第294話 のんびりしてたが騒がしかった時の事
子供達を親に会わせたその日の夜、珍しく大雨が降り、翌日まで降り続き第三村の開拓は休みにした。と言っても俺は室内での書類仕事があるので普段通りなんだけどね。
「この時期にしては珍しく長く続きますね」
「ですねー」
俺は応接室で、パーラーさんに淹れてもらったお茶を飲みながら、他愛もない話をしつつ、雨音を聞きながらのんびりとする。
風も強く、屋根や締め切った窓にバタバタと打ち付ける様な音が激しく、前世の台風の様な感じを思い出す。
この世界じゃ、本当に家が吹き飛ぶから、全然ワクワクできないけどね。
「もう書類仕事も休んじゃいますか? こんな日は家で寝てた方が良い気もしますけど? 定期船も今日は来ませんし。最初から休みにしておけば良かったですね。まぁ、集まっちゃったのでなんとなく仕事してましたけど」
とりあえず全員……と言っても、交易所にいるのは三人だけど、全員が第一村出身なので、帰宅難民とかにはならないはずだ。
ブラック企業とまでは言い切れないけど、別に明日に仕事を回しても、問題ないない的な物しかないので、そんな提案をしてみる。
裏ではある意味ブラックなんだけどね。
「自分は構いませんよ。後は酒類の売上を計算するだけでしたし」
「そうですね。とはいっても私は、独身者用の昼食作りがあるんですけどね。こういう時は大抵酒盛りをしているので、おつまみが多めにリクエストされちゃうんですけどね」
「まぁ、仕方ないでしょう。やる事なんか寝るか飲むかですし。まぁ、賭け事は黙認してますけど。もう少し観光客が増えれば、賭博場なんかも考えてますが、アレは治安がなぁ……」
俺はそんな事を言いながら、お茶を飲んで一息つく。
「認可の下りてる感じなら多少は良いんですが、悪人が後ろにいて、資金源になってたりするのが多いですからね」
「俺だったら認可を出して、最初からそう言う施設を作りますけどね。そう言うのが入り込む余地をなくすのに。高レートを望む裏賭博場ができたら仕方ないですけど話し合いですかね、それもまだまだ先の話でしょうね」
「カームさんの話し合いは怖いですねぇ……」
「そうですねぇ……」
二人はなんか遠い目をしながら、お茶を飲んでいた。今までの事を考えたら、仕方ないのかな?
「じゃ、今日はもう上がりで。申し訳ありませんが、後片付けと昼食はお願いしますね」
「はいはい。エレーナちゃんも、おばちゃんもいるので平気ですよ。気にしないで下さい」
そう言って俺は立ち上がり、執務室に行って書類を片付けて家に戻った。
「ただいまー。結局休みにしちゃった」
「おかえり」「おかえりー」
家に戻ると、二人は子供達を抱いてウトウトとしていたが、ドアが開く音で覚醒し、微笑んで迎えてくれた。
「早めにご飯作って、お昼寝でもしちゃう? こんな天気だし」
「そうだねー。もう鳥さんや豚さんにご飯あげたし、私はさんせー」
「お肉が食べたい」
「はいはい。今準備するからウトウトしてていいよー。簡単で良いね?」
俺はキッチンに立ち、スズランが絞めたであろう鶏が処理されていたので、野菜炒めを作ってから、とりあえず簡単に薄味の鳥の照り焼きにして、子供達用に、ササミをほぐした物を入れた、ジャガイモのペーストも作った。
「んじゃ。手抜きだけどさっさと食べて、お昼寝しちゃおうか。いただきます」
「いただきます」「いただきまーす」
俺はまず半分ほどさっさと食べ、食べる速度の速いスズランからコルキスを預かり、ササミ入りジャガイモのペーストを、スプーンで掬って口元に運ぶとモリモリと食べてくれるので、とりあえずいつもの半分だけ与え、不満なのかぐずりそうになっているのであやしてなんとか誤魔化す。
「ごめんねー。コルキスは大食いだから、もしかしたらおデブになっちゃうといけないってなっちゃったんだー」
なんか与えれば与えただけ食べちゃうから、ちょっと減らそうか? って昨日話し合いでそんな流れになったので、我慢してもらう。
そしてスズランが食べ終わったのでコルキスを返し、今度は母乳を与えているので、なんか満足している感じだ。
そして今度はラッテからメルを預かり、あーってな感じで笑顔のまま自分で口を開け、口元に持って行くが、あまり食べてくれない。
「本当にメルは少食でちゅねー。お母さんみたいに将来おっぱいが大きくならないぞー」
「やだカーム君。赤ちゃんにそんな事言わないでよー」
「話しかけるのは大切だけど、やっぱりまずい?」
「んー。子供でも一応女の子だしなー。ちょっとデリカシーとかに欠けるんじゃない?」
「そっかー。ごめんねー。女の子だもんねー。お父さんの事嫌いにならないでねー。思春期とかもう超怖いわー」
そう言いながら、なんとか二口分は食べてくれたので、ラッテが食べ終わるまであやしていたが、スズランがコルキスの授乳を終わらせたのか、早めに代わってくれた。相変わらず片手で器用に二人とも抱いている。
「メルはカームに似てるからどうなるかわからない。それに女の子は胸で決まらない」
「まぁ、そうだけどさ。そう言えばリリーと良い感じになりそうな男は、どこが良かったんだろうか? 性格? 強さ? 顔? 同じ男としてそんな事を思う訳さ。好みの問題だから何も言えないけど。親から見ても綺麗だと思うけどね」
親馬鹿かもしれないけど、確かに顔も整ってるし、胸も大きくはないにしろ、ある程度あるっちゃある。性格は姐御タイプなサバサバした感じだけど、そういうのも好きってってのはいるしなぁ。
「リリーの好みが、自分より強い人ってのを考えるなら、荒々しい感じの男なのかしら? そうなると強さじゃない?」
「そういう男でも、基本はエッチだから胸とかじゃない?」
「常に冷静で、なんだかんだで強い奴もいるしな。そうなると総合的な感じか? 逆にリリーみたいなのが駄目ってのもいるだろうし。ま、連れてきてからのお楽しみ……って言いたいけど、気が気じゃないんだよなぁ」
「カーム君の場合は、ある意味死活問題だしねー」
「最悪殺さなければどうにでもなるわ。それよりミエルの相手よね。どんな子がタイプだったのかしら?」
「ほんとー。村じゃ誰にでも似たような態度だったし、そんな素振りは一切見せなかったし」
「んー。確かに気になるな」
そんな感じで雑談をしながら食事を終わらせ、少し食休みをしてから寝室に行き、俺が真ん中で、左右に子供達、その外側にスズランとラッテ。
そしてビチャビチャで家に入って来たヴォルフ達……。
ドアがカリカリされたから起きて急いで開けると、なんか退避して来た感じだったので、ボロボロのタオルで拭いてやって、島に来た時に使っていた、ボロい毛布を敷いてそこに寝てもらう事にした。
「ま、ある意味家族全員って感じだな」
「そうね」
「だねー」
「わふん!」
何気なく言ったら、全員が返事を返してくれた。いやー、こういう幸せっていいわー。
そんな事を思いながらウトウトしてたら本気で寝てしまい、気が付いたら夕方だった。
「寝過ごした……。ご飯作らないと……」
寝起きの体内時計でそう思い、呟いたが両脇のスズランとラッテ、子供達はいなかった。
俺は急いで二階の寝室から出て階段を下りると、スズランが夕食の用意をしていて、ラッテがテーブルで豆のヘタとスジを取って下処理をしていた。子供達はヴォルフ達の隣で寝ていた。
「ごめんごめん、寝過ぎた」
「もうちょっと寝てても良かったのに。いつも夜泣きとかの時に、寝かしつけてくれてるんだから、寝不足気味なんでしょ? 気にしないで良いよー」
「かなり助かってるし、気にしないで。夕食は昼食の時に余った鶏肉と野菜をショウユで煮込んだ物だから慣れてる。お米がちょっと不安だけど任せて」
「あ、じゃぁ。甘えちゃおうかな」
俺は苦笑いをして、二人でぐっすり寝ているコルキスとメルを見て少しほっとしながらイスに座って待つ事にした。
煮物にパンは合わないし、俺に合わせてくれたのかな? 本当に感謝だ。
「カーム助けてくれ! 屋根が風で飛んだ!」
少しイスに座ってのんびりとしていたら、急にドアがノックされたので、慌てて開けるとファーシル一家だった。
「とりあえず入れ。雨が入り込む」
ってか山頂付近の巣っぽい物に屋根はなかっただろう……。別にあるのか? ならアレはなんだったんだろうか?
「申し訳ありません。ワイズがいなければ、大きな木の下でやり過ごすのですが」
そして旦那のバリエンテが、申し訳なさそうに説明を付け加え、微妙に羽根の生えたワイズ君? ちゃん? を抱いていた。そろそろ産毛が生え代わりそうだ。
「えーっと。風呂。風呂だ。ちょっとラッテはタオル持って来て。俺は今直ぐ風呂にお湯をぶち込んでくる」
「はいはいはい。これ使ってー」
「ありがとー」「助かります」
ラッテが畳んであった所からタオルを持って渡していたのを見たので、俺は急いで風呂桶に【お湯】を入れ、腕を突っ込んで風呂の温度としては適温である事を確認した。
「もう大丈夫だぞ。三人で入ってこい」
「助かります」
バリエンテが、ワイズを抱いて浴室に行ったファーシルの代わりにお礼を言い、急いで後を追って行った。
「ハーピー族も大変だなー。困った事があったら頼って良いとか言ったけど、まさか屋根が飛ぶとはな……。後で大工でも派遣した方が良いのかな?」
「山頂付近にいるから、個人個人の関りはあるけど、島としては独立してるもんね」
「ちょっとお鍋見てて。鶏かウサギがいいか聞いて、ちょっと絞めてくる」
「あ、はいはい。お願い」
そう言ってスズランは鉈の様な包丁を持って、浴室の方に行ってしまった。スズランなりに気は使っているみたいだ。けどね? 包丁は置いてから行こうぜ?
「「「「いただきます!」」」」
スズランが持って帰って来たのは、綺麗に下処理されたウサギだったので、特に凝った料理ってな訳じゃないが、塩コショウで下味をつけ、大きめにぶつ切りにして、オリーブオイルと、乾燥させた香草とかを使って焼いただけの料理になってしまったが、何回も食べさせて美味しそうに食べていたので、なんとなくコレにしてしまった。ワイズの分はもちろん薄味だけど。
「やっぱりカームの料理は美味い」
「この穀物、美味しいですね」
ファーシルが肉をフォークで、バリエンテがスプーンで白米を美味しそうに食べている。まさか食器を使うとは思わなかった……。いつも手づかみだったし。
「なら良かった。それは第二村で作っている米って奴だ。好みなら何か仕事をした対価に、もらうと良い。で、ちょっと聞きたいんだけど、ワイズ……君? ちゃん? どっち? まだ羽根も全部生え変わってないから、色で見分けが……」
「ワイズは男だぞ」
「じゃあ、君だね。ワイズ君、美味しい?」
「うー」
俺は笑顔で聞くと、ワイズ君は首を縦に振り、手づかみでウサギ肉を口元を汚しながら食べていた。
「可愛いねー。羽はもうそろそろ全部生え変わるから、そうしたら飛べるようになるのかな?」
「えぇ、そろそろ全部生え変わる頃ですね。そうしたら飛ぶ訓練をさせます」
「ティラが、森でウサギを多く見る様になってきたって言ってたから、狩りの訓練は問題ないと思う」
「スズランちゃん。飛ぶ訓練って言ってるんだから、狩りはまだ早いって」
俺はそんな会話をしながら、鶏肉と、何かわからない根菜やジャガイモの入った、微妙に肉じゃがっぽくない物をおかずに食べるが、妙に美味いから困る。本当スズランは肉が関わると、変に感性が働くから侮れない。
まぁ、空気を読んでスプーンとフォークだけど……。
「本当にここでいいのか? 客間は一応あるぞ?」
食事が終わり、交代で風呂に入りつつ、コルキスとメルをワイズ君と遊ばせたりしてたら、寝る時間になったので、布団とかどうすると聞いたら、床に毛布でいいとか言われ、再確認をしている。
「平気です。この様な木の板の床に毛布なら問題ありません。ベッドの方が柔らかすぎて寝づらいので」
「気にしないで良いぞ。ワイズも犬と仲が良いし、しばらくかまってくれてるみたいだしな」
「んーそう言うならいいけどさー。あと狼な」
そう言ってヴォルフの方を見ると、伏せた状態でワイズ君に鼻を押し付けたりして、かまってやっている。本当に賢いなぁ……。
「似た様なもんだろ。な? ヴォルフ」
そう言いながらファーシルが、ヴォルフの腰のあたりをポンポン叩いていた。種族的に相性とか悪そうだけど、別にそうでもないみたいだ。
「わふん!? アオアオーーウ!」
「え? 俺は犬じゃないって言ってるぞ」
俺は翻訳できないからなんとなくでだけど、多分そう言っている気がする。
「じゃ、何かあったら遠慮なく起こしてくれ」
「おう。わかった」
「今日は助かりました」
「気にしないでくれ。ハーピー族には色々お世話になってるからな。じゃお休み」
「おう」「おやすみなさい」
こうしてのんびりしてたのか、騒がしいのかわからない一日が終わった。




