第283話 室内戦の練習をした時の事
先週は休んでしまい申し訳りませんでした。
キルハウスを作ると決めてから一ヶ月、森を切り拓いた場所に急増の島の一般的な木造住宅から、町で見かける物、挙句に蒸留所と同じ作りの物まで建った。パルプ材がないから、本当に雑だけど。
主に重要施設が乗っ取られた! という馬鹿みたいな設定だが、日頃の訓練が大切なので、とりあえず機会はない方がいいけど、意見が出たから建てちゃった。的なノリだ。
「いいか、出入口から見える情報っていうのは、このくらいだ。死角が多過ぎるから、それを極力少なくする為に壁に張り付いたり、鏡みたいなのを使う」
俺は事前に用意した図を、自立する木の板に張り付けて説明を始める。まず実施する前に理屈を教える為だ。
「こういう廊下を進んだ部屋なんかは、出入り口の中央を点として、そこから半円を描く様に動き、極力素早く動いて、死角を少なくする。そして重要なのは、相手が待ち構えている事が前提だ。例えばここのテーブル。倒して弓かクロスボウで武装していた場合は、こちらの頭が出た時点で狙い、胴体が見えたら放ってくるだろう。いきなり飛び込んでたら確実にテーブルが邪魔になるし、数歩分相手が有利だ」
そして紙をめくり、クリアリングの仕方を教える。
「さて、こういう状況の場合、敵を倒すにはどうすればいいと思う? 答えてみろ」
俺は適当に向かって一番右にいた奴に聞いてみた。
「クロスボウを持った仲間が撃ち殺す。ですか?」
「そうか。ならお前がやってみろ」
俺は少ない資料を置いていたテーブルを倒し、仰向けで寝転がり、上半身を少し起こして、顔を半分だけ出し、持っていた木の棒で、島で使っていないタイプのクロスボウを構えているフリをする。
そうしたら物凄く戸惑っている。当たり前だ。頭半分と肩くらいしか見えていないんだから。我ながら意地悪なやり方だと思う。
「さて、膠着状態になった。攻めるのには少し厳しいな。次、答えてみろ」
「盾持ちが前に出て、数に任せて攻める。でしょうか?」
「そうか。北川、ちょっとテーブルの陰にしゃがんで隠れてくれ」
「あいよ」
「これで二人になったが、お前達はまだ一人しかいない。って情報しか頭にない訳だ。とりあえずそのまま数人で突っ込んだら、一人は確実に怪我するか死ぬな。最初から少し嫌らしい問題だったな」
俺は立ち上がり、テーブルを戻してからもう一度説明に入る。
「簡単な打ち合わせもしていないからな。こういう訓練の場合はもう少し話し合う事が多いんだ。敵は何人、こちらの人数、どんな状況か。とかな」
そして俺は手に持っていた棒で、ペシペシと手の平を叩いて説明を続ける。
「んじゃー敵の数は素人三名、こちらは偶然訓練の途中で飯を食ってたから武装あり、五名一組の二班だ。状況は強盗後に逃げた先が民家。幸いにして家主は仕事中で人質なし、立てこもり場所は寝室、勝利条件は強盗を一人は絶対に捕獲、敗北条件はこちらの被害が三名までだ。最初だから簡単にしてやったぞ」
「敵の武装はなんでしょうか!」
「短剣一名、ナイフ二名。飛び道具類はなし」
説明を終わらせると一人が挙手をしたので、設定を追加する。色々確実にしないと、さっきみたいな後出し情報が追加されるからな。
「よし。とりあえずこの間取りで、実際にどう動くか話し合ってみろ。そうだな……。チームは一班と三班で赤組。二班と四班で青組。時間はこのボウルの水がなくなるまでだ」
そう言って俺は話し合いをさせる事にした。
「いきなりぶっこんでくるな。それっぽいじゃん」
「これが対近距離戦の想定ですか。凄いですね」
敵は三名と言ったが、ここにいる教官全員だったりもする。
「よし、話し合いは終わりだ。実際に動いてみるか。最初だから気軽でいいぞ。後々厳しくするから雰囲気だけでもつかめ」
そう言って民家の前に赤組を連れて移動し、俺達三人が中に入って準備をする。
「んじゃ北川が部屋の中央で、さっきみたいにテーブルを倒して短剣を、ティラさんがドアから見えない部屋の隅でナイフ。俺が窓際でナイフで」
そう言ってから簡単な打ち合わせを済まし、素人っぽく動く事を心がけるように言い、木製の武器を構える。
「まずは赤組だ。いつでもいいぞー」
そして屋根がないので、叫んで準備ができた事を伝えた。
そうしたらドアが開く音が聞こえ、足音でどんどん廊下に来るのが丸聞こえだ。俺は窓から頭を大げさに出して左右確認をして、誰もいないので多分十名全員が廊下に待機している可能性が高い。
なので俺は足音を立てずに、ティラさんとは反対側の死角に立ち、よく耳を澄まして相手を待つ。
そしてドアが勢いよく開き、盾持ちが先頭でなだれ込んで来たので、とりあえず一人の脇を突き、二人目を切りつけておく。そして三人目にティラさんが切りかかって、こちらの勝利条件は満たしたので終了させる。
「とりあえず部隊に損害が出て、立てこもり犯を制圧ってところだな。青組が終わったら話し合いをするから、呼んで来てくれ。それまでにこっちの準備はしておくから、着いたら合図を出す様に言ってくれ。情報は漏らすなよ」
「わかりました」
そして青組が来たのか声が聞こえたので、こっちもさっきと同じ様に返事をすると、やっぱり全員が廊下なのか、窓際に誰もいないので、死角に移動するとドアが開き、こちらの様子をうかがって来た。
「んだてめぇら!」
北川がチンピラの様に吠え、テーブルを跨いで切りかかりに行くと、訓練用の先っぽにデカい布の付いた矢が飛んで来て北川に当たり、一人が勢いよく入って来たので、とりあえず切りかかりに行き、その流れで廊下でクロスボウを持っていた奴に切りかかって、奥の奴も突いて終わりにさせる。
「さて結果だが、まぁ全滅はないが、数名負傷ってところだな。お前等、狭い廊下の左右に五人も並んでて邪魔じゃないか? 窓だってあるんだぞ? 後ろの三名くらいはどう考えたって、最初はなにもできないだろ? 外から攻めたっていいんだぞ?」
腕を組んで頭を傾げながら、とりあえず外から攻めて来なかった事を伝えた。
「俺は窓から丁寧に頭を出して左右を確認した。けど誰も来ないから廊下側に移動したんだ。これが外に数人いたら、俺は廊下側に向かわなかっただろう」
そして全員が、あ、そうだった。みたいな顔になった。なんか全員頭固くない? 室内戦の事しか言ってなかったからか?
「例えば教官三名だけで攻める場合、俺と北川が廊下、ティラさんが窓から射撃。もしくは俺が窓に行き、勢いよく閉めて注意を引きつけた瞬間にドアを開けて射撃、その後俺も窓から乗り込む方法を取ると思う。狭い場所に敵が数名いる場合は、挟撃みたいに、注意を逸らして防衛戦力を一ヶ所に集中させない事も大切だ。とりあえず流れとしてはこんな感じで、お前達が成長してきたら、条件をもっと厳しくしていくから、室内戦にも慣れるように。んじゃ室内近接戦闘訓練だな」
そして戦闘訓練になり、外と違って色々な物が邪魔をする環境に慣れさせる事にした。
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「そっちはどうだったよ?」
訓練後、砂浜近くにあるベンチに腰掛け、北川と話し合いをする事にした。
「あ? 大振りで柱とかに剣がぶつかったり、テーブルやイスが邪魔で上手く振れなかったりだな。外の訓練に慣れ過ぎてる」
「こっちはクロスボウを持ち込んできたぞ? 銃と違って連射できないんだから、室内じゃさっさと一発撃ったら、捨てさせる癖もつけさせた方がいいな」
そうして二人で大きなため息を吐く。
「やっぱり地球みたいにはいかねぇか」
「だなー。この戦闘方法はまだ早かった気がする」
「けど城じゃ、防衛訓練で室内で近接戦闘をやらせてたな。最悪の場合を想定してた」
「んじゃアレだな。来年あたりにでも模擬戦か。酒とか米を届けに行く時に、会田さんに言っておくわ」
「そうだな。その前に課題が山積みだけどな」
「だなー。色々と問題も山積みだけど。クリームとか。瓶の製造量が増えたから、結果的に出荷数は増えてるけど未だに品薄状態だし、スパイを処理した数が増えてきてる。流石に年越祭の時には島には来なかったけど、大陸間渡航者とか、港で急に乗り込んでくる船員希望者とか本当怖いわー」
「なんだ、未だにいるのか。そいつらだけ上陸させないで、船上待機とかあまりさせたくはないしな」
そしてもう一度、二人で大きなため息を吐いた。
「とりあえず帰るわ。早く子供が見たい」
「半日くらいがまんできねぇのか?」
「子供ができればわかるよ。んじゃ、また明日」
「あいよ」
俺は北川の肩を叩き、家の前に転移をした。
「コルキス-、メルー、ただいまー。お、今日はターニャか」
「おかえり」「おかえりー」
俺は家に帰って、多分まだあまり周りが見えていない子供達に話しかけ、固視をしてくるので認識はされていると思う。
「さーて。なんか手伝える事はある?」
「ない?」
スズランが、一応ラッテに確認している。
「ないかなー? 洗濯物は畳んじゃったし。しいて言うならご飯くらい?」
「はいはい」
そして真っ先に家事の事を聞き、台所の脇にある籠を見て今日の献立を決め、ちゃっちゃと作り始める事にする。
「とりあえず雑に作ったよー」
そう言って、適当に炒めた野菜に、トマトを潰して入れて味を調えたパスタと、同じ野菜と鶏肉を煮て、溶き卵を落としたスープを出す。
多分栄養的には問題はないと思う。味も薄めだし。
「まぁ、カーム君の雑ってその辺の女の人と同等くらいだけどねー」
「私より味は整ってるから困る」
そして苦笑いをしつつ、子供達を床の布団に寝かせてから、食事を始めるとターニャが子供達の間に入り、尻尾を振って手の平に乗せたり、顎をお腹の上に乗せたりして子守をしてくれる。
「お母さん達がいないけど、狼達が子守をしてくれて助かる」
「ほんとー。リリーちゃんやミエルの時も飼ってれば良かったねー」
「母性本能とか使命感もあるし、基本犬や狼は群れで行動してる。だから子守とかもするんだよね。後はご主人様達の子供っていうのも理解してるし、ちゃんと家族だって事も理解してる。猫もするんだけどね」
猫は具体的な根拠はないとか言われてるけど……。
「あおあおあおー」
そんな事を話し合っていたら、ターニャが変な声で鳴き始めたので、急いで見てみると、コルキスに尻尾を掴まれ、メルに耳を掴まれて物凄く困った顔になっていた。
「おいおいおい、可愛いなーまったく。そろそろベビーミトンとか必要かー? けど指しゃぶりできないしなー。顔とかにひっかき傷ができたら考えようねー」
そう言いながらゆっくりと手を開いて離してやるが、ターニャは逃げずに子守をしてくれている。
「本当に賢いなーお前達は。今度子供が産まれたら連れてきてくれよ」
「わふん!」
とりあえず今日はターニャしかいないが、今うちに出入りしている狼達は皆こんな感じなので、頭を撫でておく。
そしてご飯を食べている間や、洗い物をしている時にぐずりだしそうになったら、頬を舐めたり、手に鼻先を押し付けたりしてあやしているのを、見るとホッコリさせられる。
「んふふ。本当可愛いわ。見ていて飽きない」
「そーだねー。けど元気に育ってくれるだけで私は幸せー」
「そうね。元気に育ってくれるだけで嬉しいわ」
俺はそのやり取りを、皿を拭きながら笑顔で見ていた。




