第267話 羊の声を聴いた時の事
飛竜の肉は色々な料理で何とか消費しきった。飽きとの闘いは本当に辛かった。から揚げや竜田揚げにしたり。
ナッツ類と絡めたソース系やサンドイッチやミンチにしたり。
一番凝っていたのは、レンズ豆とか使って果実酒で煮てみたけど、反応はいまいちだった。凝った料理作ってもこれだと泣ける。
本当微妙に使い辛い肉だったよ。脂質少ないし、煮るとボソボソになるし。
けどヴォルフには受けが良かったらしく、なくなるまで頻繁におねだりしに来ていた。
因みに北川は人族側での討伐経験があるらしく、懐かしいとか言いながら肉を受け取っていたが、フォルマさんの料理の腕がまだあまり上がっていなくても、焼くくらいはできるだろう。
キースはキースでなんかあまりうれしそうにしていなかった。話を聞いたら、腐りやすく量が多いので、仕留めたら嫌という程食わされるらしい。
やっぱり少ないくらいがちょうどいいな。今回でよくわかったよ、スズランは満足してたけど、ラッテはなんか飽きてたし。
元奴隷の子達にも、細かくしてポリッジに混ぜたりとかして食べさせていたが、そっちは大好評だった。やっぱり肉ってなだけで、別物なんだと思う。体とか胃腸系が万全ならもう食べたくないって言うくらい食べさせたのに。
ってかスズランが妊娠してなければ、一人で数日に別けて、三分の二は食べてた気がする。
「さてノーラさん。ある程度の手順は覚えましたか?」
「はい、大丈夫です。瓶十個で全て一杯と覚えました」
あれから十日。ある程度の事が、人並み以下に動けるようになってきた元奴隷達の為に少しクリームの生産を規格化し、瓶が十個あったら溶かしたカカオバターとオリーブオイルに二個のボウルを用意し、ラベンダーの精油には計量スプーンっぽい物を作り、ある程度の説明を終わらせた。
「一応余る様には作ってあります。送られてきた瓶が、多ければ多いほど余ります。ですので足りないという事はないかと思いますし、最悪瓶二つくらいは余計に作れるでしょう。それと何度も言いますが、焼きコテと竈の管理だけはしっかりとお願いします」
俺は人差し指を立て、火を使うコテと竈の管理だけ強調して言う。
「火傷と火事に注意ですね」
「はい。焼けてしまったものは仕方ありませんが、失った命は戻って来ませんし、火傷で消えない痕が残ったら大変ですので。では今から子供達を呼びますが、今した事の説明ができれば、ここの事は任せたいと思います」
俺は左肘から先のない女性に説明をし、とりあえず物凄く泣いていた、世話焼きのおばちゃんを付けないで行こうと思う。一応機密保持って事で。
だって作り方知らない人が少ない方がいいじゃん? それにそろそろ成人らしいしみんなのまとめ役なんだから、適度な休憩とか色々管理させるくらいの裁量は持って欲しいって事で。
そして子供達が入ってきて、ノーラさんは丁寧に説明を始め、俺の言っていた重要な事は間違えなかったが、細かい所だけ少し間違えた。もちろん正しい説明はしておいたけど。
「じゃ、一番年上の私がコテを使うね。皆はさっき言った通りの、場所で作業をお願い」
「「「はーい」」」
ある程度筋肉も戻ってきて、笑顔も増えたのは良い事だ。そしてノーラさんは箱を片手で取って寝かせて、机の角にL字に作ったストッパーの場所に持って行き、焼けたコテを押し当てたら火鉢に戻して、箱詰めする子に渡すという一連の流れを、かなりスムーズにこなしている。適応性が高いなぁ。
そして他の子も特に難しい事はないので、湯煎する為の薪は燃え尽きそうなら足すだけの弱火でいいんだし、でんぷん糊の貼り付けも瓶のゆがみが少しあるから、ほんの少し曲がっていても気にならないし、箱に詰めるのも簡単なので今のところ問題はなさそうだ。
「届いた瓶が全部なくなったし、一回軽くお茶にしようか」
俺は笑顔で言い、焼いておいたパウンドケーキを持って来て、お茶を淹れてあげた。
「さて、君達にはコレをやってもらう事になるんだけれど、今はまだガラス工房の拡張工事が始まってないんだ。多分かなり慣れてくる頃……。収穫祭までには完成するとは思うけど、それまではこんな感じでお願いね」
「わかりました」
「じゃ、お茶が終わったらまた砂浜とか歩いて、筋肉を戻す様に。俺は仕事に戻るから、パーラーさんが来たらまたお茶しちゃってもいいから」
俺は立ち上がり、火鉢や竈の火が消えている事、道具類も片付けられているのも指差し確認をして、一応ノーラさん達にどういう風に確認をしているかを見せ、問題がないので執務室に戻る。
「どうでした? ノーラさん達は」
「特に問題はないですねー。こちらが全部工夫しましたので、もたつく事もなかったです」
少しだけ心配だったのか、パーラーさんがお茶の時間でもないのに執務室に来て、どうだったのかを聞いてきた。
「良かったです。少しだけ心配してたんですよ」
「言葉は悪いですが、少し手際が悪いなら作業しやすい様に、こちらが工夫すれば、問題は少なくなりますので。今までの行動を見てる限り、教会での読み書き計算もあまりせずに、農作業の手伝いが多そうでしたので」
「そうですねー。人族の寒村ってそういう所が多いんでしょうか?」
「少し前まで戦争してて、男手を持ってかれてましたからね。しかも結構な重税……。あんな子供でも十分な労働力だったんでしょう。勇者が王様を手伝う様になってから、かなりマシになったとはいえ、手伝わされていたという事は、父親は兵士として連れていかれ、戻ってこなかったのかもしれません。なので教会に通う暇を、惜しんでいたんでしょうね。さて、しんみりした話は終わりにしましょう。今はもう俺が買って、奴隷から解放した人族の子です。今からでも十分に学ぶ事はできますよ」
「そうですね。教育はジョンさんに任せて、私はお料理とか教えちゃいますよー」
パーラーさんは笑顔で言い、なんかやる気を出して裏口から出て行った。多分ノーラさん達の所だろう。
因みに腕輪は俺がピッキングで外し、買った時の書類と一緒に保管はしてある。手錠タイプだったら、薄いヘアクリップみたいな、細くて長い奴を突っ込めば、簡単に外れたんだけどね。
さてさて、そろそろ第四村の開墾も終わらせて、柵を作って羊の購入も検討しないとな。草案でも書くか。
簡素な小屋で雨風が凌げる小屋もいるな、ラクダだって雨が降ったらそそくさと小屋に戻るんだ。ってか拡張性を優先しつつ、ある程度の大きさも欲しい。牧草って言うより、なんか雑に雑草とか欲しいしなぁ。牧羊犬? 狼で代用できるかな? けどどう考えても捕食者と被食者なんだよなぁ……。けど暑さに弱いダレ羊はまだ襲われてないし、キースに頼むか。
ラクダの飼育やってる人が、オス一頭に対してメスが五十とか言ってたな。強気で行くより、最初は五十一頭買っておくか。
そして草案をまとめ、ウルレさんに金銭面での相談をしに行く。
「五十ですか……。確かこの辺りにニルス様から羊を買った時の……。あぁ、ありましたありました」
そして簡単に計算し、帳簿を見てアクアマリン商会の資金と照らし合わせているのか、何か紙に書いている。
「平気そうですね。あとはテーラーさんに、羊の声が聞こえるかも聞いておいた方がいいかもしれません。こちらにサインとスタンプをお願いします」
そう言って笑顔で清書した書類を返された。だんだんこの島色に染まって来たなぁ。良い事なんだけどね。
「はいはい。んじゃこれはこれで通しちゃって、小屋と柵ができたら購入と」
俺はその場でサインを書き、執務室に戻ってスタンプを押した。
「けどなぁ……。テーラーさんに聞きに行くのがなんか嫌なんだよなぁー。あの人のジャブって重いんだよなぁ……」
愚痴ってイスにもたれかかり、盛大にため息を吐く。
「行くか!」
気合を入れて立ち上がり、重い足取りのままテーラーさんの工房に向かった。
「あら、いらっしゃい。代表として、いい加減その服でも変える気にでもなったのかしら?」
「いえ、そんな事はないです。こういうのが気に入ってますので」
人によっては重過ぎるジャブを簡単に回避して、本題に入る。
「で、早速本題ですが、犬系魔族みたいに、テーラーさんって羊と意思疎通できます?」
「さぁ? いつも木陰でダレてる羊が、たまに暑い暑いって愚痴ってるのは聞こえるけど、話しかけた事はないわね」
「聞こえるって事は多分平気です。知り合いは狼に共通語で話しかけて、意思疎通できるので」
「で、本題の中身はそれだけじゃないでしょ? 言ってみなさい」
「そろそろ第四村の、開墾もいい具合になってきたので、羊の放牧を考えてます。セレナイト近くの牧場から貰って来た、暑さに強い羊から話を聞き、ちょっとアドバイスが欲しいんですよ。ってか露骨に嫌な顔をしないで下さい」
その時のテーラーさんの顔は、道路で轢き殺された小動物を見る目だったわ。
「……まさかそんなお願いをされるとは思わなかったから。顔に出すのを止めないと駄目ね。仮にでも貴方は代表なんだし、多少の言う事は聞いておかないと駄目よね」
「そうですね、仮にでも代表ですね。んじゃちょっとお願いしますよ」
俺は皮肉を受け流し、テーラーさんを連れ出して羊の所に行って、とりあえず話をしてもらった。
「あまり見ない顔、後ろの黒いのは覚えてる、仲間がいない、不安、もっと仲間、ごはんちょうだいごはん。だそうよ。このままだと、放牧地の広さとか、小屋の快適さとかわからないかもね」
呆れた感じでこちらを見ながら言ってきた。おかしいな、牛くらいには頭がいいはずらしいのに。犬や豚が良すぎるのか? あとでトローさんに牛と意思疎通できるか聞いてみるか。
「ありがとうございます。とりあえずご飯あげて、仲間を早めに増やす事に専念しますね」
「そうしてあげてちょうだい。私は工房に戻るわね」
テーラーさんはそう言って、羊を軽く撫でてから戻っていった。
動物の知能指数ランキング上位と、同じ種族を話をさせてみたいけど、なんか怖そうだから後ででいいか。
類人猿系なんか、手話を覚えさせて、意思疎通したり、死について聞いてみたりしてたしな。アレって結果どうなったんだろうか? ウソとかどうとかの話も出てたからなぁ……。まぁ、この世界なら面白い事が聞けそうだ。
□
午後になり、戦闘服で第四村に向かうが、その時まで開墾作業か防衛部隊の育成になるかがわからない。北川のその日の気分で射撃特化の育成とかになったりする。
「わりぃ、ちょっと村長に村の今後の方針を話して来るわ」
「おうよ」
そして訓練前に村長に会い、そろそろ開墾した場所に羊を放ちたいから、柵とか小屋をお願いし、柵内の草刈りはなしで、足りない様なら何かしらを生やす様にフルールさんに頼んで欲しいと話し合い、放牧狼の事も言っておいた。
「おう、終わったぞー。今日も昨日の続きか?」
「いや、これから全員で魔王狩りだ」
北川がそう言い、不敵に笑った。
「偽装をわからせるのには、本気のを経験させる事にした。んじゃ罠なしで、六百数えたら全員森に向かわせる。攻撃はなし、見つかったら森から出てこい。見つけられなかったら明日の訓練メニューは五割増しな、必死で探せ。んじゃ休憩挟んだら探しに行くからな。ほれ、行ってこい。奥は歩きで五百歩まで、左右は……あそことあそこの間までな」
そして北川にあしらわれるようにして森に追いやられた。ひでぇなぁ……。やるからには本気でやらねぇと。
俺はそう思いながら、なんか良い感じの場所を探しさまよう。なんかこの辺りぬかるんでるな。
「お、泥化してる場所かぁ……。またスズランとラッテに怒られるなぁ……」
俺は水を吸って沼ぽい泥の中に入るが暖かい。ここも温泉か、後で整えて石とか砂を使って温泉にするか。
そんな事を考えつつ仰向けに寝て、少し簡単に見つかる様に目と鼻は出しておく。
そして温かくて気持ちがいいのでウトウトとしていたら、何かガサガサと聞こえたので目を開けてみた。
「ぜってー無理だって。あの人いるってわかってても、探せないって話だぜ?」
「子供に本気で教えてて、教官も砂浜で一瞬だけいるってわからなかったんだろ? その本家を探せって……」
「ぬかるんでんじゃん。避けようぜ」
「だな」
そんな事を言いながら通り過ぎて行ってしまった。声的に四人か、多分五組いるんだろうが、なんか一気にやる気がなくなった。泥に入った俺が馬鹿みたいじゃん。
足音が聞こえなくなったので起き上がり、泥だらけのまま砂浜に戻った。
「お、見つかったのか?」
「駄目だ、あいつら探す気ねぇわ。最初だから簡単にって事で、泥に仰向けで寝てて、しっかり目を開けて白目部分が目立つようにしてたのに、泥を避けて通り過ぎやがった。俺が隠れるのが上手いと知ってるのに、泥の中も探そうとしないで通り過ぎた。やる気以前の問題だ。夕方まで探させてろ。俺は帰るぞ」
「お? お怒りですかな?」
北川がニヤニヤしながら言ってきたが、別に怒ってる訳じゃない。
「もう呆れてものが言えない状態だよ。防衛したくないなら止めろって言って、代わりならいくらでもいるって事と、最悪は金払って兵士崩れを雇って、訓練させるって事もな」
「茶化して悪かった」
「気にすんな。勝手に泥まみれになって、期待してた俺が馬鹿だっただけだからな。俺の聞いた声は四人だ」
俺は【水球】を作ってその中に入り、雑に泥を落としてから転移で第一村に戻った。そして水浴び場で水浴びをしてから洗濯をし、軽く執務室の裏手に干しておいた。
「あれ、第四村で訓練じゃなかったんですか?」
「訓練はお休み。お昼過ぎも頑張ってこっちでお仕事です。何か俺のできる事あります?」
「あ、じゃあこちらをお願いします」
「はいはい」
俺はウルレさんから書類を預かり、普通に仕事に戻りつつ、第四村に森林温泉施設の計画も立てておいた。
そして翌日の午後には、二十人に物凄く謝られた。四人ほど顔中痣だらけだったけど、まだここにいるって事は、やる気はあるって事だな。
「まぁ、次はないんで。気を引き締める様に」
「「「「はい! わかりました!」」」」
ため息を吐きながら言ったら、二十人から物凄い勢いで返事を返された。北川はこいつらにどんな怒り方をしたんだろか?
そんな事を思いながらも、俺は北川をジト目で見ると超笑顔で親指を立てた。そんな事されたら、ため息しかでないわ。
俺が怒ってたって事を言ったんだろうか? まぁ、いいや。多分訓練中は北川にするみたいに少しうっとうしいくらいになりそうだけど。




