第273話 爺さん達の情熱がやばかった時の事
先週は休んでしまい申し訳りませんでした。
チーズ作りに手を出すのに、俺は各村で叫んで少しでも知っている人がいれば、そこから情報を得て、簡単なメモを取り、実際に作っていた人がいれば、酪農をしている第四村へ移住してもらえないかの交渉も済ませ、メモを見て作り方のすり合わせも済ませた。これで島でチーズが作れる。はず……。
生乳の保存技術がないから助かるわ。容器に入れて海や疎水で冷やしても、高温多湿で半日でやばそうだし、ピルツさんにずっと監視させるのもアレだからな。
そんな感じで数日過ごし、チーズ製造所の草案や簡単な絵図面を、貰った情報を元に描きつつ、夕食の時にフルールさんが変化をして、榎本さんからの言葉を伝えてくれた。
「エノモトってあの元気がいいお爺ちゃん?」
「そうそう。この日本酒と味噌醤油を、ピルツさんと協力して作ってくれてる人」
「確か勇者よね? キタガワより強いのかしら? あの歳だと老練って感じがしそう」
「あの人技術系で、農業関係を色々教えてたっぽいからそうでもない。多分戦闘系よりは弱いけど、鍬でゴブリンを叩き殺したり、鎌を投げて仕留めたりは簡単にできるって言ってたなー。そして堆肥にしてたみたいだし」
俺は出会った頃を思い出す様に言い、そんな事をぬか漬けを食べながら言っていた、パワフルジジイ様って事は知ってる。
「コメかー。ちょっと香りが独特で苦手なんだよねー。あと味もほとんどないし」
炊き立てご飯の香りが、いい香りって思えるのは日本人だけって聞いた事があるし、味の足し算が口でできなくて、日本に来て白米に醤油とか塩をかけるってのを聞いた事はある。ラッテもそれかもしれない。
「スパイス入りの鶏肉や魚のスープで煮れば美味しい。パエリアって言ったっけ?」
「あれは美味しかったよー。お肉とかお魚の味が染み込んでるし」
「そうそう、パエリア。アレは生の米から煮たり? アレは炊くのか? するから、ドロドロにしないオートミールに近いね」
たまに俺も米を炊いて食べるので、寝るまで嫁達と米の事を話しながら、何か美味しい料理をお願いって流れになり、俺は笑顔で頷いておいた。
とりあえず焼いた魚の身をほぐして、骨をカリカリに焼いて出汁を取った物でお茶漬け的な? けど葉酸とかも入れたいから、ほうれん草とかも使いたい。お浸しと醤油も付けるか?
けど茹でただけのほうれん草に、醤油をかけて食べる物が、文化的な物で受け入れられるかが心配だ。ゴマ味噌和えにして、榎本さんの故郷の料理って事でいいか。
◇
翌日に日の出と共に第二村に行くと、既に作業が始まりそうだった。
「すみません。日の出と一緒だったら平気かと思ったんですが」
「いや、時間言ってなかったから平気だ。ほら、お前はあの辺をズバッっとやってくれ。馴れた奴が拾って、ある程度纏めて藁で縛って干す準備はじめっから」
榎本さんはそんな事を言っているが、既に刈り取られた稲があり、逆さにして干してある場所もある。
「あれか? 品種改良して最初に植えた奴だから、先に刈り取っただけだ。天気予報がねぇからな。雨や嵐に備えた試行錯誤は必要だろ? んでこっちは本格的に植えた」
「品種改良……ですか」
すげぇな。農業に関してはかなり精力的にやってるな。まぁ、村の景観は凄く日本の田園風景なんだけどね。ここから見える限りは。
後ろを見ると、なんかいい感じにイタリア辺りの村なんだよなぁ……。
米とか愛されてんのかな? ラッテとスズランの反応がイマイチだったけど。
「しばらく手伝ってませんが、米の品種増えてません?」
俺は稲穂が実り、大きく頭を下げているのを見て、明らかに形が違うので聞いてみた。
「あぁ、あいつらスープで煮るからよ、ジャポニカ種よりインディカ種の方が良いと思って今年から作ってんだ。こっちの原種に近いんだぜ。っしゃ、口ばっかり動かしてないで手も動かすか。お前は魔法だけどな」
笑顔の榎本さんに背中を叩かれ、俺もエンジンをかける事にする。
ある程度作業をしているとお茶の時刻になり、お茶がヤカンに入ったまま出てきて、なぜかサンドイッチが出てきた。まだ完璧に日本になってなくて安心したわ。具はベーコンとこっちの世界の葉物野菜だった。
「なんだろう。気分はピクニック」
「サンドイッチだからだろ。ほれ、漬物だ」
「今から漬物にチェンジは、口の中がやばそうなので昼食か午後のお茶で」
「だよなぁ……。まぁ仕方ねぇか」
そんな事を言いながら、キュウリの糠漬けをポリポリと食べている。こっちのお茶にも合うから不思議なんだよなぁ。本当この世界の茶葉はどんな物なんだろうか?
□
そして午後のお茶の時間になる頃には、俺の仕事は終わっており、辺りを見学する事にした。水車があるのは知ってるが、あまり観察とかしてないし。
そう思って少し村の奥に進むと、足踏み式の脱穀機が回っており、インディカ米を脱穀していた。なんか、資料でしか見た事のない風景が今そこに見える……。
ゴムとかはないし、紐と重り、ギア比とか云々で動いているんだろうな……。なんか一踏みですごい勢いで回って、なんか中々止まらないし、踏めば踏むほど加速している感じがする。ローカルなのに中は凄くハイテクなんだろう。絶対織田さんが本気出したな。
で、こっちは唐箕を回して稲穂の選別か、見えないところでやっぱり本気出してそう。
ハンドルを回すと、小さい労力で、かなり大きな羽根が回って、身の詰まってない稲穂が排出されて、重いものほど手前に落ちているし。
ってか奥に蒸気式発動機っぽいのがあるけど、頓挫してるっぽいな。製造技術が追い付いていないのか? ヴァンさんでも第二村に出張させるかな?
「オダの作る物ってすげぇよな。俺が村にいた頃、こんなのがあればどんどん米とかも作ってたぜ」
「全くだ。麦と一緒で手間だからなぁ」
なんか評価は凄くいいみたいだ。動力が人力ってなだけで、最適化できる所ではどんどんしているみたいだし。
そしてその選別した米を、水車小屋に運んでいたので見てみると。籾摺りして脱穀して、その隣で精米していた。本当に無駄がねぇな。ってか細長いから、擦る様にして精米か……。
ジャポニカ米みたいに、杵と臼って訳じゃないんだな。
「あ、カームさんちーっす。オダじいさんのおかげで、億劫だったこの時期が楽になりましたよ。本当。勇者の技術ってすげぇっすね」
五十歳過ぎてるっぽいし、白髪って言うより灰色だけど、じいさん言われればそうなのかも。
「えぇ、本当です。第一村の井戸や、そのほか細々した所では織田さんに助けられています」
「ほらほら、口ばっかり動かしてないで、手も動かすんだよ!」
そしておばちゃんが水車小屋に乱入してきて、籾殻を巨大な袋に入れて外に持ち出していた。軽いのは女性の仕事になっているんだな。
脱穀機の登場で未亡人殺しとか言われてたけど、その辺の保証とかはこっちでやってるから、独身女性でも問題なく食えてるけど……。おばちゃんはどこの世界でも強いなぁ。昔の泥棒の風呂敷の倍みたいな袋で運んでるし。軽いけど、そんなに入れて重くないの?
それを見ていたら、刈り取った畑に、なんか薄い鉄の板で囲いがしてあり、火を燃やして三角錐に煙突を付けたような奴をかぶせ、籾殻をどんどん入れていた。
「あれな。籾殻燻炭作ってんだよ」
見ていたら横から榎本さんが来て、いきなりそんな事を言った。
「畑に必要な栄養とか含まれてて、後で混ぜ返せば、保水力や通気性も上がって微生物も活性化する。炭は地面に還らねぇんだけどな。江戸の頃からやってっから俺もまねしてんだけどよ。何か知ってるか?」
「いえ、知りませんね。確かに炭は地面に還らないので、埋めるなとは聞きますが、これはどうなんでしょうね? 昔からずっとされ続けているって事は、何かあるんでしょうね。多分物が細かいとか、炭より多く穴が開いてるとかが関係してるのでは?」
「広く浅くのお前でもわかんねぇか。会田に聞くほどでもねぇしな……。で、こっちの米が乾いたら籾殻は家畜の敷床。藁の部分は飼料。海外だとでっけぇ鎌で、膝くらいで刈って、残りは食わせてたんだろ? 放牧できる土地の違いだよなぁ」
「そうっすねぇ。海外は日本と違って、地平線の向こうまで麦畑とかトウモロコシ畑ってのがザラにありますからね」
「だよなあ……。平地って言ったら北海道くらいしか出て来ねぇや。ま、この後はでき立ての米でパエリアだな」
「榎本さんの口から横文字が出ると、多少違和感がありますね」
そうして榎本さんの指差した方を見ると、なんか巨大パエリア鍋っぽいのを男達が運んでいた。あんなのテレビでしか見ねぇよ……。
「お前、洋食得意だったよな? 炊き出しに参加してくるか?」
「いやいやいや。あんな大きい奴での経験ないっすよ。何回かやった事のある、おば様方に任せます。俺がやると日本風になりますし。まぁ、後学の為に見学はさせてもらいますけどね」
「おう。行ってこい!」
そして榎本さんに背中を叩かれ、おば様達の所に向かった。
「やっぱりこうなるんだよなぁ……」
俺は巨大パエリア鍋の横で、ニンニクや玉ねぎ、トマトをみじん切りにしたり、海老とかの面倒な物の下処理を任されている。
そして横目で覗くが、オリーブオイルとか目分量で入れて、ニンニクを炒め始め、海産物がどんどん入れられ、火が通ったら野菜が投下され始めた。
そして見どころは、小舟を漕ぐ様な大きな木べらで具材を炒めているところだな。本当おば様達はパワフルだな。もう細かい事気にしてないだろコレ。ってか人が撲殺できそうな大きさだなぁ。
そして生米が投入され、四人で押す様にして炒めている。
そして寸胴鍋を見ると、海産系でスープを取ったのか、なんかラーメン屋で見る様な野菜が丸々入てったり、海老とか小魚が煮てあり、かなり濃厚そうなスープが布で濾されて、鍋に細かい事は気にしない感じでドバーっと入れて、どんどん進んでいった。
もう一回炒めた海老とかイカなんか、素手で掴んで、お相撲さんみたいに投げ入れてるし。本当に豪快としかいえねぇ。
そして小皿でスープの味を確かめていたので、俺も貰って飲ませてもらった。
「おぉ。繊細さが一切ないけど、これはこれで豪快で愉快な味がする」
「カームにそう言ってもらえると、うれしいねぇ。前は料理方法でかなりグチグチいわれてたからねぇ」
一人のおばちゃんがそういうと、釣られて残りのおばちゃんが笑い出した。
「いやー。アレはかなり不味かったっすよ? 生臭いのがジャガイモに移ってましたし。けどこれは美味いですね。ここまできて失敗するんだったら、半生か焦がすかのどっちかでしょうね」
「もう何回もコレで作ってんだ。失敗するはずないわよ!」
おばちゃんが巨大な木べらを肩に担ぎ、豪快に笑っているが、盗賊とか海賊とか撃退できそうな凄みがある。ってか一本抜けた歯で笑わないで下さい。妙に怖いっす。
で、男達はテーブルの準備と……酒盛りっすか。こういう時は第二村でも少しは騒ぐんだな。で、視界の端にはピンク色の髪の女性が……。うん。知ってた。
その後は、適度に姐さんに絡まれつつ、妊娠中の嫁がいる事を理由に一杯だけ付き合ってから、皿にパエリアを三人前ほど貰って自宅前に転移し、なんとか夕食を作る前にスズランとラッテに届けられた。
「んー。美味しー。カーム君のとはなんか違うけど、こう、雑な美味しさがあるよね」
ラッテは笑顔でパエリアを食べ、スズランがコクコクと頷きながら黙々と食べている。
雑な美味しさって……。確かに表現的には間違いじゃないけどさ。
「普通のフライパンで数人分じゃなくて、俺が腰を丸めて寝転がれそうな感じの、大きなフライパンで全員分作ってるからね。大量に作る美味さは、普通とは別な場所にあるのは確かだね」
数人分のカレーより、一気に五十人分煮込むカレーとかの方が、作り方が同じなのに、妙に美味く感じるしな。
「これの肉のがあったよね? 今度はそれを作って。魚もいいけど、やっぱり私は肉がいい」
「なんか野菜系のないのー?」
「野菜って言うか、葉っぱと豆のがある。豆は畑のお肉だ。母胎にもいいから、榎本さんからお米を分けてもらったら作るよ」
折衷案として、葉物と豆をあげたら二人共微妙な顔をしていた。
「はいはい、二回分もらってきて同時に二種類作るから、そんな顔は止めてね」
けどパエリアって言ったら、俺は海鮮物のイメージが強いんだよなぁー。三回分もらってきて、海鮮系も作るか。
リリーとミエル目線の冒険
『魔王と呼ばれたとある男の子供達(仮) 魔王になったら領地が無人島だった外伝』
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