第257話 久しぶりに神様が出てきた時の事
実はあの後の夜の記憶が途中から曖昧だけど、翌日の夜にはクリームを届けたのは確かで、セレッソさんに少し顔色が悪いとか言われたが、嫁に襲われたと言っておいた。
門番とたまに飲んでいた酒場に行き、どういう経緯で魔王になってどんな事をしてたのかを聞かれ、勇者撃退とか和解して共闘とか停戦の話をしたら、馬鹿じゃねぇの? の一言で済まされた。なんかやってる事がデカすぎて、雲の上の出来事らしい。
そして二人目の子供の事を話したら、奢るとか言われたけど、もう一人の方にもせがまれ、記憶が途中から曖昧な事を言ったら結局俺が全部支払う事になった。理不尽だ。
まぁ払ったけどさ。
翌日に俺はさっさと、生産までの草案を書き、どうしてもネックは容器という結論になる……。
プラスチック容器なんかないし、なんか作るには石油とか色々精製してなんか云々してた気がする。巨大な施設とか必要そうだしなぁ。
木材は使えない。高級感も出したいから陶器じゃなくてガラスを使いたい。そうすれば使い終わったら小物入れにも使える。
蓋はシャーレ的な感じか、小物入れの取っ手付きだな。生産技術的な物で、少し割高になりそうだけど。
そのガラス工房まで出向く必要があるか? まずはニルスさんに買った場所の港を紹介してもらうか? それともオルソさんの商工会議所で聞くかだな。なんだかんだであの港町って全部回ってないし。
俺は簡単なデザインを紙に書きつつそんな事を考える。
オルソさんに聞いてなかったら、ニルスさんに聞こう。その方が早い。
「カーム。お茶」
「あぁ、今行く……ん? なんでスズランが?」
「仕事してるのを人間のシスターに見つかって叫ばれて、本当勘弁して下さいって頭を下げられながら開拓してる人達に断られた。あまり力仕事はしないで欲しいって」
「ははは……。妊娠してるのに力仕事しようって思ったスズランが凄いよ。まさか行くと思ってなかったから注意しなかった俺も俺だけどさ……。本当ごめん」
「ううん、私が悪いの。まだ行けると思ったから」
なんで行こうと思ったし……。
「まぁ、妊娠してる女性でもできる仕事とかあるから、そっちをお願い。本当に無茶だけはしないで」
「私的には無茶だと思ってなかったんだけど? まぁ、気を遣わせるのもアレだし」
「うん本当アレだよ、めっちゃ気を遣うだろうね。自分で言うのもなんだけど、俺、島の代表兼魔王、その人の奥さん。流産とかしちゃったらどう責任取るんだってなるでしょ?」
俺は自分を指し、それからスズランを指すと、口を半開きにして軽く頭を数回縦に振った。
「なるほど……。まだ村の感覚が抜けてないのが原因ね。後で謝りに行ってくるわね」
「自覚って大切だよね」
「カームも働きすぎ、自分が魔王、商会の代表って自覚を持ってね」
「……はい」
「お茶が冷めちゃうから」
そう言われて、手を掴まれて軽く引っ張られるように無理矢理立たされ、応接室の方に連れて行かれた。
「それはスズランさんが悪いですよー。っていうか普通の女性は丸太のまま製材所まで運びませんよ? 自分だけの体じゃないんですから気を付けて下さいね」
「運べるから運ぶ。できる人がやるのと同じよ?」
スズランはパーラーさんに軽く注意をされるが、なんか当たり前っぽい事をそれっぽく言っている。
「できるのがスズランだけだから、ソレをやるって考えはおかしいからね?」
「カームもね」
スズランに一言だけ言い返されたら、子供を連れて遊びに来ていたルッシュさんやウルレさんにも笑われた。確かに魔法でバンバンやっちゃってるけどさ……。
「はい……」
◇
そして翌日、俺はオルソさんの商会に顔を出しに行くが、その前にセレナイトの蒸留施設でなぜか働いてるビゾンを呼び出し、何か町のスラムや下級区に異常や変化がないかを聞く。バーのマスターとはまた違った情報が手に入るからだ。
「ぁあ? そうだな。特に変化はねぇが、あの貴族様が住んでる街のスラムにも仕事ができる場所ができて、居心地の悪くなった奴等が数グループ流れてきてる噂を聞いた。今のところ目立った動きはねぇし、この工場にちょっかいかけてきてる事もねぇな。仲間の話でもそんな事は聞かねぇ。なんかやんのか? あったなら教えておいてくれねぇと、こっちが勝手に動いちまうからよ。もしお前の手先だったらヤベェだろ?」
蒸留所の裏手にビゾンを連れ出し、噂程度の動きを聞いたら。本当にどうしようもない小悪党がこの町に来てるらしい。
「この蒸留施設を真似してスラムから人を雇い、お前みたいに悪い奴に頼んで、よその悪い奴をこれ以上増やさないってのをやって、それなりに効果を出したらしい。だからそういうのが流れて来たんだろうな。けどここでも似たような事をやってて、小銭を巻き上げようと移動してきたのに何もできないでいるんだろう。何かあったら工場の中にあるプランターの花に言え、そうすれば島の俺に直接情報が伝わる。そうすればすぐに駆け付ける。プライドや意地があるって言うなら相談しろ。情報収集して、お前達でも勝てそうな助言をする。どうせ数任せでカチコミでもしかけんだろ?」
「あ? それ以外にあんのか?」
あ、駄目だコイツ……。その場のノリと勢いと数で勝ちに行くタイプだわ。まんまヤンキー漫画だわ。まだヤンキー漫画の方が戦略とか使いそうだわ。
「相手の人数やアジトの場所を探し、夜中に個別に数人で一人を狙うとかあるだろ? 暗殺とかして死体を隠し、仲間を不安にさせるとかまでやれとは言わないけどよ」
「魔王マジ半端ねぇわ……」
「お前が半端すぎんだよ……。まぁ、ある意味兵士でも汚れ仕事専門の奴がやる事だから最後のは気にするな。何かあったら遠慮なく言ってくれ。サボらせて悪かったな」
兵士になって基礎訓練とかやってれば、結構そういう事できそうな気もするんだけどなぁ……。まぁ、勤まらねぇし、入隊もできねぇか。
そう思いつつ軽くビゾンの二の腕を叩き、目的のオルソさんの商店に向かった。
「あん? またお前か」
「えぇ、また俺です」
商店に顔を出したらオルソさんが珍しく奥でお茶を飲んでいたので、弟さんに案内されて顔を出すと、開口一番でそんな事を言われた。毎回面倒事を持ち込むから仕方ないか。
「今回も何か探すのか?」
「えぇ、お恥ずかしながら。この町をまだ探索していないので何がどこにあるか把握してないんですよ」
「お前、こっちに来てどれくらい過ごしてんだよ。散策くらいしろよ」
オルソさんはお茶を一気に飲み干して、カップを音を立てながらテーブルに置いた。
「いやー。港と周辺のスラム、出入り口の門までの通りしか知らないんですよね。なんででしょうね」
俺もニコニコとしながらお茶を飲み干し、音を立てずにゆっくりとカップを置いた。
「で、今度はなんなんだ?」
「ガラス工房……」
そして口だけニコニコとしながらゆっくりと言った。
「んなもん下級区の零細商店にはねぇよ」
「ないですか……。ですよね……。けど、町にはあると」
「あぁ、有名な工房じゃねぇけどな。ってかお前の所の酒瓶、所属してねぇけどそこに発注してんだぞ? ここに所属はしてねぇけど場所なら教えてやる。お前の酒には世話になってるからな。ついてこい、ちょっと出てくる」
オルソさんは立ち上がり、それ以上何も言わずにズカズカと弟さんに一言言って出て行ったので、軽く会釈をしてから俺も出て行った。
ってかそうだよな。なければどうにもならないよな。すっかり忘れてたわ。
「ここだ。俺はここまでしかできねぇ。またな」
オルソさんは町の中央付近の上級区を抜け、防壁沿いのまた違った感じの商業区へ案内してくれ、そのままガラス工房の前を通り過ぎて帰って行った。
そして俺は通り沿いにある店の中に入り、小物類や綺麗に細工された酒瓶を見て回る。一応販売もしてるんだな。
お、大体想像してた物と近い物もあるじゃん。シャーレ型で左手に収まるサイズの物が。それに思ったより技術力的な物は高いな。この持ち手が螺旋になってる、装飾過多なワイングラスっぽいものとか。
「何かお探しでしょうか? もし宜しければ職人と相談し、お好みのデザインを用意させますが。もちろん技術面で不可能と言われたら、多少なり妥協していただきます」
見て回っていたら、カウンターにいた女性が声をかけてきて、好みの物を作ると言ってくれた。
「そうですね……。コレと同じようなサイズで、上に付いてる細工の摘まみはなしでシンプルに作ってもらえます?」
俺は目的の物に近い、前世で良く見た蓋がネジ式になってる感じ風の小物入れを手に取った。早く言えば円柱の上に蓋をするだけの簡単な物だ。
「熱して付けるだけですので、問題はありません。では、発注書を作りますのでここにお名前を。摘まみを取り付ける前でしたら、今すぐにでもお売りできますよ」
店員さんはニコニコとしながら慣れた感じで説明してくれた。そして試作品として娼館に見せに行くから何回か通うだろうな。
「では、コレと、取っ手のない物。後は……コレとコレを」
茶壷っぽい少し膨らんだ物だったり、出荷に難がある耳付きの容器も選ぶ。個人的には最初に説明したシンプルすぎるのが一番好みなんだけどね。
「……わかりました」
店員さんは少しだけ笑顔が硬いが、接客と言う事で何も聞かずにカウンターに商品を並べ、奥に行って俺の説明した摘まみなしのガラス容器を持ってきてくれた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「えぇ、イメージ通りです。全部売って下さい」
俺もニコニコとしながら言い、包んでもらった商品を持って蒸留所のロフトで転移をし、島でクリームを作ってから買ってきたガラス容器に入れて固め、セレッソさんに会いに行った。
結果的には、最初の俺と同じ一番シンプルな物が選ばれたが、残りの三つはありがたく貰われて行った。
ちなみに三十分待って、コレね。の一言で終わった。持ちやすい、取りやすい、飽きが来ないシンプルな物って事らしい。
摘まみがある方が蓋の開け閉めがし易いかと持ったが、気にしないらしいし、出荷しやすいでしょ? との事。良くわかっていらっしゃる。
装飾付きは好みで買うから、使い切った後はない方が使い勝手は良いらしい。
「いやー。一回で決まって良かったよ。何回か通うんじゃ大変だからね」
「毎日娼館に通うのも大変だし、体面とか気にしなくても、変な噂が立つと面倒くさいからねー。匂いも少し移るし」
ラッテは二の腕に鼻を近づけ、スンスンとして香りを嗅いでいる。確かに少し匂いがキツイ場所だしな。
「後は通行料と、そこに行くまでに知り合いと会う可能性」
スズランはゆっくりと麦茶を飲み、俺が一番心配している事を言ってくれた。
「あー本当ソレだよ。昔の職場との同僚に会わない事を祈るしかない。まだそっち方面には魔王とかアクアマリンの事はバレてないし」
「カーム君そういうの嫌いだもんねー」
そう言ってラッテは二の腕に胸を押し付けてきて、満足するまで俺は皿洗いができなかった。
そしてそれから七日後、俺は白い空間に浮いていた。そして何も言わずに一画にある喫茶店風のカウンター席に座ると、何も注文をしていないのにミルクと砂糖と一緒にブレンドが出てきた。まぁ、頼むつもりだったけどさ。
「お二人の妊娠おめでとうございます」
「……ありがとうございます。そしてクソありがたみがないんですが? ってかしっかりと着床までの時間とか考慮して出てくるんですね。それと着床率とか考えると妙に成功率高くないですかね? 欲しがってからの当たる確率が高すぎなんですよね」
俺はコーヒーにミルクと砂糖を少し多めに入れ、神様の裏にある、資格やら写真を見るが、やっぱりどんどん増えている。
「そこは夢魔族って事で納得させるしかないんじゃないんですか? いやだったら着床させないとか」
「逆を言えば、確実に受精や着床も可能と……。けど奴隷として売られて、子供とか産まれてるしなぁ。ソレはなしでしょう」
「なしですか。なら愛の力って事で。あ、ちなみにリリーちゃんやミエル君と同じ加護を付けておきましたので、無事に産まれますよ。安心してください」
「だから脱着可能みたいな言い方しないでくださいよ。ありがたみが四割ほど減ります」
「私と凪君の仲じゃないですか」
神様はニコニコとしながら、なんか可愛い猫の絵が書いてあるマグカップにコーヒーを注いで砂糖だけ入れて飲んでいた。
「神様に会えるってなだけで凄いとは思いますけどね。でー、加護っていうのは大怪我とかで大量出血すると仮死状態になり、出血が少なくなって生存率が上がるんでしたっけ?」
「風邪は引きますが、難病とかにはかかりませんよ。それと五代先まで有効ですので、ちょっと優遇された遺伝子が二百年以上、そして最終的には百人近くにばら撒かれるという事になりますね」
「嫌な表現方法ですねぇ」
俺はコーヒーを啜り、少しだけため息を大げさに吐いた。
「まぁ、その加護には感謝しています。おかげで長女と長男は、かなり立派になって巣立って行きました」
「魔王と勇者、希少性の高い種族達の師匠、そして面倒見のいい共同住宅の人達。人脈って素晴らしいですよねぇ。人間や魔族関係の構築も信頼の作り方も上手いですし。これで凪君が嫌な奴だったら多分断られてたでしょうね」
「頼まれ事を断れないだけですよ」
「八方美人気味ですが、まぁ、上手くやっているとは思いますよ。だから少し多いのかもしれませんね。奥さんがいるのに、男性と女性に分け隔てなく接していますよね? お二人は、凪君はそんな人なんだとわかってはいると思いますが、やはり心配なんでしょう。けど急に態度を変えると周りから少し何かあったんじゃないか? と思われますので、もうこのまま行くしかないですね」
神様はコーヒーを飲むとカップの底が見え、猫の目が光りながらビームを口から出し、手からは雷を放っている絵が見えて少しむせそうになった。
「……何も言い返せません。確かに他の女性にも同じように接していました」
「なので、嫉妬なのかマーキングなのか、私達の物だとしっかりと体に教え込まないと……とか思いません?」
「確かに。最近はエレーナさんに、お菓子作りを良く教えてた様な……。あー若い人族だからなー。少し嫉妬的なのもあるのかな。その結果が過剰なスキンシップですね。ついでに胸とか当ててきます」
俺は飲み終わらせたカップの底を見ると、物凄く達筆な字で凪と書いてあった。白無地で無難な飽きの来ないシンプルな物なのに、一気にダサくなった気がする。ってかコレ俺専用なのか。
「そんな気はないと思ってても、女性……妻としては面白くないですよね。最近多かったのは、ソレがあったからだと思いましょう。リリーちゃんもミエル君も旅立っちゃいましたし、凪君との心を繋ぎ留めておく実感が欲しかったんじゃないんですか?」
「……はい。確かに性格は中々変えられません。なので色々と頑張るしかないですね。特に夜とか」
「説教みたいな感じになっちゃいまして、申し訳ありません。改めてお二人の妊娠おめでとうございます」
「ありがとうございます。もうこのまま普段通りにしてます。じゃないと今までの物が崩れそうなので」
「その方が良いでしょうね。では戻しますね」
神様はにっこりと笑い、軽く手を上げたら意識が戻った。
「頭いてぇ……」
そして起き上がろうと思ったら、二人に両脇からがっしりと絡みつかれており、寝汗でシャツがびっちょりだった。
「こっちで一緒に寝るのは厳しいな。枕元に氷でも立てておくか?」
そう呟きながら、頭痛が収まるまでのんびりとしていた。
加護については、第68話参照。
それと娼館付近は端折りました




