第246話 寒冷地の野営を教えた時の事
「二人とも、ベリルの冬の寒さには慣れたか?」
俺達家族は数日前に故郷に戻り、南国の暖かい場所から真冬の雪が降っているベリル村に帰って来た。そう、忘れないうちに真冬の状態での野営を教え込ませる為だ。
「うん、慣れたよ」
「僕も」
「なら森に行こうか。あっちの方が色々と都合がいい。雪原だと難しいから初めてする冬の野営には向かない。んじゃ行ってくる。最悪戻ってくるから」
俺は荷物を背負い、スズランとラッテに声をかけ、アクアマリンから持ち込んだスコップを持って外に出る事にした。
「あーさみぃ……。んじゃ向かうか」
それだけを言い、冬用の装備を持って森に向かった。
「この辺が良いな」
俺は針葉樹の生えてる場所を選び、枝を折ってから雪の上に置いて葉っぱの上に荷物をとりあえず置く。
「まずはテントの設営だけど……。なんだかんだで布一枚だと保温性や風よけに難ありだ。そこでこの雪を使う」
俺は雪を軽く掴み、握ってみる。少し湿っていて圧をかければ固まる。この地域の雪がパウダースノーじゃなくて良かったわ。別にウインタースポーツやらないから、雪質にこだわりはないけど、かまくらを作るなら少しべたついてる方が良い。
「さて、まずは雪原での野営の仕方だな。大切なのは温度だ。前にリリーをずぶ濡れにして、風を当てただけで動けなくしたけど、風ってのは温度をよく奪う。だから雪原じゃなくて、こういう森の中を選んだ。風を遮るものが多いからな」
そして俺はかまくらを作るのに一回雪を踏み潰していく。
「積雪はそんなにないが、新雪は柔らかい物が多い。だから一応こうして踏み固める。そうするとテント用のペグを刺したりもできるが、今回は使わない。とりあえずこの辺の雪を踏んでくれ。決して急がず、汗をかかないように。休憩を入れながらな。ミエル、あっちで火を起こしてお湯を沸かしてくれ、寒いからって水を飲まないと体の水分がなくなる。夏は汗が出るが、冬は乾燥している。白い砂漠といわれてる場所もあるくらいだ」
「砂漠ってなに?」
俺は雪を踏みながらミエルに指示をすると、一緒に雪を踏んでいたリリーが砂漠が何かを聞いてきた。
「そうだな。物凄く暑くて、水がなくて砂と岩しかない場所だ。雨も季節が一巡しても降らない場所も多いし、水を周りから集めようとしても乾燥しすぎてて魔法で水球ができにくい。本当ならそういう場所での水の集め方とかも教えたかったんだが、多少は魔法で集まるからなぁ……。もし見かけたら仲間にでも聞いてくれ。よし。後はここに雪を積んで踏んでいくだけだ」
実際にあるかどうかも不明だ。けどラクダを人族側の大陸から買ったから、そっちにはあると思うけど……。
俺達親子は、雪を踏んだ場所にどんどん雪を投げ入れ、縁側だけ強く踏んでを繰り返し、どんどん積み重ねていく。
「父さん、お湯沸いたよ」
「そうか、少し休憩するか」
ミエルがお湯が沸いたと言ったのでリリーに休憩を挟もうという。
「まだ全然疲れてないんだけど」
「まぁ、その辺は休憩しながら教えるよ」
俺は雪を少し堀り、イスの様にして針葉樹の葉っぱを敷いてから布を何重にも折ってから座る。
「まぁ、この間言ったが、松にはかなり色々な栄養が入ってる、とりあえず枝の先の方に葉っぱが付いてるのをそのまま沈めて少し煮る。これで冬に不足しがちな野菜の栄養が取れる。さて、なんで休息を入れたかだが、寒いと体温を保とうとして体の栄養を直ぐに使う。だからこうして早めに休憩を入れて、水分や糖分をとって栄養にしないと駄目なんだ」
カロリーって言っても多分通じないだろうな。
「本当なら蜂蜜を多めに入れたお茶とかで暖かい物、水分、糖分を補給を同時にするのが一番いい。立ってるだけで痩せるくらい寒い場所とか高い山に住んでる人は、バターとか入れて飲むそうだ」
俺はリュックから蜂蜜の入った瓶を出し、ヤカンからカップに松のお茶を淹れ、たっぷりの蜂蜜を入れ、隣に座っていたリリーに渡す。
「つまり冬は少しの運動でも、夏と同じくらい疲れるって事だ」
俺は笑顔で言い、熱かったので少しだけ雪を入れて冷ましてから飲む。
「はぁー……。暖かい。ちなみにだが、雪をそのまま食うと体温が下がって病気になりやすくなったりするし、それが原因で死ぬ場合がある。最低でも水筒に雪を入れてから懐で溶かしたものを飲め。余裕があればこうしてお湯と砂糖が理想だ」
「ふーん。食べ物って言うか、甘い物って大切なんだね。ってか蜂蜜って凍らないよね」
「そうだな。凍るのは水分がある物だ。だから砂糖水とか酒って凍らないから、こういう蜂蜜とか、果物の砂糖漬けは凍らない。それとなんで木が凍らないかってのは、少しだけ甘いからだ。カエデの樹液を煮詰めると、メープルシロップって物になる。蜂蜜とはまた違った甘さと香り、風味がいい。寒い地方に生えてる木なんだけどな、この辺じゃ見ないなー。けどそこの白樺の木の樹液でもできるな」
「もう少し早く教えてくれてれば……。僕作ったのになぁ……」
「はは、悪い悪い。まぁ、煮詰めるって事はそれだけ薪を使うって事だから、手間と時間が必要だ。こういう場所じゃ易々とできない。さて、テントの代わりの作成に戻ろう。ミエル、夕食は保存食だけで作る事になる。この時期は野生生物や野草は期待できない。干し肉の入ったポリッジかな? 温まるし、塩分も取れる。トロミがあると冷めにくい。寒いと熱い時以上に気を遣うからなー。んじゃやりますかー」
その後かまくらを作り終わらせ、針葉樹の葉っぱを大量に敷き詰めて断熱剤の代わりにし、布を敷いて濡れないようにする。
「さて、使い終わった空気は下に溜まると前に説明したが、冷たい空気も下に溜まる。暖炉なんか使うと足元が寒いのと同じだな。ってな訳で、この外側を少し掘り下げて、冷たい空気が下に溜まるようにする」
俺はかまくらの中の一番外側を掘り下げ、排気用の穴を開けて入り口を塞ぎ、少し上の場所にも開ける。
「これで使い終わった空気で死ぬ事は多分ない。そしてここから使ってない空気が入ってくる。けど定期的に空気の入れ替えはした方が良いかもな。枝を足したのに火が大きくならない場合は気を付けろ。使い終わった空気が充満しているかもしれない。さて、雪の上で火を付ける時の方法だが、何種類かある。雪に生木を敷いて、その上で火を起こす、いらない鉄板の上で火をおこす、専用の機材を使う。けど荷物制限があるから、雪の上に土とかを持ってきて、生木を敷くのが一番いいな。けど厚めに葉っぱ敷いてるから今回は生木だけで平気だ」
俺は説明の為に塞いだ入り口を蹴って開け、木材を取りに行くが、ここって少し掘れば土出るんだよなぁ……。
「さて、寒い場所でしか使えないんだけどな。実は落ちてる木って凍ってるから、腕の太さくらいの木だったら叩きつければ折れる」
俺はちょうどいい長さの枝を木に叩きつけて簡単に折る。
「後は生木だけど、若木を切らせてもらおうか。高い木に上るのは危ない」
俺は樹齢二年目くらいの木をスコップで叩き切り、かまくらの中に入る大きさに揃え、どんどん運び入れていく。
「薪よし、鍋をつるす三脚よし、島で作って来た防寒着よし」
俺は巨大なリュックから、三人分のダウンジャケットと寝袋を取り出す。ポリエステルとかナイロンがないので厚手の布になったけど、防寒性を考えるならこれしかないなぁ。
「うわ、軽い」
「なにこれ!?」
「鴨の胸の部分の毛だ。ダウンって言う。物凄くフワフワで空気をよく溜めるから熱が逃げない。島じゃ必要ないから出荷用に貯めてるんだが、とりあえず役に立った」
俺は二人にジャケットを渡し、毛布と下半身を寝袋に突っ込んで火をつける準備を始める。
「実は温度にも数字の概念がある、それでマイナスってのがあってな。ゼロ度で水が凍りはじめ、その後は木が凍ったりする。だから熱を奪うってのは引き算ってイメージにすれば簡単だ。で、本題だ。外がマイナスで、この中は暖炉のついてない家くらいの温かさでプラスとしよう。その差が大きくなればなるほど暖かく感じる。ロウソクやランプの火で、吐いた息が白く見える温度でも暖かく感じるし、これを着てれば多分この寒さなら死なない。それに中で料理してれば物凄く温かい。けど温かくしすぎると雪が溶けるけどな」
俺は雪に生木を敷いて、火を起こして綺麗な雪でお湯を沸かし始める。
「なんで魔法でお湯とか水を出さないの? 父さんなら簡単でしょ?」
「まぁ、訓練だからな。魔法が苦手な人もいるだろ? だから手本だけは見せてる。さっきの水があればもう少し早いんだけどな。んじゃミエル。料理を頼む」
俺はリュックから、事前に作っていたぺミカンを出してミエルに渡す。
「これはぺミカンって言う物だ。野菜や肉を炒めて、塩コショウをしてから油で固めた物なんだけどな。寒い場所だと五日から十日は持つしちゃんとした保存方法なら季節が一巡しても平気だ。今回はバターで固めたから、溶かして小麦粉を入れてトロミを付けてミルクを入れればシチューだが、ミルクがないから水で脂っこいただのスープになるけどな。けど栄養が高いから文句を言うなよ? 実際に極地探索用の食料だし、ここよりも寒い場所で三十日とか生き残れるし、前日の食事の残りを別な物に作り替えるのも大切だ。シチューをグラタンにして、その後はコロッケとかな」
俺は教えられる事は教え、ぺミカンの調理をミエルに頼み、リリーを見るとジャケットをモフモフとやっていた。
綿じゃないから不思議なんだろうなー。ベリル村は凄い寒冷地って訳でもないし、こういうのは今まで必要なかったしなぁ……。
そして夕食を食べ終わらせ夜中になり、寝るかという事になった。
「さ、寒くて寝れない……」
「外よりはマシだから……。ってか穴の開いてるこっち側の方が寒いんだけど」
「寒いからって言って酒だけは飲むなよ? アレは熱いって感じるだけで、実際は熱が逃げてる。酒を飲んだ人だけが死んだ話も聞いた。少し待ってろ」
俺はリュックからニンニクを取り出し、カップにオリーブオイルを入れてニンニクを茹でる様に熱し、唐辛子と塩コショウを入れて特に名前のないニンニク料理を作る。
けどギリギリアヒージョな気もしない。ニンニクとオリーブオイルだし
そして別の鍋でワインを温め、荒く切ったショウガとシナモン、砂糖を入れてホットワインも作る。
「ニンニクとショウガ、唐辛子は体を温める。加熱すれば臭いもあまり気にならない。酒は飲むなと言ったが、温めて酒を飛ばせば問題ない。料理の方は確実に酒が欲しくなる味だけどな。ほら」
俺はカップにホットワインを注いでやり、串を二人に渡す。
「多分合わないけど、温まるならいいだろ。うん、まぁまぁだな。そうだ、最悪生でもいいから凍ったニンニクを二かけらくいらいは食った方が良いぞ。寒すぎる環境下ではそれだけで命を拾う事になる。さて、食べながら簡単な授業だ」
最悪寝ないでずっと座って、熱が逃げる場所を小さくしたり、寒くて寝れなくても動かないで目をつぶってるだけでも全然違う事を教えた。
「さて、体力温存を考えるならもう寝た方が良いな。本当は交代で起きてて火の番とか、使い終わった空気を吸って異変が出てないかの監視とかも必要だけど、多分平気だろ。空気の流れも多少あるし。ミエル、寝れないならこれで鼻と口にかけろ。んじゃ寝るか」
それだけを言い俺は寝転がった。
「うわ、呼吸が凄く楽になった」
「シルクの布だ。口から出した息が少しだけ暖かくなって、鼻から吸える。多少はマシだろ? ほら、リリーも一応使え」
俺は生前読んでいた漫画でやってたし、真冬にマスクしないで冷気で肺を痛めた経験がある。だから真冬は、人混みじゃなくてもマスクをするようになった。こっちに来てからはしてないけどな。なんか体のつくりが違うんだろうか?
◇
日が上るまであと二時間か……。俺はゆっくりと起き上がり、静かに燃えて崩れてる炭の所に小枝を足し、火力を調節する。
中の雪は溶けてないし、火の上も平気だ。吐く息はちょっと白いので十度くらいだろうか? 暖房の付いてない部屋程度か。それで厚着と毛布と寝袋。死ぬとしたら二酸化炭素中毒か……。
とりあえず起こすのも悪いので、そのまま朝食の準備をせずに手をかざして暖をとる。ポリエステルのマイナス二十度とかまで平気な奴とかもあったけど、この辺の冬なら十分だな。
山の上でマイナス三十度の強風の場所に行かなければとりあえず死なないな。俺の教育で生存率が上がればいいが……。俺だって所詮高原の雪原や、あまり寒くない場所での野営の知識と経験しかないからな。
けど装備と知識さえあれば応用は利くし、風さえ気を付けてれば氷上テントとかで強風で吹き飛ぶ事もない。どこに行くかはわからないけど……。
はぁ……。考えても仕方ない。とりあえずトイレだな。俺は立ち上がり、入り口を崩して這うようにして外に出るが辺りはまだ暗く、上を見ても森で星があまり見えない。
「はぁー。星座とか知らないけど、冬は星が綺麗だなー」
とりあえず出す物を出し、外に立てかけて置いた薪を持ってかまくらの中に入ってとりあえず温度を上げるのに薪を足し、近くにカップを置いてゆっくりと雪を溶かしてお湯にして、針葉樹の葉っぱを入れ、砂糖を入れてゆっくりと飲む。
はぁ……。ほんのり酸っぱくて針葉樹独特のヤニの香りが鼻から抜けるわー。針葉樹系は大抵美味いな。
とりあえず日の出まで待ち、外が明るくなってから朝食の準備をする。やっぱりぺミカンなんだよなぁ。
「あ、おはよう父さん。寒くて眠りが浅かった……」
「あぁ、おはよう。とりあえず暖かい物でもゆっくり飲んで体を温めろ」
俺は針葉樹の葉っぱのお茶を渡してやる。そして面倒なのでリリーもついでに起こす。
「起きろ、さっさと食って体を温めて日の出てるうちに出るぞ!」
リリーの寝袋をゆすると飛び起き、辺りを見回している。
「あれ? あぁ……。ティラ先生の授業じゃないのね……。ギリギリまで寝てて飛び起きる癖がついてたからつい……」
「起きるだけマシだ。スズランは余程の事がないと急に起きない。それとどんな状況でも寝れるのは、ある意味特技だからそれは大切にしろ。迷惑はかけないようにな」
俺はリリーにもお茶を渡してからぺミカンスープと硬パンを渡し、二人がモソモソと食べているのをニコニコと見ていた。
これで少しでも寒冷地での生存率が上がってくれればいいかな……。
作者は冬に肺が痛くなり、軽い喘息みたいな症状が出ますのでマスクやネックウォーマーは必須です。




