第26話 とりあえず引っ越しの挨拶をした時の事
細々と続けてます。
相変わらず不定期です。
新章突入のつもりですが、どうなんですかね?
20166010 本編に影響が無い程度に修正しました。
昨日ある程度見つけておいた、下級層のギルドまで歩いて10分程度の集合住宅を軽く見て回り、空きが有るか確認して、大家さんに中を見せてもらい「とりあえず他の所も見て回る予定なので」と言い他も回る。
こっちの世界でも似たようなもんなんだね、『空き部屋有』って安っぽい木の板に書いて立てかかってる、前世でも『入居者募集中』って看板入口のフェンスに有ったし。
ある程度見て回り、個人的に気に入った所に戻って来て。
「なに、また来たの?」
この気怠そうに喋る猫耳の妙齢の女性も印象にかなり残ってる。一応言っておくが大家さん目的じゃないんだからな。
「えぇ、他も見て回ったんですがここが良かったので」
「・・・そうか」
少し耳が横に倒れる、嬉しいのかな?ちなみに尻尾はスカートの中なので見えなかったので解らない。
ちなみに月に銀貨3と大銅貨6枚で聞いてた相場より少し高いが、まぁ部屋も綺麗だし妥当でしょう、下級層だし。ちなみに最大の決め手は共同ゴミ捨て場が綺麗だった事と共同掃除用具が有った事。
「早速入るん?」
「はい、よろしくお願いします」
「んじゃ家賃は今日から30日分で、これ鍵ね」
鍵を受け取り家賃を払い、早速中に入る。
流石中世ヨーロッパ風、作りもそれっぽい。部屋の隅に小さい暖炉、木枠のベッドが壁際に、部屋の真ん中に椅子と小さい丸テーブル、簡素な棚、小さいクローゼット、天井からランプがぶら下がってるだけだ。
作りがそれっぽいだけでほぼ何もないんですけどね・・・
ちなみにレンガ作りの2階建ての8部屋だ。俺は1階の3部屋目の2号室だ、大家さんは1部屋目みたいなので「何かあったら呼んで」との事、ちなみに生前の俺の住んでた部屋より広い。
トイレとキッチンは共同で風呂は無かった、近所に銭湯が有るが技術が発達してない世界の集合住宅じゃこれが当たり前みたいだ、まぁ慣れるしかない。
テーブルに指を付け擦ると埃のせいか色が変わる。まずは掃除だね、ってか入居者が居ない時くらい換気と軽い掃除くらいしておいて下さい。
あと買い物と掃除が必要だな。
・布団1式
・ランプ油
・生活必需品
・両隣への挨拶用粗品
こんなもんか、正直この世界に、引っ越しの挨拶とか物を贈る習慣が有るのかさえ解らないが、贈っておいて損は無いだろう、円滑なご近所付き合いは大切だ。この辺が元日本人の感覚なのだろうか。
あー蕎麦が食べたい、蕎麦の実は有るみたいなんだけど、めんつゆが無いから蕎麦を自作しても食えない、むしろめんつゆが作れない、どうやって作るの?
両隣への粗品はタオルと石鹸で良いだろう。こっちの世界でよく使う日用品ってそれ位しか思い浮かばないんだよな。
宿屋に戻り「あーすぐ見つかりました」と言いながら2日分の金額を払おうとしたら。
「1日しか泊まってないだろ、別に昼近くまで荷物部屋に置いて有っても文句は言わないさ、色々と入用なんだろ?少しでも節約しておきな」
そう言われたので素直に従っておく。
荷物を置きに戻り、とりあえず埃だけでも飛ばそうと思い、風魔法で吹き飛ばしてから買い物に出かける、両手を上げ大笑いしながら風をブワーと出したかったけど、いるかどうか解らない両隣さんに迷惑なので無言で作業する。
中身は40近いおっさんでも心は子供なんだぜ?そう、男は何時まで経っても子供なんだよ!はーっははははははは!
相変わらず思うが、食文化的に簡単な料理は地球で見かけた物とか有るけど、マットレスは見かけないんだよな、技術力的にスプリングマットレス位ならどうにかなりそうだけど。ちなみに生前のベッドは畳式のベッドだったから木枠だけのベッドでも違和感は無かったです。
昨日もお世話になった定食屋で日替わり定食を頼み本格的に買い物に行きますかね・・・
買い物中に思った事は「布団高ぇ」だ。
この店が高いんじゃなくて、相場的に見ても高い。化学繊維とか一切無いし裁縫技術が結構低く綿や羊毛とか安定供給されてないからか?と思ったが、まぁ文句を言っても仕方ないので買って帰る。
ボロ布を握りしめたまま水魔法を軽く発動させ湿らせベッドを拭いてから布団や荷物を置き本格的に水拭きを始める、汚水は井戸近くの側溝へ。一応下水も有るんかな?
掃除が終わったので布団を敷き、棚にバールやマチェットや食器を起き、クローゼットに数少ない衣類を入れ、その辺にスコップを立て掛け終了「物が少ない引っ越しってこんなに早いんだな、テレビやパソコンも無いし食器や白物家電もベッドも運ぶ必要無し、まぁ出費が多いけどある意味気楽で良い、問題はお隣さんだな。物音も無いし気配も無い、大家さんの話だと俺で全部屋埋まったらしいから住んではいるんだよな、夕方まで待ちますかねぇ。
引っ越し早々独り言が出るがまぁ良い、ギルド登録しつつ夕飯の材料でも買って来るか。
ギルドに着き、中に入ると、2年前と同じウサ耳の綺麗系お姉さんが受付だ。
「こんにちはー、ギルドに登録したいのですが手続きをお願いします」
「はい、解りました。説明は必要でしょうか?」
「平気です、2年前に聞いてますので、2年前と変わった所が有れば教えてください」
右上を見ながら少し思い出している様なそぶりを見せる
「特に有りませんね、ではこちらの書類に必要項目を書いて下さい」
姓名:カーム
特技:応用の利く魔法を使える
○前衛・○後衛
使える魔法属性
火・水・土・風・光・闇・その他
備考
細工・工作がなんとなくできる
投擲が得意・大体30歩離れてる所なら結構当たる
こんなもんだろう、姓名とか・・・俺、名前しかないからな。苗字持ちとか要るんか?貴族とかならいるんだろうな。実はミールとかクソ長い苗字とか持ってそうだけど聞いた時無いしな、まぁ良いか。備考の所だけどこの世界にメートル法とか聞いた事無いからな、歩数で良いだろう。
「こんな感じで良いでしょうか?」
軽く目を通し「大丈夫ですね、前衛と後衛に丸が付いていますがどういう事でしょうか? あと魔法属性が全部使えるのは素晴らしいですね、けどこの特技と属性魔法の『その他』って言うのは何でしょう?」
「村では前衛寄りで魔物や獣を狩ったりしてました、魔法も使えるので後衛にも丸が付いています、器用貧乏って思ってもらって良いですよ。『その他』ですが他にやってる人を見た事が無いので。今やって見せますが火と水でお湯が出せます。あと火と風で暖かい風が出せます」
実際に目の前でやって見せ、湯気の上がる水球と温風を出す。水球に手を入れ「あ、丁度いい」と小声が聞こえ温風で手を乾かしている。
「・・・器用ですね、確かに私も見た事がありません」
「そうなんですか? まぁ出来るって事で」
サラサラと書類に何かを書き加えている、備考の欄に『合成魔法が使える』と綺麗な文字で書き足される。
「この細工、工作って言うのは?」
「冬の間仕事が無くて暇なので、手慰み兼小遣い稼ぎでこんなの作ってました」そう言いながら、財布の皮袋についている紐の先についているトンボ玉を見せる。
「綺麗ですねー登録が終わったら売ってくれません?」
意外にこっちでもトンボ玉の需要は高いみたいだ。
「えぇ、作り置きが有るので取ってきますね」
「お願いします、ちなみに幾らですか?」
「村の道具屋に有る程度纏めて売って銀貨3枚だったかな?売値としては銅貨5から8枚程度だと思います、村で大銅貨2枚で売ってるの見たので。なので大銅貨1枚でどうですか?」
「そんな安くていいんですか?」
「えぇ、材料は割れたガラスですし」
「へぇ・・・これが」
じろじろ見ているので本当に欲しいか珍しいかなんだろう。
「工作って言うのはなんとなくで鳥小屋を建てられる程度ですね、報酬は夕飯を御馳走になった程度なのでお金は取れない程度と思ってください」
「解りました」またサラサラと何かを書き込んでいる。
他にも色々面接みたいに聞かれた事を素直に答え、その度にサラサラと文字を書き込んでいく。
「はい、以上で大丈夫です、今ギルドカードを作成するので少々お待ちください」
「あー、はい、んじゃ先にお金払ってガラス玉取ってきますね」
「はい、確かに銀貨5枚頂きました、その辺にパンを買いに行く程度で出来ていると思いますので急がないでいいですよ」
パンを買いに行く程度って、ちょっとすぐそこのパン屋まで行ってくるわ。って感じだから5分くらい?相変わらず表現が凄いな、時間の概念が無いとこうなのか。
トンボ玉の入った袋を持ち、ギルドに戻るとギルドカードはすでに出来ていた。
「こちらがギルドカードになります。紛失した時は銀貨1枚で再発行できますが、なるべく無くさないで下さい」
カードを受け取ると鉄の板に。
カーム:1
前衛・後衛
火・水・風・土・光・闇
裏面には身体的特徴が書かれている、ある程度の身分証明みたいなもんなのか?
「表に書いて有るのは名前とランク、前衛か後衛か、使える魔法の属性です、カーム様は両方こなせるみたいですので両方書いて有ります、どちらかが自分には合わないなと感じましたら言って下さい、消しますので。裏面は紛失時に再発行できる番号や、ある程度の身分を証明できる物となっております。あとこちらで思った印象を書かせていただいております」
あー、大体俺の特徴をとらえてるわ、写真とか無いからな、こう言う消せない様に書いてくれてると悪用され辛いしな。
まぁ、日雇いしかしないけど。
「少し質問が有るんですが良いですか?」
「はい、答えられる事なら答えさせていただきます」
「ランク1の日雇いの仕事をするのに村から出てきたんですけど、受けられる仕事は自分の前後の1つまでですよね? ランクが3に上がった場合、ランク1の日雇いの仕事は受けられなくなるんですか?」
「あちらはランク1と成っておりますが、特殊枠ですので最高ランクの10でも受けられます、ランク10で町の清掃活動とかも可能ですのでご心配なく」
「ありがとうございます、いやーランク3になったらどうしようかと思っちゃいましたよ」
はははっと軽く笑い女性の目の前にトンボ玉の入った皮袋を置き、
「好きなのを選んでください、お売りしますよ」
「では失礼します」
そう言い中を開けて必死に選んでいる。
業務中だけど、客は俺しかいないし、他の職員もトンボ玉を見に来てるから特に問題は無いんだろうな。
区切り良く全員で10個になるように選んだんだろうか?銀貨1枚を出してきた、よし、これで夕飯の買い物して帰るか。
ギルドの帰り道に露店に寄りある程度目を付けておいた食材を買う、一人暮らしに便利なパスタだ。後は明日の朝食と昼だな。
生パスタが山のように積んであって、一掴み銅貨○枚と書いて有った、おばちゃんがワシャと大きな手で掴んで紙袋に入れてくれる。
「見ない顔だね、出稼ぎかい?」
「えぇ、少し行った所を曲がった集合住宅に引っ越してきました」
「そうかいそうかい、男なのに自分で作るとは大したもんだ、少しおまけしといてあげるよ」
そう言い、指三本位で麺を掴み紙袋に足していく。
「あざーっす」
「がんばんなよ」
いやー、まさか掴み売りだとは思わなかったよ・・・
次は肉屋でベーコンと卵と牛乳だな。肉屋は露店じゃなくて店舗だったが
顔に大きな切り傷が有り野太い声で「おう、見ねぇ顔だな」おっちゃん顔超怖いよ。
先ほど、パスタを買ったおばちゃんとしたやり取りをもう一度繰り返し、ベーコン1塊と卵を4個と牛乳を2瓶買う、流石にベーコンは天秤みたいな物に乗っけて重りを乗せて計っている。ってか重りはどう見ても同じ大きさしか並んでない、ベーコン少し大きくないか?1kg位有るぜ?
って事は1kg単位でしか売ってくれないのかよ。
「また来いよ」と言われ「ういっす」と返すが、この辺には肉屋は此処にしかないので諦めてまた来よう。
次は野菜類だが露店を覗くたびに「あら、見ない顔ね」と言われ続けるが今後利用するので挨拶だけはしっかりしておく。円滑な魔族関係は大切だよね。
部屋に帰り食材をとりあえず棚に置く、夕飯には少し早いので自己鍛錬でもしておくかね。
魔法のイメージを練ったりしていたら隣でごそごそと聞こえたので帰って来たのだろう。時間的には18時位か、早速挨拶に行くかね。
ノックをして「隣に引っ越してきた者ですが挨拶に来ました」と言って返事を待つ。
「はい」と言う言葉と共にドアが開く。
「どうもカームと言います、いつまでいるか解りませんがよろしくお願いします、コレは粗品ですがどうぞ」
「やぁ、わざわざ丁寧にありがとう、僕はヘングスト、しかもこんな物までくれるなんて君は良い人だね」
第一印象は「デカい」だ、ケンタウロスみたいに上半身は人間みたいだけど額に角が有って下半身の毛色は白だ。体高に人間の上半身だからな、やっぱりデカい。
「僕の父さんはユニコーンでね、人間との間に生まれたのが僕さ」
なんか気障っぽい。竪琴がチラと部屋の中に見えるし。
「そうなんですか、道理で綺麗な顔と筋肉をしてると・・・」
取りあえず褒めておこう。
「男に綺麗って言われる事は少ないが、やはり女性の方が良いね、君、男が好きなんじゃないだろうね? だったら付き合い方も変えさせてもらうけど?」
「いやいやちゃんと女性が好きですよ、彼女も居ますし」
「ほう、それなら良いんだ、管理人さん目当てじゃないだろうね? あの人は僕が狙ってるから駄目だよ」
いや、隣に住んでるの管理人さんでしょ?声大きいよ、聞こえるよ?
「あとは、君の上に住んでる子も狙ってるからね」
「上の人は知りませんが彼女居るんで手を付ける事は無いですよ」
「ふーん、女性は何人いてもいいじゃないか、特に経験の無い子ならどんどん声をかけるべきだね」
あー、ユニコーンは処女にしか会わないって噂本当だったんだ、ゲームとか物語ってすげぇな。当たってるよ。
「長話も失礼ですし今日はこの辺で失礼しますね」
「そうだね、僕も男と話すよりは女性と長話したいからね」
良い意味でこの人は裏表が無さすぎる、付き合うには人を選ぶね。
隣人はハーレムを作るか、女性に刺されるかの人生を歩んでる人でした。
ってか大家さんを狙ってるって意外だな、広い意味で。
流石にそろそろ腹が減るので夕飯でも作りますかね、薪は家賃代に含まれてるみたいだから台所の隅に積んであるが『使いすぎないように』と大きく書いて有る。では早速、種火とか細い木からってのは面倒なので魔法で着火させる、火加減は実家で手伝わされてた時の感じで。
大鍋に魔法で湯を入れ時間短縮、即効湯が沸くのでパスタ投入、もう一個かまど使うのは色々非常識なので茹で上がるまで下準備だけ済ませよう。ベーコンと玉ねぎを切りオリーブオイルの入ったフライパンをスタンバイ、生パスタを茹でた経験ないからなー、適当な時間で1本引上げ口に放り込み、「うん」こんなもんでいいんじゃね?と思いつつ鍋を退かしフライパンでベーコンと玉ねぎを炒め、塩コショウをして牛乳を入れパスタを鍋からざるに開け、少し水切りしてからソースをからませ、皿に盛り卵黄を乗せて少しかき混ぜ出来上がり、『なんちゃってカルボナーラ』だ、男の料理だ、適当でいいんだよ!
んじゃフライパンを洗い桶に入れてから頂きますかね。洗い物なんか最後でいいんだよ。
うん、まずまずです。前世で一人暮らし歴長かったからね。
さて。この余った卵白だけどメレンゲクッキーでも作りますかね。
メレンゲ作って砂糖加えて弱火で30分位だし。まぁその間に洗い物も出来るし。
クッキングシート無いけどどうにかなるでしょう。
洗い物を終わらせ、適当にかまどの中を見て確かめる、砂糖の焦げる香りが広がり良い感じになっていく。そうしたら見た時の無い人が調理場に入って来た。
「あら、いい香りに誘われて来て見れば見た事無い顔、新入りさん?」
「初めまして2号室に入居したカームって言います、よろしくお願いします」
「あらお隣さん? よろしくね、私はセレッソよ」
第一印象はこの人も「デカい」だ、着痩せするクチナシより大きい、むしろ強調してるからさらに大きく感じる、ピンクに近い赤紫色の腰位まで有るサラサラした髪も似合っている。
「今度改めて挨拶に伺いますので、いつ頃なら都合がよろしいでしょうか?」
「今で構わないわ」
「あー、粗品も有るので」
「あら、そんなものも頂けるの?気が利くわね、これ見てて上げるから取って来て良いわよ」
んー、なんか図太いというか遠慮が無いけどこんなもんと割り切ろう、こう思うのは日本人の感覚だけど
「解りました」
「改めて、隣に引っ越してきたカームと言います、こちら粗品ですが今後ともよろしくお願いします」
「はーい、これ開けても良い?」
「え、えぇ」
「石鹸とタオルかー日用品は常に使うから無難だけど嬉しいわ、ありがとう」「いえ」
「見れば解るけど色町で客を取ってるわ、来てくれたらサービスするし、休みの日でも部屋に来てくれれば相手するわよ」
「あ、いえ、故郷に彼女残して来てるんで。ばれたら確実に殺されます、しかも勘が妙に良いんで。降りかかる火の粉は払うんではなく全力で逃げさせていただきます」
「あら残念、気が変わったらスイートメモリーズに来てね、けど全員夢魔族だから気を付けてね、じゃないと搾り取られるわよー」
「何を?」とは聞けなかった。
甘い記憶っすか。ヘングストさんがセレッソさんの事言わなかったのなんとなく解るわ~清楚系サキュバスっていねぇの?
あ、メレンゲクッキー焼けた。
けど半分以上セレッソさんに「これ美味しいわね」と言われ、取られた。
1個だけ食べて不味くなかったので『2号室に引っ越してきたカームです、よろしくお願いします』と書置きして置いてきた。
なんか今の所少し変な住人しか見てないぞ。




