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第237話 ファーシルが助けを求めに来た時の事

 コーンフラワー孤児院の卒業生を受け入れ、数日後にはティラさんから第二村の魔力溜まりの散らし作業を頼まれ、そろそろ島を一周するんじゃね? という頃、俺は夕食が終わって暗くなってからパーラーさんの台所でナッツ類の蜂蜜漬けと、ドライフルーツとナッツ類多めのパウンドケーキを作る。

 卵白を泡立てて砂糖を入れてさらに混ぜ、卵黄を入れてザックリ混ぜる。

 ベーキングパウダーの代わりに使うのでとりあえずザックリ混ぜるのがコツだけど、あまりざっくりさせ過ぎると、メレンゲが浮いて表面に白い物が浮くんだよな……。まぁ、別にいいか。見た目が少し悪くなるだけだし。

 バター? 買ってきたさ! 縛り解禁だからな! 

「カームさん、この後どうすればいいんですか?」

 そして年長組の女の子、エレーナさんと一緒にケーキ作りをする。まさかこんな時が来るとは思わなかったけどね。

「メレンゲの泡を潰さないように混ぜるだけだけど、混ぜすぎても足りなくても駄目なんだ。こんな感じかな」

 そしてそれをオーブンで焼いていた時に、屋根に何か二つ乗った音がした。けど鳥にしては大きい。

 なので外に出て確認してみるとファーシルがいて、首から布を下げ、胸の辺りに布に包まれた子供がいた。それに……派手な羽の色をしたハーピー族が。旦那か?

「カーム助けてくれ! 子供が! 子供が!」

「どうした!」

「子供の熱が下がらない!」

「エレーナさん。パーラーさんを呼んでケーキの事を聞いて対応して下さい。俺はアントニオさんの所に行ってきます! ファーシル。ついてこい!」

 俺はそのまま駆け出して後ろを振りむくと、二人が飛んでついてくるのが確認できたのでとりあえず診療所に向かい、夕食で飲んでいたのかほろ酔いのアントニオさんに手短に訳を話す。

「おい、子供を寝かせろ」

 ファーシルは器用に紐を首から取り、子供をベッドに寝かせると、アントニオさんが熱を手の平や甲で計ったり、背中に耳をあてて呼吸を聞いたりしている。もうほろ酔いって感じは一切しない。

 そしてポーション瓶を開け、小さな小瓶に計って数種類入れ始め、なんか調合をしている。

「子供特有の高熱だ。人族にもあるから問題はないと思う。これを飲ませればとりあえず熱は下がるが、三日続いたらもう一度来い。別な病気の可能性がある」

 まぁ、確かに朝普通だったのに、昼間に高熱出て、夜中には平熱になってる事あるしな。けど、ファーシルの家って、雨ざらしっぽかったが……平気なのか?

「ちょっと待って下さい」

 俺はアントニオさんに耳打ちをして、診療所で預かった方がいい事を伝えた。

「いや、そろそろ深夜だ。一晩預かるからここに泊まってくれ」

 アントニオさんは毛布を出し、ファーシル達の子供に掛けて調合した小瓶をサイドテーブルに置いた。

「ねぇ? 大丈夫なの? ねぇ?」

 ファーシルはアントニオさんの服を引っ張りながら、物凄く心配そうに聞いている。少しだけ切なくなるなぁ。

「あぁ大丈夫だ。子供は良く高熱を出す。慌てないのが一番だ……」

 アントニオさんが俺の方を見て、アイコンタクトを送っている。

「初めての子供だからな、そりゃ心配になる。俺の時もそうだったが、慌てないのが一番だぞ。それとしばらく見ないと思ったら子供が産まれてたのか。おめでとう。そちらは旦那さんかな?」

 アントニオさんに腰を叩かれ、にやけながら軽く首を縦に振っているので、一応は望んでる答えだったみたいだ。

 俺だって親としても先輩だ、それくらいの気遣いはするさ。

「はい。バリエンテと言います。妻が大変お世話になっているようで」

 ファーシルの父親みたいに騒がしくなくて助かる……。

「こちらこそいつも手伝ってもらったりで……」

 そんな挨拶をしていたら、アントニオさんに思い切り肩を叩かれた。

「そんな挨拶後にしろ。お前はポリッジでも作ってこい。すごく薄くだぞ」

「自分の子供の離乳食を当時作りまくってたんすよ? この時期はまだ早すぎます。果物の果汁や摩り下ろしたものっすよ。ちょっと風邪に良いもの選んで持ってきます。ファーシル、子供が泣いたら気にしないで乳を与えろ。男共は外に出る様に。気にせずにはっきりと言え」

「お、おう」

 俺はそのまま海岸まで行き、パルマさんに頼んでヤシの実を一個落としてもらい、自宅から林檎を一個持ってパーラーさんのキッチンに寄った。


「すみません、ちょっとカップやおろし金借りますね、それと炒った麦も。片付けは俺がしますので、申し訳ないんですがそのまま帰ってください」

「待って下さい、何があったんですか!?」

 俺が取る物だけ取って、診療所に向かおうと思ったらパーラーさんに止められた。

「ファーシルっていう、ハーピー族の子供が高熱を出して俺を頼ってきました。今アントニオさんが調合した、解熱剤だと思われる物を飲ませましたが、母乳の他にも水分や色々必要なので戻ってきました。一応色々な栄養が豊富な物とかですね」

「赤ちゃんって、おっぱいじゃなくてもいいんですね」

「エレーナさん。あなたもいずれ母になるとおもいます。一応母乳にも必要な物が多いですが、それで補えない物、熱で失った物は他から取る事も必要です。その辺は皆さんが色々教えてくれると思いますが覚えておいて下さい。すみませんが急いでますので失礼します」

 俺は簡単な会話だけで、申し訳ないがそのまま診療所に走る。

「持ってきました。濃い物は駄目ですがこれなら乳児にも問題ないかと思います。今用意します」

 俺は炒った麦を煮出し、氷の入った桶に浸して冷ます。そして林檎を擦って果汁を絞って少し水で薄める。

「下痢や嘔吐は?」

「それってなんだ?」

「……うんこは水か? ゲロしたか?」

「ん? してないぞ」

「汗も少ないし脱水症状は多分ないな。そこまで慌てなくても良かったかな? けどこれは与えるぞ? 抱いていいか?」

「おー。カームならいいぞ」

「旦那は?」

「えぇ、かまいません」

 俺はペンギンの雛みたいにモフモフな子供を抱き上げ、スプーンですくった果汁を与えようと口元に持っていくといらないのか、少しぐずり出したのでスプーンを置き、頬や首元に手を当てて熱を確かめる。

「そんなに熱くはないな……」

 実際に、数十分で四十度から三十六度五分くらいまで下がってるのを友人の子供で見てるからな。何とも言えん。


 少し抱いてあやしていたら、外からなんか聞き覚えのある声が聞こえた。

「ファーシル! バリエンテ! ワイズ! どこだぁ!」

「あ、父ちゃんだ!」

 ちょっと待て、今寝そうなんだぞ? 大声で……あーあ、ぐずりはじめちゃったよ……。

 俺が少しだけため息を吐くと、診療所の外に出て、ドアも閉めずにファーシルは飛び立っていった。

「バリエンテ……さんでしたっけ? ファーシルはいつもあんな感じで?」

「えぇ、少し元気すぎるのが強みと言うか……玉に瑕というか……義父達は子供ができたら落ち着くだろうと思っていたみたいですが、いまだにあんな感じです」

 バリエンテさんがドアを閉め、俺は子供をあやしながら苦笑いをし、落ち着いてきたのでもう一度ベッドに寝かせると、アントニオさんが直ぐに頬やおでこを触っている。大丈夫だと思いますよ? 結構落ち着いてますし。

「おぉ! 魔王じゃないか! 久しいな!」

 俺はドアを勢いよく開けて、入ってきたキアローレさんを睨みつける様にして口に人差し指を付けた。そしたら黙った。そして外を指さしてから手を引っ張って診療所を出る。

「子供が寝てるんですから気を使ってください」

「おぉ。すまぬ……。娘夫婦や孫がいなくなったのでな、つい」

「気持ちはわかりますが、熱出してて大変なんですよ? ちょっとは察してください。ってか、ファーシルは言ったんですか?」

「聞いておらんぞ?」

 俺はこめかみ辺りに手を置き、頭を振ってため息を吐いた。

「多分風邪だと思います。様子を見るのに今晩は診療所に泊まってもらう事にしました。なので今日はお引き取り下さい」

 そう言ったら、少し遅れてファーシルが下りて来た。

「お? 何があったんだ?」

 頭痛い……。

「子供が寝た。大声でキアローレさんが入ってきた、子供が泣きそうになった」

 俺は指を指して確認するように丁寧に言った。

「とうちゃん。少し声小さくしろって母ちゃんに言われてただろー」

「いいから二人とも黙って中に入れ」

 俺が声を落として顎で診療所を指すと、黙って入っていった。そしたらバリエンテさんが、子供の脇にイスを持ってきて大人しく座っている。

 子供は、嫁と旦那を足して割ったくらいの性格になってくれてればいいな。

「今は落ち着いていますので問題はありません。この方のいう通り、また熱が出たら大変ですので泊まらせてもらおう」

「おう、私がいないとおっぱいあげられないからな」

 少し誇らしげに胸を張っているが、子供を産んでも性格があまり変わっていないのも凄い。会った時のまんまじゃないか……

 ってか妊娠期間が短いな。最後にあったのは、第四村の疎水を引いてる時だったな。あの時に相談されて今は秋口……。

 半年!?  

 俺は顎に手を当て、ファーシルを頭からつま先までジロジロと見た。

「なんだカーム。私に何かついてるか?」

「いや、別に何でもないよ。どうする? 心配なら一応付いてるぞ?」

 俺はファーシル達に聞いてみた。

「んー。大丈夫だ。子供の熱下げてくれたし、何かあったら起こしに行くから」

「あぁ、気にしないで起こしに来い。隣にはそっちの医者の寝床もある。騒げば駆け付けると思うぞ?」

 俺は軽く挨拶だけをしてから、パーラーさんのキッチンに戻って片付けをしようと思ったら、全て片付いていた。明日にでもお礼を言っておくか。



 翌朝、少し早めに目を覚まして診療所に行くとベッドでファーシル夫妻が寝ており、子供もすやすやと寝ていた。

 病状は安定したか? 俺達も三時間おきにミルクとかで寝不足だったなー。

 そういえば昨日キアローレさんがワイズとか言ってたけど、子供の名前かな?

 にしても……ハーピー族の子供って本当ふかふかだな……。


 眺めていたら子供がぐずり出し、ファーシルが起きて子供を抱いて胸に近づけた。

 あれ? 違和感なく今まで母乳言ってたけど、鳥類……。いや魔族だしな。ってか体毛の部分だけどこれは見てていいのだろうか?

 俺は一度退室し、しばらく経ってからもう一度入ると、ファーシルが覚醒していた。

「おーっすおはようカーム。昨日は助かった」

「いや、かまわない。困ったら頼れって言ってたしな」

 俺と話をしていたら旦那が起きて挨拶をしてきたのでこっちも挨拶を返し、とりあえず朝食を運んでやる事にした。

 そして少し気になった事があったので、朝食時に診療所に顔を見せたキアローレさんに話を聞いてみる事にした。

「ちょっとお時間いいですか?」

「ん? なんだ」

 朝食を美味しそうに食べ終わらせたキアローレさんに聞きにくい事を聞いてみる。

「ハーピー族の子供って、もしかして結構な頻度で死にますか?」

 俺は真面目な顔で聞いてみる。死亡率とか言っても絶対にわからなそうだし。

「あぁ、死ぬ。だから種族で強い男を選んでファーシルの旦那にさせた。だがこのありさまだ……。危うく死ぬところだった。お前には感謝している」

 キアローレさんは、少しだけ悲しそうに言い、おでこの辺りを抑えている。

「あの、もしかしたら適切な処置……。薬とか使えば、熱も下げる事ができますし、治りにくい病気も治る場合があります。子供とか体力の少ない者が病気になった場合、良ければ島で治療しますが……。迷惑でしょうか?」

「迷惑なものか! 助けられた命がどれ程あると思っている! お前のおかげで肉が安定して食え、孫の病気も治った。感謝しかない! だが、我々には学も能力もない。どう恩返しをしていいのかわからぬのだ……」

 キアローレさんは首を振りながら頭を抱え、イスに座り込んでしまった。多少は気にしていたんだな……。

「ハーピー族は空が飛べます。なので空から魔物や獲物を探し、荷物を運んで他の村に届けたり、船に乗って見張りをしたりできます。それで我々は助かっています。そして島が栄えたら、他の仕事も考えていました。ですのでもう少し我々を頼ってくれませんか? 同じ島に住む仲間じゃないですか」

 俺は微笑みながら言い、代表が気にしていないと言い切り安心をさせる。

「だが……」

「まどろっこしいなぁ……。キアローレさんはいつもみたいに元気よく笑ってればいいんですよ。仕事があれば頼って頼むんですから、どんどん俺達の事を頼って下さいよ」

「わかった魔王よ! 頼らせてもらうぞ!」

 俺は羽の生えている二の腕を叩き、無理矢理キアローレさんを立たせると、一気に表情が変わり、いつもの様に大声で言って来た。

「もう俺の知ってるキアローレさんですね。他の村でハーピー族が仕事してるの見てるんですから、どんどん来てください。別に薬代はそんなに高くないですし、子供が死ぬよりはいいです」

「あぁ! 頼らせてもらうぞ! 皆に言ってくるぞ!」

 そう言って空へ飛び立っていった。最後だけ無性にかっこいいなおい。

 「おーカーム。父ちゃんと何話してたんだ? いつもみたいにうるさかったけど」

「ん? これからは、病気の子供とか気にせずどんどん連れてこいって言った」

「おー、気前がいいなカームは! これでワイズも大人になれるぞ!」

 やっぱり子供の名前はワイズだったか……。

「この度はありがとうございました。何もお返しはできませんが、できる限りの事はさせていただきます」

 バリエンテさんは丁寧にお礼を言ってきてくれた。ワイズって子供が男の子か女の子かどうかわからないけど、旦那に性格が似てくれれば助かるな……。

 名前が賢い(ワイズ)だから、多少勉強を教えてもよさそう……。まぁ、子供が無事でよかったわ……。

「いや、気にしないでいいよ。何かあったら相談に乗るって約束したもんな!」

「な!」

 ファーシルの笑顔で昨日の疲れが一気に吹っ飛んだ気がする。今日も一日頑張れそうだ。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の一文がいい。こちらもほっこりした。
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