強めるとカルツァが口を半開きにさせたまま固まった。ビゾンも少しだけ表情を強張らせている。

「別に俺に対して何言ってもある程度は気にしませんけど、それは違うんじゃないですかねぇ? 二人は初対面だよな? 貴族ってのはその辺の教育どうなってんだ? 明らかにソレっぽい奴には貶して良いって貴族の両親や教育係に教わってるんか? それとも母親の腹の中に礼儀とか常識を忘れて来たんか?」

 俺は腕を組みながら睨み、つま先で床をガツガツ鳴らした。

「……申し訳なかったわ」

 カルツァはビゾンとその仲間達に向かって頭を下げた。珍しく素直だな。

 アレか? 地下拷問室で不機嫌になって似た様な態度を取ったからだろうか? あ、少しイライラしてるって思われたかも。今後カルツァに対して何かあったら使おう。

「気にしてねぇ」

 ビゾンは腕を組んだままそう言い、本当に気にしてない感じで言ったので助かった。へそを曲げられたら今後の関係にも関わるしな。

「そう言ってくれるなら助かるわ。じゃ、今お礼をするわ」

 カルツァはそう言って胸の谷間から布袋を取り出し、中から数枚だけお金を抜き取り俺に袋の方を投げてきた。

 うーん。パンツスタイルのポケットはラインとか崩れるから、そこに財布入れてるの? マジで? ってなるわ。実際に胸の谷間を有効活用してる人を始めて見たわ。ってか普段からそこに財布入れてるの? しかも大銀貨六枚が即座に払えるくらい常に持ち歩いてる? 大銀貨十枚くらい入ってる?

「失礼ですが確認させていただきます……。確かに」

 俺は袋の中を確認し、大銀貨が六枚あることを確認し返事をした。

 その時カルツァの部下が帰ってきたので、俺達は帰らせてもらう事にする。

「んじゃ、後は任せます」

 ビゾン達に見える様に親指でドアの方を指し、外に出る事にする。


「よし、特別ボーナスだ」

 少しだけ歩き、俺は布袋を逆さに持ち上げ全ての大銀貨を出した事を見させて、現物を手の平の上で見せ、その中から一枚だけ取ってビゾンに渡した。

「おい、良いのかよ」

「いいのいいの。俺は懐が痛まないし偽物作ってる奴がいなくなった。ビゾンは仕事を成功させて特別ボーナスか、成功報酬上乗せ。あの貴族は人員の多さと一人に対しての値段に納得して、目の前のやっかい事が解決した。どこに問題があるんだ?」

 俺はニヤニヤしながら黙っておけよ? って感じで人差し指を立て口に当て、大銀貨を布袋に戻してポケットに入れて蒸留所の方に向かう。

「ま、そのお金は分けても良いし、自分の懐に入れても良い。助かったよ、ありがとう。次があったらまた頼むからその時はよろしく。あぁ、部下にどこまで話すかは任せるよ、今回はヤバい問題事じゃないから全部でも良いし。まぁ、そこに部下がいるからそこから漏れそうだけど」

「わかった、とりあえずこれは受け取っておく。それとお前は蒸留所の偉い奴に顔は利くか? 俺が抜け出した理由をきっちり説明してくれ。抜けた事で怒られるからな」

「え? あぁ、わかった。時々こんな事があるだろうから、ある程度融通を聞いてやってくれって言っておく」

 マジで? ビゾンって蒸留所でどのくらい下なんだ? もしかしてまだ日雇い枠で働いてんの? 夜に鍵を預かって警備までしてんのに? もしかして、バイトリーダーくらいの位置づけなのか?

 こりゃウルレさんと蒸留所の人を交えて、しっかり話し合わないと不味いな。


ここまでビゾンを活躍させるつもりはなかったので、なんだかんだで容姿の描写をしていないんですよね。

もうこのまま描写しなくても良いんじゃね? って気もします。前に後書きで書いた気もしますが、彼は名前からして牛系の獣人です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
ビゾン…そうか、野牛なのか …野牛真影流とかの組織の長になったりして(強引)
問題解決したら宴会かな?姐さん出番が楽しみやなあ。秋の名月ニュース見てたら、姐さんが一発芸で逆立ち、カーム君にあたしこの惑星持ってる、月にめがげ投げてていい?なシーンが浮かんだ。洒落ならんギャグな。更…
ビゾン2周回って好きになる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ