第249話 子供達を迎えに行った時の事
子供を共同住宅に入れ三十日、とりあえず迎えに行く日だ。カルツァ? 少し心的外傷を負った感じだったが、とりあえず翌朝には普通にしてたから、姐さんを見なければ平気だろう。
「んじゃとりあえず子供達を迎えに行ってくる。帰って来るかは知らないが、こっちに一時帰宅はさせるぞ、まだ学生だからな」
「そうね。直にしばらくは会えなくなるのだから、そういうのは大切ね」
「そーだねー。早い人は独り立ちとかしてるし。最悪学校がなかったら五歳くらいにはもう働くから問題はないんだけど。カーム君って結構親馬鹿だからねぇ……」
「自覚はしてる。んじゃ行ってくるよ」
だって中学までは義務教育だし、高校だって進学率は九割以上だしな。全寮制とかじゃない限り、大抵は高卒ぐらいまでは親元にいるからなぁ……。
俺は町の外に転移をして、午後なので並ばずに町の中に入るが、いつもの門番だったので、大銅貨を賄賂を渡す様にこっそりと渡して逃げるように中に入ったが、後ろを振り返ったら親指を立てていたので、俺も立て返した。
この間真面目に仕事しろとか言ったが、俺も加担してるんだよなぁ……。
そして歩きなれた道を通り、クリノクロアの中に入るが人の気配が少ない。
「子供達ならまだ帰って来てないわよ? 今日中に戻る予定をフォリ達と組んでたけど」
「そうですか……。ならちょっと買い物にでも行ってきますね」
大家さんにそう言われてしまい、とりあえず一回出てくると言って俺は町の中を当てもなく散歩する。と言ってもそこの通りに出るだけだけどな。
ちなみに手土産のチョコレートは、置いておくと食われるので手に持っておく
んー夕方に近いから野菜系は品薄。まぁ、この状況で夕飯の買い物とかしてたから良いんだけどね。
「お、久しいじゃねぇか黒いあんちゃん。どうしてたんだ?」
「あの後故郷に戻っちゃいましてね、今日はお世話になった人に会うのでちょっとした買い物です。このミルクと卵、それとバター下さい」
「あいよ、懐かしい顔を見れたから卵だけおまけしといてやる」
「あざーっす!」
俺はニコニコとしながらお礼を言い、クリノクロアに帰る。
「あら、お早いお帰りで」
「どうせまたなんか言われるので、先手を打っておこうと思いましてね。キッチンをお借りします」
俺は買い物した袋を持ちあげて見せ、キッチンに入る。
鍋にミルクとバターを入れて、手から【火】を出して温めて、持ってきたチョコレートを一箱全部ぶち込んで根気よく混ぜて溶かし、テーブルに置いておく。
そして卵を割って卵白と卵黄を別けてボウルに入れ、卵黄に砂糖を入れてかき混ぜ、溶かしたチョコに入れてかき混ぜる。
卵白も似たようにするが、メレンゲになるまで根気よく混ぜ、砂糖を数回に分けて入れるが、その度に混ぜまくってフワフワにしておく。
そしてメレンゲに溶かしたチョコを入れて潰さないようにザックリ混ぜる。
キッチンを漁り、一番目の細かいザルに小麦粉とココアパウダーを入れ、振りながら入れてもう一度ザックリと混ぜる。知ってるが、型がないのでフライパンに油を塗って入れ、熱していたオーブンにぶち込む。
「貴方も好き者ね。自分の子供が戻ってくるまでにお菓子作りとか」
「そうでもないですよ。あ、コレお土産のチョコレートです」
俺は使ってないチョコの箱を、大家さんの前に置いて少し前に出す。キースで実験済だから平気だろう。
「子供達から話には聞いてたわ。この辺じゃ手に入らないらしいじゃない」
そう言いながら蓋を開け、一カケだけ口に放り込んでモゴモゴしている。
「確かに変わった食感ね」
そう言って立ち上がり、ティーポットとカップを取って俺の前に無言で出してきたので、【熱湯】を入れ、蒸れたらお茶を注いでもらう。
「けど少し甘いわ」
それだけを言い、無言でお茶を啜っているので、俺もゆっくりと焼きあがるまで沈黙の空間でお茶を飲むが、少しだけ気まずい。
「子供達はどうですか?」
沈黙に耐えきれなくなったのでとりあえず話題を振ってみる。
「元気よ」
望んだ答えは帰ってこなかった。そういえばこんな人だったわ……。
「フォリさんやフレーシュさんと上手くやってます?」
「もうそろそろ帰って来るんだから、本人に聞いたら? 私はどうこう言える立場じゃないし」
「ですよね……」
別に仲良さそうとか、慕ってるとか何か言ってくれればいいのに。
そろそろザッハトルテモドキが焼きあがる頃なので、生クリームがないのでミルクで代用する。
温めたミルクにチョコとバターを入れてかき混ぜ、ドロドロにしたら常温の水に浸して粗熱を取り、焼きあがった生地を取り出して大皿に乗せてこっちも粗熱を取る。
間に何か塗ってもいいけど、今回はシンプルに……。
そしてドロドロにしたチョコをドバーっとかけて冷やして完成。冷蔵庫ないからこのままだけどな!
「さて……。特にやる事がなくなった」
「これを食べればいいんじゃない?」
「皆の為に作ったのに、今食べちゃうんですか? せめて集まってからたべ――」
そう言ったら玄関の方が騒がしくなった。多分戻って来たみたいだ。
「もどった……なんでいるんだよ」
フォリさんはキッチンに入って来て、戻って来た挨拶をするが、俺の顔を見て驚いていた。別に驚く事でもないんだけどな。
「あ、お父さん」「あ、父さん」
子供達も一緒だったらしい。しかもなんか良い感じで装備が最適化されている。
リリーなんか俺のベストを真似たのか、細かい物が邪魔にならないように入れられるようになっているし、ミエルはローブの内側にポケットがいっぱいあるのか、外側に縫い跡が見える。ベルトにも後付けポーチを作ったのか、腰の左右に三ヶ、計六ヶ付いている。何が入ってるかは知らないが。
「あらカーム。久しぶり」
「どうも、お久しぶりです」
フレーシュさんも一緒だったらしい。そして古株二人は、ザッハトルテに釘付けになっている。やっぱり甘い物好きなんだなぁ……。大家さんもチョコを知ってたし、二人が知っててもおかしくはない。
「これは子供達がお世話になったお礼です。お礼としては少ししょぼいですがね。出来上がったばかりですので食べちゃいますか」
俺は笑顔で包丁を持ち、八等分に切り分ける。俺は別にいいや。
「ここにいないのは……。馬とセレッソさん、人族の……名前が出てこねぇ……。は取り置きして、食べちゃってください。こっちはお土産なのでご自由に。けど最低限は残しておいてあげて下さい」
そう言って皿に取り別け、さらにチョコレートの箱をテーブルの中央付近に持っていく。
「さて。子供達の父として色々と聞きたいのですが……。食べ終わるまで無理そうですね」
取り分けた分のザッハトルテを五人はモグモグと食べはじめたので、俺は勝手にお茶を淹れて、皆のカップに注いでやる事にした。
「やっぱりカームの菓子は美味い」
「あぁ、近所に店を出して欲しいくらいだ」
大家さんは食べ終わらせると、さっさと自室に戻り、キッチンには俺を含む五人になり、お茶を飲みながらチョコレートを笑顔で頬張っていた。
残念だけど島にいるので無理です。出すとしたら島になるけど。
「では、ここ三十日の事を教えて下さい」
「あぁ、初日は実力を知るのに近所で狩りをしていたが……。こいつ等に聞いて驚いた。爺さんやカーム、勇者にまで稽古つけてもらってたんだって?」
「初日でかなり驚かされたわ。動きとしては問題ないわね」
「まぁ、集団行動を学ばせる為にここを選んだだけですので。そっちの方はどうでした? 協調性とか色々」
俺はチームワークや、休憩中の行動やらを聞いてみた。
「特に問題ないわね。料理も美味しいし、知識も豊富。聞いてみれば料理は親譲りで、知識はエルフに聞いたって。ミエルが料理中にリリーが野草集め。朽ち木にナイフを突き立てて虫の幼虫を摘まんだ瞬間に止めたけど」
「あぁ、アレには驚いた。普通に食材としか見てなかった……。問題点はその辺だけだ。なんで食料が多くて余裕もあるのに虫を取るのかと……」
「五日分の小麦粉と保存食だけで二十日間生活させたので、遠征中は食料を温存する頭に切り替わってるんでしょうね……。やり過ぎたか……」
俺は最後だけ小声で言ったら、フォリさんの持ってるフォークが一瞬止まったが、聞こえないふりをしてくれた。
「あとは妙に下準備とか偽装、罠に詳しかったわね。あー後は獲物の特性とか逃げ方、追い込み方。事細かに地図を書いたり、その日の事を日記として箇条書き。歩いた距離とか使った食材、遠出した場合の町の方角。本当に初心者かってね」
フレーシュさんが口に入れていたザッハトルテを飲み込むと、ニヤ付いた顔でフォークを左右に振りながら言って来た。
「前半と文字に起こしたり描いたりするようにさせたのは俺です。最悪帰り道がわかるし、残りの食糧管理がしやすいです。後半はエルフさんの教えですね。そういえば狩りはどうだった?」
俺は次に子供達に聞いてみた。
「んー。今回は五人でスライムを狩りに行ったよ」
「フェーダーさんとスティロさんって人も一緒だったわ。最初は驚いてたけど、お父さんの子供だってわかったら変に納得してたけど」
「随分父さんの事言ってたけど……。聞いて驚いたよ。スライムの核を奪ったり、夜中に太陽作ったりって。本当若い頃にナニやったの?」
子供達は変な目で俺の事を見ている。
「早く帰りたくて帰りたくて仕方なかった。あと夜の魔物の出る森が怖かったから森から少しでも離れたかった。それだけだよ。あとなんか変な事言ってなかった?」
服だけ溶かすスライムがいるとかどうとか。
「広い意味で変人呼ばわりしてたわ。お前の親父さんはある意味馬鹿で変人で少し考えてる事が違うって」
「あー言ってたね。やる事も規格外って。魔王になった事も知ってたし、変に納得もしてたよ」
「へー……。ならいいや。あの二人、まだ冒険者やってたんだな……」
服とか溶かすって単語がなければいいんだ。うん。
「門番さんとも仲良くなったし、通りの人達とも顔見知りになったよ。よくオマケしてくれるんだ」
「ほー。そいつは良かった。帰りに酒でも奢ってやりたいけど、このままもう少し住むか、引き上げるにしても一旦帰らせるって言っちゃったからなぁ。これ食べたら一旦帰るぞ」
俺はお茶を飲みながらそれだけを言い、少しだけ安堵のため息を漏らす。
「いや、リリーも中々やってる事がおかしかったし、ミエルも自覚した方がいいからな?」
フォリさんがザッハトルテを食べ終わらせて、お茶を飲む前にそう言った。何かやったんだろうか? 少しだけ気になるな。
「何をやったんです?」
「槍を思い切り横薙ぎに振るったら、スライムの核が衝撃で破れた。ウインドカッターの亜種なのか、吹き飛んで四散した」
「ほう……。中々やるな。勇者に稽古任せてから打ちあいしてないけど、もう二度とリリーとは稽古やらねぇ」
俺はカップを置き、イスの背もたれに寄りかかり、上を向きながら投げやりな感じで言う。あんなスライム一振りで衝撃を核に与えるとか考えたくもない。
「えー。酷くない?」
「ミエルともやりたくないから安心しろ。切らずに接地面増やして衝撃で吹き飛ばすとか、大きなフライパンで殴るのと変わらないからな?」
「けど父さんなら対策は練るでしょ?」
「初見じゃ無理だ。風の壁みたいのなんか避けられない。んじゃ一旦帰るか」
そして体を正し正面を向き、帰る事を伝える。
「で、どうするん? まだここでお世話になるのか?」
「三十日追加で。まだまだ学ぶ事は多いわ」
「そうだね、村や島で学べない事が多いからね」
「続行ね。んじゃ荷物はこのままで帰ろうか。裏庭借りますねー。ザッハトルテとチョコ。全部食べちゃダメですからね? また子供連れてくる時に聞きますからね?」
「まず三十日分のお金払わないと」「契約更新しないと」
「あーそうだった。今日で切れるんだった」
それを思い出し、俺はもう一度イスに座ると、ミエルは一階の部屋に、リリーは二階の部屋に向かって行った。
まぁ、二階なら馬がうるさくねぇか……。
「はぁ娘が二階で良かった……一階だったら馬が死んでたわー」
「初日のアレで懲りたのか、うっとうしい事はしてないらしいわ」
「ミエルも、セレッソさんとか大家さんにちょっかいかけてなさそうだし。親としてはまだ安心できるだろう。そして菓子だが……。ミエルにもう少し多くレシピを覚えさせてくれないか?」
「……本人が首を縦に振ったら教えますよ」
俺はチョコレートを一カケだけ口に放り込み、ガジガジと荒々しく噛んで飲み込んだ。
もうフォリさんの中で、俺達はお菓子が作れる親子って式の方が先に来てるわ……。全く、多少はフォリさんも覚えて欲しいわー。
正直50話の時みたいに数年程度飛ばすかどうか悩んでおります。
このままだと軽く500話とか超えそうですし。
個人的にはのんびり進行なのでそれでもかまわないんですが、マンネリ的な物がですね?
けどもういっその事、数週間単位じゃなくて、何回に一回は月単位とか飛ばしてもいいんじゃないかな?とかも思ってたりもします。




