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第291話 噂は広がっていた時の事

 あれから二週間、ビゾンに町の情報を緩く集める様に頼み、部下と言うか、当時の仲間を使ってある程度町の様子を浅く探らせておいてくれと、頼んでおいた期限が来たので夕方に蒸留所に向かう。

「お前に頼まれた通り、素人でもやばいとわかる様な奴は抜きにして、色々探らせてみたが、特に変わらねぇな。相変わらず不良関係は少なからずいるが、なんかきな臭い奴は引っかからねえぞ?」

「あぁ、それで十分だ。嫌がらせが止んだし、多少なり町に変化があったならって思ったけど、素人でもわかる変化がなければいい」

「……そうか。お前がそう言うならそれでいい。何かしたのは口ぶりでわかるが、俺達みたいな素人で、変化がわかったら馬鹿だな」

「馬鹿なお前に言われたら、そいつ等が可哀相だな」

 そう言いながら大銀貨を二枚ビゾンに渡す。

「おい、んだよこれ」

「報酬だ。成否関わらず渡すつもりでいた。俺が無償で何かさせると思ってるのか? 仲間内で酒でも飲んでくれ。一人大銅貨五枚くらい飲んでも、お釣りは来るだろ?」

「……そうか。なら受け取っておく」

 そう言ってビゾンは、意外にも真面目な顔で報酬を受け取った。もう少しニヤニヤすると思ったけど。

「あぁ、また何かあったら頼む」

「あいよ。んじゃ鍵閉めっからさっさと帰れ。人と会う予定があるって言って預かってんだよ。と言っても、あそこから帰るだけだからどうでもいいんだけどな。あーそうだ、違和感程度の事だけど、中級区の一軒家からほぼ同じ時期に、町の外に引っ越した奴が二件あるくらいだな」

 そう言ってビゾンは、さっさと帰れと手で追い払う様にしている。ってかその二件が個人的には重要なんだけどね。

 町の不良やってる奴に、そのくらいの変化くらいわかるのもすげぇな。磨けば光るか? いや、このままにしてた方がいいな。変にいじくるとバランスが崩れるし。

「ふーん。珍しいな。んじゃ帰るわ」

「おう、さっさと帰れ」

 そう挨拶をして俺はロフトへの梯子を上り、島へ転移をした。



 そして翌日。船長達と一緒に、三名の部位欠損や酷い火傷のある女性が来たらしく、そんな報告があったので、俺は荷下ろしをしている港に、戸籍表を持って小走りで向かった。

「あの。この島でも働けると聞いて私達は来たんですが」

 なんか必死過ぎて、会って一言目がこれだ。余程追い詰められているんだろう。荷物も持ってないし。

 船長に、もしイセリアさんの様な方が来たら、無償で乗せてあげてくださいって言っておいてよかったわ。

「えぇ、もちろん歓迎ですよ。ですがその前に自己紹介ですね。それとお名前を――」

 俺は笑顔で自己紹介をしてから名前を聞き、特徴を第三村のページに書き込み、色々と作業を終わらせる。こんな時に来て、なんか疑いたくなるが、目がなんか本気だし、服もなんかボロボロで、どうにかしてたどり着いたって体だ。最悪町に入る大銅貨五枚分くらいしか、なかったんじゃないだろうか?

 けど多少は疑った方が良いので、イセリアさんに言っておこう。問題なければ監視を止めれば良いだけだし。

「本当なら作業場のある村まで行くのに、物資を下ろす必要があるのでまた乗ってもらうんですが、少ないので俺が連れて行きますね」

 そう言って、とりあえず転移魔法の事を話してから、ここではない第三村に向かうのに許可を取って、魔法を発動させる。


「はい、ここが先ほど話した第三村です。今こちらに向かってきているのが、村長婦人予定(・・)のイセリアさんです」

 転移前にフルールさんにお願いをして、イセリアさんを呼んでもらっていたので、色々と省略できる。

「イセリアと言います。見ていただければわかりますが、私も程度の違いはありますが、貴女達と似たような境遇で育ちました。ここは本当に良い所ですよ。んー……。まずはお風呂ですね。その間に新しい服も用意させますので、そんなに緊張せずに目をギラギラさせないで、肩の力を抜いてください。ではカームさん、共同住宅にお湯を」

 イセリアさんは手を出し、自分も同じ側だと見せながら簡単な紹介をしている。そしていきなり話を振られた。

「へ? あ、はい。確かに俺なら早いですね」

 なんか人が良すぎて、良い様に使われている代表兼魔王って思われているんだろうか? けど、そんな代表にこんな頼みを軽々とできるって思ってくれた方が個人的にはいいかもしれない。

 なのでとりあえず湯船にお湯を張りに行き、ニコニコと笑顔で対応はしておき、服を持ってきたイセリアさんに任せる事にして、三人が入浴中に今後の事で軽く話し合いがあると言って、キッチンに呼び出した。

「訳があって、今、非常にピリピリしています。まぁ、島内で出回ってるクリームの事なんですけどね。本当に助けを求めて来たのだったら、あの方達に申し訳ないんですが、もしかしたら作り方を探りに来たって線も捨てきれないので、それとなく監視をお願いできますか?」

「……わかりました。私が見る限り、あの目は本気で助けを求めてやって来たという感じですが、カームさんがそう言うなら仕方がないです。少しだけ注意して見ておきますね」

 イセリアさんは少しだけ悲しそうに言い、お風呂場側のある壁の方を見た。

「さて。少しだけ早いですが、ご飯の用意をしますね。多分船の食事でも十分にご馳走だったかと思いますが、野菜系があまりないんですよね」

「本当に申し訳ありません」

「いえ、時期が時期なら仕方がありません。それでも……信じてあげられないのが少しだけ悲しいですけどね。こうして頼りにして来てくれているのに……。あ、そうだ。お兄ちゃんが話したい事があるとか言っていたので、探しだして聞いてあげてもらっていいですか?」

「わかりました。では、三人を頼みます」

 俺は軽く頭を下げ、共同住宅を出てトローさんを探し歩くが、直ぐに見つかった。その辺のヤシの実で、また勝手に酒を作っていたからだ。


「どうもどうも。ちょっとイセリアさんに用事があって来たんですが、俺に用事があるとか?」

「おう。そうだそうだ。お前が来た時にでも話そうと思ってたんだよ。お前達、ちょっと続けててくれ」

「「「うっす!」」」

 トローさんとお酒を作っていた人達は、元気よく返事をすると、ヤシの皮を切って樽に注いでいた。ってかそれ糖分足りるの? それだけでちゃんとお酒になる? あぁ、砂糖も足してんのね。

「まぁ、なんだ……。この村ってよ、いつもあんな調子だろ? こっちにも蒸留所作ってくれねぇか?」

 トローさんは背中越しに親指で酒作りをしている奴を指し、なんか駄目元で頼んでいるって感じだ。

「んー……。確かにそうですねぇ。島内需要は、ここは他の村より多いんですよね。じゃ、条件付けますね。第一村の酒はもう出荷用にしますので、島内用の砂糖と酒をここで作る事。その為に原材料のサトウキビを植えて育てる事。もちろん森を切り拓いたり、畑を耕すのは手伝います」

「そんだけでいいのか!?」

「かなり緩い条件ですけどね。そのかわり、なあなぁでやらない事、衛生面を気を付ける事。その辺はきっちりさせないと、弱い酒だとカビとか出ますから。そうだなぁ……。後は鍛冶をやってくれてる、ヴァンさんを連れてきますので、鍛冶師見習いを決めておく事。大工はいるのでその辺は平気でしょう。巨大建造物もたまには建てた方がいいです。けど島内のみなので、蒸留所は中規模ですけどね」

「お、おう……」

「あとは追々詰めていきましょう」

 俺はポケットから紙と炭を取り出し、その辺の壁を使って簡単にメモを取りながら条件を上げていく。

「第一村に数人ほど、研修に来てもらっても良さそうですね。樽は……空いたのを持ってくれば島内で回るか? あー、島民が増える事を考えて、拡張性のある作りにしないと不味いな。土地は少し大きく取って、小舟で運ばせるのに海に近い方がいいけど、嵐の高波とかを考えてあの辺りか……。そうすると原材料搬入用倉庫があそこでー、疎水があそこにあるから、サトウキビ畑はあの辺を開拓だな。他に何かあります? 違う種類の酒が飲みたいとか」

「いや、追々でいいだろ……」

 トローさんは、目を逸らしながら言った。軽く言っただけなのに、ここまで言われたらそうなるか。

「そうですか。なら早速開拓予定地の木に印をつけて、あたりを付けないと駄目だな。ちょっとフルールさんと相談をするので、切る木に目印を付けたいからトローさんは紐を持って来て下さい」

「お、おう」

 トローさんは、少しこめかみの辺りを叩きながら返事をし、倉庫の方ある方へ歩いて行ってしまった。少し調子に乗って一気に言い過ぎたかもしれない。けど、勢いだけで村長やってたんだから、これからは少しずつでもいいから、こんな感じで進めて欲しいって意味合いも強い。

 ってか俺に相談すると、こうなるって最初にわかってもらって良かったかもしれない。


 俺は鉢植えのフルールさんと相談しながら、切って良い木を聞きつつ紐で縛っていく。

「あ、この木は切っちゃダメ。成長が遅いからその辺のと同じに見えるけど、かなり生きてる」

「んー、そうすると利水するのに全体をずらす必要があるな。あそこから水を引き入れるんだから、ここを角にしてもう少し切り拓いて、畑をあと一枚作るか。んじゃこっちが水路になるな。教えてくれてありがとうございます」

 そんなやり取りを、紐を持って手伝ってくれていたトローさんが物凄く嫌そうな顔で見ていた。だって仕方ないじゃん。見た目悪くなるし。なら最初から増やした方がいいじゃん? 使わない方は肥料とか撒いて混ぜて休ませておけばいいんだし。

「お、おい。そんな簡単に増やしていいのか?」

「んー。将来性を見込んでやらないとこういうのは駄目です。多分もっと島民は増えますよ? この木を起点にあと二枚畑を作れば四枚になって綺麗な四角ですし、目印にもなります。面倒でもこういうのはかなり大切ですよ? その場のノリでやってると、後で拡張する場合とかに物凄く苦労します。なので道とか家は綺麗に揃えてるんですよ。まぁ、トローさんの孫とかの時代になったら、もっと島民が増えて、思わぬ道が主要道路になって、拡張の為に家を壊したりする可能性もありますけどね。セレナイトの下級区のスラムがそうでしょう? 無作為にゴチャゴチャ建てたから、利便性が悪くなって、住みやすい場所に人が流れるんですよ」

「お、おぅ……」

 俺は木に紐を結びながら話すが、トローさんはなんか困惑した返事しかしなかった。リーダー性があるだけじゃ、村長は難しかったかな? 後で少し教育も必要だろうか?

「あーそうだ。各村に訓練中の兵士(・・)を五名配属して、十名ほど衛兵的な教育をさせますので、根性があって、権力を持った途端に高圧的にならない正義感のある人を選別しておいてください」

「ん? なんでそんなのが必要なんだ? この島は平和そのものじゃねぇかよ」

「トローさんは村長なので言いますが、島に出回っているクリームの秘密を探ろうと、夜中に停泊している船から抜け出して、秘密を探っていた奴がいたんですよ。後は観光客とかが来た時とかのいざこざとか、喧嘩を止める人も必要でしょ? なので兵士ではなく衛兵なんですよ」

 最悪時間稼ぎの兵士になる可能性もあるけど、その辺は今言わなくていいだろう。

「そんな事があったのかよ! もっと早く教えてくれよ!」

「幸いなのかどうか微妙ですが、確認できているものでもまだ一回しかないです。なのでいずれ必要になるので、今のうちからです。必要になった時に育てたのでは遅いですからね」

 俺は笑顔で答え、とりあえずクリームの原材料が、ここで取れるカカオバターなんだぜ? って事は黙っておいた。知らない人は多い方がいい。それにトローさんは酒を大量に飲むし、ポロっと言っちゃうかもしれないしな。

「島の代表ともなると大変だなー」

「その部下っぽい村長も大変なんですよ。本来は! トローさんは人を引き付けて導くのが上手いのでいいですが、代表が優柔不断だと下が不安になります。なんだかんだで俺が勝手に任命した、第一村の村長も、なんだかんだで村長らしくなってきてますからね。なのでそれっぽくなってくれば、トローさんもらしくなってきますよ」

「ほー。なら俺も少し頑張ってみっか。多分最初は笑われるけどな」

 トローさんがニヤリと笑ったので、俺もとりあえずニコニコとしておいた。

「多分その意識の違いで、結構変わると思いますよ」

 けどなぁ。俺が紐縛ってる時に、ちょこちょこ弱い酒を飲んでるのさえなければ完璧だったなぁ……。

 いや、生水の代わりに弱い酒を飲む文化があったから別にいいけどさ。ここの水は飲んでも問題ないくらいに綺麗だったはずなんだよなぁ……。

なんだかんだで、春の喧嘩祭りの時期を逃しているというね……

春にキースが去って、色々あってそろそろ5月半ばくらいじゃね?って時の流れが……

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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