第239話 ベーコン料理を作らされた時の事
子供達の訓練メインで書くつもりが、料理メインに……
飯テロ注意です。
明日は子供達の稽古の日だが、北川に任せている分は良いとしよう。俺は何を教えるか……。それが問題だ。
今は収穫祭近くだし、冬じゃないからティラさんの訓練にはまだ早いしなぁ。
「あー。アレをまだやってなかったわ」
俺は書類にサインしていた途中でとある事を思い出し、何を準備するか色々と頭の中で揃える。そして新築予定の家を見に行く。
職人の育成って事で、指導者の家を真っ先に総レンガ作りの家にするらしいが、今の今まで外見しか見ていないので、少しは見に行かないとダメだと思う。
職人を信じて全て任せても良いが、図面とか一切見ていない。なんか極端に大きいとかはないが、やっぱり心配じゃん?
業務を全て終わらせ、少し軽い足取りで新築予定地に向かう。そして挨拶をして中に入ると間取りの全貌がわかる。うん、普通。なんだろう、普通ってなだけでこの安心感。
代表なんだからデケェ家に住まねぇとダメだ! とか言いそうな職人気質な魔族だったが、意外と常識はあるらしい。
「お疲れ様です。新人の教育はどうでしょうか?」
「あ? 代表か。だんだん使えるようになってきたってところだ。試験的に作らせてもらっちまって済まねぇな」
「いえ、問題はありません。普通に過ごせれば問題はありませんから」
俺はテーブルに乗っている図面に目が行ったので何気なく見てみるが、二階建てだよ……。強度的に平気かな?
ガワだけレンガで、梁を通して二階はフローリング。だよね。じゃないとこの規模だと無理だ。それと耐震構造とか……。水平方向に対しての補強もある程度はあるね。
ってか地震を今まで生きてて感じた事がない。なくてもいい気がするが……。あった方が安心できるよなぁ、元日本人として。けどそうすると鉄筋やら色々必要になってくるし、そこまでコストを掛けられない。
あとイギリス積みか。目地と目地材は何を使ってるんだ? 砂と粘土、この白い物は?
「親方、これなんですか?」
「わかんねぇ! けどそれ入れると固まるんだよ。内陸の湖の石にくっつく白いのだ」
石灰石か? 町に出稼ぎに行ってた時の奴はこれか? 原材料なんか気にしないで仕事してたから、今まで損してたわ。
石灰の生成が面倒なら、石灰石そのまま使えばいいんだからな。
「親方、少し目地荒くないですか? 一応練習用との事なので少し大目に見ようと思ってましたが、これはさすがに……」
俺は、なんか波打っているつなぎ目を見て、顎に手を当てジト目になってため息を吐く。
道具を洗おうとしていた職人からコテを借り、バケツに残っていた目地材を掬って、目地コテでレンガの隙間を右から左に塗りつける様に押し込んでいき、最後に持ち手側を少しだけ浮かせて左から右に撫でると、ゆがみのない綺麗なつなぎ目になった。
「おぉ! うめぇじゃねぇか! このまま左官職人になっちまえよ」
「いやいやいや、島の運営が回んなくなりますよ。見て覚えろ系ではなく、多少教えつつ、口出しする感じでやった方が覚えが早そうですよ?」
俺と親方のやり取りを聞いていた職人が集まって来て、俺が目地をしたところを見て驚いている。
「んじゃ軽く教えますね。右利きの場合は――」
そして簡単に教えつつ、レンガを積んではみ出た部分は気が付いたら一センチくらい目地コテで削る様にして落とし、仕上げ目地をしやすい様にしておく。
「放置して固まるとノミとか使って取るので面倒です、なので積んだら削る。これを心がけて下さい。そして配分量を変えた、この砂の少ない目地材で丁寧に撫でる」
「「おおー」」
「親方の腕はいいですが、教え方は初心者です。お互いに勉強って気持ちで取り組んでください。では、お仕事お疲れ様でした」
俺は労いの言葉をかけ、道具を洗ってから戻し。今住んでいる自宅に戻った。
「本当にあの家大丈夫かな? 自分ではみ出た目地直すの嫌だぜ?」
愚痴りながら、明日の準備を進める。とりあえずは木製の食器類だけでいいか。
◇
翌日、とりあえずウルレさんに挨拶をしてから故郷に帰ると、キッチンになんか大きなベーコンブロックが置いてあった。なんか五キロくらいありそうだ。
「た、ただいま。コレ、何?」
「ベーコン」
スズランは、何を言ってるの? って顔で言ってきた。いや、ベーコンなのはわかるよ? この量は一体何なんだ? って意味なんだけどなぁ……。
「この前、お父さんと大きな丸太を動かしたから、村からのお礼。カームが帰ってくる日はほぼ決まってるから、その日を狙って持ってきた。これでも半分なのよ?」
「そうっすか……」
「そうっす。何か作って? 焼くだけならできるんだけど。カームの方が料理は上手だから」
スズランは微笑み、ベーコンを突いている。
んー。とりあえずそれっぽい物でいいか。
「はいはい、とりあえず何か作ってみるよ」
笑顔で答えると、スズランも笑顔になった。うれしいのはわかるが、ベーコンが食べられるからなのか、俺の料理が食べられるのかがわからない。まぁいいか。
俺はベーコンを薄く切り、フライパンの中央からに丁寧に並べ、フライパンの縁から半分ほどベーコンがはみ出るようにする。
そしてジャガイモを洗い、芽が出そうな所を取ってから物凄く薄切りにしてベーコンの上に並べ、コショウをしてからチーズを乗せ、またジャガイモを乗せて、はみ出してたベーコンで蓋ができる程度まで繰り返す。
これだけでも圧巻だが、それをそのままオーブンにぶち込む訳さ。まぁ、冷めるから子供達が帰る頃に入れるんだけどね。
二品目だが、長細いバゲットを買って来て、ホットドックにするように縦に切れ目を入れ、どんどんベーコンを乗せて行き、そこにチーズをのせ、トマトソースやみじん切りにした玉ねぎを入れて行き、ベーコンを乗せて蓋をして、食べる前に焼く。
「とりあえず下準備は終わったよ」
「お疲れ様。何か物凄く時間がかかってたけど、どんな料理?」
「普通の人なら食べるのをためらう料理」
「不味いの?」
「いやいや、確実に食べ過ぎて太る。スズランは気にしないと思うけど、ラッテは多分怒ると思う」
そう言うとスズランは笑いながらお茶を淹れてくれ、いつも通り雑談をしているとラッテが帰って来た。
「たっだいまー。うわ、すんごく美味しそうな料理。ちょっと、まな板の上の見たけど絶対太るでしょこれ!」
その言葉に俺とスズランはお互いの顔を見て笑い、ラッテにもお茶を淹れてあげた。
「でー。その料理はスズランちゃんのリクエストで、別にカーム君が作りたいって訳じゃない訳でしょ? んー。けど絶対美味しそうなんだよねー。材料と匂いでわかる。食べる前から美味しい」
ラッテは頬杖を突き、少し頬を膨らませながら怒っているが、多分誘惑に負けるだろう。
そして昼近くになり、パスタを茹で始め、ベーコンの脂身をフライパンで炒め油を出し、みじん切りにしたニンニクと唐辛子を入れ、軽く炒めてから、厚切りベーコンを賽の目切りにして、茹でたパスタと一緒に入れ、軽く炒めてコショウ。
そしてそのままフライパンを洗わずに、卵をスクランブルエッグにしてから、雑に切った夏キャベツを入れ、しんなりしたらベーコンを投下。そしてコショウ。
塩コショウは万能だ。大抵はこれでどうにかなるのがうれしい。
けどオリーブオイルじゃないし、ベーコン入ってるし、ある意味ペペロンチーノ風になっちゃったけどいいか。別にこっちでは粗食に部類されてないし。
そして、先ほど準備していたパンをオーブンに突っ込み、チーズが溶けて、ベーコンがジュクジュクし始めたら取り出し、人数分に切り分け、テーブルに並べる。
「うわ、思ってた以上だ。なにこれ。フライパン毎オーブンに入れたの? ベーコンのパイ?」
俺はジャガイモとチーズのベーコン包みを切って中を見せると、スズランが腰を浮かせ、ラッテが口を半分開けた。そうだろうな。これはある意味カロリーの爆弾だ。
スズランは嬉しそうにしているが、ラッテは少しだけあきれている。
「ただいまー。あ、いい香り」
「本当だ。これはベーコンの香りだね」
子供達も帰って来たみたいだ。
「丁度いい。まだ暖かいから、手洗いとうがいをしてから食べよう」
俺は子供達を急かす様に言い、さっさと頂く事にする。
俺がいただきますと言ったら、真っ先にスズランがベーコン包みにフォークを刺し、少し冷えて固まったチーズを無理矢理伸ばし、一口で半分以上を口に入れ、少し止まってから残りを口に咥えて、もう一切れにフォークを刺して自分の皿にしっかりとキープしている。
「ちょっとスズラン、はしたないよ? いつも最低六個とか六切れ用意して、スズランの分は二個になる様にしてるでしょ」
「んーんん、んーん――」
「口に物を入れて喋らない」
少しだけ注意すると、かなり長めに咀嚼してから飲み込んだ。
「これ美味しい。豚も飼おう。ベーコン多めに作ろう!」
随分力強く言われてしまった。
「……島でいい? さすがにこっちでは時間的に厳しいと思うよ? だって春になったら子供達が学校卒業だし」
まぁ、チーズ類はピルツさんに任せよう。昔は子牛の胃の中で牛乳を凝固させる為の成分が欲しくて、子牛を殺して胃液的な物を取ってたらしいけど、前世ではそれに代わる物がなんか菌だった気がする。
酢でも固まるけど、なんか種類が違う気がしたな。熱で溶けたり溶けなかったり。あまり詳しくないからわからないけど。
「んー。絶対これは太る奴だ。しかも美味しいからどんどん入るのが悔しい……」
「作り方自体は単純、けどベーコンの塩辛さがジャガイモとチーズでそこまで感じない。パスタもベーコンの塩だけなのにちょうどいいんだなぁ……」
ラッテは少し文句を言いながら食べているし、ミエルは何かに納得し、頷きながら食べている。リリー? 無言でモリモリ食べてるね。いっぱい食べる君が好き? まぁ、筋力と運動量が多いから問題はないか。北川が盛大に対人訓練してくれるし。
□
昼食を食べ終わらせ、洗い物をスズランに任せて一息入れてから島の方の自宅に転移をする。
「さて、今日の訓練は母さん達には内緒。この約束だけは守ってくれ」
俺はイスに座り、子供達も座らせてからとりあえ今日の趣旨を説明する。
「え、ついに盗みの訓練?」
リリーが露骨に嫌な顔をし、ミエルはため息をついている。
「それはまた後で。今日は別な訓練だ」
「あ、結局いつかはやらされるんだ……」
ミエルは盛大にため息を吐いた。そんなに嫌か? まぁ、俺が子供だったら確かに嫌だな。少し考えておいた方が良いかもしれない。
「まぁ、アレだ。冒険者って喧嘩が多いだろ? それでだな、狭い室内や食事中に喧嘩になった場合の訓練かな。なんだかんだで父さんも酒場で数回喧嘩してるし」
「あ、お母さん達に聞いたアレね」
「……アレだ。まぁ安全の為に木製の食器と、カップと深皿に少しの水だな。あ、魔法とか武器はなしで。相手を殺すとやばいだろ?」
俺は重ねてあった食器を子供達に渡し、並べさせる。
「とりあえず臨時の仲間と食事中に一触触発になった感じで行くぞ? この場合はどうすればいいと思う?」
とりあえず子供達に意見を聞いてみる。
「え? このカップのお酒とかスープをぶっかけて怯んでから、イスとかで殴る?」
「フォークやナイフを投げる?」
「大抵はそうだよな……。まぁ、ある程度相手が少ない時、こういう四角いテーブルでしかできないんだけどな。先に謝っておく、ごめんな」
俺は少し強めにテーブルを押して、テーブルを思い切り蹴り飛ばして子供達をイス毎倒し、料理の入ってる食器類もだるま落とし的な感じで自分の分を落としてから、子供達のナイフを奪い、深皿の水をぶっかけ、テーブルをひっくり返して下敷きにし、イスの足を持って振り上げる。
「これで火傷と怪我だ」
俺は椅子を降ろしてからテーブルを戻し、子供達を立たせる。
「先手必勝っていう言葉があるが、大声を出して威嚇したりして、相手を怯ませる奴がいるが、さっさとやっつけろ。どうせ喧嘩になる」
多少濡れている子供達に説明をしていると、リリーにテーブルを思い切り押され、一気に吹き飛ばされた。そしてイス毎倒れてたが、回収していたナイフを投げ、テーブルを蹴り上げてから後転して立ち上がり、一応素手のまま構える。
「注意力が足りないぞ? 食器が足りない事くらいすぐに気が付け。意趣返しのつもりかもしれないが、俺からしてみればまだまだだ。とりあえずリリー、さっきの判断はすごく良かった、けどお前のメイン武器は槍だ、そんなの狭い室内で振り回せない。それにナイフとか出して怪我させると、衛兵とかのお世話になるから、やりすぎるなよ? 最悪罪人になって最前線に送られる。まぁ、今は停戦中だからそんな事はないだろうけどな」
俺はテーブルを戻し、食器も戻す。そしてそれがどのように武器になるかを教え、何回も言ってる、その辺にある物は何でも武器になる事を強調する。
「酒場で強いのは、熱湯と温まってる油、その次に熱いスープだ。熱湯と油は攻城戦にも使われる。あと今まで一回も使った事はないが、粘度の高い液体だ。粘液をアツアツにして相手にぶっかけると、相手に張り付いてなかなか取れない、水をぶっかけても冷めない。最悪火傷で死ぬから使った事はないが、長時間無力化したいなら、風呂より熱いくらいの粘液をぶつけろ。パニックになるぞ」
熱湯コマーシャル的な感じで。
それからは室内での喧嘩の方法を教え、とりあえず二人には他の客に迷惑があまりかからない、硬貨の投擲が一番無難で、安価で投げても惜しくないし簡単に死なない武器として教え、竈の隣にある薪に刺さるまで練習をさせた。
「さて、そろそろ時間か、北川に会いに行くぞ」
俺は窓から見える太陽の位置や明るさを確認し、少しだけ浮ついた雰囲気の子供達と一緒に第四村に転移をした。
そしていつも通り、二人相手に簡単に転ばせたり吹き飛ばしたりしてる北川を見て、勇者って怖いと思った。




