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第272話 チーズを島で作ろうと思った時の事

 あれから数日。チマチマ進めていた、家の裏手に豚小屋と鳥小屋が、俺の日曜大工的な物で仕上がった。

 スズランに無言の圧力をかけられつつ、ラッテがちょっと多めに卵を食べたいとか言うので、最近の休日は全部これに突っ込んだ感じだ。

 大工に頼んでもいいけど、色々忙しそうだし、できるなら自分でやった方が良いよね、ってな感じで進めた。豚も二匹に子豚が産まれたら増築って感じだし、鳥小屋もそこまで大きくないし。

 まぁ、他の家でも個人で家畜を飼ってたりするし、問題はないはずだ。むしろゲームとかの寒村の村長宅的な感じなイメージ? まぁ、レンガ作りの二階建ての村長宅っていうと、大きな村の村長の家より大きい気もするけどね。

 ちなみにキースから、お前本当に何でもできるんだな。とか言われたけど、寒村で雑用ばっかりやってたら嫌でも覚えるさ。後はフィーリングでそれっぽく。嵐さえどうにかなれば、この島じゃどうにかなるよ、寒くないし。

「さて、子豚をアクアマリンの養豚場から、買ってあるから連れてくるだけだけど……。なんか他に飼う? 羊とか」

「豚の方が多産だからいらない」

「んー。なんかいたっけ? 牛さんはちょーっとここじゃ狭いしなー。とりあえず子豚ちゃんだけでいいんじゃない?」

「はいはい。んじゃとりあえず雄雌一匹ずつで」

 森から流れてる小川から離れた所に、村用の堆肥置き場もあるし、家で飼う事自体には問題はないけど……。

 鶏や鴨みたいに飼ってた豚を殺して食べられるかなぁ……。それだけが心配だ。名前を付けなければ平気って言うけど、子豚から育ててたら……。んー微妙。

 ってな訳で、産まれて三十日して離乳した子豚を連れているけど……。なんか既にギリギリ小型犬ってな体重だし、紐で繋いで歩いてるけど、ちょこちょこ歩いてて可愛い。まぁ、割り切るしかないけどね。

 そして柵の中に入れると、中央に作っておいた、水溜まりで泥遊びをして、早速日向ぼっこをし始めた。なごむなぁ。大きくなったら食べられちゃうんだけどね。

 まぁ、柵はちょっと広めに作ってあるし、清潔好きだから、その辺気を付けてれば問題はないらしいけど、流石に放し飼いはどうなんだろう? ヴォルフが俺の隣で柵越しに見てるし。

 一応今まで狼に襲われたって事は聞かないし、なんか森で自由に歩き回らせて、木の実とか昆虫とか食べさせた方が良いとか、キースが言ってたな。

 そういえば前世で、ドングリだけ食べさせた豚が美味いとか聞いたし、飼料にハーブとか混ぜた奴もあったな。そっち系でやってみるか? まぁ、しばらくは荒く挽いた麦とかも与えつつ、おやつ的な物で、ナッツ類とか? なんか島でやったら絶対足らない気もするけど。

「あぁ、ビールの搾りかすとかもいいんだっけ」

 そう呟き俺はヴォルフの頭を軽く撫で、食べちゃ駄目ねと言ってから、セレナイトの外にある牧場に向かう事にした。なんでかって? 第四村の羊の放牧地予定場所に柵ができあがり、連れてきていいと北川に昨日言われたからだ。


「どうもー。先日うかがったアクアマリンの者です。羊五十一頭引き取りに来ました」

 柵の全体の感じがわかってきた頃に、前金で五十頭分を払いに来ておいたし、その辺は問題はない。

「あーあんたか。そっちに別けてあるから、この間みたいにもってけー」

「どうもでーす」

 一応牧場主に声をかけ、分けてあった羊を見て軽く撫でてみる。なんか文句言われそうだけど、羊の声を聴くのに、テーラーさんを連れてくればよかった。

 吐かれても困るから、俺が羊達を連れて行く? 面倒くさいからいいか……。

「な、これからよろしく頼むよ」

「んめぇ゛~~~」

  俺が近くにいた羊の胴体を撫でると軽く鳴いたので、一応話してる事は理解しているっぽい気もする。けどこの目は好きになれない……。瞳孔部分が横に長細く、なんとなく苦手だ。真夜中とかに丸く開くのは知ってるけど、この状態はなぁ……。

 そんな事を思いながら、羊を転移魔法の範囲内に収めて第四村に転移をした。

「うっしお前達、今日からここが新しい住処だ。仲間は十回も運べば終わると思うから、しばらくは少数で我慢しててくれ」

「ベェェェ!」

 うぉ、なんか威嚇すんなよ。ってか急に数が少なくなったから不安なのか? それとも転移? こりゃなるべく早めに増やさないと。一日二回にしようとも思ったけど、今日は気怠くなるまで運ぶか。

 そう思いつつ気怠くなるまで運んでみたが、放牧地に二十頭まで増えた。

「あ゛~、残りは三日に分ければいいか」

 柵にもたれかかりつつ、草を食んでる羊を見る。

「この距離感なら可愛いんだけどなぁー」

 ため息を吐き、ぼーっと羊を見てたら、ラクダが柵越しに近付き、首を伸ばして近付いている。お互い偶蹄類っぽいし、通じ合うところでもあるんだろうか? もう少し部類を増やすなら、繊維とか食用って感じ? まぁ仲良くしてくれ、喧嘩しなければこっちは問題ないさ。

 ヤギのチーズとか良く聞くし、羊も多分作れるだろ。

「あ、ついに羊が来たんすね。ヤギと一緒で、チーズが美味しいんすよ。ペコリーノがあれば、かなりしょっぱいんで、どんどんお酒が飲めやすよ」

 少しだけダレていたら、なんか聞いた事のある単語が出た。ペコリーノってチーズの種類だったのか。芸人かと思ってたわ。塩分が強いって事は長期保存用か。

「マンチェゴもオッソーもいいっすね」

 マンチェゴは確かドン・キホーテに出てたな、あれも羊のチーズだったのか。日本じゃメジャーじゃないだけで、結構食われてるんだな。そうなるとラクダの乳もチーズにすればどうにかなるか?

「聞いてるだけで美味そうですね」

「どれも酒に合いやす。牛が少ないので諦めてたんすけど、少し期待っすね」

「お酒ですかー。酔えないので普段あまり飲みませんが、そう考えると島内のつまみ事情の事は、すっかり手付かずでした。ちょっと考えてみますね」

「あ、いや。そんなつもりで言った訳じゃなかったんすけど」

 隣に立った、名も知らぬ男性が少しだけ慌てていたが、反応を見る限り、一応俺の事は知っているみたいだ。

「いやいや、自分が普段あまり飲まないからと言って、作らないのはおかしいですよ。自分が嫌いだから、それを使った料理を出さないのと同じです。数が多いので、こいつ等に子供が産まれたら挑戦してみます」

 ピルツさんもいるしね。白カビや青カビ、確か塩水で洗う枯草菌のもあった気がする。

 そう思いつつ、俺は気怠い中、ポケットから書き損じの紙を取り出し、軽くメモを取る。高温多湿の島、けど日本と同じ北緯のギリシャ辺りでもチーズはあるし、多分どうにかなるか? あっちは乾燥してるけど。

 ピルツさんに言って、色々試せば島でも作れるかもしれない。シイタケの話をしに行きながら、ちょっと相談もしてみるか。


「ちゃーっす。北川がシイタケが食いたいって言ってたので、こっちでできませんかね? なんか一番この村が、ピルツさんと仲が良さそうなので、ちょっとした打診なんですけどね」

「いきなり来て、いきなり何を言うかと思えばキノコかよ。まぁいい、上がれ。茶ぁ淹れっから」

 榎本さんの住んでいる日本風家屋に顔を出すと、縁側で魚を干していたので早速声をかけてみた。しかも竹で編んだ感じの、あの大きな奴。竹じゃないけど、どうやって作ったんだろうか?

 そして家の中に入ると、なんか箪笥が増えてたり、ツボで味噌醤油を保存しているのか、土間の薄暗い所においてあったりで、なんか時代劇の寒村の屋内って感じが強い。

 そして盆栽みたいに、変わった形の鉢に水苔と小指の爪くらいの小石が敷き詰められていて、そこにピルツさんであろうと思われるキノコが生えていた。

「どうだその鞍馬鉢、自作だぜ? 小洒落てるだろ」

「こういうのは良くわかりませんが、綺麗ですね」

「上薬はこの間来た陶芸家に、分けてもらいに第一村まで行ったんだぜ?」

「おー。中々凝ってますね」

 って事は、今お茶を注いでる湯飲みも自分で作ったのか? 中々老後を楽しんでるじゃないか。ってかまだまだ現役だけど。

「奥が深過ぎて、浅い部分しか足突っ込めねぇけどな。ほい、茶だぜ」

「ありがとうございます」

 ピルツさん、毒々しい赤色のキノコだから、青々とした水苔に良く映える。

 補色ってすげぇなぁ。あんな毒々しい色が綺麗に見えるんだから。ってかお茶が美味い、なんか普段出回ってない奴を独自に見つけて、蒸したりしてるのかもしれない。

「でー。お前から訪ねて来るって事は、なんかあるんだろ?」

「はい。ちょっとチーズ作りをしたくて。けどその為に家畜の子供を殺して胃液を集めるのも、繁殖的にまだまだ少ないですし、酵素だかカビで代用できるって向こう(・・・)で聞いてたので」

「だからキノコの嬢ちゃんって事か」

「えぇ。それと北川が、筑前煮の為にシイタケが欲しいらしく――」

「シイタケならもう作ってるぜ? 去年仕込んだんだけどよ、今回は無理だった。嬢ちゃんに毒のない、こんな感じのキノコをって絵を見せて、手あたり次第伐採した木に、色んな菌を選んでもらって植えたんだけどよ。今回は全部外れ。また今年仕込むから待ってろって伝えてくれ」

「あ、はい……」

 シイタケと言ったら、即効で口を挟んできた。ってか榎本さんも食いたいのかな?

「おがくずに菌とか混ぜて、蝋で蓋とかしたんだけどなぁ……。やり方は近所の農家に聞いてたから覚えてたんだけど、外れじゃ駄目だよなぁ?」

「そ、そうっすね」

 榎本さんは舌打ちをしながら膝を叩き、お茶を飲んで凄く悔しそうにしていた。本当に昭和を生きてた爺さんだな。

「チーズだよな? ちっと待ってろ」

 そう言って薄暗い場所にある、鞍馬鉢を持って来てちゃぶ台に置いた。足もあって、水が抜ける様になってるんだな。

「ひひ……なに?」

 ピルツさんは相変わらず引き吊った笑みだなぁ。

「動物の乳を固めたいんですけど、ピルツさんの同族か、こんな感じで果物の表面にある、白っぽい酵素って奴で、そんな能力持ってるって奴います?」

「んー……。いるね……。大丈夫だって言ってる」

「わかりました。今度本格的に動く時に頼みますね」

「うん。わかった……」

 そういうとピルツさんは、テーブルの上が眩しいのか、そそくさとキノコに戻っていった。

「で、具体的にどうするんだ?」

「そうですねぇ……。乳酸菌ってのも必要なので、ヨーグルトを作っておきます」

「あーあれな。牛乳にヨーグルト入れて、適温で増やす奴。けど最初のはどうやって作んだ? どんどん増やしていけばいいけどよ、最初のがないんじゃ話になんねぇぞ?」

「子供の頃に見た科学番組で、牛乳に蟻を入れていたのが物凄く印象に残っています。それで作って保持し、その菌だか酵素をぶち込んで、出てきたホエイっていう、黄色っぽい汁を濾せばチーズです」

 確か蟻酸って奴で固めてた気がする。

「酢じゃ駄目なんか? なんか固まるよな?」

「チーズも色々と面倒で、それは熟成させないで食べる奴ですね。俺も詳しくないので、今はなんとなくで言っていますが、ある程度基礎的な物が整ったら、知ってる方に任せます」

「それが良いな。こっちには実際に生業としてた奴もいるだろうし、知ってる奴が数人いるかもしれねぇ」

「ですね、先ほど第四村で羊の乳で作ったチーズの話をしましたので、その方なら知っているかもしれません。それに今でもそういう感じでやらせてもらってますし、日本じゃチーズを家で作ること自体が凄いですからね」

 俺は少し冷めたお茶を飲み切って、軽く息を吐いて一息つく。本当に美味いなこれ。

「では、失礼しますね」

「待て、来たついでだから頼みを聞いてくれ。そろそろ稲刈りやんだけどよ、手ぇ貸してくれねぇか? お前の魔法がないと、結構厳しいくらい田んぼを増やしちまったんだよ。数日中に天気を見定めて、朝から晴れなら、花の嬢ちゃんを使って連絡入れる」

「えぇ、良いですよ。榎本さんの味噌醤油は、日本人の生きる糧ですからね」

 俺は笑顔で答えると、榎本さんは笑顔で湯飲みに酒を注いできた。かなりご機嫌みたいだ。ってか、ちゃぶ台から手の届く位置に、酒瓶ってどうよ?

「頂戴いたします」

 そして俺も少しかしこまり、榎本さんが自分の湯飲みに手酌で注ごうとしていたので、奪ってでも注ごうとしたが遅かった。

 そして軽く湯呑をぶつけ、良く味わってチビチビとやらせてもらってから、執務室に帰って、チーズ作りの草案を書き始めた。

ラクダや繊維系でも書きましたが、名前や種類をわかりやすくする為に、色々な物を地球上の地名がついてても、そのまま使っております。


色々浮気をしつつ、かなり遅くなりましたが、何とかまおむじ外伝(仮)を二話分、1万文字を書きました。

後は正式なタイトルとか、ジャンル分けとかを考えながら投稿をしてみたいと思っています。

次の日曜日までには、後書きにURLとかを乗せられればなーとか思っております。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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