第307話 やっぱり飲み会になった時の事
お久しぶりです。
前回の投稿が2019年12月13日と約四年半も開いてしまっています。
数回ほど読み返しましたが、キャラクターの性格や口調、設定に少し違いがあるかもしれません。
本当に長々と休み、申し訳ありませんでした。
常夏だからわからないけど、故郷ではそろそろ秋になる。
コルキスがなんか色々吹っ飛ばしてハイハイをするようになり、メルは順調に? まぁ、普通に成長している。
コルキスは気が付いたら寝返りをしたり、なんか座ってたし。メルは寝返りをして、ヴォルフが振っている尻尾を大人しく目で追っている。
「……ねぇ? リリーの時は、普通の子供と同じ様な感じだったって記憶してるけど、コルキスやっぱりおかしくない?」
「あー!」
俺はハイハイをしていたコルキスを抱き上げ、スズランとラッテに聞くが、好きにさせてくれと言わんばかりに腕の中で暴れている。
「うーん。種族の違い? けどリリーちゃんはミエル君と同じように育ってたし? 他の子供はあまり知らないしなー。プリムラちゃんとかレーィカちゃんしか知らないよ? それでも同じくらいだったような?」
「ペルナも同じだった気がする。お父さんは本人だから無理かもしれないけど、お母さんに聞いた方が確実。故郷にいた頃は、多分他の子供も見てるから、男と女の違いは教えてくれると思う」
スズランがメルを抱き、背中をポンポンと叩きながらあやしている。今のところ情報を手に入れられる場所はそこしかないのは確かだ。
「んー。ま、今度戻った時にでも聞いてみるよ。ってか元気良すぎて、その内俺の腕から逃げ出しそうで怖いんだけど?」
さっさと下ろしてくれ。ハイハイして好きに動きたいんだ! 感が強い。
「その時は、落とさないようにしてね?」
「私に抱かれる時は大人しいんだけどねー。コルキスくーん。ママの所においでー」
「あーぃ!」
ラッテが両手を出したのでコルキスを預けると、確かに暴れずに大人しくしている。たしか人見知りする時期もあるらしいし、確実に個人を把握している気がする。
「親として泣きたいんだけど……」
「その時は慰めてあげる。メルはカームの事結構好きだと思うの」
いや、スズランさん? 貴女の慰める方法はベッドが多いんですが? しかもラッテも確実に乱入してくるタイプの奴だし。
「んー。鬼神族の男の子。夢魔族の女の子。ここまで違うのかと思うと、リリーとミエルを育ててきた経験が活きないなぁ。ま、どうにかなるかー」
俺は足下に寄ってきたヴォルフの頭を撫で、笑顔で子供達を抱いた二人を見守った。
◇
翌日の昼過ぎ。俺は開拓や建築を終わらせた第三村にヴァンさんとレンガ積みの上手い人族と一緒に転移し、蒸留所の最終確認を済ませる。
レンガ詰みの上手い人族が、俺が少し第三村に別件で通わなかった時に既に竈を完成させていて、あわててヴァンさんに声をかけて職人を育成しながら、第一村より小さい蒸留所を完成させたし……。
「おし! 手順は覚えてんな! 始めろ!」
「「「うっす!」」」
トローさんのかけ声と共に、蒸留所で働く人達の活気のある声で空気が震えた。最終確認は問題なかった
「ここは相変わらず元気がいいな」
「そうですね。今まで自分達で酒を作ってましたから、島全体の酒を造るって事で責任感が生まれたのも良い傾向ですね」
俺とヴァンさんは少し離れた所で酒作りを見ながらそんな会話をし、既にアルコール化している液体を蒸留機に入れている所を見ている。
「平気そうだな」
「えぇ、そうですね。今日作った酒が、全部なくなるかもしれない事を除けばですが……」
蒸留機からはチョロチョロと透明な液体が出始めている。これは飲めないので破棄する予定だけど、いつの間にか俺の横に立っていたピンク色の髪のニコニコしている女性は、手に空のジョッキを持っている。
「今日はお祭りしないの?」
「しません。完成はしましたけど、ここの村はちょこちょこ飲み会をしているんで、多分このまま飲み会が始まります」
姐さんは俺の肩に肘を置き、ジョッキを前に出して指でさしているので【氷】を山になるまで入れてあげたら、そのまま出てきているラムをジョッキに注ぎに行った。
「クラーテルは相変わらずだな。どれ、俺もできたてを……っと」
ヴァンさんは第三村に来る時から持っていた、多分自作のピッカピカに磨かれている銅のジョッキを持って、ニヤニヤしながら酒を注ぎに行った。
完成式典とかやってたら姐さんに良い笑顔で圧力をかけられそうなので、トローさんと話し合いの結果、結局はやらない事になった。
「えー。皆さん、酒は持ってますね? 乾杯の挨拶? んなもんありません。皆好きなだけ飲め! カンパーイ!」
一応確認してからヤケクソ気味に音頭を取り、一気にラムを飲み干した。
「うーむ。あんまり強い酒は好きじゃないんだが……」
レンガ積みの上手い人族の青年がそう呟いたので、臨時で作ったバーカウンター的な場所で、笑顔で立っているマイスさんの方を指さす。
「あの方に言えば、飲みやすいお酒を出してくれますよ。ここの竈を一人で積み上げた様なもんですし、多少わがまま言っても誰も文句は言いませんよ。マイスさん、この方に少し弱めのモヒートを」
俺は少し大きめな声を出し、マイスさんの方へ背中を押して案内してあげた。
「甘いのは大丈夫ですか? コーヒーを飲む時、どのくらい砂糖を入れますか?」
「一つだ」
「かしこまりました。砂糖を減らしてジンジャービアを入れ、少し辛口にしてみましょう」
言葉使いの矯正も済み。祭りっぽい事があれば連れ出して酒を作らせてたが、本当にソレっぽくなって俺は嬉しいよ。しかも好みっぽい物を聞いて、多少アレンジもやってくれるし。しかも独自に果物を漬け込んで、果実酒っぽい物を結構作ってるし。
しかも魔法で氷も出せるし、俺が炭酸水を出して鍋とか瓶に溜めておけばモヒートも作れるし。
そろそろ第一村の交易所近くにバーを建てて、島に来る人に売っても良いかもしれない。
ってか、良くもまぁ姐さんに酒を奪われないよなぁ……。とりあえず何でも飲みそうだから、果実酒なんか全種類ジョッキで一杯くらい飲まれそうなのに。
「おぉ美味い。これならスルスルと入っていくし、鼻から抜ける酒のきつさもない」
「ありがとうございます。空になったら声をおかけ下さい。カームさん。ベリル酒そのまま、そしてただの水でしたよね?」
「いや、今日はラムで。あそこから汲んでくるから俺に気を使わないで良いよ」
うん。好みを覚えてくれてるのは良いんだけど、こんな日にそんな無粋な事はできないね。
「かしこまりました。ではこちらをどうぞ」
マイスさんは笑顔で空のジョッキを出してきた。うん、そういう気遣いはいらないかな?
「ははは、手に持ってるグラスで良いかなー?」
「そうですか。では……」
なんでそんな悲しい顔をするんだ? 俺の事何だと思ってんだ?
「じゃ、俺は隅の方で酒好きに絡まれないようにダラダラしてるから、何かあったら声をかけて下さい」
俺はラム酒を汲み、【氷】をグラスに落として壁にもたれ掛かり、蒸留所内を見回す事にする。
「おいカーム! そんな壁際に立ってねぇでこっちに来い!」
グラスの酒を半分くらいチビチビ飲んでいたら、ヴァンさんが大声を出して俺を呼んでいる。
「……うっす」
現在進行形で見たくない物が見えているが、名のある方々が勢ぞろいしているので行くしかないんだよなぁ。
「またアレっすか? 酔えないからやりたくないんですけど? 酔えない奴とテーブル囲んで楽しいんっすか?」
前に第三村でやった、メキシコのテキーラ一気飲み勝負を開催するらしく、テーブルにはヴァンさんと姐さん、トローさんが席に着いていた。
「ってか、この中で負けるのはトローさんだけですよ?」
「なぁに、コレは盛り上げるための口実よ。俺達がどんどん飲めば、周りも気持ちよく飲めんだろ?」
「いや。ただ単に浴びるように飲みたいだけに聞こえるんですが?」
「カームちゃん、そんな無粋な事をただでお酒が飲める日に言っちゃ駄目よ? お姉さん悲しくなっちゃうわー」
「いやいやいや、そんなニコニコしながら言われても説得力ないですから。ってかトローさんは良いんですか? 絶対に勝てませんよ? ってか最下位決定ですよ?」
この中で、多分一番弱いであろうトローさんに確認をとる。こんな化け物みたいな奴と勝負するとか、魔物と戦って死んでこいと言われてるようなもんだし。
「問題ねぇ。自分の最高記録を塗り替えるのが目的だからな」
駄目だコレ。何言っても止めない奴だ。
「はいはい。んじゃ、死なないでくださいよ」
俺はため息を吐きながら席に着き、用意されていたグラスを手に持った。
「じゃ始めるぞ。いーち!」
既に一杯目は注がれていたので一気にグラスを空にし、用意されていたライムをかじった。
別にテキーラじゃないし、レモンじゃないと駄目ってルールもないのでありがたくいただいた。
そして塩もあるので、二杯目を注がれた時点で左手の親指の付け根辺りに乗せて、合図と共に一気飲みして舌先でほんの少し塩を舐めて右手でライムを掴んでかじる。
「お? おもしれぇ飲み方だな。右手は果物で塗れてるし酒を飲む。かといっていちいち毎回摘むのもじれってぇ。そうなるとそういう飲み方になるんだな」
「まぁ、ちょっとしたお洒落な飲み方って言うより、のんべぇの飲み方ですよ。ま、ドワーフ族は酒が薄まるとか言って、果物の汁すら使わないんだからこういう飲み方はやらないですよね?」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。おもしろそうな酒の飲み方があれば、マネするのがドワーフ族だ。俺にとっちゃコレは飲み比べじゃなくて、ただの飲み会だ」
ヴァンさんはそう言いながら、肉をモシャモシャして二杯目の合図を待たずに飲んだ。
「そうそう、コレは飲み会よー」
姐さんもそれに釣られて飲み、仕方がないので俺も二杯目を空にしたら、トローさんの目がひくついている。
合図前に原酒を水みたいに飲んだら、普通の人はこうなるよな。
「っしゃー! 俺達もやるぞ!」
「「「「おー!」」」」
そして運び込まれたテーブルに十人くらい着き、飲み比べを始めたらしい。
「盛り上がってきましたねぇ。第三村はコレが売りですからねぇ。今日くらいは気にしないで飲んで、明日は休みにしても良いですよ?」
「……お、おう。てめーら! 明日は休みにすっから、どんどん飲みやがれ!」
「「「うおーーー!」」」
トローさんの声で皆が大喜びし、据わった目のトローさんが二杯目のグラスを空けてテーブルに軽く叩きつけた。
どうやら覚悟を決めさせてしまったらしい。ヤバそうなら大量に水を飲ませて吐かせよう。マジで。
「おうおう、良い村長じゃねぇか。酒飲ませるのに明日休みとかよ」
「そうねー。明日が休みってわかってれば、気にしないで飲めるもの」
「あぁ、俺は良い村長だ!」
さらに煽られ、トローさんは塩を摘んで口に入れ、ライムをかじって力こぶを作ると歓声に包まれた。
うーん。村長なら少し抑えて注意とかして欲しいけど、まぁ第三村だし。で、諦めよう。
□
「止めます? ぜってー次飲んだら吐きますよ? ソレ」
「ま、まだ行けるぅ」
トローさんは三十五杯目を飲み終わらせ、白目を剥きそうなギリギリのところで踏みとどまり、口を開けて手に持ったライムを握って無理矢理果汁を絞り出そうとしているが、ソレは俺が口に入れて積んでおいた絞りかすなんだよなぁ……。
「お? 若けぇのもう終わりか? 根性見せろ! その先に行かねぇとドワーフの村に行っても子供にすら勝てねぇぞ! 頑張れ! 空けろ! ホレ!」
「お、おうよ!」
「はーい、三十六杯目よー」
「ヴァンさん煽んないで! 姐さん注がないで!」
トローさんは握ったグラスを放さないでいるが、多分放したら握れないって思ってるんだろうけど、姐さんからしてみればまだ飲めるって判断なんだろうなぁ……。
酒好きな種族ってなだけで、こうも考え方の違いが出るんだなー。ってか、ドワーフの子供はトローさんより飲むのかよ……。
「おぉぉぉーーーー!」
そしてトローさんが叫び、気合いを入れて注がれた酒を一気に飲んでそのまま後ろに倒れた。
まぁ、俺が知ってるのは三十一杯目を飲み干して、口からキラキラした虹を吐き出しながらぶっ倒れたから、自己ベストは更新だろ。そもそも気合いを入れて飲もうって時点で駄目だ。
「っしゃ! その粋だ! 良し!」
「よくねぇっすから! 水飲ませて吐かせろ!」
俺は急いでピッチャーを持ってトローさんに駆け寄り、鼻を摘んで口に水を流し込んで後ろから抱えるようにしてお腹を圧迫し、とりあえず虹を作った。
「おい! 水飲ませて横向きに寝かせて見張り一人付けろ! 最悪死ぬぞ!」
あれ? 前にもこのやりとりと介護したな?
「平気よー。その辺に転がしておけばその内起きるわよ」
「だな。酔いが醒める。ほら、さっさと席に戻れよカーム」
「いやいやいや。見張りが付くまで無理ですって。マジでゲロで溺れて死にますからね? ってかここまで飲んだら自殺だから!」
そしてイセリアさんが騒ぎを聞きつけたのか、蒸留所の奥の方から島に逃げ込んできたハンディーキャップ持ちの方達の席から走ってきた。
走って来れる時点で酔ってないか、強いかのどっちかだけど……。
「んー。いつも倒れるまで飲んじゃ駄目って言ってたのに。やっちゃったんですね」
イセリアさんは横になってるトローさんの近くに膝をついてしゃがみ、顔に手を置いて悲しそうに言った。
「申し訳ありません。俺が途中で止めなかったばかりに……」
「いえ、多分誰が言っても同じでしょうし、気にしないで下さい。村長として初めての大きな節目でしたし、気が大きくなっていたんでしょう」
あー、そういや最近忙しそうに気張ってたしな。仕方な……い?
「はーい。三十七ぁー」
「もったいねぇからカームの半分にすっか」
ヴァンさんは俺のグラスに注いであった酒を姐さんのカップに半分注ぎ、残りは自分の銅のジョッキに入れた。
「そうねー。あ、カームちゃん氷出してー。なんか冷たいの飲みたくなっちゃった。そして飲んでないから負けよ」
姐さんはジョッキを前に出し、ニコニコとしながらトローさんの事なんか一切気にしないで氷を要求してきた。
「……はい」
酒飲んでぶっ倒れたってのに、気にしないで続けないでくれ。
酒が好きな種族は、酒飲んで倒れた奴に対しての気遣い甘くない? 一気のみの勝負禁止にした方が良いか? けどなぁ……、周りを見ると八割くらい飲みつぶれてんだよなぁ。
俺は【氷】を姐さんのカップに落とし、イセリアさんと一緒にトローさんを蒸留所の外に運びだし、自宅のベッドに連れて行ってやった。
蒸留所に戻ったら、姐さんとヴァンさんが飲み比べを止めてただの飲み会をしていた。
なので二人に声をかけ、マイスさんの補佐についてモヒートを振る舞いまくっていたが、姐さんから原酒で作った炭酸ラムの注文が入ったので渋い顔で作ってあげた。




