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第234話 基礎を教えた時の事

「ただいまー」

「おかえり」

「はい、おみやげ」

「黒いし変な形、それに硬い。けど香りは……。バター? お菓子? 失敗したの?」

 俺は昨日カヌレを焼き、おみやげとして持ち帰ってきた。そしてスズランは不思議そうに見て軽くつついている。

「いや、それで成功だから。ラッテと子供達が帰ってきたら食後にでも食べようか。けど一個だけ半分こして今食べちゃおう」

 俺はスズランがつついていたカヌレを皿に取り、包丁で半分にざっくりと切り分け、ティーポットに茶葉が入っている事を確認し【熱湯】を入れてお茶も淹れる。

「焦がしたプリンみたい」

 スズランが一口食べ、感想を言ってくれたが、見事一言で表現してくれた。個人的にはもの凄くがっかりだけどね。

「ちょっと麦畑の草刈ってくるわ」

「草はミエルがこの間刈った」

 俺は腰を浮かせたが、そのままもう一度座ることにした。

「……買い物は?」

「カームが帰ってくる日だから、ラッテが休みをもらってる。今いないのは買い物に行ってるから」

「……そうか」

 うむ……。休日にやることがなくて、何して良いかわからないってこれか。


 少し悩んでいたらスズランが立ち上がり、俺のイスを引いて膝の上に向かい合って座ってきた。

「いくら何でも早すぎるって」

「そのうちラッテも帰ってくる」

「いや、関係ないよね? 俺は明るい事を――」

 スズランはどんどん顔を近づけてきて、ゆっくりと口を唇でふさがれた。

「ただいまー。カーム君帰ってきてるー?」

 ラッテが買い物かごをキッチンに置いて居間に入ってくると、俺と目が合い、もの凄く嫌らしい笑顔になって背中側から抱きついてきて胸を当ててくる。

「夜まで待てない?」

 スズランの唇が離れたので提案をしてみる。

「ラッテに聞いて」

「待てないなー。目の前でイチャイチャされてなかったら待てたんだけど残念だなー」

「絶対に話し合ってるよねコレ! ねぇ? ねぇ!?」

 その後は寝室にズルズルと引きずり込まれ、ほぼ朝一から昼近くまで連戦を強いられた。


「戦闘で大切な事って、二人は何を重視してる?」

 昼食後、俺は少し気だるげに子供達に質問をする。

「んー。力かしら? 力があればある程度は解決するし、重い武器も荷物も持てるし」

 娘が脳筋で父さんは悲しいです。

「距離とかサポート、食糧管理」

 うん食糧管理は大切だね。まさか戦闘で大切って聞いて、その単語が出るとは思わなかったわー。

「父さんは情報だと思ってる。何でだと思う? 遭遇戦は別だけどね」

「えー? 情報って必要なの?」

「多少は必要だと思うけど、どのくらい重要なのかがわからない。人数差とか?」

 二人は、多少戦力に偏ってるんだなぁー。

「まぁ、人数差もそうだ。けどな、大規模だと陣形や人数、食料の数は何日持つかとか。小規模だと相手の人数と戦力差、持っている武器や前衛後衛の数。砦とかになってくると、見張りの人数や交代の時間だ」

「えっ、そこまで必要なの?」

 リリーはもの凄く面倒くさい、ってな顔で聞き返してきた。嫁達も思ってるのか、なんか両隣で唸っている。

「ちょっとした人の話をするぞ? その人は十人パーティーの斥候を担当していた。その人数で小さな砦を制圧するのに四日かけて監視をした。その結果、正門の上にいる見張りは一番最初に朝食を終わらせ、トイレに行く時間が決まってるのか癖なのかはわからないけど、一回見張りに着いてから少しの時間だけ、替えの見張りを立たせずにいなくなる。それを狙い、正面から進入するルートを作りだし皆で攻める事にした。その他にも見張りの顔を全員覚え、門から入った人数と出て行った人数、その他を事細かに記録し、砦の中に兵士は三十人はいると判断してる」

「ねぇ、何で夜とかじゃないの?」

「夜は見張りが途切れないし、闇にまぎれて攻め込んでくるかもって事で、篝火や見張りが多い。そして、そいつは朝食を一番最初に終わらせる。つまり大半は食事中だって事だ。見張りも防壁の上に八人くらいしかいないからな」

「あぁ、そうか。夜襲ってイメージが強いけど、食時でもいいのか」

 ミエルは何かを納得したかのようにうなずいている。

「お父さんは、何か情報を使った戦いをしたの?」

 リリーに聞かれたので、あまり話したくはないが勇者の城の監視の話をしてやった。

「父さんは情報の重要性はよく知ってたけど、活かす機会はなかったなー。けど勇者も同じ考えだった。だから季節が一つ変わるくらいずっと監視してて、入念な計画と進入ルートを構築して、王様達六人を無傷でさらうことができた。これが力任せの正面突破だったら、勇者は悪者にされてただろうね。そして計画は上手くいった。今ではどんどん国を良くしてるよ」

「キタガワさんって、そんな事もしてたのね……」

「結構おおざっぱに見えるけど、そうでもないんだなー。どっちが本当のキタガワさんなんだろう」

 途中で北川が出たら、なんか急に目が輝いてたし、一応師事してもらってる側としては尊敬はしているみたいだ。

「ってな訳で、二人には島の第三村の調査を夕方までしてもらいます」

「いきなり!? ちょっとお父さん、なんでそうなるのよ!」

「前置きで情報が大切だって事を言っただろ。幸い魔族の村として作ってるし、見つかっても問題ない。夕方までに集められるだけ情報を集めろ。そして大まかな人数と村長を当ててもらう。できるならスケッチをして、夜中に潜入して小麦を盗んでもらいたかったけど、そこまではまだ早い――」

 盗むって単語を出したら、スズランから腕に裏拳をくらい、ラッテに頭を叩かれた。

「子供達に何をおしえてるのよ!」

「いや、小麦は俺が戻しておこうと思ってね?」

「それでも駄目。やらせすぎ」

「盗賊の隠れ家を襲うみたいに、殲滅計画練らせるよりはマシでしょ?」

 そう言ったら今度は胸に裏拳を食らった。息ができない――。

「準備が必要なんだけど……。父さんみたいにネバネバも出せないし」

 俺は手を前に出し、少し待てとジェスチャーをして、数分咳き込んでから話しを再会する。

「なら偽装とか隠れる訓練でもするか……」

 俺はスパルタ式作戦を止めて、かくれんぼとスケッチをする事にした。

「んじゃこのままでいいか、島に行くぞ。んじゃいってきます」

「行ってらっしゃい。後で子供達に聞くから」

「絶対に変な事させないようにねー」

「はいはい……」

 俺達は外に出て第三村に転移する。


「んじゃまず簡単なスケッチだ。特徴やどこに何があるかを簡単に丁寧にまとめようか」

 まずは外にあるテーブルがあるイスに座り、俺はポケットから書き損じの紙と木炭を出して子供達に渡す。

「地図は鳥瞰図(ちょうかんず)とも言われてもいる。鳥が真上から見た感じで、どこに何があるか。ベリル村を真上から見た感じで描いてみろ」

「ねぇ、お父さん。私地図を見た事がないんだけど」

 あー。学校で見たこともなければ、ギルドでも見なかったなぁ……。買った事もないし。

「ふむ……。少し待ってろ」

 俺はメモ用紙に、故郷のベリル村の図をスラスラと、特徴のある物をどんどん描き、蒸留所の裏手側を描いて、黒い丸に1と書いて矢印もつける。

「特徴だけ描くとこうなる。この四角いのが(やぐら)で、村中央の道と村長の家に俺達の家、ここが蒸留所に倉庫。まず村に大打撃を与えたいなら蒸留所をつぶすから、特徴を簡潔にした。倉庫を描くとこうなるな」

 そう言い、倉庫も描き加えて黒い丸も増やす。

「こんな感じ。これを隠れて見つからないように描く、そうすると味方に情報を与えられて作戦も練れる。俺だったらこことここの櫓から死角になるここから村に進入して、こういうルートを通って蒸留所と倉庫に行き、こういう感じで脱出する。見つかる危険もあるから、太陽が少し傾く程度の時間で全部終わらせたい」

 指で地図を指しながら全部説明すると、リリーは眉間にしわを寄せ、ミエルは口を半開きにしていた。

「んー。こう見ると結構防衛面で不安だなぁ……。最低限ここに櫓を建てた方がいいな。村長に言っておくか。あー話しが逸れたな。今回は普通に村の外周を歩いてから書き始めよう。特徴のある絵はベリル村の家で練習。まずは第三村の地図だな」

 そう言って立ち上がり、子供達を連れて海岸沿いを歩くようにして戻ってくる。

「特徴のある建物は何個かあったな。俺も描くからお前達も描いてみろ」

 そして親子で写生をするが、絵を描いたことがないのか、なんか子供達のは(いびつ)だ。特徴のある建物の正面なんかまだ無理だろうな。


「さて、終わったみたいだな。んじゃ父さんのを見せよう」

 俺は特徴のある建物や畑の場所や育ててる物、開墾作業をしている場所を描いた物を見せる。

「あぁ……そこまで描くのか。建物しか見てなかったよ。注意力とかの問題なのかな?」

「そもそも、私は上手く描けない」

 子供達の絵は圧倒的に情報量も少ない。しかも縮尺がちょっとおかしい。

 リリーなんか、上手く描けずにふてくされている。

「まぁ、初めてだから仕方ないな、後で慣れればいい。絵なんか上手くなるには練習しかないし、どんどん描くしかないな。まぁ、必要になるかもしれないだけだから、気が向いたときだけで良いかな? んじゃ隠れる訓練か……」

 そう言った瞬間リリーの目が輝き、なんかウキウキしているのが見ててわかる。

「んじゃまず座学だ」

 そしてリリーの目が死んだ。


「以上の事をふまえ、地形、気候、時間に合わせた最適な物を選ぶようにしろ」

「父さんの黒は、基本何にでもなるってわかったよ。暗がりに入れば目立ちにくい。草だらけになっても下地になって違和感がなくなるんだね」

「そうだ、そして粘りけのある水だ。粘液って言ってベタベタするからくっつく。洗えば落ちる。便利だけど覚悟はあるか? 特にリリーだ」

「え? 私? 泥だらけになるのは平気だけど? 稽古でよく転ばされてるし」

 あー、うん。そうだね。けど違うんだ。

「服が濡れて透けたり、体のラインが出る。父さんみたいな白いシャツだと、下着がだな……」

「あー……平気よ。エッチな目で見る奴はぶん殴ってやるから」

「そうか。ならいい」

 軍隊なんかで女性が混ざってたりするけど、アレってどうなんだろうか? 見る暇がない? それとも仲間としか見てないから、性別関係ないの? 後は異性の目を気にして、整理整頓や身だしなみを綺麗にしたりするとは聞いたな。

 俺は流動性やら色々説明し、一番早いのは鼻水や卵の白身みたいな物とはっきり言う。

 そしてなぜかリリーもミエルも簡単に粘液の魔法に成功する。粘度の違いはあるけど、お互い何をイメージしたかは聞かない。リリーはサラッとしてるし、ミエルはなんか少しドロッとしている。

 俺? 俺はアレだよ。根昆布とか刻んで一日水につけたりするとできるやつ。大人の玩具屋とか薬局に売ってるじゃん? それをさらにどろりとさせた感じでイメージしてるわ。

「さて、まずは簡単な砂浜だな。父さんが隠れるから、向こうを向いて百数えろ」

 俺は【粘液】を纏って砂浜に転がり、少しくぼんで陰になっている場所に寝転がる。そして子供達は辺りを見回すが少しだけ困惑している。

「砂浜でこれかー。お父さん風景に馴染みすぎでしょ……」

「さっきの勉強で輪郭をぼやけさせ、陰を利用して頭を誤魔化せって言ってたし、あの辺りじゃない?」

 そう言ってミエルが俺の隠れた方を指さしている。てか目があった。

「ほら。いた」

「あ、本当……。よく見るとうっすらと体の輪郭が。頭がこっちから見て左側にあるわね」

 そう言ってるので立ち上がり、【水】で砂を落とす。

「一瞬でも時間が稼げればそれは隙だ。いるとわかってると探せるけど、頭がいないと思ってると見えてても探せないんだ。そこにいないって事に頭が思ってるからな。雪の中の白い布や雨の中の泥の時だと、いるって知ってるから探せる。だから隠密作戦の偽装ってかなり大切だ。もし俺が何もいわないで、家の前の麦畑とかに隠れてたら見つけられるか? そう言う事だ」

 その後は子供達が粘液を纏い、砂をかぶって寝転がってしばらくしてから北川がやってきた。

「おう、なに格好付けて海なんか見てんだよ。水平線に海賊船でもあるのか?」

 北川が俺の隣に立ち、一緒に海の方を見始めた。

「そういやお前の子供達はどうした? 今日は休日で稽古なんだろ? 風邪か?」

「ん? 絶賛訓練中だが?」

 俺がそう言うと北川が一瞬で顔つきが変わり、肩を叩いてきた。

「お前は馬鹿か? 子供に何教えてやがんだよ! どう考えても武装偵察を想定してるじゃねぇか! 子供達をどこに向かわせてんだよ!」

「万能タイプ。戦闘ができる、偵察もできる。後は追々だな。旅立つ春までに教える事は沢山ある。これがいないと思ってたら探せないって事だ。北川はいないと思いこんでたから探そうとしなかったし探せなかった。これが偵察や擬装だ、もう立っても良いぞ」

 そう言うと子供達は立ち上がり、顔の砂を取るともの凄い笑顔だった。

「子供達に自信を付けさせてくれてありがとう。まぁ、言った瞬間気が付くお前もすごいけどな」

 俺は北川の肩を叩き、子供達に訓練の続きをさせ、夕方に家に帰ると夕食ができていた。

 そして朝にあったから夜は平和かなーと風呂で思ってたら、寝室で第二回戦に持ち込まれ、再度連戦を強いられた。

 午前中じゃ時間的に短かったらしいです。お願いですから満足してください。いや、夫婦仲が良いのは物凄く良いんだけどね?

脳内でゴーストリコンって言葉が離れない。

あと書籍版二巻の話を書いてて慌てて消した。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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