第290話 とりあえず悪役になった時の事
注意:色々な理由が重なり急いで書きあげました。なのでいつも以上に内容がない(作者的な判断基準)+繋ぎみたいなノリです。
正直今週休んだ方が良かったのでは? とかさえ作者は思っており、少しだけ不安も残っております。
スパイ組織的な奴を火口に放り込んで十日後、やっとカルツァからお呼びがかかったので、渋々顔を出す事にした。
「何でしょうか?」
今回は正規の手順……といっても、門番やメイドさんを無視せずに、ちゃんと案内してもらってから、カルツァの執務室のソファーに静かに座り、指を組む。
「一応上に立つ者として、何があったのかを知っておかないといけないと思って、貴方を呼んだわ。全て正直に話してちょうだい」
目の前に座ったカルツァは、軽くため息を吐いて言ってきた。
「……散々嫌がらせを受けた魔王は、頭に血を上らせて単身敵アジトに乗り込み、全員を虐殺して、鼻歌交じりに帰ってきました」
「……本気で言っているの?」
カルツァは俺の言い分を聞き、左目を少しひくつかせながら少し不機嫌に答えた。
「えぇ、本気ですよ。あの後衝動的にそのまま乗り込んで、家の中を血の海にしましたよ。何か問題でもありました?」
「問題があるから言っているのよ。私達が掴んだ情報では血の一滴も流れてなく、交代要員を含めた全員が消える様にいなくなった。しかも私に場所を聞きに来てから十日くらい経ってからじゃない」
「おかしいですね。俺はちゃんとその日に行って、死体もそのままにしたはずなんですけど? 誰かが綺麗に掃除でもしたのかな? 血とか落ちにくいのに、それすらも綺麗にするなんて、物凄く優秀な清掃業者でも頼んだのかな? その業者を教えて欲しいくらいですよ。それともリフォームかな?」
「……あくまで貴方は、そう言い張るつもりなのね」
「言い張るも何も、全て事実ですよ」
俺はカルツァに睨まれながら、笑顔で答える。
「そういう事にしておけ……って事かしら?」
「いえ、そういう事にしておけ、ではなく。事実ですよ?」
そう言うとカルツァが思い切りため息を吐き、額に手を当ててうなだれた。
「とある貴族の一味が全員消えた。争った形跡はない。町が静かすぎる、不気味だ。今セレナイトで流れている、そっち系の奴等の噂話よ。それで一夜にして消えたっていうのが色々と問題になっててね。どうやったんだ? と」
カルツァはうつむいたまま、物凄く疲れた様に言った。ってかかなり精神的にキてるっぽいな。
「貴方達がやり過ぎた結果、うちのクソ優しい魔王が怒り、独自の情報網を使ってアジトを探し出し、辺り一面血の海にしてきた。で良いですよ。そちらの組織が危険な状況になるのも忍びないので」
「はぁ……。もう貴方の中ではソレで決まっているのね」
カルツァは首を振り、更に嘆くように言った。
「とどのつまり、お前達が温厚な奴を怒らせた結果がコレだ。で、良いです。このままでは話は平行線ですので。あ、お茶飲んだら帰りますね」
「わかったわ。そういう事にしておくわ。本人の証言は全員殺して帰って来た。と一貫して曲げなかった。と。これでいいわね?」
「これでいいわね? と言われましても……。本当に全員殺してきたんですけどね」
優しく笑顔で言ったら、カルツァが目を逸らしてこっちを見ようとはせず、少しだけ何かを言おうと口は開いたが、何かを飲み込む様にお茶を飲んだ。多分言いたい事を引っ込めたんだろうけど、そんなに怖がらなくてもいいと思うんだよなぁ。
けど北川が、俺の笑顔や殺気はやばい時があるとか言ってたし、多分色々漏れてた可能性も高いな。個人的には普通の笑顔だったんだけど。
「お茶、ご馳走様でした。では、普段温厚な奴を怒らせた結果がコレと言う事で。島を領土に持っている貴女は、魔王を呼び出して聞いた結果、笑顔で答えたって言いふらしても問題ありません。あんなんでも魔王は魔王で、優しすぎてどこにあるかわからない、ドラゴンの尻尾を踏んだらそりゃ怒りもするって事にしとけばいいんですよ」
「そ、そうさせていただきます……」
俺はそれだけを言って立ち上がり、目を逸らしたまま、なぜかいつもとは違う口調でどうにか返事をしたカルツァを軽く見てから島へ帰った。
「で、なんの呼び出しだったんですか?」
「んー。この間の事ですねー」
執務室に戻ったので、一応ウルレさんに報告をする。
何をやったのかを知っている、数少ない島民でもあるし、さっきの事は話しておかないとね。
「あー。アレですか。確かに個人的にも噂とか気になっていたんですよね。今はどうなってるんですか?」
そう聞かれたので、とりあえずどんな噂が流れているかを言うと、ウルレさんは軽く鼻で笑った。
「なんか、あまり効果がないですね」
「やる事が新しかったですかね? 全て秘密裏に、何事もなかったかの様に消したのがインパクト不足的な?」
「それもあるかもしれませんね。報復は派手に惨たらしくが、この世界の常識ですので。今回やった事は、今一つなのでは?」
「まぁ、あと何回かあれば、ちょっかい出してくるのも少なくなる気もします。聞いた話では、今はお互い情報を求めている感じでしたし」
「やられた方は、不気味っちゃ不気味ですよね。父なんかは、わかりやすく徹底的に叩き潰してましたし」
ウルレさんは肩をすくめ、少しだけ呆れたように言っている。多分何回か見て来たんだろう。
「これで警告とわからずに、手を出して来たらある意味凄いんですけどね」
「よほどの馬鹿か、先が読めない馬鹿でしょうね。商人でもこれ以上は不味いってわかりそうですけど」
「まあ、新しい奴隷の購入とガラス工房の増設でクリームの生産は落ち着いていますし、日夜大量に消費して、即なくなるような使い方さえしてなければ、結構貴族達に行き渡っているはずの量なんですけどねぇ……」
俺はそう言いながらクリームの出荷数を見るが、もうそろそろ五桁に届きそうなくらい生産している。貴族なんかそんなにいないだろ? 一人が買い溜めしているか、どこかで止まっているかだな。
愛人に渡している? 嫁が数人いる? 娼館遊びで持っていっている? なんか色々要因がありそうだけど、まだ品薄で高騰が続いてるんだよなぁ……。
「ってな事があった」
「ほう……」「へぇ……」
「そういう反応になるよなぁー」
俺は昼食を食べ、第四村に転移し、ブートキャンプ用に作った施設で、丸太を抱えながら走り込んでいるASSTの隊員達を見ながら、午前中にあった事を話した。
「まぁな。外から見ればどこかの貴族様の手下が、全員消えただけだし」
「こっちじゃ、わかりやすく叩き潰すのが主流だったんですね。そうなるとちょっと足りませんよね」
「けど、公にする訳にもいかないし、とりあえず魔王は怒って虐殺はしたけど、死体まではしらないよー。って姿勢を崩さないでいればいいさ。溶岩に叩き込んだのは事実だし」
「これで乗り込んできたら、実戦ができるんだけどな」
「その前に沈めるけどな」
「いやいやいや、いきなり乗り込んでくるとかないっすから。全員船員に偽装して、何かあったら全員が武器を持つって感じでしょ? そんなわかりやすいのなんかないっすよ」
ロックが顔の前で手を振り、少し笑いながら言っている。
「いや、ね? 海賊って言うわかりやすいのがいたんだよ。偽装もなにもしないで、ドクロの旗を掲げた自己主張の激しい馬鹿が。まぁ、貴族の旗を上げた船とかだったら無理だけど、その場合はもう乗り込まれた事前提になるなぁ……。話し合い中に隙を見て、全員呼ぶしかないな。その前に五人を各村に配属して、二十人を選んで鍛えるくらいはしないと、そろそろ不味いか。目標はスイスかな。島民全員にある程度の戦闘訓練をさせて、有事の際は全員クロスボウとか剣を持たせたい」
そんな事を言ったら、二人が変な目でこっちを見ていた。
「それはやり過ぎ。五人が二十人を選んだだけでも十分だろ?」
「そうっすよ。全員が戦えたら、喧嘩の時はヤバイっす。ちゃんとした法の下で、キッチリさせないとそれは不味いっすよ。スパルタみたいな戦闘島民になっちゃいますよ?」
「……上官二十人、その部下八十人の計百人で十分か。割合的に兵士は人口の数パーセントが良いらしいけど……。そうすると一割超えるな。まずは十人に減らすか。特化五人の一般兵十人いれば、ある程度は持つだろう」
「ってか港がある第一村にはお前っていう魔王がいるんだぞ? 第二村には織田さんと榎本さんと、副神父様。第三村は荒くれ者。第四村は俺達。何かあったらフルールさんやパルマさんが連絡して、即時対応はできる。ある意味過剰火力だよ」
「あー。自分の戦力すっかり忘れてたわ」
そんな事を呟いたら、二人がなんかかわいそうな奴を見る目になった。
「いや、すっかり忘れてたんだって。もう頭が部隊の育成や運用で一杯だったんだよ」
そんな事を言うと北川が笑い出し、背中をバンバン叩いてきた。
「お前らしい答えだ。さすが怒りを知らない魔王様だな」
そんな対応に、俺は乾いた声で笑うしかできなかった。
「ただいまー」
「おかえり」「おかえりー」
俺は自宅に帰り、子守をしながら寝転がっていたターニャのお腹に顔を埋める。
「うあー。なんか今日何もしてないのに疲れたー」
「わふん!?」
そして抱き着き、とりあえずワシャワシャと頭を撫でる。
「カーム君。ちょーっと順番が違うんじゃないんですかねぇー?」
ラッテに少しだけ注意され、スズランの方を見ると頭を縦に振っている。
「いやー。ちょっと動物的な癒しの補給が欲しくてね。悪いけど、これはお嫁さんじゃ補給できない物なんだ。何を言っているかわからないと思うけど、ワサワサモフモフと、柔らかいおっぱいは別物なんです!」
「そう……」
「あ、うん……。あー。そう言えば村でもたまにあったよね。牧場に来てウサギをずっと撫でてたし」
「うん。それ。ふー……モフモフ分の補給は終わった。ってな訳でー」
そう言って俺は、冷たい目で見られていたスズランの方に行き、抱き着いて胸に顔を埋める。
「ごめん。ちょっとだけ悪役っぽい事して後悔してるだけ。少し落ち着いたら離れる。あと頭撫でて」
そして体感で五分くらい経ったら、今度はラッテの方に行き、同じく顔を埋める。
「何があったか聞いた方がいいの? 聞かない方がいいの?」
「んー? まぁ、聞かないで。俺が悪役になる事で、守られるものもあるって事で」
「もー。しょうがないなーカーム君はー」
そしてラッテに頭を撫でられ、落ち着いたので顔を離す。
「ありがとう。さ、ご飯にしようか」
俺は笑顔で言い、心配そうにしていた二人が笑顔になったので、問題はないと判断されたみたいだ。
実際些細な問題だし、火口に人を捨てた時よりは酷くはないので、いつも通り夕飯を食べる事にしたが、問題ないと判断された結果が、早めにベッドに引きずり込まれたっていうね……。




