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第271話 マニュアルを作り始めた時の事

ご感想での、皆様のご意見を参考にさせていただきました。

自分の考えていた物意外の案も出ており、大変参考になりました。

 クラヴァッテの屋敷に行ってから二十日、俺は数日北川に何があったのかを話し、二人で作った草案を持って会田さんに相談に行き、とりあえずはこんな感じでいいんじゃないか? というくらいには、現時点でのスパイに対しての対策はできあがった。

「んじゃ、観光客が来た時の立ち入り禁止区画ってのは必要って事だな?」

「あぁ。第一村だったら工業区がそうだな。一応危険だって事で立ち入りを禁止しつつ、希望者が出ない限りは見学はなし。蒸留所はかなりオープンにやってるから、観光目的でも平気だな。ってか液体系運ぶの手間だから、交易所の近くに建てちゃったしなぁ……」

「工場見学みたいだしいいんじゃね? 終わったら終わったで、できたてを試飲とか、寝かせた物を試飲とかやってたしな。ビールはできたて、ウイスキーは鑑定家がお勧めしてる物。工場に行っての試飲は美味かった」

 北川は味を思い出したのか、少しだけにやけながら言い、俺も行った事があるので軽く頭を縦に振っておいた。

「しばらくは無理だが、今鍛えてる奴が育ってきたら、教官として各村に五人一組で配置できないか? もちろん有事の際は二十人で動いてもらうけど」

「あぁ、かまわねぇよ。一応特殊部隊風と警備隊風は分けないと不味いけどな。そうなると、もう少し鍛える事が仕事です。って奴を別枠で取らないと……。犬や猫系は五感絶対欲しいな。歩哨に偵察、狙撃。ハーピーで哨戒……」

 何か北川が物騒な事を言い出したな。

「リザードマン系って何に特化してんだ?」

「あ? 俺の父親は近接特化だったぞ? けどガラス工房の主人みたいに、職人やってるのもいるし、何とも言えない。その人次第だろ?」

「んーわかった。これと言って特化って言うより、極めようとしたり職人気質だったりね。一小隊を十人として半分は魔族――」

「戻ってこい。話が逸れてっから! 今はスパイの対策会議だろ? 二人しかいねぇけど」

 北川は北川で、なんか物理的な防衛に行ってるな。来年の夏には沿岸警備隊と、治安維持組織や特殊部隊ができるなこりゃ。

「あぁ、すまん。第四村はどうするんだ? キャメルミルク石鹸作成所と保管所くらいしかまだないぞ? 麻だってその辺の村でも育ててるし、家畜の放牧もしてる。しいて言うならラクダがいるくらいか?」

「今お前が考えつつ口に出してた、特殊部隊風の訓練施設を作る森だろ。ってかコーヒーの木も多少村から離れてるし、第三村の森はカカオもある。基本村から外れた森は野生生物も出るから出入り禁止だな」

 ジャイアントモスも群生地は、厳戒すると多分場所がバレるから、フルールさんを植えまくって、狼にそれとなく見回っててーってお願いするしかねぇんだよなぁ。

「そうだな。森系は危険って事でほぼ出入り禁止。指定した場所に立ち入ったら警戒レベルを上げ、一声かけて見学したいって言うなら、場所によっては許可制でいいか?」

「そうだな。あとは最重要のクリーム作成だけど、ダミーも必要だろうな。作るのは今まで通りけど、ダミーは工業区に建てて、石鹸でも作らせればいい。材料は似てるしな」

 そして俺と北川は、日本語で書かれたメモを見せ合い、俺が草案として纏める。ってか北川のメモの半分以上が物理的防衛だった。

 犬系が嗅覚や斥候、猫系は無音暗殺とか書かれていた。かなーり物騒だ。けどそっち系も備えておかないと、大火力が二人ってのも厳しいからな。

「よし、これでとりあえず島の防諜の基礎っぽいのができた」

「後は経験を積んで、微妙に修正しながら成長だな。ってか最近話し合いが多過ぎて、かなり驚かれてるんだよ。俺はあいつらに、脳筋だと思われてんのかな?」

「いつも大声で怒鳴ってる教官こそ、学がないとどうにもならないと思うんだけど、訓練されてる身としては、そうは思わないのかもな。そういえば話し合いが多いから長期キャンプ中なんだっけ? 見に行くか?」

「あぁ、そうだな。ティラさんの微妙にズレた感覚から来る、変に厳しい条件とかで、無茶させてないか見に行かないと」

「そうだな。あの報告書読んで頭抱えたわ」

 森の中の射撃で、頼んでもいないのに、全員が紐で吊った動く的に当てないとその場で連帯責任。腕立て腹筋背筋、そしてまた外した次の奴から再開して、全員が成功するまでとか、プレッシャー与えまくって、外せば外すほど腕立てした腕が震えて、当てられる可能性が低くなる事をやらせたらしい。

 エルフ式の射撃訓練方法の初期の初期らしいけど、外したら連帯責任で筋肉に負荷をかけるのは、北川の訓練を見て真似したらしい。

 そういうのは、もう少し育ってからやって下さい。ってか耐久系でやるものなのに、命中系でやるとか、涙しか出ねぇわ。

「あぁ、なんか一回の回数は少なかったけど、合計で全部三百回以上やったとか嘆いてたな。さすがに注意させてもらったけどな。そういうのは最後にやってくれって」

「なんかちょっと常識がズレてんだよなぁ……。俺達もだけど」

 そう言って俺が立ち上がると北川も立ち、二人で森の方に歩き出した。


「なんで単調な動きの的が当てられないんですか! 動きをよく見て先読みし、矢の飛ぶ速さも体に叩き込みなさい! ほら、また動きが変わりますよ、次の十名! 前に出なさい!」

 森の中に入り、三十分ほど歩いた野営場に行くと、ティラさんが叫んでいた。

 的は藁を紐で巻き、人の頭より二回りほど大きい物を枝から二個ぶら下げ、ティラさんが射って軌道を変えてハリネズミみたいになっていた。何本刺さったら一旦やめるんだろうか?

「教え方はダメだけど、教官のシゴキ的な訓練って意味じゃ、理不尽過ぎてもってこいなんだよなぁ」

「いや、距離が駄目だろうアレ。遠目から見ても百メートルは離れてるぞ? あのクロスボウで百は厳しいと思う」

 俺達はティラさんに近寄りつつ、北川と話をしていたら、気配に気が付いたのか振りむいて、こちらを見ている。

「お疲れ様です、今日はどのくらい訓練をしているんです?」

「まだ太陽一個分傾く程度しかやってませんが? 朝起きたらテントを片付け食料調達をしつつ、荷物の入ったリュックを背負って、その辺を一周してここに戻って来ました。自分達のいる場所の把握ですね」

 ティラさんが指を指した方を見ると、野草や獣が置いてあり、一応食料確保だけはしてあるらしい。

「まずは矢が、目標距離に届くまでの感覚を叩き込まないと、動いてる物は厳しいんじゃないんですか?」

 俺はブラブラと揺れている的を見ながら言い、さらにそれを狙っている十人を見る。

「やってる内に馴れます。数をこなせば身に付きます。ただでさえ寿命が短いのに、のんびりやってたら死にますよ?」

「いや、前回それで散々な目に合わせてるじゃないですか? まずは動かない的でもいいのでは? それと、とりあえず並の軍隊以上なら問題はないです。得意な者に長距離射撃させますので、全員が全員、百歩先の激しく動く頭に当てなくてもいいんですよ」

「ってな訳で全員大股で三十歩前進」

「勝手に決めんな! 百から七十になったところでほとんど変わらねぇよ。五十だ五十。まずその距離で慣れさせろ。それから得意な者が距離を伸ばせばいい。伸びがいまいちなのは、北川が近接戦を叩きこめばいんだ」

 俺達三人が言い合っていると、二十人が困惑し始め、射撃の腕が止まっていた。


「「本当に申し訳ない」」

 あれから少しだけ言い争い、ついでに訓練内容もマニュアル化する事が決まり、まずは全員が確実に、動いている的に五十メートルの距離で当てられる事が最低条件になり、俺と北川は二十一人に頭を下げた。

 ティラさん? 俺達が明確化してなかったし、雇われてる身なのでとりあえず俺達が悪いって事で何もなし。

「防衛とか防諜ってクソ面倒だな。まだマニュアル化しなくても良いとか、あの時言ってたような気もするけど、早速片方で必要になったぞ」

 北川の家に戻り、テーブルを借りてある程度の事を文章に起こし始める。

「やっぱり人が多いとマニュアルは必要だな。俺とお前だけだったらなぁなぁだったけどさ、ティラさんみたいな臨時教官みたいな感じだと駄目だわ、やっぱ必須だわ」

「あぁ、今日改めて痛感したわ」

「で、お前はこれを清書するんだろ?」

「あぁ。印刷技術や、フォント的な物がまだないから楽だな。しいて言うならタイプライターが欲しい」

 そんな事を愚痴ったら、北川がなんかタイプライターの音をカシャカシャと言い出し、なんか有名な泥棒アニメのタイトル風に文字を書き始めた。

「チャラララ~ン。ててっててってててってー」

 なんだかんだでノリノリだった。こういう時に、こういうノリは大切だと思う。だって堅苦しいの苦手だし。


「お茶ですよー」

 そしてフォルマさんがお茶を淹れてくれたので、一息入れる事にした。

「あ゛ー肩が凝る。こんなに文字書いたのは学生の時以来だ」

「キタガワは学校に行ってたの?」

「あぁ、俺のいた国では大抵は行ってるな」

「だから頭もいいのね」

 その言葉に、俺はお茶を噴きかけた。こっちの世界基準じゃ、北川みたいな脳筋っぽい奴に、学があるのが珍しく見えるんだろうか?

 そういや、グラナーデとか物凄く計算苦手だった気がする。

「カームさんは?」

「え? 普通でしたよ? 俺のいた村では基本五歳になったら、そこから季節が三巡するまで学校。俺は二巡で終わりましたけどね」

 一応こっちの学歴を言ったら、北川が声を殺して笑っていた。別にいいじゃないか、転生前の事なんか、こっちの奴に話せるわけがないし。向こう基準でこっちの教育受けると、簡単過ぎて……。

「へー。頭がいいんですね」

 それが止めになったのか、北川はこらえきれずに大声で笑いだした。

「あー。笑い過ぎて腹いてぇ。あぁそうだな、カームは頭がいいな!」

「あぁ、そうだな。けど勇者の北川には負けるから、どんどん案を出してくれよ」

 そう言いつつ、書き途中の紙を北川の方に滑らせた。

「悪かった悪かった。少しツボに入っただけだって。そんな事言うなよ」

 そう言われ、滑らせた紙が戻って来た。

「あ、そういえばチクゼンニの味見をお願いしたいんですけど、ちょっとだけ時間良いですか?」

「別に良いですけど、好きな北川にやらせた方が良いんじゃないんですか?」

 タイミングを見計らい、フォルマさんが会話に入ってきた。男同士の馬鹿やってる時なんだから、ズカズカと入ってきてくれてよかったのに。

「俺がやってもなんかイマイチなんだよ。なんかコメントくれよ」

「わかった。好物が食えないのは厳しいだろうからな、ちょっと持って来て下さいよ」

 そう言ったらフォルマさんが筑前煮っぽい物を持って来てくれたので、フォークで色々な具材を食べてみる。まぁ、こんにゃくがないのは良いとして……。なんかしょっぱいだけだ。あと全体的に焦げ茶色だ。人参も……。

「シイタケにはうま味成分がある。多分それが足りない。あとはしょっぱいだけだから、砂糖も入れないとコクもでない。料理のさしすせそは知ってるか?」

「聞いた事はあるな。砂糖、塩、酢、醤油(せうゆ)に味噌だろ?」

「じゃあ、なんでその順番かわかるか?」

「ただ単に語呂が良いだけじゃないのか?」

 俺は家族に教えた事を北川夫婦にも言い、ただ単に醤油で煮れば良いってもんじゃない事を教えた。

「そうだったのか……。料理って奥が深い……」

 北川はなんか絶望した感じの表情になり、頭を抱えていた。うん、料理あまりしない人だとそうなるよな。

「へー。勉強になります。あとはシイタケって奴を入れれば、ウマミって言うのでそれっぽくなると」

「そうですね。第二村に榎本さんってお爺さんがいますので、その方なら多分ピルツさんを使って、栽培させる事ができるかもしれません。醤油や味噌、日本酒もその方に頼んで作ってますので」

「ふむふむ。第二のエノモト、ピルツっと……」

 そう説明すると、フォルマさんは今までの事をメモしていた続きに、そんな事を言いながら書いていた。

 菌類は、こっちに来てからあんまり食べてないんだよなぁ……。モドキって名前が付いててそっくりさんだったり、名人でも間違えたりして、道の駅とかでの毒キノコうんぬんってのがあったし、店売りのしか買った事がない。

 まぁ、毒耐性あるから俺は良いんだけどね? 皆がね?

「材料はあるんですよね? んじゃ一日で煮詰めても良い結果にならないし、少しだけお料理教室でも開くか。今からやれば夕飯には間に合うな」

 そう言った瞬間、北川が手を叩いてガッツポーズをしながら吠えたので、筑前煮がそんなに好きだったのかと思いつつ、生暖かい目で見てやった。

 もしかしたら、書類から逃げたいだけだったのかもしれないけど。

そして、通信うんぬん言っていたのに、即効でフルールさんを使うのかとご指摘もいただきました。

カームが長年この世界で生きていて、そういう技術や魔法があるかどうかなど、作者の頭からは完全に消えておりました。

この辺は完璧に作者のミスですので目を瞑っていてください。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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