第250話 子供達が旅立った時の事
子供達はあれから卒業までクリノクロアに住んで、今度は一般常識をみっちり学んでいた。この間行ったらなんかやり過ぎてた感があるからな。長くいてくれた方が親としては安心できる。
そしてまだ家賃は十数日残っているが、先生が卒業式と言っていたのを村長がフルールさんを使って伝えてくれた。そして転移で一旦家に戻し、故郷の家で卒業後に送り出す事にした。
「何かあればいつでも戻って来い、できるなら生きて戻ってきて欲しいけどな。戻って来られない理由ができたら最悪手紙を出せ、親として迎えに行ってやる。旅の途中で島の噂を聞いたら寄ってもいいし、そっちに帰って来てもいい」
俺は笑顔で言い、甘いと思われると思うが、魔法処理のできるギルドの人に頼み、アクアマリンの代表として、リリーとミエルがどうしようもなくなった場合のみ、どこでもいいからギルドに駆けこめば保護をして、村か島まで護送してもらえる、一回きりの手形みたいな物を作ってもらった。もちろん内緒で。
どうやったかって? 卒業の為に家に戻って来た時に、二人のギルドカード持ってギルドに行ったのさ。
「それとこれだ。これをギルドに出せば村か島か近い方に護送される事になってる書類だ。もちろん俺の金でだ。冒険中に親としてやれる事はこれくらいだからな。これをギルドに出せば交換でギルドカードに情報を書き込んでくれる。だから好きな時にこの権利を使え」
それを真面目な顔で言いながら渡し、俺はお茶を飲み、これ以上は言う事はないという雰囲気を出す。
「生きてればそれで良い。辛くなれば帰ってくれば良い。お爺ちゃんやお婆ちゃんみたいに、見知らぬ土地で生きていく場合は手紙を出して。私からはそれくらい。良くない噂を聞いたら、噂を追って地の果てまで行ってでもぶん殴りに行く」
スズランは足元に置いておいた薪を取り出すと、思い切り握りこんで圧砕させ、握りこぶしをグニグニとやってテーブルの上に木屑を作り出した。
「あ、うん。悪評は広がらない様にするわ……」
「僕も気を付けるよ……」
確実にイチイさんの血を引いてるわ。ほら、子供達怖がってるじゃないか。ってかイチイさんに似たような事言われたわ……。竜族三人娘さんにも死体を蹴りに行くとか言われたし。
「私は特にないかなー。子供はいつか独り立ちして親元を離れるってイメージが強いし。手紙はあれば嬉しいけど、多分私は絶対に忘れる事はないと思うし、たまに思い出す程度でもいいし、その時に気分が乗れば手紙出す程度でいいよー。あ、髪の毛は少し切って置いていってね。もしもがあっちゃいけないんだけど、あったら嫌だから、もう故郷であるベリル村と多分永住すると思う島に埋めておくから」
ラッテは別れに対しては意外にドライだった。なんでだろうか? まぁ、長寿種特有の感性なんだろうか? ってかもう遺髪かよ……
「あー、それはそれでどうかと思うわ。もし気に入った土地があって定住するなら、手紙は出すわ」
「僕も。姉さんだけ旅を続けるとか言って別れても、僕がその事を書けばいいんだし」
「逆もありね」
子供達は、これから旅立つって感じの雰囲気を出す事はなかった。そしてラッテにナイフを渡され、目立たない場所の髪を切り、ラッテが三つに分けて小袋に入れていた。
「何で三つなの?」
「一つは私が持っておくから。実はカーム君のもスズランちゃんのもあるんだよ」
「あの時渡されたけど、渡そうと思っても断られた気がするんだけど……」
「ふっふっふっ……。何の目的もなしに洗濯物を漁ってたと思ってるの?」
「欲を満たす為だとばかり……」
「枕とかもちょこちょこっとね!」
「はぁ……。後でこれでもかと言うくらいお話があります。覚悟しておいて下さい……」
「あれ? なんで物凄く丁寧な言葉なのかな? なんでスズランちゃんは無言で木屑をさらに細かくしているのかな?」
ラッテは俺とスズランが静かに怒っている事を悟ったのか、なんか変な笑顔で首を傾げている。自分自身の行動に聞いてくれ。言えばいくらでも渡したのに。多分スズランも……。
長寿種の考えは今でもちょっとわからないな……。
その後は家族でゆっくりといつも俺やスズラン、ラッテが作っている得意料理を食べて寝る事にした。流石に親子全員で寝る事はなかったけどね。
ちなみにクラスメイトとは学校で別れを済ませて来たらしい。
◇
「んじゃ、なるべく死なない様に。そういう風に色々な人に頼んだりして、育てたつもりなんだからな」
俺は特に気にする事なくいつも通り子供達に。
「男に言い寄られて殴って殺さない様に」
スズランは何か物騒な事をリリーに。
「行く先々で子供作っちゃ駄目だよー」
ラッテは多分絶対ないであろう事をミエルに。
「その辺の男になら勝てるだろう、魔王と勇者に稽古つけてもらってたんだからな」
父さんは子供達に自信を付けさせ。
「気に入らねぇならブッ飛ばせばいい」
義父さんは恐ろしい事を言い。
「お母さんやお爺ちゃんの言う事は、半分だけ守りなさい。あとリリーを止めるのはミエルの仕事よ?」
母さんは軽く注意をし。
「辛くなったら戻って来なさいね」
義母さんは優しい言葉をかけた。
「うん。じゃあ行ってきます」
「行ってきまーす」
子供達は一言だけ言って、エジリンに続く道を軽装で歩いていった。だって荷物まだクリノクロアだし。
「軽いなー。買い物に行くみてぇじゃねぇか。その辺は親譲りか?」
「だろうな、戦場に行くのに時間がないからって簡単な手紙一枚で済ませる様な奴だぞ? 魔王になった時も、海賊に襲われた時も、人族の時もそうだ」
「ジジババの誰にも似てないならそうなんじゃないの? 根っ子の部分はスズランもラッテちゃんにも似てないんだし」
「あら、自分でお婆ちゃんって言うなんて、リコリスもすっかりお婆ちゃんね」
両親達四人は笑いながら実家方面に歩いていってしまった。なんか全員を足して割った感じな気もするけど、確かに根っこの部分は俺に似てるかもしれない。
はぁ……。子供達が巣立って行ったというのに、なんか実感がわかないなぁ……。前世みたいに交通機関が発達している訳でもないのに。
本当に新幹線で本州を移動するような感じの別れだったわ。
「あー。結局盗みの訓練させ忘れたわ……」
「そう言えば、昨日渡していたギルドの書類はどうやって作ったの?」
「あーそれ気になる。絶対二人の荷物漁ったでしょ? じゃなきゃあんなの作れないし」
ラッテがそう言った瞬間、スズランが俺の胸倉を掴み、無言で家の中に連れ込まれた。
「ちょっと奥さんや。物凄く怖いんですが」
「怒ってるんだから当たり前。話があるから」
「私もー。子供の物だからって、勝手に漁るのは駄目だよー」
「洗濯物漁ってたラッテにだけは絶対に言われたくはない! ちょっと! なんで寝室なの!? 待って! なんで!?」
◇
俺はクリノクロアの家賃契約の切れた十日後に、もう一度手土産を十二本ほど持って訪れる。出て行ったかまだいるかの確認だけど。
「ほい、いつも世話になってるお礼。非番の奴には申し訳ないけど、切って休憩中にでも食べてくれ」
俺はパウンドケーキを大き目のトートバッグから三本だけ出して渡す。
「おぉ、助かる。すまんな」
「美味いからって町中や、俺の住んでるベリル村を探し回っても絶対に売ってねぇからな」
「は? なんでだよ」
「俺の手作りだから」
俺はいつもの門番に通行料を払ってからパウンドケーキを渡し、軽く会話をして逃げる様に中に入った。なんか色々聞かれるのも面倒だしな。
そしていつもの道を通り、クリノクロアの前に立つ。相変わらず道は掃除がしてあり、ゴミなんかはないし、ゴミ捨て場も綺麗だ。多少壁が埃とかが長年かけて溜まって黒ずんでるけど。
「どうもー。ちょーっと様子を見に来ましたー」
「……あら、新しい入居者かしら? 丁度部屋が空いたばかりなのよ」
大家さんが出てきて、わかっているのにそんな事を言って来た。
「あ、コレ手土産です。皆さんで食べて下さい」
大家さん、馬、セレッソさん、フォリさんフレーシュさん、人族の……。六人で分けると三本余るけどな!
「馬と人は出てるけど、残りはいるわよ? 直接渡しなさい。皆、カームがお菓子を持ってきたわよ」
大家さんがそう共同住宅の中に向かって言うと、一階の一番奥のドアが勢いよく開いて、セレッソさんがなんかセクシーな下着姿で現れて、こっちに少し早めに歩いてきた。
「あら久しぶり、よく来たわね」
物凄く笑顔だけど、下着姿で寝癖があるので、仕事が終わって起きる直前くらいだった可能性が高い。
そして盛大な音を立てて階段を下りてくる音が二つ聞こえた。
「よく来たな!」「よく来たわね!」
フォリさんとフレーシュさんもラフな部屋着姿で下りて来た。ってか俺じゃなくて俺のお菓子目的なのが全員丸わかりだ。
「どうも。とりあえずセレッソさんは服に着替えてきて下さい。仕事中って言われても納得できます」
「今更よ。で、お菓子はなに?」
俺は軽くため息を吐き、大きめの袋事セレッソさんに渡した。
「簡単なケーキです。ドライフルーツ、ナッツ、プレーンです」
「とりあえず一本丸々食べたいわね」
「待て待て待て。三種類三本だから絶対に切った方が良い」
「そうよ!」
その後はなんか言い争いはしていたけど、結局全種類の四分の一をトレーネさんにも、持っていくという事になり落ち着いた。
「で、子供達はあれからどんな風に出て行きました?」
「ん? いらない物は全部売って出て行ったわね。と言っても布団程度だけど」
「大きな街が見たいって事で、テフロイト方面に行くって言ってたな。そこを経由して大陸中央方面に向かうとかいてったぞ」
その言葉に俺は頭を抱えテーブルに肘をついた。クラヴァッテがいる場所じゃねぇか……。最悪大陸中央の方って言ったら国王兼大魔王様がいるじゃねぇかよ……。
「ど、どうしたの?」
珍しくセレッソさんが心配するような声で聞いたきた。本当に珍しいけど、なんか似合わない。
「あそこの貴族とは最前線に徴収されてから微妙に交友があり、一回お子さんの社交界デビューの時に呼ばれてるんですよ」
「へー凄いじゃない。貴族でもなんでもないのに呼ばれるなんて」
フレーシュさんは、パウンドケーキを食べながらそんな事を言った。
「一般人がそんな場に呼ばれること自体が駄目なんですよ! 服なんかパリッパリにノリ付けしてアイロンかけたこの服ですよ。もう変な目で見られっぱなしですよ! もう場違い感がやべぇんすわ……。なんで貴方のような一般人がいるのよ。ボウイの方がまだ小奇麗よ。的な目線が!」
「それだけ聞くと最悪な感じがするんだが、どんな意図があったんだ?」
「アクアマリン代表。ここに出てるベリル酒の生みの親で、個人的に交友があり無理言って持ってきてもらった。ってな感じで言われ、当時話題になってたコーヒーやチョコレートも紹介されてどこぞの大商人がワラワラですよ、本当アレは困った。ちなみに子供の年が近いから話題になっても何もない事を祈ります……」
俺は盛大にため息を吐き、そのまま抱えていた頭を落として顎をテーブルに付けて頬を付けてグデンとする。
「多分旅費を稼ぎながら行くから話題になるよ! あーもう。絶対連絡あるよコレぇー」
「魔王にもなると大変なんだなー。魔王関係なさそうだけど」
「俺が魔王になったの知らなかったらしいです。俺が相談の為に昔のツテを頼って行った時に初めて知ったらしいです。子供の事も嫁の事も知らないので、多分平気ですが、経理やメイドはクラヴァッテの紹介なんで、最悪手紙で容姿の説明はあるかもしれない。やばい、絶対にやばい」
俺はおでこを付けるようにして拗ね、テーブルを軽く叩く。一応フルールさんの事は伏せるけど。最悪向こうのメイドにフルールさんが話してるかもしれない。もうやだ……嫌な気しかしない。
「その……なんだ? 気をしっかり持て」
「うーっす……。何もない事を祈りますよ。で、大陸中央に何があるんですか?」
ため息を吐きながら身を起こし、お茶を飲んで聞いてみた。
「有名なダンジョンだな。どういう原理か知らないが、魔力溜まりみたいに常に魔物が湧いてるそうだ。階段もあるしどうなってるのかも知らないが、最下層到達はまだされてない」
「魔王だけで結成した討伐部隊とかが、昔に結成されてそう」
「あー、それな。食料的な問題で引き返してきたぞ。多ければいいって訳じゃない」
「つまり討伐部位目的だけで、一攫千金狙いか。腕も上がるしな……」
そしてもう一度ため息を吐き、リリーが旦那にしたい男の条件を愚痴った。
「ひでぇなぁ。あのリリーより強いって事はかなりの腕だろ? それと戦うとか。どうするんだ?」
「祈るだけですね」
乾いた笑顔で両手を広げて首を傾げる。もう本当にどうしようもない。
「久しぶりに門番と愚痴りながら飲みたいけど、まだ昼だから帰って仕事です」
酔えないけどな。
そしたらキッチンにいた全員が、可哀そうな人を見る様な目で俺を見ていた。
「魔王ってそんなんだったっけ?」
「俺が事業立ち上げたのが原因です。軌道に乗ってるので問題はないですが、村の開拓とか、入島希望者とか、職人募集。在庫管理とか自警団の簡単な結成と訓練。治安維持とか諸々。年越祭越したんで、心機一転して島に来る人が増えてるんですよ。もうどこかに船の建造とか頼みたいくらいですよ」
俺はお土産で持ってきたパウンドケーキを食べないと誓ってたが、もう気にしないで切り分けられた物を食べてお茶で流し込んだ。
「ってな訳で愚痴ったら楽になりました。帰って仕事します」
「その、体には気をつけろよ?」
「そんな状態で子供達の稽古とかに付き合ってたの?」
「気が向いたら店に来なさい。一杯奢るわよ」
なんか皆に優しくされた。
「けどセレッソさん。嫁が二人いるのに娼館なんか酒だけの為に一人で行けませんよ。はぁ……。んじゃ自分は失礼します。また機会があれば来ますので。いない連中によろしく言わなくてもいいですが、来てた事を言って下さい。んじゃ、子供達に良くしてくれてありがとうございました」
俺は皆にお礼を言い、裏庭を借りて軽く手を上げて島に転移した。なんかセレッソさんが魔法陣を見て少しだけ驚いてたけど。多分転移の事は聞いてるだろ。まぁ。区切りがついたって事で俺も頑張るかな。
皆様からご感想でご意見をいただき、元々スローライフなので最長で1~2ヶ月飛ばす程度、最短で翌日程度にします。
これからも魔王になったら領地が無人島だったをよろしくお願いします。




