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第236話 布袋を縫った時の事 ※この話で150万文字超え

 あの翌日に、何事もなく木を切り倒して魔力溜まりにならないようにし、それから数日間特に何事もなく過ごす。

「カーム、セルピさんも船に乗り込んだってー」

「わかりました。迅速に受け入れられるようにしておきます。そうお伝えください」

 あー第三村にも第四村に作った桟橋作っておくか、五日じゃ無理だから、今回は土盛り上げるか……。

「あー、孤児院用も内職系も用意しておかないと」

 俺はテーラーさんの所に行き、端切れの布と裁縫セットを借りる事にする。


「あら、また何か入用なの?」

 工房に行くとテーラーさんが作業をしており、手を動かしながら話しかけてきた。

「まぁ、ちょっとした物を外注するのに、個人的な訓練でしょうか?」

 テーラーさんは首を傾げ、少し面白い顔をしている。俺の行動が読めないんだろうか?

「端切れもらえます? ついでに針と糸を。ここで少し作業しちゃいます」

「そこの箱にそれっぽい物があるから、好きにしていいわよ。針はこれを使って」

 テーラーさんは、ネズミの人形をこっちに押し出してきたので、胴体を見るとハリネズミみたいに色々な針が刺さっていた。意外に可愛いところもあるんだな。

 俺は端切れの中から長細い布をもらい、ある程度の大きさに切り、針に糸を通す。

 そして人指し指に巻いた糸を親指で押し出すようにして、ダマを作って軽く引っ張り、左右を少し折って縫う。

 そして半分にしてからまた左右を縫い、縫った面を内側にするようにしてひっくり返し、持ってきた紐を通して搾る。超簡易的な巾着だ。

「あら、結構慣れてるのね」

「まぁ、たまに着てる黒い服とかベスト、持ってるリュックって自分で縫いましたし」

「あら、意外。で、それをどうするの?」

「切り抜いた革を当てて、上からインクを染み込ませた布を軽くポンポンとすれば、エンブレム入りの布袋です」

「あぁ……。そういう事。だから簡素な物を作らせるのね」

 テーラーさんは納得して頭を上下に振っている。

「まぁ、そんなもんです。この時期になると孤児院の子供達が卒業して島に来ますからね、その時に院長? 母親? が顔を見せに来るので、孤児院に仕事として打診ですかね」

「仕事を考えて与えるって良い事よ。施されっぱなしって考え方に悪い方向で影響が出るし、子供の頃から労働を意識させるのは正解ね」

 まぁ、油紙に包んでカロリーバー入れたり、チョコレートの箱とかコーヒーを入れて売るのにはちょうど良いしな。

 後は革か……。ちょうどなめし革職人がいるから、もらってくるか。


「お疲れ様です。新しい工房ぅぉ!」

 皮特有の酷い臭いだ……。しかもなめし剤のも混ざってるし。

「あぁカームさん。どうしたんですか?」

「いえ、使うのに少し強度的に問題のある、腹の部分とか余ってれば頂けないかな? と思いまして」

「あー……。この辺ならいいですよ」

 そう言って積んであった革を一枚出し、ハサミを持って指で軽くなぞっている。

「いえ、この程度のでいいんですよ。二枚三枚でいいので」

 俺はさっき作った布袋を出して見せる。

「たしかにそれくらいなら余り物ですね。ちょっと駄目にしちゃったのがこの辺に……。これをどうぞ」

 そう言って、大体二十センチ四方程度の革を出してくれた。

「ありがとうございます。何かあれば言ってくださいね。改善はしますので。ただ、なめし剤の入荷はコスト的な物で少し島で使えそうな物の研究という形で、試行錯誤してくれればありがたいです」

「わかりました。実は既に書類を読ませていただきましたが、それっぽい物は森で集めて来て、小さい鍋で煮込んで、小さく切った皮を入れて試しています」

 職人さんは笑顔で、日々研究はしてるんだぜー、的な顔になっている。

「頼もしいですね。では、失礼します」


 俺はそのまま執務室に戻り、紙にエンブレムを書き、切り絵みたいに切り取って革に当て、軽くインクを付けて、また切り取る。

「うむ。こんなもんだろ」

 そして二枚ほど作り、布袋に革をあて、インクを馴染ませた端切れで軽く押し付け、それっぽく試作品を作る。

「どーよこれ! 素人でもこの程度にはなるんだぜ!」

「あの……。書類仕事はー……」

 事務所から顔をだしたウルレさんが、俺が戻って来た事に気が付いたのか仕事の催促をしてきた。

「あ、はい……。すみませんでした。内職は夜中にやるべきでしたね……」

 ちなみにだが、ルッシュさんは五日前に産休に入った。個人的には嬉しい。だってもうお腹かなり大きいのに、仕事に出てくるんだもん。

 早ければスズランの時と同じで収穫祭辺りには出産かな? まぁ、二人とも慌てないでほしいな。まぁ、医者もシスターもいるし、最悪痛み止めが処方できる少しアレな錬金術師もいるからな。

 さてさて、書類仕事して午後は第三村に簡易桟橋は半日あればできるだろ。まぁ、現地の大工と打ち合わせして、杭とか板を用意してもらわないといけないけど。


「んじゃ第三村に入村予定の、孤児院の子供達……。もう大人か。その方達は後日来ますので、桟橋に使う杭とかの準備をお願いします」

「おう、任せとけ。あれに覆いかぶせる感じで作るんだろ? 用意しておくぜ」

 俺は桟橋予定の船着き場を一時的に土を盛り上げて作り、後日セルピさんも来る事をトローさんに伝えたら、左目をひくつかせていた。まだ苦手みたいだ。



 五日後、第三村に船が停泊したとフルールさんから連絡があり、用意した物を持って、ウルレさんに一声かけてから第三村に転移する。

「お疲れ様です船長。荷下ろしして休暇に入って下さい」

「わかりました。お前等聞いてたな! さっさと降ろして飲むぞ!」

「「「うっす!」」」

 船員達は大声で返事をし、俺はぞろぞろと降りて並んでいたコーンフラワー孤児院の人達の前に行き、笑顔で挨拶をする。

「始めまして皆さん。ここはアクアマリン島の第三村です。知ってるかと思いますが、前回の秋に来た先輩達もここにいます。色々な事を優しく教えてくれるはずですので、緊張せずに過ごしてください。では、一応戸籍管理って事で名前や特徴を聞いてますので、俺から見て右側の方から名前をお願いします」

 俺はルッシュさんやウルレさんが書いている戸籍管理表に名前や特徴を書いていく。


「では、荷物はあちらに。そしてトローさん、皆さんをよろしくお願いします」

「あぁ、わかった。んじゃ母さん。俺はこいつらに教える事があるから」

 トローさんにとりあえず気を使って仕事を振りつつ、俺は俺でセルピさんをイセリアさんがいつもいるコーヒーの実の、皮むき場に案内する。


「あ、お母さん。最近顔を出せないでごめんね」

「いえいえ、大丈夫ですよ。気持ちだけで充分嬉しいです」

 うん、良い会話だ。心が温まるよ。まぁ、俺の家庭は崩壊してないし、子供達も反抗期っぽい物が終わってるし、そもそもミエルはなかった様な気もする。

 まぁ、終わってそうな反抗期なんか良いか。早速仕事の話でも進めよう。

 俺は去年の事を思い出し、コーヒーではなくお茶を淹れ、二人の前に出し自分も席に座る。

「さて、早速で悪いんですが少しお仕事のお話をしましょう」

「仕事……ですか?」

 セルピさんは、飲もうとしていたお茶を止め、聞き返してきた。

「えぇ、孤児院の子供達にもできる仕事で、出来高制なので自由に作ってもらえれば問題ありません。ノルマもないです」

 そう言って俺はポケットから布袋を出す。

「まぁ、布袋の作成なんですけどね。細かい物を入れて売るのに使えますので、消耗品として割り切り、少し雑でも問題ないと判断しました……」

 布袋を開け、乾燥させたコーヒー豆を掴んで取り出し、じゃらじゃらとまた袋に戻す。

「安い布と革紐、糸はこちらで持ちますので、かかった値段を書いた紙を箱に入れて船に乗せるか、自分がうかがった時にでも見せてもらえればお支払いします。まぁ、経費ですね」

「これを子供達に作らせればいいんですか?」

「えぇ、比較的簡単ですし、針仕事も覚えられます。そして労働の大切さも。何か他にやってる事もあるかと思いますが、ノルマ制ではないので、緩くお考え下さい。あーオルソさんに仕事頼まないと」

 前に孤児院用に仕事をー。とか言ってたし、こういうのも必要になってきたからな。やっと仕事を作って回せたよ。これで、小売りができる。

「つまり材料費を全てカームさんが持ち、特に期限もノルマもなく、余った時間にやってくれればいいと?」

「ある程度はあってます。ちなみに俺ではなくアクアマリンからのお仕事ですね。なのでこれも」

 そう言って切り抜いた革を出し、試しに端切れにエンブレムを付ける。

「作り方は簡素なので簡単です」

 俺はとりあえず簡単に縫い、さっき出した袋と同じ物を作る、そして袋の上に革を置いてインクでエンブレムを付ける。

「カームさんって、針仕事もできるんですね」

 イセリアさんが感心した感じで言うが、雑にやってるので、細かいところを見ると本当に荒い。足踏みミシンの製造でも頼みたいくらいだ。

「ね、簡単でしょう? あとはここにひもを通して引っ張れば口が閉じる。そうそう、最近市場に売ってる物を加工して売れそうな物を作りましてね、孤児院で作って売ってみてはどうでしょうか?」

 俺は油紙に包まれたハチミツのカロリーバーが入った袋を取り出し、お茶請けとして出して見せる。

「本当はこんな感じでナッツ類やらドライフルーツが入ってるんですが、穀物系が多くても美味しいですよ」

 俺はいつもの売り文句を言い、余り日持ちしない保存食と言う感じで説明し、じわじわと浸透させたい事も伝えた。

「余ったら食べちゃえばいいですし、どこの市場にもある物なので」

 チョコはないけど蜂蜜は結構見かけるし、作り方は簡単なのでどんどん教えていく感じで、模倣されてもいいと説明する。

「むう。美味しいですね……。けどこれでパンの半分と考えると……。普通の女性なら中々手が出せないです。本当に冒険者や忙しい人の為の物ですね」

「けど、食べ盛りの子供達だったら、太っちゃいそうだよね」

「確かにお菓子に部類されそうな感じですが……。むー、母をやっている身としては複雑です」

 あー確かにそうかもしれない。子供の食欲とか色々忘れてたわー。最悪またサンドイッチマンをやって配るしかねぇな。

「んじゃ、おやつと言う事で。営業というか広める方法はこちらで考えますよ。そうだそうだ、汚い話ですが、袋の値段です」

 俺は紙に十枚で銅貨一枚と書き、セルピさんの方に出した。一応針仕事で、内職関係だったらこんなもんだと思う。ガチャガチャのカプセルに物を詰めるのが一円だし、粗悪な布袋を縫って一枚十円で、最小単位が銅貨で百円くらいだから十枚で、と書いておく。

「ふむ。まぁ、手間とか考えれば妥当ですかね? 材料費はアクアマリン持ちですし。子供達が暇な時に作って、お小遣い程度にはなりますね……。十日もあれば自分で好きなお菓子も買ってこれそうですし」

 一日どの程度の計算をしているのかわからないが、子供達が作った物は、そのまま子供達に入るような感じで言っているし、一度院にいれてから子供達に配布じゃないんだな。

「まぁ、どうするかは任せます。返事は船の船長とか、定期的に顔を出した時にでもお願いしますね」

 俺は笑顔で話を締め、お茶を飲みながらカロリーバーを頬張り一息入れる。


「さて、私は卒業生達に挨拶してきますね。ご馳走様でした」

「いえいえ。今回も定期便でお帰りに?」

「少しゆっくりしてもいいと妹に言われてますので、アクアマリンの船でもいいかなーと思っています。最悪、カームさんに送ってもらうってのもありですね」

 俺の転移魔法は、どこまでの人がどれだけ知っているんだろうか?

 情報の出どころが多すぎて特定できないわ……。便利すぎて使い過ぎたか……。

「えぇ、急に帰りたくなったら声をかけて下さい。では、久しぶりに皆さんとお話を楽しんできてください」

 俺は笑顔でそう言っておいた。

四巻の表紙が公開されました。活動報告に書きましたので、興味があれば覗いてください。

発売日は2018年02月28日です。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/428528/blogkey/1964519/

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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