第305話 娘に一時的に嫌われた時の事
投稿がかなり遅れて申し訳りませんでした。
あれから一週間。北川とロックと島民を使った衛兵の運用に必要な話し合いをし、ちゃんとマニュアル化して色々問題がないかをウルレさんやルッシュさんときっちり検討した。
日替わりで二人一組で動く事や、武器を持っておくだけで抑止に繋がる事も色々と書き、島民じゃない人達への接し方も作った。主に日本の警察っぽい基準でだけど。
接客業とかでお客様との対応とかを崩したり、なんか核ミサイルの話が出て抑止力になったり、絶対ツーマンセルだよな! とか……。本当にこれで大丈夫なのか不安になってきたけど、なんとか形にはなった。
「あの。ちょっといいですか? 先ほどの件は個人的には問題はなさそうに思いますけど……」
ルッシュさんが帰ってから、ウルレさんが執務室に書類を届けに来てそんな事を言った。
「思いますけど? なんです?」
「一応性格とかも考慮した方が良いと思います。怒りやすい人だったら、もしかしたら直ぐに抜くかもしれませんよ?」
そう言ってウルレさんは、執務室の角に置いてある剣をちらりと見た。
「んー。徹底的な教育とかしたいけどなぁ……。その辺はガチガチにやると、性格かわりそうだし?」
「どんな訓練をさせる気でいるんですか……」
ウルレさんはため息を吐き、なんか前科持ちの人間を見るかの様な目で見てきた。
「基本集団行動。一人のミスは全員の責任。物凄く嫌な奴への対応訓練。学力や評価が一定水準以下の場合は衛兵にしないとか?」
なんか警察学校のドラマとかで、そんな感じだった気がする。ってか目付きがちょっと険しくなったな。これ以上は止めておこう。
「ま、やりませんけどね。さてさて。今日のお仕事は終わりですよー」
俺は誤魔化す様に言い、椅子から立ち上がってわざとらしく鍵とかをかけ始めたら、やっぱりため息を吐いた。やっぱり日本の警察学校風は厳しいか……
「ってな訳で、問題はなさそうだから進められそう」
「そう。一応区切りは付いたのね?」
「ん? まぁ、ついたっちゃついたねぇ」
「ふーん。そっかそっか」
コルキスとメルを寝かしつけ、麦茶を飲みながら衛兵の巡回の話を終わらせたら、スズランが確かめる様に言い、ラッテが怪しい笑みをしながら首を縦に振っている。
これはアレだ。寝室に連れ込まれるパターンだ。
「……あのさ。もしかして終わるのを待ってた?」
俺が笑顔で聞き返すと二人が首を縦に振り、無言で立ち上がって俺の両脇に腕を入れて胸を押し付けてきた。
「大丈夫。激しくはしないから」
「いや、スズランの激しくないは、多分普通だか――」
そこまで言ったらスズランにキスをされて、それ以上言えなかった。
「はいはーい。ヴォルフ達も気を利かせてくれて、出てってくれたよー。こんな所より、さっさとベッドに行こう」
そして俺はスズランにズルズルと引きずられ、ラッテには押される様にして寝室に連れ込まれた。
◇
最近は子供達がいるから控えてたってのもあるけどさ! 激しくはなかったけどさ!
まぁ……。はい……。たまにはあんなのも良いかな? って思っちゃいました……。
ったくなんだよアレ。聞いた事あったけどあんなの始めてだったわ。
「ってな訳でー。今話した通りだ。早い話が島の治安維持もそうだけど、ある意味顔にもなる訳だ。賄賂なんてもってのほかだからなー。そうすると俺からの信用が一気になくなるぞ」
俺は昼食前に書類仕事を終わらせ、村の広場で衛兵希望の男達を集めて、軽い話し合いを始め、ある程度の心得的な事を話した。
「「「うっす!」」」
うんいい返事だ。これなら第一村は平気かもしれない。多分だけど。
「じゃ、今から腰に吊るす武器を配るぞ」
俺はそう言い、木箱の中に立てて入れた武器を配り始めたら、受け取った男達はなんか不満顔だ。
「短くて不安だ」
「重い方の鉈の方がしっくりくるな……」
「威圧目的なら、鉈の方が良いんじゃないか?」
なんかそんな変な声が漏れている。ある意味毒されているなー。
「いやいや。さっきも話しただろ? 普通の人達もいるんだから、威圧感があり過ぎるのも問題だ。だからそのくらいが丁度良いの。さてキース。三日くらい前に話しておいた狼は大丈夫か?」
俺は一応衛兵達のまとめ役って事で、事前にキースには話は通しておいた。なんだかんだでこいつも面倒見が良いしな。
「あぁ、やる気があって若い連中だ。と言っても過激すぎない程度の人懐っこい性格ってのは、狼じゃ難しかったぞ」
「そうか。助かる。ってな訳で、君達のパートナーとなる警邏中のサポートをしてくれる、犬代わりの狼だ」
「犬と狼じゃ大分違いますぜ?」
「本当だぜ。子供の頃なんか、毎晩怯えてたのに、この島じゃ犬代わりだ」
「ここの狼はキースさんがきっちり躾てるからな、半分野生みたいな子でも安心だろ。な?」
そう言って一人の男がしゃがみ、近くにいた狼を撫でている。そして狼も尻尾を振って大人しく撫でられていた。
ある意味パートナーって言うよりは、まだ友達感覚か。そういや金髪忍者の相棒も狼だったな。アレはある意味本体が狼で、忍者がおまけだったけど。
「そんな感じで信頼関係を築いてくれ。訓練された犬は厄介って聞く。なら狼は? もっと凄いと俺は思う。けど自宅で狼を飼っている者は嫉妬されない程度にな」
俺がそう言うと周りから軽く笑いが出たが、こんな雰囲気で大丈夫かな? もう少し厳しめの方がいいかな? 当番制の衛兵ってある意味やっていただいている感じだからな。もちろんその分給金は出るけど。
「ってな訳で、観光客が来るまでは仕事はないが、狼達と信頼関係は築いておいてくれよ。さて、戦闘訓練だが……。正直別件で鍛えた兵士二十人が、そろそろ各村に五人配属され、そのうち十人を選んで訓練させる。なのでそいつ等に任せろ。刃物を持った狂人なんか、剣術や武術の達人も素直に大声を出して逃げた方が良いって言ってる方もいる。なので、本当に村の中を見回って犯罪の抑止だけで、何かあったら兵士が駆け付けるから」
俺がそう言うと、腰に剣を吊るした男達は、剣の方を見て、コレの意味って吊るしておくだけかよ! みたいな顔になっている。
だって仕方ないじゃん。日替わり衛兵に本格的な訓練させるつもりはないし、アストみたいに日頃から訓練してないし。
「まぁ、それは犯罪防止用だから。さっきも言ったけど、吊るしてるだけで効果はあるんだよ。じゃ、とりあえず今日は解散! 本格的に必要になる前に、ある程度腰の重さに慣れる事と、信頼関係を築く様に!」
それだけを言い、解散させてから昼食を食べる為に自宅へと戻った。
「ただいまー」
「おかえり」「おかえりー」
家に帰ると二人が出迎えてくれ、子供達を抱いていないところを見ると、今日はまだ寝ているみたいだ。
そしてテーブルを見るとウサギ肉と白身魚を使った料理が並んでいた。しかもニンニクの香りが強い。
「ニンニク強くない?」
「昨日……ね? ちょっと頑張ってもらったし」
スズランは珍しく、頬を少しだけ赤くして言ったが、昨日のは絶対ラッテが提案しただろ! って物だったので、今でも結構恥ずかしがっている。
「まぁ、そうだけどさ……。母乳とか平気? 結構匂いとか残るっていうけど? 牛乳とかもそうだけどさ、生えてたニンニクとか食べて、乳がニンニク臭いとか聞くよ? 子供達にも影響出ちゃうよ?」
「大丈夫。私達のは別だから」
「そーそー安心して。カーム君に言われてるからね。その辺は気を付けてるよー」
俺はスズランやラッテの前にある皿の方に顔を近づけ、軽く鼻をスンスンとしてみるが、ニンニクの香りはしなかった。
しかも大豆やひよこ豆、シイタケが入ったスープもあるので、かなり栄養や好みの面でも気を使っているみたいだ。
まさかスズランが肉料理以外も作るとは……。本当成長してるなぁ……。
「ラッテから聞いたけど、豆とかは女の方にも良いって」
それを聞き、俺はラッテの方を見るとめっちゃ良い笑顔で親指を立てていた。
「あー、うん。そうだね。豆は畑のお肉だからね」
ってかキノコ系には亜鉛が多いんですけど……。男にも効くんですけど! もしかして知っててやってない? なんかその笑顔に少しだけ裏がありそうで怖いんですけど……。今日とか!
「はいはい。冷める前に食べちゃおー」
「そうだね。いただきまーす」
「いただきます」
とりあえずウサギ肉から食べてみるが、油を温めながら刻んだニンニクを入れたのか、そこまで生のニンニクの辛みとかは感じずに美味しく頂けた。
「うん。美味しい」
笑顔で言いながらパンを口に運ぶと、寝室からターニャがやってきてラッテの隣に座り、前足を軽く膝の上に乗せた。
「ん? メルが起きたのか? 俺が連れてくるから食べてて」
「ありがとー。いつでもおっぱいあげられる様に、直ぐ食べちゃうね」
「慌てなくてもいいんじゃない? 鳴き声はしないし」
俺は立ち上がり寝室に入ると、寝返りをしたのかうつぶせになっており、両手両足を軽く動かしていた。
「はいはい。メルちゃんもそろそろハイハイの時期でちゅかねー」
「うー」
俺は微笑みながらメルを抱き上げると、少し変な顔をしてのけぞる様にして泣きそうになっている。
ニンニクか……。畜生……。声が出せねぇ……。
そう思ってコルキスの方を見て、ぐっすり眠っている事を確認し、足早に戻る事にした。
「んー。んーんんんっん」
俺は口を閉じたまま少し訴える様にして口を指さし、少しメルから顔を遠ざけた。
「もしかしてニンニク?」
スズランがなんとなく察してくれたのか、俺の言いたい事を言ってくれたので、頭を縦に振った。
「あちゃー。メルは匂いがきついのはダメだったかー。カーム君ごめんねー。今預かるからねー」
ラッテは手に持っていた千切ったパンを素早く口に放り込み、立ち上がって俺からメルを預かった。
「はいはーい。パパくちゃかったでちゅねー。ごめんねー」
「本当の事だから何も言えねぇ……」
俺は椅子に座り、もしかしたら将来言われるかもしれない事を、今言われた事に少しだけへこみ、溜め息を吐いた。
「ごめん。ニンニク効かせすぎた。今日の昼は私が代わりに抱くわ」
「まー、食べちゃったものは仕方ないよね。今まではニンニクは少しだったし。んー、おしめは大丈夫だね。おっぱいもまだかな?」
ラッテはメルの股間辺りに顔を寄せ、違うとわかって普通に抱き、大人しいメルの背中をポンポンと叩いてから、スズランに預けた。
「ってかリリーにもお父さん臭いって言われた事ないのに、結構へこむわー。大きくなってきたら言われるかと思うと、もっとへこむわー」
「大丈夫。私も言った事ないから」
スズランはメルを抱き、キリッとした表情で言ったが、娘や孫を溺愛している義父さんが、そんな事言われたら三日くらい寝込みそうな気もするんだけど……。
「大丈夫大丈夫。カーム君は良い匂いだよー。パパは臭くないでちゅよー」
ラッテがそう言うとスズランも頭を縦に振っているが、これは他人だから言える事なんだよなぁ……。血が濃くならない様に、家族間では医学上嫌な臭いに感じる様になっちゃってるんだよ。だから安心できないぞー。
逆に良い匂いに感じるイコール大丈夫って事だしな。
そう思っていたら、ターニャが今度はスズランの隣に座って膝の上に手を置いた。
「コルキスも起きたみたいだね。コルキスは平気かな?」
「どうだろう? いっぱい食べるし男の子だから平気かな」
「わからないよー」
スズランは少し眉間に皺を寄せ、なんか真剣に考えている感じになっているが、ラッテはニヤニヤとしていた。
「まぁ、連れてくるさ」
俺はもう一度立ち上がり、寝室に行ってコルキスを抱き上げると、右手で口元をバシバシとやり始め。よこせ。的な感じでなんか口元を気にしているので、軽く息を吹きかけると、少しだけ嫌な顔をしたが、泣きそうなそぶりは見せず、そのまま戻ってイスに座ると、匂いの発生源を突き止めたのか、テーブルの方に手を伸ばしている。
「あー。あー」
「コルキスは平気っぽいぞ? はいはい。けど駄目ね。子供がニンニクを食べると寝れなくなっちゃうぞー」
俺は千切ったパンを試しに口元に持って行くと、顔を背け、これじゃねぇ! 的な感じで口元の辺りを手の平でベシベシとしてくる。
「コルキス君? ちょっと地味に痛いんですけど……。絶対イチイさんに似るわこれ! ってか止めてくれ、本当にニンニクは駄目だって。今離乳食あげるから待てって。いふぁいいはうぁい! 唇握らないで」
そんなやり取りをスズランとラッテは微笑ましく見ているが、絶対乳児の握力じゃないってこれ。最悪千切れっから!




