第304話 とりあえず装備はこれでいいかと思った時の事
シイタケの網焼きを食べてから翌日。その日の夕食時に姐さんがキノコを食べさせてー。とか家にやって来たが、島で作ってる強い酒に焼きシイタケが合うかどうかは不明だった。
とりあえず注文通り、榎本さんからお裾分けしてもらった物を焼いて塩を振って食べさせたが、なんか不満そうだった。だってカロリーないしな。
そしてコルキスやメルを少しだけあやして帰って行ったが、本当に何だったんだろうか?
「よし。衛兵用マニュアルはこんなもんか」
そして執務室でマニュアルを書き、それを四枚書き写しておき、ヴァンさんの所に行く。
「すんませーん。ちょっとこれくらいの剣を軽く反りを付けて、片刃で作って欲しいんですけど。二十本ほど」
そして指先を伸ばし、肘をポンポンと叩いて長さを伝える。ショートソードより短く、ダガーよりは長い中途半端な剣だ。
「急に来て、なんかいきなり馬鹿みてぇな注文すんな。理由を言え理由を!」
「あー。島に立ち寄る船も増えて、今後に備えて各村に衛兵的な存在を教育しようと思いまして」
「その長さじゃ使い勝手悪いだろ。普通のにしとけ普通のに」
「いや、帯剣してて、とりあえず軽い威圧と、取り回し重視です。何かあれば各村に配属した、数少ない島の軍隊の一組が出てきますので、防犯って意味合いですよ」
軍隊って言うより、特殊部隊だけどな。
「あー。そういう意味な……。とりあえず見回りしてて駆け付け、対応できなければ専門家が出る感じか」
「そうです。なのでこの程度の長さで良いんです」
そしてその辺にあった多分買われないであろう剣を持ち、軽く抜いて親指で刃を確認すると、簡単に薄皮が切れたので、本業としての腕は鈍ってはいないはずだ。
「あいよ。なんか簡単なデザインを寄こせ。お前は魔法でなんか黒いのが出せただろ」
「あ、はい。こんな感じで」
そして俺はイメージした黒曜石の剣を出す。
あれ、これカトラスじゃね? そう思いながらヴァンさんに剣を渡した。
「カトラスの少し短い感じか。諸刃じゃないから、素人には丁度良いな。警告や威圧にはちょうどいいし、反りがあるから振るだけで切れる。ま。いいんじゃねぇか?」
やっぱり認識はカトラスだったか……。
そして俺にカトラスを返してきたので、軽く振ってから地面に突き刺して消しておく。
「材質は鉄でいいな」
「えぇ、鉄でお願いします」
ヴァンさんが真剣な目でこちらを見たので、俺も目を見てそれに答えておく。
「お前は農具をミスリルで作った前科があるからな。聞いておかねぇとよ」
「そうっすね。あの時はお世話になりました。あ、わかってるとは思いますが、無駄な装飾一切なしの武骨な感じで」
そして軽く頭を下げ、材質も確認し、最後に確認の為に派手なのは駄目と言っておいた。
「わかってるよ。無駄な装飾を入れても、戦いが有利になる訳じゃねぇからな。金や銀を大量に使い、宝石を散りばめたのは王族にでも持たせとけ」
「けど金は重いから、実は鈍器としては優秀な気もしますけどね」
そして軽く冗談を言って、お互い鼻で笑い、もうこっちには用はねぇぞという感じで手首を振ってあしらわれたので、俺は工房を後にした。
◇
それから五日後。ヴァンさんがやってきて、ほらよとか言いながら短いカトラスを二十本執務室に置いて行ったので、ため息を吐きながら無造作に一本抜いて状態を見るが、工房で触った剣よりは切れ味が悪かった。
多分だけど、あまり研ぎを鋭くすると欠けたりするから、わざと切れ味を落としているんだと思う。
「まぁ、腰の飾りとしては十分だな。けど約四日で二十本打つかぁ。凄ぇな……。しかも鞘まで……」
「なんか剣の束を置く、懐かしい音がしたんで来てみたんですけど」
そしてウルレさんが執務室を覗きに来た。そういや実家が鉱山持ちで、たしか武器も多少やってるんだっけ? 鉱山持ちくらいしか覚えてないわ。
「あ、カトラスですね。もうできあがったんですか。おー。流石ドワーフの打つ剣は違うなぁ。雑に作ってコレだもんなぁ」
そう言ってウルレさんは一本手に持ち、鞘から抜いて刃を上にし、突きをする様な感じで太陽の光に当てて、刃の部分を見ている。
片刃で反りがあるだけで、なんか日本刀を検めている様な感じがする。
そして鞘に戻し、執務室の裏口付近に、雑に置いてある山に戻した。
「物が物ですからねぇ。なんだかんだで欲しがる冒険者は多いと思いますよ。本人が雑に扱っていましたけど、ドワーフの中では本当に中の下か下の上なんでしょうねぇ……」
そしてため息を吐き、確認が済んでいる書類を持った。
「その……。なんか、雑に頼んですみません。こんな感じで。のほぼ一言で終わりましたし」
「スコップにこだわりとか見せて、ミスリルの輝きが下品とか言って、わざと光らない様に加工してもらってる人の言葉じゃないですね」
なんか言葉に少し棘がある気がする。まぁ、普通ドワーフにコレで。って数打ち物を頼まないか。
「実際取り回し重視で、反りがあるから振り下ろすだけでも切れますので、何かあった場合はどうにでもなるんじゃないかな? って感じでしたし。それに腰に吊って歩いてるだけでも犯罪抑止になりますので」
「あぁ。そういう意味で短いカトラスを打たせたんですか。多分正解ですね。あまり訓練をしない衛兵ならなおさらです。何かあったらどうせ本職が来るんでしょうし、確かに十分ですね。ただ、身の丈に合わない物なのは確かです。では仕事に戻りますね」
そう言ってウルレさんは、もう一度山になっている剣を見てから執務室のドアに向かった。一本欲しいんだろうか? 一回実家に帰って、蒸留施設作ってるドワーフに頼むのもありな気がしてきた。
「ルッシュさんが職場に復帰したら一度里帰りします? 多分ご実家のある場所にドワーフと蒸留所ができてますよ」
ウルレさんの親をベリル村に連れて行き、竜族の村に行ってドワーフを連れて帰って、蒸留所を作る様な事を言っていた事や、村長の一筆もあって、確実にコンタクトは取れているだろうという事を言った。
「いいんですか!」
この食いつきはアレだな。確実に武器関係に興味あるな。やっぱり大人になっても男の子だなぁ……。実は武器商人にでもなりたかったんだろうか?
「えぇ。一度ご報告に帰るもの良いと思いますよ。パトロナちゃんが大きくなって手のかからなくなる頃には、もう少しこの交易所も賑わい、確実に職員も増えているでしょうし」
「あ、はい。ありがとうございます!」
そしてめっちゃ良い笑顔でウルレさんが執務室を出て行った。
「まぁ。元は俺がクラヴァッテに、家を継げない商人の次男や三男、次女や三女を頼んだのが原因だしな……」
そう呟いて、俺は書類仕事に戻った。
「ってな訳で……。アストがいて、安全面的に確実なここに衛兵用の武器を持ってきた」
今日の午前中に武器が届いた事を北川に伝え、足元にはカトラスが転がっている。
「まぁ、日替わりで最高五人程度巡回させるのはマニュアルで決めてたけど……。こんな短時間で数打ち物の鞘まで作って、納品すんのかよドワーフってもんは。凄ぇな……」
そして北川も、ウルレさんと同じで、突きをする感じで刃を確認しており、刃の部分に親指を当てて切れ味を確かめ、軽く振って色々と確かめている。
「これなら自警団的素人な衛兵でも問題はねぇな」
そして鞘に戻し、両脇に十本ずつ抱え、兵舎の倉庫の方に歩き出したので、俺も一緒に歩き出した。ってかなんで半分を俺に任せようとしないんだ? 一人で持てると思ったのか?
「で、編成は上手く行ってるか?」
兵舎のキッチンを勝手に借り、あったお茶を勝手に淹れて、二人で簡単な話をする事にした。
「あぁ、ロックが上手くやってくれた。あいつはなんだかんだでアストの連中と仲が良いからな。教官って言うより、各地を旅して、色々見て来た特別顧問的な感じだから、俺達よりは深い所まで各自の好みや特性やら色々認識はしてるっぽい」
「まぁ、言動的に色々とやりたくない仕事とかやってきて、酸いも甘いも俺達よりは経験してそうだしな」
「異種族間の戦争を経験してるお前が言うか? けど、汚い仕事って言うより、やりたくない仕事だな。禁輸品の時になんとなく感じたわ」
「あー、あれな。上からの命令で、殲滅とか言われ、無抵抗な村人とかを全員……って奴を二回か三回やってそうだ」
俺は肩をすくめ、お茶を飲んでからため息を吐いた。
「人族的に、奴隷は八割がた人権ねぇし」
「奴隷らしい魔族の奴隷を魔族大陸で見た事ないわ。買った事はあるけど。ケモミミのおっさん達は軽犯罪なのに奴隷として連れてかれてたけど、罰みたいな感じだったしな。何とも言えねぇわ。最悪その辺で働いてた奴が奴隷だったかもしれねぇし」
「なんだよそのケモミミのおっさんって。全然萌えねぇだろうが……」
「いや、会った時から三人組で、犬耳猫耳狐耳が揃ってたし、名乗ってくれなかったし、覚える為に仕方なくな……」
そんな事を話しながら、いつ頃アストを各地に配置するかとかを話し合い、今日はお開きにした。
「ただいまー」
「おかえり」「あー」「おかえりー」「うー」
「お。今日は四人でお出迎えかー嬉しいねぇ……。ってな訳で、ご飯作っちゃうか」
俺はパスタを茹で始め、同時進行で玉ねぎとニンニクをオリーブオイルで炒め、香りが付いたらシイタケのヘタも石突も取って薄切りにした後、細かく刻む。
それをフライパンに入れ、ある程度火が通ったら茹で上がったパスタを投入し、醤油をかけて全体が馴染むようにして最後に小さくした赤トウガラシの輪切りを振りかけて余熱で少し蒸らす感じで混ぜ、大皿に入れて和風パスタを作る。
「シイタケと醤油のパスタねー。榎本さんに聞いたら、シイタケと醤油の相性がいいから作ってみたよー」
まぁ、和風とか言っても通じないし、こう言うしかないんだけどね。俺はフライパンを洗いながらそんな事を思い、子供達の離乳食を作り始める。
「パスタにショウユってどうなの?」
「んー良い香りはしてるけど……。エノモトさんの作ったキノコなら安全だろうし、カーム君のごはんには外れはないけど……」
「美味しいよ。ま、ちょっと摘まんでみてよ」
そう言って俺は取り皿とフォークを、オートミールを煮込んでいる時に出してやる。本当はピーマンの肉詰めとかみたいに、シイタケの肉詰めを作りたかったけど、シイタケの量が量だけに、あまり多くもらえなかったからなんだけどね。
「ん。美味しい」
「あ。本当だー。パスタって醤油にも合うんだね」
「あー、あー!」
そしてコルキスが食べたそうに自己主張をしている。
「一本だけ軽くお湯で洗ってから、小さくちぎって、しゃぶらせる感じであげてみたら?」
俺は竈によりかかり、お玉を持ちながら少し困った顔で言ってみる。
「そうね。まだ歯がないからそうするしかないわね」
そしてスズランが一本だけフォークで取り、小さくちぎってスプーンの上に乗せてコルキスの口の前に運ぶと、躊躇なく口に入れ、初めての少し硬い物を噛む様にしている。
「ははは。やっぱりまだ早いし、味が濃いから反応が微妙だね」
「そうね。なんか眉間に皺寄せてるし」
「メルちゃんは、やっぱり欲しがらないねー。ショウユもパスタもまだ早いって思ってるのかな?」
ラッテに抱かれているメルは、確実に香りを嗅いでいると思うが、特に反応らしい反応はなく、ジーっと俺の方を見ている。
「ま。まだもらったチーズもあるし、これがあるうちは、メルが好きな薄めのチーズリゾットだな」
「そうだねー。アレは美味しいから仕方ない」
ラッテがそう言うと、スズランも頭を縦に振り、コルキスに食べさせる予定だったちぎったパスタを食べていた。
そしてフィーリングで作った和風パスタは、まぁまぁ美味しかった。ってかこっちに来てから和風パスタを初めて食べた気がする。
やっぱり、可食可能な安全なキノコって大切だな。
俺は毒が効かないけど、他の人がね?
ベニテングダケはうま味成分が毒だったりするし、食べて酒を飲むと駄目だったり、日の光を浴びると駄目だったりって、怖いのが多いからな。
白くて綺麗なキノコで、死の天使とか呼ばれてる奴もあるし、カエンダケなんか有名だったしなぁ。本当素人は怖くてスーパーのキノコくらいしか食えないわ。




