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第296話 海路を外れている理由がわかった時の事

 翌朝。俺は朝食用の魚を持って来てくれた水生系魔族に声をかけ、泳ぎの早い人達に声をかけてもらい、転覆した船の荷物や、遺体の回収をお願いした。作業は明るいうちの方がいいじゃん? そして昼過ぎに、小舟数隻に持ってこられるだけ持って来てくれた。

 確かに夜中に行って朝には往復できる時間だけど、夕方かと思ったわ。


「カーム。ちょっといいか?」

 そしてガウリさんに呼ばれ、少し離れた場所で話をする事になった。

「ちょっと耳に入れておいて欲しいんだけどよ、あの箱の中身、人族に問いただした方が良いぞ。船が転覆した一帯の水が臭すぎる。ありゃなんだ?」

「さぁ? 島に入らない荷物だと思ったので、中身は聞いてませんが……。あー、大体わかりました」

 小舟の方を見ると、麻薬狼としてキースが育てた子とは別な狼達が、どんどん集まって少し離れて木箱の方をずっと見ていた。

「ガウリさん。体調の方は平気ですか? 何か変な高揚感とか多幸感って出てません?」

「なんでそんな事聞くんだ? まぁ、少し臭いに中てられたけどおかしいところはねぇぞ?」

「なら、荷物を持って来てくれた人達にも同じ事を聞いて、そんな症状が出てるなら俺に素早く報告ください。絶対に!」

「お、おう。わかった。今直ぐ聞いてくるわ」

 ガウリさんがそう言って海に入ったのを確認し、第三村の倉庫に行き、バールを持って木箱に向かった。


「はい。アウト。こいつは勇者案件か? それともカルツァか? どっちにしろ両方だな」

 無作為に木箱を開けて中を見ると、布袋に小分けにされた物が沢山入っており、所々茶色く変色していたので、一つだけ開けてみると禁輸品の葉っぱが詰まっていた。

「はいはーい。ちょっとどいて下さいねー」

 俺は木箱の近くで、何が入っているのかと話し合っていた第三村の人達を退かし、また無作為に木箱を開け始める。

「はいはいはい……。これもね……。トローさん。そっちも好きな箱を一個開けてくれません?」

 俺はそう言って、トローさんの足元にバールを放り投げた。

「おい、こいつはなんだ?」

「トローさん達初期組は、多分見た事あると思いますよ?」

「あん? どういう意味だ? あーはいはい。確かに見た事あるな。どうするんだ?」

「証拠品として押収。少量なら燃やしますが、ここまで多いと、どこかの犯罪組織が動いてる可能性が高いですね」

 俺はそう言って近くのフルールさんに近寄り、まずはカルツァに連絡を取ってもらい、会田さんにも同じ事を伝えてもらった。

「女貴族の方は、箱を持って今直ぐ庭に来てくれってさ。勇者は忙しいから、荷物をいつもの所に預けておいてって」

「はいはい。とりあえず先に半分は貴族の所に持って行きますかー。残りは勇者行きなので、トローさんは見張っててください。使ったりした奴がいたら、海岸に首だけ出して埋めるって言っておいて下さいね。んじゃちょっと行ってきます」

 俺は大型の方の転移魔法を使い、木箱が半分入っている事を確認して、カルツァの屋敷まで転移した。


「おっと。もう待機してましたか。あれから動きとかありました?」

「そんな事より、目の前の事が先じゃないのかしら? まずは詳しく説明をちょうだい」

 カルツァは、腕を組んで立っており、箱を顎で指しながら、そんな事を少しイラついた声で言ってきた。

 この間は怯えさせちゃったけど、今回は平気みたいだ。多分俺の雰囲気とかがいつも通りだからだろう。

「手短に言います。二日前から島の方では雨が強く、昨日の明け方まで嵐的な天気でした。そして朝になったら、水生系魔族の方が、転覆した船から人族を救出、島に連れてきました。なのでこちらで保護。そして今日の朝に、明るいうちに荷物の回収を頼んだらコレです。海路を外れている。見た事がない船という情報から、俺は密輸って推測。どこかに畑とか、犯罪組織がある可能性大ですね。なのでとりあえずこの辺を領地に持ってる、カルツァ様にご報告って訳です」

「……助かるわ。これで全部かしら?」

「いえ、半分です。残りは人族の大陸の勇者に持って行きます。未回収の物もあるかもしれませんので、増えるかもしれませんがね……」

「そう……。っち。困ったわね。こんな量がどこかで栽培されてるって事でしょ? どっちからどっちに運んでいたとか聞いてる?」

 カルツァはこっちにまで聞こえる舌打ちをし、イライラを隠そうともせず、腕を組みながら貧乏ゆすりの様にカカトをトントンとしている。

「いえ。落ち着いた頃に聞く予定だったのでまだですね。正確には今日の夕方にでも聞く予定だったんですけど、なるべく早く聞いて報告します」

「そう。ならそっちは任せるわ。こっちはスラムに潜ませてる部下に探る様に言いつつ、小さな港のある村の監視を強化させるくらいしかできないわね」

 そう言いながらも貧乏ゆすりは止まらず、ヒールのかかと部分の地面がかなり窪んでいる。かなりイラついてるな。


「同じ様な事を、人族の勇者にも言っておきますので、減ると良いですね。んじゃこれの処分は任せます。証拠品にするなり埋めるなり、好きにしてください。どう使おうと俺には関係ないので」

「報告感謝するわ。ここまであると、かなりの大規模化してる可能性があるわね。あなた! 噂程度の物でもいいから、なるべく情報を集める様に、スラムに忍ばせてる者に通達を出しなさい。私は国王様に手紙を出すわ」

「あぁ、わかった」

 カルツァが俺にお礼を言うと旦那に指示を出し、カルツァは屋敷の中に入って行った。

「……俺、帰っていいの?」

「いいんじゃないんでしょうか?」「よろしいと思います」

 近くで見ていた門番やメイドさんに確認を取ると、そんな答えが返って来た。これ笑う所か? まぁいいか。

「じゃ、どこか雨の当たらない場所にでも運ぶか、天日干しにして、軽くなってから運ぶかは任せますよ。んじゃ失礼します」

 俺はそう言い、数歩下がって第三村に転移した。ってかクリームに対する動きとか知りたかったんだけど、また機会があったらでいいか。どうせ報告に来るし。


「あー。今度は王都だよー。本当こういうのは困るわー。けど見つけちゃったなら仕方ないっすよねー」

 そう笑いながら荷物を見張ってくれていたトローさんに言い、俺は木箱の方に近づく。

「で、貴族はなんて言ってた?」

「別になにも。勝手に動いてくれますよ。俺は報告だけ……あー、どっちからどっちに運んでたのかは聞きだしておいてくれって言ってたな。どんな小さな情報でもいいから、スラムに忍ばせてる部下にかき集めさせろって言ってたっけ」

「そうか。俺は買う側だったし、そういうのは知らん。すまんな」

「いやいや。気にしないで良いですよ。別に()でやらなければ問題ないですし、過去の事なんか気にしません。やってたとかなんか、過去の事掘り返すつもりもないですけどねー。んじゃ行ってきます」

「あぁ、俺は丸太運びに戻るけどよ、ビゾンとか動かしたりしないのか? 一応飼ってる(・・・・)んだろ?」

 トローさんは腕を組みながら、見張っていた木箱に座り、目を据わらせながら提案をしてきた。

「飼ってるだなんて人聞きの悪い。ただの協力者ですよ。ただ、そっち系で使えるなら雇う事はしますけどね。それと、危ない場所に突っ込ませるほど腐っちゃいません。潜入調査は、専門家に任せるに限ります」

「そうか。一応敵対してたが、死んで欲しいと思った事はなかったから安心した。お前がビゾンやその仲間をそう使う(・・)奴じゃなくてよかった。そんな事させたら、お前に対しての考え方を多少変えるつもりだったからな」

「やだなー。俺はそこまで腐ってませんよ。今あいつは無遅刻で真面目に蒸留所で働いてる、真っ当な奴ですよ? そんな奴の人生を狂わせる様な事はしませんって」

 俺は笑顔で言い、木箱に座っているトローさんに退いてくれてと、手を振る様にして立たせてから、王都の地下に転移した。

 ちなみに転移前に、水生系魔族が変わりはなかったと、忘れてたかの様に言ってきた。


「ヤ〇〇トでーす。何かお変わりありませんか?」

「そんな物騒な物を持ってくるヤ〇〇トなんか、未だかつて見た事ないですよ?」

 地下で見張りをしていた、赤土の事を教えてくれた勇者さんに突っ込まれ、会田さんは忙しいと思ったので、カルツァと話した事や、どう動くかとかのメモを残しつつ、少しだけ世間話をする。

「そうですねぇ。なんか大陸の中の方の帝国が、国土肥大に力を入れているとか」

「うわ。帝国らしい帝国だ。広げすぎても管理できるんすかねぇ?」

「そういうの詳しくないんで、よくわかりませんね。恐怖で抑え込むとかじゃないんですか?」

「そういうのは会田さんに聞いた方が詳しそう。ってか帝国があまり良いイメージがないのは、絶対宇宙の映画のアレのイメージが強いですよね」

「あー。アレですか。大好きで全シリーズ見ましたね。ホワイトハウスに宇宙要塞を建造してって、署名を送ったのにはクスッとしましたけど」

「建造費どのくらいだよ……」

「確か八十だか九十京ドル必要だから却下って、回答してましたよ」

「ユーモアあふれる回答だなぁ」

「ですねぇ……。宇宙に行ってみたかったなー」

「無重力下で水飲みたい。魔法で水浮かせられるけど」

 そう言って【水】を球状にして浮かせる。

「それを啜れば気分は宇宙飛行士ですね。じゃ、今後の処理もあるでしょうし、この辺にしておきますか」

「ですね。じゃ、俺は帰ります。それ飲んじゃっていいですよ」

「はいはい、気分だけ宇宙飛行士で飲みますね。じゃ、会田さんにはよろしく言っておきますよ」

 そんなどうでもいい話しをしつつ、木箱を一個だけ足元に置いて、俺は第四村に転移した。


「北川。ちょっと来てくれ」

 俺は海岸に転移し、畑仕事をしていた北川を呼んだ。

「なんだ。もう少しで区切りが良かったのによ」

「悪かった。こいつを見ろ、昨日話した、転覆した船から回収した物資だ」

 そう言って木箱を開け、今までの事を全て話した。

「そうか……。ぶん殴って良いか?」

「聞きたい事を正直に言わなかったら良いぞ。どうせ最後は薬だけど」

「そうか。で、今か?」

「夕方だ。それまで畑に怒りをぶつけてろ。とりあえず迎えに来るから、ロックも頼む」

「あぁ、こっちからロックには言っておく。後アスト(ASST)の連中には、教材として見せておくぞ」

「その辺の判断は任せる。んじゃ夕方にまた来るわ。区切りが悪いのに呼んじゃって悪かったな」

「気にすんな」

 そう言って北川は手を上げて畑の方に向かって行ったので、俺は執務室に戻った。



「んじゃ行きますか」

 いつもと変わらず第三村の開拓手伝いをしてから第四村に転移し、既に待っていた二人に軽く挨拶をしてから、第二村の方を親指で指した。

「おう」「そうっすね」

 そして北川が拳を手の平に叩きつけながら、ロックは目を座らせながら言ったので、やる気は満々だ。


「お疲れ様です。昨日の船乗り達は落ち着きました?」

「えぇ、昼食は普通に食べられるくらいにはなってましたよ」

 俺は近くにいた人族に聞くと、極々普通の答えがもらえたので、共同住宅の方に向かった。箱は北川が軽々と一人で持ってくれたので、移動は楽だった。

 ロックはジャクソンさんを呼んでくると言って、少しだけ別行動をしている。

「どうもー。調子はどうですかー?」

「あぁ、殆どが快復はした。助かった」

 俺は多目的用の大部屋にいた船長に声をかけると、北川の持っている箱の方をチラチラ見ながら答えた。気にはなるらしい。しかも船員の中には、凝視している者までいる。

「で、少々お聞きしたいのですが。昨日助けていただいた水生系魔族の方が転覆した船から、なるべく物資を回収してきてくれたんですけど……。コレ。説明して頂けます?」

 俺が笑顔でそう言った瞬間に、船長の目が泳ぎ出した。やっぱり中身は知っているんだな。


「知らないな。なんだそれ?」

「そうか。なら教えてやる。禁輸品の葉っぱ満載の木箱だよ」

 北川が落とす様に木箱を下ろし、蓋を蹴り開けて小分けにされた袋を一つ取った。

「……もしかして。俺達は知らないうちに、運び屋にされていたんでしょうか?」

 あー。なんか演技がわざとらしい。目が泳ぎまくってるし。便利な海路を使わない理由ってこれだな。

「そうだと良かったんですけどね……。回収した木箱の殆どが禁輸品で、残りは保存食とか小麦だったんですよ……。一個だけならその言葉を信じたんですけど……。荷物のほとんどが葉っぱだと、さすがにそれは通らないと思いますよ?」

 俺は笑いながらまだ湿っている小袋を取り出す。


「正直に話せるなら、今のうちにお願いしたいんですけど、話せないならクソ正義感の強い勇者様がブッ飛ばすとか言ってるんですわ……」

 俺はテーブルにあったカップを持ち、小袋を握って搾り汁をお茶に混ぜた。

「戻ってこられないくらい良い気分になりたいか、ブッ飛ばされるか選ばせてやる。正直に話せば、全員客人のまま港町まで運んでやるぞ。その後は犯罪者として突き出すけどな」

「し、知らねぇ。俺はこの荷物を運んでくれって言われただ――」

 船長がそう言った瞬間、北川が船長の事を殴りつけた。頭がはじけ飛んでない時点で、かなり手加減してるみたいだ。

 そして俺は昏倒している船長の鼻をつまみ、口を開けて持っていたカップのお茶を口に流し込み、口を塞いて飲み込んだのを確認してから立ち上がる。


「さて、この事は魔族大陸の貴族と、人族の大陸の勇者には伝えてある。大規模な取り締まりや、隠し畑の捜索に取り掛かると思うが……。刑が軽くなりたい奴は言った方が賢いと思うぞ」

「あ、もう始まっちゃってるんすね」「すまん。遅れた」

 少し暴力を振るったところで、ロックとジャクソンさんがやって来た。

「少し喋りやすくしてやる。大抵は元寒村だった、人のいなくなった村に奴隷を連れ込み、森の中を開拓して、そこで育ててる事が多いぞ。普段は普通に生活しているように見せかけてな」

「何回か似た様な畑を潰したから、手口は似てる事が多いっすよ。こいつもソレだと思います」

 そしてジャクソンさんとロックの援護が入った。廃村の利用か。この辺は報告書だな。

「ま、その辺は知らないだろうから、どっちからどっちに運んでいたか……。だな。北川、気に食わねぇなら一人残して殴って良いぞ。別に犯罪奴隷を売って金にしようって考えはねぇし」

「あいよ。安心しろ、殺す気はねぇから」

「ひ、人族の大陸、■■って村から、魔族大陸の××の村に運んでた!」

 そして北川が三人ほどブッ飛ばすと、一人が叫んだので、結局は薬の出番はなかった。良かったのか悪かったのかはわからないな。

 けど俺だけだったら、最初から薬を使ってたし、問題はないか? 個人的に暴力は避けたいからな。


「今【解析】を使ったんすけど、船長は運び屋とか、密航幇助(ほうじょ)者ってありますね。他の奴は商品に手を出してるのか、普通に買ってるかは知りませんけど、中毒者ってのもいますね。あ、船長に今中毒って付きました」

「解析って便利だなー。俺も使われたし、本当勇者の能力って便利だな。じゃ、最初に喋らなかったから結局は今から罪人って扱いな。船にも拘束して乗せるから。夕食もパンと薄いスープだけな。食えるだけありがたいと思え。んじゃうっ血とか壊死しない程度に全員縛るか。誰でもいいから縄持って来て」

「あ、俺が持ってきますよ」

「助かる。頼むよ」

 そしてロックが持って来てくれた縄で全員を縛り、多目的用の大部屋に全員拘束をしておいたが、船長だけはずっと笑いっぱなしだった。

 不味ったな。ちょっとやりすぎたかもしれない……。意識が火星に行ったままだなこりゃ。

 とりあえず手紙を出しちゃったかもしれないけど、カルツァに村の名前とか報告を口頭で急いで伝えに行っておいた。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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