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第252話 おっさんが弱気だった時の事

 あれから飼育員さんの指示の下、第四村には柵ができ、その後俺が一日三回か四回ほど王都を往復してラクダを運んだ。

 相変わらず牛と羊が混ざったような鳴き声で鳴く。まつげが長くて可愛いとか、つぶらな瞳とか言われてるが、自分より大きいってなだけで一応恐怖の対象なのは確かだ。胴の辺りを軽く叩くが、バフバフってな感じで質量がある音が鳴り、絶対に向こうはこっちがじゃれている感じだと思ってるだろう。

 そして唾を吐く。と言うより飛ばす。昭和のヤンキー漫画というより、攻撃手段が唾の横シューティングゲームだ。

 そして残っている飼育員さんに声をかけようと思ったら、思い切り突き飛ばされ、何かと思ったらラクダが唾を吐いてきた。

「くせぇ! コイツ達って草とかしか食ってないんじゃねぇの?」

 なんか凄く臭ってくる。唾を吐く事は知ってたけどなんだこれ。ヤベェかんじだ。

「こいつ達は唾を吐きますが、実は胃の中の物をまき散らしてるんです。だから臭いんです」

「ゲロか……。しかも反芻するんだろ? 発酵もしてそう。ならくせぇわな……」

「ハンスウもハッコウもわかりませんが、ゲロですね。多少兆候はありますので気を付けて下さい」

「わかりました。んじゃ反抗的なこいつも運んじゃいますね」

 そんな感じでラクダを第四村に運び終わらせた。



「どうも。遊びに来ました」

 昼食後の休憩時間に、ルッシュさんがそんな言葉と共にパトロナちゃんを抱いて遊びに来た。収穫祭近くに産まれたからもう半年か……。

「あらパトロナちゃん。今日もお元気でちゅねー。今日は少し不機嫌なのかなー?」

 パーラーさんが笑顔でルッシュさんからパトロナちゃんを預かって抱き上げた。

「ハーデさんとはまだなの? あれだけ良い感じなのに」

 ハーデ……。犬耳のおっさんか。未だに名前を出されても咄嗟に顔が出てこねぇや。

「んー。普段の生活は良い感じなんですけど、なんか乗り気ではないんですよねー」

 なんだ、おっさんも家庭を持てそうじゃないか。

「子供が怖いんですかね?」

「他の二人を気にしてるのか……。それともカームさんか」

「なんで俺の名前が出てくるんですかねぇ?」

 お茶を飲んでいた手を止め、少しだけ不思議な感じで聞き返してみる。

「だってなんだかんだでカームさんの為に動いてる感じですし」

「はぁ……。そうですか。後で呼びつけて腹割って話しておきます。そのせいでパーラーさんの適齢期を逃したらそれこそ申し訳ないですので」

 そんな事を言ったらウルレさんが噴き出した。なんでそこで噴き出すの?

「申し訳ございません……」

「いや、問題ないです。ってかなんで噴き出したんですか?」

「パーラーさんってまだまだ若いのに、よくそんな冗談が言えるなーと思いまして」

「あぁ……そういう……。申し訳ありませんでした。そういう事には少し? かなり疎いので訳の分からない事を言ってしまい申し訳ありませんでした」

 年齢聞いてないし、何歳まで産めるかしらないし。ってかこの世界の適齢期っていつまで?

「まぁ、カームさんは子供作ったのが若過ぎだったんですよ。作れる、産めるってなだけで、実際に直ぐに作る事の方が稀ですので」

 なんか娯楽が少ないと、そう言う事しかやる事ないから早いとか聞くけどどうなんだろうか?

「ですよねー」

 俺は乾いた笑いを出しながらお茶を飲み、許可を得てからパトロナちゃんを抱っこした。

「あらら、どうしちゃったんでちゅかー? おじちゃんの顔が怖いのかなー? 最近会ってないから忘れちゃったのかなー?」

 特に人目を気にせず、変顔をして赤ちゃん言葉を使ってあやしてみるが、どんどん表情が不機嫌になっていった。

「あー。これ多分ですがそろそろご飯ですね」

 そう言いながら立ち上がり、ニコニコとしていたルッシュさんにパトロナちゃんを返す。

「流石にキースより抱き方が上手くて、二人分父親としては先輩ですね。安心して預けられそうです」

「いやー、まぁ。ちょっとは預かりますが、実家に帰って挨拶してくるって場合は勘弁してくださいね。子供がいないと話になりませんので」

 とりあえず笑い話にして終わらせ、笑顔でパトロナちゃんに手を振ってから執務室に戻る。

「こんな凄い場所の代表をしてるのに、人の目がある場所でこんな事ができるって本当に子供が好きな証拠なんですよね……」

「父親になったらわかりますよ。やっぱりウルレさんも同族とかの方が好みですか?」

「いえ、そんな事はないですよ。自分の仕事の事を理解してくれて、何も言ってこない女性が良いです」

「あぁ……。その辺は俺も嫁達に感謝しないと……。ってな訳で頑張りましょうか」

 ってか嫁二人はキースとかルッシュさんとかと交流ない気がする。家族ぐるみの付き合いとかも必要だよなー。


「で、おっさん。実のところどうなん? パーラーさん達がそんな事言ってたけど。猫耳のおっさんも乗り気じゃないけど、猛アタックに折れた感じして、元ウェイトレスの女性にくっ付かれてるけど」

 俺は執務室に犬耳のおっさんを呼び、実際はどうなのかを聞いてみた。

「実は家庭を持つのが怖いんだ。俺達三人が孤児院出身って事は前に話したよな?」

 あー。好きな料理とか聞いて回ってた時に、一回だけそんな事を聞いたな。

「えぇ。覚えています。それと何か関係が?」

「親に捨てられた俺が、親になって本当に子供を育てられるか。愛情を注げるか。実際に荒んでた時期もあるし、問題を起こして戦場に行く荷馬車でお前と会った。だから少し戸惑ってるんだ」

「はぁ……。そうですか……。そんな事(・・・・)ですか」

 俺はため息を吐き立ち上がり、机の向かいに座らせていたおっさんの方に歩き出す。

「今から第三村に行きます。魔法陣の中に入って下さい」

いきなり陣を展開し、手を招いて寄る様に言った。


「さて、話には聞いてると思いますが、ここの人達は孤児院出身者がいます。村長のトローさんを始め、なんか良い感じになってるイセリアさん。そしてその後輩達。挙句にスラムの掃きだめの出身者です。言葉は悪いですけどね。さて、個人的に孤児院代表で一番幸せっぽいイセリアさんの所に行きますか」

 俺は見慣れた小屋に行き、ノックをして返事を待ってから入る。

「どうもー。孤児院出身者として、この幸せになる事にちょっと尻込みしてる人に、説教お願いします」

「え? えぇ? い、いきなりなんですかカームさん」

 だよなぁ……。いきなりすぎだよなぁ。

 俺はどういう経緯でこうなったのかを説明し、今目の前にいる犬耳のおっさんが弱気なのを話した。

「そういう事ですか……。わかりました。そのお方より年下ですが、そう言われたのなら仕方ありません」

 イセリアさんの表情が少しだけ引き締まり、剥いていたコーヒー豆をテーブルの隅に寄せ、手を洗ってから座りなおした。

「いいですか。親に捨てられたからと言って、別に愛情を注がれずに育ったわけではないと思います。年の近い同期、孤児院を経営するくらい優しい母親。そんな中で、友情や愛情がなかったと言えますか? 私はこの様な体ですが、母は他の子達と分け隔てなく育ててくれました。ただ単に食事を与えてくれるだけの施設は少ないと思います。少ない金銭でやりくりをし、少なからずお菓子とかそういうのも出たはずです。質は落ちますが、温かい食事も出てたはずです」

 そんな事を淡々と言い続け、イセリアさんは犬耳のおっさんを諭す様にして、どんどん孤児院でどんな事があったかを言い続けた。

「今では村長をしているお兄ちゃ……トローと再会して同棲していますし、子供の頃の様に優しくしてもらっています。正直孤児院出身と、良い所で働けていたメイドの違いなんて、恋や愛の前では些細な物です。世の中駆け落ちとかそういうものも多いです。何を怖がっているんですか? 私だってできたんです。戦場で殺しを経験してるのに、心を壊さずに女性に優しくできるハーデさんができないはずはないです」

 色々な意味でイセリアさん強すぎ。ってか色々重い。島に魔族側の孤児とかが密航してきたら任せよう。引き取るのとは別物だし。大人が密航? 訳を聞いてどうしてもアクアマリンに来たかったっていう感じだったら船代分働かせつつ、どこの村に配属させるか決めよう。

 人族大陸に渡りたいだけで間違えてアクアマリン行きに乗ったのなら、とりあえず町の兵士に預けるか、カルツァに聞いて島で罰を与えるかだな。島での刑罰はある意味決まってるし。

 ってかセルピさんもすげぇな。元孤児にここまで言わせる事ができるなんて。そりゃトローさんもなんだかんだで面倒見良い訳だ。

「もう夕方です。第一村に帰ったらそのままの足でそのメイドさんに一歩踏み込んでください!」

 おー。変に迫力があって怖い。ってか色々な意味で本当に強い。今日これ思うの二回目だけど。

「……わかった。幸せになるのに産まれや育ちは関係ないとわからされた。感謝する」

「なら結果で示してくださいね。楽しみにしています」

 イセリアさんは笑顔でそう言うと、コーヒー豆の果肉を持って小屋から出て行ってしまった。自宅で食べるんですねわかります。

「女性は強いですね。では帰りましょうか」

 俺も笑顔で言い、第一村に転移したらおっさんが一言お礼を言って自宅の方に走っていった。まぁ、頑張ってください。パーラーさんはおっさんの事好きっぽいですし、余程の事がなければ平気だと思いますから。

 そんな事を思いつつ、一回執務室に戻って書類とかが増えてないかを確認しつつ、軽く片付けてから自宅に帰った。


「ってな事があってさー」

 俺は家に戻り、夕食を食べ終わらせてから、スズランとラッテに夕方の事を話した。

「おっさん、そんな事気にしてたのね」

「へー、結構人によっては気にするんだねー。まぁ、向こうは良い所で働いてたメイドだし、気にする人は気にしちゃうかー。私は気にしないけどね」

 二人は意外って言う感じで言い、お茶を飲みながら三人で話し合った。

「でさぁ……。もしかしたらおっさんとパーラーさんは、今日もしかしたらいい感じになってるって事だよねぇ?」

「そうね。もしかしたらいい感じかもしれないわね」

 そう言ってラッテは木製の窓を閉めはじめ、スズランは天井から吊ってあるランプを取って、芯を短くし始めた。

「ちょいとお二人さん。なんか早くないですかね? あ、洗い物しなきゃ」

 立ち上がった瞬間にラッテに飛び着かれ、背中に胸を押し当てられた。

「お水に浸してあるから、少しくらい洗うのが遅れたって平気だと思わない?」

 そして耳元で囁くように言われた。多分つま先立ちだろう。胸の位置が少し上がったし。

「逆に聞くけど、洗い物が終わるまで待てないのかな?」

「待てないなー。なんだかんだで急に来る場合があるからねー。ね、スズランちゃん」

 ラッテは俺の二の腕に頬をぴったりと付け、薄暗い中スズランに問いかけた。

「そうね。結構急に来るものだから仕方ないわね。それと、二人目が欲しいと思ってたの。今日は当たらないけど練習は必要よね?」

 スズランは俺に抱き着きながら肩に顎を乗せ、やっぱり囁くように耳元で言って来た。

「いや、練習って結構頻繁にしてるよね? ってか洗い物させてよ、逃げないから」

「駄目」「だぁーめ」

 俺は気怠い中洗い物をする覚悟を決め、ラッテがくっ付いていない左手で、スズランの背中に手を回した。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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