第300話 俺をあまり巻き込まないでほしいと思った時の事
あれから四日。夕方に会田さんから連絡があり、明日は朝から平気だという連絡があったので、少しため息を吐いてから第四村のおっさんに伝え、いつもの手順を踏んで大魔王様に会いに行く。
「あの。別に伝えるだけなら、小部屋前の見張りをしている人でも良いのでは?」
この間の部屋に通され、転移せずにやって来た大魔王様に用件を伝え、なんか面倒だからそんな事を言ってみた。
「それはそれで失礼だろう? 一応俺は王もしてるんだぞ?」
大魔王様は首を傾げ、真顔でそんな事を返してきた。
「あ、国王様の方がメインでしたか……」
どっちがメインだかわからなかったわ……。兼任っぽかったし。
そんな事を思いながら、水差しから水を注いで一口だけ飲み込んだ。本当この人わからないわー。
「お前、この後少し暇はあるか? なに、あまり手間はかけさせん」
「え? はい。この後は帰って食事を作るだけですので、多少暇はありますが」
「ならついてこい。少し試してもらいたい事がある」
「あ、はい」
そして成すがままに大魔王様について行き、少し広い闘技場的な場所に連れて来られた。
「とある場所で魔法生物らしき物が久しぶりに見つかってな。そいつは特に苦もなく倒したらしいが……。ただ単に動かなくなっただけで、何かしらの反応は見せるらしいのだ。おい」
そして魔王部下さんに声をかけると、ボコボコになって両手足が取れた鋼色のゴーレムっぽい物が現れた。
もちろん手足も別にまとまっている。
「いるかもしれないって思ってましたが……。やっぱいるんすね。魔法生物って」
なんか胴体部分に多少盛り上がっている頭っぽい部分。なんか関節がしっかりしてるジャ〇ラみてぇだな。プラモとかで再現するとこんな感じになるんだろうか?
「あぁ、古い炭鉱奥で見つかった」
「で、胴体部分に滅茶苦茶綺麗な切り口があるんですが……。これ、大魔王様がやりました?」
「あぁ、材質を調べるのに試し切りしてみたが、ただの鉄だった」
「そうっすか……」
他の部分がボッコボコなのに、ここだけ切れてるからおかしいと思ったんだよ。大魔王様は刃物を持ってたしな。
「で、俺にどうしろと?」
こんな物を目の前に出されても、何をしていいのかわからないし。
「お前の意見を聞きたい。魔法生物に関して、どの様な考えを持っているか。それと全力で魔法を叩き込め」
「あ、そういう……。んーそうですねぇ。どこかに核が埋まってて、それを破壊するか、人為的、あるいは人工物なら、なにかしらの文字が書かれてるとか」
ゴーレムに書かれてる、なんか一文字を消して死んだって意味にするとか、そんな感じだった気がするな。
「そうか。どっちも見当たらなかったから、少し意見を聞きたかっただけだ。後は全力で魔法をぶっ放せ」
「まぁ、良いですけど……。あまり大魔王様にも手の内を知られたくなかったんですけどね」
そう言いながらゴーレムに近づき、切り口を少し覗いたり、触ったりしてみる。
「本当に切り口が綺麗すぎて、少し強めに指で擦ると切れますね」
そう言いながら親指で、人差し指の薄皮が切れた部分をいじくる。ったく、斬鉄を平気でやる人って本当にいるんだな……。
「あ、切り口の奥。これって同じ材質でできた核じゃないですか? 繋ぎ目が少しだけ綺麗になってる部分がありますね。核を作ってから溶けた鉄を流し込んだ感じがしますけど」
「ほう。意外に見る目があるのだな」
「解析班なのか研究者かは知りませんが、その手の分野で詳しい奴を集めた、混合班みたいなのを作った方がいいですよ」
「わかった。そうさせよう。なら核を傷つけぬよう、魔法を撃ってみろ」
あ、そこは諦めないんだ……。ちくしょう……。
仕方ないのでゴーレムの胴体を起こし、傾斜になったり滑らない様にしてから、俺はタングステン製の杭を核から離れた下の方に浮かせ、爆音と衝撃波を発生させながら射出した。
そうしたらゴーレムの胴体を貫き、闘技場の観客席の下側の壁をぶち破り、奥の方まで入って行ってしまった。
「あー。やっちまった。けど鉄くらいなら脅威じゃないって事はわかったわ」
そう言って右手を頭に置いて、大魔王様が見ていた事を思い出し、眉をひそめながら、ゆっくりと苦笑いをしながら振り返った。
「気にするな。問題ない。あそこはただの石だ。にしても中々面白い魔法だな。派手に何かをすると思ったが、地味で確実性を上げて来たか。そういうのは嫌いじゃない。お前がこんなのが使えると覚えておこう。何かあったら召喚する」
「あ、はい。いきなり足元に魔法陣が現れて呼びだすのではなく、一声かけてからお願いします。びっくりしますし、目の前にいきなり動いているこんなのがいても慌てますので」
風呂とかトイレに入ってる時に、いきなり召喚されたらたまったもんじゃないし。
「ふむ……。心にとどめておこう。ここから帰って良いぞ」
「わかりました。では、失礼します」
俺はそう言い、自宅前に転移をした。
□
翌日。執務室で作業をしていると、いきなり景色が変わり、ペンを持ったまま空気イス状態になり、重力に負けて盛大に尾てい骨をぶつけた。
「おうふっ!」
そして辺りを見回すと王都の地下で、会田さんや各勇者、大魔王様に部下さんもいた。
ってか魔族側は二人かよ。俺も入れたら三人だけど。
「なんで俺もここに呼ばれるんですかねぇ……。ってか呼ぶ時は一声かけて下さいって昨日言いましたよね?」
尻を摩りながら立ち上がり、少しだけ大魔王様の方を見る。
「あぁ、戦場じゃないからな」
やっぱこの人ズレてるわ。
「で、何ですか? そろそろ昼だから話し合いも一時中断って頃なんじゃないんっすか?」
少し投げ槍気味に言い、勝手に空いていた魔族側のイスを引いて座った。
「さっきまで国王様と、お金の事での対策案やら、条約やらをきめてたんだけどね」
「話し合いのできる、頭の良い人族達ばかりで有意義な一時だった」
「ならなんで俺を呼んだんですか?」
少し不思議に思い、さっさと結論を言って欲しいので、首を傾げながらそんな事を聞いた。
「昨日の魔法生物は覚えているか? アレが人族側でも少数だが出ているという事で、話し合いが終わってからの雑談程度の気軽さでしていたが、お前も見たし、魔法で穴を開けていたのでな。対策として参加させようと呼び出した」
「はぁ……。対策。ですか?」
「切り札的な魔法の内容を教えるのは、他人に財を渡すのと同じだと思うが、お互い民草の無駄な死を増やすよりは良いだろう。何かしら褒美は出す」
「まぁ、別に良いですけどね。タングステンの杭を音速の五倍でぶっ放しました」
そう言って、魔法で【タングステンの杭】をテーブルに出すと、テーブルが盛大に変な音が鳴った。
「徹甲弾ですか……」
そして勇者の一人がそう呟いた。
「……まて。タングステンとはなんだ? オンソクとは?」
そして大魔王様が、知らない単語が出て来たのか、右手を開いたまま突き出し、記憶を探る様に目を閉じて眉間に人指し指を当てている。
「国王様。タングステンとは、金と同じ重さで、ルビーやサファイヤと同じ硬さ。鉄の二倍の熱さに耐える金属です」
「鉄より重くて硬いのはわかった。オンソクと言うのはなんだ?」
「音の伝わる速さです。こうして喋っている音を基準にするのです」
「ほう。つまり重くて硬くて物凄く速い。でいいな?」
「えぇ、大体そんな認識で良いです」
大魔王様がそんな事を言い、俺の方を見てニヤニヤしている。強いうえに理解力があるとか、クソヤベェな。絶対昨日見せたの模倣されるわ。
「どれ。これならどうだ?」
そして大魔王様がドヤ顔でそう言うと、水晶の様な杭をテーブルに出した。
「魔法で出したダイヤモンドだ。こいつは一番硬いぞ」
「えぇ、けど一定方向からの衝撃には弱いので、最悪砕けますね。宝石職人なんか、宝石の目を見て、ダイヤモンドより柔らかい鋼のノミで割りますから。けど、摩耗には強いんですけどねぇ……コレ」
「む? これでは、鉄でできた魔法生物には、効果がないかもしれないという事か。なら帰ってから何回か試すか……」
大魔王様は顎に手を当て、何かを考える様に呟いた。
なんだろう。今日の大魔王様は凄くお茶目に見える。
「そうですね。的確な物を選んで使用しないと」
「ならミスリルか?」
「軽いので、重さが乗らないと思いますよ。軽い斬撃が得意な奴が、重装備の奴と戦うみたいに。重いのには重いのをぶつけないと」
「けど速度があるなら、多少軽くても行けるんじゃないか?」
そして別の勇者が口を挟み、ミスリルでも行けるんじゃないか? と突っ込んだ。
「お前達の言っている事は、なんとなくわかった。硬さ、重さ、材質を的確に選べと言う事だな」
「そうっすね」「そうですね」
なんだろう。硬ければ良いと思ってたのかな? その辺の知識は大魔王様にはないみたいだ。
「ここにはいませんが、剣崎と言う者が、科学という異世界で発展している学問と、こちらの魔法を組み合わせた魔法陣を作っております。最悪鉄を溶かす陣を書かせ、張り付けるという対策はどうでしょう?」
「それはいい。強大な魔法を放てる物を作ったら、次に戦争があったら死人が多く出る。配慮に感謝する」
素直に礼も言えるのか。まぁ、一国の王だしな。
「で、カーム君。他に何か案はあるかい?」
「え? なんでそこで俺に話が来るんですか? 今いい感じでまとまりかけてましたよね?」
「ここに呼ばれたから、多少は期待されてるって事だよ」
会田さんが微笑み、こっちを巻き込みたくてしょうがないって顔になっている。
「テルミットとかどうです? サーマイトとも言いましたっけ? それを張り付けて核まで溶かすとか」
「テルミット? なんだそれは?」
「あー……。鉄が溶ける温度で燃える粉です」
酸化鉄とアルミの粉を混合した物とか、いってもわからないだろうし。そもそも電気とか大量に消費するけど、魔法陣とかで代用するから問題はないのか?
「ふむ。そんなのが手軽に扱えたら、魔法使いは廃業だな」
「そうですね。ただ、使い勝手は悪いですけどね。少量だと溶かすには足りませんし。けどジョッキ一つあれば、多分鉄でできた魔法生物の背中から胴体までは溶けるので、手足の関節を破壊して、張り付ければ倒せそうですけど……。張り付けた物が一定時間燃える前提なら、張り付けられる者が背中や頭に張った方が被害は少なそうですけど」
「ま、その辺は剣崎と相談しておくよ。では、鉄でできた魔法生物への対処方法はこのくらいで良いですかね? 何個か試作品が出来上がったら、報告書と実物を用意します。そしたらカーム君に連絡を入れますので、またお越しいただいてもよろしいですか?」
「は?」
ちょっと待て。なんで俺が大魔王様への連絡係になってんの?
「かまわん。一介の冒険者が束になっても倒せぬ魔物だ。そういう物があればこちらとしても助かる。では、有意義な話し合いであった。流れた金銀については、先ほど話し合った通り、こちらでも進めておく。わかりやすい資料を作ってくれて感謝する」
「え?」
大切な話はもう終わってるの? 数日くらい協議しないの? どっちも優秀過ぎるだろ。魔王部下さんが抱えてる書類の束はそれか。
「カーム。俺の訓練に口を出せ。昨日見せた魔法について詳しく教えろ」
「うぇ?」
「行くぞ」
「ちょ。ちょっとま――」
そこまで言ったが襟を掴まれ、一気に風景が変わり、昨日の闘技場に転移させられた。本当滅茶苦茶強引だなこの人。
「では、音速については理解しましたか?」
「あぁ、一を数える間に、三百歩の距離を移動できる速さだな」
「えぇ。形については?」
「空気の壁ができるから、先を尖らせろ。安定しないから矢の様に羽を付けろ」
「はい。正解です。それを踏まえ、昨日俺が見せた感じで、なぜか用意されてる鉄の塊にぶち込んでください」
俺は簡単に説明をして、大魔王様にちょっとした知識を教えた。
「まずはダイヤモンドだな」
大魔王様はそう言い、ダイヤモンドを飛ばすが、爆音も衝撃波も出ていないし、杭の先端が少しめり込んだだけだった。
「木に矢が刺さった時と同じ様に、鉄にダイヤモンドが刺さりましたね。あと太いのでもっと細く。じゃないと貫通力が出ませんよ?」
「ぬぅ! デカければ良いという訳ではないのか……」
そう言って大魔王様は、もう一度鉄の塊にダイヤモンドの杭を打ち込むが、今度は刺さらずに砕けた。重くてあの速度でぶつけりゃ、鉄相手でも自重で砕けるか……。
「先ほど勇者が言っていた、材質の目って奴ですね。衝撃には弱いので」
「ぬぁっ!」
そして少し注意をすると、大魔王様が一瞬で消えたと思ったら、鉄の塊の方に移動していて、手には今まで持っていなかった剣を持って立っていた。
「ふん。そもそも近接系が、魔法を使う事が間違っているのだ」
そして血もついていないのに、剣を払う様に一度振ったら剣が消え、鉄の塊が真ん中から切れていた。ってか怒って、剣で切りかかりに行ったのかよ。本当この人わかんねぇなぁ……。
「そうですね。誰にでも向き不向きがありますので」
「そうだ。小手先の技術でどうにかできると思っていた俺が馬鹿であったわ。動けなくなるまで破壊できる奴もいるのだ。俺は勇者のカガクと言う物に期待するだけだ」
「……そうっすね」
そう言って俺は、テルミット溶接とかで、真っ赤に燃える粉をイメージし、鉄の塊の上に盛り、【火】を放って点火した。
「アレがテルミットです。なんか物凄くやばそうな感じで燃えてますけど、溶岩より熱く、鉄がドロドロに溶けます」
そして反応が終わり、火花が収まった頃に鉄の塊に近づくと、上部がドロドロに溶け、先ほど魔王様が切った面に流れ込んだ鉄が冷えて固まっていた。テルミット溶接そのまんまだな。
「ふむ。これほどまで激しく燃えるものなのか。カガクとは面白い物だな」
「ですね。俺からしてみれば、考え付く奴は頭がおかしい奴としか思えませんけど」
実験しなくても、計算式で大体の結果が出るからって事で、ブラックホールに飲み込まれた場合はどうなるかとか、高い場所からスーパーボールを落とした時の跳ね返る高さとか、全部計算で出せるし。
大気圏突入時の角度とか、大体どの辺に落ちるとか、本当理数系は苦手だったわ。
「そうか。頭がおかしいか」
「えぇ。俺の基準では、鉄を切れる大魔王様も、頭おかしいと思いますよ」
「よくもそんな事を俺に言えるな。俺からすれば、あの鉄の塊を貫く魔法を使えるのも、頭がおかしいとしか言えぬな」
大魔王様がにやけたので、俺は肩をすくめていた。
「魔王になる奴は、全員頭がおかしいって事でいいんじゃないんですか?」
「そうだな。色々な意味で頭がおかしい奴の集まりって事で良いな」
大魔王様が鼻で笑ったので、俺も鼻で笑った。
「にしても……。よくもまぁ音速だの空気の壁だのと。挙句にテルミットだったか? お前も十分に頭がおかしいぞ?」
「俺の島には勇者が数名いますので」
俺は超が付く笑顔で誤魔化しておいた。
盛大に今後のフラグの種を蒔いて行くスタイル。
2019年6月21日で魔王になったら領地が無人島だったが、初投稿から5年経ちました。
長く続けられたのも皆様のおかげです。
文字でシム〇ティをやる様な、超が付きそうなスローライフ系の続けますが、これからもよろしくお願いします。




