第311話 子供達の誕生日プレゼントを考えた時の事
冒険者達がマントを買ってから十五日。そろそろ収穫祭か? と思いつつ、俺の考えたその辺でつまめる植物の種の草案が通らずにがっかりしていた。主な理由としては、増やすのに数年単位だったり一年草だったりで、やるならきっちり畑を作って育てないとって事になり、しばらくは個人で管理して増やすことになった。
帯化させて種の部分とか増やしても良さそうだけど、わざわざ帯化にしてと頼むのは失礼だと思うし、その分少し多く植えれば良い話なので森に近い小さい畑で増やすことにした。
「カーム。貴族様が放火の件で話があるってさー。来れるなら今すぐにでも来いって。むしろさっさと来いって言ってるわ」
「……今から行くと伝えてください。あー、やっぱり耳に入るよなぁー。ってかもうちょっと早いと思ったけど」
第一村の物資集積所というか、レンガ作りの倉庫に使うレンガの数の見積もりやら木材やら工程を練っていたけど、キリが良いところでメモに箇条書きしてから立ち上がる。
「ウルレさん。例の件で貴族様から呼び出しが来ました。ちょっと行ってきますね」
「はい。ってか今回は遅かったですね。全員さらった時は十日くらいだったのに」
ウルレさんは顔を上げ、眉間に皺を寄せて首を傾げている。
「ほら、そのまま放置してきましたし? 近隣から異臭がするって事で問題になって、認識してるアジトの一つって事で報告が入ったんでしょう」
「あー。その線が一番しっくりしますね。では、今回は話ができないほど殺気がムンムンじゃないでしょうし、しっかり話し合ってきてください」
「ははは、あの時は……。まぁ……ちょっとね?」
俺は話しを濁し、転移するために執務室の中央に立った。
「今回は全面的に自分が悪いので、答えられる限り答えます」
カルツァの屋敷前に転移し、メイドさんの案内で執務室に通され、ソファに座らずに立ったまま言った。
「良いから座りなさい。今更そんな対応されても、反省してない事くらいはわかってるわ。先に向こうが手を出したから、こっちは悪くないって思ってるでしょ?」
「はい……」
カルツァにソファを指さされ、仕方なく座る事にする。
ってか、俺ってそんなに反省してない? 反省はちゃんとできるけど? むしろ先に手を出してきたのは向こうだけど? あ、カルツァの言ってる事当たってるわ。
「で、どういう経緯なの?」
俺は当日の小火騒ぎの事から始め、姐さんやドワーフの事や蹂躙が始まる可能性、種族間での戦争勃発の懸念、大魔王様の部下に処理の確認を取った事、狼を使って場所を特定したところで目が合い、夜中に行ったらもぬけの殻だった事を丁寧に話した。
「……感謝するわ。確かにそうね。竜族やドワーフ族は、酒が絡むとやばいわね」
カルツァは口に手を当て、姐さんの事を思い出したのか視線が泳いで落ち着かない様子だ。
名前を出しただけでこの様子じゃ、心の傷は相当やばい感じだな。
「箝口令とか無理ですし、実際に噂が広まって数日後に島に来た船乗りが島民に聞いたんでしょうね。うちのドワーフが夕方に怒鳴り込んできましたよ? なんとかなだめましたけど」
「そう……。それが種族全体で動く可能性があったと。現に暴動からの更地になるところだったのね……」
カルツァが頭を抱え、頭をかきむしって髪を乱した。
「ちょっと時間をちょうだい。今回の事はいくら何でも見逃せないわ。飼い主に腹を割って話してくるわ」
「別にかまいませんけど、種族全体が動く事は絶対に避けてくださいね。そうなると多分俺も国王様に怒られそうなので。どうしても無理だった場合、こちらに火の粉が降りかかるって事で俺も動きますので、その時は表向きの大義名分は用意しておいてください」
俺はお茶を飲みながらサラッと言い、頭の中でどう動こうか考える。
アストの実践経験を積ませたいけど、正直どのくらい通じるのか不明だし、移動の手間とかそこに転移できるかも重要だ。
もういいや、島と近隣の大陸の街だけで。
話し合いの最中に騒ぎを起こすことなく全て制圧し、いきなりドアから入ってきて全員処理しました。って感じで立場逆転とか憧れるけどガラじゃねぇし。もうプランBでいいや。
「貴方は話し合いに参加しないの? ほぼ当事者でしょうに」
「腹のさぐり合いとか駆け引きが苦手なので。行くと纏まる話も多分纏まりませんし、攻撃されたら多分反撃するので殺し合いになるんじゃないんですか? 人族の王都の時みたいに。実際に殺しちゃえば問題解決じゃね? みたいな考えの奴は一定数いますし? 常日頃暴力で解決してる奴は、多分そう動くでしょうし」
暴力での支配とかも、一定数の成果も上がるしな。血の気の多い奴なんかその手しか知らなそうだしなぁ。
「あいつは多分そういう事はしないわよ? 多分部下の暴走でしょうね。大きい組織って、部下が自分の判断で勝手に動く事があるから」
「小さい島で良かったですよ……。教育が行き届くって素晴らしい」
「最悪、あの町にいる自称実行犯全員の首かしら? 貴方に顔は割れてないみたいだし」
「首の使い道なんかないし、それなりの誠意で来てくれれば許すんだけどなー」
そんな感じでなんかダラダラしてきたので話を切り上げ、何かあったらお互いに連絡するって事になった。
「報告だけでなんでこんなに疲れるんだろう……」
俺はウルレさんとパーラーさんの三人でお茶を飲み、何となく言った。
「主に貴族と話をするのと、竜族への気遣いでしょうね。クラーテルさんをおこ――」
「それ以上は!」
俺はウルレさんの言葉を遮ると、口を押さえて辺りを見回している。あの人って、執務室の裏口からでも聞こえるから無意味だけど。
「申し訳ありません……」
「いえ。多分聞かれてる時は、裏口からでも聞かれてて笑顔でドアからでしょうし、今来ないなら平気でしょう」
そして二人でお茶を飲み、パーラーさんも何となく笑顔が硬かった。本当どこから出てくるかわからないしなぁ。
「けどなぁ……。収穫祭でサラッと聞かれそうで怖いんだよなぁ。その時は祈ってください、俺が死なない様に」
「カームさんの近くで飲まないようにします」
「ハーデといるので、気が付いたら離れます」
「っすよねぇ。さっさと飲んで安全な場所にでもいてください。最悪全部吐いて生き残ります」
そんな事を話しながら、未だに犬耳のオッサンがハーデって思い出すまでに時間がかかることを、心の中で苦笑いしておく。
□
「ただいまー」
仕事を終わらせて家に帰ると、スズランが俺がたまに使っている工作道具を置いてある部屋から出てきた。なんか白い粉をパラパラと落としながら。
「おかえり」
「……珍しく何か作業中みたいだけど、何かしてたの?」
「ん? 池のお姉さんから前に教わった、骨を使ったアクセサリー作り?」
「なんで疑問系なのかわからないけど、珍しい事してるね」
「洗い物してる時に急に思い出しちゃって」
「そうっすか」
「そうっす」
ってか、ここで粉を払わないで……。コルキスがハイハイ始めてるんだから。
「ラッテは?」
「子供達とお昼寝」
うーん。こっちも珍しいなぁ。疲れでも溜まってるんだろうか?
そう思いながら寝室の方を覗くと、両隣に子供達を置き、幸せそうな顔で涎を垂らしていた。
「寝かせておこっか」
「そうね。夕食は焼くだけになってるからお願いして良い? 私は道具とか片づけてくるから」
「はーい。任せて」
返事をしてボウルを見ると分厚い豚肉が香辛料に漬けてあり、本当に焼くだけになっていたので竈に細い薪をつっこんで火を付け、別な鍋を見ると子供達の離乳食もできていたので、やる事は全て終わらせてから黙々と作業していたらしい。
「いただきまーす。はーい、コルキスあーん」
俺はいつも通りコルキスを抱き、先に離乳食を食べさせるがモリモリ食べてくれるので、笑顔で口元にスプーンを持って行く。
「んー。そろそろ自分で食べてみるかい?」
「まだ早いんじゃなーい? 産まれてから季節が一巡してからでも良いと思うんだけど」
「コルキスは成長が早いから、少しくらい早くても良いと思う」
スズランとラッテはお互いに首を傾げているが、俺も成長が早いし床に座れるから良いと思って言ったんだけどね。
「そういえばさ、スズランちゃん何作ってるの? 倉庫から飛竜の骨引っ張り出してきたよね?」
ん? 姐さんが持ってきた飛竜の肉に付いてた骨? 気が付いたらなくなってたから、ヴォルフにあげたのかと思ってた。
「池のお姉さんが、骨で作ったアクセサリー付けてたでしょ? それ」
「首から下げてたり、腕に巻いてた奴だねー。あれって骨だったんだ」
「そうみたい。サメっていう魚の歯と、クジラっていう凄く大きな魚の骨で作ったって言ってたわ」
うーん。クジラは哺乳類だけど、この世界じゃまだ魚って認識なのかなぁ。サメは骨殆どないから歯ってのはわかるけど……。池で養魚してたお姉さんって海の方の出身だったのか……。そういえば付けてたっけ?
「この島の周辺じゃどっちも見ないなぁ……。サメって危険な奴は人も襲うし、ガウリさん達が追い払ってくれてるのかな?」
俺はコルキスのスプーンを持ったまま少し考え、そういえばと思っていたら胸の辺りをベチベチ叩かれた。
「あーごめんごめん。今あげるからねー」
そんなやりとりを二人は見ていたのか、ニコニコとしていた。
「カーム君って色々作れるけど、そういうのはあまりやらないよねー。なんで?」
「前に木彫りの熊を作ろうと思ったけど、犬だか猫だかわからない物体になったから、竈にぶち込んでからそういうのはやってないね。単純なものならできるんだけどねぇ……」
俺はコルキスに離乳食を食べさせながら答え、癖になってる食後のコルキスの背中を叩く。
「だからかー。ガラス玉とかで色々やってたから、彫刻も行けると思ってた」
「薄いし、削るだけだから私は行けると思う。少し待ってて、ちょっと持ってくる」
スズランはフォークに刺していた肉をしっかり食べ、工作道具が置いてある部屋に向かった。
そこは食べずに置いてから行って欲しかったけど、刺してある肉を口に入れてから行くのがスズランだよなぁ。
「これ。骨は中が空洞だから、輪切りにしてここの直線で太いところだけ使うの。で、これがデザイン」
スズランが紙を出してきたけど、鉈の様な物と輪っかの様な物だった。
ボーンカービングなんだろうけど、釣り針の様な生前でよく見た物ではないのは、何か意味があるんだろう。
「刃物は強さの象徴。輪は人との繋がり。って言ってた気がする。だからコルキスには刃物。メルには輪。似合うと思う。これを産まれてから季節が一巡した時にあげようと思う」
「んー。確かにイチイさんを見てると筋肉モリモリーって感じだから良いと思うけど、メルちゃんに人の繋がりってなんか怖いなー。ハーレム作りそう」
ラッテさん? 自分の娘だからって、言いたい放題じゃないっすか?
「作らせればいいんじゃない? それも一種の生存方法だし」
「んー。確かにそうだけどさー? 半分夢魔族だし? 洒落にならない気がする……」
ラッテは眉間の皺に指を置き、複雑な表情になっている。島民の同世代の男の殆どが兄弟になったら嫌だな。
「ま、いいか。なったらなったでセレッソさんに預けよう!」
未来の自分に放り投げたな……。
「どうなるかわからないのに心配しすぎだね。セレッソさんは最後の手段だからね? ねーメルー?」
ご飯を食べ終わらせたコルキスを床に置き、好きに動き回っているのを危険がないか目で追いながらメルにご飯をあげる。
「うー」
俺と同じ赤い目でこちらを見ながら何か言いたそうにしているけど、コルキスの様に何かを主張する事はまだ少ないが、確かに親としては心配だなぁ。
十人くらいから、お義父さんとか言われたくはないよ?
「でね、この骨ってスカスカに見えて固いから削り辛くて。彫刻刀の持ち手の部分が折れちゃった」
「え? 持つ方が折れるの? 刃が欠けるとかじゃなくて?」
「刃はヴァンに打ってもらったからかなり頑丈。けど持ち手が普通の木だから」
「んー? すっげぇ気になるから見せて」
そう言うとスズランは頭を縦に振り、無言で彫刻刀を持ってきてくれた。
「あー、こういう……。これで持ち手が折れるって凄い硬いんだなぁ」
刃は三十五度程度で付いており、刃を上に向けて押すようにして細かい場所を掘ったりできるタイプだった。
「俺も産まれてから季節が一巡した時のプレゼントを何か用意した方が良いんかなぁ……」
メルの口にスプーンを持って行き、いつもの様にご飯をあげるが食べなくなったのでヴォルフが伏せていた横に座らせ、ついでに頭を撫でておく。
「リリーとミエルになにもあげてなかったでしょ? いつもよりおいしいご飯で良いと思う」
「そーそー。変に気にしなくていいんじゃない?」
「んー。将来何になりたいかで決めるかー。二人にはその頃にミスリル装備あげたし。大魔王様にもらったチーズがまだ残ってるから、それで美味しいもの作ってあげるからねー」
「え? アレって魔王様からもらったの?」
そう言ったら、スズランが珍しく肉を食べていた手を止めて真顔でこっちを見ていた。
やっべ、言ってなかったっけ……。
「あー、うん。実は……」
「魔王様が食べてる物だから、あんなに美味しかったんだー。なら納得ー」
「お返し物とか考えてたけど、そうなると逆に失礼になる? 下賜って思った方が良い? よくわからない」
いやースズランさん。貴女から下賜って言葉が出るとか、そっちの方が俺は驚くよ。実際村を離れてた時期があるから、卒業後に誰から何を学んだとか俺は知らないし。
「いや、アレは色々こみこみのお礼で貰ったものだから。だから返さなくて良い奴だから」
「てかカーム君って、魔王様と繋がりけっこうあるんだねー。魔王になった時に呼ばれただけかと思ってた」
「まぁ、心配させたくないからね? そういうどうでも良い呼び出しとかは黙ってたんだ、ごめんね。で、子供が産まれたのか? 妻子共々息災でな。って実は魔王様から言われてるから、大きくなったら言おうって思ってたんだよ」
本当は王様と兼務だけど、別だって言ってた方が良いよな。あと妻子って言ってなかった気がする。
「ありがたい言葉ね。大きい怪我とか病気がない様に元気に育ってね」
スズランはコルキスを抱き上げ、笑顔で頭を撫でている。
「そういう事話せる間柄なのも凄いよねー。何かあったら頼っちゃえば?」
「後が怖いから最後の手段ね。だって剣を抜くところが見えないし、気が付いたら喉元に突きつけられてたし」
「どういう状況だったの? 喉元に剣ってよっぽどの事よ?」
「え。何それ怖い」
二人は一気に不安な顔になったが、今じゃ気の良いにーちゃん的な存在だし誤魔化しておこう。
「転移魔法の大きいの教えてください。って時だったかな? それで何するつもりだ、どこかに多人数で乗り込むつもりか? って。牛を運びたいだけですって言ったら滅茶苦茶笑われたけど」
そう言ったら二人は安心したのか、小さなため息を吐いた。
「で、面白い奴って認識になって、ジャイアントモスの布とか売ってくれとか、少し知恵を貸せって感じになって、お礼にチーズだよ」
うん。上手く誤魔化せたと思う。本当はもっと色々あるけど。ってか靴ペロとかカルツァを椅子にしてたとか言えないって。
「もうそれ友達の一歩手前じゃん。凄いよカーム君!」
ラッテが興奮気味に言ってるし、スズランもうなずいている。確かに友達一歩手前な扱いかもしれない。だって一緒に酒飲んだし、酒注がれたし。注いでないけど。
「そうかも? ま、悪い事してなければ、近所にいる様な気の良いにーちゃんって感じの人だからなぁ。俺からしてみたら怖いって言うより、頼りになる人だし? 何も心配する事は何もないよ」
子供の事とか一切俺から言ってないし、新築した事務所の執務室に転移してくる程度には向こうがこっちを知っているのがかなり怖いけどね。
キースやルッシュさんが言ってなければ、だいたい今言った事の辻褄は合うし。




