第293話 孫を見せに行った時の事
少しリハビリっぽい話です。
ご感想で空行の事を言われたので、試験的に増やしてみました。
今までは場面転換や、日付を跨いだ時くらいしか入れていませんでしたが、盾FPSや、姫騎士の様にそれとなく入れてみました。
第三村を開拓し始めてからの最初の休み。俺はついにコルキスとメルを連れて故郷に戻る事にした。
キースは船や馬車での移動かもしれないが、日帰りで行き来できるのは個人的に嬉しいと思っている。
「特に持っていく物はないと思うけど、お土産とかある? と言っても、俺がちょこちょこ原価で島の物を店に卸に行ってるんだけどね」
「ない。あっても島のお酒くらい? ヤシの実のとか」
「んー。ないかなー。結構ベリル村ってさ、物が充実してたし」
「酒を買い付けに来る商人が、空荷じゃ来ないからね。じゃ、ヤシの実のお酒だけでいいか。魔法陣出すよー」
「ん」「はーい」
スズランとラッテは、子供達を抱きながら魔法陣の中に入って来たので、安全確認をしてから魔法を起動させた。
「はい。とーちゃーく」
「お腹が大きくなり始めてから来れなかったから、かなり久しぶり」
「だねー。やっぱり変わってないなー」
二人は笑顔で自宅前でそんな事を言ったが、真冬でも換気とか屋根の雪下ろしとかしてたから、傷みはないはず。
「子供達は平気かな?」
「物凄く元気ね」
「ちょっと酔ってるかも? なんかぐずりそう」
「んー、メルは少しだけ、ふわっとしたのに弱いのかもね。多分慣れると思うけど」
「えーアレって慣れるの?」
「乗り物酔いとかは、耳の奥にある、傾いてるとか揺れを感じる場所を鍛えればいいらしいよ。ちょっと船に乗せたりしてみるのもいいかもね」
そして五人で軽く家の中に入り、ほとんど何も変わっていない事を確認し、まずは俺の実家に向かう。
「ただいま。コレお土産ねー」「ただいま」「ただいまー」
「あら、お帰りなさい」
「おう、おかえり」
母さんはわかるが、なんで父さんがいるんだろう?
「今日ね、孫が来るっていうもんだから、お父さん仕事を休んじゃってね」
「仕方ないだろう、まだ一度も会ってないんだから。男の子がコルキスで、女の子がメルだったな。早速抱かせてくれ」
そう言って父さんはスズランの方に行き、コルキスを預かり、母さんはラッテの方に行ってメルを預かった。
「冬に産まれたんだよな? 少し大きくないか?」
コルキスを抱いた父さんが、少しだけ眉に皺を寄せて呟いた。だよね、ちょっと大きいよね。
「物凄くおっぱいを飲む。だから多分そのせいかも」
「俺の作った離乳食も、モリモリ食べるよ。おっぱい飲めなくなるくらい」
「そいつはいいな。元気な証拠だ。話には聞いてたが、本当イチイみたいな角だな。将来が不安だ」
やっぱり父さんもその事に不安なのか、口に出している。俺だって心配だよ。だって自分の子供が成人した時に、少し見上げる様な高さだったら嫌だし。
「メルちゃんは普通ね」
「メルちゃんはミエル君と同じくらいですねー」
「あー。確かにそんなもんだな。もうちょっと食べても良い気もするけど、冬に産まれて夏前なら、これが普通だと俺は思う」
確か一口二口、ペースト状の物を飲み込む訓練くらいだった気がするし。
「で、何か問題は起こってないか?」
父さんが顔を上げ、そんな事を聞いてきた。まぁ、アレの事は黙ってた方が良いな。
「特にないよ。あー、前に戦った勇者が旅から帰って来て、島に来てくれたくらいかな。なんか色々経験してきたらしいけど、リリーとミエルが世話になった勇者と仲も良いし、俺とも特に問題は起こってない。手紙の事は話したと思うけど、あれから二通目は届いてないよ」
「そうか……。それならいい」
父さんは、なんか納得がいってない感じの言いっぷりだが、なんか諦めている感がある。色々な事を正直に話さないから、俺が言わない限りは深く突っ込んでこない気もする。
「カームは結構皆を納得させるのも、折り合いをつけるのも上手いから、問題は多分ないわよ。顔に出さないから、本人が言わないと秘密になってる事が多いし」
まぁ、母さんの言う通りなんだけどね。特殊部隊風の戦闘員を作って、ちょっとヤンチャしてましたとか言えるはずがない。
「アレは? 火傷してる人とか腕がない人」
「あー。そうだった。結構噂が流れているらしくて、まともな職に就けないちょっと訳ありの人とかが、助けを求めて駆け込んできたね。誰かの奴隷とかじゃないから、問題なく保護したけど。まぁ、誰かの奴隷でも、こっちが買い取って給料から少し天引きするつもりだし」
特殊部隊の事を言われなくて良かったわ。
「お前は……。相変わらず甘いというか、その辺しっかりしてるというか……」
「そういう人が働ける職場も整えてるし、増えれば増えたで作業場を拡張かな。好きでそうなった訳じゃないし、平等に扱ってあげないと。単純作業が多かったり、作業効率が低いから、少しだけ給金は安いけどね。それに、そういう人達の出会いの場にもなるし、同じ境遇同士で意気投合もある。来たその日に、声をかけられてた女性もいるし、広い意味で今のところ問題はないかな?」
その日のうちにお持ち帰りとか、結構凄い事だと思うけど、なんだかんだで様子を見に行くと、幸せそうに作業してるし、クリームとかの秘密は今のところ問題はない。
「そうか。他人の幸せも良いが、まずは家族の幸せ優先だぞ? な、コルキス? ってか本当重いな。大きくなってもおデブになるなよー」
「元気に駆け回れば、そんな事はないわよ。けどカームは料理が上手いから、どんどん食べちゃうかもねー」
両親は、抱いている子供達に話しかける様にしながらあやしている。月一くらいで連れてきた方が良いんだろうか?
「ま、森も深いし、泳げる場所もあるから遊び場は多いよ。知り合いの子供もいるし、島民の子供達もいる。多分問題はないね。最悪太らない様な食事に切り替えるし」
「そうか。本来なら好きにさせてやりたいが、お前達の子供だ。俺達が口を出す事はあまりしないが、スライムみたいにタユンタユンにさせるなよ」
「させないよ」
「で、ご飯はどうするの?」
そんな事を父さんと話していたら、メルをあやしていた母さんが食事の事を聞いてきた。
「この後イチイさんの所にも顔を出したいけど、久しぶりに母さんの飯が食べたいから、少しここでのんびりしたい」
「おう、遅ぇから来たぞ」「お邪魔します」
そんな事を言っていたら、ドアが開けられ、イチイさんとリコリスさんが入って来た。ノックくらいしてよ。
「ほら、ヘイル。早く孫を抱かせろよ」
そしてイチイさんは真っ先に父さんの所に行き、コルキスを抱かせろと両手で手前に寄せる様な動作をしている。
「自分の娘に声をかけずにまず孫なの? 順番が違うんじゃないかい?」
「いや。あはははは……。おかえり。特に変わりはねぇか?」
イチイさんはタジタジになりながら頭を掻き、苦笑いをしている。
「ない。しいて言うなら、コルキスが思ったより大きい事くらい」
「あら本当。小さい時のイチイみたいじゃない」
「おい、そんな事言うなよ。子供達の前だぞ」
なんだ? リコリスさんは、イチイさんの小さい頃を知っているのか? っていうと、リコリスさんの方が年上か。
それと、コルキスはイチイさん体型決定かな。
「はいはい。ラッテちゃんもお久しぶり。産後の肥立ちはどうだった?」
「カーム君のごはんが美味しいから、ミエル君の時と同じで問題はなかったですよ」
「はー。やっぱりカームは優秀だねぇ。スズランを嫁に行かせて正解だったわ」
「ま、リリーの時も関係なくスズランはモリモリ食ってたけどな」
イチイさんがそう言うと、スズランが恥ずかしそうに二の腕をドスドスと叩いていた。少しは乙女らしい反応と言えば反応だけど、なんか音が低くて怖い。
「で、出産はどうだったの? やっぱり苦労したのかい?」
「驚くほど早かった。力んだら出ちゃう感じ? 初産じゃないから、痛みにも慣れてたし」
「……んー。私はスズランしか産んでないから、その感覚がわからないわねぇ。けど問題ないならよかった。ラッテちゃんは?」
「私も問題なかったですよ。ミエル君の時より早かったくらいです。けど、産婆さんが……」
「あぁ……。確かに産婆さんが怖かった。ベリル村の産婆さんより物凄く怖くて、逆らえないくらいには」
「子供と母親の命がかかってるからね。それは仕方がないわよ。カームの時もヘイルは言われるがままだったらしいし」
「あぁ、俺の時もそうだったなぁ。リコリスが産気付いたら、はい、はい、の繰り返しで、言われるがままだったなぁ……」
そして父親二人は、なんか懐かしむ様な遠い目をしていた。やっぱり怖いのか。
「ま、いいからコルキスを抱かせろ」
「私はメルね」
そう言って義父母は、子供達を抱きながら破顔して子供達を抱いている。イチイさんのこの笑顔だけはイメージが崩れるから見たくはないんだけどなぁ。
「お。こいつは俺よりデカくなるな。角が太いぞ」
なんだその情報、初めて聞いたぞ。犬の足が大きいと、大きくなる的な感じなのか?
「そうねぇ、故郷でもそんな事言われてたわねぇ」
ってか、二人の故郷ってどこよ? 俺は両親の故郷も知らないんだぞ?
「はぁ……。イチイさんより大きくなるのか……。本当将来が不安になって来た。リリーでさえ手に余ってたのに」
「そん時は任せろ。俺が躾てやる」
「その時は任せます……」
「イチイさんだったら安心して預けられるね。カーム君って、中途半端な加減ができない人だし。スズランちゃんは……。成長しきっちゃうと、どうなるんだろう? 勝てる?」
「積み重ねた戦闘経験があれば無理。お父さんにはなんだかんだ言って勝てないし」
スズランの親子喧嘩を見た事がないから、なにも言えません……。ってか、問題児に育つ前提で話さないで。
「んー。人が増えちゃったわね。キッチンは二人で立つには狭いし……。カーム、お願い」
「はいはい。結局俺が料理か……」
母さんにそんな事を言われ、俺はイスから立ち上がってキッチンに向かう。
「ある物で適当でいいね」
「コルキスとメルにも食わせたいから、それも頼むぞ」
「う、うっす」
イチイさんに睨まれながら返事をするが、そんな人を殺す様な目で言わなくてもいいじゃないか。いつまでも慣れない目付きだ。
さてさて……。鶏肉しかねぇじゃねぇか。もうスズラン用に、から揚げ作る気満々だったなこりゃ。
んじゃから揚げでいいとして……。お、瓶詰めになってるマヨネーズときゅうりの酢漬け。そして玉ねぎ。タルタルソースだな。
むね肉を取って、少しだけ茹でてほぐす。そして米はないから、麦粥になるな。
「はいはい。とりあえずソースはこれね。こっちは、玉ねぎをみじん切りにして、マヨネーズであえただけ。意外に美味しいよ。で、こっちがコルキスとメルの離乳食、ササミ入りの麦粥。煮立ったら潰して、ほぐしたササミ入れただけ。塩味なし。直ぐにから揚げを揚げるから待ってて」
「はーい、おじいちゃんが食べさせてあげるからねー」
から揚げを揚げようと、後ろを向いたらそんな声が聞こえた。声質的にイチイさんだけど、声だけでもイメージをぶち壊す破壊力があるな。
「おいイチイ。俺もあげたいから少しだぞ!」
父さんは父さんで、なんかさっさと終わらせろ感が凄い。
「コルキスは沢山食べるから平気」
「じゃ、私達はメルちゃんね。はい、あーん」
「んー。まだ早かったかなー? 早く食べないと、お婆ちゃん達が食べちゃうぞ」
母さん達はメル担当か。そんな事を思いながら少し振り向いたら、スズランとラッテが微笑んでいた。
んー。こういうの見ちゃうと、リリーやミエルの時みたいに、俺だけ単身赴任状態で行けばよかったとか思っちゃうよ。
けど、たまに会えるから良いってのもあるよな。全員幸せそうだからいいか。
そんな事を思いながら、俺はから揚げを一人で頑張って揚げ続けた。
腰痛が酷く、二週間更新をサボってしまい申し訳りませんでした。




