第244話 ちょっとやり過ぎた時の事
タイトル候補2
皆に嫁を紹介した時の事
故郷で本格的な雪が降り、子供達は冬休みに入った。なので俺は休みの日に家族を連れ島に転移した。
「暑い。眩しい。こんなに暑かった?」
「厚い雲で太陽が隠れて雪降ってたからねー。夏の太陽ってこんなもんだよ」
スズランとラッテが執務室の窓から外を見て、久しぶりに来た感想を言っている。まぁ、久しぶりだからな。
「ってか、ここなんなの? 家の居間より広いけど」
「あぁ、俺の仕事場。ここに座って書類を書いたりする場所」
俺はイスに座り、トレイに入ってる書類の中から、署名捺印だけで済む物を目の前に置き、羽ペンを取ってサインとスタンプを押す。
「おー。こんな事してたんだ」
「まぁ、こんな事もするんだ」
俺は立ち上がり、でき上がっている書類用のトレイに置き、イスを戻したところでウルレさんが執務室に入ってきた。
「あれ、今日はお休みでし――。初めましてウルレと申します。いつもカームさんにはお世話になっております」
ウルレさんは五人全員の視線に気が付き、急いで挨拶をした。
「こちらこそカームがいつもお世話になっております。私はスズランと言います。以後お見知りおきを」
え? スズランが凄くまとも……。嘘だろ? いつも一言とかなのに。
「ラッテと言います。次の春から本格的にこちらに越してきますので、夫婦共々よろしくお願いします」
スズランは凛とし、ラッテはにっこりと微笑みながら言うと、ウルレさんは顔を真っ赤にし、少し曖昧な返事をして事務所の方に戻っていった。
んー。あんな反応もできるんだなぁ……。
「ウルレさん、顔真っ赤だったね」
「そうだね。ちょっと多くの女性と関わった方が良いかも」
子供達の反応が辛辣だ……。事務所には女性職員を増やすかな。
「まぁ、いいさ。リリーとミエルはそこの角にあるリュックを持って。んじゃ家に行こうか」
俺は子供達に必要な物を持たせ、でき上ってる二階建てのレンガ作りの家に向かった。
「うわ。なんか立派じゃない?」
「うん。立派。しかもレンガ?」
ラッテは驚き、スズランは中指でコンコンと壁を叩いている。それだけでも破壊しそうだから怖いわー。
「もし五人で住むにしても大きくない? しかも無駄にレンガで立派だし。お金的な物とか平気だったの?」
「偉い奴が必要最低限の小さい家に住んでると、他の人達が立派な家をいつか建てられないって理由で大きくなった。それととりあえず、職人の育成の為に試験的に建てたからタダ。けど少し粗が目立つ、ほら」
俺は繋ぎ目部分の目地を見せる。目線より低い所は、俺が一言言わなかったのでかなりはみ出たり波打ったりしている。
「あ、本当だ。結構作りが荒い。けど床は普通だね」
「床……。っていうか木材全般は大工だからねぇ。内装は普通だよ。まぁ、故郷の家くらいの大きさでもいいんだけど、仕方ないって事で」
新しく作ってもらった棚からカップを出し、とりあえずお茶を淹れ一息つく。
「まぁ挨拶は昼にして、今は暑さに慣れておこうか。その後にそのリュックが必要になるから、今のうちに中身を確かめておいた方が良いぞ」
俺は子供達にリュックの中身を確認するように言うと、思い出したかのように中身を床に乱雑に置きはじめている。おかしいな、開けて見えるところに布を入れておいたはずなんだが……。
「おいおいおい、もしここが荒野や草原だったらどうするんだ? 細かい物が入ってて、なくしたらどうするつもりなんだ?」
俺は立ち上がり、より乱雑だったリリーの方に行き、布を広げてその上に物を乗せていく。
「この手斧やクラフトナイフはまぁいいとしよう。けど整備する道具類とか、この液体じゃない医薬品と綺麗な布だな。釣り針や縫い針、糸なんかはなくしたらまずい物だぞ。それに綺麗に並べれば、何がどれだけ残ってるかとかが、視覚的にすぐにわかる」
俺はリリーの道具を丁寧に並べ終わらせ、階段下の物置から自分のリュックを取り出し、似た様に並べる。
「んー。若い頃に揃えた物と殆どかぶってるな……」
「ねぇ、魔法が使えるのになんでマッチや蝋燭があるの?」
ミエルは不思議そうに聞いてくる。まぁ、仕方ないよな。
「もし魔法が使えない状況を想定する。自分が負傷した時に他の人が使える様にしておく。もし荷物を破棄する場合があった時に、拾う人がいて、その人が助かる様にだ。あと魔力で火をつけてると、使い終わった空気が充満している洞窟とかでも火が消えないで死ぬからな」
「なんで靴とか服もあるの?」
「予備の靴は、長期の歩行に必要だからだ。もし穴が開いたり、靴底が取れたりししたらどうする? 急な雨でずぶ濡れになる。雨宿りしてる時にずぶ濡れのままになりたいか? そう言う事だ。そっちにないのは服や靴。それは自分で選ぶものだからだ」
俺は調味料の蓋を開け、痛んでたり、不足してないかを確認してから、出した順番とは逆の順番で戻していく。
「まぁ、これは最低限必要と思った物に、自分が必要だと思った物を足したものだ。リリーならよく動くから、多めに端切れを用意して服の補修。ミエルは料理をするから調味料とかだと思う。これは追々自分で決めるんだな。使い勝手の良いリュックも」
俺はリュックを担ぎ階段下の物置に突っ込んで、残っていたお茶を飲み干す。
「顔合わせは昼過ぎで良いか……」
軽くため息を吐き、お昼の用意をしようと思ったが、おばちゃん達のご飯を食べるので今日は昼食作りはお休みだ。
「皆さん、食べる前に少しお話があります。次の春から本格的に妻達が故郷からこの島に越してきます。なので先に挨拶をしようと思いまして」
手の平で二人を紹介し、スズランとラッテが挨拶をした。
「おー、少し前に連れて来た奥さんだ」
「すげぇ綺麗なんだけど」
人族の島民は初期組は二人を見ているが、新入りはかなり驚いている。
「久しぶりだな。村にいた時はオヤジ達に世話になったが、こっちじゃカームに世話になりっぱなしだ」
「お久しぶりですスズランさんにラッテさん」
ヴァンさん、俺がいない時に父さん達と何があったんですか? それと犬耳のおっさん、もういい加減に接し方とか変えてもらっていいですかね? 年上にそんな丁寧に言われるとなんか調子が狂う。
そして昼食を食べ終わらせ、軽く集まって来た二人を知らない島民と少しだけ話をしてるとキースがやって来た。
「はじめまして。俺はキースって言う。カームとはひょんな事で知り合って、それからは馬鹿みてぇな関係が続いてる。まぁ、後でまた挨拶に伺う。おい、ちょっと裏に来い。あ、こいつちょっと借りますね」
キースは俺の目を見て、建物の方を親指で指した。あれ? なんか似たような事が北川の時に……。
「てめぇ、子供があんなんだから多少嫁が綺麗かと思ったら、かなり綺麗じゃねぇかよ! なんだありゃ! ルッシュとは別方向で綺麗すぎだろ! 娼婦も買わねぇのは納得だ」
「あぁ……。いるとは言ってたが、その辺は全然言ってなかったな。悪い悪い。ただし……あまり俺に何か言うとスズランの方が怒るから気を付けてくれ。昔に比べて多少大人しくなっとはいえ、今でもがっつり戦闘系だからな?」
北川にも、多分裏に連れて行かれるんだろうな……。
「お、おう……」
俺はキースの二の腕を叩いて皆の方に戻り、六人で家に戻った。
「はじめまして。貴方達の教育を任されたティラよ。では奥様方、お子様達を数日お借りします」
ティラさんはイスにも座らずに早速説明を始めている。
「気が早いんですね。お茶くらい飲んでいったらいいのにー」
「今日は初日ですので、テントを説明しながら作ります。ですので時間がかかりますので、今からでも移動して始めないと。では行きましょうかカームさん」
「ん? なんで俺もなの!?」
「貴方の便利な魔法で、多少なりあの時に楽になったのは事実です。ですが基礎的な知識がなかったら駄目ですので、一応来てください。説明できないのでは完璧に理解したとは言えないとの同じです」
「……はい」
俺はスズランとラッテを見て、軽く頭を縦に振ったので一応了解の返事をした。
「さて、子供達に過去にどのような事を教えたのか、私に教えて下さい。それとカームさんの知識もです。魔法に頼らずどこまでやれるのかもです」
森に移動し、良い感じに開けてる場所に移動してから、ティラさんがそんな事を言った。
「あ、はい」
俺は過去に子供達に教えた事を話しながら辺りを見回し、縦に亀裂が入りそうな石を探して拾い、その辺に投げつけて割り、軽く別な石で叩いて即席の打製石器を作って、手首くらいの立ち木を雑に切る。
そして辺りを見回し、ちょうどいい蔦を見つけて切ってAフレームを二個作り三本の棒を縛り付け、下の二本の棒の間に木の棒を敷き詰めて、大量の葉っぱを乗せてベッドを作る。ついでにミントとかも一緒に敷いて虫除けにする。
「子供の頃以来だな」
そう言いながら南国特有の大きな葉っぱを真ん中から裂いて上のフレームにひっかけて屋根を作る。
そして枯葉を揉んで、枯れ木を探し、必死に木の棒を回して摩擦熱で火起こしし、優しく息を吹きかけ、枯葉を燃やして火を起こす。
さらに辺りを見回して思い切り石を投げ、ウサギを一羽仕留めて、過去にやって二度とやらないと誓った方法で、ウサギを絞る様にして内臓を処理し、雑に石器で切り込みを入れて毛皮をむしる様に剥いで、指で関節を折りながら肉を解体し、首を折ってねじ切り可食部分だけ葉っぱの上に乗せる。
頭? 食べてもいいけど骨とかが面倒臭い。
おまけに、ウサギを拾いに行く時に見かけた蔓の場所に行き、枝でどんどん土を掘り芋を採る。
「こんなもんでしょうか? あー水の確保がまだだ」
俺は太い蔦を打製石器で切り落とし、滴り落ちてくる樹液で軽く手を洗う。
葉っぱを折って樹液がたまる様にし、肉を洗ってから別な葉っぱにも樹液を溜める。
「そろそろいいかなー」
俺は肉を葉っぱに包み、木の棒で地面を掘り、軽く土を乗せてから、火の付いている炭をその上に広げるようにして移動させ、芋をそのまま放り込んだ。
「テントと肉の蒸し焼き、主食に飲み水確保完了です」
「……誰がそこまでやれと言いました? 必要最低限の道具と調味料はここにあるんですよ?」
ティラさんが、俺の方を見ながら子供達に色々と教えていたが、どうも俺は知識を見せてと言われてやりすぎてしまったらしい。
「復習ですかね? 便利な道具や魔法があるとどうしても頼っちゃいますからね。けどさすがに準備なしで器とかの用意は難しいので、ここからは使いますけどね」
俺は笑顔で言い、木を三本集めてきて紐で縛って三脚を作り、二本に別れている枝で鍋掛けを作って垂らし、まだ使われていなかった鍋に【水】を入れて火にかけておく。
「これはオリヴィアさんがよく採ってた野草。この野草は根本部分が膨らんでて、アスパラみたいな食感だった気がする。味付けは塩のみで、蒸し焼きにしたウサギ肉を半分千切って入れてー……」
俺は枝で火にかけておいた石を入れて、一気に沸騰させて臭みも取り灰汁を掬う。
「うん、塩って偉大。最悪茹でただけになる。あと野生の芋に塩がないと食べられたもんじゃないな。あと土臭い。少し洗っておくべきだったわ……」
芋の皮をむくとヌルっとした感じの、里芋と山芋の中間のような質感の物で、色は薄紫だった。タロイモに近いのかな? けどアイツ蔦じゃねぇしな。
「あの、お父さん? はっきり言っていい? なんかおとぎ話で聞いた蛮族的な感じがするんだけど」
「あ、それ僕も思った」
子供達はテントを張りながらそんな事を言って来た。
「何を言ってるんだ。文明が発達する前は、世界中でこんな感じだったんだぞ? 粘土を練って焼いたりしてやっとお湯が沸かせる。生水だって目に見えないゴミとか虫とか毒があるから、沸かさないと危険なんだぞ? けど蔦を切って出てくる水っぽい樹液は綺麗だから、何かあったら切って飲め」
「いや、それは魔法使えない人族が迷った時にやる奴です……。少なくとも代表であり魔王のする事ではありませんし、親として子供に見せるべき姿ではありません」
少し熱く語ったら子供達から変な目で見られ、ティラさんからはなんか虫を見るような目で見られた。
「いや、だって俺の知識と説明できるかの話でしたよね? あとは魔法が使えない事や道具が全くない事を前提に。あ、ヘビ」
俺は話の途中で【黒曜石のナイフ】を精製して投擲して木に縫い付け、首を切り落としてから戻る。
「あぁ、すみません。食材があったのでつい……。何もない状況で色々できれば、道具があれば何でもできるって事を伝えたかったんですよ」
「そりゃそうですけど極端すぎです。ナイフをなくす様な事って道具袋事なくし、味方とはぐれた時くらいですよ? それにそんな状況を想定するって中々ないですよ?」
「そうですね。まぁ、常に最悪の状況を想定しろって考えなので。けど敵を過大評価しすぎるのも危険って事は知ってます」
「後半は戦略や戦闘面です。今言う事ではないです」
「あ、はい……。んじゃ俺は帰りますんで子供達をよろしくお願いしますね。あ、何かあったらフルールさんに言って下さい。なるべく早めに駆けつけますので。あ、スープとヘビは食べちゃってください」
少しだけ気まずくなったのでさっさと笑顔で帰る事にした。後で子供達にティラさんが何か言ってたか聞いておこう。
けどたまに、原始生活風のをやると楽しいな。




