第284話 嫌な手伝いをさせられた時の事
室内訓練を本格的にやり始めて一ヶ月。キルハウス隣の二階建ての小屋というより、二階しかない小屋というか、そこでそれぞれのチームを敵にして、模擬戦ばかりやらせて動きを見ている。
だからそれなりに、動画とかで見る様な動きにそれぞれなってきたが、細かいところはまだまだって感じだ。これをどんどん繰り返し、練度を上げていけば形にはなると思う。
「さて魔族だけちょっと来なさい」
訓練の終了時にするミーティングが終わり、そのタイミングで俺は魔族だけを呼んだ。
「俺は魔法を教えるのが上手いと、故郷で有名だった。魔法適正が低すぎるゴブリン族の友人にでさえ、魔法を使わせる事ができた。何が言いたいかと言うと、そろそろ制圧するのにお互い手詰まりな感じになってきているので、これだけはなにがなんでも覚えさせたいという魔法が一つだけある」
俺がそう言うと、声を上げる事はないが、お互いを見て心なしかウキウキしている感じがする。大丈夫、石弾とかは絶対に教えないからそこまで期待しないで。
「俺が良く使っている手なんだが……」
少し長く瞬きをするふりをして【フラッシュバン】を発動させ、目つぶしをした瞬間に皆の後ろに回り込み、混乱が解けるまで少しだけ待つ。
「この様に非殺傷系の魔法で、不意打ちができるようになって欲しい。最低でも四人、各班に一人、赤組と青組に二人は欲しい。できるなら全員が覚えてもらいたい」
そう言った瞬間にざわつき始め、一人が手を挙げたので発言を許可した。
「自分はここに来る前に、少しゴロツキの類をしていました。ですが今からでも魔法を覚える事ができるのでしょうか!」
「言っただろ。ゴブリン族にも使わせる事ができたんだぞ? しかもだ、あまり詳しくは言えないが、この肉体強化をつい最近、俺よりもかなり年上に教えて、使わせる事もできたんだ」
そう言って【肉体強化】で腕をカチカチにして周りの反応を見るが、未だに魔法が使えるとか小声で聞こえるので、黙るまで待っていた。
「思った事が発動できる、魔族特有の魔法に近い。人族だったら魔法適性が必要らしいが、俺達には、大なり小なり潜在的な魔力量があると思っている」
そう説明した瞬間、なんか北川の目が少しだけ変な奴を見る目になったが、とりあえず無視しておく。
そして物凄く眩しい光が、指定した場所から広がる事とかのイメージを紙を使ってさせる。
「ここで少しだけ豆知識だ。ロウソクの火が一だとしよう。さっきの光は百万という途方もない数字だ。光には届く距離や強さがあるが、距離は無視していい。そこの場所でロウソクが物凄く眩しくなったってイメージだけを固めろ、そうすれば部屋の物陰に隠れてない限りは、一瞬だけ強力な光で包まれるくらいにはなる」
そう言いながら、久しぶりに手の平から【フラッシュライト】を発動させ、こちらを見ていた魔族全員の顔に少しだけ光を当てる。かめ〇め波の練習にしか使ってなかったけど。
「強い光っていうのは怖いぞー。太陽を見た時みたく、しばらく目が見えなくなるんだ。それを利用して、膠着状態を打破しようってのが、お前達の役目だ。今直ぐにやれって訳じゃないが、イメージは固めて置いて欲しい。明日からお前達魔族は、魔法の講習を合間に挟む。では解散」
そう言って俺はジト目で見ていた北川の方に歩き出し、近くに立つと軽く肩を叩かれた。
「私にいい考えがある! とか言ったから嫌な予感がしてたが、まさかそっち方面に行くとは思わなかったわ……。ってか普段俺とか言ってるのに、私とか言った時点で止めておくべきだったわ」
「いやー。そろそろ変化が欲しいじゃん? ってか膠着状態になったら、動きが欲しいじゃん? お前の考えた、携帯できて結構な頻度で刺さる投げナイフ案で、手裏剣を出すとは思わなかったけどな」
「手裏剣の五メートル以内での命中率って五割を超えるんだぜ? 殺傷力をなくすのに。尖った部分が多い奴にすれば、更に刺さりやすいし、ダメージは剣とかを振るうのに、違和感が出る程度だぞ? けど棒手裏剣はスイカを貫通するから、確実に投げナイフよりはヒルト? 柄がない分深く刺さるし」
「そりゃそうだけどさ……。絶対講師として宇賀神さんを呼びたくなるじゃん。日光〇戸村で忍者やってたし」
「知ってる。本人からも聞いた。ってか投擲の類いならお前もできるだろ?」
「いや、まぁ、できるけどさ?」
そう言って黒曜石で【手裏剣】を作り出し、なんか手ごろな物に投げつけると、ナイフより簡単に刺さるがやっぱり浅い。
「ある意味非殺傷だろ?」
「……そうだな。各自最低五枚くらい持たせるか?」
「そうだな。これでも状況がかなり動くぞ」
「だな。んじゃ俺は帰る。手裏剣とフラッシュバンの件は追々で」
「第一村に帰るんだな。お前にも家族がいるだろう」
「なんだかんだで、お前も結構ぶっこんでくるよな……。んじゃまた明日」
そう言って第一村に転移をした。
そしていつも通り子供達に挨拶をして、手伝える家事がないかを聞き、夕食を食べていた時に鉢植えの花がフルールさんに変化した。
「女貴族からよ。悪いけど、食事が終わり次第例の薬を三人分持って、屋敷まで来て欲しいの。だって」
「……わかりました。と伝えて下さい」
「食事の時間なのに、こんな事言って悪いわね。なんか向こうも急いでいるっぽいわよ?」
「えぇ、時間に気を遣う余裕というか、なりふりかまってられないって事で、なんとなくは想像できます。今すぐ来いって言われないだけ、多少は気を使ってくれているとは思いますけどね。そこまで横暴って訳でもないですし」
そう言ったらフルールさんが肩をすくめて、ため息を吐いてから普通の花に戻った。
「んー。あの貴族かー。確かに今までこんな時間に呼ぶ事はなかったよねー。スパイの件かな?」
「多分そうね。今作ってるクリームの事で、多分スパイの偉い奴でも捕らえたんでしょ。じゃなきゃ、あの女がこんな時間に呼ぶはずがない」
なんか嫁達の言葉に棘があり過ぎるんですけど?
「それだけ急って事でしょ。悪いけど食べたら行って来る」
「カームは偉い人だから、偉い人同士の緊急の話し合いは、仕方ないって事で諦めてるわ。その代わり、あまり子供達の前で今後こういう事を話すのは極力控えましょう」
「そーだねー。とりあえず今日が夕方以降の初めての呼び出しって事で、今回は大目に見てあげますかー」
「そうね。次はないわよ。って言ってきてね」
「うっす……」
なんか嫁達のカルツァに対する扱いが辛辣過ぎません? 靴ペロばれてないよね?
俺がカルツァの屋敷前に転移をすると、普段見ないメイドさんが立って待っており、待機してていつでも俺を案内できる状態にはしていたらしい。
「お忙しい中ご足労頂き、誠にありがとうございます。あの馬車にお乗りください」
「……あぁ。とりあえず言いたい事はカルツァに言う」
俺は馬車に乗り込み、なんとなく屋敷じゃない事はわかっていたが、なんで外側からカーテンが閉められるようになっているんですかねぇ? そこまで身内というか、協力者にも場所を割らせたくないのか?
馬車内には屈強な男が一人。屋敷内で何回かは見かけた事がある程度だが、脱走防止だと思う。まぁ、外から鍵かけられたけど、俺には意味はないだろうな。
そしてしばらく走り、馬車が止まって下りると車庫みたいな場所で、既に屋内で場所さえわからない。
そしてメイドさんに先導され、後をついて行くとなんか一般家庭っぽい作りの廊下から、地下に入るドアを開けられた。
「この先は、私は立ち入れない事になっております。申し訳ございませんが、お一人で進んで下さい。そしてドアを三回の後に五回ノックしてください」
「……了解」
そして壁にはロウソクが一定間隔に並んでおり、少し薄暗いが見えない訳じゃないので下りていくが、一段が二十センチだとして二十段。地下四メートル。それだけ騒がしいのが漏れたくないかだな。
そして通路を、大股で十歩歩いた先にあるドアを言われた通りに叩くと、ドアの目線辺りの部分が郵便受けみたいに開き、中の人と目が合い、鍵の開く音がしてから、カンヌキが外れる音がした。かなり厳重だな。
そして開いたドアを見ると、角材で作ったの? って言いたくなるようなほど分厚い。こりゃ本物っぽいわー。
「奥へどうぞ」
そして太ったおっさんに言われ、足を一歩踏み入れると酷い臭いがする。多分換気をする作りになってないな。空気が淀んでるわ……。
数人のおっさんに見られながら、奥のドアをさっきと同じ手順で開けてもらうと、壁には悪趣味な道具がぶら下がっており、床には身長を伸ばしてくれそうなオシャレなベッドや、なんか子供が絶対に喜ばない木馬や、なんかかなり鋭角な足つき四角錐もある。
「素晴らしいインテリアですね。ここに連れて来られたら、どんなに笑顔でも泣きたくなる。そして、そんなイスに全裸で縛られたら漏らしちゃいそうだ」
部屋の中央で全裸でイスに座らされ、拘束されている女を見つつ、少しだけ皮肉を言い、カルツァを少しだけ睨む。
「とりあえずそんなお喋りをするつもりで、貴方を呼んだ訳じゃないの。さっさとやってくれないかしら?」
「まぁ、まずこっちの質問に答えてもらっていいですか? 一人なのに三人分とは?」
「もしもの為の予備よ。余ったら置いて行けって事はないわ。それと信憑性を上げるのに、そこの男にも同じ事をするわ。了承は得ているから安心しなさい」
そう言って、いかにも新人拷問官って男を顎で指した。
「そうっすか。で、その女のわかっている事は?」
「貴方の蒸留所前に、死体を転がした奴等の上司……。って言えばわかりやすいかしら?」
「そうっすか。上から命令されて命令する人ですね」
つまりどっかの貴族の直属の部下って事ね。
「どうやって連れて来たかは興味ないので、さっさと終わらせましょう」
俺はポケットから瓶を取り出し、布に薬品を染み込ませて、とりあえず口は塞がれているので鼻を塞ぐ事にした。
女は少し暴れたが、直ぐに無抵抗になった。
口の布を外してやると鉄の球が入っていたので、少し顎を広げて無理矢理出した。
飲み込めないし噛み砕けない。本格的だなー。そんな事を思っていたら、手前の部屋にいた数人のおっさんが入ってきて、こっちを見ているので見学なんだろうな。正直クソ気分が悪い。
「君可愛いね。ちょっとそこでお茶でもどう?」
薬が効いてるか、どうでもいい事で話しかけてみる。
「ナンパですか? んふふ、少しだけならいいですよ。こう見えて結構忙しい身なんで」
女は虚ろな目で、頭を揺らしながら満更でもない感じで答えた。
「「「おぉ……」」」
なんで女が喋っただけで、そんなに驚くんだ? もしかしてここに来てから一言も喋ってないのか?
そしてその後は、聞きたい事のメモを渡されたので上手く誘導しつつ、質問を終わらせて、二つ目の薬品で気絶状態にさせた。
「おいお前、そこのイスに座れ。この女が言った事が本当かお前でも試すんだったよな?」
質問内容がクソむかついたので、不機嫌になって自然と口が悪くなった。
「あ、あぁ。わかった」
「吸え。質問内容は俺任せだからな? 普段の素行がいいなら、何を聞かれても問題はないはずだ」
俺は薬品を染み込ませた布を放り投げると、男は布を摘まんで、一回軽く臭いを嗅ぐようにしてから、勢いに任せて片手で布を持って深呼吸をして、頭と腕がだらりと無力状態になった。本当良い度胸してるわ。忠誠心高めかな?
「おう、久しぶりだな」
「あーすまねぇ。どこで会ったか思い出せねぇわー」
「子供の頃家が隣だっただろ! 薄情だな」
「あー、フレデリックか!」
そんな感じで入り、名前や今住んでいる所を聞いたり、休日の過ごし方や、今どんな仕事をしているか、カルツァに対する本音を嫌がらせで聞いてみた。
「あー。人使いは荒くはないが少し性格がきついなー。綺麗だけど綺麗過ぎて声をかけづらい雰囲気でさ、俺みたいな奴は声をかけるのにためらうぜ?」
「ふーん。性的な目で見れる?」
「旦那もいるし、綺麗過ぎるから高嶺の花って感じで対象外だ。ってか俺はあの目つきが嫌いだ、威圧感が凄まじくてよ。笑顔の似合う、俺は可愛い系が好きなんだよ」
「合ってるか?」
俺は薬で男を気絶させ、見学していたおっさん達に聞いてみた。
「あぁ、カルツァ様への本音以外はあっている。てかそんな質問するなよ」
「お前、なんでそんな事聞いたんだ?」
「嫌がらせ以外にあるのか? こんな場所に連れて来られたのはまだいい。色々やって、声が漏れるかもしれないからな。けど女だったら数人で何回も使うってのが、俺が怒ってる原因だ。大っぴらに言えねぇ仕事だって事はわかってる。他人様のやり方だから強くは言えないし、方針を変えろとも言えないのは確かだ」
とりあえず理由を聞いてきた奴を強く睨みつけ、変なシミの付いた石畳の床を、腕を組んだままつま先でガツガツと蹴る。
「けどこれだけは言わせろ、私欲で犯すのも、そういう事はするなって言ってねぇのが、俺が気に入らねぇ。綺麗事じゃないのはわかってるけどよ、ある程度のモラルは維持しろ。どう考えても、犯されて喋る様な訓練はされないだろ。後、急だからって夕方に呼ぶな。呼ぶなら朝から夕方までの仕事中の間だ。とりあえず約束だから次も来るから心配すんな。んじゃ俺は帰るぞ。あと円の中から出ろ」
言うだけ言って俺はカルツァに睨まれながら魔法陣を展開し、相手に何も言わせずに執務室の裏に転移をするが、直前で足元に布袋が投げ込まれ、中を確認するとお金が入っていた。
とりあえず薬とお金を、執務室のカギのかかる所に戻してから家に帰った。
「ただいまー。ごめんね、洗い物できなくて」
「おかえり。気にしないで」「おかえりー。別に大丈夫だよー」
そしていつも通りに笑顔を作り、家に入ったつもりだったが、スズランが俺に抱き着いて来て、背中をポンポンと叩き始めた。
「笑顔が少しだけ堅い。無理して笑顔を作らなくていいよ」
「あー……ごめん。嫌な事って言うより、少しイライラしてただけだから。ちょっと個人的に気に食わなかっただけ」
「まぁ、ああいう場所っていうか、人達って闇が深いからねぇー。仕方ないよ」
ラッテは俺の頭を撫で始め、慰めてくれている。
「嫌な世界に関わっちまったなー。これからは少しだけ覚悟を決めておくよ」
「あっちはあっち。こっちはこっち。こっちで覚悟する様な事は止めてね?」
「そーそー。やられて嫌な事はしちゃ駄目だもんねー」
「そうだね。けど戦闘じゃ、率先してやられたら嫌な事を敵にやってたから、何も言えないなー」
苦笑いをしながら言い、スズランの肩に顎を乗せてとりあえず俺も抱き着いておいた。
魔族にフラッシュバンを使わせる事は決めていましたが、手裏剣は感想で頂いた物を採用させていただきました。




