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第292話 聞かなければよかったと思った時の事

 翌日。俺は北川に第三村の開拓をするから、しばらく午後は顔を出せない、何かあれば言ってくれと言い、それから向かう事にした。

「まぁ……いつも通りの光景だなー。昼間に水代わりに麦酒を飲んで。少しだけベリル酒のんじゃった。って感じですかね?」

「そんなところだな」

 そう言いながら、トローさんも麦酒の臭いが微妙に口からする。姐さんとの飲み比べで実質最後まで残ってたから強いんだろうけど。

「カップ一杯くらいなら、多少脳が活性化して、会議とかでいい案が出るから、酔わない程度に麦酒とかは聞いた事ありますが、俺には酔えないので無理ですねー。ってな訳で、伐採しますか。で、今から肩を叩く方は来なくていいです。他の仕事しててください。大変危険です」

 俺は多分酔っていて、一定以上の基準を超えているであろうという奴の肩を叩く。少し目が座っていたり、顔に出ていたりで。少しなら良いけどさ、見た感じヤバイのはダメだ。滅茶苦茶フラフラしてたり。

 確かイタリアだったかな? 飲酒運転が平気で、全てにおいて自己責任の国ってやつ。

 警察に止められて、お酒を飲みましたか? はい。 酔っていますか? いいえ。じゃ、気を付けて。と。今はどうなってるかしらないけど。添乗員さんの話では、子供がタバコ吸いながらノーヘルのバイクで通学して、酒飲んでても自己責任の国で、アメリカより自由の国とか言ってたっけ。バスとか電車の運転手、飛行機の操縦士は駄目らしいけど。


 俺はサトウキビ畑予定地に行き、早速紐の付いている木を【チェーンソー】で切る。

「とりあえず蒸留所の木材にしたいから、これは引っ張って蒸留所建設予定地に運んでください。あ、重い物を運ぶのにころが必要か。先に細いの切らないとな。馬鹿力の奴が多いから忘れてた……」

 そう言うと、伐採の為に集まっていた人達が変な目で俺を見ていた。あーここで魔法(チェーンソー)を見せるの初めてだったっけ?

 とりあえず皆を無視しつつ少し細い立木の所に行き、切り倒してから丁度いい長さにして、指示を飛ばして木材を運ぶ為に並べさせる。

「あ、倒した奴の枝打ちをしておいてください。俺はどんどん切っていくんで怪我のない様に。何かあればさっき言った通り、丸めた布を背中にぶつけて下さい」

 そう言いながら、引っ張りだすのに邪魔になる根っ子を抜きつつ、皆は魔法で保持しているチェーンソーを見て頭を少し早く振っている。酔いとか回んねぇかな? 大丈夫か?

「うお! 何だコレ。すげぇ切れる。軽いだけじゃねぇ!」

「確か前に使った事があるな。カカオの実を取りに行く時に、道を切り拓くのに使ったなコレ」

「どうりで、使い終わったらしっかり管理しておけって言われてた訳だ。今までの斧とか鉈を使ってたら、違いがよくわかるわ」

 鉄に偽装したミスリル製の道具だからな。うっかり勢い余って足とか切られたら最悪だし、本当は少しだけ飲んでても、仕事はさせたくなかったんだよ。

「お前等! もっと力を入れろ! 普段から力自慢してた威勢はどうした!」

 トローさんは丸太を引っ張るのに、皆に気合を入れている。普段からあんな感じなんだろうか? それならいいんだけど、昨日ので意識してくれたなら素晴らしいと思う。

「うわ、ダメだ。酔いが回ってきやがった」

「チクショウ、いつもみたいに飲まなきゃよかったぜ」

「明日もだろ? 明日はぜってぇ一杯だけにする」

 いや、そこで飲まないって選択肢が出ないのが凄いわ。

「おーい。今酔いが回ってきたとか言った奴。別な仕事しろー。怪我するぞー。初日だから軽めに行くけど、勝手がわかってきたらもう少し効率上げるからなー。今日だけじゃないんだぞー。皆に悪いと思うなら明日頑張れー」

「う、うっす!」

 そう言って酔いが回ってきたとか言った奴は、現場から離れて行った。

 まぁ意識の問題だろうけど、第三村は陽気な感じがバンバン出てるからな。第二村と対極にあってこれはこれでいいけど。なんか昼間からお酒飲んで、楽器でも弾きながらワイワイやってる観光地風だし、悪くはないんだけどなぁ。

 イメージではメキシコ風? タコスとかチリドック、スペインだけどブリトーとかでもいいかも。揚げればチミチャンガになるしな。

 俺ちゃんチミチャンガだーい好きってか? 

 そんな観光地的な妄想をしつつ、ソーセージ用の豚や、調味料のトウガラシとかの飼育や栽培計画も、ちょこちょこ脳内の隅に投げ飛ばしておく。


「んじゃ、とりあえず切っておいた奴は、明日の午前中にでも運んでおいてください。絶対に自分達だけで木を切ろうって思わない様に。お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした!」」」

 夕方になり、気持ち早めに作業を終わらせ、イセリアさんの所に足を運ぶ。一応気にしないとね?

「お疲れ様です。初日ですがどうでした?」

 俺は作業場に入り、中の様子を見てみるとなんか談笑でもしていたのか、三人とも笑っていた。このままスパイの件は杞憂であって欲しい。

「あ、お疲れ様です。皆さん大丈夫ですよ。作業にも問題ありませんし」

「はい、簡単な作業ですし。ご飯も食べられて、お風呂まで入れる。これ以上の事は何も望みません」

「聞いていた以上に素晴らしい所ですね。こんな生活をしたのは子供の時以来です」

「もう少し早くここの噂を聞きたかったです」

 うん。やっぱりなんか重い。けど昨日みたいな、ギラギラした目ではないのは確かだ。

「三人はどんな関係で?」

 なんか話題を出さないと不味いかなと? と思い、なんか適当に聞いてしまった。やばかったか?

「セレナイトから二つ離れた町で、日雇いをしつつ助け合って何とか生き延びてました」

 重いなぁ……。行った事ないけど、その辺もカルツァの領地なんじゃねぇの? ちゃんと仕事してんのか?

「……それなら良かったです。もし誰かの奴隷で、逃げて来たとかだと、面倒な事になりますので。その場合でも逃げて来たので助けますが、給金から少しずつ天引きして貯めておき、その方から貴女達を買い取らないといけなくなりますので」

 俺は笑顔で答え、とりあえずの問題はなさそうと判断する。

「あー……確かにそうですよね。一応奴隷だった場合は誰かの所有物ですからね。私は寸前のところで、カームさんに助けられたと言っても良いくらいですけど」

 イセリアさんは笑顔で言っているが、最悪の場合は場末の娼館で金のないやつの相手をさせられるか、物好きに買われるしかなかったもんなぁ……。

 欠損好きとかいるらしいけど、そもそもそういうの関係なしに好きとかあるらしいし、運だよなぁ。

「あ、まだその話聞いてませんでした。どんな状況だったんですか?」

「そうですねぇ……。経営難の孤児院の玄関前に火傷した状態で捨てられてて、お母さんがなんとか助けてくれたんですけど、かなり酷い状態だったらしく、指の数本と火傷のあとが……。で、当時島民確保の為に動いていたカームさんが、寄付金を持って来てくれまして。なので孤児院の卒業生の大半は島の第三村に来ますよ」

「優しい方だったんですね。私なんか子供の頃に母親が病気で死んで、父親は戦争に行ったとかで、物心が付いた頃にはもういませんでしたよ」

 ……重い。

「私は再婚するのに邪魔って事で、熱湯をかけられて放置されたまま捨てられたまま、二度と家に帰ってきませんでした」

 ……重すぎる。ってか良く死ななかったなこの人。

「私は攫われて、隙を見て逃げ出しました。多分人族に売られる直前だったのかと」

 おぅ……。治安最悪じゃねぇか。不幸自慢じゃないけど、地雷にかかと落としを決めた気分だ。

「ここはまだ安全ですので、安心してお過ごしください。スラム出身者も多く、ゴロツキをやってた人も多いですが、生活環境が変わって皆明るくやってますし。根は良い人達ばかりですからね」

 俺は笑顔で言い、剥いてあったコーヒーの果肉を数個放り込みとりあえず忘れる事にする。

「ですよね。朝食や昼食の時に、お酒とか飲んで、今日もやる気十分! ってな雰囲気でしたし。」

「へぇ……。朝と昼にも酒ですか……。ま、皆さん陽気で何よりです」

 朝から飲んでたかー。アル中じゃないのか?

「私初めてお酒飲みましたけど、美味しいですね。そして男の人に愚痴を聞いてもらって、そのままお持ち帰りされちゃいました」

 いや、なんで頬を染めてんすか。最悪事件だろこれ。

「んー……お互い合意の上で?」

「はい。とても優しくしてくれました。お昼に、今夜もどう? って誘われてますし」

「あー……。ならいいです。お幸せに」

 俺は笑顔で言い、少しだけ複雑な気持ちで果肉を口に放り込む。

 んー。欠損とか特に気にしてない人もいるし、似たような生活環境だったからあれなのかな? それとも本当に好きか、育った環境による考えの違いか……。まぁ、一人の身は安泰だな。

「えーそんな事あったんだ。いいなー。なんか男の人って、エッチな事目的で近付いてくる怖いイメージあったな」

「私もー。けどそういうのだったらありかも」

 んー。考え方の違いって怖いなー。とりあえずイセリアさんを見ると目が合い、頭を軽く縦に振ったので本当みたいだ。

「それは何よりです。では、この生活に早めに慣れて下さいね。失礼します」

 俺はなんとか笑顔を保ったまま立ち上がり、外に出てから手の平でこめかみを数回叩く。

「本当。俺の村が恵まれてて助かったわ。どこかにあるであろう不幸は、かなり身近にあるんだなぁ。町とかめっちゃ怖いわ……」

 少しだけ独り言で愚痴を言いながら、俺は自宅前に転移した。


「ただいまー」

「おかえり」

「あれ、ラッテは?」

「鶏と豚に餌をあげにいってる。ね、メル?」

「あー」

 コルキスとメルを両手で抱いたスズランが迎えてくれ、相変わらず重さなんか感じていないと、言わんばかりの笑顔だった。

「そうかそうか。じゃ、夕飯と軽く離乳食でも作るか」

「終わったよー。あ、おかえりー」

「ただいまー」

 そして直ぐにラッテとヴォルフが裏口から帰ってきた。

「ちょっと待ってて、今夕飯作っちゃうから」

 俺は片手鍋に【熱湯】と米を入れてコンロにかけ、潰し粥を作り始め、昼に作っておいたスープでパエリアを作り始める。

「お、今日は蟹があるじゃないか。ガウリさんが魚を取らないとか珍しいな」

「それね。今日は見た事のない人が持って来てくれたの。なんかタコっぽい感じだったわ」

「私はちょっとあの人の目は苦手だなー」

「緑色じゃなければ問題ないさ」

 タコっぽい人とか、もうアレしか出てこないけど、ガウリさんとか水生生物系の人達は、最悪それに準ずる可能性も高いんだよなぁ……。

「優しそうな物腰で、皆と仲良くしてたわ。しかも食べきれないくらい籠に入れて来たから、第一村の夕食は多分皆が蟹よ。むしろ蟹しかなかったから、譲り合うとかもなく一択だったし」

「へー。タコって蟹好きだからなぁ。俺も好きだけど!」

 そう言って足を一本折り、ニュルンと中身を取り出してそのまま食べてみる。

「んー。甘い。新鮮過ぎてパエリアに使うのがもったいないなー。逆か? 新鮮だからパエリアに使うのか?」

「そう言えばカーム君って生で魚食べるよね。平気なの?」

「ん? 平気だね。きれいな海だし新鮮だからね。たまに毒持ってる奴いるけど、そういうのを持ってきたことは一度もないから。けど、そういうのは調理しても美味しいからね」

「そうね。砂糖と醤油で煮込んだ魚は美味しかったわ」

「私はアレかなー。トマトとオリーブオイルで煮込んだの。ちょっとニンニクが気になっちゃうけど」

「煮魚とアクアパッツァかな? どっちも美味しいよね」

 そんな話をしながらも、手は止めずにどんどん調理を進め、できあがったのでテーブルに並べ、コルキスとメル用の潰し粥も軽く味見をして、舌で簡単に潰れるかも確かめる。

「はーいご飯でちゅよー」

 俺はスズランからコルキスを預かり、スプーンで軽く掬って口元に持って行くと、なんかこっちが心配になるくらいモリモリ食べてくれる。

 そして背中を叩いてゲップをしてからスズランに預ける。

「メルもねー」

 そしてラッテからメルを預かって同じように口元に持って行くが、二口くらいでもう食べなくなる。

「んー、メルはパン派かな? ミルクパン粥なら沢山食べるのに」

「ミルクが好きなのかも。むしろコルキスはなんでも食べる」

「あー、うん。わかる。ミルクなんかかなり飲むし」

「そう言えば、なんかメルに比べて二回りくらい大きいよね」

「お父さんに似たのかも」

「あー。イチイさん大きいもんねー」

「なんか……今から将来が心配なんだけど……」

「大丈夫、カームなら勝てるから」

「いや、そういう心配じゃなくてね?」

 見た目ムキムキな子供とかなんか嫌だし……。

「抱いてあやすのが大変!」

「それもある」

「大丈夫。私は丸太だって持てるから」

「スズランちゃん、丸太と子供一緒にしないで」

 昨日来た三人じゃないけど、せめて子供達は何も気にしないで幸せに育って欲しいと思いつつ、今日聞いた事はさっさと忘れようと、とりあえず笑ってメルの背中を叩いてゲップをさせようとするけど、二口だけだったし、ミルクを飲んでからでも平気かな? と思ってラッテにメルを預けた。

前回で累計で300話になったんですね。感想で書かれて気が付きました。

だって和数的にはまだ291話だったし……

※永久欠番を除く

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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