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第232話 木を切りに行った時の事

 十五日後、魔族側の職人も島の生活に慣れたので全員を島の各所に送るが、ティラさんだけは島内を自由に歩き回ると言い、俺から島の情報を聞いてから、弓矢とナイフ、必要最低限の調味料と寝具のみで魔族側の職人枠最速で共同住宅から出て森に入っていった。そこまでして森に入りたかったのかと……。

 それと森林の無闇な伐採を注意してくるかと思ったが、ドリアードやアルラウネがいるから平気とか言った。確かに前に注意されたけど……。

 そして試験的に、フルールさんとパルマさんを通して連絡が入った。順応力はかなり高い。

 そして各村で、食料とか調味料が手にいれられるように一筆書いた物を渡したりもした。だって心配じゃん? とりあえずその後に各村の村長に連絡は入れておいたけどさ。


 そして俺は今日、牛を買った牧場から馬を雄と雌の組で試験的に八頭購入し、各村に届け終わらせた。

「もの凄く気だるい。あ、これお釣りです」

 俺はウルレさんに残金を渡し、執務室で少しだけお茶を飲んでサボる。だって気だるいし。

 北川に言ってここ数日の開拓は午前中にしてもらってるが……。業務が終わる時間まで体感で残り三十分。

 ガラス製のグラスでカモミールティーを飲み、一息入れてのんびりとしていたらパルマさんが変化した。

「カーム、第三村でティラさんが呼んでる。少し急な話っぽいよ」

「わかりました。今向かうと伝えて下さい」

 俺は事務所の二人に軽く声をかけ、グラスの片づけをお願いしてから急いで第三村に向かった。


「お疲れさまです、どうしました?」

 浜に転移すると、トローさんが出迎えてくれていた。

「おうカーム。例のエルフの姉さんが向こうで補給しているから、行ってやってくれ」

 そういって親指で第三村の奥の方を指したので、そっちの方に行くとティラさんが布を広げ、荷物の点検をしながらイセリアさんに塩や保存食をもらっていた。

「あ、カームさんお久しぶりです。第一村から第三村まで軽く森を歩きましたが、木が鬱蒼としていて、魔力溜まりになりかけてる場所が一ヶ所と、なりそうな場所が二ヶ所ありました。幸いまだ魔物の発生は少ないものの、早めに対策しないと大変な事になりますので、人員をお借りできないかなと思い呼ばせてもらいました」

「位置とかは覚えてますか?」

「太陽の出る位置や、海から山までの歩行距離を一度測り、見た場所の形で大体自分がどこにいるのかを割り出しました。そしてこれが大体の地図です。まぁこの辺って認識でお願いします。近くに行けば空気などでわかりますので」

 ティラさんは手描きの地図を広げ、大体の位置を教えてくれた。かなり優秀だな……。ってか腕を伸ばして対象物との距離を測ったりする、三角関数の応用か? けど元の大きさとか、ある程度情報も必要だしな。

 腕の長さとか指の太さで角度を測って対象物までの距離を測ったりしてるの? それとも千歩くらい横に歩いて、ミルとかラジアンみたいなエルフ独自の知恵とか技術があるのか?

 目からレーザー出て、首で角度でも測るんだろうか? セオドライトか? それとも今の位置の座標が脳内でわかるのか?

「木を切るだけなら人員は俺一人で十分です。大人数だと動きも鈍くなります、もったいないですが伐採した木は放置になりますね。それでも良いなら明日から動きますが?」

「……そうですね。よろしくお願いします。私はこのまま第三村に泊まります。明日は一応汚れてもいい服装と、屋外での宿泊は……経験ありますか? 一番近い場所でも歩きで半日以上かかりますので、体力的な物も」

 さっきの間は何だったんだろうか? もしかして代表イコール事務とか外回り系だと思われてる? まぁ、今の服装で、事務処理ばかりしてればそうなるか。

「えぇ、問題ありません。では明日の朝食後にココで」

 そう言って俺は家に戻り、リュックに必要な物を入れ、執務室に持って行き武器もチェックしておいた。

 重さは……まぁ、許容範囲内だ。寝るか……。



 翌朝、上下黒の服で朝食を済ませたらベストを着て、マチェットやバール、大降りのナイフを装備し、リュックを背負いスコップを持って、先にキースと来たルッシュさんに理由を話してから出かける事にする。

「昔を思い出す格好だなぁ。まぁ、死ぬ事はねぇだろ。新人を驚かせるなよ?」

「あぁ、現場に向かって木を切るついでに、魔物が出たら殺すだけ。出たらな。ってか新人の方がある意味能力は上だ」

 ついでに昨日のティラさんの事も話すと、熟練の猟師になれば何となくで覚える能力らしい。そこまでエルフみたいに高精度ではないらしいけど。

「んじゃ行ってきます」

「おう、大げさにやるなよ」


 そして第三村に転移し、ティラさんとの待ち合わせ場所に行く途中でトローさんに会った。

「んだその格好はよ? 随分気合い入ってんな」

「えぇ、これから森に入って魔力溜まりになりそうな場所潰しです。普段の格好だと不向きですからね」

「確かにな。にしても……。ものものしいな」

「黒には威圧感もありますし。あぁ、この格好を見せるのは確か初めてでしたね。俺の戦闘服です。昔少しありまして……」

「一応魔王は魔王って事か……。普段が普段だから忘れてたぜ」

「一応強くないとなれないらしいので……。本当俺には必要のない称号ですよ」

 俺は大げさにため息を吐き、首を振りつつ両手を軽く広げる。

「まぁそう言うなって。お前みたいな魔王がいても文句は少ねぇだろ。エルフが待ってるんだろうから長話はしてられねぇな、悪かったな」

「いえいえー。んじゃちょっと色々と処理してきますね」

 トローさんと別れ、ティラさんの所へ向かうと既に準備を終わらせ、その辺の家の壁に背中を預け腕を組んで、二の腕を人差し指でトントンと叩きながら待っていた。随分と男らしいし、待たせてしまった可能性が高い。

「すみません、遅れました」

 俺から声をかけると、ティラさんはかなり驚いた表情になった。まぁ、想像していた物とかなりかけ離れていたんだろうな。

「……その格好なら問題はないですね。少し荷物が多いけど、貴方がそれで良いなら問題はないから行きましょう」

 ティラさんが荷物を背負い森の方に向かって歩き始めたので、俺もそれに続く事にする。

「一番近い場所から向かいます。早ければ夕方前には着く予定です」

「了解。とりあえず何かあったら言います」

 一旦足を止めて、スコップをリュックの上部に固定し、マチェットを抜いて枝を払えるようにしておく

「それにしても、結構しっかりした装備ね。イスに座ってる人のソレではないわね。昔なにかやってたの?」

「えぇ、ちょっと(・・・・)ありまして。引っ張り出してきました」

「にしては錆びてないし、手入れはしっかりされてるわね」

 ティラさんは枝や葉っぱを避けながら歩き、俺はその後をマチェットで払いながら歩く。

 あれ? 魔王って名乗ったよな? まぁいいか。

 そしてとある大きい石の場所に着くと、少しだけ進む方角を変えてまた歩き出した。よく見てみると石に数字が薄く刻んであり、何かの目印にしている事がよくわかる。法則性のない物が三列か、基準にした場所からエックス軸とゼット軸、角度だったらおもしろいんだけどな……。第一村をゼロにした時の。

「この数字は?」

 好奇心には勝てず、我慢できずに聞いてみた。

「ここからの目標地点までの大まかな歩数と、目印にした場所からの歩数。そして太陽の出る方角をゼロとした場合の傾きです」

「つまり歩数を数えてると?」

「えぇ、そうです。あと四千歩ほど歩いたらお昼にしましょう」

「そうですね」

 一時間で歩ける距離を把握してるのか。確かにあと一時間程度で昼間だけど、森の中を装備ありで時速四キロ弱か。エルフ恐ろしいわ。


 しばらく歩くとティラさんが止まったので俺も止まると、手を目線の位置まで伸ばし、小指や人差し指を順番に立て、最後には親指を立てたかと思うと弓を構え、少し角度を付けて射ると、何事もなかったかのように歩き出した。

 そして二百歩ほど歩くとオークの目に刺さっているのが見えた。ティラさんは矢を抜き、軽く振ってから矢筒に戻した。

 指の太さで距離を測る方法は記憶にあるが、森の中で矢を当てるってすげぇな。ってかオークを初めて島で見た。魔力溜まりってやべぇんだな、放置してたら危なかったわ。ってかキースの存在が一瞬にして薄くなったぞ。

「今までゴブリン程度しか見かけませんでしたが、オークですか……」

「人の数が増えると、自然に漂う魔力量も増えると長老が言ってました。なので、今まで見た事のない魔物が増えているのでしょう。なので魔力が貯まりやすい場所を散らすのです」

 俺が手を顎に当てて独り言のように言うと、ティラさんはそれに答えてくれた。パワースポット的な感じ? まぁ、そういうのわからないし、専門家が来てくれたからいいや。任せよう!


 そして昼食時、ティラさんがウサギを二羽しとめてこちらに出してきた。

「皆から料理が上手いと聞いています。料理してください」

「俺っすか!? ティラさんやらないんですか?」

「得手不得手という言葉があるでしょう? そういう事です」

 エルフも完璧じゃないんだなー。そう思いつつも内蔵を取り出し、綺麗に下処理をしてから持ってきた調味料と、ティラさんがその辺で摘んだ野草を使って料理を作った。

「ふむ、塩胡椒だけなのに、なんでこんなに私の料理と差が出るのだろうか?」

 ウサギ肉を食べながら、何か愚痴みたいな事を言っている。焼き加減とか油の問題じゃないの? あと隠し味に果実酒使ったし。

 ってか食べ方結構豪快っすね……。


 その後は予定通りに一個目の目標地点に着き、【チェーンソー】を使って指定された木を三十本以上切り倒して風通しをよくし、魔法で根っこも起こしておいた。

「凄い魔法ね。一人で良いと言ったのは本当だったのね。人が多いと移動に時間がかかるし、荷物も多くなるから悩んでいたんですが、今後ちょこちょこ声をかけさせてもらいますね」

「まぁ、かまいませんがね。その装備じゃ斧を持ち歩くって事もないでしょうし。一番は魔法で木を切る事なんですが……。教えます?」

「いや、実はあまり得意ではなくてですね。風を少し操り、矢の着地点を補正したり飛距離を伸ばす程度しかできないの。エルフにも魔法が得意な者と、弓が得意な者が分かれてて。私は後者で」

「へー。エルフは結構何でもできると思ってましたが、そうでもないんですね」

「ソレは偏見です。まぁ、万能な者もいますがほんの一握りで、大抵はどっちつかずです」

 今まで見たエルフは三人……。多分役所っぽい所にいたエルフがソレなのかな? なんで生き字引みたいな事してるんだとは思ってたけど、そういう理由なんだろうか?

「あ、腐りやすいように細かくしておいてください。朽ち木になって栄養になりますので」

「あ、はい……。どうしようかな……。あー」

 そして俺はその辺の朽ち木を拾い、倒した木の上に乗せて話しかける。

「ピルツさんいますか?」

「ひ、ひひ。なに?」

 今日の髪色は紫か。毒々しいな。

「マタンゴですか!?」

「えぇ、実はいるんです。それでですね、この木をなるべく早く腐らせる事ってできます? 細かくしますか?」

「だ、大丈夫。このまま腐らせるから。けど。土に触れてる部分を多くして」

「はいはい。土を盛っておく感じで?」

 木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)的な物か、ソレより強い物があれば簡単に朽ちるだろうな。

「うん。そう。それだけ? なら戻るわね」

 そういうとピルツさんは朽ち木に戻っていった。まぁ、木を切っちゃって日が当たってるしなー。

 そして俺は言われたとおりに、倒した木に魔法で土を盛り、辺りを見回すと確かに風通しが良くなっているような気がした。

「では、ここで寝ましょうか。今から準備すれば火も寝床も問題ありませんし。野営の経験は?」

「何回か……。自己流ですが」

「なら問題はないです。食材を集めてきますので、薪をよろしくお願いします」

 ティラさんはそう言うと森の奥に消えていったので、朽ち木や乾いてる枝を探し回り、土魔法でL字の風除け兼熱の反射板と、かまくらっぽい物を二つ作り寝床も作る。

 たき火の上に乗せる簡易五徳と調味料も用意し、リュックからミスリルフライパンを出して食材を待つだけだ。


「遅い……」

 少し遅すぎる気がする。もう一時間以上戻ってきてないな。

「フルールさん。俺と一緒にいたエルフってどこにいるかわかります?」

 少し離れた場所に赤い花を見かけたので聞いてみた。

「さっきまで自分で出した水で水浴びしてたわよ。今はこっちに向かってるわ」

「あー……。ありがとうございます」

 女性だしなー。ってかこんな時でも身だしなみとかは必要か。俺も夜中に水球を作って飛び込むか。

「あら、野営とは思えない場所ね」

「えぇ、生木でテントを作っても良かったんですが、面倒なので土で我慢して下さい。んじゃ食材捌きますね」

 俺は蛇やウサギを受け取り料理を始め、簡単な物を作って食事を始める。

「鹿を見かけたんだけれど、二人じゃ食べきれないから止めておいたわ。だから遅れたの」

「まぁ最悪保存食にするだけなのでいいんですが、ウサギもちょっとだけ数が戻ってきましたよ。前はハーピー族の食事だったので数が減りすぎてたんですが、繁殖させて増えたら森に逃がしてますからね」

「増え過ぎも良くないわよ」

「知ってますよ。けど絶滅も良くない。なので貴女を雇った……。狼もいますが、共存してるのは知ってますよね? 狼だけは狙わないでくださいよ? あの子達も増えすぎた鹿とか食べてくれますし。あぁ、専門家には不要な物言いでしたね」

「別に気にしないわ」

「あ、食べ終わったらちょっと向こうで水浴びしてきますね。結構汗かいちゃいましたし。ティラさんも浴びます?」

 そしてぬるま湯の【水球】を浮かせ、そこに洗い物をつっこみ油とか汚れを浮かせる。知ってても知らないふりをして、一応言っておかないと気遣いができない奴だと思われそうだし。

「それ……便利そうですね。私も明日から出してもらっていいですか?」

「明日? えぇ、問題ありませんよ」

 とりあえず笑顔で返事をしておいた。それに後二ヶ所がんばらないとな……。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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