第306話 教会に行った時の事
305話の忍んでない忍者のお供の狼の件ですが、作者の勘違いでした。
白と赤の衣装の人のお供も狼だったから、そうだったような? という感じです。
架空のゲームって事にしておいてください。
衛兵志願者に短いカトラスを渡してから二十日。特に島に変化はないし、いつも通り俺は適度に書類の山を片付け、ラックから次の物を手に取って目を通す。
「第四村に教会が完成か……。装飾とか色々あったから、着工から一年くらいか?」
第二村は半年以内に仕上げてた気もするけど、あれはとりあえず仮みたいな奴に、簡易テントで礼拝最優先だったしな。それから仕上げていったし。
「訓練しながら外側だけは見てたけど……。内装もついに完成したか……。ってかこれは来いって事だよな……」
俺は書類を机の脇に寄せて次のを取り、とりあえず片付ける事に専念した。
「んー。一応来たけど。外見は結構な頻度で見てるからなぁ……」
俺は昼食を食べ、アドレアさんに訳を話して第四村に転移をしたが、いつも通りの教会なので何とも言えない。
「島の反対ですのであまりこちらに来られませんが、私も建設途中のを何回か見ているだけですね。ヴァネッサの事ですので、あまり派手な感じにはならないとは思いますけど」
「そういえば教会って、新造した時になにかあるんですか? お祭り的なものとか、お披露目的なものとか。現状では外に何も変化はないですけど」
俺とアドレアさんは教会の入り口前に立ち、一応屋根まで見上げているが何もない。
ってか、ロケット花火を撃ち合う事をしなければ、俺は何でもいいと思うよ。神に祈る方法は時代や国で全く違うし、収穫祭なんかトマト投げ合うとか、ビール飲みまくりなのもあるし。
なんか島特有の、新たな神事とか増やしても良いと思うけど、こんな事思ってると今夜辺り神様のいる場所に意識だけ持ってかれるから、そろそろ止めておこう。祭りばっかり増やしても仕方ないし。
「どうもー。教会完成の手紙が来てたので、アドレアさんと来ましたよー」
俺は教会のドアを押し、中に入ると新築とは思えないほど質素で、第二村に比べて本当に最低限の物しかない。
「ヴァネッサらしいですね」
いや、その一言で片づけられても困るんだよなぁ。心の拠り所って意外に大切ですよ?
「あぁ、いらっしゃい。どうだい。綺麗だろう?」
「えぇ。綺麗すぎて頭が痛くなります。なんで長椅子と神像、祭壇くらいしかないんですかね? もう少し欲張っても良かったのでは?」
俺は頭に手を置き、一番奥の少し高い位置にある、剣と盾を持った上半身裸のマッソーな神像を見ながら、眉間にしわを寄せる。
「いやいや。あたしみたいなペーペーが、第二村の教会より豪華にはできないって。まぁ……。止めてくれって言ってるのに、大工のお節介でガワだけ豪華になっちゃったけどね」
ヴァネッサさんは頬を指で掻きながら、少し苦笑いをして教会内を見ている。なんか落ち着かないって感じだな。
「私は素敵だと思いますよ。無駄な物を一切なくし、清楚。教会は本来こうあるべきだとおもいます。神々しすぎると、物怖じしてしまいますし。元々我々下っ端は、本来教会もないような寒村に行き、小屋の様な場所で説法や教えを説く身ですので、これでも豪華すぎるくらいです」
アドレアさんが首をかしげながら俺の方を見るが、今後島民が増える事を見越して、ある程度の水準は欲しいと思ってたんだけど……。
「そうですか。お二人の位が高くなって、ある程度になれば色々増やせると思いますし、拡張性……というか、何もないのでこれから増やす事もできるので、良いんじゃないんですか?」
「そうだねぇ……。増やしても良いけど、どのくらい先になる事やら……。ま、あたしなりにはやるけどさ、慕われてれば問題はな――」
「ねぇちゃん遊びに来たぜー」
ヴァネッサさんが喋っている時に教会のドアが勢いよく開き、子供達が数名入ってきた。
「おいお前等! 教会の正面ドアは静かに開けろっていつも言ってるだろ! 勢いよく開けていいのは裏口だ。ってか今日は勉強の日だろうが。なにサラッと遊ぼうとしてんだよ」
「なんだよー。別にいいじゃんかよ。休みでもない昼過ぎに、礼拝に来る島民なんか少ないんだしよ」
「そういう問題じゃないんだよ。聖堂は神聖な――」
「ん゛ん!」
元気の良い子供達と、ヴァネッサさんが言い争いをしていたら、アドレアさんが咳ばらいをし、聖堂内が一気に静かになり、冷たい目を俺を除く全員に向けていた。
「お静かに。元気が良いのは良い事ですが、ここはお祈りをする場所です。ヴァネッサ? 子供達と仲良しなのは良いですが、場所を弁えて?」
「は、はい」
「ごめんなさい」
「まったく。貴女は昔からそうだったわよね? 近所の男の子と一緒に走り回って、泥だらけで帰ってきて神父様に怒られてばっかりで。シスターになって落ち着いたと思ったら……。別に悪い事じゃありませんが、神は常に我々の事を見て――」
そしてアドレアさんは注意と説法というコンビネーションを、体感で十分くらいしていた。なんで俺も巻き込まれてんの? いや。隣にいたからだけどさ……。
「はい。ではカームさんがいますので、勉強を教えてもらいましょうか」
「はい?」
アドレアさんはありがたい説法を終わらせると、勉強をしよと言い出し、俺が教師役になる事になった。
「カームさんは博識ですし、教え方も上手と聞いております。なのでついでです」
「ついでですか……。まぁ、良いですけどね……」
俺はため息を吐き、頭を掻いてから外に出た。青空教室で良いだろ。
「さて、足し算引き算は習ったかな?」
そしてその辺から持ってきた棒を持ち、手の平をペチペチと叩きながら、多分五歳から九歳くらいまでの子供達に聞いた。
「習ったぜ! もう一人で買い物だってできるさ」
「おーそれは凄いな。ならおじさん……お兄さん? も早く島内で貨幣を使えるように頑張らないとな。さてさて。なら君に買い物でも頼もうかな。君は大銅貨を三枚持ってる。二個で銅貨一枚のトマトを大銅貨一枚分買うと、何個買える?」
とりあえず掛け算や割り算的な物も、早そうだけど教えておこう。ってかまだお兄さんで通じると思う。大丈夫!
「え……っと。一枚で二個だろ……。十枚分買えるんだから。二が十回分だから……二十個?」
「はい正解。そして残ったお金で、銅貨一枚で三個買える卵を銅貨四枚分買うと、卵は何個? そして残ったお金は?」
「え゛。ちょ、ちょっと待ってくれ。えーっと。えーっと」
「はい。地面に書いても良いから、慌てなくていいぞー」
俺は少年に棒を渡し、地面に文字を書いているのを微笑ましく見るが、いきなりは難しかったかな?
「卵が十二個で、残ったお金が大銅貨一枚と銅貨六枚かな?」
男の子が悩んでいる時に、大体同じくらいの歳の女の子が特に悩んでいる様子もなく答えた。
「お? 正解だ。頭の中で全部やったのかな? 凄いねぇ」
「ありがとうございます。大きくなったら、食べ物を売るお店屋さんになりたくて、計算はいつも頑張ってるんです」
「……ほうほう。大きくなって、まだ食べ物屋さんになりたかったら言ってね。島にお店を開くなら大歓迎だ」
「カームさん。悪い顔になってるぜ?」
島に店を出すなら大歓迎と思いつつ、島民だったら色々優遇したり、その辺を色々考えてたらヴァネッサさんから突っ込みが入った。
「ん? これは失礼。島内の物流と産業の事を考えてまして。あと、もう少し島民が増えたら本格的に各村に小さい学校を検討したいなぁ……と」
少しニヤけた顔を親指と人差し指で揉む様にほぐし、いつもの顔に戻す。
「なんか嘘くさいぜ? 絶対悪い事を考えてた顔だった」
「そうですね。あの顔は絶対そう見えますね」
「いやいやいや、そんな事ないですからね?」
んー。アドレアさんも俺の事をそんな認識だったのか……。少しだけ気を付けないとなぁ、特に子供達の前では……。もちろん実子の前でも。
□
「あ。もうこんな時間か……おやつとかどうしてます?」
子供達の勉強をなんだかんだで見ていたら、そろそろおやつの時間になったので、とりあえず聞いてみた。
「姉ちゃんがその時ある奴で、チャチャっと作ってくれるぜ」
「昨日はラスクでしたよ。なんでもパンが余ってるとか言って」
「ほー。なんかサバサバした感じですけど、意外ですね」
「ヴァネッサは料理が上手く、教会の中でも一番でしたよ」
「…………え?」
「なんだよその目は。別に私が上手くたっていいじゃないか。証拠見せてやるよ!」
俺は嘘だろ? 的な目でヴァネッサさんを見ると、なんか不機嫌になって裏口の方に向かったので、とりあえずついて行く事にした。
「ったく。一人しかいないのに、パンを二人分いつも持ってくるんだもんなー。善意なのはわかってるけど、もう少しふくよかになれって意味なのか? って思う様になってきたんだよ」
裏口からキッチンに入ると綺麗に整理整頓されており、ヴァネッサさんはなぜかパンを持ってそんな事を俺達に聞こえるように言った。
多分生活するのに、こっちを先に仕上げたんだろう。妙に生活感があるし。
「あの。子供達のおやつ用なのでは? 良く来るんですよね?」
「あ? まぁ、よく来てるな……。そういう事か! ったく、言ってくれなきゃわかんないよなー」
ヴァネッサさんはそう言いながらも、テーブルの上に転がっているリンゴを手に取ると、四つ切にして芯を取ってから皮を剥いて角切りにし始め、二つ目は擂り下ろして鍋に入れ、レモンを剥いて一房分絞ってよく混ぜている。手際がいいな……。
そして竈に火を入れ、バターと砂糖、角切りにしたリンゴを入れて軽く炒め、煮込む為に薪をいじって火を弱火にしていた。
そして竈に薄く切ったパンをトレーに乗せ、軽く焼き始めた。
「カームさん。別にリンゴが嫌いって事はないだろ? 嫌いでも無理矢理食わせるけどな」
ヴァネッサさんは笑いながら鍋をかき混ぜているが、アレルギーの話はしておいた方が良いだろう。
「世の中には好き嫌いではなく、食べたら死ぬ人もいます。症状的には蜂に刺された時と同じ感じになる人もいますので、そういう症状が出た場合は、好き嫌いではなくそういう病気です。絶対に医者に連れ込んで下さいね?」
「へー。好き嫌いじゃなくて、それが駄目ってのもあるのか」
「はい。なので気を付けて下さいね」
知り合いに納豆が好きすぎて、ネギを入れまくって食べてたらネギアレルギーになった奴がいたな。あとは魚が好きなのに、急に魚介アレルギーになっちゃった奴。本当に可哀想だわ。好きな物が急に食えなくなるんだんもな。
「はいよ。リンゴバタージャムな。両方熱いうちに食ってくれ。お前達ー。ちゃんと手は洗ったか? 洗ってねぇと食わせねぇぞ!」
「洗ってるから! 毎回毎回言うから嫌でも洗う様にしてるよ」
「よし! さてお祈りだ。何に祈るよ?」
そしてヴァネッサさんはこっちを見て、確認するように聞いて来た。なんで俺に聞くんですかね?
「え? 教会の完成に?」
「あぁ。すっかり忘れてた。昨日一応完成したんだったわ。よし、お前等指を組め」
「俺もっすか?」
「もちろんだ。私たちの神は寛大だ。一人くらい急に増えても豪快に笑い飛ばすさ」
「……そうっすか」
あの神だったら、生暖かい目で見てきそうな感じもするけどな。
そして俺は指を組んで祈りのポーズをとると、ヴァネッサさんがなにやら感謝の言葉を唱え始め、それが終わると特に決まった、アーメン的な言葉がないのか、カップに水を注ぎ始めた。
「さ。あまり物だけど、遠慮なく食ってくれ」
「「「いただきます!」」」
俺はカリカリに焼かれたパンの上に、リンゴバタージャムを塗ってサクリと食べるが、シンプルで意外にも美味しかった。今度家族にも作ろう。
んー。この性格でこの料理の腕……。確実に結婚して子供ができたら、オカンだなこの人。
「本当。ヴァネッサの料理は美味しいです。カームさんのも美味しいですけど、こっちは手軽に作れますから、私はこっちの方がいいですね」
「なんだい。カームさんも料理するのか?」
「まぁ、ストレス発散程度にやりますよ」
「リンゴを薄切りにして、花の形を作ってパイ? タルトを焼くらしいですよ。パーラーさんに聞きました」
「へぇ……。興味あるね。今度作ってくれよ。な?」
「何それ! 食いてぇ!」「うん」
「私も食べたいです!」
ヴァネッサさんは子供達の方を向いて言うと、滅茶苦茶いい笑顔で返事をしている。それに混ざってアドレアさんも目を輝かせている。
「わかりました、今度来た時にでも作りますよ。君はそれまでに計算が上手くなってたら、少し多く切り取ってあげるから勉強頑張れよ」
俺は美味しそうにリンゴバタートーストを食べている、男の子の頭をなでておいた。




