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第295話 まだまだ差別が多いと思った時の事

 翌日、すっかり嵐は過ぎさり、見事な快晴になった。

「ファーシル。屋根とかどうするんだ? 大工でも派遣するか?」

 朝食をファーシル一家と一緒に食べつつ、屋根が吹き飛んだとか言っていたので、なんとなく聞いてみた。

「んー? どうにかなるんじゃないか?」

 どうにかなるって……。俺はお前達の家の構造とか全く知らないんだけど?

「自分がファーシルと番になる前に作った物ですので、今度は少し頑丈に作ってみます」

 あぁ、男が作るのか。なんか太い木に枝とか集めた物しか想像できないんだけど。実際どうなってるのか気になるんだよなぁ。

「少しじゃなくて、しっかり作ってくれ。別にいつ来てくれても問題はないが、今回みたいな嵐で毎回吹き飛ぶのも問題あるだろ?」

「そうですね。少し立派な木を選んでみます」

 なんかツリーハウス的な物でも大工に習わせたくなって来たわー。それか木に板を打ち付けて、床だけ頑丈にさせるとか……。


「んじゃ、朝飯ありがとなー」

「ありがとうございました」

「あぁ、困った事があったらいつでも頼ってくれ。医者に子供を見せるハーピー族も増えてるからな。そんな気軽さでいいぞ」

「そうね。そうすればコルキスもメルも喜ぶと思うわ」

「そーそー。いつでも遊びに来ていいよー」

「おう! 頼らせてもらうぞ!」「ありがとうございます」

 そう言ってファーシル一家は山の方に飛んで帰って行った。

「さて、洗い物して仕事に行きますか!」

「今日は私がやる。カームは少し村の見回りをした方が良いんじゃない? 風強かったし」

「それがいいかもね。私達の事を大切にしてくれるのもいいけど、そういうのも大切なんじゃない?」

「……そうだな。んじゃちょっと見回りしてくる。行ってきます」

「いってらっしゃい」「いってらっしゃーい」

 俺は四人に見送られ、落ち葉や枝が落ちている歩きなれた道を、少し寄り道しながら職場に向かう事にした。


「うっへ。あんな太い木が途中からが折れてる。もう根元から切らないと危ないな。畑はー、まぁ大丈夫そうだ。屋根とか飛んでる感じもしないと」

 そう独り言を言いながら歩き、クリーム製造をしてくれている少女達の所に顔を出そうと思って足を向けた。

「おはようございます。昨日の嵐で、何か問題とかありませんでしたか?」

「おはようございます。住んでいる所は問題ありませんが、朝食が終わったばかりですので、作業場の方はまだ確認してません。あとは……、皆が怖がって一緒に寝たくらいでしょうか?」

「はは、良いお姉さんしてますね。そんな調子でこれからもよろしくお願いします。作業はいつも通りの時間でいいよ。先に俺が行ってみてくるから」

 そう軽く挨拶をして、三つしかない鍵を鍵束から選びながら、クリームの作業場の方に向かった。


「あー。問題なさ過ぎて何もいう事ねぇわ。いつも通り整理整頓されてるし、瓶の在庫も作り終わった商品も綺麗に並んでる。在庫も足りないって事はないし、雨漏りもないな」

 そう言ってドアを閉めてから鍵をかけ、物資集積所の方に向かい、遠目から見ても変化はないし、(かんぬき)を外して中に入っても雨漏りとかもなかったので、そのまま執務室に向かおうと歩こうと思ったら、海岸沿いのパルマさんが変化した。

「第三村に、海に住んでる魔族の人が、人族を背負って第三村に集まってるわよ。なんか話声を聞いてると、船が転覆してたのを見つけたって」

「……書置きを残してから向かいますので、少しだけ時間を下さい」

 俺は走って執務室の裏口のカギを開け、窓を開けてから書置きを残し、そのまま執務室から一応スコップやバール、マチェットを保険として持って、第三村に転移した。




「おはようございます。パルマさんから状況は聞きました。どうなってます?」

 俺は転移してから海岸に走り、一番近くにいた奴に話しかけた。

「あ、どうもッス。えー、疲弊しまくってる感じっすね。今あそこでお湯を飲んでる奴が、比較的まともだったんで、トローさんがちょっとだけ話を聞きましたよ。今は見張ってろって言って、毛布とか取りに数人で行きました」

「ありがとうございます」

 そして俺は辺りを見回して見知った顔があったので近付いていく。

「どうもガウリさん。ちょっと状況を聞かせてもらっていいですか?」

「あ? いいぞ。昨日の晩だな。朝日を背中にして右手側の海域に、転覆した船があるって仲間から聞いて、泳ぎの速い連中全員で向かったんだよ。そしたら木屑にしがみついてる奴が、もう疲れ切ってて溺れそうだったから、そのまま夜通し連れて来た。海底を漁ったが、死体は見つけられなかったし、物資はそのままだな。とりあえず命優先だ。迷惑だったか?」

「いえ、問題ないです。問題があるならこの後ですね。向こうがどう出るかで、こっちの対応を変えないと不味いので」

 俺は海岸に寝転がっている人族(・・)を見ながら、腰にぶら下げているマチェットをポンポンと叩いた。


「まぁ、そうだろうな。見た事のない船だったから、多分島を経由しない別な海路の連中だろう。ここの噂くらい聞いてればいいんだが……」

「そうですねぇ……」

「第二村は島の反対だし、第一か第四に連れて行けばよかったか? あそこは人族もいるし」

「近い方が良いでしょう。最悪休憩させてから運べばいいんですよ。ちょっと熱いスープでも作ってきます」

「あぁ、その方がいいな。陸の生き物にしては冷え切ってる」

 そして軽く手を挙げ、人族を見ながら竈の方に向かい、まだくすぶっていたので薪を足して、寸胴に【熱湯】を入れ、余っていた野菜を切り始め、近くにいた女性に下処理が済んでいる肉を何でもいいから持って来てくださいと頼んだ。


「おら毛布だ。とりあえずてめぇら配れ、俺はカームに……」

 大量の毛布を抱えて来たトローさんと目が合うと、なんか語尾を小さくして固まってしまった。

「続けて良いですよ。俺が何なんですか?」

「いや、お前に報告しねぇとって奴だ。どこまで知ってる?」

「転覆した船が夜中に見つかり、夜通し泳いでここに運んで来た。までは」

「そこまで知ってればいい。で、何してんだ?」

「冷え切ってるから、余り物に肉を追加してスープ作ってますよ。あんな状態じゃ話も聞けやしないでしょ?」

 そういいながら、肉を鍋にぶち込み、どんどん煮出し、刻んだ野菜を入れて、さっさと煮込み始める。順番はこの際無視だ。温かくて味が整ってればいい。

 そして塩コショウで味を調え、香草なんかも入れて、肉の臭みを消したっぽい雰囲気だけ作り、視界の隅に見えたベーコンも、細切れにして鍋に入れた。


「んー少し薄味でいいか。海水とか飲んでそうだし。あ、生姜とニンニクも入れちゃえ」

 そして思い出したかの様に、体が温まる生姜とニンニクも手に取り、雑に切って後から入れる。

「んー。こんなもんか? あとは少し煮込めばいいか。よし、煮えたと思ったら配っちゃってください。俺はちょっと話を聞いてきますので。あ、灰汁は取っといてー」

 俺はその辺にいた女性にそう言い残し、海岸に倒れている男達に近寄って行く。


「この中で話せる者、もしくは船長はいるか!」

 俺はなぜか数人から睨まれ、全員が同じ方を見たのでそっちに目線を移すと、一人の男と目が合った。

「あんたが船長か?」

「あぁ、そうだ。ここは噂の魔王が住む島か?」

「……あぁ。何か問題でもあるのか?」

「魔族と話すつもりはねぇよ。人族の代表を連れて来い」

 あーはいはい。いまだに魔族嫌いの人族ね。まぁいいか。

「魔王じゃ駄目なのか?」

「駄目だね。良いから呼んで来いよ三下」

 船長は俺を睨むと、疲弊しきっているのか低い声で言ってきたので、肩をすくめてため息を吐く。

「んじゃ呼んできますよ。少々お待ち下さい」

 んー、誰が良いかな? 北川で良いか。そう思いつつ第四村に転移し、俺は北川に理由を話して、ちょっと話を聞いてもらう事にした。


「代表の北川だ。とりあえずお前等、まず先に助けられた事に感謝すべきじゃねぇのか?」

「あ? なんで魔族なんかに感謝しなきゃいけねぇんだよ。別に助けて欲しいって頼んだ訳じゃねぇぞ」

「そうか。ならもう一回溺れて来い」

 そう言って北川は船長の胸倉を笑顔で掴み、持ち上げて股に手をかけ、丸太を投げる様に海に思い切り投げ飛ばした。あれは五十メートルは飛んだな。

「さて、泳ぎたい奴は他にいるか? ん?」

 北川は笑顔のまま辺りを見回すと、全員が俯いて目を合わせようとはしなかった。

「じゃ、俺から一番近いお前な」

 なんか語尾に音符が付きそうな声で、北川はもう一人を海に投げ飛ばした。


「止めろ! なんでお前は魔族なんかに従ってやがる! 俺達は同じ人族じゃねぇか!」

「あ゛? ラズライト王国が魔族と停戦して、そういう差別的なのは止めようぜってなってるだろうが。それなのに、まだそんな事言ってんのかよ。あと従ってるんじゃなくて、助け合って生きてんだよ。カーム。お湯も飯も抜きでいいぞ。よしお前等、こいつらを適当に溺れそうな距離まで連れてってくれ。助けてもらっておいてこの態度はねぇわ」

 そう言って、海岸線で待機していた水生系魔族に向かって、何か恐ろしい事を言い出した。

「助けたのにそりゃねぇよ。だったら最初から見殺しにしてる」

 そしてスズキみたいな顔の水生系魔族が、腕を組みながら北川に言い返した。

「魔族はこう言ってるぞ? 助けてもらっておいて、礼も言えねぇ奴は俺は嫌いなんだよ。元はいがみ合ってても、こういうのは最低限の礼儀だろ? さてもう一人な」

「や、止めろ! あ、ありがと――」

 そう言って北川は、近くにいた奴を掴むと、また海に放り投げた。コイツもコイツで容赦しねぇなぁ……。飛ぶ直前でお礼言ってんじゃん。


「「「ありがとうございました」」」

「最初からそう言えば良いんだよ。んじゃ、悪いけど助けてやってきてくれ。一人は腹打って浮いてるから、ありゃヤバいぞ」

「なら最初から投げんな。あんな距離も泳げねぇほど疲弊してんのに、何やってんだよ馬鹿」

 そう言って三名ほど海に飛び込み、船長達を引っ張って来た。

「はい。お礼は?」

 北川は、超笑顔で脅すように言った。アイツ意外に怖いな……。

「「「ありがとうございました」」」

「よし。カーム、お湯出してやってくれ」

「あいよー。風呂ぐらいの温かさだから、そのまま入って良いぞ。体の芯まで冷え切ってるだろ?」

 北川に言われ、俺は【お湯】を人数分浮遊させ、鍋の前で器にスープを分け様としていた女性を見て、軽く頭を縦に振る。


「はいはーい。暖かいスープですよー」

「文句言う奴は、そのまま熱いスープをぶっかけるからな」

 そして北川が睨みながら言うと、黙ってスープを受け取り、飲み干してからお湯に入っていた。

「で、船長。どうしたい? コランダムまでなら船が出てるぞ? それからは俺が書いた書類で、勇者所有の船で最寄りの港町まで乗せてってやれると思うぞ? な、魔王様(・・・)

「……ん? あぁ、俺か。普段からお前に、魔王って呼ばれないから誰かと思ったわ。そうだな。島所有の、乗組員の殆どが人族の船だ。コランダムまでだったらタダでいいぞ。ま、その船が戻って来るまであと二日か三日だけどな。それまでは人族が住んでる場所にいてもらうけど、それでいいなら、勇者様(・・・)が言った通り、そういう手配はしておくぞ?」

 俺と北川はニヤニヤしながら言うと、救助された人族達は、全員口を開けて固まっていていた。

 そりゃ勇者が魔王と一緒にいたらそうなるわな。しかも魔族嫌いの人族だし。


「い、今までの無礼をお許しください。魔王様」

 そしたら船長が我に返ったのか、急に謝って来た。

 この謝り方は先代魔王の噂なのか、俺の噂なのか気になるけど、どっちでもいいわ。どうせ島には住み着かないだろうし。

「あーそういうの良いから。気にしないで。とりあえず疲れてると思うから、ゆっくり休んでてよ。人族の多い村に連絡入れて、受け入れ準備だけはさせておくから」

 俺は気にしないで良いと、手を振りながら笑顔で言ったが、なんか滅茶苦茶怯えていた。なんでだろうか? 地味に傷つくわ。

「じゃ、悪い気は起こさない様に!」

 それだけを言い、なんか俺だと話にならなそうなので、北川に任せる事にした。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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